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No.32684の一覧
[0] 【習作】正義の味方と夢見る聖者【ネギま!×Fate×トライガン+オリジナル】[T・M](2012/08/23 20:13)
[1] 第一話[T・M](2012/04/07 23:51)
[2] 第二話[T・M](2012/04/08 00:22)
[3] 第三話[T・M](2012/04/12 23:20)
[4] 第四話[T・M](2012/04/18 23:55)
[5] 第五話[T・M](2012/04/19 00:04)
[6] 第六話[T・M](2012/04/30 22:16)
[7] 第七話[T・M](2012/04/30 22:32)
[8] 第八話[T・M](2012/05/12 00:03)
[9] 第九話[T・M](2012/05/12 00:05)
[10] 第十話[T・M](2012/05/16 22:01)
[11] 第十一話[T・M](2012/05/16 22:06)
[12] 第十二話[T・M](2012/05/22 01:08)
[13] 第十三話[T・M](2012/05/22 01:43)
[14] 第十四話[T・M](2012/05/22 01:53)
[15] 第十五話[T・M](2012/05/22 02:11)
[16] 第十六話[T・M](2012/05/29 22:28)
[17] 第十七話[T・M](2012/05/29 22:51)
[18] 第十八話[T・M](2012/08/23 20:08)
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[32684] 第十八話
Name: T・M◆4992eb20 ID:dcd07e40 前を表示する
Date: 2012/08/23 20:08
 早朝、まだ街に人影が疎らな時間にも、麻帆良教会には5人の男の姿があった。
 最初は黙々と筋力トレーニングを行っていたのだが、やがて2人が木製の双剣を手に実戦的な剣の稽古を始めると、1人が筋力トレーニングを続けながら水鉄砲で茶々を入れ始め、やがて残る2人も加わって何時の間にか3対2の集団戦闘の訓練のようになっていた。
 それらの喧騒――特に木剣がぶつかり合う音だ――で目を覚ましてしまった、シスター見習いとして同じ教会で寝泊まりしている春日美空は、離れた所でその様子をうんざりとした様子で眺めていた。
 朝早く起こされるならせめて鶏の鳴き声で目覚めたいと切実に思い、深く溜息を吐いた。だが、きっとこれから毎日、これが続くのだろう。憂鬱ではあるが神父とその客人達の日課とあっては仕方が無い。当面は耳栓を買うなどしてやり過ごそう。
 せめて、何かの間違いで自分まで巻き込まれるようなことになりませんようにと、春日美空は願った。春日美空は、楽して楽しく平穏無事に学生生活を過ごしたいのだ。









 麻帆良を訪れた翌日、事前に詠春を通じてアポイントメントを取っていたおかげですぐに関東魔法協会の長である近衛近右衛門への面会が叶った。世話になった1カ月間のことも含めて、ヴァッシュは改めて詠春に感謝した。
「ねぇ、見て、あの人達」
「派手な恰好……それにあのマントの人、顔に刺青まで」
「教員の人じゃないよね。なんなんだろ」
 近右衛門の待つ彼の執務室は、何故か麻帆良学園付属女子中等部の学園長室である。その為、ヴァッシュ達は現在、目的地への道すがら女学校の女生徒達からの奇異の視線の集中砲火を浴びている。すっかり慣れているヴァッシュと士郎はいいのだが、リヴィオは女生徒達の声が聞こえる度に顔が強張ってしまって、ちょっと不憫だ。
 ちなみに、ディルムッドはこの場にはおらず街を1人で散策している。理由としては、現代の街が物珍しいので散策したいということだった。彼の素性については京都で過ごした1ヶ月の間に詳しく聞いていた為、ヴァッシュもリヴィオもすぐに納得できた。
 やがて、女生徒達の話し声が聞こえなくなると、すぐに理事長室に着いた。士郎が先頭に立って扉を開け、一礼をしてから中に入る。それに倣って、ヴァッシュとリヴィオも一礼してから理事長室へ入る。
「よく来てくれたの、衛宮士郎くん、ヴァッシュ・ザ・スタンピードくん、リヴィオ・ザ・ダブルファングくん。ワシが関東魔法協会の長、近衛近右衛門じゃ」
 理事長室には、如何にも偉い人が愛用していそうな机と椅子に腰を下ろしている、後頭部が異様に長い、ついでに白くて長い口髭と眉毛も目を引く老人の姿があった。目の前の老人が近衛近右衛門なのだろう、詠春から聞いていた通りの個性的な特徴だ。
 人間離れした外見の人間を見慣れていたヴァッシュとリヴィオは特に驚かなかったが、士郎だけは一瞬、妖怪でも見たかのような呆気にとられたような表情になった。しかしすぐに気を取り直し、近右衛門の言葉に応える。
「日本の魔法使いの長との対面が叶い、恐縮です。こちらは、メルディアナ魔法学校校長からの紹介状と、関西呪術協会の長からの書状です」
 そう言って、士郎は懐から2通の書状を取り出し、近右衛門に差し出す。それを受け取った近右衛門は一つ頷くと、中身を検めるより先に席から立ち、ヴァッシュ達の前に移動しながら口を開いた。
「そんな、堅苦しくしてくれなくても結構じゃよ。それに、本来なら謙り、頭を垂れるべきはワシの方じゃ。君達は娘婿の窮地を助け、孫を救ってくれた恩人じゃ。本当にありがとう」
 机を挟まず、直に対面しながら、近右衛門は言った通りに頭を垂れた。詠春からは「狸呼ばわりも厭わない、好々爺然としたぬらりひょん」と聞かされていただけに、近右衛門のこの行動には士郎もヴァッシュもリヴィオも驚いた。それだけ京都での事件は、彼にとっても大きな衝撃を与えていたのだろう。
 すると、リヴィオが近右衛門の下に歩み寄って跪いた。
「そんな、頭を上げて下さい。自分は……何度も失態を犯して、あの惨状を未然に防ぐことができませんでした。魔法に疎いからしょうがなかったとか、そんな言い訳が許されるとは、自分でも思えません」
 言いながら、リヴィオは悔しさのあまり顔を俯けた。リヴィオが持つ人を守ることへの使命感と責任感の強さとその由来を知っているヴァッシュは、その気持ちが良く理解出来た。寧ろ、ヴァッシュも全くの同意見だった。今回ばかりは、とても他人に褒められるようなことではなかった。
 すると、近右衛門は顔を上げて、跪いているリヴィオの肩を軽く叩いて自分に顔を向けさせた。
「しかし、それは仮定の話の結果論じゃ。現実に、君達は立派に働き、結果を出したのじゃ。リヴィオくんも、そう自分を卑下せず、胸を張りなさい」
 リヴィオだけでなく、ヴァッシュや士郎の内心をも見透かしたように、近右衛門は穏やかな声と表情でそう言った。
 ほんの少しだけ、心の重荷が軽くなった。そう感じずにはいられなかった。
「ありがとうございます」
 3人揃って、詠春にお礼の言葉を返す。だが、士郎だけ僅かに声が硬い。また何か、必要以上に背負いこんでいるのだろうか。そのことは敢えて口に出さず、一先ず、近右衛門が書状を読み終わるのを待つ。
「お孫さんはその後、如何でしょうか?」
 近右衛門が書状を読み終わったのを見計らって、士郎は早速木乃香について訊ねた。あの事件の渦中にあって、彼女が受けた影響は計り知れない。昨日会った時には何事もなさそうだったが、それが真実だとは限らないのだ。
「名前で呼んでくれて構わんよ。あの子も、君達にはとても感謝しておったよ。その影響かの、自分も魔法や呪術についてしっかりと勉強をしたいと言い出したのじゃ」
「それって、困ります?」
 その原因の一端が自分達にもあるという自覚から、ヴァッシュは近右衛門に率直に訊ねた。しかし、近右衛門はどこか達観したような表情で首を横に振った。
「いや、遠からず来る運命だったのじゃろう。魔法使いの家系に生まれながら魔法とは無縁に生きる者というのは然程珍しくないが、木乃香はあまりにも抜きんでた天稟があった。本人が知らずとも、知る者が見れば放ってはおけぬほどのものが」
「それが、先日の京都の一件で実現してしまった」
 近右衛門の言葉にリヴィオが小さく呟き、全員がそれに頷く。
「詠春くんとも話し合い、事ここに至っては、知らぬままでいるよりも事情に精通した方があの子の為になると、あの子には魔法の勉強をさせておる。本格的に学ぶのは、中学卒業後になるかの」
 その言葉を聞いてリヴィオは申し訳なさそうに顔を僅かに俯け、何故か士郎までも悔しそうな表情をしていた。詠春に大きな恩義があるリヴィオはともかく、どうして士郎までもがそこまで思い悩むのか、ヴァッシュには腑に落ちなかった。
 特に木乃香と接点の殆ど無い士郎が、何故こんなにも木乃香が魔法を学ぶことになったことを悔やんでいるのだろうか。気負い過ぎるきらいのある士郎だが、ある意味では必然的な変化にここまで反応するのは妙だ。
 考えて、士郎に気付かれるよりも早く視線を外し、近右衛門に木乃香の近況を訊ねる。
「それで、このかは今、どんなことを勉強してるんですか?」
「あの子には治癒術師として優れた資質があっての、本人の希望もあってその道を目指して勉強中じゃ。幸い、ワシの知り合いで魔法にも精通した医者がこの街に暫く逗留しておっての、学業の傍ら、彼の下で人を治す者としての基礎を学んでいるところじゃ」
「そうですか」
 木乃香と実際に話した時間はごく僅かだったが、それでも彼女の優しい性格や人となりを実父の詠春から聞かされていただけに、人を助ける道に進んだことをヴァッシュは素直に喜んだ。
 ちらり、と横目で士郎の様子を覗う。士郎の横顔に先程までの悔いは見えなかったが、安堵したというわけでもないようだ。今までにない、不可解とも取れる態度は気になる。後日聞いてみようか。
 それから暫くは木乃香を中心にヴァッシュ達が京都で助けた少年少女達の近況を聞かされ、昨日のことを思い出しながら話を弾ませる。どうやら近右衛門の子煩悩ならぬ孫煩悩は相当のようで、孫の顔を毎日見たいがためにこの学校の学園長になり、魔法協会会長の日々の執務まで学園長室で執り行っているというのは、果たして冗談だったのやら。
「さて、君達にとっての本題じゃが、図書館島で転移魔法に関する資料を閲覧したいとのことじゃったな」
「はい。差し支えなければ、是非」
 麻帆良を訪れた元々の理由。そのことに話が至ると士郎は真剣な表情で即座に頷いた。メルディアナ魔法学校で目ぼしい資料が見つけられなかった以上、麻帆良の図書館島だけが唯一の希望の拠り所なのだ。そこに掛ける期待は、自然と大きくなる。対して、近右衛門は今までと変わらない穏やかな表情で静かに頷き返した。
「その程度ならば、お安い御用じゃ。寧ろ、この程度のことで良いのかと言いたいぐらいじゃわい」
「そうですか? じゃあ、一つ質問って言うか、ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
「なんじゃ? ワシに答えられることなら、何でも答えよう」
 近右衛門の言葉を聞いて、ヴァッシュはすぐにそれに甘えることにした。面と向かって話しづらいことだから、できるだけ軽い調子で、世間話や冗談を言うような調子で、麻帆良に来訪したもう1つの目的について訊ねる。
「この街に時空を超える技術がある、なんて、変な噂を聞いたんですけど、御存じありません?」
 ウェールズで再会した折にアランから齎された情報。彼は詳しいことを敢えて語らず、実際に麻帆良へ行って確かめろと言った。だが、士郎が収集したインターネット上の情報の中にはそれらしい噂すらも1つも無く、詠春も全く心当たりが無いと言っていた。
「いや、初耳じゃのう。君達が転移魔法を調べることと、何か関係があるのかの?」
「はい、それなりに」
 そして今また、この街の最高責任者さえも知らないと言った。笑顔で頷きながら、ヴァッシュは千草から聞いたあることについて、懸念と不安を強くする。
「あい分かった。火の無い所に煙は立たぬとも言うからの、そのことに関してはこちらでも調べてみよう」
「ありがとうございます」
 近右衛門からの色よい返事に士郎は深々と頭を下げ、それにヴァッシュとリヴィオも倣う。その後も、木乃香とのお見合い話を持ち掛けられて笑顔で断るなど、とりとめの無い話をかわして、入室してから1時間ほどでヴァッシュ達は学園長室から出た。
 近右衛門にも全く心当たりの無かった時空を超える技術。それを何故、アランは知っていたのか。冗談や誤報と考えられなくもないが、千草から伝えられたあることが、ヴァッシュの心を掻き乱す。

「あのプレイヤーっちゅうやつな……うちが契約しても、事を起こすちょっと前までちっとも顔を見せに来なかったんや。それでな、初めてあいつと会った時、今までどこでなにしてたんやって、聞いたんや。そしたらあいつ、麻帆良で別の仕事をしているって……そう言うたんや」

 千草は未だ完全に復調しておらず、事件に関わる記憶の混濁すらもあるほどだ。しかし、彼女が必死の思いで伝えてくれた言葉が誤りであるとは、ヴァッシュは思いたくなかった。だが、そうなると千草の言葉が意味するのは、この麻帆良でアランが京都での事件のように暗躍しているということだ。そのことは、千草も分かっていた。だから、ヴァッシュに胸の内を語り、約束をしたのだ。
 必ず約束は守る。そして、麻帆良の平和や暮らしている人達の笑顔も。
 学校の敷地から出る道すがら、こちらに気付いて手を振ってくれた3人の少女に明るい笑顔で返しながら、ヴァッシュは強く心に誓った。
 あんな悲劇は、もう二度と繰り返させない。







 士郎達が近衛近右衛門に会見している頃、ディルムッドは1人、実体化した状態で士郎が用意してくれた現代の衣服に身を包み、世界樹前広場に来ていた。
 別行動を取った理由は2つ。1つは、女学校という女子ばかりの空間に行くことが躊躇われたことだ。士郎から貰った聖骸布の切れ端の効力は教会のシスター達の様子から十分にあるという確証は得ている。だが、万が一聖骸布の切れ端が落ちてしまったら大変なことになってしまう。
 そしてもう1つの理由は、昨日も霊体化した状態で目にした、今目の前にある世界樹と呼ばれる霊木。これを調べる為だ。
「……やはり、これは」
 昨日も感じた気配を、至近距離にいることもあってより明確に感じる。いや、世界樹から気配を感じるというよりも、ディルムッドのサーヴァントとして構築された身体が世界樹の内にあるものと反応しているのだ。
「随分とこの時代に馴染んでいるやつもいたもんだな」
 咄嗟にその場で身を翻し、自身に向けて掛けられた声が聞こえた方向へと向き直る。如何に考え事に没頭していたとはいえ、百戦錬磨の武人であるディルムッドに気付かれること無く間近まで接近して来る相手だ。それだけで警戒に値する。
 視線を向けると、そこには日本の伝統的な装束である和服に身を包み、片方の目を眼帯で塞いだ男がいた。しかし、この男の気配、人間のものではない。
「貴様、サーヴァント!」
 相手の正体を直感するや、ディルムッドは宝具を具現化――させず、すぐに思い止まった。周囲には人の目があることと、眼の前のサーヴァントが敵意も戦う意思も見せていないからだ。しかし警戒は解かず、油断なく身構える。
「気配遮断の心得があるのでな。殺気や剣気を抑えれば、考え事をしているやつに気取られずに近寄るぐらいは造作も無い」
 サーヴァントは種明かしでもするように背後を取れた理由を語ったが、ディルムッドは眉を顰めた。
「気配遮断だと……? 暗殺者が、自ら姿を晒したとでも言うつもりか?」
 男の出で立ちは見るからに暗殺者のそれではない。今のディルムッドのようにこの時代に溶け込む為に衣服を調達したというのならば説明は付くが、サムライと呼ばれる者の装束はこの時代においては発祥の日本でさえも極めて珍しいものである上に、何よりもこの男は着慣れている様子だ。元々の衣服に袖を通していると考えるのが自然だ。
「いや。今の俺は狂戦士(ばぁさぁかぁ)さ」
「……戯言を。バーサーカーが気配遮断は元より、理性を保つなどとありえまい」
 あっけらかんと自らの正体(クラス)を明かしたサーヴァントの言葉を即座に切って捨てる。セイバーやライダーならいざ知らず、正気を奪われ狂気に身を窶すバーサーカーを自称するなど、詐称でなければなんだと言うのか。
 ディルムッドからの険しい反応にも、バーサーカーを自称するサーヴァントは何ら悪びれた様子を見せない。
「信じぬも信じるも自由さ。まだ開戦前だしな」
「聖杯戦争だな?」
 素早く聞き返すと、やや間を開けてから自称バーサーカーは頷いた。
「その様子じゃ、情報が下りてないようだな。変な契約を結ぶから、らしいぜ、その不具合も」
 一瞬、何の事かと怪訝に思う。ディルムッドが参加した聖杯戦争でもあった、サーヴァントとして召喚された英霊に現世と聖杯戦争の基礎知識が自動的に与えられることを指しているのだろうか。
 やがて、そのことをそのように言うことの意味に気が付き、ディルムッドは静かに自称バーサーカーに詰め寄った。
「その口ぶり……。貴様、この聖杯戦争の首謀者の手の者か」
 この世界で聖杯戦争のシステムについて精通した物言いなど、それ以外にあり得ない。士郎とディルムッドの契約がこの聖杯戦争において最大のイレギュラーであることなど、他の何者に分かるというのだ。
「っと、いかんな。あんまり楽しみなんで、つい口が滑っちまった。まぁ、それぐらいはバレてもしょうがないか」
 自称バーサーカーはそう言って、後ずさってディルムッドから距離を置く。しかし、この程度の距離はディルムッドの間合いの内だ。槍は握らずとも臨戦態勢を整えて、自称バーサーカーとの話を続ける。
「俺に声を掛けたのも、この地に来たのも偶然ではあるまい。何の用だ」
 ディルムッドが問うと、自称バーサーカーはぐるりと首を巡らせ、周囲に目を向ける。
「場所を移す。どうにもこの時代の連中、武士に対しての遠慮ってもんが無いらしい」
 言われてみれば、人集りこそ出来ていないが、遠巻きに自分達に視線を向けている人間が複数いる。確かに、この状況で聖杯戦争の話というのはいかにも不味い。
「良いだろう」
 頷いてから、士郎に念話でこの事を伝えようかと考えたが、今はまだこの街の長との会談中の可能性がある。一先ず報告は話を全て聞き出してからにしようと決めて、ディルムッドは自称バーサーカーと共に世界樹前広場を離れた。









「ただいま」
 今日の予定を全て終えて、リヴィオは一足早く教会に戻って来た。本当ならヴァッシュと一緒に街の探索に行きたかったが、京都から荷物が届いているはずなので、それの確認をする必要があったのだ。
「どうだったかな? アルバイトの面接は」
 リヴィオを真っ先に出迎えた綺礼は、近衛近右衛門との会談ではなく別件のことを訊ねて来た。
 昨夜の食事の際に、この街に滞在する間も収入を確保したいということを士郎が零した際に、綺礼が懇意の喫茶店のアルバイトを紹介してくれたのだ。なんでも看板娘2人が進学を機に辞めてしまったということで、あちらも困っていたとか。そのお陰もあってか、そちらも首尾よくいった。
「ああ、上手くいったよ。特にヴァッシュさんと士郎さんが随分気に入ったみたいでさ、その場で合格になったよ。まぁ、俺は刺青が駄目だってことで裏方専門になったけどな」
 士郎は本物の貴族の下で執事のアルバイト経験があるとかでそこで培った技量を、ヴァッシュもこれまでの旅の中で飲食店での下働きの経験を存分に発揮して、そして誠実な人柄と明るく人懐こい性格を気に入られて、その場で合格となった。
 だが、リヴィオだけはこういった仕事の経験が無く、顔に刻んだ刺青にも難色を示されてしまい、持ち前の腕力をアピールして何とか裏方として合格を貰えた。ヴァッシュと士郎からのフォローも大きかっただろう。
「日本では、飲食店等の接客業で刺青は厳禁というのが一般的だ。寧ろ、雇ってくれたジョージ店長に感謝すべきだろう」
「勿論、そのつもりさ。ただ、看板娘2人がいなくなった代わりに入ったのが野郎ばかりだって、そんなことを嘆いていたみたいだけど」
 綺礼の言葉にリヴィオは素直に頷く。本来ならヴァッシュと士郎だけで足りる所をお情けで拾ってもらったようなものなのだ。感謝こそすれ、筋違いの恨み節をぶつける気など毛頭無い。
「仕方あるまいよ。ところで、他の3人は?」
 リヴィオが最後に冗談交じりに言った言葉に僅かに笑みを浮かべて、綺礼はまだ帰って来ない3人について訊ねて来た。それには簡潔に、要点のみを答える。
「ヴァッシュさんは散歩。士郎さんとディルムッドはネギに会いに行ってる。……そうだ、綺礼。俺に荷物が届いていないか? でかくて重いやつ」
 問うと、綺礼はすぐに首肯した。
「ああ、それなら君達の部屋に運んである。しかし、随分と大荷物だが……何が入っているのだ?」
 届いたのは、人間が丸ごと1人は余裕で入る巨大なケースだ。重量は中身も含めて1トンを超える。普通なら大人が10人がかりでも持ち運べないような物だが、リヴィオはこれを旅の荷物の1つとして持ち歩いていた。
 リヴィオがヴァッシュとの旅を――所属する宗教結社“ミカエルの眼”から課せられた最後の任務『ヴァッシュ・ザ・スタンピードの護衛任務』を請け負った際に、受領したものだ。
 この中に収められている物は――
「……俺の“十字架”だ」
「十字架?」
 ――証だ。掛け替えのない半身から託された、認められた、最強の証。そして、自分自身が未だ、血塗られた道を往く外道としての証。
 教義に則り迷える人を救い導く牧師としてではなく、教義に則り自らを一個の機能として完成させた処刑人としての一人前の証である、その十字架の名と姿を、願わくはこのまま封じたままであることを。
 部屋に戻り、ケースの中身を検めたリヴィオは、そう願わずにはいられなかった。









「士郎さん、お待たせしました!」
 ディルムッドから話を聞いていると、待ち人の声が聞こえて来た。ディルムッドからの報告は一時中断して、声の主へと振り返る。
「待っていたぞ、ネギ……と、君達も来たのか」
 そこにはネギだけでなく、神楽坂明日菜と桜咲刹那、そして近衛木乃香と京都の事件で関わった少女達の姿もあった。カモミールの姿だけ見えないが、別行動を取っているのだろうか。
「気になったから、来ちゃいました」
 明日菜に朗らかに笑いながらそう言われて、士郎はつい苦笑を洩らした。元より無かったとはいえ、こうも屈託の無い態度をされては咎める気も起きないというものだ。
「君達も無関係じゃないし……まぁ、いいか。その前に紹介しておくよ、形式的には俺の従者ってことになる、ディルムッドだ」
「久方振りだな、幼き勇者達よ」
 サーヴァントとしての兵装から現代風の衣装に着替えたディルムッドを、魔法使いの従者(ミニステル・マギ)として紹介する。マスターとサーヴァントの関係をこの世界の魔法関係者に分かり易く例えて説明するとそうなるから、まるきし嘘というわけでもない。また、ディルムッドを教会へ居候させてもらう時にもそのように説明していたから、今後はそのように統一しようという風にも決めていた。
「わぁ、えらい男前の人やなぁ」
「え、ええ。驚きました、こんなにも眉目秀麗という言葉が似合う方がいらっしゃるとは」
 伝説にも『輝く貌』と謳われる絶世の美丈夫を目にして、木乃香と刹那は素直にそのような言葉を漏らした。これで黒子の呪いが働いていたら、色々と大変だっただろう。特にディルムッドの心労が。
「もしかして……あの時、リョウメンスクナと戦っていた人ですか!?」
 すると、ディルムッドの顔を見ていたネギが、あの時のことを思い出したらしい。1カ月も前のことだ、思い出すのに時間もかかるだろう。
「ああ。あの時の君達の奮戦には、我が心を揺さぶられた。見事な戦いぶりだったぞ」
 ディルムッドからの惜しみない称賛の言葉に、ネギ達は照れ笑いを浮かべた。それから暫くは京都での事件、特にリョウメンスクナとの戦いのことで盛り上がった。そして、話がリョウメンスクナへのトドメに及びそうな流れになった所で、話を打ち切る。
「と、思い出話はこれぐらいにして、本題に移ろうか」
「はい。士郎さん、僕を弟子にして下さい!」
 言うや否や、ネギはすぐさま弟子入りを懇願して来た。その気勢に少々気圧されつつも、士郎は話を進める。
「戦い方が知りたいと言ってたけど、どうしてだ? 今の君は魔法先生で、基本的に戦う必要は無いだろう。それに、戦うばかりがマギステル・マギじゃないと、俺は思うんだが」
「そう言われてみれば、そうよね。どうしてよ、ネギ」
「確かに、先生って普通は戦わへんよな~」
「京都での事件などは特例中の特例ですからね」
 士郎がネギに戦う力を求める理由を問い質すと、明日菜達もその疑問に共感して一様にネギへと視線を向ける。昨日の反応からも察していたが、やはり彼女達もネギの真意を聞かされていなかったようだ。
 ネギは深呼吸をして、一度呼吸を整え心を落ち着かせてから、ゆっくりと話し始めた。
「僕は、立派な魔法使いじゃなくて……本当は、父さんに憧れていて、父さんのようになりたいんです」
 ネギからの返事に、士郎は昔日の光景を瞼の裏に思い浮かべた。しかしそれも目を瞬かせたほんの一瞬のことだ。
「ナギ・スプリングフィールド。消息不明の現代の英雄か」
「お父さんのこと、御存知なんですか?」
 ネギからの問い掛けに、士郎は苦笑混じりに頷く。ナギ・スプリングフィールドの名は、この世界に来てから一月と経たない内に耳にした。曰く、20年前の魔法世界での大戦を終結に導いた稀代の英雄、立派な魔法使いの鑑であり先駆者、千の魔法を操る最強の魔法使い、等々、武勇伝から噂まで、伝え聞いた話は数知れず。
 正直、ナギ・スプリングフィールドはこの世界で魔法に関わる以上、知らない方が無理だろうというぐらいの有名人だ。こういうことは当人や周りの人間には自覚が無いものなのだろうか。
「当然さ。魔法関係者でナギ・スプリングフィールドを知らない人間なんていないよ。それで、どうして……いや、君はお父さんのどういう所に憧れているんだ?」
 ネギからの問いに簡単に答えて、そのまま今回の核心を聞き返す。
 図らずも戦場に放り出され、自分自身と仲間が命の危険に晒された経験をして尚、自ら戦いへと飛び込んで行くという決意。その原動力が単なる思いつきやその場の勢いなどではなく、父への憧れだというのなら、まずはその中身を聞かなければならない。拒むにしろ、諭すにしろ、認めるにしろ、だ。
「実は、僕がまだちっちゃかった頃……」
「今でもちっちゃいじゃない」
「もっと小さい時だったんです! とにかく、その頃の話になります。……えっと、上手く話せる自信が無いので、直にお見せしますね」
 明日菜に茶々を入れられつつもネギは話を進める。直に見せると言うことは、精神感応の魔法を使うつもりだろう。話に夢中で周りが見えていないのか、ここが屋外で自分達以外にも人がいることを忘れているようだ。
 そのことを指摘するとネギは酷く狼狽したが、士郎はやれやれと苦笑を浮かべながら近くのベンチへと向かい、腰を下ろすとネギに隣に座るよう促す。これなら、長時間その場で固まっていても多少は不自然ではないはずだ。
「魔法を人目の多い場所で使うにしても、バレないように工夫すれば問題ないさ。それで、俺はどうすればいい?」
「あ、はい。それでは、僕と手を繋いでください」
 言われるまま、差し出された小さな手を掴む。緊張しているのだろう、ネギの手は微かに汗が滲み、筋肉も強張っている。
 いざ実際にネギの過去を見る段階になって、少女達が自分達も見たいと言い出したが、ディルムッドと共に、他人の過去など軽々に覗いて良いものではないと諭す。諭しながら、士郎は内心でディルムッドに詫びた。不可抗力とは言え、この1ヶ月で何度も彼の過去を覗いておきながら、それを本人に何も言っていないことを。特に――
「では、始めます」
 ――別のことを考えていた所へ、急に視覚が直接、魔力によって刺激される。ネギの回想が始まるのだと察した士郎は、素早く思考を切り替えた。



 英国はウェールズの片田舎。そこは小さいながらも魔法使いの集落であり、住む人は皆魔法使いやそれに纏わる人々だ。元気に走り回る赤毛の少年も同様で、今はまだ見習いでもないが、ゆくゆくは“立派な魔法使い”になってみせると心に誓っていた。その理由は、物心ついた頃から聞かされ続けて来た現代の英雄譚――顔も知らぬ実父の活躍と功績への尊敬と憧憬からだった。
 父がどれ程立派で偉大な人物だったか、少年は村中の人々や時折村を訪れる客人や旅人の口から聞かされ、その度に目を輝かせた。
 なんて立派な人だろう! なんてすごい人だろう!
 だが、少年はある疑問を持つようになった。子供は親と共に暮らすのが普通であると気付いた日、どうして自分は両親と共に暮らしていないのだろうか、と。
 そのことを一緒に暮らしていた老人に問うても、母のことは口をはぐらかされた。父のことについては“立派な魔法使い”としてここに戻る間もないほど忙しく世界中を飛び回っているからだと言うが、少年が、どうして? どこで? どこに? いつ? と問いを重ねてしまえば、やはり口を噤むかはぐらかされてしまう。それは従姉や村の人々も同様だった。
 望む答えが得られぬ中、少年は考え続けた。どうして父がここにいないのか、ではなく、どうしたら父が自分の下へ来てくれるだろうか、と。
 やがて少年は1つの結論を導き出し、その実践として真冬の池に飛び込むという自殺行為に及んだ。駆けつけた従姉や村の人々に「どうしてこんなバカなことを」と叱られると、震えて、少年は泣きじゃくりながら答えた。
 ぼくがピンチになったら、きっとお父さんが助けに来てくれる。
 少年の愚直なまでの一途さに、大人達は誰もが口を閉ざし、従姉は濡れた少年の体を抱きしめてやることしかできなかった。
 そんな出来事から暫く経ったある日、村に異変が起きた。少年が出かけた先から戻って来ると、村が炎に包まれていたのだ。何事かと少年が走り出し、従姉と老人の無事を確かめようと急いで家へと向かい、角を曲がると固い何かにぶつかった。
 それは、人間を精巧に模した石像のように見えた。だが、利発な少年はすぐに違うと気付いた。この石像はこの村の人と瓜二つなのだ。そして、石像の向こう側に見える光景が、否応無しに少年に現実を突き付けた。
 杖を手に、村の人々は戦っている。その相手は、一目で人とは違うと分かる異形の怪物――本物の悪魔の群れだった。悪魔達は魔法使いの抵抗を軽くいなして、石化の呪いをばら撒いて行く。呪いを浴びた魔法使い達は、成す術も無く石に変えられていく。
 逃げろと、誰かが叫んだ。それが自分に向けられたものかも分からないまま、少年は言われるままに逃げ出した。悲鳴や絶叫さえも絞り出せないほどの恐怖が、少年の身体を捕えようとしていた。やがて、少年は悪魔に追いつかれてしまったが、少年は石化を免れることができた。間一髪のところで、老人と従姉が助けてくれたのだ。
 老人は目前に迫っていた悪魔を特別な魔法道具を用いて封印することに成功したが、完全には間に合わず石化の呪いを浴びてしまった。少年を庇った従姉もまた、呪いに足を蝕まれてしまった。
 老人が完全に石と化してしまうと、少年は絶望のあまり叫んだ。とてつもなく深い後悔が、少年の心を苛んだ。
 これは、僕のせいなの? 僕が、ピンチになったらお父さんが助けに来てくれるって、そんなことを思ったから、こんなことになってしまったの?
 自分の身勝手な我が儘のせいで、目の前の悲劇が起こってしまったのでないか。そう思い込んだ少年は、従姉の言葉も耳に届かず、泣き叫んだ。
 それに応えるかのように、一条の雷光が辺りを貫いた。
 何事かと目を向ければ、雷が村を襲っていた悪魔の群れを薙ぎ払っているのだ。……いや、違う。あれは“雷の斧”という魔法で、それを操っているのは1人の男だ。村の魔法使い達が誰一人として敵わなかった怪物の大軍団を、たった1人の男が蹴散らしているのだ。
 機械仕掛けの神でも降臨したかのように急変する事態を、少年は絶望さえも忘れて呆然と見入っていた。
 ほんの10分たらずで、戦いは終わったようだ。すでに雷は止み、悪魔の声や気配も消えて無くなった。残ったのは、1人の男だけだ。
 不意に、男が風に吹かれたように少年の前に降り立った。男の力の強大さを目の当たりにしていた少年は、咄嗟に両手を広げて仁王立ちし、部分的な石化に苦しむ従姉を庇った。従姉は先程、自分を庇ったが為に苦しんでいる。ならば今度は自分の番だ、と。
 少年の行動を見て、男は一瞬目を奪われたが、すぐに笑みをこぼした。冷笑や嘲笑ではなく、屈託のない人懐っこい笑みだ。
 それでお姉ちゃんを守っているつもりかと、小馬鹿にされてネギはつい怒って言い返した。男は軽い調子で詫びの言葉を言うと、表情を変えた。懐かしく、愛おしいものを目にするような顔に。
「……そうか、お前がネギか。でかくなったな」
 これが、ネギと父――ナギ・スプリングフィールドの初めての出会いだった。



「これが、僕がお父さんに憧れている理由です」
 過去の回想が終わり、現実の時間へと五感が引き戻される。少女達が興味深そうに視線を向けて来るが、士郎は何の反応もしない。見せられたネギの過去を、士郎は黙ったまま自分の中で反芻する。それを、まだ納得していないと思ったのか、ネギが更に言葉を紡ぐ。
「……僕は、刹那さんやこのかさんが捕まってしまった時も、何もすることができませんでした。戦うこと以前に、怒ることも、驚くことも、泣くことも……。本当に、僕は何も出来なくって……」
 たった今士郎に見せた過去の自分と、あの時の自分とを重ねているのか、ネギの声は悔しさで震えていた。
「それが、僕は悔しいんです。あの時と違って、僕にはどんなに小さくても、何かができる力があったのに、それでも何一つ出来なかったことが、悔しくて、情けなくて……! だから、そんな僕を変えたくて……今度は、みんなを守れるようになりたくて……!」
 迸る感情の制御が利かず、言葉には力が込められるばかりで途切れがちになってしまう。だが、その込められた力――想いこそが大切なのだと、士郎は分かっていた。
「お願いです、士郎さん! 僕に戦い方を……いえ、僕をあなたや父さんのように、勇敢に戦えるようにしてください!!」
 繋いだままだった士郎の手を両手で力一杯掴みながら、ネギは士郎の目を真っ直ぐに見ながら懇願した。
 士郎は、自分の手を握る小さな手を見た。一体、どこからこんな力が出て来るのだろうか。とてもではないが、振り解ける気がしない。
「……やれやれ、参ったな」
「シロウ?」
 士郎が観念したように呟くと、ネギへの返事について事前に聞かされていたディルムッドが士郎の名を呼ぶ。予定とは違っていることに驚いているのだろうが、無理もない。自分だって驚いているのだ。自分と似たような体験を経て、父に憧れ、父と同じ道を目指す――そんな、自分のような子供が目の前にいることに。
「ネギ、俺も同じなんだ」
「同じ、ですか?」
 士郎が呼びかけると、ネギはオウム返しに聞き返して、手も放した。
 目の前の赤毛の少年に、まだ赤毛だった頃の自分を重ねて見ながら、士郎は少しだけ、ネギに自分の原点を語り始めた。
「俺も、今の君より少し小さいぐらいの頃に、死ぬほど恐ろしい目に遭った。その時に、その地獄から俺を救ってくれたのが、じいさん……俺の親父だったんだ」
 今でも忘れられない。黒い太陽によって齎された深夜の大火災。その地獄とも思えるような場所をさ迷い歩いて、一度士郎は死んだ。身体は辛うじて無事だったが、心が先に壊れてしまった。このまま身体も死んでしまうのだろうと諦めていた。そこへ現れ、救いの手を差し伸べてくれたのが、後に士郎の養父となる衛宮切嗣だったのだ。
 あの時のあの人の、どっちが救ってどっちが救われたのか分からなくなるような、泣きじゃくるような笑顔だけは忘れられない。きっと、永遠に。
「あの人に憧れて、あの人のようになりたくて、俺は親父に頼み続けた。俺にも魔術を教えてくれ、って。それで根負けした親父は、俺に魔術の手解きをしてくれるようになった。……君も、きっと同じだろう? ネギ」
「それじゃあ……!」
 切嗣への憧れが、士郎を“衛宮士郎”へと生まれ直させてくれた。きっとそれと同じぐらい、ネギにとって父との出会いは大切なもので、父への憧れも譲れないものなのだ。
 それが共感できてしまったのだから、断る理由は無いし、仮にこの場で断ったとしても根負けするまで頼み込まれ続けることが分かるのだから、断る気も起きない。
「昨日にも言った通り、魔法に関しては力になれそうにない。けど、それ以外のことなら、俺に教えられることは全て君に教える」
 士郎からの返事を聞くと、ネギは満面の笑みを浮かべ、ベンチから立ち上がって士郎に向き直り、深々と頭を下げて来た。
「ありがとうございます! これからお願いします、士郎先生!」
「先生なんか付けないで、今まで通りでいい。一緒に頑張ろうな、ネギ」
「はい!」
 士郎も立ち上がり、ネギに手を差し出してガッチリと握手を交わす。
 明日からは今まで以上に賑やかになりそうだ。いっそヴァッシュやリヴィオも巻き込んでみようかと考えた所で、急に不安が込み上げて来た。
「……魔法使いとしてよりも、戦士として完成しちゃったらゴメンな?」
「そ、それはちょっと困ります……!」
 顛末を見守っていた少女達はこれに大笑い。士郎からすれば真剣な悩みなのだが、そこはネギの頑張りに期待するということで決着した。





 意気揚々と去って行く少年少女達を見送って、ディルムッドは士郎に声を掛ける。
「良かったのか? 本当は、断るつもりだったのだろう」
「ああ。けど、本当に昔の俺にそっくりでさ。他人のような気がしないんだ。だから、あの子の力になってあげたい」
「そうか。……ならば、それでいいだろう」
 先程の決断について語る士郎の顔に、後悔などは一切見られない。ならば、他人が口を挟む必要はあるまい。士郎の指導を受ければ、あのネギという少年も立派な戦士として成長できるだろう。
「それで、聖杯戦争の件だ。どうだったんだ? バーサーカーとの話は」
 聖杯戦争について自ら切り出すと、士郎の表情からネギと話していた時の穏やかさは消え去り、険しい戦士の表情へと切り替わる。それに応えて、ディルムッドはバーサーカーを自称したサーヴァントから得られた情報を伝える。
「本来ならば契約した時点でマスターにもサーヴァントにもこの世界での聖杯戦争についての情報が与えられるようだが、俺達の契約はイレギュラーだったからな。その辺りの機能が上手く働いていないようだ」
 この話が真実であるか、ディルムッド達には確かめようがない。だが、この聖杯戦争の仕掛け人のサーヴァントと思しき者が直接伝えに来た情報だ。確度は高いと見ていいだろう。その点は士郎も同感のようで、素直に頷く。
「ある程度は思惑通りか……。それでアドバンテージを失ってたら意味が無い気もするけどな。他のも、重要度の高い情報から教えてくれるか?」
 得られた情報の内、どれが最も重要度が高いものかは、考えるまでも無くすぐに1つに絞れた。聖杯戦争において、時空を超えて集い唯一つの聖杯を求めて覇を競い合う古今東西の豪傑達――サーヴァントについての情報だ。
「現在、召喚されているサーヴァントは俺を含めて4人。埋まっている座はランサー、バーサーカー、ライダー、キャスターだ。その内、俺達を含めた3つにイレギュラーがあるらしい」


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