<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.32793の一覧
[0] 【習作】マリィがネギま世界を流出させました(ネギま×Dies)[紫貴](2012/04/15 16:02)
[1] Diesキャラ・アーティファクトの設定[紫貴](2012/05/04 17:06)
[2] 桜通りの吸血鬼編 第一話[紫貴](2012/04/15 16:04)
[3] 桜通りの吸血鬼編 第ニ話[紫貴](2012/04/15 16:05)
[4] 桜通りの吸血鬼編 第三話[紫貴](2012/04/17 22:51)
[5] 修学旅行編 第四話[紫貴](2012/04/25 21:48)
[6] 修学旅行編 第五話[紫貴](2012/04/22 16:40)
[7] 修学旅行編 第六話[紫貴](2012/04/22 16:41)
[8] 修学旅行編 第七話[紫貴](2012/05/04 17:01)
[9] 修学旅行編 第八話[紫貴](2012/05/04 17:04)
[10] 修学旅行編 第九話[紫貴](2012/05/04 17:05)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[32793] 修学旅行編 第七話
Name: 紫貴◆c175b9c0 ID:15ac3244 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/04 17:01

 ~関西呪術協会総本山前~

 シネマ村での騒ぎの後、3ーAの一部の生徒と共にネギ達は木乃香の実家へと向かっていた。木乃香や関東からの使者であるネギはそれについて何の問題も無いが、魔法とは何の関係も無い生徒もいた。
 友人の実家に遊びに行くのを止める理由も無く、ネギは担任として彼女達を監督する仕事もしなければならなくなった。
 それはいい。魔法関係について生徒にバレないようにてんわやんわになるのは彼にとって、良くも悪くもいつもの事だ。問題は――
「うやむやの内に結局ついて来てるし」
 明日菜がネギの心を代弁するかのように後ろを振り返りながら言った。
 ネギ達の後ろでは、蓮、司狼、香純、螢、エリー、そして刀子がいた。中等部の後ろに高等部の関係者がぞろぞろと歩いているのだ。
 明日菜のように迷惑そうに思ってはいないが、彼らが付いてくる事にネギはやはり戸惑いを隠せない。それは学園長とタカミチ以外の魔法先生の存在を知った事が起因している。
「ま、まさか……」
 そんなネギの心情など知る由も無い刀子は螢の話を聞いて後ろに仰け反っていた。
「あの怪物が櫻井さんの伯母さん。しかもベトナム戦争の経験者……見た目は多く見積もっても三十後半なのに……」
「怪物って……」
「櫻井ちゃん。親戚があんな風に言われてるけど?」
「事実よ。ベトナム戦争に参加してからもしかすると五十なんて超えてるかも」
「何で多分なんだよ」
「正確な生年月日知らないのよ。十年近く顔会わせてもないし。伯母さん、実家とは勘当状態だったから。意外と筆まめなのか電話やメールとかは来るけど」
 それも毎度違うアドレスで、と螢は付け加えた。
「そんな、見た目は私と同じくらいなのに……」
「つまり刀子先生は三十後半、と」
「違います。私はもう少し若いですよ!」
「じゃあ、三十前半だ。てか、実は年齢知ってるし」
「………………」
「葛葉先生、刀抜いちゃ駄目ですってば! ほら、司狼の言う事なんか無視ですよ無視!」
 香純の言葉になんとか冷静さを取り戻し、刀子は大きく溜息をついた。
「はあ、まさか貴方達が揃って関係者になるなんて。しかも、契約主があの闇の福音とは」
 道中、蓮達の現状を聞いて溜息を吐く。
「刀子ちゃ~ん、そんな世界が七回終わったような顔しないでさ、仲良くしようよ」
「私の教師人生、終わったわ」
「遠回しにヒデェなこのバツイチ」
「遊佐君、貴方いい加減にしないと本気で斬られるわよ」
 そうこう話している内に一同は近衛の門が見える所に着いた。
「もう、こんな所まで来てしまいましたか。さあ、皆さん。戻りますよ」
「ああ? せっかく来たのに何でだよ。オレたちはお嬢様助けた恩人だぞ」
 司狼が不満そうな声を上げるが、当然ですと刀子はそれを一蹴する。
 刀子がネギ達に付いてきたのはシネマ村のように襲撃が来た場合に備えての、護衛の為だった。本家まで来てしまえば強力な結界に本家寄りの呪符使いがいる。
 何より関西から関東に移った刀子は微妙な立場である。いくら本家のお嬢様を結果的に助けたとは言え、目立つ行動は控えるべきだ。
「それに、裏の世界の人間になってしまった貴方達が用事も無く関西呪術協会に行ってしまえばややこしい事になります」
 アーティファクトを持つ蓮と司狼は麻帆良学園の生徒だ。明確に所属分けされていない二人だが、余所からみれば関東の魔術師も同然なのだ。
「政治って面倒だよね。刀子ちゃん、苦労してるじゃん」
「だから刀子ちゃんと言うのは止めなさいと言っているでしょう、本城さん。私は少しネギ先生と話して来ます。貴方達はここでじっとしていなさい。いいですね?」
 それだけ言うと、刀子は巨大な門を見上げているネギの方へ歩いていった。
「葛葉先生、なんか何時もと違うね」
「そうね。どちらかと言うとあっちが本来の葛葉先生なのかも」
「魔法先生だったか? 社会的な立場を偽る為に教師やってるようなものだからじゃないか」
「そしてその正体は再婚を狙う三十ピー歳のバツイチ」
「おい、馬鹿一号。一瞬、葛葉先生が睨んできたぞ」
「ああ。目尻の皺がより深刻になった」
「だれもそんな事聞――」
 次の瞬間、司狼の顔の真横を何かが通り過ぎ、背後の木の幹に突き刺さる音がした。
「…………」
「…………」
 短刀が根本近くまで木に根本まで突き刺さっていた。
「一気に突っ込みがキツくなってねえか?」
「キツいってレベルか?」
「うわっ、これ根元まで刺さってる。……櫻井ちゃん、香純ちゃん、これ抜いてみてよ」
「何であたし達?」
「藤井君、遊佐君の男性陣がいるでしょう。力仕事は男の担当じゃない」
「適材適所」
「剣道部が誇る二大怪力女だから」
「………………」
「無言で石投げんなよ!」
 蓮と司狼が女子剣道部部員から攻撃を受けていると、ネギとの話を終えた刀子が戻ってきた。
「こら、人様の家の前で暴れない」
「家の前って言っても山の前じゃん。それで刀子ちゃん、子供先生と何話してたの?」
「労っていただけです。魔法先生とは言え、齢十の子供が使者として全て一人で解決しなければならなかったのですから。シネマ村の時は緊急時だったので戦いましたが、私を含め他の魔法先生は関西では自由に動けません。修学旅行の引率だって魔法を使わない事を条件に見逃してもらっているようなものです」
 言いながら彼女は木の幹に刺さった短刀をあっさりと抜いてポケットに収めた。どうやっても入る大きさでは無い。
「でも、ここまでくれば後は親書を渡すだけですし、近衛のお嬢様も安全でしょう。本部には強力な結界が張り巡らされている上に、明日には本部直属の優秀な魔法使いが戻って来ますから」
「明日ねぇ」
 何か含むように司狼が刀子の言葉を繰り返し、煙草の箱を取り出した。
「未成年が煙草なんて吸うんじゃありません!」
 速攻で取り上げられた。
「なに今の。全然見えなかった」
「部活の時だってあんなに速くなかったわね」
 剣道部である香純と螢は顧問が初めて見せた動きに驚いていた。
「もう関係者と分かれば手加減する必要もないですから」
「だとよ、司狼。年貢の収め時じゃないか?」
「前科前提かよ」
「前科ありまくりじゃん。そういえばさ、私ら追いかけ回してた生徒指導の先生達も魔法使いなの? タカミチ先生はもう間違いなくそっち系なんだろうけど」
「ええ、まあ。全員がそうではありませんが、他の部署と比べると多いですね」
「あっ、全員がそうじゃないんだ」
「貴方達を追いかけていた指導の先生は全員魔法使いですけどね……」
「なんだ、割合の問題だったか」
「あのオッサン達はどう見ても普通じゃなかったからな。エリー、お前の煙草くれよ」
「ヤダ。ってか、私巻き込まないでよ」
「だーかーら、未成年者はタバコ禁止です!」



 ~近衛総本山:裏口~

 関西呪術協会総本山でもある近衛の家。その裏口近くの森林の一つ、大木の上に白髪の少年フェイトは立っていた。
 敵陣の真ん前で時刻を確認する。夕食が終わり、まだ寝るには早い時間。それぞれが思い思いの時を過ごしているだろう。
 フェイトが時計の針から視線を外し、裏口を再び見下ろすと、木工の扉が内側から開いた。
 中から巫女服を着た黒髪の女が出てくる。女は何かを探すように扉の前に立って首を巡らしていると、木の上に立つフェイトを見つける。
「…………」
 女の手招きに応じ、フェイトは一足飛びで木から女の前へと降り立つ。
「魔法使いってのは本当に高い所が好きだね」
「高い場所からの状況把握は当然だよ」
「狙われやすいわよ。相手も同じ事考えるんだから」
「なるほど」
 いかにも不審人物であるフェイトを見て、驚きもしない。見た目に惑わされていると言うのなら、子供が二階建ての家よりも高い位置から二十メートル近い場所へ一蹴りで移動する事はありえない。関西呪術協会の人間なら殊更警戒すべきである。
「ほら、とっとと入って」
「うん」
 女はフェイトを近衛家へと招き入れた。そのまま木製の扉を閉める。
 その足下には着物姿の男が二人倒れていた。
「殺したのかい?」
「気絶してるだけ。後始末が面倒だし、死体が発見されたらそれだけで異常事態ってバレるからね。血の臭いって結構強烈なのよ」
 足で転がしながら事も無げに女は言った。
 気絶した男達を物陰に隠すと、フェイトと女は近衛家の庭を歩き始める。
「手間が省けたよ。結界を破るのは簡単だけど、侵入に気づかれる可能性があったから」
「仕事だし気にしなくていいさ。にしても、ザルよね、ここの警備」
「貴女の行動が早すぎだったんだと思うよ、鈴さん。大体、よく忍び込めたね」
「業者の車に紛れてね。事前に下調べしてあったから大したことないわよ」
 裾の下から携帯電話を取り出し、巫女姿の鈴が速い動きでボタンを押していく。
 総本山は麓が近いとは言え山の中にある。敷地の広さ、働いている人間の数からして頻繁に物資の補充が必要な筈だ。鈴はその物資の供給の日程や時間を調べ、いざとなったら侵入する算段を立てていたのだ。
 シネマ村での爆発騒ぎの後、昼間の内に変装し、鈴は業者のトラックの中に紛れ込んでまんまと本家へ入ることに成功していた。巫女の衣装は、千草がたまたま服を持っていたから使わせてもらった。
「結界も分かりやすいので良かったわよ。外からの侵入や攻撃に敏感だけど、中にいる人間が招き入れた者に関しては鈍感だなんて……っと、これでよし」
 鈴が操作していた携帯電話の電源を落とす。
「今から三分後に屋敷内全ての電気が落ちるから」
「それなら、僕は面倒な人を黙らせにいくよ」
「じゃあ、私は先にお姫様の方を探しに行くよ。まあ、そのあたりはあんたの方が早そうだけど」
 明け方には腕利きの魔法使い達が本部に戻ってくるという情報を入手している。彼らがまだ来ていない今夜が最後のチャンスである。
 フェイトが瞬間移動したかのようにその場から消え、鈴は足音も立てずに庭から屋敷の廊下へと移動する。
 たった二人による本家襲撃は怒濤の如くあっという間に、且つ何よりも静かに行われた。
 フェイトはまず、当主である近衛永春へ向けて低空で飛行する。年を取り、現役を退いて長い時が経った彼は驚異では無くなった。しかし、その立場と経験は厄介なものであるし、組織の頭を潰すのは戦略の理にかなっている。
 そして鈴はフェイトと違って堂々と廊下を走る。ただしその速さと静かさは尋常では無かった。途中彼女と出会った家の者は接近に気付く事も無く気絶させられ、物のように空き部屋や物陰に放り込まれる。
 停電が起きるまでの三分、近衛家はたった二人によってほぼ制圧されていった。



 ~近衛家:客室~

「あれ、停電?」
 麻帆良図書館島探検部と報道部の四人が通された和室で雑談していると、部屋の電気が消えた。
 突然の事で四人は多少慌てていると、部屋の出入り口である障子の方から女の声がした。
「すみません、今よろしいですか?」
「はいはい、今開けます」
 僅かな月明かりで出来た女の影が障子に映っている。近衛の家の人、お手伝いさんみたいな巫女さんだなと、ハルナは思い、一番近くにいた彼女が障子を開けた。
 廊下に、ショートカットの黒髪の女が立っていた。
「どうしたんですか? それに、この停電は何かあったんですか?」
「……いえ、電気系統にトラブルが発生して一時的に電気が止まっているんです。男衆が見ているので、もうじき直ると思います」
 女は一度の部屋の中を見回してからハルナの問いに答えた。それに違和感を覚えたが、ハルナが口を開く前に女の方が先に言葉を続ける。
「あの、木乃香お嬢様はどちらに?」
「木乃香ならお風呂行きましたよ」
「そうでしたか」
 そこで何か考え込むように女が再び部屋の中に視線をさまよわせる。
「まあ、一応眠らせておくか」
「へ?」
 今までの会話とは違う声色を発し、女がハルナに向かって腕を伸ばした。
 と思いきや、女は腕を引き身体も後退させる。
 直後、刃物の煌めきが二人の間に割って入った。
「はぁっ!」
 気合いの声と共に刃の持ち主、桜咲刹那が上段からの振り落としから逆袈裟切りへと素早く野太刀を操る。
 だが、巫女服の女はそれを後ろへ跳ぶ事で難なくかわすと刹那から距離を取る。
「貴様、あの時の……」
 刹那は追撃せずにハルナを庇うようにして女の、櫻井鈴の前に立つ。
「え? なになに? 一体何が起きたのよ!? ていうか、何そのポン刀は?」
 突然目の前で起こった攻防にハルナが目を白黒させ、部屋の中にいた他のクラスメイト達が顔を出す。
 途端、撃たれた。
「――へ?」
 跳ね返った弾丸が音を立てて床に穴を作った。
 彼女達の視線が床の穴へ、次に鈴の持つ硝煙が昇る銃へと移動した。
 銃口と彼女達の間には刹那が左手に持つ太刀の鞘があり、それによって銃弾が跳ね返っていたのだ。それがもしなければ、誰かが一人確実に死んでいた。
「――――ヒッ」
 小さな悲鳴が自然と起きた。
 拳銃という、平和な日本で生まれ育った彼女達に銃という武器は映画やドラマまどエンターテイメントの中で見たことが無く、非現実的な武器である。だが、実際に存在する武器であり、歴史上数多くの命を奪った殺人の道具だ。
 例え威力の点で劣ろうとも、銃が与える死へのリアリティは魔法の比では無い。
「お姫様の護衛だけじゃなくてクラスメイトの面倒まで見るなんて大変ね」
 まるで世間話でもするかのように喋りながら鈴は銃を撃ち続ける。その狙いは全て刹那の背後にいる少女達だ。
「くっ……皆、逃げろ!」
 刹那は太刀と鞘で銃弾を受け止めながら刹那が叫んだ。
「あ、あんたはどうすんのよ!?」
「私は一人でもどうにでもなる」
「だからっていかにもあんな危ない人を相手になんて」
「行くよ、皆。このままだと桜咲の邪魔になるよ」
 修学旅行の途中で魔法使いの存在を知っていた朝倉和美がハルナの肩を掴んで反対側の廊下へ連れて行こうとする。
「ほ、ほら、夕映も」
「でも、のどか!?」
 のどかも夕映の袖を引っ張っていく。
「ああ、もう! 刹那さん、後で色々聞かせて貰うからね!」
「応援、呼んでおくから!」
 四人は廊下へと駆け出し、奥へと消えて行った。
「へえ、今時の若者にしてはよく分かってるじゃない」
 暢気に言いながら鈴は四人を見逃し、弾倉を交換し出した。
「――ッ」
 剣士の目の前で無防備に弾の交換など、舐めているとしか言いようが無い。刹那は即座に守りの姿勢を変え、鈴の懐へと飛び込む。
「あんたは学ばない子だね」
「ぐぅっ!?」
 懐に入る直前に鈴の回し蹴りを側頭部に受け、刹那は勢いよく横に転がって隣の部屋に襖を巻き込みながら転がっていく。
「つ――ぁ……」
 完璧なタイミングで放たれた蹴りは気で強化された刹那でも頭がフラフラするような威力があった。それは単純な力によるものでは無い、技術と経験による、未だ未熟な剣士である刹那には無いものであった。
「例のお姫様は一緒……じゃないみたいだね。まあ、いいか」
 鈴は弾を込め終えると、部屋で膝をつく刹那に向き直った。
「とりあえず、邪魔になりそうだから潰しておくか」
 銃口が刹那に向けられた。確実に殺される。そう思った時、鈴の銃口が部屋にいる刹那から廊下側へとその矛先を変えた。
「風楯!」
 引き金が引かれるのと子供の声が聞こえたのはほぼ同時であった。
 異常を察知し生徒を探し回っていたネギが杖を前に突き出し、障壁を張っていた。鈴を敵と認識し、障壁を張りながら魔法を発動させる。
「風花・武装解除!」
「またそれか」
 鈴は傍の障子を掴むと、片手で取り外しながらネギ向かって投げながら後ろへ跳んだ。
 武装解除の魔法が障子にぶち当たり、武装解除の魔法が無力化される。
 突風に煽られるようにして障子が吹っ飛んでいく中、鈴は背を見せてハルナ達のいた部屋に飛び込むと、そのまま窓を破って外へと逃げていった。
「あいつ逃げやがったぜ!」
 ネギの背中に張り付いていたカモが大声を上げる。
「刹那さん、大丈夫ですか!?」
「は、はい」
「他の皆さんは?」
「朝倉さん達なら逃がしました」
「そうですか」
 ネギはそれを聞いてホッと息を吐いた。
「実はここに来る途中にいくつか石化魔法に掛けられた人達を見ました」
「石化……」
 東洋魔術にそのような魔法があっただろうか。それに鈴は戦闘能力が異常でも魔法使いではない。石化どころか魔法も使えない人間に人を石に出来るわけがなかった。
「他に仲間も一緒に侵入していたと言う事……このかお嬢様!」
 刹那が駆け出し、ネギが慌ててそれを追い掛けて行った。

「あぁっ、もう! 何で通じないのよ!」
 逃げ出したハルナ達は警察又は知り合いに片っ端から所持していた携帯電話で連絡を取ろうとしていた。
「ダメです。こっちも繋がりません」
「わ、わたしも……」
「私も。圏外になってる」
 しかし、家に招かれた時には通じていた電波が今や届いていない。画面の表示は圏外で、駄目元で電話しても通じなかった。
「ジャミングされてるんじゃ……」
「まさかと言いたい所ですが、先程の銃を見ては違うとは言い切れないです」
「それにさ、これだけ走ったのにまだ誰にも会わないよね。……さっきの女に殺されちゃったとか?」
「うえぇぇっ!?」
 ハルナが物騒な事を口にし、のどかがビビる。
「いや、それなら死体とか残ってんでしょ。多分、もう逃げちゃったとかじゃない?」
「私らを置いて?」
「この家にいた人は大勢いました。いくら銃を持ってるからと言って女の人一人でどうにか出来るとは思えないので、逃亡した可能性の方が高いです」
 和美と夕映の言った事は不正解であった。今まで人に出会わなかったのは鈴が気絶させた家人を乱暴ながらも隠していて、四人はたまたまそのルート上を進んでいたせいで誰の姿も見つけられなかったからだ。
「あっ、そういえば……」
 のどかが突然声を上げ、借りて着ていた和服の袖の中を何やら漁り始める。
「良かった。あった」
 取り出したのは掌に収まる小さな黒い箱だった。
「何それ?」
「え、えっと、本城って言う先輩から貰ったの」
「げっ、あの本城先輩!?」
 和美が仰け反るようにして呻いた。
「本城先輩と言うと、昼に合流した高等部の先輩の一人でしたね。そういえばのどかはどうしてネギ先生や先輩達と?」
「え、えっと、色々あって。と、とにかく、本城先輩から旅行中に何かあったらコレ使えって……」
 そう言ってのどかは箱の上部にあるスライド式のスイッチを入れ、角のライトが緑へと変わったのを確認して真ん中の赤いボタンを押した。
「何やってんの?」
「こうすれば、緊急事態だって先輩達に伝わるらしいの……」
「何でそんなもん持たせてんのよ。この状況を予測してたとしか思えないわね。まあ、助けが来るなら何でもいいか」
 ハルナが安心したかのように一息つくと、横から夕映の鋭い一言が来た。
「でも、これ発信機の一種ですよね。電波が妨害されているらしきここで使えるのですか?」
「あ…………」
「全然ダメじゃん!」



 ハルナが怒声を上げた頃、道路を猛スピードで走る一台のバイクがあった。
 ノーヘル、二人乗りにスピード違反。事故って死ぬつもりなのかと突っ込みたくなるバイクの上には金髪と黒髪の青年が乗っていた。
「本気かよ、司狼」
「たりめーだ。あの嬢ちゃんに渡した通信機からの信号が途絶えた。つもり、応援を求められている。なら、男なら行くしかねえだろ」
 実は、緊急事態と言う事はしっかりと伝わっていた。
 エリーがのどかに渡した発信機。それはスイッチを押してから電波を発する物では無く、スイッチを入れると電波が止まる代物だったのだ。
 つまりは逆の発想。電波を受け取って異常を察知するのでは無く、発し続けている電波が途絶えた事で異常事態を受け手側が知る為の機械だったのだ。
 なので、ハルナ達が襲われるよりも前に、鈴が本家の電気を落とすと同時に仕掛けたジャミング装置が起動した時点で彼らは異常を知っていた。
 バイクを運転する司狼の後ろで蓮が頭痛そうにしかめっ面をする。
 何でそんな物を持たせたのかとか、電波途絶えたら解る装置なんてどういう発想だよとか、電波障害の多そうな山の中でそんなもん意味ねえだろ絶対にたまたま電波の届かない場所に移動したからだ――などと蓮は思ったが結局は言わなかった。どうせ馬鹿二人の発想は理解出来ないと割り切る。それよりも問題は、
「何で俺まで。お前一人で行けよ」
「なーに言ってんすか。可愛い後輩のピンチに先輩のオレらが行かないでどうすんだよ」
「いけしゃあしゃあと……」
「てか、しっかり掴まってねえと落ちるぞ」
「うおっ!?」
 赤いテールランプが急激に曲がり、転倒しそうな勢いでバイクがカーブを曲がる。行き先は勿論、関西呪術協会の総本山だ。
 テールランプ同様蓮の怒声が尾を引きながら盗んだバイクはエンジン音を轟かせて道路を高速で走って行った。



 ~ファミリーレストラン~

「で、蓮達は盗んだバイクで走り出したと?」
「うん、そんな感じ」
「なにそれ」
「馬鹿ね」
 夜、遅めの夕食を食べに来た客で賑わうファミレスの店内で香純、螢、エリーがテーブル席にいた。
 座っているのは三人だけなのだが、テーブルの上には五人分の食べかけの食事がある。
「一緒にトイレ行って相変わらず気色悪いぐらい仲良いなぁとか思ってたら、修学旅行の夜に盗んだバイクで走り出すなんて定番っていうか青春ですか、若人ですね。ていうか、そんなの青い春でも何でも無くてただのヒャッハーなヤンキーじゃない!」
 香純が吠え、店内の視線を一挙に集めるが気にしない。
 元々は蓮と司狼を加えた五人で夕飯を食べていたのだが、突然野郎二人がトイレへ共だって行ってしまい、帰ってくるのがあまりにも遅いので香純が怒っているとエリーがあっさりと白状したのだ。
「事件が発生した、かもしれない関西なんちゃら協会に行ってどうするつもりよ?」
「正義の味方ごっことかするんじゃない? ほら、男って何時までたってもヒーロー願望っていうか主人公願望持ってるし」
「これだから男は……」
「そもそも何で発信機なんて持たせてんのよ。ていうか、そんなもん用意すんなーーっ!」
「元々は香純ちゃんように用意してたんだけど」
「えっ!? 私?」
「そうそう。この子を見つけたらここに一報お願いしますって感じで」
「迷子札かっ!」
「発信機なら別に連絡してもらう必要ないわよね」
「意味ないじゃん。そうじゃなくて、早く蓮達追いかけないと」
「ちょい待ち」
 立ち上がりかける香純をエリーが引き留める。
「真面目な話、本当にヤバイ状況かもしんないよ」
 そう言って、エリーは手に持ってたスマートフォンを二人に見せる。
「子供先生とか向こうにいる子達と連絡がつかないんだよね。協会の総本山も同じ。完全に音信不通になってる」
「え、それってマズいんじゃ……」
「だねぇ。で、どうする?」
「行く」
 何の躊躇いも無く香純は断言した。
「わぉ、即決。香純ちゃん男らし過ぎて私惚れちゃうかも」
「馬鹿な事言ってないで行くわよ」
「あれ? 櫻井ちゃんもやる気じゃん」
「ええ。いきなり消えていなくなるような男、懲らしめてやらないといけないし」
「会計も私達任せだしねぇ。こんな美少女達に奢らすってどういう神経してんだか。そんな連中には私達の有り難みってのを教えてやらんとですよ」
「よし、じゃあ行こう!」
「あー、香純ちゃん。その前に刀子ちゃんに連絡してもらえる?」
「葛葉先生に?」
「うん。もしかすると魔法使い同士の喧嘩に巻き込まれるから、そっち系の味方いれば心強いじゃん」
「でもなあ、葛葉先生怒ってるだろうな。まあ、しょうがないか」
 刀子はネギ達が近衛家に入った後、教師の仕事があるので一人ホテルへと戻っていた。その前に蓮達に散々問題を起こさないよう注意していたが、結局は蓮と司狼は首を突っ込みに行った。
 香純達は修学旅行に着た学生達である。今日は自由行動の日だったとは言え、門限はとうに過ぎている。今度ばかりは斬られるかもしれなかった。
「………………」
 香純が携帯電話で電話をかけ始めると、螢も携帯電話を取り出してアドレス帳を開いた。
「誰に掛けるの?」
「知り合い。味方は一人でも多い方がいいでしょう。ところでエリー、貴女お金持ちよね」
「いきなり何? まあ、家は金稼いでるけど、私はぜーんぜん。だって現役女子高生だもん」
「学生の身分で店持ってたりキャデラック乗り回してる人が何言ってるのよ。……プロ雇うとしたら、いくら出せる?」
「え?」
 エリーが怪訝そうな顔をすると、丁度電話が繋がった。
「こんばんわ、龍宮さん。いきなり何だけど話があるの」



 ~山林~

「なあ、蓮」
「何だよ、司狼」
 人工の光無く、空に浮かぶ月からの光が差し込む山の中。獣道同然の道を蓮と司狼を乗せたバイクが激しく揺れながらも前進する。オフロード用のバイクでは無い為にその進みは遅いが、操縦者の乱暴ながらに巧みな運転技術によって本来通れない筈の道を進む。
「静かすぎねえか」
「そうか?」
「人気の無い森っつっても、虫やら動物の気配がするもんだろ。夜行性なのは人間だけじゃねえし」
「俺には元から全然聞こえてないって。それがどうしたんだよ」
「ここまで言って分かんねえか。要は――跳べッ、蓮!」
 その言葉に蓮がバイクから飛び降りた。直後、何かがバイクに飛来し命中、車に弾かれたように醜くひしゃげて大きく跳ねた。
「つう……一体何が?」
 茂みの中に身を飛び込ませ地面に転がった蓮は、バイクが吹っ飛んだ場所を振り返る。
 獣道にバイクの残骸と共にクナイが数本突き刺さっていた。
「手裏剣!?」
 何でそんな物が、と考える前にバイクを挟んだ反対側の暗がりから銃声とそれに伴う閃光が起きた。
「司狼ッ!」
「気を付けろ蓮ッ! コスプレ集団が襲って来るぞ!」
「は?」
 何を言ってるんだ、あの馬鹿は――と、蓮がシラケていると銃が吹く火によって暗がりの向こうが一瞬見えた。
 白い着物を着た狐面の女がいた。髪と同じ白色の耳に、狐の尻尾を生やした女が、一人だけではなく複数存在していた。
 その狐面の女が、明かり一つ持たずに人間離れした動きで木の幹や枝を蹴って司狼に襲いかかっているのだ。
「この先進めばいかにもって感じの湖がある。多分センセーらもいるだろうから、そこで合流しようぜ」
 暗がりの中、銃声と共に司狼の声が聞こえ、森の中を駆け抜ける音がした。
「おい、司――ッ」
 人の心配をしている場合では無かった。司狼が狙われたと言うことは蓮も同様の筈だ。
「――アデアット!」
 暗闇から向けられる敵意に、カードを取り出してアーティファクトを呼び出す。
 最初は手首から先のみの黒い手甲だったのが、今や肩近い二の腕まで覆う程になっていた。
 それが何を意味するのか蓮は知らないし、未だアーティファクトに備わる特殊能力を使えた事は無い。だが、重さを感じず鉄のように硬いので盾代わりにはなる。
 ガサガサと近くの木々から音がした。脅かしているのか、あからさまに聞こえる葉の動く音は蓮の回りを囲んでいた。
「…………」
 音が止み、僅かな間が生まれる。
 かと思いきや、不意に音がした途端に木の上から黒い影が蓮向けて飛び降りてきた。
 葉っぱの音に混じって聞こえるのは羽の音。司狼の相手が狐面なら、蓮の相手は烏頭だった。



 ~川瀬~

 浅く広い川の中、百を超える東洋の怪物達がひしめき合っていた。
 彼らは木乃香の魔力を利用し、千草が木乃香を取り返そうと追ってきたネギ達の足止めとして召喚した物の怪達だ。鬼や烏族など多種多様な存在を喚ぶだけでなく数も揃えるあたり、いかに木乃香の魔力量が膨大か物語っている。
「親分、これどうしやすか?」
「どうするっつてもなぁ」
 正に百鬼夜行。だが、そんな恐ろしげな名と外面に反して彼らは暢気だった。
「おさまるまで待つしかないだろ。さすがにこれほどの竜巻、そう長くは続かんだろうしな」
 人外達が取り囲む場所に魔法によって生み出された竜巻が渦巻いていた。それのせいで彼らは近づけないでいる。
「まあ、ぶっちゃけこのままでも良いんだけどな。要は向こう行かせなきゃいいし」
 彼らに与えられた役目は足止め。ならば敵が殻に閉じこもって防御に専念しているのなら逆に好都合である。
「おーい、そっちはどうなっとる?」
 集団のリーダー格と思われる巨体の鬼が、高い木の上に立つ細身の鬼を見上げた。
 視力でも優れているのか、遠くの森の木々に隠れた場所での出来事を正確に把握していた。
「若いってイイねぇ。派手にやっとるわ」
「殺る気マンマン?」
「だな。金髪の方は狐族相手にようやっとる。でも、黒髪の嬢ちゃんはヤバいな。どうするよ、大将?」
 細身の鬼が振り返って聞いてくる。
「どうするって言われてもなぁ」
「――あっ、おいおい」
「何や。また誰か来たんじゃないだろうな」
「その通りや。今度は若い娘っ子が三人。横道に入って来とる」
 指でその方角を指さした途端、竜巻を包囲していた鬼達の中から数体が示された方角へと駆けていった。
「あーあー、行っちまった」
「これだから最近の若いのは短気でいかん」
 細身の鬼が降りて来る。
「もう一度聞くけどよ。どうするよ大将?」
「やってる事は理にかなっとるからな。文句言える訳が無い。好きにさせるしかないだろ」
 言葉とは裏腹に不服そうな声で鬼が言った直後、渦巻いていた竜巻の中から風が吹き荒れ、鬼の一群に迫った。
 電流を纏った細い風の渦は鬼達を吹き飛ばし、包囲に穴を開け竜巻が晴れて中から杖に跨った少年が包囲網の穴から空へと飛び出していった。
「派手な事で。けど、わびさびってのがねえ。これだから西洋魔術師は」
「暢気な事言ってないで追いかけた方がいいんじゃねえの、大将」
「まあ、待て」
 大柄な鬼は少年が飛んでいった空から後ろへ振り返って視線を下ろす。先ほどまで竜巻が発生していた場所に二人の少女が立っている。
 それぞれハリセンと野太刀を構えた明日菜と刹那だ。
「娘さん二人が体張ろうとしてんだ。応えてやるのが男だろ」
「足止め役が足止めされてどうないやっちゅー話だな」
「健気でいいじゃない」
 小柄な狐面の人外が大柄な鬼の肩に飛び乗りながら言った。
 他の鬼達も包囲の穴を塞ぎ、明日菜と刹那を取り囲んだ。
「女の子二人相手に、大人数で囲んでおいて男らしいねー?」
「あ、明日菜さん……」
 鬼達の会話が聞こえたのか、明日菜が挑発する。だが、鬼にすればそれはただの強がりに聞こえたのか、大柄な鬼がおかしそうに笑った。
「いやいや、戦いってのは数だよ嬢ちゃん。隣の嬢ちゃんは神鳴流のようだし、タイマンじゃこっちの分が悪いからな。それに――」
 鬼が首を僅かに傾げると、森の奥から銃声が聞こえてきた。
「この音はまさか……」
「うげぇ」
 銃に詳しく無い二人だが、ここ最近嫌でも耳にした音だ。段々と近づいてくる銃声が誰の手によるものか安易に想像できた。
「そっちのお仲間も来たようだ。他にも数人、森の中に入っとる」
 鬼の言葉に、思わず二人の顔が明るくなる。
「ただ、ここに着くまで生きてられるか微妙だな」
「ちょっと、生きてられるかってどういう意味よ!」
「そのまんまの意味や。他の連中の迎撃に出たんは皆生まれたてでな、力が有り余っとる。殺せなんて命令は受けてないが、逆に殺すなという命令も受けとらん。何人かは殺されるだろうな」
「な、なによそれ……」
「安心しい。ワシらは死なんよう手加減したる」
「それなら、この先を通してくれた方が有り難いのですが」
 刹那の言葉に鬼が再び笑う。
「悪いがそれは出来んな。正直、スクナの復活の手助けなんて御免被りたいが、喚び出されたなら従うしか無いんよ」
 鬼が片手に持っていた得物を持ち上げる。それは人の身長をも越える巨大な鉄の棍棒であった。
「ああ、それと……」
 最上段へ棍棒を鬼は軽々と持ち上げた。
「打ち所悪くて死んでしまったら、メンゴ」
「うわっ、すっごいムカつく! そんな顔で可愛らしく言おうとしてもキモいだけよ!」
「明日菜さん、突っ込みしてる場合じゃないですよ!?」
 直上から、鉄塊が落ちてくる。
 明日菜と刹那がそれぞれ左右へと跳んで避けた。彼女達が立っていた岩が木っ端微塵に砕け、あまりにも強い衝撃で石が飛礫となって周囲に飛んだ。
「きゃっ!?」
「明日菜さん!?」
 戦いに慣れていない明日菜が石飛礫をまともに受けてしまう。契約によって防御力が上がっているので致命傷にはならないが、おかげで隙を見せる事になる。
「フンッ!」
 振り下ろした鉄塊を、鬼は明日菜に向け横へ払う。大振りで分かりやすい筋。しかし強力な一撃だ。これを受けてはさすがにひとたまりも無い。
 明日菜の脇腹に吸い込まれるようにして棍棒が動く。だが、彼女に当たるかと思われた時、棍棒を持つ鬼の手首が爆発した。
「うおっ!? アツ、アチッ、アチチッ!」
 突然の爆破によって機動が変わり、棍棒は明日菜の脇から足へと行く。そして、突然どこからか鎖が伸びたかと思えば明日菜の体に巻き付いて彼女を上へ引っ張りあげた。
 鬼が手を引き空いた手で火を叩き消し始めながら、爆発の原因を探す。
 火薬の臭いに釣られて森と川瀬の境目に視線を向ければ司狼がデザートイーグルを片手に立っていた。彼の足下には鎖に引っ張り上げられた筈の明日菜が尻餅をついている。
「いたた……お尻打っちゃったじゃない!」
「助かったんだからいいだろ。んで、ここはどこのコスプレ会場だ? なんかムサいのばっかだな」
 百鬼夜行を見ても司狼の態度は変わらない。
「何や兄ちゃん、もう来たんか。思ったより早いな」
 火を消し終えた大柄な鬼が棍棒を肩に担ぎ、一歩踏み出す。それだけで地面がへこんだ。
「だが、一人増えたぐらいこっちはどうって事無い。他の仲間は素人のようだし、お前さんらに勝ぢぃぶほっ!?」
 鬼の顔面に先程と同じ爆発する弾丸が撃ち込まれた。
「うわぁ、大将だっせえ」
「う、うるさいわい! くぉらあッ、若いの! 人が話してる最中に鉄砲なぞ撃つとはどういう了見じゃボケッ!」
「ヒトじゃねえだろ。てか、知るか。先手必勝だ、バーカ」
 司狼の周りに鎖が数本突如として現れ、刹那を包囲していた鬼達へと伸びていく。意志を持っているかのように鎖は鎌首をもたげて鬼を襲う。
「うおおっ!? 何じゃこりゃ!」
「いてっ! この鎖、尖ってて痛ェ!」
 更に司狼は四方八方へ銃を乱射し始める。構えも何もなっていないデタラメな撃ち方にも関わらず正確に鬼達へと撃ち込まれていく。
 司狼のアーティファクトは思い描いたそのままに物質を顕現させる能力だ。それによって作られた大型拳銃はそれ自体に魔法的な効果は無い。しかし、魔力を込めて撃つ事は出来る。
 アーティファクトの適性があったとは言え、ネギやエヴァンジェリンの魔法を観察しただけで彼は魔力の運用をほぼ独学で学んでいた。
 銃弾が鬼に命中する度に爆発が起きる。弾丸も物質創造によって再装填を手間が省け、ほぼ無限に発射できる。
「今朝でもうコツは掴んだからな、ドンドン来いや。それとも何だ。おっかねえのは外面だけの虚仮威しかよ」
「なんやと金髪。お前だけは私刑や私刑!」
「やってみろよ」
 司狼の挑発的な態度に、神経を逆撫でされた鬼達が一斉に襲いかかる。
 壁になって押し寄せる鬼の軍勢。それを前にしても司狼は余裕の笑みを浮かべた。
 その時、二本の鎖が動いた。それぞれが明日菜と刹那の足首に巻き付く。
「へ?」
「オラァッ!」
 気合いの声と共に鎖が大きく唸り、鬼達の頭上より空高く二人を持ち上げる。
「先に行っとけ!」
「――しまった!」
 鬼が司狼の意図に気づいた時には遅かった。鎖は金属の擦る音を立てながら二人を包囲網の外へ投げようとし――突然の轟音と共に鎖が砕け散ってしまう。
「チッ」
 舌打ちと共に司狼が別の鎖で二人を拾い上げて自分の傍へと引き寄せる。
「あの若作り、姿見ねえと思ったら隠れてやがったな。人がせっかく煽ったのに台無しじゃねえか」
 鎖を砕いた攻撃はおそらく狙撃だろう。普通の銃程度の威力ならば弾く事も出来たが、あのように簡単に砕けては普通の銃では無いだろう。
「蛇の道は蛇ってか。こっち狙って来ないのは……サボってるだけか」
「ちょっと、あんたいきなり何すんのよ! 人を物みたいに気安く振り回すんじゃないわよ!」
 明日菜が司狼につかみかかる。
「なんだよ、ナイスアシストだったろ」
「失敗してるじゃない」
「二人とも、言い争ってる場合じゃ……」
 鬼が再び司狼達を包囲していた。
「油断も隙も無い兄ちゃんやな」
 先程よりも険のある言葉。雰囲気から、もうあのような奇策は通じないだろう。
 司狼達三人はそれぞれの死角をカバーするように立った。
「どうすんのよ? さっきよりヤバそうなんだけど」
「オレのせいじゃねえし」
「あんたが散々挑発したからでしょ!」
「あいつらが単純なんだよ」
「何やとコラ」
「ゆ、遊佐先輩、更に煽ってますよ!」
「まあ、こうなったら何とか突っ切るしかないだろ。つうわけで、先輩にばっか働かせてないで動け後輩」
「勝手にやって来て好き放題に暴れて何言ってんのよ」
 緊張感ないなーこの二人、などと刹那が思っていると、棍棒を持った大柄な鬼が動き出す。
「二人とも、来ますよ!」
 百鬼夜行が包囲網を一気に狭めて三人飛びかかる。単純な物量での攻撃ではあるが、種としての屈強さ故にそれは合理的な戦術であった。
 巨体を持つ鬼らが地面を揺らしながら地上から突進し、身軽で素早い化外共が空から飛びかかって来た。
「クソガキッ、お前さんは簀巻きにして清水から叩き落としたらァ!」
「ハッ、ならテメェらは地獄に叩き返してやるよ!」
 銃声と爆音、斬撃音、あらゆる破壊音の混じった音が森の中で轟音が響きわたった。

 森の中、一人の女がいた。
「盛り上がってるねえ。というか、あの金髪どうして来たのかしら。まあ、何だっていいけど」
 欠伸一つし、櫻井鈴は独り言を呟く。
 彼女は白と赤の巫女服を着、寝転がった姿勢で対物ライフルのスコープから川瀬の戦場を観察していた。
 彼女のいる場所から川瀬までは二百メートルといった程度か。彼女にしてみれば、大した距離ではないが、比較的高所にいるは言え木々が邪魔しているせいで狙撃ポイントを探すのが難しかった。
 変わらず巫女服なのは千草が服を返してくれなかったからだ。どうやら勝手に服を持っていったのがよっぽど気に食わなかったらしい。
 鈴は鬼達と同様に儀式の邪魔となる者達の足止めを言われていたのだが、本人は怠ける気らしく、司狼の鎖を撃っただけで、いつでも明日菜達を撃てたのに足止めを他人に任せっぱなしであった。
 一応飛び去ったネギ相手に対して一応撃ってはみたものの、思いの外相手の飛行速度が速く、一時的にバランスを崩す嫌がらせにしかならなかった。
「何か白くて細長いナマモノっぽいのが落ちたような気がするけど……まあ、いいか」
 やる気がまったく以て感じられない。それは足止め程度ならば今スコープで見える三人は鬼達で十分だという判断であった。
 もし、千草の命令が『足止め』で無く『排除』であったなら、司狼達の戦力がもっと多かったなら彼女は積極的に動いたであろう。
「……ん?」
 何の前触れも無く、鈴がスコープから目を離して空を見上げた。
 星空を見ている訳では無い。ただ、予感がした。
 それは昔、戦場で変化が起きる度に感じたものと同じもの。いわゆる経験則というやつだ。
「……やれやれ、案外面倒な仕事だね」
 鈴は再びスコープを覗き込む。その眼は、先程よりも真剣味が増していた。



 ~関西呪術協会総本山近く・森の中~

「何これ?」
「さあ?」
 蓮と司狼達を追ってきた香純達は森の中を一直線に横切る事で近衛家に近づこうとしたのだが、その途中に奇妙な物を発見した。
 地面の中から生える白い物体。足と尻尾らしき物を必死こいて動かし、前後左右に暴れている。気のせいか、地面の中からくぐもった人の声が聞こえる。
「UMA?」
「新種の人面人参、とか?」
 白い物体を見下ろして香純と螢が呆れている。
「あたし、すっごい見覚えある。確か子供先生のペットだったはず」
「そういえばいつもオコジョを肩に乗せてたわね」
「ていうか、喋ってるような気がするんだけど」
「そんなの今更じゃん」
「まあ、チャチャゼロだって動いてるし喋ってるもんね」
「それより、どうするのよコレ」
 白い下半身がまな板の上に乗せられた魚のように後ろ足と尻尾のある下半身を激しく揺れ動かしている。
「助けてあげようよ。何だか可哀想だし」
「なら言い出しっぺの香純ちゃんに頼んだ」
「ええっ!? なんかヤダなあ」
「いいからとっとと助けちゃいなって」
「むー」
 香純がしゃがみ込んで地面から生えたオコジョの体を掴む。
「せーのっ!」
 気合いを入れて引っ張った。
「~~~~ッ!!? ッ、ッ、~~ッ!!」
 地の底から凄惨な悲鳴ーーらしき声が聞こえたが、地面の中からなのでよく聞こえない。
「あれ? 抜けない。もう一度……とりゃああっ」
「~~~~ッ!! …………――――」
「あっ、静かになった」
 エリーが呟いた数分後、ぐったりとしたオコジョが地面から収穫された。気のせいか、普段よりも縦長になっていた。
「し、死ぬかと思ったぜ。顔も知らないご先祖様と挨拶するところだった」
「ご、ごめん」
 元の身長を取り戻したオコジョ妖精カモは青ざめた顔から僅かに血色のよくなった顔で臨死体験を語る。
「それはどうでもいいからさ」
「ひでぇ!?」
「ここから近衛家まで案内してくれない? 実は迷っちゃって」
「やっぱり迷ってたのね」
「エリ~」
「森中に電波妨害されててGPS使えないんだよね~。まあ、いいじゃん。こうしてカモくん見つけられたわけだし」
「いや、悪いけどオレっちも道を知ってるわけじゃねえんだ」
「そうなの?」
「ネギの兄貴の肩から落ちちまって……」
「何だ、助けて損した」
「直接助けたのは綾瀬さんでしょ。まあ、時間の無駄だったのは確かね」
「マジでひでぇ」
「二人とも正直に言い過ぎだって」
「香純ちゃんもさらりと酷い事言ってるような気もするけどね。まあ、そういう事ならしょうがないか。テキトーに歩いてみる?」
「貴女が言うと遭難しそうだわ」
「いや、ちょっと待ってくれ姐さん達。臭いなら、臭いを辿っていけば道が判らなくとも誰かを探す事はできるぜ」
 茂みを分けて森の更に奥へ進もうとする三人をカモが呼び止めた。
「お、さっすがケダモノ。じゃあさ、その自慢の鼻さっそく使ってみてくんない?」
「おう、任せとけ!」
 言って、カモは二本足で立つと鼻を引きつかせる。
「お、どうやら近くにいるみたいだぜ。この臭いは……朝倉の姐さん達みたいだな」
「近く? 屋敷も近いって事?」
「ほら、私の言ったとおり目的地近くまで来てたじゃん」
「そんな事一言も言ってなかったわよ。さっきだって、迷ったって貴女言ってたじゃない」
「まあ、そんな細かい事は気にしない気にしない。んで、カモくん。どこから臭いすんの?」
「おう。あっちからだ!」
 カモが自信満々にある方向を指さした。
 それに答えるようにしてその方向にある茂みが突然揺れ動く。ガサガサと激しく音を立てて徐々に近づいてくる。
 螢が警戒して木刀を握り直す。
 その時、茂みから四つの人影が悲鳴を上げながら飛び出してきた。勢いが強すぎたのか、人影は飛び出した途端にこけて、積み重なって地面に倒れた。
 それは図書館島探検部の三人と写真部のネギの生徒達だった。
「……向こうから来たわね」
「結局、なんにしてもカモくんいらない子って事か。残念だったねえ」
「オレっちの見せ場が!?」
 などとカモが精神的ダメージを受けていると、3ーAの生徒達が彼女達の存在に気づいた。
「あっ、今朝いた高等部の人!」
「ようやく動いている人がいたです!」
「剣道部怪力コンビだ! これで勝てる!」
「あ、あのあのあの……」
 四人が一斉に近くにいた香純へと抱きついた。全員が程度の差こそあれ興奮気味であった。
 彼女達は鈴から逃げた後、近衛の屋敷を歩き回っていたのだが、出会すのは石、石、石。フェイトによって石像にされてしまった人間達ばかりであった。鈴が気絶させた人間は隠されて、素人の彼女達には見つけれなかった事もあり、ある種のホラー映画のような状況に四人は慌てて屋敷から逃げ出したのだった。
「うわっ、え、なになに? ていうか誰が怪力か!」
「綾瀬さん人気者ね」
「包容力あるからじゃない? おっぱい的に」
「あのね……」
「オレっちの目測だとあれは上から――へぶ!?」
 カモが螢によって木刀で殴られた。
「先輩先輩、変質者! コスプレ変質者が!」
「ハルナ、それではまるで先輩が変質者だと言っているようです」
「あーっ、もう何なのよーっ」
 香純が叫ぶと、少女達が現れた茂みの向こうから再び物音がする。
「ヤバッ、もう来たよ」
 朝倉がそちらを向いて後ずさった。
「他に誰かいるの?」
「い、いえ、それが……」
 のどかが言い終える前に、茂みの奥から大きな影が飛び出してくる。
 それは鬼であった。獣のように逆立つ髪に額から生える二本の角、赤い皮膚に上半身を露わにして腰布だけを身につけ、手には棍棒のような物を持っている。
 屋敷から逃げ出した四人であったが、森を走り回っている内に鬼に見つかり、追われていたのだ。
「ようやく見つけたぞ。はしっこい娘どもだ」
「出たわね露出狂ッ!」
 ハルナが鬼を指さし叫んだ。
「誰が露出狂だ!」
「ならパンツぐらい履きなさいってーの!」
「ああ゛ん? 和服に下着なんぞ邪道じゃボケッ! 日本人なら儂見習って履くな!」
「腰布は和服に入るのでしょうか?」
「そうよそうよ。それにあんた人じゃないでしょ!」
「生まれも育ちも日本だから問題なし! ……む、小娘共が増えた?」
 鬼が香純達の存在に気づき、考え込むように彼女達を見回す。
「そうか、こ奴らが山に侵入したという……好都合だ。この場で全員し――」
「とりゃあーっ」
 口上中の鬼の顔面に香純の木刀による突きが炸裂した。
「ぶふっ、は、鼻がああ!」
「あっ、しまった。つい……」
「ナイスだって香純ちゃん。どう見たって敵でしょ、あれ」
 エリーがどこからから拳銃を取り出し、何の躊躇も無く鬼に向け発砲する。鼻を押さえていた鬼の額に見事命中する。
 銃弾の衝撃で鬼の体が仰け反り、そこに螢が首に木刀を叩き込んだ。
 横へと吹っ飛んで転がる鬼の姿を見て、3ーAの四人が引いていた。
「よ、容赦ないわね……」
「しかも全部急所狙い。エグイわー」
「それより、拳銃を持ってる事に突っ込むべきでは? 銃刀法違反……」
「あ、あの、まだ敵はたくさんいて――」
 のどかの言葉よりも早く、茂みの奥から似たような姿をした鬼達が現れた。
「うわ~ぉ、ゾロゾロと」
 エリーが鬼達に向けて銃を連射する。
「貴女達逃げるわよ」
 螢が逃亡を促す。
「先輩達なら勝てるんじゃ」
「ハルナ、見て下さい。さっきの鬼が……」
「へ?」
 最初に現れた鬼が地面から立ち上がろうとしていた。
「うわっ、生きてる」
「どうやら頑丈さが取り柄のようです」
「いいから逃げるわよ、貴方達」
 森の奥から次々と現れる鬼達に七人が一斉に逃げ出す。
「ま、待ってくれよ姐さん達!」
 ついでにオコジョもその後ろを必死に追い、和美の肩に飛び乗った。
「あっ、まだいたんだ。本気で忘れてた」
「そういえばいたわね、こんなのも」
「やっぱひでえよこの人ら」
「カモっち、あんた何かしたの?」
「何もしてねえ。むしろされた側!」
「オコジョが喋ってる!?」
「今夜は次々と不可解な事が……」
「ああ、もう、いいから走りなさい!」
 カモの存在にハルナと夕映が騒ぎ出して螢が怒鳴った。
「緊張感ないなぁ」
「まあ、あたし達らしいじゃん? よっと」
 エリーが弾を交換して走りながら背面撃ちで鬼達を牽制する。
 やはり頑丈なのか鬼達は銃弾が一発や二発当たっても多少怯む程度、決定打にならなかった。
「待てや小娘共ッ!」
 鬼達は走る、というよりも跳び跳ねることで森の中を駆け回って香純達を追いかける。
「先輩達、ネギ先生の知り合いならあっち関係の人なんでしょ? こう、ドッカーンって事できないんですか?」
 朝倉和美が走りながらエリーに問う。
「できないんだよねえ。うちの男連中ならドッカーンていうか、ザシュウゥッて感じな事できそうだけど……お、良いこと思いついた」
「良いこと?」
「――ッ! 皆、横に跳びなさい」
 和美が問い返そうとした時、螢が怒鳴る。
 宙へ跳んだ鬼達が手に持つ棍棒を大きく振りかぶり、少女達へと思いっきり投げつける。
 悲鳴を上げながらも、それぞれ左右に飛び込むようにして避ける少女達。彼女達が先程いた場所に棍棒が突き刺さり、地面を抉って木々を倒壊させた。
 左側に跳んだのは螢、エリー、和美、ハルナであった。斜面となっていたのか、四人は転がり落ちるようにして転がった。
「すごい怪力ね」
 起きあがった螢が呆れたように呟く。
「うん。まさか櫻井ちゃんや香純ちゃんよりも力持ちがいたんてねえ」
「冗談言ってる場合じゃないわよ、エリー!」
 投げた棍棒を回収した鬼達も左右に別れて接近して来る。
「なら急ぐしかないね。ていうわけでさぁ、カモくん」
「ん?」
 和美の肩にしがみついていたカモが振り向く。
「仮契約の魔法陣描いてよ」
「へ? 別にいいけど何で――って、そうか!」
 エリーの言うとおりにカモが素早く魔法陣を描く。
「え、何この光!? 魔法? 魔法なの!?」
「エリー、貴女まさか!」
 ハルナが騒ぐ中、意図に気づいた螢が後ずさった。魔法陣は螢とエリーを中心に広がっている。
「つうわけで、櫻井ちゃ~ん」
「ちょっと、何で手をワキワキ動かしながら近づいてくるのよ! 今は非常時なんだから真面目にやりなさいよ!」
「真面目も真面目。チョー大真面目」
「ならそんな顔をニヤつかせて――って、ちょ、止め!」

「観念するんだな」
 一方、香純とのどか、夕映の三人は鬼に追いつめられていた。
「………………」
 香純がのどかと夕映を庇いながら木刀を構えてはいるが、怪力を誇る鬼相手には心許なく、鬼の棍棒は木刀よりも長く鉄製で堅い。
「せめてもの情けだ。一撃で楽にしてやる」
 彼女達に立ちはだかる鬼は三体。その内一番前にいた鬼が棍棒を両手で持ち、振り被る体勢を取った。
 その時、森の向こう側から爆音が前触れもなく聞こえて来た。更に、火柱がどこからともなく現れ、地面を走って香純達を襲おうとした鬼達へ向かっていく。
「なんだ!?」
 鬼が跳び退いてかわすと、炎は壁となって香純達と鬼達を隔てた。
 突然の出来事に鬼達をはじめその場にいた全員が音のした方向へと振り向いた。
 森の一部が焼け、炎によって周囲が赤く染まっている。そしてその中心には櫻井螢の姿があった。
「螢!?」
 螢の手には木刀の代わりに、赤い両刃の銅剣のような物が握られており、その剣から炎が発生していた。それだけでなく、彼女自身からも火が吹き出ている。
 彼女の足下には炎を浴びたのか、倒れ伏した鬼達がおり、怪我を負って気力を失っていった者から順に彼らの元いた世界へと帰されていく。
 そんな非現実的な光景の更に後ろでは、俗っぽい会話が行われていた。
「す、すごい……魔法だわ。本物の魔法よ! 漫画のような光景が今目の前に! 朝倉、知ってたなら教えなさいよ。あんたパパラッチでしょうが!」
「私は分別のつくパパラッチだから報道していい事と悪い事の区別ぐらいつけれるから。それよりもデジカメを森の中で落としたのは痛いわー。高等部表ミスツートップの一人と裏ミス二位のキ――」
 和美の隣にあった木がいきなり発火して燃え上がった。
「………………」
「何か言った? 朝倉さん」
 据わった目で螢が見ていた。
「いえ! 私は何も言っていません、櫻井先輩!」
 思わず敬礼のポーズを取る。
「そう」
「櫻井ちゃん、後輩脅して可哀想だって。キスの一つや二つ別にいいじゃん」
「よくないわよ! だいたいねえ、私、は……は、はは初めてだったのに、どうして女同士でしなくちゃいけないのよ!」
「女同士だからカウントされないって。それに、別に舌入れた訳じゃないんだしさ」
「そんなディープなの、キス以前の問題でしょう!」
「あっ! 螢、後ろ!」
 香純が螢の後ろを指さして叫んだ。香純達を襲おうとしていた鬼の一匹が火を飛び越えて突っ込んで来ていた。棍棒を大上段に構え、一気に上から振り下ろす。
 螢は剣を上に掲げ、刃と棍棒が触れた瞬間に剣を斜めに下ろす事でそれを受け流す。そして、逆に隙だらけとなった鬼の腹に振り向き様の一閃を与えた。
「ぐあっ!」
 鬼が悲鳴を上げる。
 木刀の時と違い、赤い剣は鬼の堅い体を見事に斬り裂いた。それだけでなく、傷口を炎で包んで鬼に更なる痛みを与える。
 倒れ、炎に包まれた鬼が致命傷を受けた事で現世から返される。
 それを一瞥し、螢は残った二匹の鬼に視線を移す。
「う……」
 思わず鬼がたじろいだ。
「言ってしまえば、貴方達が原因よね。この落とし前、付けさせて貰うわ」
「えぇッ! 俺らが悪いんか!? ええい、こうなったら殺られる前に殺れじゃあ!」
 ヤケクソ気味に叫んだ鬼二匹が棍棒を構えて同時に螢へと襲いかかる。
 左右からほぼ同時に袈裟へと振り下ろされる二つの凶器。しかし、螢は避ける素振りも見せない。
 ――殺った、と当たる寸前に鬼が思った直後、棍棒は螢の体を素通りした。
「なんだとっ!?」
 まるで空気でも斬ったかのような感触だった。だが、棍棒が螢の体を素通りした瞬間、螢の体が崩れ、棍棒に炎が纏わり付くのを鬼は確かに見た。
 二匹の鬼は勢い余って螢の後ろへと転がり、急いで後ろを振り向いた。
 螢は既に鬼の一匹に斬りかかるところだった。
 その体は陽炎のように一部がボヤケ、鬼の棍棒を受けた箇所が炎に包まれ――いや、炎そのものとなっていた。
「あの娘、まさか火そのものに!?」
 同胞が悲鳴を上げながら斬られ、燃えていく。
「く――オオオオォォッ!」
 鬼の怪力を以てして振るわれる会心の一撃。だが、炎を砕ける筈も無く、どころか螢は剣型アーティファクトの鍔で棍棒を受け流すという技でそれを回避。
 そして、すれ違い様に鬼の腹部が燃え盛る剣によって斬られた。






前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.026090860366821