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No.32684の一覧
[0] 【習作】正義の味方と夢見る聖者【ネギま!×Fate×トライガン+オリジナル】[T・M](2012/08/23 20:13)
[1] 第一話[T・M](2012/04/07 23:51)
[2] 第二話[T・M](2012/04/08 00:22)
[3] 第三話[T・M](2012/04/12 23:20)
[4] 第四話[T・M](2012/04/18 23:55)
[5] 第五話[T・M](2012/04/19 00:04)
[6] 第六話[T・M](2012/04/30 22:16)
[7] 第七話[T・M](2012/04/30 22:32)
[8] 第八話[T・M](2012/05/12 00:03)
[9] 第九話[T・M](2012/05/12 00:05)
[10] 第十話[T・M](2012/05/16 22:01)
[11] 第十一話[T・M](2012/05/16 22:06)
[12] 第十二話[T・M](2012/05/22 01:08)
[13] 第十三話[T・M](2012/05/22 01:43)
[14] 第十四話[T・M](2012/05/22 01:53)
[15] 第十五話[T・M](2012/05/22 02:11)
[16] 第十六話[T・M](2012/05/29 22:28)
[17] 第十七話[T・M](2012/05/29 22:51)
[18] 第十八話[T・M](2012/08/23 20:08)
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[32684] 第八話
Name: T・M◆4992eb20 ID:dcd07e40 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/12 00:03
 修学旅行3日目の朝を迎え、宮崎のどかへの返事も考え終わって、ネギは先日までよりも一層気を引き締めていた。
 それも当然。今日は、長らく緊張状態が続く日本の東西の魔法使い達の和解への第一歩となる日であり、その大任を果たすのがネギ自身なのだから。
「兄貴、今日の筋書きはちゃんと覚えてやすか?」
 着替え終わった所にカモが話しかけてきた。彼もいつもより気合が入っているように見えるのも、気のせいではないだろう。
「うん、勿論! この親書は、絶対に僕が届けないといけないからね」
 言って、懐から近衛近右衛門学園長から受け取った親書を取り出す。
 出発する時には何でも無い物のように思っていたが、今は心なしか、当初よりも重く、大きく感じる。これの持つ意味を考えれば、尚更だ。
「そうすか。……それで、あの嬢ちゃんの事はどうするで?」
 すると、カモが唐突に、ニヤけた顔をしてそんなことを訊ねた。
「カ、カモくん!?」
 カモの言っている事の意味を察し、ネギは狼狽した。歳の割にしっかりしているといえ、やはりまだ少年。自分の色恋沙汰を囃し立てられれば慌てふためいてしまう。
 その様子を見て、カモは笑みを浮かべた。
「冗談っすよ。そういうことは、この大事を乗り越えてから好き放題やりましょうぜ!」
 言って、カモは逃げるようにしてネギに先んじて部屋から出て行った。実際、怒ったネギに追われているのだが。
 少し追い掛けて、ネギは呆れながらも、いつもと変わらずに接してくれるカモの態度に、少しだけ不安と重圧が和らいだことを感謝した。
「ようし、頑張ろう!」
 気合を入れた所でお腹が鳴ってしまって、誰に聞かれたわけでもないが気恥しくなってしまい、ネギはまず朝食を食べに食堂へと向かった。その後に、カモも続く。





 ホテル嵐山の正面玄関付近の外で、普段着とは違う黒衣を着てリヴィオは待機しつつ、結局夜襲が無かったことを考えていた。
 3人で寝ずの番をしていただけに、これには少し拍子抜けした。他の一般人を巻き込まずに済ませられたのは僥倖だが、まさかそんなことが奴らの思惑というわけでもあるまい。
 使い魔を発見されたことはほぼ確実に向こうも分かっているはず。そうであるにも拘らず、一切の対応が見られない不気味なまでの沈黙。慎重を期し過ぎて機を逸した、などという短絡的な考えはするまい。
 ならば考えられるのは、士郎から見張りの最中に伝えられた悪い予想の1つ、奴らにケン・アーサーに匹敵する、或いは凌駕する強力なカードが存在するということだ。こちらの準備が万端とはいえ、十二分に警戒しなければならないだろう。
 懐から時計を取り出し、時刻を確認する。もう間もなく、予定の時刻だ。
 第一段階として、リヴィオが修学旅行中のネギと木乃香を形式的に問題無く連れ出す為に、彼を1人で迎えに行くことになっている。他の護衛メンバーはホテルの屋上やロビー、更にホテルの周辺に警戒態勢で待機している。
 ネギと木乃香を彼らにとって正当に連れ出すだけで、これだけの手間だ。自分では気付くことすらできなかったことをテキパキと進めて、リヴィオの服装の事も含めて段取りを整えてくれた士郎には、いくら感謝しても足りないほどだ。
 それにしても、ネギが総本山の場所を全く知らないことには驚かされた。刹那も当初は今回の件での協力を仰せつかっていなかったのだから、つまるところ、今回の和平は極めて初歩的な段階で致命的なミスを犯していた。
 詠春さん、近右衛門さん。ネギに地図を渡すぐらいしておいて下さいよ。
 本当に東西の和平をする気があるのかと、主に東の長の考えを疑ってしまう。今回の和平の使者にネギが任命されたのも、半分以上あちらの思い付きだと総本山や神鳴流の間でまことしやかに噂されていた。しかも、ネギ達に訊いてみたら肯定こそしなかったが、一切否定しないと来たものだ。
「まぁ、あれこれ考えてもしょうがない。そろそろ行くか」
 余計で煩雑な考えを打ち切って、リヴィオは関西呪術協会の長からの使者としてホテルへと入る。





 食堂での朝食が終わり、今日の班別自由行動でどの班がネギ先生を連れ回すかを掛けた熾烈な争奪戦が始まろうという兆候が見え始めた、その時。突然の乱入者に3-A生徒の全員が目を奪われた。
 現れたのは、見るからに日本人離れした風貌の男だった。灰色の髪に、180cmを超す長躯がまず特徴的だが、男が着ている黒衣と、顔に入れてある刺青が何よりも注目されていた。
 生徒達は男が何者か、どうしてここに来たのかとざわめいている。その中で、刹那と明日菜だけは緊張した面持ちになっていた。
 自分に向けられている奇異の目と、聞いていてあまり気持ちの良くない言葉。それらを無視して、男はネギの傍に歩み寄った。
「君が、ネギ・スプリングフィールド先生かい?」
「はい、そうです」
 男が問うと、ネギはやや緊張しながらも戸惑うことも無くすぐに返事をした。
 このやり取りだけで、超鈴音や龍宮真名などの一部の勘の鋭い、若しくは洞察力のある生徒はネギが然程動揺していないことに違和感を覚えていた。
「驚いたな、本当にこんな子供が教師なのか。っと、失敬。俺はリヴィオ・ザ・ダブルファング。近衛詠春さんからの指示で君を迎えに来た。話は聞いているかい?」
「はい」
 男――リヴィオは、あたかも初対面であるかのようにネギへと挨拶し、簡潔に用件を述べた。それに、ネギも迷わずに頷いた。
「このかさん、僕と一緒に来て下さい」
「ふぇ?」
 ネギが木乃香を呼ぶと、呼ばれた本人は心底不思議そうな声を返した。
 それを聞いて、リヴィオは木乃香へと歩み寄り、事情を説明した。
「はじめまして、木乃香さん。俺はリヴィオ。君のお父さんにお世話になっているんだ」
「あ、はい。はじめまして~。そうなんや、お父様の知り合いの人なんやなぁ」
「そうさ。それで、君のお父さん、詠春さんに頼まれて、君とネギ先生を迎えに来たんだ。修学旅行中にすまないとは思うけど、緊急の用件でどうしても家に来て欲しい。この事は、昨夜の内に学年主任の……新田先生、だったかな? その人を通じて、君に話が行ってるはずなんだけど」
 これこそが、リヴィオ達が用意した今回の件をスムーズに解決する為の『筋書き』だ。
 修学旅行中とはいえ、親元を離れていた生徒が地元に来ていて、それを親が担任と一緒に実家に呼び戻すというのは、珍事ではあっても、絶対に有り得ないほど不自然なことではない。
 そうすることによって、近衛木乃香を現状で最も安全な場所である呪術協会の総本山で保護し、同時にネギが親書を届けるのが狙いだ。
 普通なら話が拗れそうなものだが、木乃香の祖父は麻帆良学園都市の最高責任者であり、京都の父親も地元の名士として麻帆良学園の一般教師にも知られている。数多くある名家の柵を原因に仕立て上げてしまえば、今回の『筋書き』もすんなりと話が通った――はずなのだが、どうやら昨夜の内に木乃香まで話が通っていなかったようだ。
「あれ、そうなんです? うちは何も聞いてへんけど」
 普段ならば、謹厳実直を地で行く新田先生が生徒への重要な伝達事項を忘れることは無かっただろう。だが生憎、昨晩は夜な夜な『大枕投げ大会』なるものを催していた一部生徒の捕獲と指導に当たっていた為、このことを失念していたのだ。そして現在も、間の悪いことに、昨夜の生徒達の問題行動をホテルの責任者に謝罪し、頭を下げているところだった。
 そんなことは露知らず、リヴィオとネギは木乃香に今日の『筋書き』について改めて説明した。
「そういうわけですから、このかさん、今日は僕と一緒に来てもらえますか?」
「え~……。うち、今日の自由行動楽しみにしとったのに……」
 ネギが言うと、木乃香は不満を露わに言い返す。
 それを聞いて、それでも、リヴィオは譲らずに木乃香の決断を求めた。
「すまないね。けど、本当に緊急の用件なんだ」
「お嬢様、早くお支度を。お父上をお待たせたら、叱られるやもしれませんよ」
 リヴィオが言ったのに続いて、隣で話を聞いていた刹那がリヴィオ達を援護した。
「せっちゃんまで……分かったわ。ちょっと待っといてくれます?」
 刹那からも促されたのが決め手になって、木乃香は溜息を吐いて、リヴィオやネギと共に実家に戻ることを決めてくれた。いざとなったら強引にでも連れて行こうかと考えていただけに、リヴィオはこれに胸を撫で下ろした。
「ああ。けど、なるべく早く頼むよ」
 ネギと一緒にロビーで待っていると伝えて、リヴィオは早速ロビーへと向かった。
 リヴィオが去った、その後。ネギやカモ、刹那や明日菜も、誰も気が付かない所で、ある少女の目が怪しく光った。





 順調に事が運んでいることに、刹那は安堵した。
 木乃香が攫われかけた時はどうなる事かと思ったが、これで一安心だ。万全の守りで固められている総本山に行けば、襲撃の心配は無くなる。仮にあったとしても、『サムライマスター』の異名を持つ英傑、近衛詠春に敵う者などたかが謀反人の戦力にはいるまい。
 先程までは一度実家に戻ることを渋っていた木乃香も、刹那も同行することを伝えるとすぐに前向きになってくれた。これならば、道中、余計ないざこざが起きる心配も無いだろう。
 後は木乃香の身支度が整うのを待つだけだ。
 自分の支度を終えた刹那は、木乃香に声を掛けるより先に、念の為にと、ホテルのロビーで神鳴流の先輩剣士から渡されたある呪符を取り出した。
 神鳴流の剣士の中には剣術だけでなく、呪術に通じている者も少なからずいる。刹那もその一人で、渡されたその呪符を使うこともできる。
 少々考え、これはいざという時にすぐ使えるようにしておこうと、制服のポケットに仕舞う。
 荷物の入った鞄を肩に掛けて、木乃香に声を掛けようと振り向く。木乃香は班の他のメンバーの早乙女ハルナ、綾瀬夕映、宮崎のどかとなにやら話し込んでいた。その会話には加わっていない明日菜に近寄り、どうしたのかと声を掛ける。
「早乙女さん達、お嬢様と何を話しているのでしょうか?」
「さぁ? パルと夕映ちゃんが、話があるって、このかと本屋ちゃんを捕まえてさ」
 明日菜も状況が分からないらしく、刹那の問いには答えられなかった。しかし、それに対して不満は懐かず、そうですか、と頷く。
「……お土産の相談でしょうか?」
 ハルナ達が木乃香を交えて何を話すか、自分なりに考えた結果を口に出す。それに、明日菜も頷く。
「このかは地元だもんね。……桜咲さんのオススメのお土産って、何かある?」
「え? 私のオススメ、ですか?」
 まさか自分にその話題が振られるとは思っていなかったので、刹那はつい聞き返してしまった。
「うん、そう。高畑先生だけじゃなくて、バイト先の人達にも何かお土産を買おうと思ってさ」
 今思いついたような、取って付けたような、そんな理由。口調からも、それが察せられる。どうして態々、そうまでして刹那と会話をしようとするのか。
 明日菜の真意は見えなかったが、せめて無礼に当たらないようにと、刹那なりのオススメを教える。
「そう、ですね。それなら、お菓子……八ツ橋はどうでしょう?」
「八ツ橋か……硬いのと柔らかいのとあるみたいだけど、どっちが美味しいの?」
「私は、柔らかい方が好きですね」
「そっか。じゃあ、それにしようかな」
 お土産の話が終わった、調度その時。木乃香達の方も話が終わった。
「アスナ! 桜咲さん!」
「は、はい?」
「どうしたのよ、パル?」
 突然、ハルナに大声で呼ばれ、ビックリしながらも刹那と明日菜は返事をした。しかし、そんな様子は歯牙にもかけず、寧ろ知ったことじゃないとばかりに、ハルナは見るからに高揚したまま話を続けた。
「青春ってなんだ!?」
「え?」
「それは……振り向かないことさ!!」
 刹那が素っ頓狂な声で聞き返したのを聞き流し、明日菜が言い返そうとすることさえも待たず、ハルナは自分で答えを口にした。
 突然何を言い出すのだと、刹那は明日菜と共に唖然としたが、一方で、木乃香が楽しそう/嬉しそうにしてそれに頷いているのに気付いた。
「そういうわけで、午前中……いえ、夕方ぐらいまではこのかさんの実家行きをボイコットしてしまおう、という方向で決まりましたので」
 怪しげなパック飲料『世紀末求水主の力水』を片手に、夕映がハルナの言わんとしていたことを伝えてきた。その隣で、のどかはおどおどとしている。
 それを聞いて、刹那と明日菜はギョッとした。





 屋上から周囲を見回すが、怪しい人影は見られない。
 やはり仕掛けて来るならば移動中かと考え、今度は下へと目を向ける。少し目線を動かすと、あるものが目に入った。
 それは、近衛木乃香を中心とする6人の少女達だった。
「近衛木乃香が班の子と一緒に外に出たぞ!」
 目に映った信じ難い光景を、確認すると同時にヴァッシュから借りている通信機に向けて怒鳴った。
「……しまった!」
 一拍の間を置いて通信機から返って来た声を聞いて、士郎も非常階段を駆け下り、途中で飛び降りた。
 まさか、彼女達が非常口から外に出て、しかも事前に呼び寄せていたらしいタクシーに乗り込むとは、考えもしていなかった。
 理由は、恐らく、今日を楽しく過ごしたい、といったところだろう。
 彼女達の不満と行動力を侮ったのと、筋書き通りに上手く行っているからと生じた油断の、二重のミス。
 やはり、徹夜明けで判断力と注意力に鈍りが出ているか? それとも、ここまで突飛な子供の行動力は大人には予測しえないものなのか?
 悔いつつも全力で走り、正面玄関でリヴィオと合流する。タクシーの発進には、リヴィオも間に合わなかったようだ。
「くそっ! 俺としたことが、なんてミスを……!」
 顔を合わせて開口一番、リヴィオは心底から申し訳なさそうに言葉を吐き出した。責任感が強いからこそ、必要以上に自責の念を感じているようだ。
「俺達で後を追って、何としてもあの子を連れて行く。リヴィオはネギを連れて先に行ってくれ。他の神鳴流の人達への連絡も頼む」
 こういう時は、失敗を悔やむよりも挽回の行動をするべきだ。
 そういう意味を暗に込めて言ったが、どうやら伝わったらしく、リヴィオはすぐに平素の落ち着きを取り戻した。
「分かりしました。士郎さん、宜しくお願いします」
「任せてくれ」
 短く言葉を交わし、お互いに背を向けて持ち場へと走る。リヴィオはホテルの中のネギと神鳴流剣士たちにこの事を伝える為、士郎はヴァッシュと合流するためだ。
 橋を渡ったところで、あちらもこちらに向かっていた為すぐにヴァッシュと合流した。
「どうだ?」
「街に通路が多過ぎて見失っちゃった。タクシーも同じデザインのがたくさん走ってるから、見つけられそうにないよ」
 碁盤のように細かく区分けされている京都の街では、向かった方角だけで行き先を絞り込むのは不可能に近い。加えて、観光名所も多過ぎて、大まかな目安もつけられない。
 どうしたものかと、ヴァッシュと2人で知恵を絞るが、妙案は出てこない。ここにリヴィオを加えても文殊の知恵とは行くまい。
 一先ず一度ホテルに戻り、電話を借りることにした。桜咲と神楽坂の形態電話の番号を控えてあるが、態々脱走した彼女達が電話に出てくれるかが疑わしい所だ。おそらく、9割9分は出てくれないだろう。それでも、今できる唯一のことだ。駄目で元々でもやるしかない。
 そんなことを考えながら来た道を戻っていると、前方から妙な物が近付いてきていた。
「……ん?」
 最初は風船かと思ったが、風船は上に飛んでいくものだ。地面に水平に飛んでくるはずが無い。目を凝らしてよく見ると、それは、女の子のぬいぐるみのようなものだった。しかも、魔術的な。
 ヴァッシュと共に足を止めて、近付いてくる奇怪な物を凝視する。
 その見た目は見覚えのあるデザインで、警戒心は自然と薄れた。
 士郎達のすぐ近くまで来ると、それは地面に着地した。
「よかった、無事に見つけられました」
「あらかわいい」
 それが声を発すると、ヴァッシュはそれを抱え上げた。話をするのなら目線の高さを合わせよう、という気遣いだろう。
「君は……桜咲、か?」
 人形の容姿が桜咲刹那をデフォルメしたような姿であり、そのように問う。すると、それはヴァッシュの肩に乗って元気に頷いた。
「はい。私、桜咲刹那の式神、ちびせつなと申します。以後、お見知り置きを」
 見た目そのままの名前だ。
 それにしても、式神にこれほど自我や知能があって人間と対話可能とは驚いた。この世界での式神とは、士郎の知る魔術で例えれば即席の使い魔のようなものだと考えていた。だが、ちびせつなを見るに即席のホムンクルスと言った方がしっくりくる。
 改めて、この世界の技術力に驚きながらも感心する。知識や研究面ではあちらの魔術師の方が優っているだろうが、実用的な技術に関してはこちらの魔法使いの完全勝利だ。
 それはそれとして、ちびせつなから事情を聴く。
 今回の近衛木乃香らの脱走は同じ班の早乙女ハルナと綾瀬夕映の2名が画策したことで、それに木乃香本人も乗り気でとても止められそうになく、刹那と明日菜はやむなく説得を諦めて護衛の為に同行することを選んだらしい。
 ネギやリヴィオに連絡されたら厄介だからと、携帯電話まで半ば強引に没収されてしまったらしい。だが、刹那はその際に隙を見て呪符からちびせつなを作り出し、この事を伝えに来た、という次第のようだ。そして、この状況でとても役立つ能力もあるとか。
「私は本体と相互に連絡を取れますので、御2人をお嬢様の下までご案内できます!」
「本当かい!? いやぁ、ヤーパン・ニンポーには参ったね! 最高だよ!」
 ちびせつなからの思わぬ朗報に、ヴァッシュは彼女を抱え上げてその場でくるくる回って小躍りした。
「いえ、忍法ではないのですが……」
 戸惑いながら、ちびせつなは律義にヴァッシュの発言を訂正している。だが、そういうことならヴァッシュのボケは放っておいて早急に動かなければならない。
「早速後を追おう。彼女達はどこに向かっているんだ?」
「え、あ、はい。行き先は……太秦、シネマ村です!」
「よし、俺達もタクシーで追うぞ」
 場所を聞くと、知っている場所で確認の手間が省けた。ここから距離がある分、追いつくのがどうしても遅くなってしまうが、やむを得ない。行き先が特定できただけでも良しとしよう。
 やはり一度ホテルに戻ってタクシーを呼ぼうと歩き出した所で、ヴァッシュがちびせつなを抱えながら、あることを訊ねてきた。
「この子はどうする?」
 それを聞いて、足を止める。
 暫し黙考し、真っ先に思いついた力技以外に案が出なかった。ちびせつなに無理強いをしてしまうが、仕方がない。
「……ちびせつな。タクシーに乗ったら絶対に動くな、しゃべるな。人形で押し通す」
「は、はい。頑張ります」
 俺の無茶な頼みに、ちびせつなは、びしっ、と姿勢を正して頷いてくれた。
 今からそんなに硬くならなくてもいいのだが、そのことを言おうとするよりも先に、車のエンジン音が聞こえた。見ると、ホテルで人を下ろして来たばかりらしい、空席のタクシーが走っていた。
 これは調度いいと、そのタクシーを掴まえることした。一々呼んで待つ手間が省けるのは大きい。
「ヘイ、タクシー!」
 呼び止めるには少々距離があったが、ヴァッシュの大仰なジェスチャーと声のお陰で、無事にタクシーを止め、乗り込むことができた。乗り込むと同時に行き先を告げ、急用だと付け加えて発進を促す。
 奴らに見つけられるより先に、一刻も早く追いつかなければ。





 ホテル嵐山の一室。
 事の顛末を、使い魔を通じて見届けていたプレイヤーは、衛宮士郎とヴァッシュ・ザ・スタンピードがタクシーに乗ったのを確認すると、そちらの視覚リンクを解き、携帯電話を手に取った。
 掛ける相手は、依頼人の天ヶ崎千草だ。
「ミス・クライアント。手筈通り、ターゲットをそちらに向かわせましたので」
「そうか、ご苦労やったな。……追手は誰や?」
「予測通り、衛宮士郎とヴァッシュ・ザ・スタンピードです。ただ、ターゲットの腰巾着が今回は頭を回したようで、予定よりも早く追いつきそうです」
「全部が上手くはいかへんか……しゃあないな」
「ご健闘をお祈りします」
 簡単に連絡を済ませ、すぐに電話を切る。
 今日の行動は、別に必ずしも成功しなければならないものではない。だから、プレイヤーも千草達に何らかのアドバイスをしようとは考えなかった。フェイトがいるだけで十分だろう。
 やがて、ネギ・スプリングフィールドとリヴィオ・ザ・ダブルファングも動き出したのを確認し、そちらを見張らせていた使い魔との視覚リンクを切る。
 そして、今度はソードに電話を掛ける。
「ソード、ダブルファングと英雄子息も動いたから、宜しく頼むよ」
「心得た」
「小太郎くんには、精々頑張るように言ってくれるかい? どうせ無駄な努力だろうけど」
「自分で言え」
 言伝のついでにちょっとした冗談を交え、そこで通話を終えようとしたが、念の為、最後に付け足した。
「真っ昼間なんだから、ちゃんと自重してよ? 君が一番分かっているだろうけどさ」
「当たり前だ。こんな所で死にたいとは思わん」
 あちらから通話を切られる。それ以上言うことは無かったので、プレイヤーにも不服は無い。
 ソードは強い。だが、弱点も多い。特に真昼の日本という状況下では、実力の1割も発揮できないはず。だからこそ、万が一にも、そんな事前に分かり切った悪条件の下で死に急がないで欲しかったのだ。
 プレイヤーの企てにソードは必要不可欠な存在だし、何よりも友人だから。
「そ~れじゃ、俺らはどうするね?」
 必要な連絡が終わったのを理解して、先程部屋に着いてから隅で和菓子を頬張っていたE2がそう言った。それに応えて、プレイヤーはちょっと考えた。
「ん~、そうだねぇ。彼女やナイン達と一緒に待機でもいいけど……」
 ナイン達と、プレイヤーが呼び寄せた心強い増援である『彼女』は、今の段階では待機させている。彼らが力を行使するのは、この後の段階だ。
 そのことについて、彼らと話し合うのも良い暇潰しになる。だが、彼女をナイン達と2人きり――厳密にいえば“2人”ではないが――にさせておいたら面白そうだし、なにより、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの活躍をこの目で見てみたい。
 恐るべき魔人達が怯え、竦み、次元違いの存在とまで言っている、あの平和主義者の戦場での在り方を知りたい。
「ちょっと、冷やかしに行こうか」
 敢えて本心の部分を語らずに、プレイヤーはE2に告げた。すると、E2はプレイヤーの帽子に半分隠れた顔を見ると、いつもの気だるげな表情から一転して、意味ありげに笑みを浮かべた。
「そりゃ名案だ、行こうぜ」
 口に出して言うまでも無く、本心をある程度の所まで察してくれる。それを知っているからこそ、プレイヤーは敢えてあのように言って、今は楽しげに、嬉しげに頷いた。


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