「よう、久しぶりだなポニテく……ん……」
「……どうも」
いつも通りの低い声に、比較的ゆっくりした話し方。ヒツジとかヤギとかが喋ってる気分になれる。まぁ、人によっちゃあ暗いと思うんだろうが、俺的には落ち着きがあって良い。
ともあれ、そんな付き合いの長いポニテ君を誘って【アリーナ】に出ようと思ったのだが、其処には、変わり果てたポニテ君の姿がっ!
「ポニテじゃ……ない……ッ!?」
彼はそれに対して困ったような感じではあるが、爽やかな笑顔で応える。
そう。彼の髪型は(俺が認定した)トレードマークであるポニテではなく、オールバックなデコ君になっていた。それでも髪の長さは結構な長さのまま保たれているのが幸いか。
装備はDefやAgiなどのステータス上昇より、属性耐性上昇を重視したシリーズの黒いローブで纏まっているが、そのローブはノースリーブで肩を露出し、アームウォーマーみたいなのを腕に着けてる形で、動きを阻害しない感じになっている。持ってる槍は……見覚えがあるってことは、高ランク武器だな。結構やってるんだな、デコ君。
「いやー。パッと見の雰囲気変わるなー。うんうん、イケメンだ。危うく気づかないところだったぜ」
「……でも、気づいたね」
「おいおい、俺の数ある魅力の一つが記憶力だってのはお前も知ってるだろ? 当然だぜ」
俺の軽口に曖昧な笑顔をし、首を縦に振るポニテ君改めデコ君。
今の笑顔は「あぁ~、また調子の良い事言ってるよこの人」的な何かだ。絶対そうだ。俺が決めた今決めた。ってことで言いがかりつけながらヘッドロックを決める。
「テメこらこのヤロー。今バカにしたなっ」
「わ、わ、わ。やめ、止めて」
それにしてもデコ君は完全に弄られキャラだなぁ。流されやすい上に頼みごと断れないって疲れないんだろうか。疲れないんだろうなぁ。クラゲみたいだな。もしくは海草的な何か。
「って訳でワカメデコ君な」
「……?」
どうしてそうなるの? とでも言いたそうな顔でこちらを見るワカメデコ君。
「デコは見た目で、ワカメは何となく。ところで海草が髪に良いって本当か?」
「どうなんだろう……?」
「しかしストレートな髪だからやっぱワカメは無しだな。デコ君だわ。よろしくデコ君!」
「……よろしく。いつも通りだね」
そういう訳で、本人の了承も得たしデコ君と呼ぶことにしよう。
ともあれ、さっさと本題に……と考えたところでデコ君が俺にスキルを使った。
白い羽を持つ女性が現れ、手を振ると同時に、その手から零れ落ちた光の粒が俺に降り注ぐ。確かデフォルトスキル名は【アストライアの星の加護】。効果は一時的な対星の上昇。そして――――
「【検証者】の二つ名。おめでとう」
――――そのエフェクトの綺麗さから、何かとお祝いの時に振りまかれるスキルでもある。
「【wis】したんだけど、拒否設定になってて。お祝い、遅れた」
言いながら爽やかに笑うデコ君。ゲーム内で祝われたのはコレで二人目である。
そして、もう、何ていうか。
「本当にイケメンだぜお前! 祝ってくれてありがとな!」
今の俺の姿がPCボディなのが悔やまれる。生身の俺だったらもっとこの喜びが伝わったかもしれないのに。
デコ君の背中を思いっきりバンバン叩いてやる。俺は笑ってたし、デコ君も笑ってた。
† † †
「さて、最初からクライマックスで、もう何か『あれがエンディングでも良いんじゃないか?』とか頭を過ぎったが、流石に意味不明すぎる。ラスボスが姫様になるくらい訳が分からない」
あの後、とりあえず【wis拒否】の理由を説明し、今後連絡取りやすい様に【フレンドアドレス】を交換して、互いに連絡が付けられる様にした。
ちなみに今回、どうやって待ち合わせしたかと言うと俺が一方的に【wis】で「【アリーナ】に参加するつもりだから【闘争都市】の前に来るように。来ないとぶるぅぁあああぁぁ!」って送ってやった。そしたら来た。本当にデコ君は良い奴である。
そんな良い奴だからデコ君は俺のどうでもいい発言に一々律儀に反応する。
「……アレは、不思議な気持ちになったね」
いつもの様に笑っているデコ君だが、言葉の選び方から考えると、多分苦笑いなんだろう。
「率直に言えよ。訳が分からなかったって」
「でも……言いたいことは、何となく分かったから」
「お前、感受性良すぎだろ。アレで分かるとか、とんでもないな」
そんな感じでぐだぐだと話をして居たが、不意に転機は訪れる。
「ゴメンよ~遅れた~。それにしてもおでこ君が頼みごとなんて珍しいね~。どうしたの~」
そんな聞き覚えのある声がする。デコ君と一緒にそちらを見る。今来た相手と目が合い、お互いに驚いた。何故なら、予想しなかった見覚えのある人が居るからだ。
「猫耳頭巾さんじゃないか。また会ったな。というか、デコ君知り合い?」
「【フレンド】。……【アリーナ】は、3人だから」
「おでこ君が【アリーナ】に用があるなんてどういうことかと思ったけど~。検証君絡みだったのか~。あと、また会ったね検証君~。その節はどうも~」
何と言うか、合縁奇縁って奴か? そんな感じでお互いにこやかに挨拶を交わしたら不思議そうな顔でデコ君が聞いてくる。
「……二人は、知り合い?」
「あー。知り合いって程じゃないが……この前ゆうかりん討伐PTで一緒になったんだ」
「いや~、公式HP見たら驚いたよ~。野良PT組んだ相手が二つ名授与されてるんだもの~。それはそうと二つ名おめでとうね~。【お祝い】~」
先ほどの様に羽の着いた女性が星を振りまく。うん。気分良いね。
「祝ってくれてありがとう。それにしても二人が【フレンド】とはなぁ。世の中狭いというか、何と言うか……まぁ、確かに二人とも、何だか似てるしな」
ヤギとかカバとかネコとかイヌとか、そういうのが日向ぼっこしてるような。
なんかそういう長閑な雰囲気しかしてこない。
「気があった、から」
「馬が合ったとも言うね~。会話してて疲れない相手って大切だよね~」
それにしても、本当にこのメンツだと話が進まないな。俺は人の事言えないけど、半分以上わざとだから、こういう天然さんたちを見ると凄い心が和む。このいわば和みフィールドが他のメンバーからやる気とかそういう何かを奪って満足感で満たしていくんだと思うんだ。しかしこれじゃ駄目だ。また俺の貴重なゲーム時間がトークタイムと化してしまう!
「んじゃまぁ、本題に入るとして……気を利かしてもう一人呼んだってことは、デコ君は俺の【アリーナ】の誘い、受けてくれるって感じで良いのかな? 猫耳頭巾さんはどうする?」
「嫌だな~。二つ名持ちのPCを一撃で倒すような人と一緒に【アリーナ】に出れるなら断らないよ~」
それじゃあ早速、とPTを組む。
俺は色々やったから、この前からLvは2上がって40に。猫耳頭巾さんはLv78。デコ君はLv81だった。
「お~、おでこ君もまたLv上がってるね。この間までLv79だったのに」
「……【検証者】授与の話を聞いて、やる気出た」
「ああ、デコ君、見た目に似合わず負けず嫌いだからな」
ニマニマ笑いながらデコ君の顔を見る。デコ君は苦笑いしながら槍の石突の部分で俺をツンツンしてくる。何だこの野郎やるってのか。
さっきと同じ様に言いがかりをつけながらヘッドロックする。即座に降参するデコ君。素直でよろしい。
「ん~。二人とも仲良いね~」
「そうだろ良いだろ猫耳頭巾さん。だがこのポジションはやらないぜ。俺の唯一の癒しだからなっ!」
「だってさ~、そこん所どうなの? おでこ君」
俺の実は結構本気な発言に、ふざけながら話をデコ君に振る猫耳頭巾さん。デコ君は予想通り曖昧に笑って俺の頭を石突で小突く。
「怒られたぜよ」
「怒らせた~」
「……怒ってない」
しかし完全に男子中高生のノリである。嗚呼、懐かしき哉あの青春の日々。
† † †
ブー、というあの映画とかが始まる時に鳴る低めのサイレンというか、警告音というか。まぁ、そんな感じの音とともに、ワァッと歓声が沸く。
「さあ、先ほどの試合の熱気も冷めぬまま! 選手、入☆場★です! 観客の中には【掲示板】の書き込みを見て、急いでこの人たちを見に来た人も居るのではないでしょうか!? チーム【検証デコ頭巾】! 全く持って意味の分からないチーム名かと思いきや見たままそのままだったー! あんたらのセンスはもう死んでいるー!」
「ド喧しいわ実況さん! 俺のつけたチーム名だぞ!」
「あーっと! 試合前から既にヒートアップしているようです! これは実況である私も身の危険を感じます!」
実況さんが目立つ位置でクルクル回りながらそう言う。
途端観客が「マナー悪いぞー!」「二つ名持ちカッケー!」「応援してるぜー!」「さっさと始めろー!」と思い思いの言葉を叫び始める。
「では、登録データ紹介と行きましょう! チーム【検証デコ頭巾】の平均Lvはなんと66.3! 【竜賢宮】の登録チームではぶっちぎり最低の平均Lvです! リーダーであり、チーム名の『検証』担当。今を生きる時の人、注目の【検証者】はLv40の【ディレッタント】! 色々突っ込みどころ満載ですが、とりあえず【紅魔宮】に出れるLvでLv無制限の此処、【竜賢宮】に居るのは完全に場違いです! 来る場所間違えてねーかー!?」
「Lvの違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる!」
「熱いコメントありがとうございます! そしてチーム名の『デコ』担当、このチームでは最大であるLv81の【アクセルランサー】! 目立つのはやはりその武器【神槍ヴォータン】か! 私、実はアイテムコレクトが趣味なのですが、この武器は中々手に入れるのが大変だった覚えがあります! それでは意気込みの方を、コメントどうぞ!」
実況から突然振られて、観客席の方をきょろきょろと見回していたデコ君が驚き、あわあわしながら何とかコメントを返す。
「あ……その、勝ちます」
「初々しいコメントありがとうございます! 慣れてない様子なりに、頑張るうんぬんではなく勝つと宣言した辺り、何か必勝の策があるのか!?」
自分のコメントを受けての実況さんの言葉に、更に慌てながらブンブン槍を振ったりしてるデコ君。ふははは、負けず嫌いの性格は隠さないと大変なことになるぜ。今みたいに。
周りからの歓声が更に大きくなる。どうやら大人気のようだ。気持ちは分かる。
「最後はチーム名の『頭巾』担当、Lv78の【ウィザードリィ】! PT編成的にその仕事はダメージディーラーか!? しかし、そうなると全体的に防御力不足が目立ちそうです! その辺について、このPTで一番落ち着きのあるご様子のこの人はどう考えてるのでしょう!?」
「検証君が何とかしてくれるよ~」
「仲間を信頼するコメントありがとうございます! コレが投げっぱなしジャーマンだとか無茶振りじゃないことを祈るばかりです! では、対戦相手の入★場☆です! こちらはアリーナ常連チーム【三本の矢】! 平均Lvは――――」
俺らの紹介も終わり、相手チームの紹介に入る。実況さんも大変だなぁ。多分好きでやってるだろうから苦には思ってないだろうけど。
「さて、戦闘プランはさっき話した通りだ。二人とも、準備は良いな?」
「おっけーだよ~」「…………」
猫耳頭巾さんは気軽に答え、デコ君は頷くことで了解の意を伝える。
「それでは! 試合! 開始ぃぃ!」
実況さんの言葉と共に試合開始のブザーが鳴った。
† † †
突然の話だが、俺は随分と前に、幽香に『最強の攻撃を実現させろ』と言われたことがある。
俺はあくまで『与えられた結果から、それに関わる要素を探しつつ、その要素がどれだけ結果に影響を出すかを逆算する』という『検証』が本業であるが、反面、デジタルデータから成り立つこの世界では、リアルにおける物理学者にも近い『世界の構成要素からその法則、成り立ちを理解する』存在であると自負してる。
だから、考えたのだ。『最強の攻撃』を。
† † †
「さあ、俺にやられたい奴は掛かって来い! って言ってるそばから3人キター! お前ら! 最初にLv40の敵を3人で落とそうとか、セコイ考え方してんじゃねぇ!」
「勝てば官軍!」
試合開始のブザーと共に、敵が2人接近。もう1人の敵は後ろで銃を構えているが、どう見ても俺を狙ってます本当にありがとうございました!
ちなみに、猫耳頭巾さんとデコ君は当初の予定通り、開始と同時に左右に散開している為、俺のフォローなんざ出来ない。相手は完全にしめた、と思ってるだろう。
「「まずは一人!」」
「こっちの、セリフだっての!」
俺に迫る敵の剣2本と、ついでに弾丸を無視して、俺は油断してるリーダーの顔面をぶん殴った。
† † †
まず真っ先に思いついた要素が『必殺』。
敵HPを0にすることを目的とした要素。一般的な即死技や、防御無視でHP上限値を超える攻撃、そして、単純明快な大火力。
『最強の攻撃』は、その攻撃で戦況を左右する決定力が求められる。
† † †
「【検証者】のカウンターが決まったぁー! ダメージ値はカンストの9999! 9999です! 何だお前バグってんのかー!?」
「実況さん本当に俺の事好きだなオイ!」
「私、ネタになる人は大好きです!」
相手の攻撃は全てミス。加えて、敵リーダーである【ソードマスター】を落とした事で、接近していたもう一人の敵は即座に警戒の為、後退した。
俺は当然追撃。腕を振るう、が。
「そんな見え見えの攻撃、当たるかっ!」
「対戦相手も【アリーナ】常連の意地を見せる! 【検証者】の攻撃は当たらなーい! やはり【検証者】は戦闘を専門とはしてないようです!」
相手も必死。というか、まぁ、【アリーナ】常連の前衛に攻撃を当てる事が可能なほどのプレイヤースキルが俺には無い。何度も攻撃するが、全て掠りもせず避けられる。
相手の反撃はミスだし、こちらの攻撃が当たれば9999ダメージ出せるのだが、如何せんその判定すら発生しないようでは勝てない。
……これが【検証者】である俺の限界。ステータスの絶対的優位性があるにも関わらず、戦闘を専門とする相手の舞台では、一歩劣るのを認めざるを得ない理由である。
「なら、専門にしてる舞台で勝負するだけさね」
――――【スキルメイキング】開始。
「デコ君! 猫耳頭巾さん! 少しの間任せた!」
† † †
次に必要に迫られた要素が『必中』。
ダメージを発生させるのに必要な要素。命中判定をしない攻撃魔法、命中率100%となる高命中値。そして、そもそも判定を行う為に必要な相手のPCボディに攻撃を当てる、ということ。
『最強の攻撃』は、絶対とも言える確実性が求められる。
† † †
「【検証者】が突如【メニュー】を開き、動きを止めたー! 戦況は前衛が【アクセルランサー】と【ツインブレード】、後衛が【ラストガンナー】と【ウィザードリィ】という展開になっている! 【検証者】は何をしているんだー!」
さて、サクサク作らなきゃな。
分類は、攻撃魔法。ランクは小魔法。魔法威力は最低の1。銃口補正も最低の0%。代わりにホーミング性能を100%。属性は噛み合い難い夏・冬・土。種別はブリッド。単発ヒット。貫通無し。射程10m。ヒット硬直は0で良いや、当たれば死ぬし。MP消費はデフォ。あとの細々したのはデフォで……ポイント余ったな……射程に全振りで良いや。名前もデフォルトっと。
――――【スキルメイキング】完了。掛かった時間は5.6秒か。
「【ホーミングブリッド】」
狙ったのは後衛の【ラストガンナー】。相手は俺の攻撃は『必殺』だと直感したのだろう。即座に射線から体をずらすが、ホーミング性能100%だからそれに合わせて弾丸もずれる。驚いた顔をし、しかしそれでもバックステップで射程外へ出ようとするが――――残念。射程とホーミングが特徴の射撃になったからな。当たってダメージ9999。
「攻撃も魔法もダメージカンスト!? おま、ふざけんな!」
「ふあははははは! 勝てば官軍! 良い言葉だ!」
「悪役! 悪役が居ます! 【検証者】は悪役だったー! 大切な事なので何度でも言いますが、【検証者】、どう見ても悪役です! 本当にありがとうございました! 私、対戦相手に同情を禁じえません!」
対戦相手の【ツインブレード】が、デコ君の攻撃をなんとか裁きながら必死のツッコミを入れてくる。俺はさっきの言葉をそのまま返してやるが、実況が俺を悪役呼ばわりし、観客が盛大にブーイングしてくる。
まぁ、俺だってこんなトンデモキャラが居たら文句言う。だが、これはラック補正値による仕様に基づいた結果。俺の実力なのだっ。
「さあ、足掻いて魅せろ。【ホーミングブレッド】!」
「検証君、本当に悪役ちっくだよ~……」
脇では既に仕事を放棄している猫耳頭巾さん。お前まで俺にツッコミ入れてくるか。何だ俺は。別にボケてるつもりは無いぜ。
そして俺の放った弾丸は、【ツインブレード】に迫り――――
「っ!? 死ねるかぁっ!」
――――左手の武器でパリィング。左の武器は即座に【壊れた武器】となるが、右手の武器だけでデコ君の武器を大きく弾き、その一瞬の隙に【壊れた武器】を収納、即座に別の武器を左手に持って、更なるデコ君の追撃を両手の武器で捌き続ける。そのスーパープレイにワァッと歓声が沸く。
「凄い! 【ツインブレード】単独で今の攻撃を無傷で捌いたぁー! 魔法見てからパリィの判断も、【アクセルランサー】相手の弾き返しも、武器換装も完璧! 本当に魅せてくれたぁ!」
「……うわぁ。【アリーナ】常連、舐めてたな。カッコイイなぁ」
――――【スキルメイキング】開始。
† † †
最後の要素が『常時』。
いわば『汎用性』である。『デメリット無く』『場面・状況に左右されず』『行使が容易』。そういったこと。
例えば、今の俺の【ホーミングブリッド】はパリィを初めとした『一度限りの攻撃無効』で防がれる。そういった『特定の状況では無力』という事である。
『最強の攻撃』は、『何時如何なる場合でも』『必殺』『必中』を求められる。
† † †
――――【スキルメイキング】完了。
「2番煎じとか、印象悪いとか、色々と思う所はあったんだが……ま、仕方ないよな。相手が悪かったんだ」
今度は、油断も手抜きもしない。詠唱は既に始まっている。ランクは大魔法の為、それなりに詠唱時間が必要なのだが。仕方ない。
「俺が『最強の攻撃』を考えた時、一つの完成形として考え付いた魔法。それを俺用に合わせて調節したもの」
「【検証者】が動いたー! というかコイツ、戦闘中に【スキルメイキング】してたみたいだー! 事前に作ってこい、とは言えないのがこのトンデモステータスっぷり! 本当にLv40なのかー!?」
実況が何か言ってるが、今は応じるつもりは無い。俺はこれでもデコ君に負けず劣らずの負けず嫌いだ。
スキルネームはデフォルトじゃあない。流石にこれをデフォルトネームで使ったら、怒られそうだ。
「さあ、今度は俺が魅せる番だ」
発動と同時に、扇子の骨の様に散る様に発射される5発のレーザー。そのレーザーはホーミング性能頼みで弧を描きながら敵を狙う。そのホーミング性能は言うほど高くない。コレなら回避も可能だろう。
俺の魔法に気づいたデコ君はバックステップを踏み、その射線を邪魔しないように後退する。
対して敵は、避け、右手武器で弾き、避け、左手武器で弾き、避け――――
「【絡め取るマスタースパーク】!」
――――最後は俺の手から放たれる極太のレーザーに飲み込まれた。
しかし、飲み込まれる直前、魔法発動が見えた。防御結界で防ぎ、結界破りの固定ダメージのみで凌ごうという判断だろう。この魔法に対して初見にも関わらず、正直トンでもない反応速度と判断力だ。が、それも無駄だ。
何故ならこの魔法は。
「残念ながら、この本命のレーザーだけは多段ヒットだ。ま、お前は頑張ったよ」
極太レーザーの照射が終わった頃には、既にPCボディの消滅エフェクトすら終わっており、敵は居なくなっていた。
「試合☆終★了!! 勝ったのはチーム【検証デコ頭巾】! というか最後のはどうみても風見幽香の【マスタースパーク】! 色々と良いのかー!? 私、風見幽香が【闘争都市】を襲撃するのではないかという不安でいっぱいです! ともあれ、観客の皆さん、この良い勝負を見せてくれた選手たちに盛大な拍手をお願いします!」
そして、今までに無いほどの歓声が響く。いやぁ、今日も良い仕事した。
† † †
結論を言うと、俺は『最強の攻撃』を実現できなかった。
ただ、『最強に近い攻撃』として成立させたのが、幽香の【マスタースパーク】である。
敵を捕捉し続けるだけの銃口補正と、PCボディによる回避をほぼ不可能とする広範囲攻撃、そして5秒間の最大10回にも及ぶ多段ヒットと幽香の高Intと魔法威力に依存したオーバーキルにも等しい火力。
幽香には、【格闘】を行いながら、口では『詠唱』などと無意味なことをしつつ、【格闘】スキルを意志発動し、【マスタースパーク】発動に合わせ敵を狙う。などと言うトッププレイヤー必須の戦闘センスと【キャストアクション】があったため、それで一つの完成とした。
だが、俺にはそうしたセンスがない。そのため、相手の動きを阻害する5つの誘導レーザーと、本命の広範囲レーザーでトドメとした。
† † †
「いや~。やっぱり検証君は大活躍だったね~」
「いやいや、俺一人じゃ何だかんだ勝てなかったと思うなぁ。ラストの【絡め取るマスタースパーク】だって銃口補正は低めだから、実は距離を詰められたら避けきれる魔法だし、大魔法は詠唱が長すぎる その点、前衛のデコ君には負担掛けたなぁ、ありがとなデコ君」
猫耳頭巾さんの言葉を受けて、謙遜……というか、事実をネタバレし、今回の本当の功労者に話を振る。
その功労者は、照れた様に笑ってるだけだが。
「本当にお前は、笑ってればそれで済むと思ってるなぁ。大体あってるけど」
ともあれ、初出場で全員死なずに勝利を収めたことだし、簡単なお祝いでもして、今日は終わりかな。
† † †
今日の検証結果――――【アリーナ】常連は俺以上。プレイヤースキル的な意味で。
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オマケ~観戦してた中の人~
「【マスタースパーク】ってパクられる運命なの……? いえ、でも此処では寧ろ本来の考案者はあいつの方だし、パクられたとは言い難い……いやいや、でも【マスタースパーク】は【風見幽香】の魔法だって一般的に知られてる訳だし、使い手は【風見幽香】だから……あー、もう。別にこっちだってケンカを売りたいわけじゃないのに、どうしてこう、ケンカ売らざるをえないことを……いや、逆に考えるべきか。これを引き換え条件に【実りやすいマスタースパーク】とかを考えさせれば……!」
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【ラスボスが姫様になる】
元ネタ:シャーマンキング
概要:打ち切りの結果。ラスボスが救いを望むお姫様という展開で『プリンセス・ハオ』という終わり方をした。アレを読んだ大半の人が笑ったか困惑したかのどちらかだっただろう。
【ぶるぅぁあああぁぁ!】
元ネタ:テイルズオブディスティニー2
概要:我等が英雄 バルバトス・ゲーティアのセリフ。というか、その中の若本さんの掛け声。漢らしい良い声である。
【あんたらのセンスはもう死んでいる】
元ネタ:北斗の拳
概要:必殺の暗殺拳を食らい、既に死んでいることに気づかない敵(たち)に主人公 ケンシロウが親切にも死んでいることを教えるセリフ。元ネタでは『お前はもう、死んでいる』という言葉と共に敵が「たわばっ」とか「あーだーもーすーてー!」とか言いながら死んで行く。
【Lvの違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる!】
元ネタ:機動戦士ガンダム
概要:いわゆる強さの指標が、決定的な戦力差である、という概念を突き破るセリフ。元ネタでは『モビルスーツの性能の違いが、戦力の決定的差でないということを教えてやる!』と言った。
【神槍ヴォータン】
元ネタ:.hack//AI buster
概要:作中作The WorldでGMの持つデバッグウェポン。武器に敵対者をデリートするスキルが付けられており、元ネタでは、とある存在をデリートしようとした際、破壊され、ゲーム内より失われた。(後に運営が復元したが、その復元したものも似たような末路を辿っている)