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No.33159の一覧
[0] 【習作】世神もすなる異世界トリップといふものを、邪神もしてみむとてするなり[ハイント](2013/03/23 17:46)
[1] 『かみさまからもらったちーとのうりょく』の限界[ハイント](2012/05/19 03:13)
[2] 辺境における異世界人の身の処し方[ハイント](2013/04/04 23:48)
[3] 現代知識でチートできないなら、近代知識でチートすればいいじゃない[ハイント](2012/06/12 20:51)
[4] 至誠にして動かざる者は未だ之れあらざるなりと雖も、[ハイント](2012/07/01 22:11)
[5] 道徳仁義も礼に非ざれば成らず。[ハイント](2013/04/04 23:52)
[6] 辺境における異世界人の身の処し方 その2[ハイント](2019/01/30 02:00)
[7] 出来ること、出来ないこと[ハイント](2019/01/31 00:14)
[8] プロメテウスの火[ハイント](2019/02/05 01:21)
[9] 『人食い』[ハイント](2019/02/07 04:31)
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[33159] 【習作】世神もすなる異世界トリップといふものを、邪神もしてみむとてするなり
Name: ハイント◆069a6d0f ID:a5c8329c 次を表示する
Date: 2013/03/23 17:46
 築地孝治はトラックに撥ねられて死んだ。
 二十歳だった。
 事故の原因は色々と考えられるが、死んだ孝治からすればそんなことは割とどうでもいい。事故の教訓は生き残った者たちが参考にすべきであり、死者本人にはなんら益するものではないからだ。
 トラックの運転手に対して言いたいことはたしかにあるが、それも今となっては意味のない言葉である。死者が生者にかける言葉はなく、よしんば運転手が死んでいたとして、死者同士が語らうことに何の意味があろうか。
 故に……という前置きが必要かはさておき、死んだはずの築地孝治が声をかけるべき存在は、別に居る。

「それで、」

 孝治は口を開く。生前には友人たちから『オールウェイズ不機嫌』と妙な節回しで揶揄されたその声音は、死した今となっては陰鬱ささえ滲ませ、地獄の亡者のごとき妙な凄みさえ醸し出していた。
 そしてそれは、己が死んだ事実から来る陰鬱さのみにあらず、

「あんたは何者だ。神父さん」

 目の前の存在に対する、不信感を滲ませたものでもあったのだ。





















 暗闇に満たされた部屋――果たして真実部屋と呼べる空間であるか、孝治は確信を持てなかったが――に、その神父は穏やかな微笑を浮かべてたたずんでいた。
 アフリカ系だろうか?黒い肌に黒い神父服をまとったその男は、しかしながら暗闇の中に溶け込むことなく、妙な存在感を持って浮かび上がってさえいた。年の頃は分からない。日本人である孝治にはトンと見当が付かなかったし、仮に外見から見当がつけられたとして、それに意味があるのかどうか……ないだろう、と孝治は思った。
 少なくとも死んだはずの孝治の前に現れ、言葉を交わせるほどには化外の存在である彼は、いかにも不躾な孝治の問いに対して笑みを崩すことなく答える。

「それが私の名を問う質問であるならば、」

 神父は勿体をつけて言葉を紡ぐ。芝居がかった台詞回しに孝治の眉間の皺が深さを増したが、それを意に介さずに男は続けた。

「私は答えよう。“N”と」

 孝治は露骨に表情を歪めたが、やはり気に留めることなく、神父はさらに言葉を続ける。

「またその問いが私の存在を問うものであるならば――私は答えよう、“神”と」

 両手を広げ、神父姿の神は言う。なんとも慈愛に満ちた表情であったが、生憎と孝治はその回答を聞いて安心する気分にはならなかった。
 腹の底からわきあがる不安。そして嫌悪感をこめて、孝治は口を開いた。

「残念だが俺の求める回答はそのどちらでもない」
「ほう? ではどのような意味かね」

 余裕の表情で問い返す神に本能的な恐怖心が浮かぶが、気力で腹の底に押し込める。
 力では及ぶまい。知恵でも及ぶまい。しかしながらこのまま黙っていることは、孝治の矜持を傷つける。故にこそ、

「分かっていてわざととぼけてるな? 口に出さねば分からないほど、尋常な存在じゃないだろうが」

 ――意趣返しを行う。

「なに、これも一つのコミュニケーション・スキルというやつでね。気を悪くしたなら謝るが、尋常な人間は自分の言葉の先を読まれるのを嫌うのだよ」
「じゃあ俺は尋常な人間じゃないんだろうさ。いいから言ってみろよ」
「ふむ」

 顎に手を当て、神父姿の神は孝治の目を覗き込んだ。心を読むのにこんなアクションをするあたり、妙に人間らしい仕草をする神である――もっとも、彼はそういうモノなのだ、と、孝治は既に当たりを付けてはいたのだが。

「なるほどなるほど」

 と、数秒間かけて孝治の心を読み取っていた神が、得心したように頷いた。孝治の心中を読み取ったのだろう。

 ――仕掛けるならば、今。

「つまり君の聞きたいことはこういうことか。『自分から――」
「『俺から見た関係性の存在として、あんたは何者か』」

 孝治は先回りして潰す。おや、と眉を動かした神に向かって言ってやる。

「どうだ。尋常な人間の気持ちが分かったか?」
「……ほう」

 す、っと神は目を細め、次の瞬間には破顔した。写真に撮って人に見せれば良い笑顔で通じるだろうが、実際に直視した孝治には嫌悪感しか生じさせなかった。

「なるほどなるほどなるほど。道理で“君”が選ばれるわけだ。“私”に」
「選ばれる、ねえ……オーディションに応募した覚えはないんだがな」
「人間の世界は、既にオーディション会場なのだよ。我々から見れば」

 そうなんだろうな、と孝治は思った。それを信じさせる程度には、目の前の存在が隔絶していると、既に孝治の本能は認めていた。

「それで、オーディションにめでたく、目出度く合格した俺はこれからどうなるんだ?」
「おや、先の質問の回答は良いのかね?」
「俺は俺の未来にしか興味がない。そちらを聞けるなら、あんたの“役割”なんざどうでもいい」

 それを聞いた神は、ククククッ、っと喉で笑う。

「なるほど、なるほど、なるほど、なるほど。実に良いな。実に良い。“我が主役”に相応しい」

 ひとしきり頷き、神は口を開いた。

「君がこれから何をさせられるのか? 私が君に何を求めるのか? ……答えようではないか」

 神は右手を横に伸ばし、その先にあるものを指し示した。

 扉である。ノブのある簡素な木製のドアは実にありふれた代物だったが、ドアを取り囲む枠の造形に、孝治は顔を引き攣らせた。



 ――ボコボコと姿を変える、泡立つ虹色の球体群。



「なに、あれは単なる演出だよ。“そのもの”ではない」

 不幸にもその正体に思い当たる所のある孝治が、自らの正気を疑う前に、神は慈悲深くもそう言った。

「……別に本物とは思っちゃいない。本物にあんな安っぽいドアが付いてたら興醒めだ」
「まあ、そうだな。とはいえ、その機能については君の思ったとおりでね」

 冷や汗を流す孝治に、神は厳かにのたまった。

「異なる世界へ繋がる門。――君がこれからくぐることになる扉だ」

 沈黙が、降りる。

「……何故、と問うてもいいか」
「私がそうしたいからだ」

 呻くように、あるいは囁くように発した孝治の言葉に、神は簡潔に答える。

「何故こんなことをするのか? 私がそうしたいからだ。
 何故君が選ばれたか? 私がそうしたいからだ。
 ――神の意図を問うほど愚かなことはない。全ては気まぐれだ」

 それはたしかにそうなのだろう。だがしかし、それで納得できるほどに、孝治は信心深くもなければ従順でもない。

「下らないな。トラックに撥ねられて異世界送り、しかも神様の介入で? 一体どこの三文小説だ。神の書く脚本でありながら、あまりにも陳腐でありきたりだ」
「どこのと問われれば、主にネット上と答えるべきだろうな。君にはあえて答える必要もないだろうが」

 神は孝治の悪態をさらりと流す。忌まわしき教義に従う司祭のごとく、その弁舌には一切の躊躇いがない。

「そして君が知っているように、『単なる偶発的な異世界トリップ』と違い、『神の介入による異世界トリップ』には、神という舞台装置を登場させる意味がある」

 噛んで含めるようにゆっくりと、神は孝治に言い聞かせる。その意図するところを理解し、孝治は先回りして言葉を発した。

「“特典”、か」
「その通り」

 頷き、神は今度は左手を持ち上げる。その手には、先ほどまでなかったはずの物体――古びた一冊の書物が握られていた。

「私はこれから君を異世界へと送り込む。その際、私は君に“ギフト”を与える。そういうルールだ」
「なるほど、テンプレートだ。実にテンプレートだ」

 震えを抑えつつ、孝治は気丈にもそう返した。
 その姿を見た神は満足げに頷き、左手の本を開いて孝治に問う。

「ではどのような特典が良いか、聞き取り調査といこうではないか」




















「……言葉だ」

 数秒の沈思の後、孝治はそう言った。

「ほう、言葉?」
「ああ。全ての言語を理解し、話す能力が欲しい」
「ふむ、まあ妥当な所か。他には?」
「要らない」

 神は目を細めた。

「君が望むなら、アニメや漫画の世界に送り込むことも、不死身の肉体を手に入れることも、単独で人類を滅ぼせるほどの戦闘力を得ることもできる。そういった特典は要らないのかね?」
「要らん」

 孝治は即答で返す。

「だがまあ、少し付け足しておくか。『三千世界に存在する全ての言語を、読み・書き・理解し・話し・聞き取る』能力をくれ」
「他には必要ないと? 圧倒的な力、不死の肉体、人を惹きつけてやまない人望……そういった陳腐で使い古されたギフトは、人間なら誰もが望むものだと思ったが」
「たしかに俺だって欲しいが、あんたからは受け取らねえよ」

 神を睨んで、孝治は言い切った。

「“結果は目に見えてる”」
「……ふむ」

 孝治の目を覗き込む。その奥に強固な意志を見て、神は確認するように訊いた。

「見えているならば、その能力の結果も分かるはずだ。それでもか?」
「勿論」

 孝治は答える。

「それでいい――俺は人間だ」
「……ほう」

 数瞬の視線の交錯の後、引き下がったのは神の方だった。

「そこまで言うならば仕方あるまい。……しかし」

 くつくつと笑う。

「君もオタクなら、年甲斐もなくチート能力で己の欲望を満たすことを望むかと思ったのだがね……思ったより、気骨があるようだ」
「……随分な物言いだな。日本の創作文化に喧嘩売ってるのか」

 神は孝治の文句を聞き流した。本をめくり、一枚のページを破ると人間には聞き取れないフレーズを呟く。
 すると破いたページがどろりと溶け、闇色の液体と化して宙に浮かび、そのまま滑空して、

「!? ちょ、まっ」

 孝治の鼻の穴に飛び込んだ。

「んがっ!?」

 激痛が走った。
 慌てて鼻をかもうとした孝治をあざ笑うかのように、暗黒色の液体は孝治の奥へと入り込んでいく。
 鼻腔から耳管に侵入。中耳から内耳へ浸透。さらに聴神経を侵しつつ脳へと達し――

「っぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 爆発。
 そう形容するしかない感覚が脳内で知覚され、孝治は絶叫した。
 聴神経を経由して侵入した液体が言語野に達し、孝治の脳機能を拡張する。その際に脳神経にかかった負荷が莫大な音、言語情報の奔流として孝治に知覚されたのだが……そんな理屈を述べたところで、何の慰めにもならないだろう。

「ふむ。少々刺激が強かったか」

 果たして“神”は、そんなことを呟きつつ、絶叫する孝治を眺めるのだった。




















 ――数分後

 存分に叫び続けた孝治がまともに声も出せなくなった頃、ようやく孝治の脳は平安を取り戻した。

「落ち着いたかね?」
「ああ、お陰さまでな……」

 いつの間にか地面を転げまわりながら絶叫していたのか。そんなことを思いつつ孝治は起き上がった。
 先ほどまでの感覚の爆発が嘘だったかのように、心身は平穏を取り戻していた。倒れながらのた打ち回り、地面に打ちつけたはずの頭でさえ、なんの痛みもない。

「これで“能力”の授与は終わった。他になにかあれば聞いておくが?」
「……そうだな」

 能力を得たせいか、思考が拡張された感覚がある。今ならば、世に言う分割思考、平行思考も可能だろう。
 とはいえ、ここで聞くべき質問は、そんな異能を駆使するまでもなく思いつく。それこそテンプレートというやつだ。

「最初に聞くが、これは単純なトリップなんだよな? 転生ではなく」
「望むなら転生でも構わんが……君はどうやら望まないようだ」
「心を読むな。次に聞くが、これから行く世界はどんなところだ?」
「剣と魔法の中世が終わり、近世に入り、近代へ移行しつつある世界、とでもいうべきか。所謂“二次創作”の類ではないことは保証する」
「そうかい。それじゃ、俺が紡ぐべき物語は、一体どんな代物だ?」

 この質問を聞いて、神は笑みを浮かべた。

「それを聞くとネタバレになってしまうのだが、本当に知りたいのかね?」
「俺はネタバレを恐れない性質でね。それに、質問の意図は通じているはずだ。――答えろ」
「“君の望み通りに”」

 神は笑みを深めて言った。

「そして“私の思う通りに”。まったく、理想的な主役を得たものだ!」
「……ふん」

 眉間に皺を寄せる孝治に益々の笑みを浮かべ、神は上機嫌で言った。

「なに、褒めているのだよ、君のその物分りのよさと健気さを。大抵の者は無意味に怯えるか、さもなくば無邪気に喜ぶか、あるいは半信半疑で真面目に取り合わないかの三通りだ。
 ……君のように“私”を理解して動じず、自ら最善策を練り、私に対して通してみせる者は久しく居なかった……」

 感動するかのように瞠目する神を、孝治は醒めた目で眺める。

 ――所詮これは、相容れぬものである。

 既にそんなことは理解している。この期に及んで茶番につき合わされるのは御免だと、態度で雄弁に語っていた。
 それに気付き、神は苦笑して首を振る。

「いかんな。物語の始まりに、主役が仏頂面では格好がつかん。私も無駄口を叩くのはそろそろ止めにしておこう」
「分かっているなら言わなくていい。それで、俺はこれからドアを開けて出て行けばいいのか?」

 神から視線を切って、孝治は異形の扉の方に向かう。
 近づいてみて孝治は、虹色に輝く一つ一つの球体が、その内部に異界の景色を映しこんでいることに気付いた。異界――あるいは宇宙とでも形容するべきだろうか? 無限小の球体が膨張して映しこむ世界は、まるでミクロの世界がマクロの世界に近似するが如く、そのスケールを無段階に変動させ、さらに見るものに不安を与える生成と消滅を繰り返す球体群は、その内側に閉鎖されたおぞましく禍々しい世界を含有しつつもその境界面でお互いに干渉し合いながら変性を繰り返し、さらに衝突と離合集散を繰り返す球体群全体の運動はまるで神の作り上げた物理法則を冒涜するかの如く違和感のみを見る者に感じさせ、かといって忌まわしき作為を感じさせるかと言えば決してそんなことはない混沌とした無秩序で名状しがたい運動でありその運動を司る破滅的な意思とは一体何なのか?
 それは―――

「っ!」

 理解しかけ、孝治は慌てて頭を振った。アレは単なる演出と言っていたが……本当にそうなのか?

「ふむ。あまりまじまじと見つめるものではない」

 呆れたように背後からかけられた声に、孝治は肩越しに振り返る。

「演出じゃなかったのか?」
「演出だとも。あくまで演出だとも。しかしながら今の君には、少々刺激が強かったか」

 やれやれ、と肩をすくめる動作に苛立つものを感じつつ、孝治はドアノブに手をかけた。
 もうこんな混沌とした空間からは出て行こう――そう思いノブを回した孝治に、神はもう一度声をかける。

「待ちたまえ。もう一つ渡すものがある」

 言って投げ渡された物体を、孝治は右手をノブから手を離すことなく、左手で受け取った。
 これは何かと問うより先に、神から正体を明かされる。

「それは銀の鍵だ。もし君がこれから先、世界から逃げ出したいと思ったなら、それを使いたまえ。脱出できるはずだ」

 ニヤリと笑う神に対し、孝治は鼻で笑って言い返した。

「脱出か。帰還であれば使う機会もあったんだがな?」
「やはり君には通じないか」

 上機嫌で笑う。

「まあ、どの道それは君に付いていく。例え無くしたとしても、願えばすぐに手元に戻る。覚えておきたまえ」
「使う機会はないだろうが、まあ一応覚えておくさ」

 言って、孝治はドアを開けた。
 漆黒のような、虹色のような、あるいは真っ白なような……そんな景色に目が眩む。おそらくこの風景は、無数の異界の景色が混ざり合っているのだろう。人間の視覚が重なり合う複数の映像を処理できないせいで、色覚が混乱しているのか。
 もはや振り返らず、一歩を踏み出そうとした孝治の背中に、神の声がかけられる。

「最後まで、君は私の正体について、確認しようとはしなかったな?」

 笑いを含んだ声だった。勿論、奴は全て分かっていて言っているのだろう。
 もはや後は真っ逆さまに落ちるだけ。そう腹を括った孝治は、最後の意地とばかりにこう返してみせた。

「好き好んでSANチェックする探索者が居るものか!」

 言って、一歩を踏み出す。踏みしめる地面が無いことに背筋を凍らせつつも、そういうものだと根性で思い直し、もう一歩を踏み出した。
 落下する。
 落下としか形容できない感覚。実際はそんなに生易しい現象ではないのだろうが……認識が追いつかないことはむしろ慈悲であったのかもしれない。
 そんなことを思う孝治の頭上、あるいは足元、あるいは背後から、真に最後、神の声が聞こえる。
 嘲笑を含みつつ、まるで吠えるように放たれた言葉、その内容は―――



「残念だ。実に残念だよ築地孝治! ――100面ダイスを用意していたというのに!」



 ――そのジョークはちょっとおもしろい、というのが。
 孝治の、偽らざる感想であった。




































 くつくつと、暗黒の中で嘲笑う声がする。
 其は、闇に吠えるもの。其は、嘲笑する神。
 其は―――


「健気だな。健気だとも。実に健気な人の子だった」


 暗黒の中に、響く声がする。
 その声を聞く者は居ない。その声を聞く者は居ない?
 ―――否。


「そう。人の子だ。彼は何処までも人間だった。何所までも人間であろうとした。健気だ。実に健気な願いだ」


 語り聞かせるべき者は居る。故にこそ語る。
 其の神性は、強壮なる使者が故に。


「私は彼の願いを聞き入れた。彼の願いを受け入れた。仮にも神たるものとして、斯くも健気なヒトの願いに、応えぬ道理があるだろうか?」


 語れや語れ、混沌よ。下劣な太鼓と、か細く単調なフルートの音に合わせて。
 無知無能にして無力なる生命の、悲劇と喜劇、その始まりと終わりを見届けて!


「彼は私を知っていた。そしてさらには理解していた。力を得れば力によって、人望を得れば人望によって、不死であれば不死故に……破滅させられることを理解していた!」


 邪神は語る。語り続ける。刹那に満たぬ物語の突端を。
 無限小に等しき時間、無限小に等しき空間によって行われた、全く取るに足らぬ物語を。


「だからこそ彼は言葉を望んだのだ! 何故なら言葉とは、人と人とを繋ぐもの……故にこそ彼の願いとは、」


 だがしかし、誰が知ろう。取るに足らぬ物語なればこそ、語るに足る物語であることを。
 其は破滅の使者にして混沌の化身。盲目白痴なる神の、夢に出てきて語るもの。


「“人によって滅ぼされること”!! 最期まで人間として死なんとする、壮絶なる覚悟から生まれた願い!!」


 踊れ人の子、狂おしく。
 魔王の無聊を慰めるため。
 なによりもただ享楽のために。


「よろしい、ならばそうしよう。私は彼の希望通りに、人の全ての悪意を以って、彼の行く道を敷き詰めよう!」


 さあ、語ろう。
 矮小なる人の子の、歩み戦う物語を。












































「……おのれ邪神」

 築地孝治は自らの体を抱きしめ、神への怨嗟の声を上げた。
 その声が震えていたのは、怒りゆえではなく、恐怖ゆえでもなかった。ましてや神を呪う事への罪悪感などという、乙女じみた理由ではありえなかった。
 彼を震えさせていたもの、その正体は―――

「よもや……よもや、こんな極地に放り出されるとは思わなかったぞ――!!!」

 夜空に浮かぶ月に吠える。
 そう、彼を震わせていたものは……純粋な寒さであった。
 降り積もったパウダー・スノーに腰まで埋まり、さらに快晴の夜空からくる放射冷却現象。温度計こそ無いものの、吐く息が凍るほどの寒さ――氷点下30℃はあるだろう。
 異世界にやってきて一時間。孝治は今、死神の足音をすぐ傍に感じていた――















後書き(初出2012/5/17)

 ニャル子さんを見ていたら思い付いたので衝動的に書き上げました。長く文章を書いていなかったのでリハビリも兼ねて。
 でも絶対、私の前にこのネタで書いた人居ると思うんだ……。
 一発ネタです。続きません。


(2013/3/23)
 思いっきり続いてますが、一発ネタ時代の記念として初代の後書きは残しておきます。
 オリジナルなのに「異世界トリップ」っておかしくないかと思われるかもしれませんが、プロローグを書いた当時、作者は「神様転生」と「異世界トリップ」の区別が付いていなかったのでそれが原因です。


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