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No.32684の一覧
[0] 【習作】正義の味方と夢見る聖者【ネギま!×Fate×トライガン+オリジナル】[T・M](2012/08/23 20:13)
[1] 第一話[T・M](2012/04/07 23:51)
[2] 第二話[T・M](2012/04/08 00:22)
[3] 第三話[T・M](2012/04/12 23:20)
[4] 第四話[T・M](2012/04/18 23:55)
[5] 第五話[T・M](2012/04/19 00:04)
[6] 第六話[T・M](2012/04/30 22:16)
[7] 第七話[T・M](2012/04/30 22:32)
[8] 第八話[T・M](2012/05/12 00:03)
[9] 第九話[T・M](2012/05/12 00:05)
[10] 第十話[T・M](2012/05/16 22:01)
[11] 第十一話[T・M](2012/05/16 22:06)
[12] 第十二話[T・M](2012/05/22 01:08)
[13] 第十三話[T・M](2012/05/22 01:43)
[14] 第十四話[T・M](2012/05/22 01:53)
[15] 第十五話[T・M](2012/05/22 02:11)
[16] 第十六話[T・M](2012/05/29 22:28)
[17] 第十七話[T・M](2012/05/29 22:51)
[18] 第十八話[T・M](2012/08/23 20:08)
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[32684] 第九話
Name: T・M◆4992eb20 ID:dcd07e40 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/12 00:05
 リヴィオから木乃香達が脱走してしまったことを聞かされ、ネギは慌てふためいた。まさかこんなことになってしまうとは、彼女達の担任であるネギも思ってもいなかったのだ。
 だが、「ヴァッシュさんと士郎さんが後を追っているから心配するな。君は、君の役目に専念するんだ」とリヴィオに言われ、頷いた。
 ネギがどれだけ慌てたところで状況は好転しないし、今ネギに出来ることも無い。ならば、自分に出来ること、為すべきことからやるべきだと自分自身に努めて冷静に言い聞かせて落ち着きを取り戻すと、ネギはリヴィオと共に行動を開始した。
 ネギとの班別行動を楽しみにしていた生徒達に挨拶をしてから、ネギはカモと共にリヴィオが用意していたサイドカーに同乗し、関西呪術協会の総本山へと向かった。
 初めて乗るサイドカーの乗り心地や、その視点からの風景を少しだけ楽しみつつ、京都の街を走り抜ける。
 途中、赤信号で止まったところで、リヴィオに話しかける。
「総本山までは、どのくらいですか?」
「そうだな。君達みたいな子供と小動物を連れて行くのは初めてだから、正確な所は言えないけど、1時間ちょっとで着けるさ」
「意外と近いッスね。……エミヤの旦那達、遅くならなきゃいいんスけど」
「そうだな。まぁ、ヴァッシュさんの場合、なんかのトラブルに巻き込まれて大騒ぎを起こしそうで、そっちの方が心配だけどな」
 リヴィオが言い終わると、信号が青に変わり、再び走り出す。
 カモが懸念しているのは、木乃香達の到着が遅れて総本山に着くまでに日が落ちてしまうことだ。夜になれば日中以上に危険が増すというのは一般常識でもあるが、今回の場合は尚更だ。しかし、リヴィオはあまりそのことを心配しているようには見えない。それだけ、ヴァッシュや士郎を信じているのだろう。
 途中、コンビニに寄って小休止となった。リヴィオに買ってもらったジュースを飲みながら、ネギは気になっていた事を訊ねた。
「そういえば、その服って神父さんのですよね?」
 リヴィオは昨日までは、お世辞にも綺麗とは言えないような恰好だった。特にボロボロの帽子とマントは、西部劇のガンマンのようで素敵ではあったが、私服としてはどうかという代物だ。だが、リヴィオが今着ている服は違う。先日までのイメージとは全く異なるそれは、キリスト教カソリック派の聖職者が身に纏う黒衣――神父服だったのだ。
「ああ、そうだよ。俺の友達が友情の印にって、予備のやつを呉れたんだ」
「友情の印に神父服っすか?」
 リヴィオがどこか楽しそうに答えると、カモミールは不思議そうに首を傾げた。確かに、神父服のようなものを軽々に他人に渡していいものなのだろうか。
 その疑問にも、リヴィオは快く答えてくれた。
「俺も聖職者、牧師なんだけど、まだ見習いでさ、こういう服を持ってなかったんだよ。それで羨ましがってたら、綺礼が――って、俺の友達なんだけど、この服をくれたんだ。綺礼があんなこと言うのも意外だったけど、璃正さんもすんなり認めてくれたもんな。あの時は驚いたし、嬉しかったなぁ」
 その時の事を思い出しているのだろう、リヴィオはとても楽しそうに笑っている。
 だが、それよりも気になることがあった。本人がとてもあっさりと言ったので聞き逃しそうだったが、その衝撃はかなりのものだった。
「……牧師さん、だったんですか?」
「君が教師ということよりも、ずっと自然だと思うけど?」
 ネギが問うと、リヴィオに即座に返された。どうやら、読まれていたらしい。
 けれど、今のやり取りがなんだかおかしくて、ネギもリヴィオと共に笑った。

 やがて、サイドカーで行ける限界の場所まで着いた。関西呪術協会が所有しているという駐車場にサイドカーを停車させ、リヴィオは仕舞っていた帽子とマントを取り出して身に付けた。
 神父服との異常なまでのミスマッチをカモがつい口を滑らせて指摘しても、リヴィオは「こういう仕事の時には身につけておきたいんだ」と、帽子とマントについては頑として譲らなかった。
 あの帽子とマントにも神父服のような謂れがあるのだろうかと気になったが、それを口に出すよりも先にリヴィオが歩き始め、ネギは彼に先導されて近くにある総本山へと続く一本道へと向かった。
「わぁ……」
「スッゲェ……」
 壮観な風景を目にして、ネギとカモは共に声を漏らした。
 日本の神社の境内の入り口に立つ、赤い独特な形状の門――鳥居。その鳥居が、出口が見えないぐらい長い参道と共に、数え切れないぐらい立っているのだ。
 このような光景を見るのは、ネギもカモも初めてだった。緊急事態ではあるものの、暫し、それに見入っていた。
 リヴィオも自分が初見の時も同様の感動を覚えていたのか、2人の様子に不満も焦りも見せず、2人が十分に千本鳥居を見てから、話を進めた。
「この道をずっと行った先が総本山の正面玄関だ。途中でキツくなったら言ってくれ、俺が抱えて行くから」
 そう言われて、ネギはそんな所でまで頼ってばかりではいられないと、握り拳を作って、自信満々に答えた。
「いえ、僕だって身体強化の魔法が使えますから大丈夫ですよ! さぁ、行きましょう!」
「合点承知だぜ、アニキ!」
「頼もしいな。じゃあ、行くぞ」
 ネギの返事にカモが応え、リヴィオも頷くと、千本鳥居の道を共に走り出した。
 最初はネギが先を走っていたのだが、それもほんの数秒。リヴィオはすぐにネギを追い抜いた。それだけならともかく、その後は後ろを一度も振り向かずにペースを完全にネギに合わせ、ネギとの間の距離を一定に保ちながら走っているのだから驚きだ。
 そうして約30分後。どれだけの距離を走っただろうか。目に見える風景は、ほぼ等間隔に並ぶ鳥居と木々ばかりで、指標となるものが無く、さっぱり見当が付かない。
 不意に、リヴィオが脇に逸れて急に立ち止まった。リヴィオが距離を開けてくれたお陰でぶつからずに済み、ネギもリヴィオの隣で足を止める。
「どうしました? リヴィオさん」
 息を切らしながらネギが問うと、リヴィオはすぐに答えず、2度、3度と首をぐるりと回して周囲を窺っている。
 やがて、その表情が険しいものへと変わった。
「ここ、さっき通った場所だ」
「え? そう……ですか?」
「ああ。この景色は間違いなく、さっき見た。けど、こんな一本道で同じ場所に出るなんて……」
 リヴィオは深刻な顔でそう言うが、ネギからすればずっと同じような場所ばかりで、正直、入口からここまでの道の区別も殆ど付いていない。だから、リヴィオの言っていることが、あまり実感できなかった。
 だが、カモは何かに気付いたらしく、ネギの肩へと上って来た。
「も、もしかしたら……こいつぁ空間連結型の結界かもしれませんぜ!」
 カモに言われて、ネギも気付く。
 確かに、前後にずっと同じような景色が続くこのような道は、空間連結型の結界を罠として仕掛けるには持って来いの場所だ。周囲の風景の変化が少ない道の空間をループするように繋げられたら、『同じ景色』が続いたとしても『同じような景色』と誤認してしまって、すぐには気付けず、繋げられた空間の中をぐるぐると回り続けることになってしまう。
 それを、魔法の素質が皆無であるというリヴィオが見破ったというのだから、恐るべき洞察力だと言うべきだろう
「結界……ちっ、呪術の類か」
 結界と呪術という言葉を忌々しそうに言った直後、リヴィオは表情を険しくしてネギを庇うような立ち位置に移り、前方を睨みつけた。
 すると、少し先の鳥居の陰から、ネギと同じくらいの年頃の、ニット帽を被った黒髪の少年が現れた。
「流石やな、リヴィオの兄ちゃん。呪術になんも詳しくないのにあっさりと見破ったなぁ」
「お前、小太郎!?」
 その少年の出現に、誰よりもリヴィオが驚き、その名を大声で口に出した。
 名前と見た目から察するに日本人のようだが、それ以上の事はネギには何も分からないので、リヴィオに訊ねた。
「お知り合いですか?」
「ああ。呪術協会の総本山で、何度か組み手の相手とかをやったことがあるんだ」
「犬上小太郎や。よろしゅうな、西洋魔術師の坊ちゃん」
 リヴィオが言うと、それに応えて少年が自ら自己紹介をして来た。
 なんだか小馬鹿にされたような呼ばれ方にネギも、むっ、としたが、それ以上の感情を持つより先にリヴィオが話を進めた。
「小太郎、どうしてお前が」
「そりゃあ、勿論――」
 リヴィオからの問いへの応答として、小太郎は言葉を返しつつ、軽やかに跳躍し、そのままリヴィオへと飛び蹴りを放った。
「あんたと戦いたい! それだけや!」
 突然の事態に、ネギとカモミールは声を上げることもできず、唖然、呆然とした。まさか、自分と似た背恰好の少年があんなに鋭い蹴りを打てるとは思わなかった。しかし、それ以上に驚いたのは。
 リヴィオは小太郎の蹴りを、手で掴んで止めていたのだ。
 小太郎は、刹那が使うのと同系統の身体強化の術を使って、大人どころかトップアスリートをも凌駕ほどの身体能力を得ている。それを、リヴィオは事も無げに、自らの地力で対応して見せたのだ。
 魔法による身体強化の恩恵を良く知るネギには、小太郎よりもリヴィオの方が凄まじく見えた。だが、小太郎は動揺を見せない。或いは、過去に行ったという組み手でこういうこともあったのだろうか。
「それになぁ、あんた、こうでもせんとその気になってくれんやろ?」
 小太郎が言うと、リヴィオは溜息混じりに掴んでいた小太郎の足を放した。
「そうか、分かった。じゃあ、俺が君を倒したら、ここの抜け出し方と、君が協力している連中について洗い浚い吐いてくれないか?」
「それくらい、お安いご用や。アンタが、本気を出してくれるんならなぁ!!」
 そこから始まった戦いを、ネギはカモと共に後ろへ下がって見守ることにした。自分に何かがあって親書を紛失してしまっては本末転倒だし、なにより、こういうことはリヴィオに任せるという約束だからだ。
 戦いが始まってすぐ、リヴィオはネギに不安を感じさせないほどの優勢を見せつけた。
 小太郎がどれだけ拳や蹴りを繰り出そうと、リヴィオはそれらを全て紙一重でかわし、攻撃も隙を見て足を引っ掛けるだけ、という余裕がはっきりと見て取れるものだった。
 これに小太郎は発奮すると思いきや、これでは駄目かと呟き、納得している様子だった。どうやら小太郎も、自身とリヴィオの力の差を理解しているようだ。なら、自信を感じさせるあの笑みの意味はなんだろう、とネギが考えた時、小太郎から異様な気配――魔力に似たものの迸りを感じた。
 次の瞬間には、小太郎の肉体が変化していた。髪の色が変化しただけでなく、肉体が大きくなり筋骨隆々とした体躯となり、手足は四足獣のそれを連想させるものに変わった。
 その拍子に被っていた帽子が破れ、小太郎の頭の上に犬のような耳が生えているのが見えた。その代わりに、本来人間の耳がある場所にそれらしいものが見当たらない。
 これは、話に聞く亜人種。人間とは異なる動物、或いは魔獣の因子を併せ持つ人種で、一部の者はその因子を発揮することによって肉体を通常の強化魔法よりも遥かに強靭なものへと強化できると、メルディアナ魔法学校で学んだことがある。
 亜人種の大半は魔法世界で暮らしており、この地球には僻地で稀に見られる程度だと教えられていたが、その本人をこんな所で見ることになるとは、ネギも思っていなかった。
 先程までとは比べ物にならないほど強靭になった体で小太郎はリヴィオに殴りかかる。踏み込みの速さも、繰り出された拳の速度も桁違いだ。リヴィオも今度は避けられず、無防備なまま拳と蹴りの連打を浴びせられた。
 明日菜以上の怪力で、あんなにも殴り続けられていたら死んでしまう。なんとかして止めなくては、と考えた時、ネギはあることに気付いた。最初は余裕と自信に満ちた表情だった小太郎の顔が、今は焦燥と不安で埋め尽くされている。
 どういうことかとリヴィオの方を注意深く見てみたら、その理由が分かり、ネギも驚愕のあまり言葉を失った。
 リヴィオの体は、どんなに小太郎の拳や蹴りを受けていても平然としていた。それこそ、どんな打撃を受けても体が少しも動いていない。顔を殴られても、首が少しも動いていないのだ。普通なら、殴られたり蹴られたりしたら、どうしても体はその拍子に動いてしまうものなのに、リヴィオの体は少しも動かない。
 それが意味するのは、圧倒的なまでのリヴィオと小太郎の実力差。リヴィオにとって、小太郎の攻撃はまるで意味を成していない。
 全ての攻撃をかわし続けるよりも、遥かに衝撃的だ。恐らく、今までの攻撃も“かわせなかった”のではなく、“わざと受けていた”のだ。
 それでも、小太郎は諦めず/認められず、尚も激しく攻撃を続けていた。だが、急に、小太郎の頭が不自然に揺れたかと思うと、膝と腰から力が抜けたようにその場に倒れた。突然の事に呆然としそうになったが、そうなるより先に、リヴィオの腕が何時の間にか動いていたことに気付いた。
 もしや、視認できないほどの速度で攻撃したのではないかと考え、冷や汗を流す。攻撃されたらしい小太郎も、何が起こっているのか分からない様子で、焦点の合わない目で辺りを見回している。だが、どこにもリヴィオの姿が無い。
 気付いて、ネギは慌てて周囲を見回した。本当に、ついさっきまで見ていたはずのリヴィオの姿が忽然と消えているのだ。
 こんな、ほんの数秒の間で、あんな大柄な男性を見失うことがあるのだろうか。
 そんな風に思った時、唐突に、リヴィオの姿を見つけた。
 何故、今まで見つけられなかったのが不思議だった。リヴィオは、何時の間にか小太郎の背後にいたのだ。
 リヴィオは片膝を着いて、後ろから小太郎の肩を叩き、負けを認めるか尋ねた。
 小太郎はすぐには答えず、力の入らない自身の肉体に喝を入れるように立ち上がると、振り向きざま、リヴィオに向かって拳を繰り出した。
 突き出された拳は、空を切った。
 リヴィオは、分かったと言って頷き、今度は辛うじてネギにも見える速さで小太郎の側頭部を叩き、彼の意識を刈り取った。
 それで、戦いは終わった。
 いや。果たして、今の光景を戦いと呼んでいいものだろうか。
 百歩譲って戦いだと認められたとしても、ネギにはリヴィオの勝利に歓喜するような気持ちは少しも湧かず、代わりに、気付かぬ内、本当に無意識の内に後ずさりをしていた。
 あまりにも圧倒的な、実力の片鱗どころか欠片すら見出せない戦い方を見せられて、ネギが真っ先に感じたのは、心強さよりも恐怖だった。
 ネギも、少なからず戦いというものを経験していて、戦いの上での強いか弱いかの区別はある程度つけられる。ネギの基準で言えば、小太郎は間違いなく強い部類だ。少なくとも、今の自分では勝てないと思うぐらいに、ネギは小太郎を強いと思った。だが、リヴィオは分からない。理解できない。リヴィオの強さは、ネギの基準に当て嵌めることが、受け容れることができるようなものではなかった。
 それ程に、リヴィオの強さは異質であり、異常だった。
 それが、こわかった。
 カモも同じような心境で戦いを見守り、今も沈黙しているのではないだろうか。
 リヴィオが、ちらり、とネギを見てきて、ドキリとする。だが、何も言わず、リヴィオは気絶した小太郎を抱き上げた。
「悪い、本気は出せない。……ゴメンな、君を殺したくないんだ」
 小太郎の顔を覗きながら、申し訳なさそうに、そして酷く悲しそうにリヴィオは呟いた。
 それを見て、ネギは自然と彼に歩み寄っていた。





「あの……殺したくないって、どういう意味でしょうか……?」
 小声で言ったつもりだったが、聞こえてしまったようだ。
 そのことを後悔した直後、急に異様な殺気を感じた。この殺気にリヴィオがここまで近付かれるまで気付けなかったのは普通ではない。もしや、結界のせいだろうか。
 思考しつつ、殺気の元を警戒しながら、リヴィオは小太郎を抱えてネギに振り返る。
 別に、隠したり嘘を吐いたり、無理に誤魔化す必要も無い。正直に答えよう。
「俺が本気を出したら、小太郎の体じゃ耐えられない。俺、かなり頑丈な人間を蹴り一発で粉々にしたこともあるから」
 言いながら、気絶している小太郎の顔を見る。決して穏やかとは言えない表情だが、思う所はそこではない。
 小太郎は強い。ミカエルの眼でも、10歳前後でこれだけの強さの者は滅多にいない。少なくともリヴィオは当時、彼ほど強くなかった。今は余裕を持って勝てたが、5年後、10年後にはどれだけ強くなっているか、空恐ろしく思える。それほど、小太郎の素養は凄まじいものだ。
 ……これで、肉体には何も手を加えていないんだから、本当に凄いよ。
「それに、本気を出そうにも未熟者が相手では興が乗るまい。ダブルファング」
 リヴィオの言葉に真っ先に応えたのは、ネギでもカモでも無く、脇の林の奥から現れた殺気の元の男だ。
「貴様か、ケン・アーサー」
 小太郎を小脇に抱えて、ネギを守れるように位置取りをする。
 ケン・アーサーは初対面の時のように、深編笠を被っている。もしかしたらあれが、日中でもあの男が外を出歩けている理由だろうか。
「し、親書は渡しません!」
 突然の敵の登場に驚いたのか、呆然としていたネギが慌てながらも言い放った。
 どうやら、ネギはあの男の殺気を感じ取れていないらしい。そうでなければ、ネギのような子供が、こんなことを強がりでも言えるはずが無い。
 殺気には、強ければ誰にでも感じ取れるものと、一定以上の実力者でなければ感じ取れないものがある。
 前者は、例えるなら音。大きければ大きいほど、感じ取れる人は多くなる。
 後者は、例えるなら速さ。速くなれば速くなるほど、それを捉える事が出来る人は少なくなる。
 ケン・アーサーは後者の殺気の持ち主。それだけでも曲者で、相当の実力者だと分かる。元よりその心算は欠片もないが、一瞬の油断も出来ない相手だ。
 空いている右手に待機状態のダブルファングを握り、銃の形態へと変形させる。すると、ケン・アーサーは一歩、後ろに下がった。
「安心しろ、今の俺は何をする気も無い。ただの見物だ」
 何という好機。やはり士郎の言っていた通り、奴が日中に動き回るのはかなりの無理があるようだ。でなければ、戦闘狂と言って差し支えないこの男が、この場でリヴィオとの戦いを避ける理由は見当たらない。
 殺るならば今。小太郎を放して、地面に落ちる前に拾えるぐらいの余裕を持って倒せるだろう。だが、問題は魔術だ。リヴィオは魔術に関して全くの素人で、士郎もあの男が得意としている魔術の全容を知らなかった。
 そんな手の内が分かり切っていない難敵を相手に、守らなければならない子供を抱えて戦うのは不安だ。
 それに、何よりも。ネギやカモの目の前で、血腥い戦いをするというのは、気が引ける。
「だったら、さっさと失せろ」
 ケン・アーサーを倒す最大の好機を見逃すが、代わりに得られるのは安全にこの場を切り抜けられる、最善に近い結果。悪い判断ではないはずだ。
「そのガキを渡してはくれぬか?」
「駄目だ」
 小太郎を指して言った言葉を、即座に遮り、ダブルファングの銃口を向ける。
「そうか。ならば、退散しよう。結界は解いておくから、俺の気配が失せてから動くといい」
 言って、小太郎を置いていくことに少しも躊躇いを見せず、ケン・アーサーは千本鳥居の奥へと、無防備な背中を晒しながら歩いて行った。
 ネギ達の手前、リヴィオが撃つことを躊躇っていることを読まれたか、それとも、銃火器では死なないという自信によるものか。
お天道様の下、悠々と歩く背中を、ただ睨む。
 撃てないのが、歯痒い。
「結界まで解いてくれるって、本当でしょうか?」
「分からないけど、取り敢えずは信じてみるさ。嘘だったとしても、小太郎が起きるのを待てばいいだけだ」
 ネギの言葉に頷いて、ダブルファングを待機状態の十字架に戻して、腰に差す。それでも油断はせず、ケン・アーサーの動向を監視する。
 ケン・アーサーは暫く歩いて立ち止まると、ある鳥居の裏で何かをして、そのまま脇の林へと出て行った。少しずつ奴の殺気が遠ざかって行き、やがて気取れないようになった。リヴィオが感じ取れないほどの距離まで離れた事を確信して、臨戦態勢から警戒態勢に移る。
 その変化を察したのか、今まで黙っていたカモが話しかけてきた。
「あの……ところで、リヴィオの兄貴」
「ん?」
「さっきの、人間を粉々にしたっていうのは……」
 恐る恐る、冷や汗を垂らしながら聞いて来るカモの姿を見て、つい自嘲する。奴よりも自分の方が、カモを怯えさせていたとは。
「本当だよ。怖いか?」
 人間を殺したと言っているのだ、この世界でも特に平和な場所にいたカモやネギが、怖くないはずが無いだろう。
 言うと、カモが答えるより先に、ネギが首を振った。
「怖い……というより、信じられないというか、実感が湧かないです」
 それを聞いて、つい苦笑を浮かべる。
 確かに、人間――正確にはサイボーグだ――を蹴り一発で粉々にしたなどと、彼らの常識に当て嵌めれば鵜呑みにして信じられるようなことではないか。
「はは、そうか。じゃあ、冗談っていうことにしておいてくれ」
 そこで話を打ち切って、総本山へと急ぐことにした。敵の襲撃がまだあることも十分に考えられるので、両肩にネギと小太郎を担いで、カモはネギの懐に潜ませて、一気に千本鳥居を駆け抜ける。
 こちらに仕掛けて来たからには、本命の御令嬢の方にも確実に手が回っているはず。ヴァッシュがいるから大丈夫だと思うと同時、ヴァッシュがいるということが別の意味で不安になる。
 ヴァッシュが無茶するような状況にならないことと、そうなった場合の士郎の健闘を祈ろう。





 太秦のシネマ村に着くと、ヴァッシュと士郎はすぐにタクシーを降りた。
 何でもこのシネマ村という場所は、日本にサムライが本当にいた時代――江戸時代の頃の日本を忠実に再現したテーマパークだという。外国人にも人気が高いらしく、ヴァッシュ達もタクシーの運転手にそういう観光客だと思われていたようだ。
 こういう時で無ければ、ヴァッシュも楽しみながら見て回りたいのだが、流石に今はそんな気にはならない。今回の件が終わったらまた来よう。
 入り口で入場券を買って中に入ると、そこは先程までの京都の街並みとは全く違う風景だった。
 おお、これぞ正しく僕が昔からイメージしていた日本の風景そのものだ。
「ちびせつな、近衛の御令嬢の所までナビを頼むぞ」
「はい、お任せ下さい!」
 士郎が言うと、ちびせつなは凛々しい表情になって、力強く頷いた。刹那にそっくりなのは外見だけではなく、木乃香を大切に思っている心も同じようだ。
「よ~し、急ごうか!」
 ちびせつなのナビに従って、目指すはお姫様と少女侍の御一行様だ!
 本当にそんな格好になっていたら探すのが楽になりそうなものだが、流石にそんなことは無いだろう。


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