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No.33409の一覧
[0] 【ネタ】イヴ様と俺(エルソード)TS転生[天地](2012/06/10 01:18)
[1] イヴ様とイヴじゃない誰か[天地](2012/06/10 01:19)
[2] イヴ様と初めての村[天地](2012/06/16 22:21)
[3] イヴ様と盗賊[天地](2012/06/23 21:34)
[4] イヴ様とレナ……?[天地](2012/06/30 23:30)
[5] イヴ様ともう一人の迷子[天地](2012/07/07 22:53)
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[33409] イヴ様とイヴじゃない誰か
Name: 天地◆615c4b38 ID:b656da1e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/10 01:19
 まずはじめに気づいたのは、ヴーンという唸るような機械音だった。寝起きの働かない頭で、その耳障りな音を聞き流し続ける。
 続いて、がこん、という音と共に体が大きく揺れる。この時点で意識がしっかりと覚醒したが、体は殆ど動かない。手足を動かしてみるがやけに重たく、そしてすぐに堅い何かにぶつかる。
 いったい、俺の身に何があったんだ。機械音の理由も、地震より遙かに規則的に訪れる振動にも。当然、体が封じられているような状態にも、全く覚えがない。
 振動が止まると、急に暗かった視界が明るくなった。俺を封じていた何かが開いたのだ。同時に、体にあった抵抗の原因、液体が流れこぼれる。

「えほ! げへっ! っぐぁっ!」

 喉と肺にまで詰まっていた液体を、咳と共にはき出す。まるでアニメのワンシーンのような光景。しかし、これを自分が体験するとなるとたまったものではない。体を小さく丸めて、とにかく咳き込み続ける。粘性の高い液体は気管にも詰まっているのか、息を吸うたびにひゅーひゅーと小さな音が鳴った。この時、背中から接続されていたパイプが三本ごとりと音を立てて落ちた。が、俺は苦しさに必死で、気づかなかった。
 咳こそ止まったものの、未だに呼吸は楽にならない。とにかく深呼吸を繰り返して、酸素を求める肺に空気を送り込む。そうしているうちに、ぷしゅん、と何かが軽い音を立てた。
 苦痛を紛らわすために、音源の方を探そうとして。その前に、俺の顔を誰かに掴まれた。
 ほおに両手を添えられて、ぐっと顔の方向を変えさせられる。強制的ではあったが、その動きに乱暴さは感じられない。
 至近距離で顔を突き合わせたのは、少女だった。
 恐ろしく白い肌に、銀色の髪。顔立ちは幼いが、整いすぎというほどに整っている。人間以外の何か、そう思わせるほどに、少女は美しかった。それだけでも強烈すぎる特徴なのだが、それ以上に目を引く部分がある。額をまるまる覆うような大きさの、青色の宝石。銀髪の隙間から見える、本来耳がある場所には、金属質な耳飾り。目元には青い塗りをしており、そして目は金色だった。光彩の色素が薄いというレベルではない、本当に目が金色に発光している。明らかに人間ではない特徴、しかい恐ろしさは感じず、むしろ神秘的な魅力さえ感じた。なにしろ、その瞬間だけは、苦しさも忘れて見とれていたのだ。

「あなたは、今起きたの?」
「あ……えぁ……ゲホッ!」

 何を言っているんだ、そう言おうとしたが、うまく言葉にならない。喉に詰まった粘液は、しつこく気管に居座ろうとする。
 答えられない俺に、しかし少女は全く表情を変えなかった。同じ調子で、質問を重ねる。

「ここがどこだかわかる? 今は何年?」
「ひゅー……なに、を……?」

 言っているかがわからない。そこまで言うこともできない。ただでさえ、消え入りそうな声でしかないというのに。
 しかし少女は、それだけで何かを納得した様子だった。小さく頷くと、顔を離す。

「そう……あなたは新しく作られたのね」

 何を言っているんだ。そう聞きたかったが、声は出なかった。いや、出たとして、言葉にならなかっただろう。そもそも、俺自身自分の身に何が起こってこんな状況になったのか、全くわかっていない。
 少女はすっと背を向けて、扉へと歩いて行く。その姿を見て――もう驚くことはないだろうと思っていたのに、また驚愕した。彼女の服装、それはまあどうでもいい。白と黒を基調にした、よく言って近未来的、悪く言って変な服装。理解不能なセンスだが、まあ服は服だ。それ以上も以下もない。
 問題は、少女の近くに浮遊しているそれ。吊っているのでも、持っているのでもない。ふわふわと浮いているのだ。しかもどういう仕組みか、少女の後を追っている。金属質で頭の大きさほどもある、動物をデフォルメしたと思わしき二つの球体。映像の向こうなどではない、リアルの光景。明らかに現代技術の限界を超えている。

「何をしているの、早くついてきて」

 自動ドアをくぐる直前、少女は振り返ってそう言った。そして、すぐに歩き出す。
 どうにも釈然としない。と言うか、未だに全く訳がわからない。とはいえ、彼女のほかに何か当てがあるわけでもなく。加えて言えば、あの少女であればどうとでもなるだろうという楽観もあった。
 這うようにして鋼のベッドを出ようとする。体に違和感が大きく、うまく体が動かないのだ。訳のわからない液体に漬けられていたのだから、むしろ違和感がない方がやばい。仕方がないことだと諦めて、体からびちゃびちゃと粘液を垂らしながら歩く。
 よたつく体に苦労しながら、少女の背中を追う。子供だ子供だと思っていた少女は、意外に背が高かった。俺と頭半分くらいしか変わらない。胸なんか全くなかったのに……腰と尻は妙にエロいが。
 しかし、ここはまるで廃墟だ。俺が寝かされていた部屋はちゃんとしていたが、そこだけまともだったらしい。今歩いている廊下は、どこかしこもひび割れ錆びている。歩く場所に気をつけないと、足の裏を切ってしまいそうだ。

「ここ」

 少女は止まり、扉の方を指さした。

「洗浄室。着替えもあるわ。行ってきて」
「あ……ああ」

 少女の独特な雰囲気に押されて、中に入る。聞きたいことは色々あるのだが、どうも間がつかめない。こんな事をしている暇はないと思うんだが……。
 自分が緊急時でも、こんなに冷静になれるとは知らなかった……とは過信しない。どう考えても、機を逸しただけだ。最初は息苦しさに、次は少女に。それでこうやって、また流されているのだから世話ない。
 洗浄室とやらで、ふと、ひび割れた鏡を見つけた。それは意識して見たわけではない。ただ、歩いていたら偶然目に入っただけだ。だが、俺はそれで止まらざるをえなかった。
 鏡には、誰も映っていなかった。いや、人は映っている。しかし、それは俺ではない。しかし、鏡の中の人間は俺が手を動かすのと同時に手が動いた。俺の意思で動かしたのだから、動くのは当然俺の体だ。じゃあ、鏡の中で動いているのは俺なのだろうか? 悪い冗談だ、全く持って笑えない。
 そこに映っていたのは、全裸の少女だった。俺を案内した少女と、姉妹かと言うほどに似ている。違う部分と言えば、少女の髪は肩より少し長いくらいなのに対し、俺は腰より長いという部分くらいか。
 今更気づく、少女の背が高かったのではない、俺の背が低くなったのだ。
 なりを潜めていた混乱が、急速に首をもたげる。今度のそれは、先ほどまでのと非ではない。誘拐とは、そんな低レベルな話ではないのだ。

「そういえば、あなたの名前は?」
「は? い……あ……あ?」
「そう、ないのね」

 少女の質問に、俺は言葉にならない雑音を漏らした。正直、意味さえ理解していなかった。
 都合よく解釈した少女は、満足げに首を振った。

「なら、ボクがなまえをつけてあげる。あなたの名前はアニマよ」

 言われた瞬間。俺は「起動」した。
 ――固体名「アニマ」登録。起動、開始。
 心臓の代わりにあるエル動力機関に火が入る。エネルギーを全身に供給し、さっきまでの倦怠感が嘘のように鮮明に。体に満ちる力は、明らかに元のそれよりも上だ。
 「起きた」のは何も動力だけではない。電脳が情報を開帳し、俺にあらゆる知識を焼き付けていく。超高エネルギー結晶体「エル」。人に作られた人工生命体「ナソード」。その中でも、人間とほぼ同じ機能を持ち、コミュニケーションを取るべくして作られた「女性型ナソード」。人とナソードの戦争。その結果、ナソードは滅亡し僅かな者だけが地下に保存された。
 知らないのにわかったことになる知識。俺のものでないのに、俺である感覚。ただの知識から、体の正しい運用方法まで、すべて「解凍」し「インストール」した。

「名前、は?」
「うん?」
「あなたの、名前は?」

 それは、俺が言ったのであり、俺が求めたのではない。この体――女性型ナソードの機能が欲したのだ。

「ボクの名前はイヴ。覚えておいて」

 ――上位者代行「イヴ」登録。全機能解放。
 先ほどまでの息苦しさも気怠さも、嘘のように晴れやかだ。鮮明すぎる意識が、俺という意識の制御下に入る。
 そして、俺はいろいろなことを理解した。たとえば、ここはオンラインゲーム、エルソードの世界――正確に言えば、それに酷似した世界――だと言うこと。今の「俺」は、元の持ちキャラが元であろうということ。目の前の少女は、エルソードのプレイヤーキャラクターにして主人公の一人。俺の持ちキャラでもあるイヴであること。
 まるで悪夢のような話だ。ところ構わず絶叫して、わめいてしまいたいほどに。それをしなかったのは、体の機能が俺を強制的にクールダウンさせていたからだ。だから、未だ冷静でいられる。
 思考がぐちゃぐちゃで纏まらずとも、体は勝手に動く。いや、体が思考とは別に、登録された機能通りに動いてくれるのだ。便利であり、憎らしくもあり。
 体を洗浄した後、用意された服……は着なかった。ナソードはその機能として、物体を召喚、収納できる。持ちキャラが装備していたそれを着込んでいく。女物の服の着方など知らないが、インストールされた情報の中にきっちりとあった。ありがたくはあったが、これを考えたやつはひっぱたいてやろうと心に誓う。
 その服装は、心情的には全く着慣れないものだった。特に、肌に密着する薄く少ない布地のショーツ。そして本当に穿いている意味があるのかと聞きたくなるスカート。しかし、体にはしっくりときていた。長らく愛用した装備なのだから、当然と言えば当然なのだが。
 できれば普通のズボンを穿きたい。だがこれは、ただのスカートに見えて冗談みたいな防御力を持っているのだ。それを放棄してまで普通の服を着るのは、なんというか躊躇われた。なにより、精神的には拒絶していても肉体的には受け入れている。
 服を着て鏡に映った自分の姿は、やはりゲームで操作していたキャラクターのものだった。と言っても、服など色合い程度しか判別できないが。最後に、自分の武器であるナソードギアを召喚する。イヴのそれとは似て非なる二個一対の球体。しかし、性能は文字通り桁違い。
 自キャラが持っていた服を着て出たが、イヴは何も言わなかった。それどころか、全く反応を見せない。もしかしたら、用意した服と別のものであると言うことさえ気づいてないかもしれない。
 イヴは俺が身だしなみを整えたのを確認すると、すぐに歩き出した。またもや無言だったが、今度はついて行く。

「いい? 私とアニマは、最後のナソードなのです。ナソードの繁栄を取り戻さなければならないわ。新しく製造されたあなたには難しいかもしれないけど、それだけは理解しておいて」

 ちなみに俺は、イヴの姉妹機、とは言わぬまでも親戚機ではある。そっくりであるのはそのためだ。
 イヴの耳に心地よい声を聞きながら、しかし俺の心は掻き毟られている。彼女は上へ上へと向かっていた。つまり、地下から地上へ。まだ、俺は諦めきれないでいた。これはエルソードの世界なんかじゃない、別の何かであり、そして俺が元の体に戻る方法もきっと見つかる。
 自動ドアが開き、目に痛いほどの光が差し込む。瞳の機能が勝手に光量を調整し、視界が一瞬強いて調整される。

「まずは、大きなエルを探しましょう。もう一度、ナソードコアを起動させるの」

 イヴに引きつられるようにして出た外は。太陽に美しく緑の踊る、暖かな雰囲気の山。見下ろす先には、小さな、そして科学技術を感じさせない木造りの家が並ぶ村。くらりと、頭が揺れる。めまいを覚えずにはいられなかった。
 ここがエルソードの世界でなかったとしてもだ。俺が元の体と世界に戻れる技術がある可能性は、限りなく低い。
 つまりは、これが夢でないのなら、当面はここの世界で、女として生きていかなければならなのだ。


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