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No.33160の一覧
[0] 【ネタ】検証結果が運ゲーだった。【二次】【ごちゃまぜMMO】[注位置秒](2012/05/25 17:30)
[1] 検証結果が『なりきり勢トップ』だった。[注位置秒](2012/05/25 17:31)
[2] 検証結果が二つ名持ちレベルだった。[注位置秒](2012/05/25 17:31)
[3] 検証結果が二人目だった。[注位置秒](2012/05/25 17:31)
[4] 検証結果が俺以上だった。[注位置秒](2012/05/27 22:28)
[5] 検証結果が小説よりも奇なりだった。【本編1】[注位置秒](2012/06/01 20:25)
[6] 検証結果がインチキだった。[注位置秒](2012/06/06 17:02)
[7] 検証結果がアオイが主役だった。【本編2】[注位置秒](2012/06/12 02:02)
[8] 検証結果の登場人物[注位置秒](2012/06/11 16:54)
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[33160] 検証結果がインチキだった。
Name: 注位置秒◆c2c13e9c ID:6f8ebee9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/06 17:02
「うあー! 負けた! ちくしょう!」

「う~ん……結構悔しいね~。まぁ、検証君を抑えられたら僕らじゃ地力が足りないって事だね~」

 【アリーナ】通いを初めて既に4度目。勝って、勝って、勝って。
 今日、負けた。

「うがー。何だよあのスキル明らか俺対策じゃねぇか! 良いのかよあれ」

「……ワンパターンだったから。対策されるのも当然、かな」

 デコ君が言う。
 ……実際、相手がしたことは簡単である。【カウンター】スキルの【反】で受けたダメージを反射した。ただそれだけ。
 不可避の固定ダメージによって俺が受けたダメージは――――当然9999。
 あとは2vs2に持ち込み、後衛の猫耳頭巾さんが落とされ、奮戦するもデコ君が落とされて負けた。
 敗因は主に、俺のプレイヤースキル不足と、デコ君と猫耳頭巾さんのステータス不足。さて、一番どうにかなるのは……

「装備品だな。だからと言って俺のPC性能でゴリ押して作るのはゲームバランス上よろしくない……」

「……? なにかんがえてるの?」

 デコ君が俺をじっと見つめながらそう訪ねる。何かスポットライトが当たって俺の考えがデコ君に筒抜けになるんじゃないかって思うセリフだ。
 いや、それはどうでも良いんだ。ゲームバランスを崩さず、常識的な方法で強力な装備品を手に入れる手段は――――

「検証君がまた悪巧みしてそうだね~。今度は何するんだろ~」

 ――――あったな。だけど、これはギリギリライン……俺が個人使用する分には、セーフだ。そのためのユニークアイテムとユニークスキル代わりのステータス。だが、その恩恵を他人に与えるとなると……見極めラインは物価変動を起こすか否か、か?

「良し、決めた。今から【ミセス夫人の珍獣発見】クエストやるぞ」

 言った瞬間、デコ君の笑顔が引きつる。ついでに猫耳頭巾さんがう~ん、と唸る。

「それってあれだよね~。確か『イライラ世界一周クエスト』だよね~」

「ああ。あのどうやっても馬鹿みたいに時間の掛かるあれだ」

 クエストの内容そのものは単純である。ミセス夫人というNPCが「~~に居るという――という珍獣が見たい」と言うので、その言葉に従って特定のMAPに行き、特定のMOBにミセス夫人から受け取った【珍獣転送の石】をぶつけるだけである。
 ただし、厄介な事に【珍獣転送の石】を持っていると移動速度が2分の1になり、【帰還スクロール】を初めとした転送系アイテム・スキルの使用不可というデメリットが発生する。
 その上、一応『珍獣』と銘打たれているからか、指定されるMOBが何かと僻地にしか居ないMOBで、とにかく行くのが面倒くさい。それを何度も繰り返すので非常に時間が掛かるのだ。具体的に言うと、クエスト開始からクエスト終了し、その報酬をもらえるまでリアルタイムでだいたい4時間かかる程度に。
 そしてこの【ミセス夫人の珍獣発見】クエストは何度も繰り返す度に報酬が良くなっていく。しかし、その報酬はトレード不可かつ売却不可。
 結果、このクエストをやるくらいなら普通にMOB狩りでお金貯めてレベル上げて、流通してる装備を手に入れたほうが良い、と一般的には言われているのだ。

「でもさ~検証君。流石に効率悪すぎるんじゃないかな~、って思うんだ~」

「……何か、考えがあるの?」

「【ワープスクロール】がある」

 †    †    †

 【ワープスクロール】は、ユニークアイテムであり、その効果は『制限無く』指定MAPにワープできるというものである。
 よって、このアイテムだけは転移系のアイテムでありながら【珍獣転送の石】を持っていても使えるのだ!
 単にGMさんが転送系アイテムとして【ワープスクロール】を関連付けしなかったからかもしれないが、俺専用アイテムだから仕様だと思う。多分。

「あははははは! 単調作業TA☆NO★SHIIIIIIIIIII!」

「……ねぇおでこ君。検証君って前からこんな感じだったの?」

 俺が最高にハイって奴だ! って気分で叫んだら猫耳頭巾さんが呆れた様にデコ君に何か聞いてた。デコ君も苦笑いしながらコクコク頭を振っているが知ったことか。

「HAHAHA! お前ら何つまらなそうな顔してるんだよ。こんな楽しいことそんな冷めた気分でやってちゃ勿体無いZE」

「検証君。そのノリウザイ」

「我が道を爆走せずして何が『検証勢』か! ……という冗談は置いておいて」

 猫耳頭巾さんの目が冷ややかになってきたので仕方なしに自重する。いやまぁ、ああいう目は見慣れてるんだけどね。ゆうかりんのおかげで。

「でもこういうの楽しくないか? こう、ずっと同じことをし続ける中でも1サイクルの時間を1秒縮めて『俺SUGEEE』とか。こう、自分の中の壁を越えてやるぜ的な」

「そういう人種も居るのは知ってるけど~。永遠とカチカチクリックしたりするゲームが好きな人たちね~」

 不服そうな顔をして猫耳頭巾さんが言う。どうやら猫耳頭巾さん的にはお気に召さないらしい。

「いやぁ。ブラウザゲーとか一時期ハマったわ。あと、家に帰ってきたらマインスイーパを5時間くらいぶっ続けでやって寝て。早起きして家を出る前にマインスイーパを2時間くらいやって、また帰ってきてから4時間くらいやって、って生活とか。そこそこ満足する結果も出たから2週間くらいで止めたけど」

「……検証君はあれだよね~。娯楽に困ることって無さそう~。暇潰しが得意って意味で~」

「なぁデコ君。これって褒められてるのか?」

「う~……ん。褒めてると思う」

 デコ君は俺の質問に曖昧に笑いながら答える。これはあれだな。多分面倒だから適当に返事したな。

「こういう作業してると眠くなるんだよ~……むしろ何でそんなに活き活きと出来るのか分からない~」

「楽しいからに決まってるだろ。これが分からないようじゃ『検証勢』は出来ないぜ」

「なる気も予定もありませ~ん」

 ちなみに、こうやってぐだぐだ言いながらもクエストは順調に進行中である。
 俺がサクサクワープして、珍獣を見つけ次第【珍獣転送の石】を投げ当て、さっさとマダム夫人の所へ帰り、また【珍獣転送の石】を受け取り、ワープして……と言った感じ。
 猫耳頭巾さんも愚痴を言ってはいるものの、何だかんだこうやって話し相手が一緒にやってれば問題ないらしい。デコ君は時々俺がこういったクエストに誘ってたから慣れたものだし、俺は純粋に楽しんでる。何だ全く中毒性は無いなもう2時間経ったけど! たった120分じゃないか。

「それで~。これで【アリーナ】で勝てるようになるの~?」

「そう慌てなさるな。良い機会だから言わせて貰うが――――」

 俺らが【アリーナ】で勝っていた理由は大きい所で3つある。
 1つ目は当然、俺のステータス。通常の戦闘法では俺を倒すのはほぼ不可能と言っても良いほどに、通常のPCにとっては脅威である。また、俺の攻撃はPCボディを用いた回避――此処では分かりやすく行動回避とする――では避けやすいものの、PCステータスを用いた計算式による回避――計算回避とする――では不可避であり、ダメージ値は特殊な状況を除いて9999。文句無しのフィニッシャーである。
 2つ目は、猫耳頭巾さんが【ウィザードリィ】であること。その役目はダメージディーラーであり、PCと比べれば膨大なHPを大きく減らすことを目的としたステータスとなっている。そのため、Lv差さえも容易に覆す大きなダメージを出し、俺に気を取られ過ぎた結果、猫耳頭巾さんの魔法で消し炭にされたPCも少なくない。
 3つ目は、デコ君が【アリーナ】のトッププレイヤーに劣らぬ程のプレイヤースキルを持っていることである。その戦闘スタイルから、ハイエンドとは言えないまでも一線級の【格闘】スキルを駆使する幽香を目の当たりにしてる俺だが、恐らく近接戦闘だけの勝負なら、デコ君は幽香を上回るんじゃないかと最近は思ってる。尋常じゃない反射速度と、死角は無いんじゃないかってくらいの乱戦での対応能力。加えて、システムアシストの無い状態での槍捌きと体捌きが見惚れるくらい鋭い。コイツきっと無双ゲーとかに混ざっても何とかできるぞ。

「――――と、この3つが、俺らがLv低いなりに【アリーナ】で勝ち進めてた理由だ」

 ……でもまぁ、そうだよなぁ。俺と猫耳頭巾さんが後衛だから、1人で槍なんて大獲物を振り回して敵3人を引き付けて、俺らの魔法に巻き込まれない様にタイミングを合わせて下がるなんて真似を毎回してるんだもんなぁ。

「デコ君。いつも悪いねぇ」

「……? それは言わない約束だよおとっちゃん」

「惜しい。そこは『おとっつぁん』だ」

 俺の言葉に首を傾げながらも返事をする辺りノリが良いのだが、こう、ちょっとだけ違うと、ついツッコミが!

「ともあれ、そうした勝因があるにも拘らず、俺らは負けた! 何故だ!? はい猫耳頭巾さん答えて」

「坊やだからさ~、とでも言って欲しいのかな~?」

「違う。いや、違わないけど。よく言ってくれた猫耳頭巾さん。でも俺は真面目にだね?」

「分かってるよ~。で、敗因はズバリ?」

「うむ。ズバリ言わせて貰うとだな――――」

 それは2つ。
 1つ目は、フィニッシャーである俺のプレイヤースキル不足。幾らかはスキルの恩恵に頼ってシステムアシストや小魔法での小細工、大魔法なんかの行動回避が困難なもので誤魔化してはいるが、やはり技量の差は埋め難い。まぁ、相手からしてみればステータス差も技量では埋め難いのだろうが。
 2つ目はデコ君と猫耳頭巾さんのステータス不足。Lv差が如実に現れる部分であるが、猫耳頭巾さんは【ウィザードリィ】故に、デコ君が【アリーナ】屈指のプレイヤースキルがある故になんとかなっていたが、それは如何ともし難い差である。俺みたいな木偶の坊が何だかんだ【アリーナ】で強者として存在できるのもステータスが物を言う所が大きいからだ。

「――――以上、2点が敗因だと俺は考える。まぁ、もしかしたら対人戦のセオリーだとか細かいところがあるのかもしれないが、俺はそうした戦闘を専門に扱ってないから分からん。管轄外だ。だが、このステータス差って部分。実はLvだけが原因じゃない。むしろ、場合によってはLv以上に影響がある」

「Lv以外がステータス差を開けるの? って。ああ。なるほど」

「猫耳頭巾さんは気づいたみたいだな。デコ君は?」

 納得言った様子の猫耳頭巾さんに対してデコ君は分からないのか、困った様子で笑って誤魔化す。

「装備だよ装備。詳しい計算式を知りたいなら事細かに教えるが――――興味無さそうだな。残念だが、今は省くよ。ともあれ、装備数値はステータス数値のほぼ3~4倍程度の影響力がある。つまり、装備のAgi値が+13のものから+16のものになるだけで、Lv1上げる程の影響を出す。Lv99に近づけば近づくほどLvは上がり難くなるから、それこそLvを上げるより高性能装備を手に入れたほうが強くなりやすいんだ」

「へぇ~。今のは15へぇ~くらいあげられるよ。噂程度にステータスより装備数値の方が重要って聞いてたけど、そんなに違うんだ」

「この程度なら『検証勢』も必死に秘匿するレベルじゃないから、噂程度にはなってたか……ともあれ、そうした理由からトッププレイヤーは高性能装備を必死に手に入れる。Lvが高い奴は高ランクMOBを狩ってそのレアドロップを入手できるし、財力もある。結果、トッププレイヤーは更に強くなる、って流れなわけだ」

 デコ君もウンウンと頷いて理解を示す。

「さて、じゃあ俺たちは、というと……まぁ、俺は例外として、デコ君は【神槍ヴォータン】は良いが、他はそうしたトッププレイヤーの装備と比べると貧弱だと言わざるをえない。猫耳頭巾さんは、キャラ方向性的にInt以外は重要性が低いとは言え、敵3人の攻撃1発ずつで殺されるか、1発ずつなら耐えられるか、の違いは大きい。となれば、防具を充実させない理由はない。そこで『時間を掛ければ誰でも簡単に手に入れられる高性能防具』を手に入れようって寸法さ」

「え~。おでこ君とおそろいの装備で【アリーナ】に行くのは嫌だ~」

 ちょ、おま、デコ君地味にショック受けてるからな、その発言。

「いや、別におでこ君が嫌いってわけじゃないよ? でも隣の人と同じ装備って、何か嫌じゃない? こう、芸が無いというか」

「ふふん。そんなこともあろうかと、既に知り合いの腕の良い『生産勢』に連絡は取っておいてある。残念ながら予定が空くのは一週間後になりそうだが、3日以内に大体の希望を言って置けばその希望に合わせて装備デザインの変更をしてくれるそうだ。マジゆうかりん周りの人脈ってスゲー」

 『なりきり勢トップ』は伊達じゃない! と言っても、ゆうかりんがその『生産勢』の人と知り合ったのはそう言われる前だったらしいが。その人曰く『デザインに拘るのは『なりきり勢』の方が多いし、そういうやりがいのある仕事ならどんな客でもドンと来い!』だと。レッドネームな上にトッププレイヤーで、多少足元を見ても誰も何も言わない幽香にすら通常価格なんだから、まぁ、何と言うか、職人さんだよなぁ。

「おお~。検証君って風見さんとおでこ君以外に知り合い居たんだね!」

「驚く所ソコかよっ。もっと『気が利くね~』とか『やれば出来る子だって信じてた~』
とかあるだろ?」

 ナイスツッコミと言わんばかりに親指立ててキラキラ笑顔をこっちに向けるな猫耳頭巾さん。
 あとデコ君。何時までそんなショボくれた顔してるんだ。さっさと【珍獣転送の石】をぶつけなさい。そこに目標のMOB居るから。

「ともあれ、そういうわけだ。じゃあ【ミセス婦人の珍獣発見】クエスト10回目の報酬を貰いに行くぞ。それがお目当ての防具だ」

 という訳で楽しい作業ゲー2時間は終わり。これ、俺の【ワープスクロール】が無かったら40時間は世界を移動速度2分の1で回らなきゃいけないんだよなぁ。俺はそれでも何だかんだ楽しめるだろうけど、普通は不愉快だろうなぁ。こんなんだから『イライラ世界一周クエスト』って言われるんだ。せめて移動速度2分の1が無ければ、まだ観光気分で散歩を楽しむプレイヤーも居ただろうに。
 ……それにしてもリアルタイム4時間*10はアレか。

 †    †    †

 歓声が響く。デコ君も、猫耳頭巾さんも、当然俺も。今や慣れたもので緊張の様子はない。

「さあさあさあ! 奴らがやって来ました! 我等が【竜賢宮】にLv50以下のPCが名乗り出た!  にも拘らずキャラ性能では恐らく最強! お前のステータスはどうなっている!? 【検証者】! そして彼が率いるチーム【検証デコ頭巾】! 前回負けたリベンジか、今日は随分とやる気で! 選手、入☆場★です!」

「我らは滅びぬ! 何度でも蘇るさ! 『検証勢』の力こそ人類の夢だからだ!」

「大佐の名言ありがとうございます! 初登場の時も大佐でしたし、どうやら【検証者】は大佐の名言が好きなようです!」

 大佐は滅びぬ! 何度でも蘇るさ!

「ともあれ、既に【アリーナ】の常連と化した貴方たちの紹介は多くは要りませんね! では対戦相手の入★場☆です! ……あれ?」

 何か実況さんが慌てた様子で裏側に引っ込んだ。どうした?
 何時もなら実況さんの言葉に合わせて出てくるはずの相手チームが出てこない。
 歓声も止み、観客もいささか戸惑っているようだ。

「え、何で? どういうこと? ……ああ、なるほど。う~ん……ま、良っか。【検証者】なら何が起きても面白くしてくれるよ。オーケー。私が許す」

 なんか不穏な言葉が聞こえた。
 実況さんマイク入ってるから! 聴こえてるからね!
 しかも何さ。俺なら面白くしてくれるって。お前本当に俺のこと大好きだな!

「あーあー。うん、良し……あ、マイク入ってた……ゴホン! 失礼しました! どうやら待機選手が『全員』『【アリーナ】の受付前で』『キルされた』様なので、唯一残った待機選手が一人でチーム【検証デコ頭巾】の相手をするようです!」

「はぁ?」

 いや、意味が分からないぞ。不意を着いたとしても、【アリーナ】に居る様なPCは全員トップクラスのPCだ。
 そいつらが全員キルされたって、何の冗談だ? しかも待機中って、対人専用の準備終えた状態ってことだろ?

「という訳で、前代未聞の【竜賢宮】にたった一人の殴り込み! 私、実はこうなることをドキドキしながら期待してました! 本当に【検証者】は良いネタになります! 選手、入☆場★です!」

 そして、その言葉と共に【アリーナ】に降り立つ一人の女。
 癖のある緑の髪、真紅の瞳。白のカッターシャツとチェックが入った赤のロングスカート。スカートと同じ柄のベストを羽織っていて、日傘を開き、ふわりと舞う。
 観客席でもざわざわと何時もの歓声とは違ったものが広がる。

「ぅぁ……」

 デコ君が怯み、一歩後ずさる。そういや、デコ君は凄い苦手意識持ってたよね。
 ああ……こりゃ駄目だ。折角装備新調したのに、そのデビュー戦がこれかー。結構アレだな……うん……連敗記録伸びただけか……

「立てば芍薬、座れば牡丹! 歩く姿は血染めの薔薇か! この【竜賢宮】にすらたった一人で乗り込む様は威風堂々、王者の風格! 最強最悪! 【四季のフラワーマスター】!」

「【マスタースパーク】を借りたお代。今此処で出して貰うわね」

 我が相棒。風見幽香が現れた!
 ……どうやら本気らしい。

「いやー。わざわざチーム【検証デコ頭巾】とやりあうために順番待ちしてる外の人たちを一掃するとは流石に私も予想しておりませんでした! ちなみに……【四季のフラワーマスター】さん!」

 実況さんが幽香に呼びかける。

「何かしら、実況の」

 幽香も、何だかんだ話を振られれば答える。
 というか、実は好意的に接してくる相手を無造作にキルしたりしないのだが、まぁ、レッドネーム故そこらは知られてない。
 ……にも関わらず、声を掛ける実況さんは、神経図太いというか何と言うか。
 そして、互いの視線が合い、数泊の間。

「準備は?」

「万端」

「覚悟は!?」

「十全」

「油断は!!」

「皆無」

 阿吽の呼吸で問答をする実況さんと幽香。
 お前ら、打ち合わせでもしてるのか。いや、してないだろうけどさ。分かってるけどさ。
 そして、幽香も、実況さんもニヤリと笑う。

「良く言った! これぞ誰もが認める『トップ』の姿! ヤローども! 全員その目に焼き付けろ!」

 途端、歓声が鳴り響く。さっきまでざわざわしてたくせに、調子の良い奴らだぜ本当に。

「それでは! チーム【検証デコ頭巾】Vs【四季のフラワーマスター】! 試合! 開始ぃぃ!」

 †    †    †

「咲かせ、咲かせ、裂かせましょう――――」

「ちょ、デコ君! 何固まってるんだ早く行って!」

「……ッ!」

 開幕、詠唱を始めた幽香に対し、完全に気おされてたデコ君の動きが遅れる。開始地点がある程度距離が離れているため、如何にデコ君と言えどその距離を詰めた上で、幽香の防護結界を貫くだけのダメージを与えるのは……無理か。だが、諦めてたまるか。あいにく、俺も試合開始と同時に詠唱はしている。魔法選択の関係で、俺の方が早く詠唱を終えるはず――――!
 幽香はただ哂うだけ。まるで、唯一の勝機を逃したな、と言いたげな表情で。

「――――貴方が立ち入るは、私が望む花開く世界――――」

「まだだ! 諦めて、たまるか! 【ホーミングブリッド】!」

 俺が放つ魔法は、デコ君が遅れた結果、先制の一撃となる。
 ……が、本来これはデコ君の連撃に混ぜ込む本命の一撃。これが牽制になったのは、正直かなり痛い。
 案の定、なんの問題もなく、幽香の日傘でパリィングされる。幽香の日傘は他のPCの武器のように【壊れた装飾品】となる――――ことはない。
 あの日傘は彼女のユニークアイテム【唯一枯れない花】。その効果は、複数の属性耐性の上昇と、耐久が減少しないというもの。
 しかし、俺の攻撃は無駄ではない。それを防いだ時には、デコ君が距離を詰めている。

「【ガイア】!」

 スキル発動。初撃。両足を狙った鋭い2発の突きと、両足を刈り払う横薙ぎの一閃。
 2段突きはゆったりとした、それで居てかすりもしない足捌きで回避。最後の一閃は日傘で止める。

「【ゼウス】!」

 スキル発動。続く連撃。今度は眉間・喉・両肩を狙う4段突き。
 眉間は首を傾げることで回避。喉への突きは当てた。防護結界に傷をつける。しかし両肩を狙った2段付きは横に掲げた日傘に防がれる。

「ッ! 【ハーデス】!」

 スキル発動。〆の終撃。【神槍ヴォータン】を大きく引き込み、柄の中ごろを持ち、バトンか何かのように槍を回転させる。
 石突側で日傘を大きく上に弾き、パリィブレイク。その遠心力を利用し、勢いをそのままにこじ開けた胴体へ突き入れる。防護結界は――――

「――――それはきっと、美しくも残酷なことなのだから」

 ――――防護結界は、破れなかった。詠唱が終わる。
 叩き込んだ攻撃は、結界を破るに足らなかったか。

「さあ、足掻いて魅せなさい……【幻想郷の開花】」

 発動と同時に、バトルステージ全体が向日葵に埋め尽くされる。
 発動した魔法は、フィールドオブエフェクトという種類の魔法。術者を中心とした射程圏内に居る存在に様々な効果を及ぼす魔法。そして、【幻想郷の開花】が持つ効果は――――

「この魔法の効果は、術者の継続回復と敵への継続ダメージよ。花の栄養になりなさい」

「てめぇ幽香少しは手加減しやがれ! こちとら戦闘は専門じゃないんだぞ!」

 この魔法の厄介な点はいくらでも上げられるが、今の所問題なのは……こういった場に展開される継続ダメージは、ダメージ値が固定であり、キャラクターステータスに左右されないことである。
 つまり、あとは幽香が避け続けるだけで俺がすぐに死ぬということだ。メンツ的に回復要員が居ないのが仇になった。回復要員さえ居れば死ぬ前に回復できるから問題ないのに!

「あら? 十分手加減してるつもりだけど……さて、時間稼ぎはもう良いでしょう? そっちの【ウィザードリィ】。詠唱は終わった?」

「バレテーラ……さあ、猫耳頭巾の旦那ぁ! やっちまってくだせー!」

「本当に検証君はノリノリだよね~……ともあれ、行くよ。極大魔法【エンシェント・フレア】」

 大魔法の更に上位。極大魔法。その詠唱時間は非常に長いため、何かと使い勝手は悪いが、決まれば最強。
 そして、幽香は猫耳頭巾さんの極大魔法に飲み込まれ、大きな火柱が上がる。
 ……それを見て、俺はこの勝負の行方をはっきりと理解した。

「そういえば、貴方の好きな言葉にこんなのが有ったわね……『降伏は無駄よ。抵抗なさい』」

 †    †    †

「ね~検証君。何で先に言わなかったの~?」

「あ~……あれだ。失念してたと言うか、何と言うか」

「風見さんが対火100%なの知ってれば~、流石にあれは撃たなかったな~」

「うがー。俺が全部悪いよ何だよ何だよ猫耳頭巾さん意地悪だぜっ」

 意地の悪そうな顔してやがる!
 ……あの後、当然の様に極大魔法を耐え切った幽香に猫耳頭巾さんは消し飛ばされ、俺は勝手に力尽き、デコ君は善戦するも殴り殺された。
 あとついでに聞いてみたら【アリーナ】の外で待機してた選手連中は不意打ちで幽香の極大魔法で大半が消し飛ばされたらしい。ご愁傷様。運良く耐え凌いだ連中は各個殴り殺されたり消し炭にされたりだった様だ。どう見ても単独テロです本当にありがとうございました!
 いやもう本当にアイツ何なんだ。魔王か何かか。

「幽香の【唯一枯れない花】は対金・対月・対星以外を+100%だからなぁ」

 しかも壊れない。

「ユニークアイテムってさ~。大概インチキだよね~」

 デコ君もコクコクと頷いて同意を示す。
 まぁ、方向性が防御系のアイテムだし、穴が有る分むしろ常識的なんだろうなぁ。

「まぁ、今日は嫌な夢を見たってことにして、また今度頑張ろうさ。今日はもう解散! 時間的にも精神的にも今日は無理っ」

 いつも通り、俺が解散宣言をする。
 二人ともそれに異論は無いらしく、別れの挨拶となる。

「分かった~。それじゃ、また今度ね~」

「……また今度」

「あいあい。お疲れ様でしたー」

 あ~……今日はゆうかりんとの勝負で無駄に疲れたなぁ……明日辺り、仕返ししてやる。
 とりあえず俺の【ホーム】にある【ホットドック】は全部【おにぎり】にしてやろう。あと【ハーブティー】も【緑茶】にしてやる。ふははは。たまには和の良さを思いしれ!
 
 †    †    †

 今日の検証結果――――ユニークアイテムはインチキ。性能的な意味で。



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オマケ~次の日「【検証者】ですが、【ホーム】内の空気が最悪です」~
「ちょっと、『冷蔵庫』の中身が変わってるんだけど」
「【ホットドック】飽きた。【ハーブティー】も。だから無いわー。0だわー。ごめーん」
「承知したわ。貴方、私にケンカを売っているのね。そのケンカ買った。表に出なさい」
「【四季のフラワーマスター】は短気でいけませんね。それか『私の友人』である【検証者】を小間使いか何かと勘違いしているか。どちらにしても、こうなってはお終いですね」
 …………
「どうやら、自殺志願者は1人じゃなくて2人だったみたい。折角だから2人とも一緒で良いわ。『私の友人』としての大サービスよ」
「あら、サービス精神旺盛ですね。ですが私は結構。不快でしたらお一人で【黄金の花畑】にお帰りなさってはどうですか? あそこ、貴方の巣でしょう?」
「……な、なあ、その、何だ。もしアレだったら俺、買ってくるから」
「「貴方は黙って」」
「はい」
 …………
「そういえばさっき『私の友人』とか言ってたけど、貴方にとってみれば、所詮『大勢の友人の一人』でしょう? 私、これでも彼の『相棒』なのだから、少しくらい我侭言うの、当然なのよ。『私たちくらいの仲になれば』。貴方はどうだか知らないけど」
「戯言を。貴方の場合、『友人をやってあげられる』程の人格者が【検証者】くらいだったというだけでしょう。他に友人なんて居ないのですから。これでは【検証者】が可哀想ですね」
 …………
「そもそも、誰の許可があって貴方は此処に居られるのか分かってないようね。此処は『私と彼の』【ホーム】なのよ? なんだったら、立ち入り許可を取り消しても良いのだけど」
「あらあら、【四季のフラワーマスター】は物忘れが激しいようで。此処は『【検証者】の』【ホーム】です。当然、彼の許可さえあれば入れます。貴方こそ、あまり我侭を言って【検証者】に愛想を尽かされない様、精々気をつけてはいかがですか? 無駄でしょうけど。ああ、貴方がこの【ホーム】に居られるのも、あと幾日か。指折り数えで足りそうですね」
 …………
「【検証者】ですが、【ホーム】内の空気が最悪です」
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【反】
元ネタ:Tales Weaver
概要:プレイアブルキャラ ボリス・ジンネマンの持つカウンタースキル。擬似的なHPを持ち、ダメージを肩代わりする『クレイアーマー』という防御魔法と合わせることで、強力なMOBを容易に倒しうる、通称『神殺し』と言われるスキルセットに変貌する。

【なにかんがえてるの】
元ネタ:スーパーマリオRPG
概要:ゲーム的には敵一体の現在HPを知ることが出来る技。しかし、その真価はタイミング良くボタンを押したときに出てくる「敵が考えていることが分かる」というネタ的な要素。色々な意味でアウトな内容が出てくる。

【最高にハイって奴だ!】
元ネタ:JOJOの奇妙な冒険
概要:今までに無いくらいテンションが上がった時に言うセリフ。DIOは戦ってる途中に鼻歌を歌ったり、ポーズを取って時間を止めて、階段に立った相手を一段だけ下ろして元の位置でポーズを取ったりとお茶目さんだなぁ。

【我が道を爆走せずして何が『検証勢』か!】
元ネタ:Fate/stay night
概要:金ぴかAUOこと世界最古の英雄王 ギルガメッシュのセリフ改変。元ネタでは『慢心せずして何が王か!』と言っていた。傍若無人で悪逆非道の王に思えるが、彼は彼なりの王の理想像というものが有る様である。

【我らは負けた! 何故だ!? →坊やだからさ~】
元ネタ:機動戦士ガンダム
概要:シャア・アズナブル大佐の名言の一つ。元ネタでは『私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。何故だ!? →坊やだからさ……』という流れである。

【我らは滅びぬ! 何度でも蘇るさ! 『検証勢』の力こそ人類の夢だからだ!】
元ネタ:天空の城ラピュタ
概要:我らがメガネ ムスカ大佐の名言の一つ。本名はロムスカ・パロ・ウル・ラピュタ。元ネタでは『ラピュタは滅びぬ、何度でもよみがえるさ、ラピュタの力こそ人類の夢だからだ!』と言っている。

【唯一枯れない花】
元ネタ:東方project
概要:風見幽香が持つ日傘について、元ネタにて幽香が言ったセリフ。『これは、幻想郷で唯一枯れない花なのよ』とのこと。実際に花なのかは解釈によって違う。幽香が負けない為、その傘は幻想郷に咲き続ける、と言う解釈もある。

【幻想郷の開花】
元ネタ:東方project
概要:風見幽香が持つ、たった二つのスペルカードの一つ。 本来の名前は『花符「幻想郷の開花」』。

【降伏は無駄よ。抵抗なさい】
元ネタ:パワプロクンポケット8
概要:誤字や誤用ではない。サイボーグ対策室(CCR)の作戦実行隊長 灰原が、とある相手に言ったセリフ。元ネタでは『降伏は無駄だ。抵抗しろ』と言った。しかし、元ネタを知らなければサイボーグ対策室という存在が野球の何に関係するのか分からないだろう。ちなみに、CCRは野球とは全く関係が無い。

【「【検証者】ですが、【ホーム】内の空気が最悪です」】
元ネタ:2ch(ドラゴンクエスト4)
概要:『ライアンですが、場車内の空気が最悪です』というスレッドタイトルの日記調の物語のタイトル。勇者に同行する仲間(ベンチウォーマー)の不遇さを表した作品。


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