朝起きると、目の前に変なじいさんが立っていた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
驚いて大声を上げると目の前のじいさんも同時に大声を上げた。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
これはマジで怖い。いやほんとに。君、ちょっと想像してみて。君はいい夢見てるじゃん。光が瞼越しに目に入り込む。「あ、もう朝かぁ~」と、そう思って眠い眼をこすりながら目を開くと目の前にじじい!! 驚かない方がおかしいよね。人生で一番驚いたと思う。大声も人生で一番の大きさかもしれない。
「はーっ。はーっ。はーっ。」
落ち着け俺。超落ち着け。目の前にじいさんが立ってるだけだ。なんで人の家に勝手に入ってきて立っているのかはひとまず置いておいて今はただ単に目の前の出来事に集中するんだ。部屋にじじいがいるだけ。部屋にじじいがいるだけだよ。なーんだ。部屋にじじいがいるだけかよまったく人騒がせな……。
「部屋にじじいがいるわけねぇだろ!!」
再び大声を出すとビクゥッとなるじじい。まじなんなんだこいつ。俺としたことが盛大にノリツッコミしてしまった。
「落ち着いたかのう?」
「落ち着けるか! お前誰だ!」
「こほん。わしはお前たちのいうところの神というやつじゃ。」
白髪頭のじじいはそんなことを言って俺を見つめてきた。とんとん拍子に進む物語なら「へー あんたも神って言うんだ。」とか言いながら能力を授かるものだが俺はそんなテンプレ通りには行かない。神がどうした! 1億円より偉いんか! エロゲよりすごいのかよ! 何もくれない神よりアンパンの方がよっぽど価値があるわ!
自称神の話を聞くと、このじいさんはどうもZIPファイルの信仰から産まれた存在らしく、ZIPファイルを上げてくれた人に対して『神!』などと発言している人が多かったため、いつの間にかZIP=神のような扱いをされ、ついに化身となり神格化して『ZIP神』となったらしいのだ。神の世界の中ではまだ産まれたてであり弱い。じいさんはより強力な個体になるために、人間に力を貸して信仰を集めたかったそうだ。ただしZIPを神として信仰している人間なんてわずかしかいないし、ましてや女なんて全然からっきしもいいところでいないので、ZIP神は考えた。
『巫女がいなければ作ればいい』という悪魔的発想を考え出したのだ。ZIP神はたまたま寿命が近かった俺を引っ張ってきて、巫女となるのに十分な素地を与えた。そして今日この日、その巫女となる資格を俺が得たそうなので凛凛として早速誘いに来たのだという。という説明を1時間ほどかけてされた。
最初は嘘くさく感じたが、俺がエロゲやってる最中に死んだことは俺しか知らないのにこのじいさんも知っていたことから一応納得をした。しかし……
「別に巫女になってもいいけどなんか俺にメリットあるのか?」
「神が信仰を集めれば強くなるのと同様に、巫女もまた信仰を集めれば強く、美しく、賢くなれるのじゃ。」
「え、けどさ、俺これ以上人気者になっても困るんだよ。俺はただ安穏と生きていきたいだけなんだから別に強くならなくてもいいし。」
「愚か者!!」
神に一喝されて俺はにわかにたじろいだ。産まれたばかりの神でありながらその喝はなかなか俺に効いた。
「お主、自分の人気がどのくらいか把握しておらんな? お主の人気は2000万人でしかない。精々、日本の22%からしか信仰を得られていない。」
「え、そんなに俺人気あったんだ。なんか怖くなってきたわ……」
「2000万人の信仰心などたかが知れている。地球を6回くらいしか壊すことができない。それぐらいのパワーしか秘めていない。」
「十分だと思います。」
「喝!!」
「……」
「お主にはわからないじゃろうが、わしには使命があるのじゃ。2億人分の信仰心があれば、近日発売予定の『はみがきくるる☆わたしのかみさま』が買えるんじゃ……」
「それってエロゲなんじゃないのか?」
「喝!!」
「!?」
「『はみがきくるる☆わたしのかみさま』をエロゲ扱いするとはお主、巫女の風上にも置けんな。このゲームはな、ハミガキ島にいる何柱もの精霊たちを操作して、人工神を作るという高尚なゲームなのじゃ。わしは前作『はみがきくるる☆ぼくのおほしさま』をプレイ時間1000日まで極めた。確かにえっちなシーンはあるものの断じてエロゲなどと呼ぶでない……エロゲのような低俗なゲー……
「ふざけるな!!」
「!?」
「エロゲが低俗だと。お前、神のくせに何もわかっていないんだな。神が全能だというのはやはり嘘だったのか。いいだろう語ってやろう。心満たされるまで。」
「エロゲとは、エロがあればあとはどういうストーリー、どういうゲームでもいいという完全に自由度が高いゲームなんだ。いいか! まずはそうだな。『巣●りドラゴン』というやつについて語ってやるとするか。このゲームはだな、竜がどうたらこうたらで……最近では中古で16000円で売ってるほどだ! 買ったけどなバカ野郎!! 次は同じ会社から出た『王●』というゲーム。そして個人的にお勧めなのが『さかあがりサイクロン』というやつ。『リプマ☆テスラ』もいいかもしれないな。最近やった中では『痴漢は●罪!』というのが神ゲーだと思う。外面だけはいいイケメン主人公が、女装して、満員電車で女の子を痴漢するというゲームだ。3Dだから少し人を選ぶかもしれんがな。『ソッチむいて愛』というのも同じく女装ゲーだ。女装ゲーでの代表作は『処女は~』で、他にも『花と乙女に祝日を』というのも個人的に俺得なやつだった。『でふこん☆つー』というバカゲーもなかなか面白かった。これは笑うためのゲームだな。『それは舞い散る作画のように』というのは俺の中で最高傑作と言っても過言ではないだろう。作画は人を選ぶが、『うそ×モテ』というゲームも面白い。俺が死ぬ前までやっていたゲームの話はしないでおこう。だが、エロゲと一言で言っても奥が深い。ただエロがあるから! ただえっちなシーンがあるからと言って! エロゲーを低俗だと断じるな! 物事の全てを見ないで低俗……そう切り捨てる根性が気に入らない。そういう考え方の方がよっぽど低俗だと知れ!!」
ブレスを極限まで入れずにしゃべったおかげで息が上がってしまったようだ。これほどまで熱心に喋ったのはいつぶりだろうか。俺はエロゲに関してはライトユーザーだったはずだ。むしろ俺が廃人と化すのはそうではないのだ、そうではない。俺はぷ●ぷよやポ●モンにハマっていたはずだ。どうしてこうまで、こうまで熱心になってしまったのだろう。
「そうだったか……すまなかったな。エロゲを低俗だと言ってしまったのは謝る……わしが悪かった。じゃがの……わしはどうしても『はみがきくるる☆わたしのかみさま』が欲しいのじゃ。2億人の信仰心。それを集めるのはとても大変じゃろうと思う。じゃがやってほしいのじゃ。わしはこれさえ手に入れればたぶんあと50年、いや100年は引きこもる。その間お主に神の力を渡してもいい。じゃから頼む! わしのために……信仰心を集める手助けをしてくれんかね?」
媚びた目でこちらを見てくるじいさん。俺はにこやかな笑みを以て
「絶対に嫌だ。」
と答えた。
「え、えー 今ものすごくやってやろうじゃないかってテンションになる雰囲気じゃったよね。」
「なんで俺がじいさんなんかのために頑張らなきゃならないんだ。俺は顔フェチなんだ。例えばだ。美少女に、『お願い……』と言われていたら俺は断れなかっただろう。でもじいさんに必死に頼み込まれても嫌なもんは嫌だ! 絶対に嫌なんだもんね!」
「く、くそ……お主なんかを巫女にしたのが間違いじゃったわい。もう二度と頼まないもんね。あっかんべー!」
自称神様は舌を出してあっかんべーしたあと俺の元から去って行った。テンプレ的にはここで依頼を引き受けて何かするんだったのだろうが、俺が取った選択肢はまさかの変化なし。行数を稼いだ文章でしかなかったとも言える。
変なじいさんが目の前から去って行ったことで肩の荷が下りた気がする。最近色んなことが矢継ぎ早に起こっているから疲れているのかもしれない。
暇だからクラスメートCに電話でもしてみるか。
『あ、もしもしクラスメートC?』
『……どしたのまゆぴー』
『あのねー 今暇ー?』
『暇だけどー』
『ぷっ。暇なんだー』
『……切るよ?』
『じゃあ今から遊ぼう』
『いいけど私のこと名前で呼んでよね。』
『どこで待ち合わせしよっか』
『華麗にスルーしないでくれる!? 駅前でよくない? あ、てか彼女さんに怒られないの?』
『今日は……クラスメートCと一緒にいたい気分なんだ……』
『何そのデレ! 名前じゃないからデレられた気がしないんだけど!』
『あ、今日クラスメートCの家行くつもりだから掃除しといてよね! ぷんぷん!』
『ぷんぷんって何……? まぁいいけどさ。妹に手出さないでよね。』
『妹いたの!?』
『前に話したじゃん! 1年の時にさ!』
『え? 1年のときってクラスメートCと知り合いだったっけ?』
『私っていじめられてるのかな』
『うそうそ。冗談だよ冗談。顔が』
『切るねー』
『んじゃ駅前で待ってるから』
クラスメートCはツッコミが激しいので意外にも色んな人物から人気がある。でも顔があんまり整ってないので、男からの人気は皆無と言っていいほどにない。
たまに不憫になることもあるけど、もしクラスメートCが本気で恋をしたのならば俺はそれを本気でアシストしようとも思っている。いつもはいじってばっかりだけど、俺だって優しいところぐらいある。相手が不細工だからって態度が変わるとか、そういう人間は信用できない。俺はどんな相手でもいつも通りを心掛けて過ごしていきたい。そう思っている。思っているだけだが。
駅前でしばらく待っていると「まゆたんですよねっ! 握手してください!」という声をよく聞く。男相手はやんわりと拒否して、おにゃのこの手だけ握る。俺がレズだということは周知の事実であるにも関わらず俺に関わろうとするおにゃのこが意外にも多いのが不思議だ。しばらく握手を繰り返しているとようやくクラスメートCがやってきた。
「遅いよちなつ~」
「ごめんねー ちょっと着替えるのに手ま…… え、ちなつ?」
「どうしたの?」
「え、クラスメートCって呼ばないの?」
「もしかして呼んでほしかったの?」
「そんなわけないじゃん! 急に呼んでくるから驚いただけだよ!」
「そうなんだ。」
「へへ~ 今日はいいことありそうだなぁー」
毎回思うのだが、ちなつの顔がもし平均点以上だったら俺はちなつに惚れていたかもしれない。なんていうか癒されるのだ。はっ!? 殺気!? ……気のせいか。
ちなつの家にたどり着く。
「ただいまー あー入って入ってー」
「おじゃまします。」
「わお。まゆぴーって礼儀正しんだね。」
「え? 何が?」
「靴揃えて上がってるじゃん。」
「ん? そういうものでしょ。」
「うそん。」
「そんなことより妹さんはいないの?」
「げ! まゆぴーってやっぱり私の妹目当てだったの? ひどい!」
別に目当てではないけど、いるというのなら見てみたい気もする。……そう思うのが自然だろう。
諸君らの一部も知っていると思うが、『妹』属性というのはそれだけでなんかものすごくかわいらしく見える。では、『妹+女子中学生+ちびっこ』ときたらあなたはどういうキャラを思い浮かべるだろうか。きっと可愛らしい少女なはずだ。「おねーちゃーん」って言ってきそうな撫でたくなるようなタイプ。そういう想像ができるはずだ。
だが現実は甘くない。君たちは『妹』という漢字に騙されてはいけない。『姉』はそんなに騙されないのに『妹』だけはかなりの確率で騙される。そんな経験は俺にだけしかないのだろうか。『妹』というのは単に「同じ血縁の中での年齢の上下関係において、下である方」を示しているだけなのだ。こう書くと全く萌えの要素がなくなる。『妹』が構成する萌え要素というのは『おにいちゃん』というセリフと『女+未』の漢字でしかない。それ以外には何もない。姉なんて悲惨だ。だから俺は姉属性もちの男の気持ちがまるで理解できない。平仮名の『あね』は可愛い。
そしてちびっこであれば可愛いのか。これも間違った法則である。確かに大きすぎれば「う、うぅん」となるが、ちびっこだからと言って可愛いということはない。可愛いってのは単なる顔の造形の差だ。だからちびっこであることは可愛さとは関係ない。可愛い子がちびかったら可愛いけど不細工な子がちびかっても微妙でしょ。そんな感じ。
最後に、年齢。年齢は重要だが必要ではない。年齢で美醜を分けるという点もあるが、「JKだから・JCだから可愛いかも」という観念は全く捨てるべきだ。自分が中高生の頃、美人はクラスに何人いただろうか。一人か二人だ。つまり美人に当たるのは8分の1から20分の1くらいの確率なのだ。だからハズレに遭う確率は8分の7だし、ひどければ20分の19になる。つまり君たちはそんなものに期待をかけているのだ。
つまり『妹+JC+ちびっこ』によって、可愛さの期待値が上がったように見えるが、実際当たるのは8分の1だ。
我々は騙されてはいけない。そういうトリックに騙されてはいけないのだ……
「おぉまいがー」
「どうしたんまゆぴー」
「別に何も。ちなつの顔見たら吐きたくなっただけ」
「ちょ! やめてよ! あとこんなところで吐かないでね!」
「ちなつ……私吐きそうだから口開けてもらえる?」
「あ~ん……って何しようとしてんの!? そんな口移し絶対嫌だよ!」
「まぁ私もちなつとキスなんてしたくないもん。例えそれが人工呼吸でも」
「はぁ……相変わらずひどいなぁ」
「ちなつってどんな男の人が好きなの?」
「唐突な……んー 包容力のある人かな。」
「餃子の皮みたいな……?」
「人間の話してるでしょ!?」
「餃子人間!?」
「餃子いらないから! 包容力のある人間が好きなの」
「簀巻きにしてやろうかあぁん?って感じ?」
「確かに包んでるけど違う! 優しさであふれてる人ってことかな」
「え……私とかちょっと困る……」
「まゆぴーのどこに優しさがあるのか私はめっちゃ疑問!」
「私ね。人に厳しくするのって厳しくした瞬間は優しくないと思うけど、目的があって厳しくすればそれは例え厳しくても優しいものだと思うんだよね……だから私はちなつに厳しく当たっちゃうのかもしれない。目的は特にないけど」
「目的持ってよ! ただ優しくないだけじゃんひどい!」
「じゃあちなつをいじめるのが目的ってことで」
「もっとしっかりした目的にしてほしいかな」
「ちなつに毎日1回嫌がらせをすることが目的」
「具体的にしてって意味じゃないんだけど!」
「え? 2回の方が良かった?」
「増えたらもっと嫌じゃ!」
「ちょっとちなつさっきから大きい声だしてうるさいよ。」
「誰のせいだ……」
「ち! ちなつ! 何裸になってるの!? 私を襲う気!?」
「大声で何言ってるの! まじでやめてそれ! 近所に私が変な風に思われるからやめて!」
その後もちなつとのボケとツッコミの掛け合いが続いていつのまにか夜になろうとしていた。
「つかれたー」
「疲れたのは私の方なんだけど。なんで一日中ツッコミ続けないといけないの。憎い! このツッコミ体質が憎い! ボケられない自分が憎い!」
「ちなつが激しすぎて私もうふらふらだよ。」
「まゆぴーそういうこと言ってて恥ずかしくない?」
「ちょっと恥ずかしい。」
「ご飯たべてく?」
「んーん。うちに帰って食べるよ。今日は楽しかった。」
「そ、そうなんだ。」
「んじゃまたね。」
「あー 玄関まで送るよー」
玄関から出てしばらく歩いて後ろを振り向くとちなつがまだこっちを見ていた。俺が振り向いたことに気付いたのか手をぶんぶん振っていた。ちなつえぇ子や……ただ顔が全く持って俺の好みではない。非常に残念だ。残念な顔だ。
家に着いてオートロックを解除しようとしたとき、後ろから声がかかった。
「まゆー 今日はどこ行ってたの?」
振り向けばこだまが立っていた。やべぇそういえば今日デートの約束してたんだったっけ。
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ね、ネタ切れ……
(´・ω・`)
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