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No.32684の一覧
[0] 【習作】正義の味方と夢見る聖者【ネギま!×Fate×トライガン+オリジナル】[T・M](2012/08/23 20:13)
[1] 第一話[T・M](2012/04/07 23:51)
[2] 第二話[T・M](2012/04/08 00:22)
[3] 第三話[T・M](2012/04/12 23:20)
[4] 第四話[T・M](2012/04/18 23:55)
[5] 第五話[T・M](2012/04/19 00:04)
[6] 第六話[T・M](2012/04/30 22:16)
[7] 第七話[T・M](2012/04/30 22:32)
[8] 第八話[T・M](2012/05/12 00:03)
[9] 第九話[T・M](2012/05/12 00:05)
[10] 第十話[T・M](2012/05/16 22:01)
[11] 第十一話[T・M](2012/05/16 22:06)
[12] 第十二話[T・M](2012/05/22 01:08)
[13] 第十三話[T・M](2012/05/22 01:43)
[14] 第十四話[T・M](2012/05/22 01:53)
[15] 第十五話[T・M](2012/05/22 02:11)
[16] 第十六話[T・M](2012/05/29 22:28)
[17] 第十七話[T・M](2012/05/29 22:51)
[18] 第十八話[T・M](2012/08/23 20:08)
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[32684] 第十六話
Name: T・M◆4992eb20 ID:dcd07e40 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/29 22:28
 木乃香を無事に救出したネギ達は士郎達と合流すると、過分な働きへの労いを貰った。そして主にヴァッシュから褒めちぎられ、士郎やリヴィオからも少年少女らしからぬ功績を称えられ、ネギ達の達成感と木乃香を無事に取り戻した喜びは頂点に達していた。
 そこへ、総本山から神鳴流剣士の1人が詠春からの伝令を伝えに現れた。ネギ達には、総本山は先程の襲撃の混乱が収まっておらず、とてもではないが客人をもてなせる状況ではない為、今夜――既に日付は変わっているのだが――はその剣士の自宅で過ごすこと。士郎達には、今回の事件の事後処理の手伝いの要請だ。
 それらを伝えられ、ネギ達も士郎達もすぐに承諾した。小太郎に関しては、今回の働きは認めるものの未だ謹慎中には変わらないので、士郎達と共に総本山に戻ることになった。総本山に置いたままの荷物や明日に予定されたネギの父、ナギの別荘の訪問に関しても、荷物は夜が明けるまでに必ず届け、詠春は事後処理で行けないが代わりの者が必ず別荘を案内すると約束してくれた。
 そのまま、ネギ達は士郎達と別れ、神鳴流剣士の浅井の家へと招かれた。深夜にもかかわらず、浅井の夫婦はネギ達を温かく迎え入れ、食事と風呂まで用意してくれていた。
 汗と泥を風呂で流すことには、今回ばかりはネギも抵抗せずに素直に従った。こうして動き回った直後の入浴はとても心地のいいもので、明日菜は風呂嫌いのネギにしてはと感心し、木乃香や刹那と共に一日の疲れを洗い流した。
 余談だが、カモミールは明日菜からの要望により1匹だけ別にされた。それもタライに湯を張っただけのものという貧相なものだったが、浅井の奥さんに丁寧に手洗いしてもらい、本人も満更ではない、寧ろご満悦の様子だった。
「いや~、今日は本当、大変だったわね~」
 用意された夜食を食べ終わり、案内された客人用の寝室で、明日菜は伸びをしながらそう言った。客室には既に人数分の布団も敷かれていたのだが、疲労による倦怠感よりも戦いを終えた後の高揚感が勝り、全員がとても眠れそうにない状態だった。加えて、もう数時間後には夜明けという時間帯だ。ならばと、今夜は寝ずに語り明かすことに決めたのだ。明日の寝不足が少々不安だが、そこは若さでカバーだ。
「ほんまやなぁ。けど、こうしてみんなといられて良かったわ~。せっちゃん、アスナ、ネギくん、おおきにな」
 明日菜の言葉に頷くと、木乃香は改めて自分を助けてくれた2人の親友と少年に礼を言った。3人が照れくさそうにしているのとは対照的に、ごく自然に無視されたカモミールは暫く部屋の隅でいじけていた。ネギがそれに気付いて慰めると、カモは元気を取り戻し、そのまま今日の事を振り返った。
「いや、けどホント、今回はギリギリだったッスよ。エミヤの旦那達がいなかったら、どうなっていたか分かりゃしねぇ」
 それには、全員がすぐに頷いた。もしも彼らがいなかったら、どうなっていたか分からない。木乃香を助けるどころか、あの黒い巨人によって殺されていたかもしれない。改めて、彼らに対して感謝の念が自然と湧く。
 そう考えたところで、ネギはあることに気付いた。リョウメンスクナノカミや主犯の天ヶ崎千草との戦い、そして木乃香の奪還にばかり気を取られて忘れていたが、あの時、白い男と黒い巨人の姿が何処にも無かった。木乃香を奪還され、リョウメンスクナが倒されても何の動きも見せず、何時の間にか姿を消していた。そのことが、今更ながらとても不気味なことで、不吉なことのように思えた。
「あの人達には、十重に二十重に感謝してもしきれませんね」
「何かお礼したいわね」
「せやなぁ、なにがええやろ」
 そんなネギの漠然とした不安をよそに、刹那達は士郎達へのお礼をどうしようかと、とても楽しそうに話していた。その様子を見て、ネギは頭を振って、自分の思考を振るい落とした。
 もう戦いは終わったんだ。きっとあの人達も、尻尾を巻いて逃げだしたんだ。だから、こんな心配なんかしないでいいんだ。
 自分に言い聞かせるようにネギは内心でそのように唱え、自分も話に加わった。
「そういや、兄貴」
「なに? カモくん」
 士郎達へのお礼の話が一段落すると、カモがネギへと話し掛けてきた。ニヤニヤとした表情をネギが不思議に思っていると、すぐにその核心がカモの口から出て来た。
「あのお嬢ちゃんへの返事、ちゃんと考えてあるんですかい?」
「ちょ、ちょっとカモくん!? 急に何を……」
 まさかここでその話が出て来るとは思わなかったネギは、慌てふためく。答えは決まっているものの、こういうことはあまり他人に知られたくないし干渉されたくない。何故だか、とても気恥しいのだ。
「あ、それ、ウチも興味あるわ~」
「ほら、ネギ、きりきり吐きなさい」
 しかし、色恋沙汰に最も敏感な年ごろの少女達もすぐにその話題に食いつき、とてもネギには止められそうにない。刹那に助けを求めようとしたが、彼女も口にこそ出していないが興味津々な様子で、ちらちらとネギを横目に見ていた。
「う、うわーん!」
 孤立無援を悟ったネギは、涙目になりながら叫んだ。
 その様子を離れた居間で聞きながら、夫の見送りを終えた浅井夫人は安堵の笑みを零していた。











 惨状。総本山の現況を表すのに最も的確な言葉は、これ以外にないだろう。
 斬殺、圧殺、撲殺、ショック死、衰弱死。多種多様な死因の死体の中で、特に惨たらしい殺され方のものは2つ。刀と衣服を除いて血の一滴も残らず捕食されてしまった2人と、縦に押し潰されて煎餅のような肉塊になってしまった1人。
 近年は荒事を通じても人の死が珍しくなっていたこともあり、呪術師達はその惨状を前に、思考が停止する者、狂乱し取り乱す者、悲しみと恐怖を堪えられず泣き喚く者などばかりとなった。
 どうにかか恐怖と混乱と怒りを己の裡に押し込め、平静を装えている者は近衛詠春を含めてもごく僅か。その中でも死体の処理を粛々と行えたのは、衛宮士郎、ヴァッシュ・ザ・スタンピード、リヴィオ・ザ・ダブルファング、そして生き残った3人の神鳴流剣士だけだった。
 犬上小太郎も最初は彼らの作業を手伝おうとしたが、死体に触れて、その冷たさと硬さに驚き、そして死体の目を見て、それらの人間らしからぬ感触に恐怖を覚え、腰を抜かしてしまった。それを見たリヴィオに、ここまで連れて来た月詠、そして天ヶ崎千草の様子を見ているように言われ、頷くだけで精一杯だった。
 ヴァッシュによって“保護”された千草は、気絶したまま目覚める気配は無い。或いは、このまま眠っている方が彼女にとっては幸せなのかもしれない。
 総本山へと帰還する途中、森の奥から女性の悲鳴をヴァッシュが聞き取り、急いでそちらへと向かった。そこには、泣き叫びながら自らの行いを悔い、父と母、そして同胞達に必死に詫びている天ヶ崎千草の姿があった。ヴァッシュが宥めるも千草の絶望は深く、如何なる言葉も届かなかった。やむを得ず、リヴィオが首筋に鋭い手刀を打ち込んで気絶させ、そのまま保護したのだ。
 総本山襲撃の主犯を保護とは奇妙な話だが、あの状態の彼女を発見して連れて来たことを連行や捕縛とは言えまい。最初は千草への怒りを内心に持っていたリヴィオと士郎も、今は彼女に対して同情的な心持ちになっていた。
 彼女がどうしてああなってしまったのか、究明したい気持ちはあったが、今はそれよりもやることがある。無残に殺されてしまった人達を、これ以上、雨曝しにしておくわけにはいかない。
 東の空から微かに太陽が頭を出した頃には、全ての遺体を仮の安置所とされた鍛錬場に運び終えた。鍛練場に敷いたブルーシートの上に安置した遺体を前にして、まるで何かの糸が切れたようにヴァッシュはその場に泣き崩れた。
 どうして、こんなことになってしまったのだ。
 どうして、彼らが死なねばならなかったのだ。
 彼らにはきっと、素晴らしい未来があったはずなのに、輝かしい夢があったはずなのに。
 どうしてこんなにも、現実は無情で、非情なのだ。
 そんな悲しみに耐えかねて、ヴァッシュは泣いた。その姿に引かれるようにして、生き残った3人の神鳴流剣士も、それぞれに死んでしまった友人や恋人の名を口にしながら咽び泣いた。
 それを見て、リヴィオはこの惨劇を防げなかった自らの未熟さに対する悔しさと、犠牲になってしまった人々への申し訳なさから涙を流した。
 一方で、士郎は涙を一滴たりとも流さず、実行犯であるプレイヤーの一派と、彼らの凶行を止められなかった自らの無力さに、静かに憤っていた。
 その後、リヴィオが宗派の違いを承知の上で、せめて一刻も早く殺されてしまった人達の魂の安息を願いたいと、見習いながらも牧師として略式的な死者への手向けとする聖句を唱え、他の5人は傍らで黙祷を捧げた。
 死者への祈りを捧げた後、詠春の下へと報告に向かう直前、死体安置所の前で神鳴流の3人は士郎へ、ヴァッシュへ、リヴィオへ、それぞれに頭を下げ、あることを頼み込んだ。
 仇を討ってくれ。
 友の無念を晴らしてくれ。
 非力な我らに代わって、奴らに引導を渡してくれ。
 彼らの内心に迸る激情は、士郎達の比ではない。それこそ天を焦がし、地を砕き、海を割るほどの憤怒と怨恨が、彼らの中で渦を巻くように猛っているのだ。しかし、同時に彼らは痛感していた。自分達では、奴ら――吸血鬼の剣士と黒い巨人にこの感情をぶつけようとした所で、返り討ちにもならずに蹴散らされてしまう。それ程、絶望的な力の差があるのだと。だから、彼らは恥も外聞も捨てて、身内の者でもない、偶然が重なってこの場に居合わせているに過ぎない、しかし奴らに匹敵しうる豪傑であろう士郎に、ヴァッシュに、リヴィオに頼んだのだ。自分達に代わって、あの恐るべき魔人達と戦って勝ってくれ――復讐を果たしてくれ、と。
 それを聞いて、士郎は自分がソードやナインと呼ばれるあの2人に実力で大きく劣ることを承知しつつ、その頼みを快諾しようとした。だが、それを遮るようにして、ヴァッシュとリヴィオが先んじて答えた。
「OK、分かったよ。僕もこんなことをされて、黙っていられないからね。けど、殺すのは無しだ。誰かを殺されて憎いから、その憎しみをぶつけて殺し返してやろう、なんて……僕は、嫌だ」
「そういうことです。絶対にとか、必ずとは言えませんけど、あいつらをぶちのめしてみんなの墓前に土下座して詫びを入れさせてやりますよ。それで構わないなら、引き受けます」
 ヴァッシュとリヴィオの返事を聞いて、話す内に鬼気迫る表情になっていた3人の顔が呆気に取られて憑き物まで落ちたかのようになり、少しの間を挟んで苦笑を浮かべた後、普段の表情に戻った。しかし士郎だけは、普段の表情を装いつつも僅かに顔を強張らせていた。
 当事者である3人ですら、ヴァッシュとリヴィオの言葉で目が覚めたと言わんばかりの様子だというのに、どうして自分は今でも奴らを殺さねばならないと思っているのだろう。奴ら自身に対して、憎しみも恨みも無く、怒りの矛先ですらあやふやだというのに。
 そんな士郎の暗澹とした内心を、ヴァッシュは気付きつつも敢えて何も言わず、努めて普段の軽妙な調子で全員を促し、詠春の下へと向かった。











 湖の畔で、黒い騎士――ディルムッド・オディナは腕を組み、目を瞑りながら人を待っていた。一見すると瞑想を行っているように見えるが、実際は違う。ディルムッドの頭の中は今、ある思考で埋め尽くされていた。
 自分がどうしてこの世界にいるのか。何故、極めて近似しながらも限りなく違う世界に、自分は来てしまったのか。最近はあまりそのことは考えず、魔力が尽きて消滅する日をただ待ち受けるだけだった。だが、ディルムッドが待っている人間――『シロウ』と呼ばれていたか――と出会ったことで、事情が変わった。
 彼がディルムッドの故郷に名高き英雄スカサハの宝具カラドボルグを有し、真名解放までも行ったということもあるが、それ以上に、今のディルムッドにとって最も忌まわしい記憶を呼び起こす印――令呪を持っていたことが最大の要因だった。
 自分以外にもあの世界からこの世界に来た人間がいる。しかも、令呪を宿し、その意味する所を明らかに知っている様子の人間が。
 聖杯戦争。久しく思い返すこともなくなっていたあの戦いの事を想い浮かべた途端、ディルムッドの胸が酷く痛み、疼いたのだ。何度思い出そうとしても思い出せなかった。聖杯戦争に敗れた自分が、この世界へと迷い出てしまった原因。その答えが、そこにあるような気がした。解明した所で、どうなるものでもないが。
「来たか」
 近付いて来る人の気配を察すると同時に思考をすぐさま打ち切り、そちらへ振り返る。やがて現われたのは、白髪に褐色の肌、そして纏った紅い外套が目を引く男、シロウに相違なかった。
「待たせたかな」
 太陽は間もなく天頂に至ろうかという頃。約束の期限は日没までとしていたのだから、遅いということはない。
「いや、構わん。……リヴィオと、ヴァッシュがいないようだが」
 昨日、シロウと共にいた2人、ディルムッドとも親交のあるリヴィオと、そのリヴィオから話を幾度も聞かされていたヴァッシュの姿が見えないことを怪訝に思い、訊ねる。まさか、偶然あの場に居合わせただけということはあるまい。
「あの2人はネギ達……リョウメンスクナと戦ったあの子達の所に行ってる。それに、この話はあんたと俺だけでしたいんだ」
 シロウの説明に納得し、ディルムッドは短く頷いた。
 既にディルムッドの名乗りを聞いたのだからと、自己紹介を兼ねて、シロウが率先して話の本題に入った。
「俺は衛宮士郎。冬木の、第五次聖杯戦争のマスターだった」
 シロウの名乗りを聞き、ディルムッドは驚愕のあまり声を漏らした。
「第五次、だと……?」
 ディルムッドが参戦したのは冬木の聖杯戦争に相違ない。だが、あれは“第四次”聖杯戦争だったのだ。シロウの言葉が真実だとするならば、彼はディルムッドにとって未来の聖杯戦争の生き残りということになる。
「あんたは、第四次以前の聖杯戦争にいたのか?」
 シロウからの確認の問いに、ディルムッドは驚きながらもすぐに応じる。何故、ディルムッドが参戦していた聖杯戦争が過去のものだと断定できたのかは分からないが、そこはさして重要ではあるまい。
「その通りだ。第四次聖杯戦争にて、俺はランサーのクラスで召喚された」
「……第四次、か」
 ディルムッドの答えを聞くと、シロウは思い詰めたような表情で呟いた。しかし、すぐに表情が切り替わり、先程までの表情に戻る。
「ランサー……いや、ディルムッド。あんたは、どうしてこの世界にいるんだ?」
 その問いに、ディルムッドは首を横に振り、溜息混じりに答えた。
「分からん。俺は……聖杯戦争で脱落し、消滅したはずだった。だが、何故か……いや、“何か”があって、気が付けばここにいた。戦わずにいれば、1年は現世で留まれるほどの魔力を帯びて」
 返事を終えると、ディルムッドは無言でシロウを促した。彼が、どのような経緯でこの世界にやって来たのかを。それに対して、シロウは申し訳なさそうに首を振った。
「俺も同じなんだ。この世界に来ることになった原因とか、直前の状況を全く覚えてない。何かがあったのかさえ、定かじゃないんだ」
 そこから更に詳しく話を聞いたが、士郎の記憶は、恐らくは士郎と同じ理由でこの世界に迷い込んでいるというケン・アーサーという男と対峙した時点から曖昧になってしまっており、その後の事はこの世界で目覚めるまでの間が、まるで断崖によって寸断されてしまったかのように思い出せないのだという。
 それを聞いて、ディルムッドは自分とシロウの境遇が重なって見えた。偶然とは、ここまで重なるものなのだろうか。ただ同じ世界から来たというだけでも奇跡的な一致であるはずなのに、こちらに来るに至る経緯を何故か覚えておらず、聖杯戦争という稀有な経験をも共有している。ある種の運命じみたものと疑りたくなるが、その判断には尚早か。
「成る程。お互い、似たような経緯ということか。ならば、その令呪はなんだ? 第五次のものを残していた、というわけではないようだが」
 ここで、ディルムッドは最大の疑問をぶつけた。シロウとの初対面の折、ディルムッドは彼から感じた令呪の気配を察しそのことも含めて素性を訊ねた。だが、言われたシロウは自らの右手に令呪が宿っていたことに酷く狼狽していた。そのことから推察するに、信じ難いことだが、シロウはこの世界で令呪を授かったということになる。冬木の聖杯が存在しないはずのこの世界で。
 問われたシロウは、右手の令呪を苦々しい表情で見遣りながら答える。
「俺も、何も分からないし、知らないんだ。だから、これから調べる。どうしてこの世界で聖杯戦争が起ころうとしているのかを」
 戸惑いを僅かに声色に覗かせながらも、シロウは決然と言い切った。それを聞いて、ディルムッドは半ば感心しながら頷いた。
 極めて近く限りなく遠い並行世界で、本来ならば巡り合うはずの無い、過去に経験した事象と近似したものと引き合わされ戸惑いながらも、それを事実として受け止めている。まるで、それが自らの使命、或いは運命であると自覚しているかのように。
 この世界に来てから今まで、何をすべきか定まらず、決められず、ただ茫洋と存在しているだけの自分とは大違いだと、ディルムッドはシロウの決断を認めながら、自嘲する。
「ディルムッド、あんたに頼みがある」
「何かな?」
「俺と契約してくれ」
 頼まれごとと聞いて軽く頷き返したディルムッドに、シロウは予想外の言葉を放った。
「……何故、この俺と?」
 目を細め、やや眼光を鋭くし、ディルムッドはシロウに発言の真意を問うた。気圧されもせず力強く頷いた表情と瞳に、邪念の類は見えない。
「俺はこの聖杯戦争について調べたら、そのまま聖杯戦争を阻止するつもりだ。けど、聖杯戦争を望んでいる者、特に聖杯戦争を仕組んだ張本人との対決は避けられない。そうなったら、必然的にサーヴァントとも戦うことになるはずだ。その時の為に、あんたの力を借りたい」
 聖杯戦争に参戦するマスターとして選ばれた者とは思えない、凡そ信じ難い言葉をシロウは口にした。聖杯を求めず、それを否定する。シロウの令呪が冬木の聖杯戦争と同じ基準で宿ったとするならば、聖杯に懸ける程の願いを持つか、聖杯戦争という場を求めているか、いずれかであるはずだというのに。
 そのことを怪訝に思いつつも、ディルムッドは一先ず、基本的な部分から聞き返した。
「俺と契約を結ばずとも、自分でサーヴァントを召喚すればいいだけの話ではないのか?」
「言っただろ? 俺は聖杯戦争を阻止するって。その一環で、俺は英霊召喚を行わずにサーヴァントと契約したいんだ。そうすれば必ず、聖杯戦争のシステムに何かしらの齟齬や支障が出るはずだ」
 どうやら、シロウは本気のようだ。本気で、聖杯戦争を潰すつもりなのだ。そうでなければ、昨日の今日でこれ程明確に今後の指針を口にすることは出来まい。そのことに納得した上で、ディルムッドは表情を険しくした。
「成る程、理のある言い分だ。だが、それだけで俺が頷くと思うか?」
 ディルムッドには、シロウに力を貸す理由が無い。その身はサーヴァント――即ち、一種の使い魔、文字通り人間への隷属を強いられるモノとして召喚された。だが、ディルムッド・オディナは紛れもない英雄であり、誇り高き騎士なのだ。
 聖杯の仲立ちを以って英霊の座からディルムッドを現世へと召喚し、契約を結び主と認めた存在ならばいざ知らず、初対面の人間にただ頼まれ請われただけで力を貸すほど、ディルムッドは安くない。
 言われたシロウは、苦しそうな表情でディルムッドの言葉に頷いた。
「無関係のあんたに、こんなことを頼むのは筋違いだって分かってる。けど……頼む。俺に出来ることなら何でもする。だから、俺に力を貸してくれ」
 そう言って、シロウはディルムッドに頭を下げて来た。
 無防備に首を差し出す、それだけの覚悟があるということか。
 日本の礼法である御辞儀を知らないディルムッドは少々勘違いをしつつも、シロウが聖杯戦争の阻止に対して並々ならぬ意志を持っていることを認めた。
 僅かに、ディルムッドの心が揺らいだ。これ程の覚悟と意志を見せられて、無碍にあしらったのでは寝覚めが悪い。それに、生まれた国と時代に違いこそあれ、この並行世界においては同じ世界からやって来た、謂わば同郷とも言える間柄だ。話を最後まで聞いて、それから判断を下してもいいだろう。そのように考え直し、改めてシロウを問い質す。
「何故、聖杯戦争を止めたいのだ? この状況では本当にそうなのかは断言出来んが、万能の願望器という至宝を手にする無二の機会なのだぞ?」
 根本的であり、最大の疑問をシロウへと投げ掛ける。もしもシロウの手に宿った令呪がディルムッドの知る物と同じ物であるならば、その選定基準は『聖杯に託すだけの願いを持つ者』か、或いは単なる数合わせ。だが、ディルムッドは後者の可能性はまず無いと考えていた。
 仮にも一度、過去に聖杯戦争に参戦し生き延びたというのだ。そんな男が再び令呪を宿したのなら、相応の願いを今でも持っているはず。ならば、今一度の機会を得ながら、何故それを自ら潰そうとしているのか。何の思惑があるのか、その真意を確かめられなければ、首を縦に振ることは出来ない。
 ディルムッドからの問いに、シロウはすぐに頷いて真剣そのものの表情で答えた。
「聖杯戦争が始まってしまえば、必ず犠牲者が出る。それが巻き込まれた人であれ、マスターであれ……サーヴァントだってそうだ。俺は、それを未然に防ぎたい」
 あまりにも突飛な答えに、ディルムッドは呆気にとられた。シロウの目的が聖杯戦争による犠牲者を出さないことだというのにも驚いたが、それ以上に、その犠牲の中にマスターだけでなくサーヴァントまで含めるとは思ってもみなかった。
「幸せでいて欲しいんだ。俺の目に映る人達、全員に」
 シロウは自らの意志を簡潔に、そして明瞭に、はっきりと言い切った。
 あまりにも耳触りのよ過ぎる、きれい過ぎる言葉だ。普通であれば、猫を被っているのか、腹に一物あるのか、そのように穿って見てしまうだろう。しかし、目の前の男の言葉と瞳、それらから伝わる心根は真摯であり、真実だ。
 口にするのは容易く、実現しようとするには過酷な理想。それを、この男は本気で実現しようとしている。聖杯戦争が如何に過酷か、その場に参じるサーヴァントがどれ程の存在か、知った上で。
 果たして、フィオナの騎士に、今のシロウの言葉を聞いて一笑に附すような者がいるだろうか? 答えは、否だ。
「参ったな。そんなことを面と向かって、本気で言われてしまっては……騎士として、無碍にすることなどできん」
 シロウが掲げた高潔な理想、気高き信念。それは、ディルムッドの信ずる騎士道に通じるものであった。
 仕えるべき主も無く、守るべき誓約も無く、ただ我が身の消滅を待ち受けるのみで、騎士としての誇りすら忘れ去ろうとしていた。だが、まだディルムッドは誇りを忘れていなかった。ならば、答えは一つだ。
「それじゃあ」
 ディルムッドの言葉を聞き、シロウが笑みを零して聞き返して来た。それに、ディルムッドは迷わず、力強く頷いた。
「主従の誓いまでは立てられぬが、それでもよければ、このディルムッド・オディナ、君のサーヴァントとなり共に戦おう」
 この命、この誇り、捧げるに足る義を見たならば、応じてこその騎士。只無為に命を減らして消え去るよりも、己の信じる正義の為に戦い、徒花の如く潔く戦場に散る。それこそが騎士の本懐。
 久しく忘れていた自らの騎士道を思い出し、ディルムッドは自らの裡に燻っていたものに、種火と薪が与えられたように感じた。
「ありがとう、ディルムッド」
 ディルムッドの返事を聞き、シロウは少年のような笑顔を浮かべて礼を言い、手を差し出して来た。それを、ディルムッドも握り返す。
 もしかしたら、彼と出会い、共に自らの過去の因果が深く関わる災厄から無辜の民を守るために、俺はこの世界へと来たのかもしれないな。

 静謐な湖と閑静な森の狭間で、今、紅い騎士と黒い騎士の間に契約の呪が唱えられる。
「汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うのなら――」
「誓おう。エミヤ・シロウを我がマスターと認め、我が力を捧げる」
 運命に弄ばれた/導かれた2人は出会い、ここに契約は結ばれた。
 衛宮士郎とディルムッド・オディナは今一度、聖杯戦争の渦中へ。




















 総本山での事件の翌朝、ネギ達は浅井の家を出るとすぐに迎えに来てくれたヴァッシュとリヴィオと合流し、まずシネマ村まで着たまま持ち帰ってしまっていた衣装の返却と、置いたままになっていた荷物の回収に向かった。
 シネマ村では待ち構えていたクラスメイト達から、明日菜と木乃香と刹那は昨日のヴァッシュによるシネマ村での発砲と手榴弾爆破事件の近くにいたということで、そのことについて質問攻めにあったり、無事を喜ばれたり、急遽外泊した昨日は何かなかったのかと問い詰められたりと、様々だった。
 騒がしさにも似た賑やかさの中で、ネギは自分達が無事に日常へと帰って来たのだと、しみじみと感じた。
 ちなみに、この時ヴァッシュは髪を下ろしてサングラスを掛けて、コートは畳んで脇に抱えていたから、正体がバレて再び騒ぎになるようなことはなかった。刹那と明日菜が事前に指摘しなければそうなっていただろうが。
 その後は詠春の代理としてやって来た神鳴流の剣士によってネギの父、ナギ・スプリングフィールドの別荘へと案内された。父の足跡や面影のようなものは見られなかったが、父の思い出の一部に触れられたことだけでも、ネギには充分嬉しいことだった。
 別荘見学が思ったよりも早く終わると、ネギはカモとリヴィオにお願いして明日菜達の相手をしてもらい、ヴァッシュと2人きりになった。先日の、恋愛相談の続きをしたかったのだ。
 宮崎のどかへの返事は、ネギなりに考えて用意してある。しかし、果たしてそれで本当に良いのか、のどかを傷付けてしまわないか、最終確認としてヴァッシュに相談しておきたかったのだ。
 ヴァッシュは快く引き受けてくれて、すぐに、ネギは自分の考えを耳打ちした。結果は、笑顔と共にサムズアップ。ネギは満面の笑みでお礼を言って、すぐにのどかへの返事に必要な物を買いに行った。

 そして、現在。波乱万丈の修学旅行も、いよいよ帰路に着き、麻帆良に帰るという最終段階となっていた。
 京都駅で新幹線に乗り込み、次の乗り換えの駅までの間も、車内は生徒達の旅の思い出話で賑わっていた。そんな中、ネギは綾瀬夕映と早乙女ハルナに呼び出され、踊り場のスペースでのどかと引き合わされた。
「のどかさん……?」
 新幹線の通路の自販機で『世紀末石油王の石油コーラ』なる怪しげなパック飲料を買っていたのどかは、ネギの姿を見るなり硬直してしまった。ネギが声を掛けたら更に硬くなってしまったようだが、これは、どういうことだろうか。
 すると、夕映がのどかへと歩み寄り、背中を、ぽんぽん、と叩いた。
「さ、のどか。ネギ先生を連れてきましたから、ちゃんと、お返事を貰うんですよ」
 どうやら、のどかにとってもこの状況は想定外のようだ。つまり、夕映とハルナが御膳立てをしているということなのだが、ネギにはまだ分からないようで、不思議そうに首を傾げている。
「で、でも、新幹線の中でなくても……」
「な~に言ってるのよ! 善は急げ、思い立ったが吉日その日以降は凶日って言うぐらいなんだから、こういうのは早ければ早い方がいいのよ!」
 顔を真っ赤にして、おどおどしながらこの場を流そうとするのどかを、ハルナは面白げに笑いながら豪快な論法で焚き付け……もとい、勇気付け、背中を押した。
 すると、ハルナの言葉を聞いたネギは、完璧に状況を把握し、頷いた。
「そうですね。僕も、そう思います」
「お? なんだいなんだい、ネギ先生もラヴ展開ってのが分かって来たの~?」
 ネギが言うのを聞くや、ハルナは矛先をネギへと変え、からかうような調子で絡んで来た。
「ら、ラヴ展開というのは分かりませんけど、自分の想いを伝えるなら早い方がいいって、ある人に教わったんです」
 想いを伝えるのなら、早ければ早いほどいい。ヴァッシュに貰った言葉の意味が、不思議と今は自然に理解出来ていた。それに、伝えるべき言葉ももう決まっているのだから、ここで躊躇う理由はない。
「のどかさん」
「は、はいっ」
 ネギが名を呼ぶと、のどかは顔を真っ赤にして吃驚したように返事をして、そのまま顔を伏せてしまった。人見知りの彼女ならば当然の反応だ。寧ろ、逃げ出さずにこの場に留まっているだけでも、彼女は相当の勇気を振り絞っているはずだ。
 ネギは、噛んだり言い間違えたりしないように、決めていた答えを伝えるべく、ゆっくりと口を動かす。
「僕は、3-Aの生徒としてののどかさんのことなら、良く知っています。けど、僕はのどかさん自身の事を、あまり知りません。だから……」
 そこで一旦言葉を切り、一度、二度と、深呼吸をする。緊張するほど大事な言葉を誰かに伝えるということも、ネギには初めての体験だった。
 対するのどか、見守る夕映とハルナ、そしていつの間にか覗き見をしていた明日菜と木乃香と刹那、彼女らの緊張も最高潮となった所で、ついに、ネギが答えを口に出した。
「まずは、交換日記から始めませんか?」
 野次馬達は古典的な返答にズッコケていたが、のどかだけは顔を上げてまるで向日葵のような笑顔を見せた。
「はい! こちらこそ、宜しくお願いします!」
 それでいいの、などという声も聞こえるが、そんな野次には気を向けず、ネギは安堵すると同時に喜んでいた。自分の言葉でのどかを傷付けずに済んだばかりでなく、こんなにも彼女が喜んでくれていることが嬉しいのだ。
 その後、のどかと共に新幹線の座席に戻ったネギは早速、先日購入した日記帳をのどかに渡したのだが、当然のように他の3-Aの生徒達にその一部始終を目撃され、雪広あやかを中心とした大騒ぎが起こってしまうのだが、それもまた、3-Aらしい思い出になるだろう。



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