感想で意見を頂いたので、テスト板からきました。
・注意
このSSはTS、憑依(転生?)、設定改変(改悪)、厨二病を含みます。
作者は歴史的な知識が乏しく、間違った知識を含んでいる可能性があります。
原作準拠の劉備は出てきません。
三国志、という物語がある。元は晋という国の史官である陳寿なる人物が晋王朝の前身である魏、呉、蜀の三国からなった時代の歴史をまとめた歴史書であり、そこから正史、演義という様にどんどんと分離していくうちに分かりやすい物語形式になったものが現在良く知られている三国志だ。
この物語はとても有名であり、読んでいない者でさえその内容を知っていることがあるくらいで、物語中に登場する人物もまた、有名である。なかでも、魏の曹操、呉の孫策、蜀の劉備なんかはかなりの人が知っているだろう。
文武両道で苛烈な君主、曹操。勇猛果敢ながらも若くして死した孫策。そして、大徳の仁君、劉備。いずれもが乱世の中で綺羅星の如く輝いた英雄である。結果としては魏から起こった晋が勝利することで三国の時代は終わるのだが、それは長い時を経た結果であり、他の二国を短期間で滅ぼすような突出した勝利ではない。ということは、他の二国が勝つ可能性もあったのではないだろうか。
もしも歴史が少しだけ変わったらどうだろう。もし、諸葛亮が病没しなければ。もし、孫堅が黄祖に敗れなければ。などの可能性を、三国志の愛読者は想像することがあるだろう。もしかすると、自分ならば諸葛亮よりうまいことやって見せる!などという豪気な輩などもいるかもしれない。しかし。
実際に三国志の世界に行けたとして、現代人は歴史を変えられるのだろうか。変えられたとしても、それは改悪にならないだろうか。・・・・・・まあ、
「もとより歴史に関わるつもりなんて、ないんだけどっ、な!」
振り下ろした木製の鍬が、柔らかい地面に突き刺さる。鍬の柄にもたれて息を整え、周囲を見渡すと、耕し終えた畑が広がっている。我が家の畑は大して広くもないので、あっさりと耕し終えることができた。
痛む腰を抑えつつ空を仰げば、太陽はまだ中天にさしかかったばかりのように見える。まだ時間はたっぷりあるようだ。家の横にある納屋に鍬を戻し、家の中に声を掛ける。
「母さん、蓆できたー?」
やや薄暗い室内に声を掛けると、少々やつれ気味の女が床の上にある蓆を指差して
「今日の分はできているよ。・・・すまないね、あんたばかり働かせて。」
と、溜め息混じりに返事をした。それに対して彼女はかんらと笑い、
「しかたないよ、ウチは父さんいないし、母さんも病気なんだしね。その分、俺が頑張って働くさ!!」
桃色の髪を揺らしながら、蓆を背負子に括りつけていく。そのあっけらかんとした様子に呆れつつ、女は少し顔を顰めて、彼女に注意を促す。
「まったく、あんたって子は大きくなっても“俺”なんて言葉使うんだから。年頃の娘なんだから、もうちょっとおしとやかにしなさい。それに、礼節を弁えて誠実にね!なんせあんたは、
「中山靖王劉勝の末裔、劉備玄徳なんだから!でしょ?は・は・う・え?」
おちゃらけた口調で注意を遮った劉備に対し、母は毒気を抜かれたようだ。苦笑いを浮かべながら、美しい外見に反して粗野な中身を備えている娘の頭を小突く。
夫である劉弘が病没してから、貧しい暮らしに耐えられたのはこの娘のおかげであると、彼女は思っている。いつも明るく、働き者で、貧乏暮らしに不満を言わない。これでもう少し女らしければいいのだけれど、と考えている内に当の娘は出かけてしまった。いってきまーす!と、大きな声で村じゅうに挨拶をしている娘を見送りつつ、彼女は内職に精を出すのであった。
初めは、夢だと思っていた。
朝、目を覚ますと自分はアナクロな生活を営む村の一員であり、幼児であり、女であった。こんな奇怪な状況、夢でなければなんなのだと一人で勝手に憤り、いつまで経っても覚めない夢に困惑し、そして終には諦めて受け入れた。それが4歳の頃。
自分は偉い人の末裔なんだぜと自慢する父をハイハイと流しつつ、現状把握に努めていると流行り病で父がぽっくり逝った。これは6歳の頃。
蓆や簾、草鞋などを作って売りながら、誰も買ってくれないという現実に泣いたのが7歳の頃。その後吹っ切れて愛想振り撒きまくって必死で商売し始めたのが9歳の頃だったか。その後は特に起伏の無い、貧相な農民生活を続けている。現在の年齢は15歳、貧相な生活の割に色々と膨らみはじめて戦々恐々としている毎日である。と、今までの人生を振り返っているといつの間にか村に着いていた。
人通りが多く、家のある楼桑村からほど近いところにあるこの村が、最近気に入っている売り場である。人が多いであろうところを見定めて、下品にならない程度に媚びを売りつつ自分の商品を宣伝するのがコツだ。自分用の蓆を地面に敷き、そこに商品である蓆や草鞋、簾を並べる。この状態から声が枯れるまで宣伝を続け、粘り強く愛想を振りまき続けることでようやく商品が売れるのだ。今、前世に戻れたら営業のサラリーマンになれると思う。・・・別に、なりたくないけれど。
太陽が大きく傾ぎ、空が赤橙色に染まっている。結局、蓆は大して売れなかった。
まあ、多少でも稼ぎがあれば万々歳である。なにせ、稼ぎがまったくなかった時期は夜の山で怯えながら山菜を摘んでこなければ夕食がない、なんてこともあったんだから。
得体の知れない獣の声などを思いだして身震いをしつつ、行商の売れ残りの野菜などを買って帰り路を急ぐ。現代と比べればなかなかにキツく、ストレスの溜まる毎日だが、不思議と今の生活は嫌いではない。果たしてこれは慣れたのか、諦めたのか。とにかく、平坦な毎日だが今世の生活は気に入っていた。
ぼんやりと今日の夕飯は何にしようかと考えながら歩いていると、前方に必死の形相で駆けてくる男を見つけた。その男が気にかかったのは別段、男の顔が酷く歪んでいたからではなく、知った顔であったからだ。同じ村の人間である男を呼び止めると、男は悲痛な面持ちで大きく叫んだ。
「げ、玄徳ちゃん!!大変だ、村が賊に襲われてるッ!!」
一瞬、男の言葉が理解できなかった。最近はこの辺りも荒れはじめたとは、風の噂で聞いていた。しかし、平和で退屈な日常に、いきなり火の粉が降りかかるなど誰が考えるだろうか。平和呆けした日本人なら、特に。
結局、今世に馴染んだと思っていたのは本人だけだったのだ。時は乱世の真っ只中であることを知りながら、努力を惜しんだ愚か者は。
「村に火を、火を付けられて、とにかく大変なんだ!!」
家を、家族を、居場所を失った。
それから一日。白み始めた空を背にして劉備が眺めた村は、一面が色を失って黒色に塗りつぶされていた。
かくして乱世は始まり、いずれ英雄となる者たちは勇躍の時を待ち侘びる。はたして、英雄の皮を被った愚者に、運命は如何な選択を与えるのか。
それは、神のみぞ知ることである。