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No.32793の一覧
[0] 【習作】マリィがネギま世界を流出させました(ネギま×Dies)[紫貴](2012/04/15 16:02)
[1] Diesキャラ・アーティファクトの設定[紫貴](2012/05/04 17:06)
[2] 桜通りの吸血鬼編 第一話[紫貴](2012/04/15 16:04)
[3] 桜通りの吸血鬼編 第ニ話[紫貴](2012/04/15 16:05)
[4] 桜通りの吸血鬼編 第三話[紫貴](2012/04/17 22:51)
[5] 修学旅行編 第四話[紫貴](2012/04/25 21:48)
[6] 修学旅行編 第五話[紫貴](2012/04/22 16:40)
[7] 修学旅行編 第六話[紫貴](2012/04/22 16:41)
[8] 修学旅行編 第七話[紫貴](2012/05/04 17:01)
[9] 修学旅行編 第八話[紫貴](2012/05/04 17:04)
[10] 修学旅行編 第九話[紫貴](2012/05/04 17:05)
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[32793] 桜通りの吸血鬼編 第ニ話
Name: 紫貴◆c175b9c0 ID:15ac3244 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/15 16:05

 ~女子中等部校舎前~

 桜咲刹那は放課後、部活動に参加する為に剣道部へと足を運ぼうとしていた。その時、道中に見知った人物を見つける。
「あれは……」
 黒い長髪の和風美人と言った感じの少女――櫻井螢がいた。彼女は刹那と同じ剣道部の、それも高等部の先輩だ。特に親しいと言うわけでは無く部活動でニ、三言喋る程度の中だが、彼女の兄にはルームメイトの龍宮共々世話になっている。部活の事もあってこのまま無視する訳にもいかない。
 高等部の彼女がどうしてこんな所に、と疑問に思いつつも近づく。向こうも刹那を見つけたらしく目が合う。
 その時、螢の傍にもう一人いることにようやく気づいた。
 金髪で、制服を着崩し、堂々と煙草を吸っている高等部男子だった。
「………………」
「遊佐君、やっぱり通学路で煙草吸うの止めてくれないかしら。変な目で見られるのよ。現に後輩の子が怯えてるわ。貴方、藤井君と違って立っているだけで危ない感じがするもの」
「危険な香りのする男はモテんだよ」
「ニヒルに笑ってるつもりなのかも知れないけど、人を馬鹿にしてるようにしか見えないわ。それに、チンピラの間違いでしょう」
「………………」
 刹那は声を掛けるべきかどうか今更ながら迷った。しかし、先に螢の方から声を掛けて来る。
「こんにちわ、桜咲さん」
「……こんにちわ、櫻井先輩。今日はこんな所で一体どうしたのですか?」
「少し用事があってね。忙しいから剣道部にも顔出さないつもり。ああ、綾瀬さんも風邪でしばらく休むから」
「そうですか。綾瀬先輩、風邪なんですね」
「バカは風邪ひかないってのは嘘なのが証明されちまった瞬間だな」
「彼は放っておいてはいいわよ」
「は、はあ……」
「ところで、貴女って確か3ーAだったわよね。ネギ先生ってまだ校内かしら?」
「ネギ先生にご用ですか。先生なら――」
 そこで刹那はクラスメイト達が『元気づける会』などと言って水着を用意し、ネギを拉致って行った光景を思い出した。
「……まだ校内に残っていると思います?」
「そう。……部活、行くんでしょう。あまりゆっくりしてていいの?」
「あっ、そうですね。それでは、私は失礼させてもらいます」
 軽くお辞儀をし、多少訝しげに刹那はその場から去っていった。
「あの子供先生、まだ仕事中みたいね。終わるのは何時頃かしら」
「さあな」
 煙草の吸い殻を捨て、司狼が歩き出す。
「どこに行く気?」
「校舎。暇だし、このままずっと待ってるよりは直接行った方が効率良いだろ。すれ違いにならねえようにお前はここに残ってろ」
「ちょっと待ちなさい!」
 螢が止めるも、司狼は校舎に向かって行ってしまった。
「向こうは女子校なのよ……」

 校舎に入り、ネギを探して歩いていた司狼は早速後悔した。
「何が悲しくて十歳児が中学生にセクハラされる光景見ねえといけないんだ?」
 塀の上でヤンキー座りをしながら紫煙を吐き出す。
 眼下では裸のネギに対し、女子達は全員水着で群がっている。どう見てもセクハラの現場だ。
「アホらし。帰るか」
 盛大にやる気を削がれた司狼が帰ろうとしたその時、小さな影が素早い動きで駆け回るのを見つけた。
 小さな影は女子達の間を走り回り、水着を脱がしたり胸を触っていく。
「こらぁーーっ! アンタ達何やってんのよ!」
 そこに明日菜が現れてクラスメイトを咎めるが、突然飛びかかってきた影を反射的に叩き落とす。
 影は一度地面に叩き付けられたが、そのまま逃げていってしまった。
「……へえ」
 小さな影の様子を見て、先程までつまらなさそうだった司狼の顔に笑みが浮かんだ。



 十数分後、明日菜に救出されたネギが彼女と共に帰路に付いていた。
「まったく、あいつらときたら」
「でも、ちょっとだけ元気が出ました」
「本当かしら……。そういえば、あんた朝元気無かったから聞けなかったけど、あの高等部の人達の事どうするのよ。魔法、見られたんじゃないの?」
「あっ……」
「忘れてたのね」
 真祖の吸血鬼から狙われ、それが受け持ちの生徒だったのだ。ネギの頭はその事で一杯になり、魔法の秘匿についてすっかりと失念していた。
「な、なんとか探して、記憶を消さな――」
「その必要は無いわ」
「え?」
「あっ、昨日の!?」
 ネギと明日菜の前に、螢が立っていた。
「その昨日の事で話を聞きたくて来たんだけど、二人とも時間空いてる?」
「はい……」
「なら場所を移動しましょうか。こんな所で立ち話もなんだし、他の人に聞かれたく無い話もあるでしょう」
「え、えっと……」
 それは確かにありがたい提案ではあるが、昨日の事件で彼女がちょっと普通では無いと、怖い部類に入る女性だとネギは認識してしまい及び腰だ。
「まさか断るわけねえよな」
「うわっ!?」
 突然背後から声をかけられ振り向くと、司狼がいた。
「何でそう意味ありげな登場するのよ。あのまま消えてくれれば良かったのに」
「置いてく気だったのかよ。だいたい、主役のオレがいねえと始まらねえだろ?」
「貴方がいたら始まる話も始まらないわよ。それに、何でわざわざ後ろから現れるのよ。これじゃあ挟み撃ちしてるみたいじゃない」
「嘗められたらダメだろ」
「意味が分からないわ」
 頭上で飛び交う言葉にどうしたらいいかと迷っている時、ネギは司狼が手に持つ白い物体が視界に入った。
「カ、カモ君!? 一体どうして!?」
 アルベール・カモミール。過去にネギに助けられて以来彼を兄貴と呼び慕うオコジョ妖精のオスが、尻尾を捕まれ逆さ吊りになっていた。
「う、う~ん……はっ!? あ、兄貴!」
「オコジョが喋った!?」
「だ、ダメだよ人前で喋っちゃ!」
「いや、もう手遅れだし」
「……遊佐君、どうしたのよコレ」
「拾った」
「拾ったって……喋るオコジョなんてそう拾える訳ないでしょうに」
「あ、兄貴ッ、タスケ――」
「あ?」
「いや、何でもないっス」
「あの、カモ君を返して下さい!」
「ほれ」
「――え? あ、ありがとうございます」
 あっさりと投げ渡され、呆気に取られる。
「うおおぉーーっ、兄貴ーーっ、会いたかったぜ!」
「久しぶりだね、カモ君。でもどうして麻帆良に?」
「そいつぁ――」
「そのオコジョ、女子の下着とか盗んでたぞ」
「え?」
「……まさか、さっきのはアンタの仕業? このエロオコジョ!」
「ぬおぉ!? つぶ、潰れる、内蔵出る!」
「アスナさん落ち着いてくださーい!」
「何かカオスって来たな」
「誰のせいよ……」
 だから一緒に行動するのは嫌だったのだ、と言わんばかりに螢は溜息をついた。



 ~喫茶店――より数メートル離れた物陰~

「こいつはスクープの臭いがするわ。フフフ……」
 麻帆良のパパラッチこと麻帆良学園報道部の朝倉和美は路地の影に隠れ、オープンカフェの席に座る男女四人の様子を観察していた。四人は聞かれたく無い話でもあるのか、隅のテーブルに陣取っている。
 会話の聞こえる距離まで近づきたかったが、オープンカフェという構造上近づく者がいれば簡単に見つける事が出来る為、迂闊に近づけないでいた。
「狭く障害物の多い店内じゃなくて、広く見通しの良い外でなんてやるじゃない」
 一体誰に対して褒めているのか、和美は小さく笑いながらその様子をデジカメ片手に見ているしかなかった。
 どうして彼女がこんな事をしているのか。それはネギと共に歩く高等部の生徒の姿を見つけたからだ。
「まさかネギ先生とあの二人が知り合いだったなんて。絶対何かあるわね」
「あの二人って言うからには有名なの?」
「有名も有名。高等部表ミスのツートップの一人、櫻井螢。そして、学園抗争時にあのデスメガネことタカミチ先生から唯一逃げ延びた不良、遊佐司狼。中等部じゃあんまり知られて無いけど、高等部じゃ有名よ」
「へえ、二人とも結構有名人だったんだね」
「そんな二人がネギ先生と会っているなんて、スクープの臭いしかしな…い……わ? ――って、うわっ!?」
 今更自分の隣に人がいた事に気づいた和美だった。
 ――げぇっ! 裏ミスの氷室玲愛!?
 和美の隣にいたのは、制服を来た玲愛だった。いつの間にいたのか、居て当然という佇まいで彼女は和美の驚きを無視して喋り続ける。
「今思ったんだけど、スクープの臭いってどんな臭いなんだろ?」
「え? ――さ、さあ?」
「その様子からすると、貴女報道部だよね。報道部なのにスクープの臭いがどんな臭いなのか分からないの? 恥を知りなさい」
「ご、ごめんなさい?」
「初キッスもレモン味とか言うけど、実際はどうなんだろ。チョコレート食べてたらチョコ味になると思わない? 私、予約済みだから経験無いんだ。貴女は?」
「多分、ないです。はい」
「多分?」
「いえ! 全くもってありません!」
「そう……」
「…………」
「…………」
「……あの、先輩はどうしてこんな所に?」
「散歩してただけだよ。本当は図書館島に用があったんだけど、あそこって広すぎない? 迷路みたいになってるし、図書館島と言うより図書迷路島みたい。図書館として大切な機能が備わって無いよね」
「そ、そうですね」
「人捜してたんだけど、最深部には迷わないと行けないみたいで諦めて帰ってきたの。何だかバカバカしくなって来たから、今度燃やしてやろうかと思う。貴女もやる?」
「やりません」
「きっと楽しいよ。キャンプファイヤーみたいで」
「普通に犯罪ですから! キャンプファイヤーどころの騒ぎじゃないですから!」
「でも、図書館島が全焼すればスクープだよ?」
「そんなマッチポンプやりませんって!」
「偉いね。報道者の鏡だね」
 無表情で言われても全然嬉しく無かった。
「ところでさっき、げぇっ、なんて思ったでしょう」
「人の心読まないで!」
「顔見れば分かるよ。それでその、げぇっ、て言うのはどういう意味かな? 初対面の人にそんな風に言われたらさすがの私も傷付くんだけど」
「あーと、それはその~」
 ――だ、誰か助けて。
 虚しくも、和美の心の悲鳴に気付く者はいなかった。



 ~オープンカフェ~

 各々、自己紹介を終えたネギ達。そして司狼と螢はネギから魔法について大まかな事と、昨夜ネギがエヴァンジェリンと戦った時の様子を聞いた。
「魔法の事がバレるとオコジョにされて強制送還ねえ。オコジョになるのか、センセ」
「うう……」
「安心していいですよ、ネギ先生。私達、別に吹聴なんてしませんから」
「ありがとうございます……」
「それで、例の吸血鬼だけど、どうするつもりですか? 話を聞く限り封印を解くのに躍起になってるようですし、正体がバレた以上容赦無しに狙いに来ると思うのですが?」
 ちなみに、闇の福音の名を聞いたカモが一度逃げようとしたが司狼と明日菜に捕まって縛られ、テーブルの上に転がされた。
「エヴァちゃ――エヴァンジェリンさんなら、次の満月まで何もしないって言ってましたよ」
「……そうなの。――予想通りね」
「だな」
「? どうしました?」
「いんや、何も。で、センセーはどうするんだ? このまま黙って血吸われるのか?」
「そ、それは嫌です」
「でもこのままだと次の満月には吸い殺されるぞ」
「わかってます。だから、何とかしようと思います。高等部の生徒さんも連れちゃったし、僕は先生だから……」
「勝てる算段は? 昼間は人間と変わらねえとは言え、向こうは茶々丸っていう護衛がいるんだろ」
「うっ……」
「昨日だって捕まってた位だ。ある訳ないわな。ならよ、先に護衛の方を片しちまおうぜ」
「え?」
「昨日は護衛が出てくるまでは追いつめれたんだ。なら、先に護衛を不意打ちで潰しちまえば勝率は上がるわけだろ」
「おお、それは名案だぜ! それにネギの兄貴もパートナーを作って二人でボコッちまえば怖いもんなしよ!」
「カモ君まで。で、でも、そんな事は……」
「止めときなさいよ、ネギ。そんな卑怯な事」
「別にいいじゃねえか。命かかってんだし、こっちはダチ一人誘拐されてんだしよ」
「そうッスよ兄貴!」
 明日菜が卑怯だからと止め、現実的な事を言う一人と一匹。
 教師の立場からすれば敵対してるとは言え茶々丸は担当する生徒の一人だ。しかもネギはまだ十歳。そんな不意打ちに対して抵抗がある。しかし、司狼とカモが言ってる事は一理あるのも理解できている。
 天使と悪魔に両側から囁かれているような状況になったネギの頭が混乱し始めた。
 その時、悪魔を止める声があった。
「……ネギ先生、彼に何言われても無視していいですよ。やりたく無い事はやらなくて良いんです。綾瀬さんの事は私達で何とかしますから。でも、先生は先生で自分の事は何とかして下さい。行くわよ、遊佐君」
「へいへい、と」
 あれほど茶々丸を襲う事を薦めていた司狼はあっさりと螢に言われるまま席を立った。
「話聞かせてくれた礼に今度奢ってやるよ、センセ」
「当然ね」
「お前には奢らねえし」
「普通、男が女に奢るものでしょう」
 言い合いながら、司狼と螢の二人はカフェからさっさと出ていってしまった。
「な、何か突然現れては消える人達ね」
 昨夜の時といい、彼らはその場に用が無いと知れば即座に移動する。切り替えが早いのか、時間を無駄にするのが嫌いなのか。或いは両方か。

「あざと過ぎるわよ、遊佐君。ワザとやってるようにしか見えない」
 カフェを出、席に座ったままのネギ達に聞こえない距離にまで来ると、螢が責めるような視線で司狼を見た。
「向こうがやってくれるなら楽できるだろ」
「彼、あのロボットを倒せると思う?」
「無理だろ。あれは、どうせ実行してもトドメ差す直前になって止めるタイプだな」
「それが解ってて言ってるんだから、質悪いわよ」
「万が一ってのもあるだろ。やれる事はやっておかねえとな。――ああ? あれ先輩じゃねえか。何やってんだあの人」
 離れた路地で玲愛が女子中等部の制服を着た少女に向かって何か話していた。
「まず外堀埋めて逃げ道を無くしてからと思ってるの。だから私と藤井君との捏造かっこ未来予測かっことじるスクープを書――」
「氷室先輩、後輩イジメてないでこっち来て下さい。その子困ってますよ」
「そうだ。あんたと話してたらそいつまで電波受信しちまうぞ」
「ちっ、邪魔が入った。……そっちは話終わったんだ。それじゃあね、そこの人」
「……え、ええ」
 心底助かった、という表情をして和美は地面に尻餅をついた。
 彼女を置いて三人は何事もなかったかのように再び歩き出す。
「魔法の事知ってそうな人に会いに行くとか言ってませんでした? どうしてここに」
「会えなかったの。だから暇してた」
「だからって遊佐君みたいに後輩に絡まないで下さい。ただでさえ慣れてる私達でも疲れるのに」
「それは年上を敬う気持ちが不足してるからだと思うんだ」
「鏡見た方がいいんじゃね」
「遊佐君に言われたくないよ。それでそっちはどうだったの?」
「裏は取れた。幼女の目的はあのセンセーの血。香純さらったのは、魔力を補充する為。魔力多かったらしくて、予備タンク扱いだな」
「以外な才能だね」
「遺伝とかなら先輩にもそっちの才能あるんじゃねえの?」
「さあ? それじゃあ、向こうにとって香純ちゃんの重要度は低いんだ」
「元々香純無しで、ロボ娘との二人でやるつもりみたいだったし」
「なら、やるんだ」
「やるとも」
「……今朝言ってた事本気なのね」
「当然。あのロボ娘さらって、人質交換だ」
 司狼が不敵な笑みを浮かべると、道の向こうから黒塗りのワゴンが走ってきた。車は三人の目の前で止まり、運転席のドアからエリーが顔を覗かせた。
「いたいた。三人とも、ターゲットが一人になったみたいだよ。今、蓮くんが見張ってる」
「よし。じゃあ、拉致るか」
「何でそんなに楽しそうなのよ……」



 ~エヴァンジェリン宅~

 その頃のエヴァンジェリンは。
「吸血鬼ってだけで追われて逃亡生活かあ。大変だったんだねぇ」
「全員ブッ飛バシテヤッタケドナ、ケケケ」
 学校から帰って来てみれば、いつの間にか目を覚ました香純とチャチャゼロが談話していた。
「エヴァちゃん、苦労したんだね」
「ええい、そう言いながら頭を撫でるな! 何で目を覚ましてるんだ、って酒臭ッ!?」
 テーブルの上にワインを抱えた人形、チャチャゼロが座っていた。エヴァンジェリンの魔力が封印されていた為に動けずにいたのだが、僅かながらに魔力を得たので起動する事が出来たのだった。
「チャチャゼロ、こいつに何を話した!?」
「何ッテ、御主人ノ半生」
「何で話す!? それにそれは私のワインだ!」
「ぐすっ、火葬されたり、追われたり……ヒック」
「泣くか酔うかハッキリしろ! ああああっ、擦り寄るな!」
「コイツオモシレー」
「私の質問に答えろチャチャゼロ」
「ダッテセッカク久々ニ動ケルヨウニナッタッテノニ、御主人ハ学校ダシヨ。十五年ブリノ話相手ダカラ奮発シチマッタ」
「するなっ!」
「そういえばあたし何時帰らせてくれるの?」
「いきなり正気に戻るな! ゼェ、ゼェ……くそ、どうして私がこんな目に」
「運命ジャネ?」
「ねえ、それでいつ帰っていいの? あたし皆勤賞狙ってたのに今日一日休んじゃうし、この家から出ようとすると見えない壁に邪魔されちゃうしさ」
 既に、ログハウスに張られた結界によって香純の行動に制限が掛けられていた。
「私の計画が終わるまでいてもらおうか」
「えー……」
「残念だが、諦めろ。なんたって私は悪い魔法使いだからな。お前の都合など知った事じゃない!」
「もしかして自称悪い魔法使い、って事なの?」
「ソノトーリダ」
「何だその生暖かな目は!? いいか、私は六百年を生きた吸血鬼だぞ。もっと、こう、恐れるとか憎むとかあるだろ」
「う~ん。吸血鬼って言うとなんかおっかないけど、エヴァちゃんからは恐れるとかそういうのは沸かないかな。それに、もっと質の悪いのが身近にいるし」



 ~車内~

「へっくしょん!」
「汚いわね。唾飛ばさないでくれる?」
「ワザとじゃねえよ」
「風邪? なんなら診てあげよっか?」
「断る。怪我とかならともかくエリーに看病されたくねぇ」
「それは同感。この前私酷い目にあったし……。遊佐君、誰か噂でもしてるんじゃない?」
「イイ男だからな」
「また頭の悪い事を、この男は……」
「ごめんなさい。私が間違ってた。まずは精神科に連れてくべきよね」
「こいつらキツいなマジで。つか、何でか急に香純をイジりたくなってきた」
「確かに香純ちゃん分が不足してるね。おかげで櫻井さんをイジめたくなってくる」
「中毒症状じゃないですか、それ。それに何で私がターゲットに……」
「マスコットの香純ちゃんが一日いないだけで皆不調子だからね~。香純ちゃん病?」
「バカスミ病だろ。かかったら香純をからかわねえと調子出なくなるっつー恐ろしい病気だ」
「全人類にかかれば世界平和が実現するんじゃない? 一人除いてだけど」
「貴方達はいつも通りじゃない。逆にストッパーがいない分厄介だわ」
「一番心配してるのは櫻井ちゃんだよね。お姉さん、見ちゃったの。夜中、香純ちゃんの名前呼んで枕濡らす櫻井ちゃんを」
「呼んでも無いし泣いてもいないわよ! それに同い年でしょう、エリー」
「そうだっけ?」
「少なくとも女っぽさじゃお前は――うおっ!?」
「ちょっと、狭いんだから刃物振り回さないでよ」
「コエー。この切り裂き魔マジコエー」
「~~~~っ」
「どうどう。それよりももうすぐ着くよ、三人とも」
「やっとかよ。あやうく殺されかけるところだった。それで、向こうの様子はどうなってんだ?」
「何なら盗聴機聞く?」
 昨夜、エヴァンジェリンと茶々丸が空を飛んだ時、二人に向かって物を投げながら司狼は発信機と盗聴機を茶々丸に向けてガラクタと一緒に投げていた。
 エヴァンジェリンには魔法障壁があった為に、茶々丸に投げたのだ。結果、発信機共々盗聴機が茶々丸の制服に張り付き、今までの行動が筒抜けとなった。
「……にゃーにゃー言ってない?」
「言ってるね」
 盗聴機からの音は猫の声で埋め尽くされていた。

 ――何してんだ俺は?
 自問自答しても答えなど出る筈も無く、蓮は目の前の様子に戸惑いを隠せずにいて、ついでに自分の行動も恥ずかしく思った。
 今朝言った司狼の提案を実行するにあたってエリーが必要な物の調達、司狼と螢が吸血鬼の関係者と思われる子供先生に会いに行って情報収集。玲愛は、魔法を知ってそうな怪しい人物に会いに行くと言って出て行った。当然誰からも期待されて無かった。
 消去法で蓮が目標の監視を行う事になったのだが……。
 ――ロボットならロボットらしくして欲しい。
 茶々丸は花壇の世話をしたり、老人の手を引っ張って横断歩道を渡ったり、果ては溺れる猫を川に飛び込んで助けたりとイイ人(?)だった。
 正直、これから拉致しようとしている蓮にとって良心の呵責に悩まされる相手だ。
 運の尽きは、自重で川の泥にはまった彼女をつい助けてしまってからだ。
 本来なら見て見ぬフリを決め込み、他に助けに行きそうな人間がいるならとっとと立ち去る可能性が高い彼だが、周囲には自分以外誰もおらず、しかも一応監視する立場にあったのでその場から離れる事も出来ずにとうとう助けてしまった。
 そのままズルズルと行動を一緒にして、今は野良猫の餌やりを手伝っている。司狼に見つかれば、しばらくはそれをネタにからかわれるだろう。
 蓮の目の前には、膝を曲げて屈み込み、野良猫にたかられながら缶詰を開けている茶々丸がいる。
「どうしました?」
「いや、何でもない」
 ちなみに、彼女は蓮の服を着ていた。女がそんなみっとも無い格好で出歩くな風邪引くぞと、水と泥で汚れた制服の代わりに蓮が貸してやったの物だ。
 ――よくよく考えてみればこいつ女以前に人じゃねえし、ロボットだし。風邪も引くわけねえ。何やってんだ俺は。
 自己嫌悪に陥る蓮だった。
「……なあ、香純を返してくれないか?」
「申し訳ありませんがそれは出来ません。マスターの命令ですので」
「そうかよ……」
 こういう所はロボットらしい。
「マスターは女性や子供には優しいです。ですので、全て終われば無事返して上げられると思います」
 その癖、わざわざこちらに気を使うなど、機械らしく無いところも見せる。蓮にとってはとてもやり辛かった。
 その時、後方から車のエンジン音が近づいてきた。
 見なくとも分かる。連絡したのは蓮なのだから。
「……油断しました」
「全くだな。ずっと警戒しててくれればこっちも精神的にやりやすかったのに」
 黒塗りのワゴン車のドアが開き、二人の男女が降りて来た。



 ~エヴァンジェリン宅~

「――そうだ。そういえば、あの男は何者だ?」
「あの男?」
「女顔で童顔の奴だ」
「蓮の事、だよね? 蓮がどうしたの?」
「……あいつの祖父か曾祖父について知らないか?」
「ごめん、分かんない。蓮、孤児院にいて両親についてもあんまり覚えてないんだって」
「そう、か」
「それがどうかしたの?」
「いや、何でもない。知り合いに似てたからもしかしてと思ってな。気のせいだったようだ」
「そうなんだ」
「御主人、相変ワズソッチニ関シテハ奥手ダナ。トテモ六百歳トハ思エネー」
「うるさいぞチャチャゼロ!」
「なになに? 何の話?」
「ナンデモネー。ソレヨリ妹ハマダカ? セッカク姉ガ目ェ覚マシタッテノニ挨拶ナシカヨ」
「奴なら買い物だ」
 茶々丸は夕食の食材の買い出しの為に一度エヴァンジェリンをログハウスの前まで送ると、一人買い物に出かけていた。香純という魔力タンク兼客人の分、食事が必要だからだ。
「……それにしても遅いな」
 寄り道して時間を食う変な癖のある従者ではあるが、さすがにここまで遅いのは珍しい。
「何かあったんじゃない? 事故に巻き込まれたとか」
 人質でありながら香純が吸血鬼の従者の心配をする。
「車ぐらいあいつにはどうって事ない」
「変な人に絡まれてるとか……」
「まさか。あいつに勝てる人間などいないよ」
 裏の人間、魔法使いや気を使う者なら分からぬが、科学と魔法の力の結晶であり、中国武術までプログラムされている茶々丸を倒せるような表の人間はいない。
「そうかなぁ? 何だかあたし、すっごい嫌な予感してきた。身内関係で恥かきそうな……」
「なんだそれは」
 香純の根拠の無い勘をエヴァンジェリンは鼻で笑った。



 ~車内~

「本城さん」
「ん~? なに、先輩」
「鉄砲の音って結構響くんだね」
「誰もいなくて、騒音がない分余計にねぇ」
 ワゴン車のドアが横に開き、茶々丸を抱えて螢が入って来た。茶々丸は腕の中、申し訳ありませんマスターと、呟いている。続いて司狼が人形の手足のような物を持って入り、最後に蓮が帰ってくる。
「蓮くんボロボロだね」
「囮兼盾役ご苦労」
「ざけんな司狼! お前だけ安全圏から飛び道具使ってんじゃねえ!」
「それは私も同意見ね。私達だけ危ない目に合わせて自分だけ遠距離だなんて」
「そう言うお前もポン刀持って来てんじゃねえよ! 銃刀法違反だからなお前ら」
「リアル人型ロボット相手にすんだから武器持ってきて当然じゃねえか。それに安全圏って言われてもロケットパンチ飛んできたぞ。まあ、予想してたから避けたけどな」
「どうして避けられたのよ。あれ、完全に不意打ちじゃない」
「はあ? 何言ってんだ。人型ロボにロケットパンチは当たり前だろ」
「お前が何言ってんだ。頭大丈夫か?」
「常識だろ。目からレーザーとか出さなかったのは逆に以外だった」
「レーザーは次のバージョンアップの際に搭載される予定でした」
「付ける気だったのね……」
 螢に抱えられた、手足を失った茶々丸が律儀に答えていた。
「この状況、誰かが見てたらヤバいよね。グロくは無いけどとっても猟奇的」
 茶々丸は蓮、司狼、螢の三人との戦闘で手足を失っていた。右腕は間接の隙間を狙った螢の刀で肩を、左腕は有線ロケットパンチを放った際に司狼に有線を撃たれてちぎれてしまった。両足は膝にこれまた司狼の銃弾を受けて破壊。
「三人がかりで女の子一人をダルマにした挙げ句誘拐。犯罪者もびっくりだね」
「………………」
「………………」
「なんだよお前ら。今更ビビってんのか?」
「そりゃあロボットって言っても見た目女の子だもんねえ」
「やってから後悔するのもどうかと思うよ? それに、来た時の様子と置かれた猫缶から察するに実はイイ人?」
「ああ、もう! そうよ、ええそうですとも。猫に餌やってるの見て実は良心が痛んだわよ! ここまでする必要無かったんじゃないかなぁって思ってましたよ! 文句ある!?」
 螢がキレた。
「逆ギレ格好悪い」
「ぐっ……この人は……」
「おい、エリー。とっとと車出しちまえよ。人に見られたら面倒だ」
「オッケー。帰ったら藤井くんは後で怪我の具合見ないとね。さすがに酷いよ、それ」
「ナース姿で看病してあげようか?」
「無表情で顔赤くして擦り寄って来ないで下さいよ、先輩」
「手加減できる状況ではなかったので、大分本気で殴ってしまいました。申し訳ありません」
「いや、そんな謝られると困るんだが……」
「間接からジェット噴射して殴ってたわよね。藤井君、よく死ななかったわね」
「命の危険が無いようには手加減しましたから。でも、気絶しなかったのは驚きです」
「こいつ、しぶといから脳味噌揺らすか首でも刎ねねぇと止まんねえぞ」
「お前にしぶといとか言われたくねえ」
「遊佐君もそんな感じよね。殺しても死ななさそうな感じ」
「そうだね。遊佐君の場合、心配するだけ無駄だよね。死亡フラグも無視して生きてそう」
「オレはゾンビかってーの」
 一見すると仲の良い学生達のじゃれ合いに見える。しかし、忘れてはいけない。後部座席には手足を失いシートベルトで固定された茶々丸がいる事を。もし、誰かがこの光景を見たら悲鳴を上げるどころの騒ぎでは無いだろう。
 黒塗りの、ナンバーまで偽装されたワゴン車は人気の無い暗い夜道を静かに走っていった。





 1939年、12月25日――ドイツ、ベルリン。

 日付も変わった深夜。夜の街を一人で歩く女がいた。
 女一人で深夜の街並みを歩くというのは何とも不用心であり、まるで暴漢に襲って下さいと言わんばかりだ。娼婦が客引きをしている訳では無いとするならば不用心にも程がある。何よりも最近では白髪の殺人鬼なるものがベルリンを闊歩しており、女で無くとも一人歩きは危険だ。
 だが、黒いドレスに身を包み、金の髪を風で後ろに流しながら歩く様は堂々としたもので、娼婦の類や頭のネジが緩んだ手合いで無い事は一目で分かる。
 ならば何故、女一人でこんな夜道を歩くのか。
 それは彼女にとって暴漢程度、それどころか例え一個大隊でも圧倒できるという自負があったからだ。
 人一人で軍を相手する。一体何の冗談か、誰かが聞けば笑い飛ばすか頭の心配をされる。
 しかし、彼女にはそれが出来る。『闇の福音』『禍音の使徒』『不死の魔法使い』と呼ばれるエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルには。
 身分、立場、そして己が真祖の吸血鬼を隠して生きる彼女は一見すると妖艶な美女にしか見えないが、その雰囲気からは絶対な強者としての存在感があった。
 そんな彼女の正面を歩いてくる男がいた。
 同じく圧倒的な存在感を放つ将校の服を着た若い男だ。エヴァンジェリンと同じ金の髪に鋭い眼光。若さと威厳が見事に融合していた。歩いているだけというのに圧倒され、皮膚がピリピリと刺激される。暴漢どころか歴戦の兵士でも緊張せざるおえない。
 エヴァンジェリンと同等、いや、もしかするとそれ以上の格を見せながら歩く彼に誰もが道を譲るだろう。しかしエヴァンジェリンはそのまま歩き続ける。
 二人の距離が接近し、肩が触れそうになるほどの近さですれ違う。
 ――あれは……。
 軍人に興味の無いエヴァンジェリンでもすれ違った彼の事は知っていた。
 秘密警察ゲシュタポの若きエリート将校。エヴァンジェリンが裏の世界での恐怖の代名詞ならば、彼は表世界の怪物だった。
 『首切り役人』『黄金の獣』――彼を賞し畏怖する名は数ある。
 ――なるほど、名に偽り無しか。
 驚きはあった。あれが裏の世界に入ったならばどれ程の魔法使いになるのだろうか。怖いもの見たさの好奇心が一瞬湧くが、わざわざ表の人間を裏に引きずり込むほどエヴァンジェリンは酔狂でも面倒見の良い性格でも無い。
 そのまま歩き続け、彼女はある施設の中に入っていった。

「貴様はこんな所で何をやっとるんだ」
「ん? なんだ、エヴァか」
 吹き抜けのホールで一人の男が長椅子に座り、書籍を片手に呆ってしていたのをエヴァンジェリンは見つけた。
「ちょっとな。そういうお前こそどうしてこんな所にいるんだよ。女が一人で出歩いていい時間じゃないぞ。ああ、そういえばお前は俺以上の自堕落な奴だったな。何で夜にしか出勤して来ないんだよ。夜行性にも程があるだろ」
 顔を合わせた途端に同僚の口から出る皮肉と軽口。
「うるさいな。私の勝手だ。それに、こんな所で本を呼んでいるような変人に言われたく無い」
 自分の方が圧倒的に年上だと言うのに、つい大人げなくエヴァンジェリンは言い返す。
 彼といると何故かペースを握られてしまい、いつもからかわれる。何の才能も無い凡夫相手に馬鹿にされてつい言い返すが、向こうはエヴァンジェリンの言葉を軽く受け流し、話題を変えてしまう。
「そういやお前教会に行ったりしたか?」
「何で私が教会なんぞに行かねばならん」
「だよな。お前ってそういう所嫌うし。俺が言うのもなんだが、そこまで敬遠するのも珍しいよな。嫌な思い出でもあるのか?」
「私の事などどうでもいいだろう」
 初めから相手にしていないのか、それとも単に子供扱いされているのか。エヴァンジェリンが本物の吸血鬼だと知らないとは言え、よくそこまで軽口を叩けるものだ。
 しかし、エヴァンジェリンはそんな彼との会話をそう悪いものでは無いと思っていた。
「教会がどうかしたのか?」
「いや、何でも。一応聞いてみただけだよ」
「って、どこ行く気だ」
 だから、その日だって止めておけばいいものを、エヴァンジェリンは椅子から立ち上がった彼を呼び止める。
「酒場で飲んでくる。なんか今日という日を祝いたくなったんだ」
「何だそれは。空から何か受信でもしたのか。医者なら紹介してやるぞ」
「違うって。だいたい、何でついて来るんだよ」
「奢れ」
「奢れって……いい大人の女がガキみたいな事言ってんなよ。本当、見た目と中身が違うよな。そのせいで色気が無い」
「うるさいな。それに何時までも青臭い幻想抱いている奴に子供扱いされたくは無いぞ、ロートス」
「仕方ないだろ。どうしても好きなんだよ、時の止まった不変が」
「本当に、貴様は変人だな」
「お前には言われたくないぞ」
 そこでエヴァンジェリンの夢は終了した。



 ~エヴァンジェリン宅~

「……懐かしいものを見たな」
 うっすらと瞼を開き、ベッドに横になった状態でエヴァンジェリンは天井を見つめた。数百年の時を生きた吸血鬼。そんな彼女でも半世紀も昔の事を夢に見るのは珍しい事だった。
 懐かしい、と思う。同時に人というのはいつも自分を置いて先に行ってしまう事実を思い出す。
 夢の続きは、おそらく酒場で飲み始める筈だ。
 そこで出会った人間達はどいつもこいつも変わり者ばかりだった。何故か自分を子供扱いして頭を撫でてくるリザ、今にも死にそうな顔色なのに目は穏やかだった神父のヴァレリアン、リザとよく喧嘩し誰よりも軍人らしかったエレオノーレ、その部下のドイツ女子青年同盟を主席で卒業したくせににバカのベアトリス、いつもその馬鹿女に突っ込みを入れて騒がしかったアンナ。
 多種多様で性格もバラバラな彼らはどういう訳かほとんどが初対面の癖に、まるで旧知の仲のように、遠い昔にそんな約束でもしていたかのように、互いに酒を飲み交わしていた。
 ああ、正直に言おう。そんな彼らに一人疎外感を感じてしまい、寂しいとも思った。
 無理にその輪に混ざろうとし、ベアトリスと騒いでその度にエレオノーレの鉄拳と痛い視線が飛んできた。アンナとは一緒にロートスの悪口を肴に酒を飲んで潰れ、リザに介抱してもらった。
 神秘と科学の過渡期、そして混沌の時代。幻想が科学に入れ替わるその時代は逆に両者が交わる時代でもあった。それを利用して僅かながら表の世界で過ごしたあの時間は振り返ってみれば悪くは無かった。
 しかし、もう彼らはいない。もう六十年も、人の一生分程も昔だ。誰も生きてはいまい。何より戦争中だったのだ。エヴァンジェリンはベルリン崩落よりも前にこれ以上いられないと判断し帝国を脱出した。ホロコーストに反対したヴァレリアンは行方不明に、そしてロートスとエレオノーレは戦争で既に死んでいた。
 残った彼女達があの時代を生き抜き、未だ生きているとは思えない。
「……らしくないな」
 つい感傷的になってしまったと、エヴァンジェリンは毛布をはねのけた。
 階下に降りて学校へ行く準備をしなければならない。『登校地獄』の呪いのせいで朝っぱらから起きるとは、吸血鬼としてどうなのだろう。
「だが、それももうすぐ終わる」
 気持ちを切り替えたエヴァンジェリンは麻帆良停電の時を想像してほくそ笑む。
「あ、おはようエヴァちゃん」
「……そういえばいたな。こんなの」
 台所には香純が立っていた。
「おはよう」
「………………」
「お~は~よ~う~」
「……おはよう」
「うん、よくできましたー。朝食、もうすぐ出来るから。そうは言っても食パン焼くだけなんだけどねー」
 すっかり順応した香純は手慣れた様子で食器をテーブルの上に並べる。
「ちょっと、チャチャゼロ。テーブルの上でふんぞり返ってないで手伝いなさいよ」
「ヤダニ決マッテンダロ。ツーカ御主人ノ魔力足ンナクテ動ケナインダヨ。働ケ小間使イ」
「誰が小間使いよ! まったく、小さいくせに態度は大きいんだから……あれ? エヴァちゃん泣いてた?」
「――ッ! こ、これは欠伸をしたからであって――」
「そっか、心配だよね。茶々丸ちゃん、結局帰ってこなかったし……」
 どうやら香純は別の方に勘違いしているようだった。
「やはり戻ってきていないか」
 香純が朝食を作っている時点で分かりきった事だ。
 昨日、香純があり合わせの物で夕食を作った。それからもしばらく待っていたが結局茶々丸は帰って来なかった。
 彼女をどうこうできる人間は麻帆良には結構な人数いるが、その中でどうこうするような人間はいなかった筈だ。
「心配だよね」
「他人ノ事ヨリ自分ノ心配シロヨ。オ前捕ラワレノ身ッテ事忘レンナヨ」
「チャチャゼロの言うとおりだ。自分の心配をしていろ。茶々丸に関してはこっちで何とかする」
「そう?」
「ああ。だから朝っぱらからそんな辛気くさい顔をするな。こっちの気が滅入る」
「そこまで言うんなら、いいけど……茶々丸ちゃん、大丈夫かなあ」
「あいつは私の従者なんだぞ。大丈夫に決まっている」
 主として従者を信頼した言葉を言うエヴァンジェリン。しかし、事実は彼女が思っている以上に奇に満ちている。
 魔法や気を使えない学生達が茶々丸の四肢を破壊した上に拉致までしている。決して大丈夫とは言えなかった。



 ~クラブ・ボトムレスピット~

「はい、終わりっと。良かったね蓮くん、酷い打撲程度ですんで」
 エリーが医療用のガーゼやら包帯を仕舞いながら蓮の肩を叩いた。
「痛っ、叩くなよ。それに、酷い打撲のどこがいいんだよ」
「骨折してたりヒビ入ってるよりマシじゃん」
「体中青痣だらけのも考えものだけどな。あと、先輩。いつまで人の体見てんですか」
 蓮は昨日茶々丸から受けた怪我の治療をする為に上半身裸だった。
「セミヌードの藤井君……」
「乙女みたいに頬赤らめてアダルトな事言わないでくださいよ」
「思春期だからね」
「意味分かりませんって」
 言って、蓮は服を着た。
 彼らが今いる部屋はいわゆるVIPルームと言われるものだ。高級そうなソファが並び、壁際はバーとなっていて棚に酒が並んでいる。学園都市にあっていい類の部屋ではなかった。
「よう、戻ったぜ」
 ドアを開けて、司狼が部屋の中に入って来た。片手には中華屋台「超包子」のマークの入った袋を持っている。
「ちゃんと渡せたのかよ?」
「当たり前だろ。つっても、吸血幼女本人にあったら襲われそうだったんで、子供先生にメッセンジャー頼んだけどな」
「おい。一番狙われてるのがあの先生なんだろうが。メッセンジャーにしてどうする」
「いいんだよ。当人にも覚悟決めさせとかないとな。巻き込まれたオレ達が困るんだよ」
「遊佐君の場合は楽しそうだけどね」
「当然」
「ふざけんな馬鹿」
「んだよ、お前だって実は結構楽しんでるだろーが。まあ、それはいいとしてだ。アレ、何やってんだ?」
「よくぞ聞いてくれたね遊佐君。実は私も気になってたんだけど、怖くて聞けなかったんだ」
「俺も」
「私もー」
「お前ら完全に人任せだな。それで櫻井は一体何やってんだよ」
「何って、見て分からない?」
「刀研いでるように見えるな」
「分かってるじゃない」
 螢はテーブルの上に研ぎ石と、足下に水の入ったバケツを置いて刀を研いでいた。
「普通にこえーよ。何で刀研いでんだ。オレが帰って来る前に誰か突っ込んどけよ」
「だって、斬られたら怖いじゃない」
「斬りませんよ。先輩は私をどう思ってるんですか」
「いや~、さすがに刀研ぐ女子高生って見てて引くよ、櫻井ちゃん?」
「後ろからバッサリ殺られそうだよね。こう、昼ドラ展開的に」
「背中気をつけろよ、蓮」
「何で俺が……櫻井、別の部屋でやってこいよ。今すぐやる必要も無いだろ。正直おっかないんだよお前」
「いつ必要になるのか分からないんだから。昨日ので随分乱暴な扱い方したから、いくら戦場刀で手入れはしておかないと……それに女子高生が弾倉に弾入れしてるのも引くと思うんだけど、エリー」
「クールでしょ?」
「どこがよ」
「皆して一般人を踏み外してるよね。純情乙女な先輩としては、ちょっと後輩達の将来が心配」
「アンタが言うな」
 そう言って、司狼がエリーの隣に座って自分の使用拳銃であるデザートイーグルを取り出した。
「ほら、新しい弾倉。あんたさぁ、自分の銃ぐらい自分で見なさいよねえ」
「いいじゃねえか。代わりにメシ買って来たんだしよ」
 エリーがデザートイーグルの弾倉を複数彼に手渡し、司狼はテーブルの上に買ってきた中華料理を無造作に並べ始めた。
 そして、五人はおもむろに食事を始めた。
「司狼、もう一度聞くけどあいつはちゃんと今夜来るんだろうな?」
「エヴァンジェリン、だっけ? あのロリババア」
「ロリババアって……彼女が自分の従者を大切に思ってるなら、来るんじゃないですか?」
「盗聴した内容だと仲良しこよしみたいだったし、来るんじゃね?」
「んなアバウトな……」
 談笑しながら中華料理を消費していく五人。
 部屋の内装とか料理の他にテーブルに乗ってる武器とか、とてもアウトローな雰囲気を醸し出していた。
「………………」
 そんな様子をカウンターの背の高い椅子に座らされた茶々丸がじっと見ていた。彼女は四肢が破壊された状態で、戦闘でボロボロになった服の代わりに何故か高等部の制服を着せられていた。
「ん、食べる?」
 玲愛がそれに気づき、肉まんを差し出す。
「いえ、私は食事を必要としていません。ですが……」
 茶々丸が、カウンターの上に置かれている物を見る。そこには回収された彼女の手足が転がっている。
「このままではエネルギーが切れてしまいます」
「そういえば茶々丸ちゃんってさ、何で動いてんの? 明らかにオーバーテクノロジーだよね」
「それは……」
「もしかして、これ?」
 茶々丸の視線の先にある物に気づいた玲愛がソレを手に取った。
「ゼンマイ式かよっ」
 司狼が思わず突っ込んだ。
「そういや、戦ってる時に頭から外してたな」
「これで巻けばいいんだ」
 玲愛が茶々丸の背後に移動し、ゼンマイを差し込む場所を探し始める。
「そうなのですが、でも――」
 魔法と科学の融合により作られたガイノイドの茶々丸は魔力で動いている。ゼンマイを巻く行為は魔力供給の儀式という面が強い。なので魔力を持たない人間が巻いても意味が無いのだが――
「あうっ」
「………………」
 全員の動きが止まった。
「……えい」
 玲愛の手によって再びゼンマイが巻かれる。
「あ………………ふっ。あ、あの、あまり巻きすぎると――」
 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりーー
「~~~~~~っ!?」
「…………楽しい」
「楽しい、じゃありません! なんでそんな意味も無く不敵に笑ってるんですか!?」
「先輩、私にもやらせてよ~」
「エリー、貴女も混ざろうとしない!」
「もうちょっとだけ。ぐりぐり」
「あうっ! だ、だから巻きすぎてしまいますと、あ、ふっ」
「爆発でもしちゃうの?」
「いえ、そういうわけでは。そ、その、逆に良すぎてしまって」
「良いんだ。なら、もっと巻こうか」
「~~~~~~っ!」
「先輩、そろそろ交代してよ」
「はい、どうぞ」
 玲愛から場所を譲ってもらい、今度はエリーがゼンマイを巻き始める。
「あ、そのぐらいなら丁度よく」
「あれ、反応が鈍い?」
「いえ、そんなに反応を求められても困るのですが」
 しばらく巻いて唸っていたエリーが次の瞬間、何か思いついたような表情になる。
「わかった、こうだ」
「ふ、あぅ……。や、止めて下さあうっ」
「茶々丸ちゃん、イイよその表情。グッと来る。とてもロボットには見えない」
「なんだか私達危ない路線行ってる気がするね」
「痴女集団がいるぞ」
「私を入れないでくれる? 貴方達も黙って聞いてないで部屋から出て行きなさいよ!」
「とばっちりだろ、オレら。だいたいガキの声なんぞ聞いて誰が喜ぶか」
「どっちかと言うと俺ら被害者だろ」
「いいから出て行きなさい!」
「おっかねえ。向こうの部屋行こうぜ、蓮」
「ああ。このままじゃ本当に斬られかねないしな」
 男二人は中華のいくつか持って部屋を出ていった。
「こういう時は素直に言う事聞くんだから。その気遣いをどうして普段しないのかしら……」
「お、お二人ともそれ以上はああああ」
「ほらほら、ここ? ここがいいのか~?」
「まるでエロオヤジみたいだよ、本城さん」
「じゃあ、止める?」
「やるよ。やるに決まってるじゃない。なに言ってるの?」
「さも当然のように言わないで下さい!」



 ~女子中等部校舎・屋上~


「吸血ヨウ女へ           
                   
 おマエの従者は預カった ザまーミロ 
                   
 茶々丸ヲ返して欲しけレバ   
                   
 麻帆良大橋へ今夜来るコと      
                   
 ソコでカ純と交換だ         
                   
 P.S
 吸血キって何でニんニクに弱イんだ?」


「うっざッ! ニンニク臭ッ! 何でこの手紙こんなにもニンニク臭いんだ!?」
 手紙と茶封筒を放り投げ、エヴァンジェリンは鼻を押さえて屋上の床を転がった。
「これさ、もう普通に誘拐事件じゃないの? てか凄い臭いわよ、これ」
「ご丁寧に雑誌の切り抜き使ってやがる。マジでニンニク臭えっ!」
「でも、エヴァンジェリンさんも人を誘拐してるからどっちもどっちのような。カモ君はオコジョだから嗅覚が強い分よりキツいんだろうね」
 鼻を押さえ、未だ転がっている彼女が放り捨てた手紙をネギ達三人が拾い上げた。
 手紙は朝、司狼からエヴァンジェリンへとネギ達に渡されたものだ。どうして狙われているネギがメッセンジャーとならなければならないのか、明日菜は反対したが司狼は、平気だろ、逆に向こうが逃げるかもな、と言って手紙の入った茶封筒をネギに押しつけて行ってしまった。
「茶々丸さんがいないと思ったら、こういう事だったんですね」
 ネギ達が登校してみると、エヴァンジェリンと茶々丸の席は空席になっており、探して見つけだして見ればエヴァンジェリンはネギ達から逃げるように避けていた。
 明日菜がその体力バカっぷりを発揮して捕まえてみれば、つまりはそういう事で……。
「ネギの兄貴、やるなら今だぜ」
「だからって、今のエヴァンジェリンさんを二対一で倒すのはちょっと卑怯過ぎるよ」
 力を封印されているエヴァンジェリンは普通の歳相応の少女と何ら変わらない。風邪も引けば花粉症にもなる。
 香純の血を補充する事で魔力を僅かながらに得た今では多少魔法も使えるので決して普通の女子とは言えないが、ネギ達はそこまでエヴァンジェリンが回復しているとは知らない。
「はっ、甘ちゃんだな、ぼーや。私を倒すのなら今がチャンスだぞ」
 強がって言ってみるが、内心エヴァンジェリンは冷や汗を流していた。魔力は少々、従者である茶々丸もいない。今戦えば非常に分の悪い勝負をしなければならなかった。
「いえ、僕は――」
「封筒の中にまだ何か入ってるぜ、兄貴」
 ネギが何か言いかけた時、カモが茶封筒の中から何かを見つけた。
「古い型だけど、携帯電話だね」
「プリペイドケータイってやつだな」
「今時よく手に入れたわよね、使い捨てケータイなんて……それでこっちは?」
 封筒の中、携帯電話以外に写真らしき物が数点入っていた。ニンニクの臭いを嫌ったエヴァンジェリンの代わりにネギが封筒を逆さまにして写真を取り出す。
「きゃああああああああーーーーっ!?」
「うわああああぁぁーーーーっ!?」
 十歳児と女子中学生の口から悲鳴が上がった。
「ちゃちゃ茶々丸さんのてててて手足がなぁーーいっ!」
「お、おおおお落ち着いて下さいアスナさん! きっと見間違いですよ! あんな怖そうな人だからって茶々丸さんを――」
「いや、どう見たって手足ないぜ?」
 カモの言葉に二人が再び悲鳴を上げた。
「事件よ事件! それも猟奇殺人! 警察に電話しないと」
「いや、ロボットだから大丈夫なんじゃねえの?」
「え――――ロボットぉ!?」
「気付いてなかったのかよ二人とも!?」
「騒がしい奴らめ……」
 茶々丸がロボットだと知って驚く二人を尻目にエヴァンジェリンは写真を摘み上げる。写真には手足を失った茶々丸が高等部の制服を着て椅子に座らされている。袖やスカートでギリギリ隠れてはいるものの、やはり四肢は破壊されている。
「茶々丸を倒すとは、少し侮っていたか」
 というか、容赦が無かった。それに背後に映るバーのカウンターは一体何なのだろう。写真という停止した枠からでも危険な香りが漂ってくる。
「大丈夫、だろうな?」
 さすがに心配になってきたエヴァンジェリンだった。



「先輩、茶々丸ちゃんが湯気噴き上げならピクピクしてます」
「やりすぎちゃったね。反省」
「反省するならもっと早くして下さい。どうするんですか。本当にヤバイ感じになってますよ」
「………………」



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