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No.32883の一覧
[0] 【習作】旅人の夏(オリジナル/ゾンビもの/R-15/完結)[TKZ](2012/07/24 19:37)
[1] 【プロローグ】[TKZ](2012/04/25 21:00)
[2] 【01  07/15(水)00:10 芦別市山中】[TKZ](2012/04/22 17:11)
[3] 【02  07/15(水)08:00 芦別市山中】[TKZ](2012/04/23 20:43)
[4] 【03  07/15(水)08:20 富良野市郊外】[TKZ](2012/04/23 20:45)
[5] 【04  07/15(水)08:45 富良野市郊外】[TKZ](2012/04/24 20:59)
[6] 【05  07/15(水)09:00 新空知橋前】[TKZ](2012/04/24 21:00)
[7] 【06  07/15(水)09:20 富良野市市街】[TKZ](2012/04/25 20:57)
[8] 【07  07/15(水)09:50 葬儀場】[TKZ](2012/04/25 20:58)
[9] 【08  07/15(水)10:30 警察署前】[TKZ](2012/04/27 20:22)
[10] 【09  07/15(水)11:05 警察署前】[TKZ](2012/04/26 20:30)
[11] 【10  07/15(水)12:30 警察署前】[TKZ](2012/04/27 20:21)
[12] 【11  07/15(水)14:00 ホームセンター】[TKZ](2012/04/27 20:24)
[13] 【12  07/15(水)21:00 スポーツセンター】[TKZ](2012/04/28 19:00)
[14] 【13  07/16(木)07:10 警察署駐車場】[TKZ](2012/04/28 19:03)
[15] 【14  07/16(木)08:15 警察署駐車場】[TKZ](2012/04/29 12:37)
[16] 【15  07/16(木)12:00 スポーツセンター】[TKZ](2012/04/29 12:46)
[17] 【16  07/20(月)05:30 警察署駐車場】[TKZ](2012/04/30 17:22)
[18] 【17  07/20(月)06:00 富良野市郊外】[TKZ](2012/04/30 17:23)
[19] 【18  07/20(月)06:25 中富良野南中小学校】[TKZ](2012/05/02 20:46)
[20] 【19  07/20(月)08:10 陸上自衛隊上富良野駐屯地正門前】[TKZ](2012/05/02 20:49)
[21] 【20  07/20(月)09:00 陸上自衛隊上富良野駐屯地傍】[TKZ](2012/05/03 21:55)
[22] 【挿話1】[TKZ](2012/05/05 20:16)
[23] 【21  07/20(月)13:10 陸上自衛隊上富良野駐屯地傍】[TKZ](2012/05/05 20:19)
[24] 【22  07/20(月)20:05 陸上自衛隊上富良野駐屯地傍】[TKZ](2012/05/06 22:51)
[25] 【23  07/20(月)20:05 国道237号線。陸上自衛隊上富良野駐屯地正門より南に1km】[TKZ](2012/05/06 22:52)
[26] 【24  07/20(月)21:50 国道237号線。陸上自衛隊上富良野駐屯地正門より南に1km】[TKZ](2012/05/08 20:39)
[27] 【25  07/20(月)22:15 中富良野南中小学校】[TKZ](2012/05/08 20:40)
[28] 【挿話2】[TKZ](2012/05/08 20:43)
[29] 【26  07/21(火)05:20 富良野市西学田二区】[TKZ](2012/05/08 20:43)
[30] 【27  07/21(火)06:00 富良野市西学田二区】[TKZ](2012/05/17 20:37)
[31] 【28  07/21(火)06:30 中富良野町 道道861号線】[TKZ](2012/05/17 20:39)
[32] 【29  07/21(火)06:30 中富良野町 農家】[TKZ](2012/05/17 20:39)
[33] 【30  07/21(火)09:00 上富良野町 農道】[TKZ](2012/05/17 20:40)
[34] 【31  07/21(火)09:45 上富良野町 国道237号線付近】[TKZ](2012/05/18 21:17)
[35] 【32  07/21(火)15:20 新得町コンビニ】[TKZ](2012/05/23 20:32)
[36] 【33  07/21(火)15:35 新得町コンビニ】[TKZ](2012/05/23 20:33)
[37] 【34  07/21(火)15:40 新得町コンビニ】[TKZ](2012/05/23 20:35)
[38] 【35  07/21(火)16:20 鹿追町】[TKZ](2012/05/25 20:04)
[39] 【36  07/21(火)20:00 鹿追町然別峡野営場】[TKZ](2012/05/25 20:08)
[40] 【37  07/21(火)20:05 鹿追町然別峡野営場】[TKZ](2012/05/26 19:07)
[41] 【38  07/22(火)09:30 上士幌町ぬかびら温泉郷】[TKZ](2012/05/30 20:39)
[42] 【39  07/22(火)13:40 ぬかびら温泉郷】[TKZ](2012/06/01 20:51)
[43] 【挿話3】[TKZ](2012/06/01 20:51)
[44] 【40  07/22(火)22:25 国道273号線 糠平湖西岸】[TKZ](2012/06/08 20:28)
[45] 【最終話  07/23(水)08:00 糠平小学校】[TKZ](2012/07/24 19:19)
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[32883] 【39  07/22(火)13:40 ぬかびら温泉郷】
Name: TKZ◆504ce643 ID:ffc8fb00 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/01 20:51
「文月さん。俺、俺……ポークカレーあきらめるよ」
 佐々木校長の車の後について小学校に戻る車内で、俺は血を吐くような思いでそう口にした。
 どう考えても、今更、小学校に着いて「さよなら、後は任せたよ」と言って立ち去れる雰囲気でもない。
 残りの生存者の救出も手伝う必要もあるし、他に情報を共有しあったり、今後について話し合いをする必要があるだろう。
 それを投げ打って「今晩はポークカレーを食べたいから、そろそろ出発しよう」なんて、全ての人々の為とまで言った文月さんを前にして言えない。言えるはずが無い。
 彼女に嫌われるならともかく軽蔑されるのだけはご免だ。
「えっ?今日中に山小屋に着く予定じゃなかったんですか?」
「ごめん。残った生存者を助け出すためにも、まだやることがあるんだ。それから向かったんでは日も暮れてしまうだろうし」
「そうですね……仕方ないですね」
 何だろう?文月さんまで落ち込んでしまった。

 小学校まで戻ると、救出された人たちだろう10名ほどが玄関前に力なく座り込んでいた。
 救助された生存者は23名の内13名が観光客として糠平を訪れた人たちで、その中の6名は十分な食料が無いままホテルなどの部屋に立て篭もったために栄養状態が良くなく、更にその中の2名は自分で立って歩けないほど衰弱していたそうだ。
 健康状態に全く問題が無かったのが10名で、その多くが女性だったのは、少なくない男性従業員が客の救出を試みて命を落としていたためだ。

「これから残りの生存者を救出する予定なのですが協力してもらえませんか?」
 佐々木校長の頼みに頷く。
「今日一日は付き合いますよ。ただし明日以降は俺と文月さんはここを離れる事になります」
 ずるずるとこのまま、ここのコミュニティーに引き込まれることを避けるために、はっきりと一言断りを入れておく。
「そうですか。出来るならここに残って、協力していただきたかったのですが」
「申し訳ありません俺達にも目的があるので」
 佐々木校長は強くは引き止めなかった、今回の救出作戦の成功により彼等だけで生き残っていくだけの自信が生まれたのだろう。
 話を打ち切るために、俺はこの後の救出作戦について話を切り出す。
「残りの生存者を救出するためには、何処かにゾンビをおびき寄せる必要がありますよね」
 安全に残りの生存者を救出するためには、先程より東側へ、つまり温泉街の外へとゾンビをおびき寄せなければならに。そのためには国道273号線を上士幌方面へとゾンビを誘引する必要がある。
 しかし、囮役が救助作業終了後に300体以上のゾンビがひしめく273号線を通って、こちらに戻ってくるのは難しいだろう。
「サイクリングロードがきちんと整備されていれば……」
 佐々木校長が小さく呟く。
「サイクリングロードですか?」
「ええ、糠平湖を自転車で一周するためのサイクリングロードがあったんですが、最近は通行禁止になってるんです」
「どこか道が崩落して使えなくなってるんですか?」
「そう言う訳ではないんですが、森の中を通る道なためどうしても大きな枝が落ちたり、倒木の危険性を行政から指摘されまして、きちんと管理維持するには距離も長く、予算的にも難しいので通行止めにしてしまったんですよ」
「舗装はされてないんですか?」
「一部は舗装されてますが、自転車での通行に問題がある場所は未舗装ですよ」
 そうすると俺の自転車では難しい。
「マウンテンバイクはありませんか?……ええと、太いボコボコの付いたタイヤを履いた自転車なんですけど」
「学校にはありませんが、サイクリングコースを使えた頃はホテルで貸し出しを行っていたはずなのでホテルになら多分。ちょっと聞いてくるので待ってください」
 そう言うと佐々木校長は校舎に入って行き、5分程経って一人の男性を連れてきた。

「どうもはじめまして。先ほど救助された柴田と申します。ご尽力いただきありがとうございました」
 佐々木校長と同世代くらいだろう。『折り目正しい』という言葉が良く似合うという点においては佐々木校長をも凌ぐ紳士だった。
「彼は自転車の貸し出しを行っていたホテルの支配人ですよ」
「今更、ホテルの支配人でもありませんがね」
 佐々木校長の言葉に、上品かつ嫌味の無く笑う柴田さん。
「自転車に関しては、多少埃を被っているはずですが使えると思います。役立てていただけるなら喜んでお貸しします」
 これで作戦の目処が立った。

 その後、救出作戦の具体的な方法について話し合い入った。
 まずはマウンテンバイクの回収。
 これは、先ほど温泉街の東へと引き付けたゾンビがこちらに戻る前に行う必要があったので、既に柴田さん他4名にホテルの倉庫へと向かってもらっている。
 次にゾンビを再び温泉街の東へと誘い込むのは、俺と山本君──ゾンビを倒すことに異を唱えた若者。去年高校を卒業したばかりの19歳で飲食店でバイトしているそうだ──彼が引き受けてくれた。
 彼が学校の軽トラを運転して、俺がマウンテンバイクと共に荷台に乗り込む。そこで学校の備品の拡声器を使い。ゾンビを引き寄せつつ生存者に対して、目立つ布を使って目印を作り、窓などの外から見えやすい位置に掲げるように指示を出す。
 そして前回と同程度のゾンビの数を引き寄せることが出来たら、町の外れでマウンテンバイクと共に荷台から降りて、拡声器でゾンビを引き寄せつつ国道273号線を東へとゆっくりと移動する。
 山本君の軽トラは、南への細道に入りエンジンを切り救出終了までゾンビの気を引かないように待機。
 通りにいるゾンビたちを温泉街から十分に引き離したのを確認したら、国道273号線にあるトンネル。そして国道273号線の北側を平行してはしる旧国道にある橋とトンネルの3箇所を大型車を利用して封鎖。
 それと同時に残った動ける人たちが総出で、目印を頼りに救出を行うという作戦に決まった。
 正直ザルな作戦だが、じっくりと完璧な作戦を立てている時間的余裕は無い。巧遅より拙速、今日助けられなかった人が明日も生きている保証など何処にもない。

 ホテルから回収してきたマウンテンバイクを軽トラの荷台に載せ、自分も乗り込もうとした時、背後から誰かがしがみついて来た──誰かといっても文月さんしかありえない。
「必ず無事に帰ってきてください」
 俺の背中に顔を埋めながら不安そうな震える声で呟く。
「心配ばかり掛けてごめんね」
「そうですよ……でも心配することしか出来ない自分が一番嫌なんです。あなたが危険を冒す時に私も傍にいたい。でも出来るのは足手まといにならないように待つことしか出来ない」
「待っててくれる人が居るなら。笑顔で帰りを迎えてくれる人が居るなら。その人のためにも無事に帰ろうと思えるのが人間だよ。だから俺は自分が幸せだと思ってる」
「北路さん」
「心配しないでなんて言わない。ただ帰って来たら笑顔で迎えて欲しい」
「……はい」
 自分でも随分と臭い台詞を言ったものだと自覚があるので、出発後にしつこく冷やかしてきた山本を荷台から運転席の窓越しに思いっきり殴りつけた。

「──繰り返します。生存者の方々は、通りから見える位置に出来るだけ目立つように、派手な色のタオルや服を窓などから外に吊るすなどしてください。それを目印に救助に向かいますので音を立てず静かにお待ちください。感染者は臭い・光・音に強く反応します。現在行われている安全な救助作業を進めるために町中よりゾンビを引き離す作業が終了次第救助が始まるので、臭いや光や音を出さずにお待ちください──繰り返します」
 移動を続ける軽トラの荷台の上で繰り返し同じことを話し続けるが、時折窓から手を振り大声で救助を求める馬鹿が現れるので「人の話を聞け馬鹿野郎!死にたくないなら黙ってろ!」とやさしく諭す。

「そろそろ時間ですけど良いですか?」
 運転席の山本が尋ねてくる。時計を確認すると15:30そろそろ予定の1時間になろうとしており、ゾンビも十分な数を引き付けている様だ。
「じゃあ、町の外れにゆっくりと移動しろ」
 彼に対して俺は、俺の前では「はい」と「イエス」しか言えないように立場というものを明確にしておいた。

 湖畔のキャンプ場へと向かう分岐の先80m地点に着くと山本はクラクションを長く3回鳴らす。これが救助開始の合図だった。
 クラクションと同時に俺はデイパックを背負い拡声器を肩から掛け、マウンテンバイクをもって荷台から降りる。
「行け!」
 俺の指示に山本は国道273号線から南に続く生活道路へと車を移動させ、ゾンビたちから見えない建物の影に車を停めてエンジンを切り、外から姿が見えないように座席に身を伏せた。
 それを確認してから、俺は拡声器の音量を最大にして「おーい!こっちだゾンビども!」などと叫びながら、ゾンビを引き離してしまわないようにゆっくりと自転車を押して歩く。
 300mほど歩くと糠平トンネルに入る。送電が途切れたトンネル内はまさに漆黒の闇。ほぼ一直線のトンネルなのでずっと先に入り口の光は見えるが想像以上の圧迫感を覚える。しかしそれ以上にゾンビを引き寄せるために休み無く叫び続ける拡声器越しの自分の声が反響するのが辛い。耳栓を用意すべきだった。
 ライトを取り出して前方の闇を照らす。背後に迫るゾンビとの距離を保つのも大切だが、万一進行方向にいるかもしれないゾンビへの警戒を怠るわけにはいかない。

 無事に糠平トンネルを抜けると背後のゾンビの様子が気になる。ちゃんと着いてきているのだろうか心配になり「おーい!ちゃんと着いて来い!」とついついゾンビ相手に話しかけてしまう。
 次の不ニ川トンネルと糠平トンネルとの間は100mほどの橋が架かっているだけでゾンビたちは道なりに長く連なって歩いているので、不ニ川トンネルの入り口からゾンビの群れを見ても、列の終わりは糠平トンネルの中にまで伸びていて見えなかった。
「このまま良いやでは済まないよな」
 いい加減な仕事は他人の命に関わると思うと気は進まないが、この場でゾンビたちの先頭を足止めして、伸びてしまった列を短くまとめる必要があった。
 そうとは言っても幅10mはあるだろう道一杯に広がったゾンビの最前列を食い止めるのは人の力では不可能。いつものRV車なら群れの先頭中央に軽く突っ込んで直ぐに後進し、距離を開けるのを何度も繰り返せば出来るだろうが……などと考えていると爆竹のことを思い出す。富良野を出て以来、大きな音を出すということが禁忌にも等しかったためすっかり忘れていた。
 デイパックの中から取り出した爆竹に火を着けると、ゾンビの先頭集団の後方へと投げ込む。
 背後で連続的に発生した爆発音に、先頭を歩くゾンビの注意は俺から逸れて後ろを振り返り足が止まり、一方後方のゾンビの歩みは若干速度を増す。
 これを3度ほど繰り返すと糠平トンネルから出てくるゾンビの姿が疎らになり、トンネル間の道の上にいるゾンビの数は予定の300体を上回っているようだったので拡声器を使って声を出しながら不ニ川トンネルへと踏み込む。
 不ニ川トンネルは入り口が若干カーブになっていた糠平トンネル以上に一直線に作られており、トンネルに入る前から出口の光が見える。
 その時だった。万一が現実となる瞬間が訪れる。
 トンネルの途中、100m以上は先で出口の光の中を人影のようなものが横切った。

 緊張感が一気に高まる。
 見えたのは1体だが、この闇の中に潜むのが1体だけとは限らない。ましてやゾンビじゃなく人間で敵対的行動をとるとするなら更に危険度は上昇する。
 今更後戻りは出来ない。背後のゾンビたちは既にトンネル内に踏み込んでおり、俺に出来るのは前に進んで安全を、命を勝ち取るしかない。
 背後のゾンビと距離をとるために自転車に乗って50mほど先まで進む。その間に再び人影が出口の光の中を横切った。
「人間じゃない。ゾンビだな」
 相手の動きからそう確信する。この際ゾンビの振りをした人間という可能性は排除する。
 マウンテンバイクのフレームに取り付けてあった愛用のメタルラックのポールは引き抜かず、デイパックの中から隠してあった拳銃を取り出すとパンツのウェストに差し込んだ。
 既に良いだけ騒音を撒き散らしてきた今回は拳銃を使うことを躊躇う気は無い。
 糠平の人たちに、俺が銃器を保持していることは隠しているが、ここはトンネルの中で、外にはそう大きく音は響かないだろうし、もし音が届いたとしても先ほど使った爆竹との区別が付くとは思えない。
 左右にライトを振って前方の闇に潜むゾンビを見逃さないように細心の注意を払いつつも急いで自転車を押して前進する。
 1体ならポールを引き抜いて撃退すれば良い。2体以上なら躊躇い無く拳銃を使えば良い。だがこの闇の中10体以上なら?それどころか背後に迫るゾンビと変わらないほどの群れがいたら?
 嫌な汗が額に浮き出て流れ落ちる。一瞬目に入りそうになるそれを右手の袖で拭い去る。
 その瞬間、ライトに照らし出される3体のゾンビの姿が目に飛び込む。
 距離はおよそ20m先。更に注意深く確認すると。更に2体のゾンビの姿が見える。
 自転車を停めると、左手にライト。右手に拳銃を構えてゾンビに接近する。
 前にいる3体のゾンビの5mほどまで近寄ると、右のゾンビの眉間に向けて照星と照門を重ねると引き金を引いた。
 テレビの刑事ドラマ中での銃声に比べるとはるかに安っぽい音と同時に、拳銃を握る右手の親指の付け根部分が反動で蹴られるが予想したよりは軽かった。
 弾が眉間のやや右上に着弾するとゾンビは仰け反り倒れる。
 そして俺は機械的に次のゾンビに狙いをつけて引き金を引いた。

 前方に新たなゾンビの姿を見つけ出せなかったので自転車の元へ走って戻り、また前へと歩き出す。
 倒した5体のゾンビを避けるように脇を通り抜ける。その間も前方の確認は怠らなかったが、他のゾンビに出くわすことなくトンネルの出口にたどり着き背後を振り返ると、後方のゾンビとの距離が開きすぎているのに気付きため息を漏らす。
「ビビりすぎだよ」
 そう自分を笑うと。拡声器を持つと振り返り大声で叫んだ。
「ビビりすぎだ。この馬鹿野郎!」
 そして大声で笑った。

 不ニ川トンネルを抜けるとまた直ぐに次のぬかびら湖畔トンネルの入り口が目に入る。今度は橋ではないが同じく100mほどしか間は無い。
「ん?」
 ぬかびら湖畔トンネルの入り口の左側に見える小道の少し入ったところに1台の車が見える。
 どうやら路肩に乗り上げる形になって停まっているようだ。
 ゾンビとの距離も気になるが、あの車が使えたら多少は楽が出来そうなので、再びゾンビの群れへ爆竹を投げ込んで足止めすると、車に向かって自転車を走らせた。
 ぬかびら湖畔トンネルの入り口──アスファルトの上に車がスピンしたらしい真新しいタイヤマークが刻まれていた──の左脇に自転車を停めると、ポールを右手に持って車に駆け寄る。
 車はRV車ブームの頃に作られた、駆動方式が4WDであること以外は乗用車ベースの見た目だけの街乗りRVだった。
 右前方から路肩に乗り上げて、傾いた左側のドアが前後共に開いていて、その下の地面には黒っぽい血の染みが広がっていた。
 周囲にゾンビの姿が見えないことを確認してから、車の下や路肩の先などを見て周り、後ろの窓からラゲージルームを確認。そして最後に開いたドア越しに車内の様子を伺う。
 何処にもゾンビの姿は無かった。多分先ほどの5体のゾンビがこの車に乗っていたのだろう。
 そして車内で既にゾンビに噛まれていた誰かがゾンビ化し次々に噛まれていった。そんなところだろう。おかげでシートが固まった血液でガビガビになってる。
 とりあえずキーを回してみると、幸いエンジンはかかった。後部座席からラゲージルームに手を伸ばして荷物をあさると、中から薄汚れた毛布が出てきたので、それを運転席に敷いてから座る。
 ギアをバックに入れてアクセルを軽く踏み込むと、腐っても4WDだけあってあっさりと路肩から抜け出すことが出来た。
 ゾンビはこちらに近づいてきているが、先頭のゾンビがいるのがトンネルとトンネルのちょうど間くらい。
 国道273号線に戻り後部座席を倒してラゲージスペースを広げると、先に積んであった荷物を右側に寄せて、空いたスペースにマウンテンバイクを積み込む。
 運転席に戻るとクラクションを鳴らしながらゾンビの群れに向かって車を走らせた。
 ゾンビの群れの前でUターンするとバックでゾンビに車体をぶつけた。この車には生意気にもアニマルガードらしいものが着いてはいるが、良く見ると単なる樹脂製の飾りというふざけた車だ。文月さんのお祖父さんのこだわりのRV車と同じ様に前から当てたら一発でラジエーターから蒸気を吹き上げそうで怖い。

 ゾンビを十分に引き付けた後、こんなことになる前に他人がやってるのを見たなら「馬鹿野郎!」と吐き捨てるほどクラクションを鳴らしながらゆっくりとぬかびら湖畔トンネルへと入っていく。
 ヘッドライトは右側が壊れているようで、片目状態だが手持ちのライトに比べたら贅沢なんて言ってられない。ハイライトにすると100m近くは先を見通せるヘッドライトとクラクションを鳴らしても車内にいる為にストレスを感じることなくトンネルを通過出来た。

 ぬかびら湖畔トンネルを出て100m先で糠平ダムへと続く脇道へ入るために右折する。
 状態の良くない道路のため、後を着いて来るゾンビの速度があまり上がらないが、それでもここまで来てしまえば、ゾンビの気を引くような存在はこの車しかないので多少距離が開いたぞんも一生懸命に着いて来る──と言えば、少し微笑ましい情景が頭に浮かぶが、実際に見てみるとやっぱり地獄の様相だった。
 ゾンビの歩みが遅いので、時折車を停めて積んであった荷物を確認する。100%泥棒以外何者でないが今となっては勿体無い精神による有効利用だ。
「水か……」
 2Lペットボトルのミネラルウォーターが6本入った箱が3つ。確かに人間にとても大事なものだが、現在水に困っているわけでもなく、この先は車では進めないためもって行くことは不可能。
「缶詰……」
 5つの段ボール箱に入った缶詰。さんまの蒲焼缶。鯖の水煮缶。焼き鳥缶。ツナ缶。そして桃缶。選択に問題を感じないでもないが必要性は水よりも高く持って行きたいが、10や20くらいならともかく全部を持っていくのは不可能。
「サプリメント……」
 コンビニのレジ前のコーナーの棚に良く並んでいるビタミン類をはじめ様々な栄養素を補給してくれる素敵アイテムが幾つもの箱に詰められていた。
 十分な水と、缶詰でカロリーベースを維持して、サプリメントで栄養補給。正しい様でどこか間違っている選択に頭が痛いが、正直サプリメントはありがたかったので、缶詰よりも優先的にカバンへ詰め込んだ。

 ダムの手前で車を降りる。
 この先からは再び自転車で進まなければならない。
 山本と分かれた地点から約2kmでここまでにすでに2時間近くの時間が過ぎており。
 予定では生存者の救助と糠平トンネルの封鎖が終了しているはずなので、後はゾンビを振り切って糠平湖の東岸を北上し国道273号線の合流ポイントまで出れば迎えが来るはずだった。

 これまでのゾンビを引き連れてゆっくり移動していた鬱憤をペダルに叩きつけて自転車を走らせるが、直ぐに折れた大きな枝に道がふさがれており、この先これが15km位続くのかと思うと気が重たくなった。

 使われなくなった道は短時間で荒れる。
 この言葉を俺は一生心に刻み込もうと決めた。というよりも忘れられそうも無い。
 それに茂る木々に囲まれた林道の日暮れは早い。陽が傾くと直ぐに暗闇が襲ってくる。
 そんなサイクリングコースを走り切って合流地点に見えた時、俺は自分を「さすがやれば出来る子だ」と褒めてあげたい気持ちで一杯だった。
 ところが予定時間を大幅に遅れて合流地点にたどり着いた俺を待っていたのは、俺の顔を見て突然泣き出す文月さん。
「笑顔で迎えてくれる約束は?」と口にする前に、抱きつかれたと思ったら今度は号泣。
 結局、自分を褒めるどころか「心配した」と言いながら泣き続ける彼女に謝り続ける羽目になった。


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