<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.32684の一覧
[0] 【習作】正義の味方と夢見る聖者【ネギま!×Fate×トライガン+オリジナル】[T・M](2012/08/23 20:13)
[1] 第一話[T・M](2012/04/07 23:51)
[2] 第二話[T・M](2012/04/08 00:22)
[3] 第三話[T・M](2012/04/12 23:20)
[4] 第四話[T・M](2012/04/18 23:55)
[5] 第五話[T・M](2012/04/19 00:04)
[6] 第六話[T・M](2012/04/30 22:16)
[7] 第七話[T・M](2012/04/30 22:32)
[8] 第八話[T・M](2012/05/12 00:03)
[9] 第九話[T・M](2012/05/12 00:05)
[10] 第十話[T・M](2012/05/16 22:01)
[11] 第十一話[T・M](2012/05/16 22:06)
[12] 第十二話[T・M](2012/05/22 01:08)
[13] 第十三話[T・M](2012/05/22 01:43)
[14] 第十四話[T・M](2012/05/22 01:53)
[15] 第十五話[T・M](2012/05/22 02:11)
[16] 第十六話[T・M](2012/05/29 22:28)
[17] 第十七話[T・M](2012/05/29 22:51)
[18] 第十八話[T・M](2012/08/23 20:08)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[32684] 第七話
Name: T・M◆4992eb20 ID:dcd07e40 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/30 22:32
 天ヶ崎千草の一派の隠れ家の居間に千草と雇われた者達が全員集合し、テレビモニタに映されるプレイヤーの使い魔から送られてくる映像を見ていた。
 昨晩のナイン達の暴走による破壊も周辺の一般人に気取られることもなく、プレイヤーらが寝室を失う程度で済んでいた。
「いいのかい? 手札を見破られてしまったようだけど」
 衛宮士郎を映していた映像が途絶えると、フェイト・アーウェルンクスはプレイヤーに問うた。隠密裏の監視というアドバンテージが初歩的で稚拙なミスで失われてしまったとなれば、追及をするのは当然だろう。だが、そのことを十分に承知しながら、プレイヤーは全く動じずに答えた。
「ウェルンくん、手札と一口に言っても、色々と種類があるんだよ。今回のは見せ札だから、寧ろバレなきゃ困るのさ」
「そういうものかい」
「君みたいに、手札が全部切り札ってぐらい強力なものばかりの人には分からないだろうけどね」
 プレイヤーの言葉に一応は納得したのか、フェイトはそれ以上言葉を発さず、会話をやめた。
 他の面々は、ソード以外はプレイヤーの言葉を理解できていない様子で、頭の上に疑問符が浮いているような様子だ。
「それで、どうしますの~?」
 月詠が言うと、それに呼応するかのように、千草は机を強く叩きながら立ち上がり、声を荒げ、参謀役を務めているプレイヤーを睨んだ。
「ヴァッシュとかいうのは情報不足で結論は出ず仕舞いで、相手には長の懐刀までおる! 日が明けたら益々不利になってまう! やったら、今夜仕掛けるしかないやろ!?」
 切羽詰まった千草の声には、明らかに焦燥と不安が込められていた。
 相手が当初の思惑通り子供だけなら、せめて今日だけでもゆっくりと修学旅行を楽しませてやろう、という仏心/余裕も彼女にはあっただろう。だが、現実は違う。
 標的である近衛木乃香の守りには、近衛詠春が直々に雇っているという凄腕の用心棒リヴィオ・ザ・ダブルファング、そして偶然に居合わせた、そのリヴィオに匹敵するほどの実力者と考えられる2人の乱入者【イレギュラー】衛宮士郎とヴァッシュ・ザ・スタンピードが加わっている。
 彼らの未だ底の知れない強さは、その片鱗だけを見せつけられた千草にも理解出来ていた。だからこそ、焦っているのだ。明日になってしまえば、恐らく相手も本格的に近衛木乃香を守る為の手段を打って来るはず。そうなれば、近衛木乃香の誘拐は困難を極め、千草の悲願も叶わなくなってしまう。
 そんな千草の心中を見透かしてか、プレイヤーは余裕の表れかのようにうっすらと笑みを浮かべ、すらすらと澱み無く答えを返した。
「駄目ですよ、今から仕掛けたら臨戦態勢の彼らと鉢合わせになる。そうなれば、ミス・クライアント。貴女、死にますよ?」
 プレイヤーの言葉を聞いて、千草は声を詰まらせた。
 昨晩、千草は自身の着ていた強化服とも言える着ぐるみの頭を一瞬で粉砕され、腰を抜かした。あの時、リヴィオが銃口を僅かでも下にずらしていたら。
 そのように考えてしまい、プレイヤーの言葉に反論できない。
「まぁ、やってやれないことはないですけど、『神秘は秘匿すべし』。僕らはこの絶対原則を破るつもりはありませんので、仮に今夜どうしても仕掛けるのであれば、ナイン達を連れて行けません。あのホテルが瓦礫の山になってしまいますから」
「……随分な言い草やなぁ。雇われの身で、自分らの都合で仕事放棄かいな」
「これは手厳しい。しかし、別の策を用意してありますので、ご心配なく。心強い助っ人も明日には間に合いますので」
 力の入っていない声での千草からの指摘をあっさりと流して、プレイヤーは伝える必要のある事を事務的に述べる。
 この様子を見て、まるで他人事のような振る舞いだ、と思ったのは彼を良く知る者達で、すぐにいつもの事だと納得した。
「ま、これがどーなろーとどーでもええけど、ワイはリヴィオの兄ちゃんと何としても戦いたいんや。それだけは頼むで」
「うちは刹那先輩もえぇけど、衛宮はんやヴァッシュはんにも興味が湧いてきましたわ~」
 小太郎が自身の対戦希望を言うのに続いて、月詠も自らが戦いたい相手を列挙した。それを聞くと、プレイヤーは、ふむ、と頷いて、E2とソードに振り返った。
「E2、ソード。君達は?」
「お前に任す」
「お天道様が上っている内は戦えん。それだけは忘れるな」
 プレイヤーは2人の返答に頷くと、背後に控えるナイン達には敢えて何も聞かず、フェイトへと同じ問いをした。
「ウェルンくんは?」
「まずは君の策というのを聞かせてもらえるかい? 僕は誰と戦うことになろうとも構わない」
「誰か、是非とも戦ってみたい相手とか、興味の対象とかは?」
「無い」
 機械的で無機質なフェイトの返答に、プレイヤーは彼の求めに応じて話を次の段階へと進める。
「そう。うん、了解だ。それじゃあ、僕の策をお話しましょう」
 不敵な笑みを浮かべ、左手の掌に刻まれている何かの印を見てから、プレイヤーは自らの策を話し始めた。









 麻帆良学園の保健の先生に怪我の具合を見てもらい、多少腫れているが安静にしていれば大丈夫だとお墨付きを貰って、ヴァッシュはネギと一緒に部屋から出た。そのまま屋上へ向かおうとしたところ、ネギに頼まれて近くの休憩スペースで悩み相談に乗ることになった。
 ネギが持ちかけて来たのは、恋愛相談だった。士郎から聞いた通り、ネギが受け持っているクラスの生徒の、宮崎のどか、という子から告白されたらしい。
 何とも微笑ましい、青春っぽい悩みだ。こういう状況だけれども、なんだかついつい嬉しくなる。誰かを想うだけでなく、誰かに想われているということは、とても素晴らしいことだから。
 けど、恋愛相談か。…………今度は、失敗したくねぇな。
 過去に、今と同じようなことがあった。その時のことを思い出しながら、ヴァッシュはゆっくりと口を動かした。
「想いを伝えるなら、早ければ早いほどいいよ。けど、自分が相手の事をどう想っているか分からないなら、まずは考えることかな」
 あの時と同じ言葉を、少し付け足してネギに伝える。
「考える、ですか?」
 不思議そうな顔をして聞き返して来たネギに、頷いて、言葉を紡ぐ。
「うん。その子がどんな子で、どんなことをしていて、今までどう見ていたか。改めて考えて、自分の想いを確かめるんだ。それでも分からないなら、正直に時間をくださいって言えばいいさ」
 恋愛に限らず、人が誰かと共に生きる為に必要なこと。それは、伝えること、伝わること。相手が隣で、息をして、存在していると知ることだ。
 その為にも、まずは自分の考えや想いを知って、その上で相手に伝えなきゃいけない。そうでなければ、良く考えもせずに繰り出す思いつきの言葉だけでは、何も伝わらないから。
 分かってくれたのか、ネギは元気良く、笑顔で頷いてくれた。
「ありがとうございます、ヴァッシュさん! とても参考になりました。取り敢えず今晩、じっくりと考えてみます!」
「うん、役に立てて良かったよ。厄介事は僕らに任せて、思いっきり考えな」
「はい!」
 元気に返事をして、ネギは自分の部屋へと戻って行った。それと入れ替わりに士郎がやって来た。偶然ではなく、近くで様子を覗っていたのだろう。
「流石、年長者は言うことが違うな」
「茶化さないでくれよ、士郎」
 言いながら、士郎は冷たい缶コーヒーを渡してきた。
「素直に褒めているのさ。俺じゃあ、何も言えなかっただろうから」
 苦笑しながら言う士郎に、そうだろうなぁ、と納得する。
 士郎は堅過ぎるというか、鈍過ぎるというか、両方兼ね備えたスーパー朴念仁というか、そんな感じがする。士郎は旅先で女性に好かれることが幾度かあったのだが、当人はそのことに一度として気付いていなかったのだ。
 今はそのことは置いといて。缶コーヒーを開けて、一口飲んでから、言葉を返す。
「いや……褒められたもんじゃないよ、本当。エミリオの時は、何も上手くいかなかったから……」
「エミリオ?」
 つい口から零れ落ちた、懐かしい名前。
 本人自身さえも忘失してしまった、数十年前に出会った少年の名前。
 自分でその名前を口にした途端、思い出が溢れて止まらなくなり、自然と口が動き続けた。
「うん。パン屋の一人息子でね、これが天才的な人形使いだったんだよ。あの頃は……ネギと同じくらいだったかな。まるで人形が本当に生きているような技は、神業でも表現が足りないぐらいだったよ」
 地図も食料も水も失くした状態で1週間近く砂漠を放浪し、何とか街まで辿り着いたものの街の入り口で飢えと疲れで倒れてしまった。そんなヴァッシュを拾って介抱してくれた男がいた。彼は見ず知らずの旅人に、とびきり美味しいパンを御馳走してくれた。あの時のパンの味は、きっと、死んでも忘れない。
 その男の一人息子が、殆ど人形を使った腹話術でしか会話をしようとしない、ちょっと変わった少年――エミリオだった。
「みんなで見たなぁ、エミリオの人形繰り。マシュウ、オリビア、レイモンド、ショーン、ミランダ、ガルペス、シニータ、キャメロン、メリッサ、ユウノ、ファイファー……イザベラ。みんな、エミリオの大ファンだった」
 腹話術でしか喋ろうとしないエミリオだったが、街の人々とはそれなりに上手くやっていた。それは紛れもなく、彼の巧みな人形繰りの腕前によるものだった。
 人形が生きているように錯覚してしまう程の精緻な技巧は、見れば誰もが心を奪われた。その中には、当然、エミリオが気になっていた女の子――イザベラも含まれていた。
 あの時もヴァッシュは、ネギに伝えたのと同じ言葉をエミリオに送った。
 だが、その結末は――……。
「……何か、あったのか?」
 怪訝そうな表情で、士郎が訊いてきた。
 隠すつもりは最初から無かったのだが、こんなにもあっさりと看破されてしまうとは、相変わらずヴァッシュの表情は他人から読み易いらしい。
 それはそれとして、エミリオに起こった『何か』だ。実を言えば、ヴァッシュは何も知らない。エミリオとイザベラ、他の街の人達がその後どうなったのか、何も。
「分からない。僕が街を発った後に……何かがあって、エミリオが魔人になったってこと以外」
「魔人……?」
 不思議そうな顔で繰り返した士郎に、頷き返す。
 エミリオは、変わり果てていた。自分の名前すら忘れて、殺人すらも自らの人形繰りの行程の一部として加えた“魔人”と成り果てていた。人形繰りの技巧だけでなく人形作りの腕前にも磨きを掛け、その魔技も含めて魔人と称するに他ない殺戮者として、ヴァッシュの前に立ちはだかった。
 そこまで思い出して、これ以上は今回の事に関係無いからと、そこで思考を打ち切る。
「まぁ、この場合肝心なのは、同じようなアドバイスしたはいいけど、エミリオとイザベラが結ばれなかったってことかな」
「そうだったのか」
「……いや、もしかしたら結ばれていたのかも。もう、確かめようがないけど」
 士郎が頷いてから、言い直す。
 戦いの後、エミリオは自分の命を捨ててまで『イザベラ』を助けようと――彼女と一緒にいようとした。あの想いが、一方的なものだったとは思いたくない。
 すると、士郎が歩み寄って来て肩を軽く叩いた。
「今度は、見届けよう」
「……うん、そうだね」
 確かに、その通りだ。
 エミリオの時は、それで今でも後悔している。だったら、今度は最後まで見届けて、それまでの間は自分に出来ることをしよう。
「ところで、見張りはどうしたの?」
 ソファから立ち上がりながら士郎に問う。てっきり、今も屋上で見張りをしているものだとばかり思っていたのだ。
「お前が電柱にぶつかったの見て、心配して降りて来たんだ」
「そうだったのか、悪いね」
 あの場面を上から見られていたとは、気が付かなかった。ただ、こうして見張りを離れてまで様子を見に来てくれたということは、今の所は目立った異常は無いということだろう。何かあったのなら、士郎の事だからヴァッシュは頑丈だからと放っておいて、そちらを優先するだろう。
「ヴァッシュさん、士郎さん、ここにいましたか」
 話が一段落した所に、調度良くリヴィオが現れた。
「リヴィオ。どうかしたのか?」
「それが、カモが俺達に話があるって」
「カモ……アルベールが?」
 カモと言われて、一瞬、賭場で金を巻き上げられる方の『カモ』を連想したが、すぐにネギ達がアルベールの事を『カモ』と呼んでいたことを思い出した。リヴィオもアルベールの事を愛称で呼ぶようにしたようだ。何時の間に。
「調度いいな。俺からも話したいことがあったんだ」
 士郎がそう言って頷いて、ヴァッシュ達はアルベールが待っている部屋に向かった。
 アルベールもそうだが、士郎の話も何だろうか。





「オレっちからの提案なんですがね、こっち側の戦力を少しでも増やす為に仮契約をするってのはどうっすか!?」
 カモミールからの話を聞くことになって、開口一番、放たれた言葉がそれだった。この提案は、なるほど確かに、緊急に戦力の増強を行うには有効な手段だ。だが、それには些細でありながら非常に深刻な問題がある。
「パクテオー?」
 不思議そうな顔で、リヴィオはカモミールが口にしたキーワードを鸚鵡返しに言った。一応は魔法関係者であるが、関西呪術協会の所属だった為に仮契約について知る機会が無かったのだろう。
 初心者のリヴィオにもなるべく分かり易いように、仮契約について説明する。
「魔法使いと従者の契約を結ぶことで、それによって色々と特典があるんだ。従者は魔法使いの元に瞬間移動できるようになったり、一種のテレパシーができるようになったり、アーティファクトという特殊なアイテムがもらえたり」
「え、瞬間移動!?」
「俺も本で読んだだけだが、そう書いてあったな」
 その点は、未だに士郎も信じられていないところだ。元居た世界では空間転移魔術は超高難度の魔術で、長距離の空間転移ともなればそれはもはや『魔法』の領域であるとすらされている。それを、ただ契約するだけで誰でも簡単にできるようになるなど、如何にこの世界の魔法と元の世界の魔術が色々と違っているとはいえ、俄かには信じ難い。
「いや、それで合ってますぜ。どころか、他にも特典満載でさ!」
「へぇ~、そうなのか。そういえば、詠春さんも瞬間移動ができる道具があるとか言ってたけど、あれって冗談じゃなかったのかな?」
 士郎の説明をカモミールが全面的に肯定し、リヴィオもすぐに納得した。リヴィオが言っている道具についても、俄かには信じ難いが、仮契約の話が本当だったのだから本当にあるのだろう。
 士郎のいた世界で『空間転移が簡単にできる魔術礼装』など作くられたなら、それだけで封印指定になってしまってもおかしくないぐらいだ。やはり違うものだなと、改めてここが違う世界なのだと実感する。
 それはそれとして、この状況で仮契約をするには1つの大きな問題がある。
「……確か、オコジョ妖精が仲立ちをする場合、仮契約の儀式は口付けだよな?」
「え?」
「は?」
 士郎の発言を聞いて、ヴァッシュとリヴィオが素っ頓狂な声を出した。当然だろう。この面子で、契約方法がキスなのだから。
「へい。その通りでさ」
「俺に、ヴァッシュやリヴィオとそれをしろと?」
 やけにあっさりと頷いたカモミールに、そう言い返す。
 正直、この歳で同年代の同性とキスをするというのは、精神的にかなりキツイ。それ以前の問題点として、士郎には他人に魔力を供給できるほどの量的な余裕は無く、カモミールが露とも知らぬことではあるが、そもそも並行世界人が更に別の並行世界の異星人と仮契約を結べるのかも怪しい。
 もしも、実際にやって失敗して、結局はキスをしただけでしたというオチは、嫌だ。
「か……勘弁してくれ」
「ど、どうしてもっていうなら…………やっぱヤダ!」
 リヴィオもヴァッシュも、流石にこの条件には完全な拒絶を表明した。これに、士郎はちょっとほっとした。
「落ち着いて下せぇ。やるのは旦那たちじゃなくて、ネギの兄貴ッスよ」
 すると、士郎達の反応に苦笑しながら、カモミールはそのように付け足した。
「ネギに?」
 出てきた意外な名前に、思わず聞き返す。
 確かに、ネギの魔力量は軽く見積もっても士郎の数倍。それならば、仮契約の特典も十全に活用できるだろう。それが理由ならば、分からないでもない。それでも、士郎達の拒絶に対する根本的な解決になっていない。子供相手なら妥協するとでも思っているのだろうか。実際にヴァッシュとリヴィオならしそうではあるが。
「そうでさ。兄貴はかなりの魔力の持ち主ッスから、あと5人ぐらいは余裕ッスよ!」
 カモミールは得意げに、どこか誇らしげに言った。だが、ある部分が引っ掛かり、疑念が生ずる。数が合わないのだ。
 既に仮契約を結んでいる神楽坂明日菜を除くとして、残っているメンバー全員と仮契約することを仮定しているならばその人数は4人のはずだ。なのに、カモミールは5人と言った。これは、何を意味するのか。
「5人?……その5人は、誰だ?」
「兄貴のクラスの子たちでさ。見たところ、とんでもない素質の持ち主もいるみたいッスから、上手くいけば戦力大幅アップ間違い無しッスよ!」
 まさかと思って聞いてみれば、想定外の提案に唖然としてしまう。
 無意識に多めの人数としてカモミールは「5人」と言ったのだろう。それによって、士郎達以外の人間と仮契約をさせる前提であることは想像できた。だが、まさかネギのクラスの生徒達を対象にしているとは思ってもみなかった。
 ヴァッシュとリヴィオも同様らしく、呆れ顔で困り顔だ。
「……ど、どうか、しやしたか?」
 士郎達の反応が完全に予想外だったらしい。カモミールは元々小さな目を点にして、各々の顔色を覗き込んで冷や汗をかいている。
 今まで旅をして来てつくづく思ったことだが、やはり、自分達の感性はこの世界の基準からかなりずれているようだ。自分達からすればこの世界は吃驚するぐらい平和で、良く言えば穏便、悪く言えば能天気な考えの人間が多い。だからだろう。こういう時に、感じ方や考え方に大きな齟齬が生じてしまう。
「あ~……アルベール。例えば、なんだけどさ」
「へい」
 士郎が考え事をしている間に、ヴァッシュが話し始めた。
「僕がそこらへんを歩いてる子に銃を持たせて、この子にも一緒に戦ってもらおう、なんて言い出したら、どう思う?」
「幾らなんでも滅茶苦茶ッスよね、それ!?」
 ヴァッシュの突拍子もない例え話に、カモミールは驚きながらも即座に突っ込みを返した。それには士郎も同意見だが、成る程、ヴァッシュも上手い例え方をしたものだ。
「そうだね。僕もそう思うし、それぐらい、君の提案にはビックリしたよ」
「へっ……?」
 ヴァッシュの言葉に、カモミールは声を漏らして、きょとん、としている。
 女生徒達をネギと仮契約させることが、どうして見ず知らずの子供に銃を持たせて戦わせることとイコールで結ばれるのか、分からないのだろう。
 士郎には、すぐに分かった。子供に何か道具を持たせて戦場に連れていく、という点がどのように言い繕っても同一なのだと。
「戦いの心得も何もない子供を巻き込んだら、死ぬぞ」
 カモミールの無垢とも取れる無知さを見かねたのか、リヴィオが容赦の無い言葉を叩きつけた。或いは、もっと直接的に言わなければ伝わらないと考えたのだろうか。だとしたら、士郎もそれには賛成だ。現に、カモミールは今のヴァッシュの例えを全く理解できていないのだから。
 リヴィオに続き、士郎もまた険しい現実をカモミールに突きつける。
「ケン・アーサーは魔術の秘匿について厳格な男だ。戦いの場に居合わせたら非戦闘員だろうと、通りすがりの目撃者だろうと口封じに殺して、死体も残さないだろう」
 魔術師が神秘の秘匿を行う上で、神秘の行使を一般人に目撃された際の対応として、記憶の操作と抹殺が一般的な選択肢だ。大半の魔術師は事を不必要に荒立てようとせず、殺さずに済むような状況なら記憶の操作を選ぶ。
 だが、中には目撃者の抹殺という選択を躊躇わない者がいる。それが、封印指定執行者だ。彼らの主な職務は希少な魔術回路や魔術知識を有する者を保護の名目の下に捕獲することだが、同時に神秘の秘匿を厳守する為に集められた者達でもある。
 実際、士郎が封印指定になった元々の理由は特異な魔術回路の回収ではなく、魔術の秘匿厳守の原則の放棄によるものだ。それによって、士郎はケン・アーサー以前にも2人の執行者に命を狙われた。
 加えて、執行者の中でもケン・アーサーはとびきりなのだ。あの男は『必殺の執行者』とも呼ばれ、封印指定の執行の際に対象を必ず殺しており、その中には殺す必然性の無かった者だけでなく、殺さないようにと厳命された者すらもいるという。噂話で聞いただけだが、士郎が僅かに思い出したあの男と戦った記憶の中には、その噂は決して嘘ではなかったという実感も含まれている。
「マ……マジ、っすか?」
 そんな男がいるなんて信じられない、という気持ちが言われなくても伝わるぐらい動揺した表情と声で、カモミールが聞き返してくる。
 迷わず頷き、警告を告げる。
「本当だ。間違っても、あの男の近くに戦いと無縁な子供を連れて行けない」
「同感ですね。足手纏いを連れてあのサムライと遭遇しちまったら、守るだけで精一杯……で、済むかどうか」
 リヴィオ、気持ちは分かるがもうちょっと言葉を選んでくれないか。
「足手纏い……っすか」
「御令嬢を守る盾か囮にでもするのなら別だけどな。そんなこと俺達もさせたくないし、お前だって本意じゃないだろう?」
「そ、そりゃあ、勿論!」
 恐らく悪気や皮肉の類は一切無く、本人はただ純粋に事実を告げているだけなのだろう。リヴィオの言葉は物騒なものだが、声色に棘や悪意は無い。だが、もう少し言い方を工夫してほしい。基本的に礼儀正しいのだが、戦いの事になると途端にズレてしまう。
 それはそれとして。
 カモミールの提案は却下、ということで決定した。そろそろ自分も話しをしようというタイミングで、ヴァッシュが落ち込んでいるカモミールに話しかけた。
「アルベール、君が不安で心配だっていうのは分かったよ。正直、良く知りもしない僕らに任せっぱなしじゃあ不安にもなるよね」
 その言葉に対して、反論できる余地は無い。
 士郎とヴァッシュは唐突にカモミールやネギの前に現れて、今回の関係者であるリヴィオに協力するという名目で加わっただけの、いわば通りすがり。そんな、殆ど赤の他人に自分達の命運を任せるなど、不安に思うのは当然だ。
「だけど、信じてくれ。君達を守る。絶対にだ」
 力強く、ヴァッシュは言い切った。それに応えて、士郎とリヴィオも頷く。
 絶対と言える保証なんか無い。けれど、絶対に守りたいとう想いがあることは確かだ。だから、自らの持てる全てを費やして、その幻想を実現させてみせる。
「……改めて、信じさせて貰いやす。宜しくお願いしやす」
 言って、カモミールは頭を下げた。今更だが、小動物とは思えない、とても人間臭い動作だ。
「こちらこそ、宜しくだ。で、俺からも話がある」
 出来るだけ明るい口調で言って、重くなっていた場の空気を少しでも変えるようにする。尤も、これから話すのは良い報告ではないので無意味に等しい気がしないでもないが。
「何か分かったのか?」
 ヴァッシュからの問いに頷いて、すぐに答える。
「このホテルに奴らの放った使い魔が大量に送り込まれている」
「本当ですか?」
 リヴィオが聞き返して来たが、然程驚いているようにも見えず、あくまで確認の問い掛けだ。狩る側が一度見つけた獲物の塒を監視し続けるのは当然ということを、リヴィオも分かっている。
「ああ。使い魔と言っても監視する以外には使えないようなものだが、こっちの動向を常に把握されているとなるとかなり不味い」
 本人達が監視しているのなら、そこから逆転の一手を手繰り寄せられる可能性もあるが、使い魔による監視ではそれは無理だ。優秀な魔術師ならば、使い魔を生きたまま捕獲して、使い魔と術者の間のパスを辿って術者の居場所を掴む、という芸当も可能だろうが、生憎と士郎にはそんな器用な真似は出来ない。使い魔であるか否かの判別で精一杯だ。
「それで、その使い魔ってどんなの?」
「これだ」
 ヴァッシュからの問いに応じて、ズボンのポケットから使い魔の死骸を入れたビニール袋を取り出す。踏み潰した上にポケットに入れていたため、死骸は砕けた体と体液が混じってグチャグチャだが、これが何の生物かを判別することはできる程度には形を保っている。
「うえぇ!?」
「ゴキブリ、ですか」
 カモミールが死骸の気色悪さに悲鳴のような声を出した一方、リヴィオは全く動じずに死骸の名を当てた。
 日本では茶色または黒い悪魔とか、最も気色の悪い生物とか言われている、ゴキブリ。しかし考えてみれば、その生命力と素早さ、どこにいてもおかしくない潜入能力と、人によっては撃退よりも逃避を選択してしまう程に嫌悪されている存在というのは、監視に使うには持って来いの逸材だ。
 仮に使えたとしても、絶対に使いたくないが。
「へー、こんな虫も使い魔ってのに出来るんだ」
「確か、視覚とか聴覚とかを自分と同調させるんでしたっけ。面白い技術ですね」
 ヴァッシュとリヴィオはゴキブリの死骸を見ながら、そんなことをのんびりとした口調で話している。
「……なんか緊張感無いけど、これ、かなり不味いんだぞ。まず間違いなく、このゴキブリはケン・アーサーや、例の天ヶ崎千草の使い魔じゃない。同時に何十匹もの使い魔を同時に使役するような術者まで奴らの中にいるってことだ」
 ケン・アーサーは使い魔を使わず、天ヶ崎千草が使役する使い魔は猿の式神という話を聞いている。そうなると、自然、3人目の術者の存在が浮き出てくる。
 小さな虫とはいえ、同時に数十匹の使い魔を操るというのは生半可な魔術師に出来ることではない無い。相当な腕の術者がいると考えるべきだろう。
「って! ど、どうすりゃいいんすか!? ホテルの中じゃ四六時中見張られてるってことッスよね!?」
 すると、どうやら漸く思考が追いついた様子のカモミールが大声で言いながら縋り付いてきた。まさかパニック状態にさせてしまうとは思っていなかったため、これには士郎も釣られて慌ててしまう。
「落ち着け。今更じたばたしてもしょうがない。それに、ここはホテルだぞ? 奴らが俺達の知らない間にチェックインしている可能性だってある」
 元から守るに不向きな場所だから諦めろ、とネガティブな方向からの説得。言ってから、これでは余計に不安にさせてしまうかと思ったが、カモミールはひとまず落ち着いてくれた。
 見た目こそ小動物だが、合理的で打算的な思考を持ち頭の回転の速いカモミールだからこそ受け止められた。ネギ達に迂闊に話さなくて良かったと、若干の安堵と共に反省する。
「それで、どうするんだ?」
 カモミールが落ち着いたのを見計らって、ヴァッシュが対応を訊ねてきた。これには、今度はカモミールの精神状態を慮って必要な部分だけを伝える。
「どこまでこっちの情報が渡っているのかは分からない。だから、俺達は落ち着いて待ち構えているしかない」
 気になるのは、屋上でゴキブリを簡単に見つけられたことだ。物の少ない屋上にも、ゴキブリが隠れられるような場所は多い。それにも拘らず探して簡単に見つけられたのは、奴らが見つけさせた、ということだろう。
 それが何を意味するのかは分からない。挑発か、対応の観察か、行動の誘導か、それとも全く別の狙いがあるのか。相手の思惑は分からない。だからこそ、こちらはシンプルに行動すればいい。
「んじゃ、僕も見張りをするよ」
「俺も。これからは3人で、明け方まで休み無しで行きましょう」
 言って、ヴァッシュとリヴィオは立ち上がった。それに続いて、士郎も立ち上がる。
 時刻は間もなく日が沈むという頃。日が昇っている内に話せてよかった。夜になれば、片時も気を緩められないのだから。
「カモミール。ネギと、桜咲と神楽坂には、いざという時は無理をしない程度に頑張ってくれ、とだけ伝えてくれ」
 部屋を出る前に、カモミールにネギ達への伝言を頼む。
「……それだけ、ッスか?」
 今回の話で出てきた事に一切触れていない伝言の内容に、カモミールは不思議そうな顔で聞き返して来た。勿論、こんな内容にした理由はある。
「この情報を伝えても、あの子達にはマイナスにしかならないだろう。不安に苛まれるか、気を張り詰め過ぎて逆に能力を落としてしまうか。或いは、さっきのお前みたいになってしまうか。俺達みたいにこういうことに慣れてれば別だろうけどな」
 そのように説明すると、カモミールは納得し「合点でさ!」と気持ちのいい返事をしてネギ達の下へと走って行った。それを見送ると、士郎とヴァッシュ、リヴィオも部屋を出てそれぞれ別々の場所へと散り、見張りに向かう。
 今この時から、事が終わるまでの間が正念場だ。









「ところで、さっきの見せ札どーたら、っちゅーのはなんやったんや?」
 作戦会議を終えて、思い出しかのような小太郎からの問いに、プレイヤーはすぐに答えた。
「彼らに、監視させていた僕の使い魔を見つけさせたんだよ。そうしたら、必然、警戒するよね」
「そら、そうですわな~」
 月詠が鷹揚な口調で相槌を入れる。
 そこから、プレイヤーも大仰な身振り手振りを交えて解説する。
「いつ仕掛けて来るか分からない、どこにいるかも分からない敵に、自分達だけは一方的に監視されながらの警戒態勢だ。彼らは必要以上に精神力と集中力を酷使して、消耗することになるだろうねぇ」
 これが、プレイヤーが手札の一つを見せ札として晒した理由だ。
 知らなければ、それは『無い』のと同じだ。だが、知ってしまえば、それは確かに『在る』ものとして認識され、意識せざるを得なくなる。『自分達が監視されている』という事実を、より分かり易く、より印象的に相手に知らせ、それへの対応を誘発させる。
 知ってしまえば何かせずにはいられない。それが人間という生物の本能、知的好奇心であると、プレイヤーは考えている。
「……地味な手やな」
 千草の率直な感想に、プレイヤーは恭しくお辞儀をして答えた。
「良く言われますとも。しかし、万全の状態の彼らと、消耗した状態の彼ら。どちらの方が戦い易いですか?」
「それは、そうやな」
 プレイヤーからの補足の意味も含めた問い掛けに、千草は納得して頷いた。
 その様子を、E2は床に寝転びながら、ソードとナイン達は壁際に立ちながら見ていた。フェイトはある男との連絡の為に、一時席を離れている。
「しかし、果たして奴らが一晩の寝ずの番程度で鈍る手合いかどうか」
 ソードが小さな声で呟くと、ナイン達は無言のまま頷いた。









 ――夜は更け、やがて明ける。
   太陽は昇り、そして沈む。
   夜を照らすのは、月の光と星の光。
   月光は、古来より狂気を齎すとされる。
   狂気、狂乱、狂奔の時は、月華の下こそが相応しい。
   故にこそ、そこに生きる者には、夜の闇が心地よい。
   しかし、あらゆる光の届かない、闇の底で蠢く者達もいる。
   闇の底に慣れた目では、日の光は強過ぎるし、星明かりさえ眩し過ぎる。
   闇の住人の出番は、もう少し先だ。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027974128723145