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No.32793の一覧
[0] 【習作】マリィがネギま世界を流出させました(ネギま×Dies)[紫貴](2012/04/15 16:02)
[1] Diesキャラ・アーティファクトの設定[紫貴](2012/05/04 17:06)
[2] 桜通りの吸血鬼編 第一話[紫貴](2012/04/15 16:04)
[3] 桜通りの吸血鬼編 第ニ話[紫貴](2012/04/15 16:05)
[4] 桜通りの吸血鬼編 第三話[紫貴](2012/04/17 22:51)
[5] 修学旅行編 第四話[紫貴](2012/04/25 21:48)
[6] 修学旅行編 第五話[紫貴](2012/04/22 16:40)
[7] 修学旅行編 第六話[紫貴](2012/04/22 16:41)
[8] 修学旅行編 第七話[紫貴](2012/05/04 17:01)
[9] 修学旅行編 第八話[紫貴](2012/05/04 17:04)
[10] 修学旅行編 第九話[紫貴](2012/05/04 17:05)
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[32793] 修学旅行編 第五話
Name: 紫貴◆c175b9c0 ID:15ac3244 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/22 16:40

 ~麻帆良女子中等部宿泊先~

 女子中等部のホテルは今やほとんどの灯りが落ち、先ほどまで台風の如く騒いでいた3-Aの女子達もほとんどが疲れて寝静まっていた。
「ん~、誰? アスナ~?」
 寝ぼけ眼で布団から起きあがった近衛木乃香はようやく布団に入ろうとした親友の姿を見て首を傾げた。
「あ、ごめんこのか。起こしちゃった?」
 それを聞くと木乃香はフラフラと立ち上がった。
「ちょっと、どこ行くのよ?」
「トイレー」
 危なっかしい足取りトイレへと木乃香が入っていく。
 しばらくすると水の流れる音がし、トイレから木乃香が姿を現した。彼女はそのまま寝ぼけた状態で自分が使っていた布団へと戻っていく。
 明日菜もそれを見届けると上着を脱ぎ、浴衣だけの姿になって布団の中に入ろうとする。
 その時、閉まっていた筈の窓から頬を撫でる温い風が拭き、カーテンが揺れ、明日菜は窓へなんとなく振り返る。
 窓の縁に黒い人影があった。
「だ、だれ――」
 そこで明日菜の意識は途絶えた。

「ん?」
 廊下で各部屋を見回っていた刹那は嫌な予感を覚えた。魔力や気配を察知したわけではない。単純な虫の知らせ。しかし彼女は巡回の途中で木乃香が眠っている部屋へ引き返す。
「神楽坂さ――ッ!?」
 寝ている者を起こさないようそっとドアを開けると、廊下から漏れる光の先、木乃香が眠る筈の布団には誰もいなかった。
「お嬢様!?」
 部屋の中を見回し、何があったのか聞こうと明日菜の姿を探せばすぐに見つかった。布団の上で最初は寝ているかと思ったが、違う。
 神楽坂明日菜は気絶していた。
「神楽坂さん! 大丈夫ですか!?」
「う、う~ん……あれ、桜咲さん。私……」
「誰かに襲われたようです」
「襲われ……そうだ、このかは!?」
「姿が見あたりません。おそらく、神楽坂さんを気絶させた者に」
「大変、追いかけなきゃ!」
「はい。神楽坂さんはネギ先生に連絡を」

「――てわけさぁ。パクティオーカードには色んな機能があるんだぜ」
「へー、なるほどなー」
 外での見回りを行っていたネギは歩きながらカモから仮契約カードの機能について解説を受けていた。
「っと、そうだ。すっかり忘れてたんだが、司狼の兄貴と蓮っていう兄さんもこの間エヴァンジェリンと仮契約行ってたぜ」
「へー、あのエヴァンジェリンさんと? どんなカードなんだろ」
「俺っちもチラっとだけ見たがどんなアーティファクトか正直未知数だな、ありゃあ。てか、司狼の兄貴の仲間達ってよ、いくら魔力を封じられてるからって闇の福音と対等にやり合うあたりタダ者じゃないぜ」
「ま、まあ、そうだよね、やっぱり。日本に来てから色々と凄い人達に会ってきたけど、あれが普通じゃないよね」
 ガイノイドとはいえ少女を一人をダルマにして拉致、挙げ句に子供に銃を向けて人質に取るのがデフォルトならば日本はとっくに犯罪大国だ。
「ただ疑問なのはどういう理由で集まったかなんだよな、あのパーティー。麻帆良生以外の接点が見受けられねぇんだよな」
 と、カモの話の途中でネギの持つ携帯が着信を知らせる。
「あ、ごめんカモ君。あっ、アスナさんからだ」
 カモに断りを入れ、電話に出る。
「あっ! ネギ!? 大変よ、このかが浚われたの!」
「へ? えええぇぇーーっ!?」
「ん? あっ!? あ、兄貴、あれ見てみろよ!」
 電話からの内容に驚いたネギに、肩に乗っていたカモが道の暗がりを指さす。
 ネギが振り返ると、丁度街灯の下を誰かが通り抜けるところだった。
 明かりの下、見えた人影は黒いショートカットをした中年の女性。そして肩にはつい先ほど電話にあった木乃香の体が担がれていた。
「まさか、関西の人!?」
 関西呪術協会の人間と思い、ネギはとっさに浴衣から魔法発動体の予備である折り畳み式の杖を取り出す。
「痛っ!」
 詠唱しようとした瞬間、杖を持つ手に鈍い痛みがはしり、杖を取り落としてしまう。
 同時にネギの視界の隅を小石が宙に跳ねるのを見た。
「投石ッ?」
「兄貴、前!」
「わっ!?」
 相手が自分に魔法を発動させない為に石を投げた、そうネギが理解するよりも速く黒髪の女は彼の目の前にまで近づいていた。
 そして、デコピン。
「へぶぅっ!」
 親指で中指を弾いただけの攻撃で、まるで殴られたような衝撃を受けてネギが地面に転がる。
「あ、兄貴ィ!?」
 地面に着地したカモが地面に着地し、ネギに駆け寄るが完全に目を回している。
 その間にも木乃香を抱えた女は夜の暗がりへ消えていった。



 ~繁華街~

 深夜、と呼ぶにはまだ早い夜。
 よく修学旅行先になる、観光地として有名な京都には全国の学生が集まると言っていい。様々な場所から来る学生達。その中には当然、不良と呼ばれる若者達がいる。
 消灯時間を過ぎ、巡回に回る教師達の目をかい潜って修学旅行というイベントの熱を維持したまま夜の街へと飛び出す者も僅かばかりといえ当然いる。
「見てみろよ。京都なのに沖縄の土産物屋があるぞ」
「明らかに喧嘩売ってるよな。そもそも商売になるのか?」
「知らん」
 煙草をくわえた金髪の青年が話題を振っておいてぞんざいに答える。繁華街のネオンよりももっとアンダーグラウンドな場所が似合いそうな男だ。逆にその隣に立つ黒髪の青年は無愛想だが一般的な若者のように見える。
「てか、いいのかよホテル抜け出して」
「ここまで来て何言ってんだよ」
「後で香純がうるさいぞ……」
「あのバツイチ、すぐにバカスミやツンデレに泣きつくからな」
 蓮と司狼の二人は教師達の目を逃れて繁華街に出ていた。共に私服で街を彷徨き、今はビルの屋上で繁華街の町並みを見下ろしている。
「おい、蓮。向こうの駅見ろよ」
「今度は何だよ」
 ビル内にあるバーから勝手に持ってきた小さな酒瓶を持った手で司狼は街のある場所を指さした。
「あれがどうかしたのか?」
「人気がねえ」
「こんな時間なんだから、無い場所だってあるだろ」
「駅だってのに人がいねぇのはおかしいだろ。それに終電までまだ時間もある」
「……確かにそうだな」
「カード、持ってるよな」
 言って、司狼は瓶の中のアルコールを飲み干す。
「無理矢理お前に持たされたパクティオーカードの事なら持ってるぞ」
「じゃあ、行くか」
「行くってどこにだよ」
「決まってんだろ。せっかく京都に来たんだ。祭りに参加しねえと馬鹿だろ」



 ~駅~

 無人の駅内を一人の女が駆けている。肩には薬でも嗅がされたのか一向に目を覚まさない木乃香が担がれている。
 体重の軽い少女とはいえ、人を抱えた状態で百メートルを十一秒台で走り、ホテルからここまでの道のりで息一つ切らしていない事から女は驚異的な身体能力を持っているのが伺えた。
 女は改札を飛び越え、ホームへと入っていく。
 ホームには無人の電車が止まっており、その前には肩と胸元を露出させた和服に身を包む眼鏡の女が立っている。
 長い黒髪を後ろで束ねた眼鏡の女は暇そうに髪先をイジっていた。彼女の名は天ヶ崎千草。関西呪術協会の呪符使いである。
 千草は木乃香を抱えた女を見ると、顔を一気に朗らかせ、彼女を出迎える。
「鈴はん! いやー、さすがどすなぁ。無事にこのかお嬢様を連れて来てくれたようで」
「まあ、ね。でも悪い。思ったより早く感づかれた。追っ手が来るよ」
「構へん構へん。このかお嬢様さえ手に入ったなら。それに追っ手は想定内です」
 鈴と呼ばれた女は千草の前で木乃香を下ろす。すると千草の足下から猿のデフォルメみたいな式紙が数匹現れ電車の中へと運んでいく。
「待てーーっ!」
 その時、改札を飛び越えて来る者達がいた。
 木乃香の護衛である刹那に明日奈、そして道中で一度気絶させられたネギだ。
「なんや可愛らしい追っ手ですなぁ」
「未熟者とバカだね。ただ、あの眼鏡の坊やは魔法使いだから一応注意した方がいいよ」
 注意した方がいい、と言いながらも鈴と千草は悠々と電車の中に乗り込み、車両の中を移動する。
「逃がさん!」
 閉まり始める電車のドアをギリギリで潜り抜け、転がるようにしてネギ達三人が車両内に飛び込んだ。
 そして、彼ら以外誰もいない電車が動き出す。
「ちょっとネギ、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。まだちょっと頭痛いですけど……」
 転がり込んだ三人は急いで千草達を追う。
「ほほっ、元気の良いお子様どすなぁ」
 隣の車両へ移ると同時に千草が札を一枚を投げ捨てる。
 途端、札に書かれた文字がぼんやりと光りだし、大量の水が札から溢れた。
「うわああぁっ!」
「きゃあっ!」
「くっ」
 密閉された車両が一瞬にして水に満たされ、ネギ達は電車の中で溺れるという貴重な体験をする事となる。
「ほらほら、急いで脱出しんと溺れてしまいますえ」
 車両のドアの向こうでは千草がからかうように窓越しから手を振り、鈴は興味なさそうに椅子に座っている。
「もがもがっ!」
 ネギが魔法を詠唱しようとするが、水の中では喋れない。明日菜も水に呑まれ、満足に動けないでいる。
 陸の生き物である人がそもそも水の中で満足に活動する事など出来はしない。道具や魔法の力で事前に準備していれば可能だが、突如水の中に放り込まれれば意味が無い。
 だが、水中において刹那は鞘から野太刀を抜刀する。水中では水圧もあり、居合い抜きと呼べる技やそれに派生する技術など発揮出来ない。にも関わらず、刹那の斬撃は水を切り裂き、千草達のいる車両にまで届いた。
「んなっ!?」
「チッ」
 迫る斬撃に、鈴は千草を床に引き倒して助ける。
 斬撃はそのまま誰もいない宙を飛び去るが、それによって破壊されたドアが水圧に押し負け、千草達のいる車両にまで水がなだれ込む。
 その直後、電車が駅のホームへ到着と同時に車両のドアが開いた。それのおかげでホームへと投げ出されるものの、水攻めは逃れる。
 ネギ達も水浸しになりながらホームへと流され車両から脱出する。千草達とは違い、溺れかけていた彼らは新鮮な空気を一気に吸いては吐き出す。
「な、なかなかやりますなぁ」
 千草が膝を付きながら立ち上がる。
「助かりましたわ、鈴はん」
「それはいいんだけどね、目標はどこ行った?」
「うえっ!? ほんまや、どこ行ってもうたんやお嬢様」
 傍にはおらず、担いでいた式紙の猿達は一気に流されてしまったようだ。眠らされているので水にも抵抗せず流されるまま流された可能性が高い。
 ネギ達も木乃香の姿が無い事に慌て、周囲を見回した。
「ヒューッ、水も滴るイイ男」
 と、からかうような口笛と声が突然聞こえた。
「司狼、お前一人だけ避けやがって」
 そして、若干の怒りが込められた声もした。
 ホームの改札口前に、唯一水に濡れてない金髪の青年が軽い笑みを浮かべて立っていた。その足下には水浸しになった黒髪の青年が尻餅をついており、膝の上には同じようにびしょ濡れになった木乃香が倒れている。
「蓮さん、司狼さん!?」
「このかお嬢様!」

「よお、ネギセンセー。密度濃い人生送ってんな」
 そう言って司狼は挑発するように、顔に軽い笑みを張り付けたまま周囲を見回した。
 彼ら二人は誰も近づかず、誰もいない駅へと無断で入ったところ、丁度ネギ達が溺れていた電車がやってきた。そしてドアが開くと同時にホームへと流れ込む水に蓮が巻き込まれ、結果的に木乃香を受け止める格好となったのだ。
 司狼だけは木乃香を蓮に任せ、一人だけ水から逃れていた。
「げっ、また出た」
 司狼の顔を見て明日菜が心底嫌そうな顔をする。
「おいおい、そんな嫌そうな顔すんなよなアスナ」
「だってあんたが出てくると嫌な予感しかしないし……」
「司狼、お前の事よく理解してるみたいだぞ」
「つまりはファンか。後でサインやる」
「要らないわよ!」
「プレミア付くぞ」
「付くわけないだろ、馬鹿」
「何言ってんだ、メッチャ価値あるに決まってんだろ。世のお姉様方から人気向上中だぜ?」
「意味分からんねえこと言ってんなよ――っと」
 彼らの会話を邪魔するように、ホームに出来た水溜まりから大きな音がした。同時に蓮は木乃香めがけて飛びかかって来た式紙の小さな猿を殴り飛ばし、司狼が踏みつける。
 千草が眼鏡の奥から蓮と司狼、特に木乃香を抱える蓮を見つめる。
「漫才してるトコ悪いんやけど、このかお嬢様こっちに渡してくれへんかな?」
「断る。どっからどう見ても悪役はそっちだろ。それにそこのコスプレした姉ちゃん、今朝の新幹線にいただろ。カエル入りスナック買わせやがって、金返せ」
「あー、それはどうも毎度ー。まあ、それはともかく、お嬢様くれんのやったら力付くでやるしかあらへんな」
「させんぞ!」
「あっ、刹那さん」
 千草の言葉に刹那が野太刀を構え、突進してくる。
「阿婆擦れ、こっちは私がやるからお前は野郎の相手でもしなさい」
 誰に言ったのか、鈴が口を開きながら刹那の前に進み出る。
「アバズレはやめてぇな~」
「蓮! 後ろだ!」
 どこからか聞こえた間延びした声と共に司狼が蓮の背中を蹴り上げる。
「いってぇな、このボケ」
 痛そうな、不満そうな顔を浮かべながらも蓮はしっかりと木乃香を強く抱きしめながら蹴り上げられた方向に逆らわず、逆にその勢いを利用して立ち上がりながら倒れるようにして前進する。
「――ッづぁ」
 直後、蓮の背中に鋭く熱いものが奔った。

「はあああぁぁっ!」
 立ちはだかる鈴に向け、刹那が太刀を振る。
 相手が何者か分からないが、刹那が気配を察知出来ずに木乃香を浚った事からただ者では無いと理解できる。
 だから全力で、気を高め、己が出せる最速の攻撃を放つ。
 だが、刹那の攻撃は空を切る結果となって終わった。
「――な?」
 鈴は、刹那の攻撃を潜るように紙一重でかわし、そのまま流れるように刹那の斜め後ろに移動した。そして、何時抜いたのか手には柄の高いナイフが握られている。
 殺された。
 そう、刹那は理解した。腹部と首に痛みを感じ、背筋が寒くなる。
 鈴は刹那の攻撃をかわしただけで無く、一瞬の交差で刹那の腹と首をナイフで切りつけていた。
「硬いわね。これだから気を使う連中は……」
 気で身体を強化している刹那の体は物理防御力が強化されている。ナイフ程度では多少の痛みはあっても傷つかない。これがもし、気の守りも貫く武器であったなら刹那は間違いなく首と腹から血を噴出させて死んでいた。
 驚愕に目を見開き、冷や汗を垂らしながらも刹那は切り払いで背後へ移動した鈴に再度攻撃しようとする。
 だが、鈴の行動の方が早かった。彼女は刹那の顔めがけてナイフを投げる。ナイフは正確に刹那の目を狙っていた。
「ちっ」
 とっさに避けるが、回避行動を取ったせいで攻撃の手が遅れる。
 その隙を突いて鈴が刹那の浴衣の襟首を掴むと、停車したままの電車の窓へ叩きつけた。
 窓ガラスが割れ、刹那の体は電車の中に放り込まれて背を椅子にぶつける。
 更には窓の向こうで鈴が懐から銃を取り出し、銃口を刹那に向けて引き金を引いた。
 いくつもの銃声がホーム内で轟いた。

「テ、メェ」
「どうも神鳴流ですー。お嬢様は頂いていきますわぁー」
 ゴスロリ調のドレスを着た眼鏡の少女が、宙をクルクルと回転しながら蓮の手から木乃香を奪う。
 背中を切られた事により、木乃香を抱える手に力が入りきれずあっさりと奪われてしまった。
「それー」
 少女は片手で木乃香を持ち上げると、千草向かって軽々と放り投げた。
「お兄さん方、残念でしたなー」
 少女が蓮に振り向きながら、回転の勢いをそのままに太刀を、背中を切られ倒れつつある蓮へと振り上げる。
「おい」
 倒れる蓮の背後には司狼の姿があり、その手に銃が握られていた。
「吹っ飛べ」
 躊躇無く引き金が引かれ、銃口が火を噴いた。
「おっ、ほっ、と」
 音を壁を突破する銃弾をゴスロリの少女は太刀と小太刀の二刀流で切り落としていく。
「おいおい、とんでもねえな」
 司狼は銃を少女向けて乱射しながら蓮の傍へ歩いていく。
「大丈夫か、蓮」
「一応な。服と皮何枚か切られただけだ。それより俺の服が……」
「新しいの買え。にしても、あのガキ躊躇しないで切りかかって来たな」
 もしあのまま蓮がじっと座り込んでいれば、肩から袈裟切りにされて致命傷を負っていただろう。
「月詠はん、鈴はん、もう用はあらへん。子供と遊ぶのはそのぐらいにして撤退しましょか」
「はいなー」
 月詠が司狼の銃弾を弾きながら、鈴は銃口を刹那からネギや明日菜に向けなおし、発砲しながら千草の元へ後退する。
 ネギは明日菜の前に出、障壁を展開させる事で銃弾を防ぐ。
「ほな、さいなら」
 千草が和服の袖から二枚の符を取り出してそれぞれ左右へ投げた。すると符が炎の壁へと転じ、千草達とネギや蓮達の間に立ちはだかる。
 千草達は炎の壁によって出来た道を利用し、木乃香を担ぎながら改札向かって駆け出す。
「ま、待て!」
 電車の中、鈴の射撃から野太刀とその鞘を使って銃弾を防いでいた刹那が飛び出すが、炎の壁に阻まれる。
「並の術者ではこの火は越える事はできまへん。しばらくしたら消えるさかい、大人しく待っとき。ほほほほ」
「千草、前見て前」
「先輩と死合いたかったんにな~」
 木乃香を浚った三人は出口へと走っていく。
「くそっ」
 悪態をつくが、その間にも三人はどんどん遠ざかる。
「刹那さん、どいて下さい!」
「ネギ先生ッ」
 刹那がネギの前方から退くと同時、ネギは杖を前に掲げ詠唱する。
「ラス・テル・マ・スキル・マギステル、吹け一障の風――風花・風塵乱舞!」
 杖先から突風が吹き荒れ、炎の壁をかき消す。それだけに留まらず、局地的な竜巻は壁の向こうを走っていた三人にも襲いかかった。
「そんな、ウチの術が!」
「こーれだから魔法使いは……」
「きゃー」
 そのまま駅の外へと吹っ飛ぶ千草達。刹那は炎が消えた途端それを追いかけ、ネギと明日菜も慌てて追いかける。
「おーおー、元気だねぇ」
 その後ろ姿を見送りながら、司狼は煙草に火を付ける。
「なあ、司狼」
「なんだよ」
「あのショートカットの女、誰かに似てなかったか?」
「ああ? あー……あーあー、確かに似てたな。で、だからどうしたってんだ。ここまで来たなら関係ないだろ。先に仕掛けて来たのは向こうなんだしよ」
「ああ、そう。それで、どうする気だよ。皆行っちまったぞ」
 溜息混じりの蓮の言葉に司狼は笑みを浮かべる。
「追いかけるに決まってんだろ。お前だって女にやられっぱなしでいいのか? だいたい、目の前で女子供襲われて暢気にしてられるほど腑抜けでもねえだろ」
「お前の場合、面白そうなだけだろ」
「当然」
「お前いつか絶対その好奇心で殺されるぞ」
「お前はとうとう女に背中から刺されたな。刺すじゃなくて切るだったけどよ」
「とうとうってどういう意味だよ」
「そのまんまの意味だ」
 軽口を叩き合いながら、二人も外へ出るために駆けだした。

 駅の外、大階段では千草達とネギ達が睨み合っている。
「しつこい子らですなあ」
 階段を駆け上がる刹那と明日菜。明日菜はネギの従者として魔力供給を受けて身体能力が向上し、ハリセンの形をしたアーティファクトを構えていた。
「しょうがありまへんなあ」
 そんな二人に向かって踊り場にいる千草は肩に担いでいた木乃香を下ろしたかと思うと、彼女の首に短刀を突きつけた。
「なっ!?」
「動かんように。坊やも魔法の詠唱なんて止めや。でないと、このかお嬢様の白い肌が赤色になりますえ」
「くっ……」
「このかさん!?」
 階段を上っていた二人の足が止まり、ネギも詠唱中だった魔法を中止した。
「ほほほ、人質なんか気にせず来ればいいものを、甘ちゃんやなあ」
 木乃香を盾にしながら、千草が逃げる為に後ずさる。
「この卑怯者! このかをどうするつもりよ!」
「んー、そりゃあもう色々と。これほどの魔力、利用しない手はありまへん。まぁ、抵抗されても面倒なだけやし、術やら薬でも使ってこっちの言う事何でも聞く人形にするぐらいの事はさせてもらいます」
「貴様ァッ!」
「おっと、言ったやろ?」
 激昂し、三人が思わず足を踏み出したところで千草の短刀がこのかの首に刺さる。刺さると言っても爪の先程度。それでも一筋の血が流れた。
「自分らの立場解っとらんみたいやね。そっちが怒ろうと喚こうと、こっちにお嬢様がいること忘れたらあかんよ?」
 怒りで血が沸騰しかけ爆発しそうだが、垂れて浴衣が赤く染まった木乃香の姿を見て刹那は歯を噛みしめる思いで踏みとどまる。
 もっと自分がしっかりしていればという後悔と焦りが心に渦巻く。野太刀とその鞘を握る手に無駄な力が入る。
「すごい悪党っぷりね。映画なら死亡フラグよ」
「大きなお世話です。さあ、このまま帰りましょか、二人とも」
 言って、千草は式紙を呼ぶため符を取り出す。
「――千草ッ」
 その時、鈴が怒鳴った。同時に――
「ちゃんとフラグ回収してけよ、なッ!」
 ネギ達が出てきた所とは違う、駅の別の出入り口から跳び出した司狼が、構えも何もない撃ち方で、人質の木乃香などお構い無しに千草向かって銃を連射する。
「あいだぁっ!?」
 轟く十の銃声に、千草は短刀を持つ手の甲、左肩、右足に弾丸を受けてぶっ飛ぶ。
「――な」
「――へ?」
「ち、ちょっとアンタ! このかに当たったらどうすんのよ!」
「当ててないから別にいーだろ。それよか、今がチャンスなんだし動け動け」
 いきなりの再登場でやらかした司狼は、ネギ達に向けてまるで犬でも追い払うような仕草をする。同時に鈴に対し発砲する事で牽制する。
「最近の若者はとんでもないね」
「はっ、人の射撃外させた奴に言われたくねえ。変態技だろ」
「三発も外しちゃったけどね」
「十分過ぎんだろ」
 緊張感の無い会話をしながら、二十メートル離れていない距離、互いに遮蔽物無しで司狼と鈴は撃ちまくる。
 そして、笑みを浮かべながら銃撃戦を繰り広げた二人に唖然とするネギ達よりも早く、木乃香へ向けて駆けだす影があった。
「あっ、蓮さん!」
「――お、お嬢様!」
 ネギの声に、慌てて刹那と明日菜が蓮に続く。
「そうはさせへんよー」
 司狼が出てきてから一連の出来事に驚いていた月詠が、若干慌てた様子で蓮向かって太刀を振る。
 半分反射的な斬撃の為、スピードは若干遅い。しかし裏の世界の人間では無い一般人相手であるならば十分過ぎる速さを持っていた。
「アデアット」
 だが、肉を切り骨を断つかと思われた刃は赤銅の金属によって阻まれた。
「お前、単純過ぎんだよ。うちのバカより分かりやすいぞ」
 斬首を狙い振った太刀は蓮の右手で受け止められている。彼の右手はアーティファクトである赤い紋様の入った黒の手甲によって覆われている。
 太刀の刃を掴みながら蓮は月詠めがけて走る。太刀と手甲の間から火花が散る。
「あららー。でも、もう一本ありま――っ!」
 左手に持つ小太刀が銃弾によって弾かれた。司狼によって放たれた弾だ。
「ちょっと、私の知ってるデザートイーグルと違うわよ、それ。一体いくつ装填できるのよ」
「便利だろ」
 司狼のアシストを受け、蓮は月詠に肉薄し左手を強く握って拳を作る。
 少女相手に、容赦なく、それどころか背中の傷の恨みも込めて力強く抉り込むように顔面を殴った。
「あ、あかん、眼鏡が」
 従者としての魔力供給を受けていないので、蓮の拳の威力は平常時と何ら変わりなく、当たったとしても気を扱う月詠にはダメージならない。けれども、顔にかけた眼鏡は別であった。フレームは曲がり、レンズも割れる。眼鏡が無いと何も見えない彼女は視力を失ったも同然だ。
 その間に明日菜と刹那が蓮を追い抜き、木乃香の元へ駆けつける。
「あいたたた。障壁無かったら死んどるとこやったわ。って、させまへん!」
 接近する二人に対し、千草は式紙を二体放つ。見た目はこそ猿と熊の巨大なヌイグルミであるが、陰陽師の使う善鬼と護鬼に違いない。
「そりゃあーーーーっ」
 違いないが、稀有な魔法無力化体質にアーティファクトも同様の性質を持つ明日菜にとって相性の良い相手だった。
「んなアホなっ!?」
 ハリセンで叩かれ、消滅する自分の式紙。さすがの有り得ない光景に驚いている間にも刹那が千草に向けて野太刀を振り下ろした。
「くぅっ」
 千草は防護用の符を前に掲げ、頭上から来る太刀を防ぐ。しかし、その衝撃によって後ろへと転がって木乃香との距離が更に広がった。
「このかお嬢様!」
 刹那が木乃香を抱き上げた。
「こうなったら……」
 木乃香を奪い返された千草が新しい符を取り出そうとする。その時、一番後ろにいたネギが魔法を発動させる。
「風花・武装解除!」
 一陣の風が突風となって千草へ襲いかかる。彼女は防御用の符を出そうとするが遅い。
 武装解除の魔法が当たるかと思った時、千草の前に鈴が割り込んで来る。
「この魔法知ってるわ。人を裸に剥く猥褻魔法でしょ」
「違いますよ!?」
「疑問系じゃない」
 ネギの否定の言葉を聞きながら、鈴は上着を脱いで魔法にあえてぶつけさせた。
 上着が細切れにちぎれ風に舞う。そして上着に収納されていた武器の数々が宙に飛んで地面へと落ちた。
「…………どんだけ隠し持ってんだよ」
「か弱いからね。備えあれば憂い無しよ」
「どこがか弱いんだよ」
 呆れ混じりの司狼の突っ込みに鈴はさも当然と答える。上着には銃身を短くしたショットガンと拳銃二丁にそれらの弾丸、ナイフ、投げナイフ一式、そして手榴弾。
「ここは一旦退いた方がいいよ、千草」
 宙に待った武器からショットガンを掴んで片手で弾丸を器用に装填。空いた手では手榴弾らしき黒い筒を掴む。
「しょうがありまへんな。月詠はん、撤退しますへ」
「メガネメガネ~」
「後にしぃ!」
 歯で筒に付いたピンを外そうとしながら鈴がショットガンの銃口を刹那に向ける。
 刹那は木乃香を庇う為に刀を構えた途端、いきなり襟首を掴まれ後ろに引っ張られる。
「この馬鹿ッ!」
 蓮が刹那と木乃香を後ろへ引っ張り倒し、踊り場から階段へと転がるよるにして下がる。直後、刹那が先程までいた場所に無数の穴が空いた。
 散弾銃は一度に無数の飛礫を発射する銃であり、いくら刹那が気を持ってしての身体強化があるとは言え全てを防ぎ切る事はできない。
 散弾を撃ちながら、鈴は筒を投げた。踊り場手前まで転がったそれは、端から大量の煙を噴出し、踊り場から上を全て包みこんだ。
「このかーーっ、桜咲さーーん!」
「んなバカ声出さなくても聞こえるだろ」
「バカって何よ、バカって!」
「おい蓮、生きてるか?」
「皆さーん、無事ですかー?」
 外の為か煙は思いのほか早くに晴れ始め、そこに千草達の姿が見えなくなったところに司狼、ネギ、アスナの三人が階段を上って来る。
「まあ、なんとかな」
「あの、そろそろ退いてもらえないでしょうか……」
「ん? ああ、悪い」
 刹那の頭を押さえ付けるよう掴んでいた手を離すと蓮はもう一人庇っていた少女の無事を確かめた。
 携帯電話のカメラのシャッターを切る音が聞こえた。
「……おいテメェ、なに写真取ってる」
「だって、なぁ」
「なぁ、じゃねえ。今すぐ消せ」
「断る」
 蓮は司狼に掴みかかった。
 その間に地面に放置された木乃香の様子を刹那が見、ほっと安堵の息を吐いた。首に付いた小さな傷を除けば木乃香は無傷だ。よほど強力な薬を嗅がされたのか、多少うなされる程度で、あれほど大騒ぎしたと言うのに起きる気配は無い。
「あ、あの、蓮さん。背中の傷を治しますからそんな暴れない下さーい」
「だってよ蓮。じっとしてろよな」
「ならその写真消せ」
「やっだぴょーん」
「キモイぞテメェ!」
 安堵はしたが、後ろの男子二人の騒がしさに溜息を吐いた。いまいち真面目にする気がないのか、実弾が飛び交った戦闘後だと言うのに。
「何やってのかしら、あの二人……」
 明日菜の言葉に、刹那も同意見だった。しかしそれでも彼らは木乃香救出に協力してくれた。彼らの態度はともかく、礼を言わなければならない。
 そっと木乃香を横たえ、刹那は立ち上がる。
「じゃ、そういうことで。また何かありそうなら連絡してくれ」
「じゃあな、ネギ先生。あんま無茶すんなよ」
 いきなり二人が帰ろうとしていた。
「えっ、ちょっと待ってください!」
 刹那が引き止めようとするが、
「オレの事が知りたい? よしわかった。スリーサイズを教えてやる」
「誰もそんな事知りたがらねえよ。とっととホテル戻って寝ろよな。子供はもう寝る時間だぞ」
「なにカッコつけてんだ、蓮」
「どこがだよ」
 刹那の言葉に聞く耳持たず、二人はさっさと階段を下りて行った。
「あ、あのー……」
「あの人達、突然現れては消えてくからあんまり気にしない方がいいわよ、桜咲さん」
「そうなのですか?」
「前の時もそうでしたね――あ、しまった!」
「どうしました、ネギ先生」
「この惨状、どうしましょうか……」
「あ」
「あー……」
 駅前は、空薬莢や催涙弾の筒、銃痕などがなまなましく残っていた。
「まさかあの人達、僕達に後始末を押し付けた、のかな?」
「さ、さすがにそれは……」
「いや、すっごいありえそうなんだけど……」



 ~千草の隠れ家~

 和装の広間で、鈴は柱に寄りかかり座った姿勢で銃を整備していた。
 日付が変わった深夜、夜の帳が部屋に闇を下ろしている。
 彼女は缶コーヒーの縁部分をくわえたまま、蝋燭の小さな明かりの下素早く手を動かす。留め具は外し、パーツごとにバラし、布で拭いていく。
 一通り拭き終わると今度は組立始める。手が別の生き物のように素早く動き、一切の無駄が無く正確に組み立て終える。
 手持ちの銃を一通り点検し終えると、次は弾倉に弾を一つずつ手作業で、地道に込めていく。
「器用なんですな~」
 高く間延びした声が部屋の暗がりから聞こえ、割られた眼鏡のスペアをかけた月詠が現れる。
「何か用?」
 振り向きもせず、鈴は淡々と弾を込めていく。
「用って程でもないんやけどー」
 月詠が近づいてくる。手には鞘に納められていない太刀と小太刀が握られている。頬はどういうわけか紅潮し、目には妖しい輝きがある。
「先程の戦いの事なんですがー。あんさん、銃弾を撃ち落としたやろ~?」
「たまたまね」
 駅前での木乃香誘拐失敗。その時の戦闘で鈴は司狼が千草に向かって撃った弾を文字通り撃ち落としていた。
 司狼が撃ったのは五発。それぞれ眉間、心臓、肩、手、足を狙ったものだったが命中したのはその内三発。司狼が外したわけでは無い。
 眉間と心臓を狙った弾丸は当たったところで障壁に阻まれ結局は意味の無い行為ではあったが、障壁が無ければ逆に即死だ。それを鈴は射撃によって撃ち落としたのだ。残り三発は外してしまったが、死ぬ事は免れる箇所だ。
 銃弾を同じ銃弾で撃ち落とし、致死率の高い攻撃は何としても防ぐ土壇場での技量。人間業では無い。そもそも、銃から発射された弾を銃弾によって防ぐという発想する時点で無茶苦茶で、実際にやってのけてしまっては出鱈目にも程がある。
 そして、そんな魔技を見逃す月詠ではなかった。
 言い訳がましいが、蓮の一撃を許したのはそれが原因だ。いくらあの女顔の青年がアーティファクトを隠し持っており、刀を持った人間に殴りかかる度胸を持つとは言え所詮素人。その接近、ましては攻撃を受けるなど本来ならありえない。
 未熟と言われればそれまでだが、月詠は未だあの時の驚愕と興奮に包まれ、熱を持っていた。
「櫻井鈴、表の人間でありながら裏でもその名を知られている人物。数々の武勇伝は真実だと納得するしかありませんなー」
 武勇伝、ね――と自嘲するかのように鈴が呟く。
「魔族も殺したそうですなー」
「魔族? ……ああ、化物ね。それはさすがに尾ヒレがついてるわね。魔族じゃなくて半魔族よ。それに、殺したじゃなくて殺し損ねたのよ。トドメ差す前に魔法使い連中に止められたの」
「どちらにしても、ソソられる事には変わりありまへん」
 ゆらりと月詠の手が動く。
「もう遅い時間だからガキは歯磨いて寝なさい」
 殺気にも似た気を発しているにも関わらず、鈴は見向きもしないで作業を続ける。
 月詠の雰囲気に気がついていないのか、分かった上で見もしないのか。
「ウチはそこまで子供じゃありません。それに強い人が大好きなんよ。だからそんなツレない事言わんといて欲しいわぁ」
「私は好きじゃないから。邪魔だしどっか行ってくれる?」
 常人ならば月詠が発している気に身を震わせ畏れさせられるだろう。だが鈴は変わらず黙々と弾を込め続ける。目も合わせたくないという意思表示にすら思える。
「そんなぁ冷たいわ~。どうやったらやる気になってくれるんやろ。なぁ~」
 色情の艶が混じり始めた言葉と同時に、月詠の太刀が煌めく。
 鈴が寄りかかっていた柱が一瞬にして輪切りにされた。
 柱のが崩れ落ち、大きな音を立てて落下し埃が舞う。
 これでは柱に背を預けていた鈴もただでは済まない。だが、彼女は先ほどと同じ場所、柱が無いのに同じ態勢で平然と座っていた。
 それを見て月詠の笑みがより深くなる。
「さすがやわ~」
「さすがも何も、あんた分かりやすいのよ。斬る妄想のし過ぎで外に漏れ出てる。そんなんだからあの女顔にも止められるのよ」
「ウチもまだまだ未熟ってことは理解してますえ。でも、あんなもの見せられたら誰だって驚きます」
「そういう意味で言ったんじゃないんだけどね」
「そうなんどすか? 気になりますな~」
「教えると思った?」
「あん、冷たいわ~。古強者の鈴はんには色々と御教授願いたいんよ~。だから……」
 右手に持つ太刀の切っ先が鈴の喉元に伸びた。
「……はぁ。どうして分からないのかしら」
 溜息を一つ漏らす。
「喘ぎたきゃ一人で首でも掻き毟ってりゃあいいのよ戦狂い。お呼びじゃあないの」
 首元に刃物を突きつけられた人間とは思えない鋭い眼光で鈴が月詠を見上げた。
「やっぱええわぁ、鈴はん。やっぱ戦いたいわぁ」
「願い下げよ」
 二人の間に剣呑な空気が流れ始める。
 鈴は整備したばかりの銃に弾倉を叩き入れ、月詠は太刀に力を込める。
 銃声が轟いた。
「………………」
「コソコソしてないで出てきなさい」
 硝煙を昇らせた銃口を正面の、誰もいないはずの暗がりに向けたまま鈴が言う。月詠も太刀を下ろし、暗がりを見つめていた。
「取り込む中のようだからしばらく様子を見ようと思ったんだ。気を悪くしたなら謝るよ」
 暗闇から、まだ声変わりも始まっていない少年の声が聞こえた。同時に足音も聞こえてくる。
 暗闇の黒とは対照的な白髪をした少年が闇の中から出てくる。
「でも、さすがにいきなり撃って来るとは……」
 少年は眼前に握り拳をおいていた。鈴達に向けていた手のひらの、閉じていた指を開く。手の中から一発の銃弾が滑り落ちた。
「危ないじゃないか」
「知らないわよ。死んだ奴が悪い」
「すごい事を平然と言う人だね……ところで、近衛木乃香を誘拐した寄り合いはここでいいのかな?」



 ~麻帆良高等部宿泊先ホテル:ロビー~

「何か言う事はないのかな? そこの馬鹿二人。はい、蓮」
 ロビーの待合い用のソファーに、五人の男女が集まっている。内三人の女子がソファーで残り二人の男子は床だ。
「何で俺らが正座させられてんだよ。ってか、前にもこんな事あったよな」
「知らないわよ。日頃の行いが悪いからじゃない」
「なんていうんだっけ? 既知感ってやつだね、きっと」
 エリーが一人コーヒーを持ってニヤニヤしている。
「デジャヴる光景だ。お、デジャヴる……これは流行る」
「流行る訳ないだろ」
「うがぁーーーーっ、あんたら真面目に聞きなさいよっ!!」
 香純が吠えた。
「ぅあっ、綾瀬さん、声大きすぎ。耳がキーンとなったわ」
「わっ、ごめん螢」
「つか何でわざわざロビーなんだよ。皆見てるし恥ずいだろ」
「だ・ま・れ。あんたら昨日抜け出して外出歩いたでしょ」
「そうだ。悪いか?」
「悪いに決まってるでしょバカ司狼! ふんぞり返ってい言わない! 蓮もさ、ホイホイ付いて行かないで止めなさいよ」
「何で俺まで……。だいたいこっちだって無理矢理付き合わされた側なんだよ。俺に文句言ったってしょうがないだろ」
「嘘ね」
 螢が言い捨てた。
「はい、嘘いただきましたー」
「黙ってて遊佐君」
「黙れ司狼」
「なにこいつら、息合いすぎ」
「ともかく、昨日どこで何をしていたのかな二人とも。正直に答えないとシバくぞこの野郎」
 青筋を浮かべた笑顔で香純が詰め寄って来た。
「お姉様方をナンパしに」
「なんぱぁ?」
「何で巻き舌なんだよ」
「ほうほう、ナンパねえ。エリー」
「んー、あぁ、はいはい」
 エリーが後ろに手を回し、服を一着取り出した。
「……俺の服」
「あーあー」
 昨夜蓮が着て、明け方前には捨てた服だ。背の部分には鋭利な刃物で切り裂かれた痕とその周りに乾いて変色した血痕が残っている。
「そのお姉様っていうのはアレ? SMとか好きな人なんですか。っていうかこれムチじゃなくて刃物じゃん。すごい人ナンパしましたねぇ。――で、本当は何やってたのよ」
 怒気の中に悲しみの色が出る。
「あんた達、何か危ないことしてるんじゃないの?」
「それは……」
「まあ、服は見た目派手になってるけど、今朝見たら蓮くんの背中に傷なんてひとつも無かったから大丈夫でしょ」
「待てエリー。俺はお前に背中なんて見せた覚えないぞ」
「覗き見。そんな怒った顔しなくてもいいじゃん。私の裸見せてあげるからさ」
「見ない。てか、何で捨てた筈の服があるんだよ。人のゴミ漁るなよな」
「いやさ、蓮くん。てきとーにゴミ箱に詰めただけじゃ駄目でしょ。片袖はみ出て目立ってたし」
「先生に見つかる前に回収した私達に感謝して欲しいわね」
「だーかーら、燃やすか切り刻めっつったろ。バレバレじゃねえか」
「厨房からガスコンロ掻っ払って来るよりマシだろうが」
「話逸らさない。それで、本当は何があったの」
「しょうがねえな。なら見せてやるよ」
 言って、司狼がおもむろに携帯を取り出した。
「ちょっと待てバカ」
 嫌な予感を覚えた蓮が司狼の携帯を取り上げようと手を伸ばす。
「もう遅ぇ」
 携帯を奪うと、画面にはメールの送信が完了したというメッセージが表示されていた。同時に女性陣の携帯が一斉に鳴る。
 蓮が携帯を操作して司狼が送ったメールの内容を確認すると、昨夜の蓮が木乃香を膝の上に乗せている写真だった。
「わお、びしょ濡れで乱れた浴衣姿がセクシー」
「……」
「……」
 エリーを除いた女子達の蓮を見る視線が冷たかった。



 ~千草の隠れ家~

「湾岸戦争の時、デルタに混じってスカッドハントしたけどさ、あいつらよく走るはよく撃つはよく当てるはでヤバかったわ」
「スカッドハント?」
「ミサイルの発射台兼ねた輸送車を狩るのよ。たくさんあるし、一機でも残したら面倒だから隠されないよう全部壊すの」
「はー、色んな事やっとんやなー」
「まあね。昔は手榴弾だけで戦車に突入なんて無茶もしたわ。あの時は死ぬかと思った」
 広間には、鈴と黒髪の少年が談笑していた。活発そうな少年の頭からは犬の耳のようなものが生えている事から唯の人間ではない。少年は狗族と人間のハーフだ。名前は犬上小太郎という。
 小太郎は本来、木乃香誘拐後の儀式の際の護衛として雇われていたのだが、予定が狂ってしまったので今は手持ち無沙汰になっており、暇つぶしに鈴の昔の話に耳を傾けていた。
「そーいや、おばさんってあの千草の姉ちゃんとなんか親しそうやったけど、仕事以外でつき合いあったんか?」
「意外と目敏い子ね。まあ、そうだね。千草とは前々から知り合いだったわよ」
「どういう繋がりなん? おばさんとあの姉ちゃんの接点がわからん。表の世界の傭兵とは言え魔法使いじゃないんやろ」
「んー、昔あの子がイギリスに来てね。その時会ったのが最初」
「千草の姉ちゃん、西洋嫌いなのにイギリス行ったんか」
「西洋嫌いっていうか、あー、そっちじゃ何て言うんだっけ? 西洋魔術師だっけ。私からすればどれも一緒だけど、ともかく千草が嫌いなのは西洋魔術師であって西洋文化じゃないのよ」
 喋りながら鈴は缶コーヒーの蓋を開ける。
「それであの子行き倒れてたのよ」
「行き倒れ!? いきなり話飛んだな」
「西洋魔術師に対抗する為に西洋魔術について知ろうとイギリスへ来たみたい。敵に勝つためには敵の事を知っておく必要があるからね。まあ、意気込みと発想は悪くないんだけど、現地の人間に騙されて荷物盗まれて、飢え死になりかけてたら世話無いわよね」
 缶の中身で喉を潤す。足下には同じ缶が開いているものから未開封のものまで転がっている。小太郎の傍にも一缶あるが、そちらはあまり手がつけられていないようだ。
「もしかして行き倒れた姉ちゃんを助けたのがきっかけか?」
「同じ日本人のよしみでね。ナマモノ拾うのは一度後悔してた筈なんだけどねぇ」
「ナマモノ?」
 小太郎が鈴の言葉の意味を飲み込めずにいると、広間の扉が開いて白髪の少年が入ってきた。
「どうだった?」
「犬上小太郎と同じで追加依頼として誘拐の方にも手を貸す事になったよ。よろしく」
 無表情な少年の感情は読み取りにくい。何も感じてなさそうに見えるが、面倒臭そうにも見える。
「はい」
 そんな少年に鈴は缶コーヒーを放り投げた。事も無げに受け取ると、白髪の少年はラベルを眺める。
「これは、なにかな」
「仕事仲間に対する挨拶よ」
「………………」
 少年は少しの間缶コーヒーを見つめると、プルタブに指をかける。
「……」
 なかなか開かない。
「お前そんなんも開けれんのか」
「缶の飲み物なんて初めてだから……」
 小太郎の呆れた声に特に反応する事もなく少年はプルタブを爪で引っかけようと奮闘する。ようやく開ける事が出来、少年は中身を口に含んだ。
「美味しいね」
「あら、味が分かるね、あんた。こっちのお子様とは大違いだよ」
 鈴が小太郎を親指で示し、小太郎は不機嫌そうになる。
「子供扱いすんなや。オレだってコーヒーくらい飲めるっての。ただ、おばさんが飲んでるのが異常に苦いんや」
「子供ね」
「子供だね」
「子供扱いすんなや!」
 小太郎は怒りを顕わに怒鳴るが、二人は無視して缶コーヒーの苦味を堪能した。





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