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No.32684の一覧
[0] 【習作】正義の味方と夢見る聖者【ネギま!×Fate×トライガン+オリジナル】[T・M](2012/08/23 20:13)
[1] 第一話[T・M](2012/04/07 23:51)
[2] 第二話[T・M](2012/04/08 00:22)
[3] 第三話[T・M](2012/04/12 23:20)
[4] 第四話[T・M](2012/04/18 23:55)
[5] 第五話[T・M](2012/04/19 00:04)
[6] 第六話[T・M](2012/04/30 22:16)
[7] 第七話[T・M](2012/04/30 22:32)
[8] 第八話[T・M](2012/05/12 00:03)
[9] 第九話[T・M](2012/05/12 00:05)
[10] 第十話[T・M](2012/05/16 22:01)
[11] 第十一話[T・M](2012/05/16 22:06)
[12] 第十二話[T・M](2012/05/22 01:08)
[13] 第十三話[T・M](2012/05/22 01:43)
[14] 第十四話[T・M](2012/05/22 01:53)
[15] 第十五話[T・M](2012/05/22 02:11)
[16] 第十六話[T・M](2012/05/29 22:28)
[17] 第十七話[T・M](2012/05/29 22:51)
[18] 第十八話[T・M](2012/08/23 20:08)
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[32684] 第十二話
Name: T・M◆4992eb20 ID:dcd07e40 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/22 01:08
 時刻は、間もなく午前0時。思いの外士郎の話に熱中していた少年少女達も、11時を過ぎた辺りで全員が眠りに就いている。今日の事の疲れがあったのだから、年頃を考えても遅いぐらいだろう。
 子供達の寝顔を見渡した後、士郎は窓辺へと移動した。ここは、関西呪術協会の来客用の寝室だ。来客用ともなれば、景観の良さを重視して外側に配置されていることはごく当たり前のことだろう。しかし、このような場所は防衛に適しているとは言えない。
 守り易く攻められ難い地形の選択は、防衛戦の基本。賓客を守るならば、外側に面していない建物の内部が最適だ。詠春や士郎にその最適を躊躇わせたのは、ネギ達がまだ子供だということだった。本来ならば彼らは修学旅行を楽しみ、このような厳しい体験をする必要など無かったのだ。ならばせめて、少しでも楽しい思い出を作らせてやりたいという想いから、この場所を選んだ。
 実際、かつて住んでいた木乃香や刹那はそれほどでもなかったが、ネギや明日菜、ついでにカモミールも、ここからの眺め、特に今の時期には珍しい夜桜をとても楽しんでいた。少なくとも、無意味では無かっただろう。
 この判断の為に万が一のことがあったら元も子もないが、そんなことはさせまいと、士郎は警戒を怠らずにいた。
 本来ならばヴァッシュもこの部屋にいる予定だったが、話し合った結果、ヴァッシュもリヴィオや神鳴流の剣士たちと一緒に見張りに立っている。取り分け直観力に秀でたヴァッシュとリヴィオが異常を感知した場合、即座に発砲して報せる手筈になっている。魔術的な部分に関しては、同じく寝ずの番を行っている呪術師達もいるから、サポートは万全と言えるだろう。
 これだけの態勢も、杞憂であればいいのだが。





 時刻は深夜1時を回った。
 リヴィオは屋根の上に立って辺りを数分間見回した後、地面へと跳び下り、そのまま歩哨を続けた。
 呪術師達の話によれば、敵がもし総本山への侵入を試みるとすれば午前0時だと言っていた。なんでも、昨日と今日、今日と明日、それらの境界があやふやで曖昧になる瞬間は、どんな結界も精度が落ちるらしい。だが、その時刻になっても何も起こらず、1時間が過ぎても何らかの異常の痕跡も見られない。ここの守りの堅さに諦めて手を引いたのか。それとも、これから仕掛けて来るのか。考えながら、リヴィオは歩く。
 ふと、空に目を向けると、黒雲が見えた。ノーマンズランドでは見たことも無かった黒い雲も、もう随分と見慣れたものだ。初めて雨を見た日のことと、嵐に直面した日のことを思い出しながら、雲を眺めた。その黒雲が、月を隠し、辺りが少し暗くなった。
 その瞬間、2つの巨大な殺気を察知した。
 突如として眼前に鋭利な刃物が現れ、背後に巨大な塊が落下して地面を揺るがす――そんな錯覚を感じたと同時に、リヴィオはダブルファングを抜き、上空へと発砲した。それより100分の1秒ほど早く、別の発砲音が聞こえた。ヴァッシュだ。彼も同じタイミングで発砲した以上、これがリヴィオの勘違いではないということは明白だった。
 十字架から銃の形態へと変形させたダブルファングを両腕に構え、より近い刃のような殺気の方向へと向かう。恐らくその先にいるのは、ケン・アーサー。
 リヴィオは焦ると同時に、驚愕していた。こんな、隠していた様子が微塵もないような殺気を、どうして敷地内に侵入される瞬間まで気付けなかったのか。どうして何の前触れもなく殺気が出現したのか。
 そこで、昨日のある出来事を思い出した。空間連結型結界に閉じ込められていた時に、ケン・アーサーの殺気が今のように唐突に現れていたことだ。つまり結界には、殺気をも遮断してしまうような機能もあったということではないか。そうだとしたら、この事を軽んじて自分の中だけで片付けて、報告をしなかった自分の失態だ。
 歯を食いしばりながら、リヴィオは刃のような殺気の下へと急いだ。









 神鳴流剣士の山田が異常を察した先輩と共に正面玄関へと来て真っ先に目に入ったのは、正面玄関の警護を担っていた神鳴流剣士、土井の五体を引き裂かれた惨殺体と、その下手人と思しき和服の男だった。
 それを見た瞬間、山田の中に激しい怒りが湧きあがった。
「貴様ぁ! よくも土井さんを!」
「待て、山田」
 山田が殺された土井の名を叫び男に斬りかかろうとした所を、共にこの場へ駆けつけた先輩剣士の斎藤が止めた。
 下手人の和服の男は、ゆっくりと視線を山田達に向けた。
「何故です、斎藤さん!?」
「落ち着いて、力の差を弁えろ」
 怒声混じりに山田が問うと、斎藤は落ち着いた声でそのように諭した。山田は怒りで乱れた呼吸を整えながら、男の様子を具に観察する。
 男は、呼吸も乱さずに静かに佇んでいる。良く見れば腰に刀を帯びているが、その刀が抜かれた形跡は無い。土井の死体に、鋭利な刃物による傷が無いのだ。あるのは、強引に、力任せに引き千切られたと思しき傷口と破れた衣服だけ。そして、男の双眸は通常の人間ではありえない、異形の者の証とされる赤い瞳。それらの特徴から、山田はリヴィオと犬上小太郎から聞いた、敵の凄腕剣士の話を思い出した。確か、ソードとか言う通り名の男だ。
 目の前の男は剣士でありながら、刀を使わずに土井を倒したということになる。しかも、斎藤が異常を察知してからここに辿り着くまでの3分にも満たない時間で。そこから導き出される結論は一つ。
「…………強い」
 こうして対峙しても、力の差がはっきりと感じ取れないほどに、目の前の男は自分よりも遥かに強いのだと山田は認めた。一方で、斎藤は始めから力の差が分かっていた。自分達2人がかりでも、勝ち目が薄い相手であると。
 だが、だからと言って敵に背を向ける程、彼らは臆病では無い。
「そうだ。あの土井が刀を抜かせることもできなかった相手だ、死力を尽くしてかかるぞ!」
「はい!」
 2人同時に刀を抜き、気で体を強化する。一人前の神鳴流剣士が2人揃えば、敵うものはそうはいない。鬼が百の群れで現れたとしても遅れを取らないだろう。しかし、赤目の男――ソードは刀を抜く気配は見せず、無手のまま構えた。それを驕りとは見ず、2人は同時に斬り掛かった。
 斎藤は気を用いた神速の移動術――瞬動術によって、文字通り瞬きするよりも早く間合いを詰め、神鳴流の剣技を叩きこむ。山田は敵から離れたままだが、その距離でさえも神鳴流の間合いの内なのだ。
 斬岩剣と斬空閃。巨岩をも一撃で斬り裂く剛剣と、空を切り裂いて飛ぶ一閃。この2つを同時に捌くことは達人にも不可能だ。
 神鳴流の刃を向けられたソードはそれらを無理に受けようとはせず、余裕を持った動作でかわした。それを見て、山田は衝撃を受けた。ソードは明らかに、瞬動術での動きを見た上で回避の動作を取っていたのだ。常人はおろか、一流の戦士でさえも目で捉えることが不可能とされる神速の業を、易々と捉えられた。俄かには信じ難いが、前例はある。ならば、有り得る。
 斎藤は空振った剣をすぐさま構え直し、一度距離を置いた。その隣に、山田も並ぶ。山田は斎藤の顔色を窺ったが、焦燥は見て取れたが山田ほどの驚愕は見えなかった。やはり、斎藤はそれだけ力の差を自覚していたのだろう。死力を尽くせと言ったのも、言葉そのまま。
 ここで、山田はつい苦笑した。近年の神鳴流は鬼を始めとした様々な怪異に対して連戦連勝、苦戦を強いられることの方が珍しいぐらいだ。だから今回の仕事も、どんな強敵が現れても最後には勝てると、そう思い込んでいた。
 しかし、目の前の強敵は、命を懸けて挑んでも必勝を望めないほどの兵(つわもの)だ。勝つにせよ負けるにせよ、恐らく、自分は死ぬ。だが、ただでは死ねない。
 命を懸けて、この男をここで倒す。漸く成った東西の和平、日本の真の意味での平和への第一歩。それを守る為に死ねるならば本望。
「行きます!」
「応!!」
 山田の掛け声に、斎藤が即座に応える。
 ソードは無手のまま、相手の出方を窺って――否、2人の攻めを待っていた。
 2人の姿が消える。完全同時、左右逆方向への瞬動術。5mほど移動した所で一瞬だけ止まって方向転換し、再び前方へ。そして、異なる距離で同時に止まり、三度目の瞬動術。
 山田は瞬動術の速度そのままに、ソードへと切り掛かった。自身の力量では到底行えないはずのことを実行できたのは、命を懸けるという想いに肉体が引っ張り上げられた結果か。しかし、その剣は見切られ、かわされると同時に腹に貫き手を撃ちこまれた。速度の反動を差し引いてもその威力は尋常ではなく、腹筋を突き破り臓物までも破壊された。いや、背中を突き抜けた衝撃は、背骨と背筋をも貫いたか。
 あまりにも呆気ない致命の一撃。だが、これは絶好の好機。腹に手が打ち込まれた瞬間に周囲の筋肉を収縮させ、同時に刀を棄てて渾身の力を込めてソードの腕を掴み、動きを封じる。その瞬間、ソードの背後に雷の力を帯びた斎藤の刀が迫る。神鳴流奥義、雷光剣。その威力は、人間の1人や2人ならば消し炭にするほどだ。相手が人より強靭な人外の者であろうとも、神鳴流の技は魔の天敵。威力は更に増すのだ。
 山田が薄れゆく意識の中で勝利を確信した直後、彼の意識は途絶えた。

 神鳴流剣士、斎藤の振り上げた刀は、切っ先が天を指したところで、ピタリ、と止まり、動かなくなった。
 やがて、刀身に帯びていた雷光が徐々に収束し、霧散した。全身から力が抜け、腕が落ち、手から刀が滑り落ちる。
 斎藤は目前の魔人に目を剥き、喀血した。その血を、魔人の一部は酷く美味そうに啜り、一滴たりとも地面に落とさなかった。
「き……ぁ……」
 言葉を発そうとしても、喉に詰まった血が発声を妨げる。魔人の首から伸びたものに貫かれた胸を中心に、自身の血流が狂って行くのを感じる。それが敗北の実感でもあると理解するのに、さほどの時間はかからなかった。
「魔と人の関係を見誤る者しかいないのか、神鳴流は」
 腕で以って山田の亡骸を咀嚼しながら、魔人は問い掛けて来た。その言葉に滲んでいるのは、呆れと落胆。それに対して斎藤は反論できず、絶望の中で肯定した。
 不覚。何故、こんなにも当たり前のことを見誤っていた。……否。忘れ去り、都合良く勘違いをしていたのだ。
 神鳴流の、退魔の技は、本来は魔の天敵ではない。その原点は人が魔に対抗するべく練り上げた技巧であり、武器であり、手段であり、小細工だったのだ。ならば、元より圧倒的な力を持つ魔が、人と同等以上の技や術を身に修めていたのなら……敵うはずが、無い。
「え、い、しゅん……さま。もうし……わけ、ござい、ま……せ、ぬ……」
 血で潰れかけた喉から最期に捻りだせたのは、斎藤が敬愛し憧れ続けた人への、詫びの言葉だった。
 それを聞いた魔人は、斎藤の血肉を一息に貪り食らった。





 ソードは2人の血肉を貪り食った後、自らの血文字を使って作った呪符を用いた囮を懐から取り出し、最初にバラバラに引き裂いた死体の一部を両脇に抱え、総本山の内部へと本格的に侵攻した。
 死体を食らわずに持ち歩くのは、これを使って動揺を誘い、目的の者以外との遭遇戦を手早く終わらせるためだ。囮の方も、高確率でこちらに向かって来ているだろうダブルファングへの目晦ましだ。これを随所に配置しておけば、感は鋭くとも魔術の知識に欠けるダブルファングを足止めすることができるだろう。
 万が一あちらの勘が当たって遭遇したのならば、それも一興。だが、今回のソードの本命はあくまで別だ。
「くっはっはっは……あっはっはっはっ……ひゃーっはっはっはっは!!」
 すると、建物の内部を少し進んだ所で、聞き慣れた高笑いが聞こえて来た。そちらへ向かってみれば、案の定、ソードと共に侵入して、戦いには関わらずサングラスを外して先行していたE2と、E2の術中に陥り精神を凌辱されているらしい呪術師たちの姿があった。
 一部、血痕や傷が見えるのは、同士討ちでもさせたか。
「ああ、本当! お前らみたいな脳内が万年晴天快晴の脳天気なぁのをよぉ! こうやって甚振って、嬲って、弄ってぇ! 鼻水垂らしながら泣き喚く顔を見るのはさぁ……たまんねぇぜぇ!!」
 E2の術中に陥った者達は気絶することも叶わず、助けを呼びながら悶絶している者、泣きながら命乞いをする者、いっそ殺してくれと懇願する者、最早心が壊れたか体中のいたる所から液体を垂れ流しながら痙攣している者など、様々だ。
 見慣れた光景を咎めるつもりはないが、些か声が大きい。忠告ぐらいはしておくか。
「愉しむのも程々にしておけ、E2。お前の大声を聞きつけて、強いのが来たらどうする」
 笑い続けて腹筋が攣る寸前にまでなっているE2に、ソードはそのように声を掛けた。尤も、今敵が来たなら殺し尽くすか四肢を千切ってダルマにしてから引き渡すぐらいはするつもりだが。
「ああ? なんだ、ソードか。その時はさ、まずこう言うのさ。暴力反対、まずはお互いの目を見て話し合おう……ってな!」
「……まぁ、お前のコレは暴力の定義には当て嵌まらんな」
 E2とは互いに目線を合わせぬよう留意しつつ、足元に転がっている人間を見て、ソードはそのように言った。
 コレを暴力と呼ぶ人間は、そう滅多にはいないだろう。暴力の方がマシだ、という人間はいるだろうが。
 すると、案の定というべきか、ソードの強化した聴覚がこちらに向かって走って来る足音を捉えた。速さといい、足音の間隔が乱れないことといい、只者では無い。或いは、目当ての人間が来たかと思い、目を向ける。
 やって来た足音の主はソードとE2には目もくれず、倒れている人間達に駆け寄り、必死に呼びかけ始めた。
「しっかり! しっかりしろ! どうしたんだ、みんな!」
 今にも泣き出しそうな顔と声で、必死にE2の術中に陥った者達に呼び掛けているのは、この作戦での最大の不確定要素たる赤いコートの平和主義者、ヴァッシュ・ザ・スタンピードだった。
「ひゃあ! こりゃ、当たりだな」
 嗤いながら、E2はそのように言った。確かに、この状況はプレイヤーが想定した中でも最良の状況だ。
「君達が、やったのか? こんな、酷いことを……!」
「やったのは、こっちのE2だ」
 言ってから、ヴァッシュが来たのとは別の通路から奥を目指す。ヴァッシュの言った『酷いこと』の中に、ソードが抱えている生首やらが含まれているなら話は別だろうが、知ったことではない。
「あ、待って!」
「おおっと、あいつもあいつで忙しいのさ。そんなことよりよぉ、俺と、お互いの目を見て話し合わねぇか? ヴァッシュ・ザ・スタンピード」
 後ろから聞こえてくる声に振り向こうともせず、時折囮を撒きながら、ソードは奥へと突き進む。
 目指すは唯一人。かつて、2つの世界の剣士の頂点に立った稀代の大剣豪、偉大なる“サムライマスター”――近衛詠春。





 正門にソードが現れたのと同じ頃、裏門の守備を担っていた呪術師が圧殺されていた。縦に押し潰されたその死体は人間としての原型を留めておらず、死体よりも肉塊という表現の方がより正確だろう。
 下手人は、肉塊のすぐ傍に立っている白尽くめの男――ではなく、その背後に聳える、黒い巨人だ。白尽くめの男――プレイヤーは、何かを探るような動作を行うと、すぐに背後の黒い巨人へと振り返った。
「行こう、ナイン。ターゲットはあちらの方角。途中の障害物とかは全部無視して、最短距離を突っ走ってくれ」
 プレイヤーの発案に、黒い巨人――ナインは無言で頷き、クラウチングスタートの姿勢を取った。すると、巨人の尋常ならざる殺気を察知したか、或いは先程呪術師を縦に潰した際の音を聞きつけたのか、新たに2人の呪術師と1人の剣士が現れ、ナインの進行方向を塞いだ。だが、プレイヤーが道を開けると巨人は走り出した。
 目の前には3人の敵と建物という大きな障害物があったが、ナインはそれらの全てをまるで陸上選手がハードルを踏み倒すような気軽さと、重機が廃屋を叩き壊すような豪快さで踏み潰し、打ち砕き、突き進んでいく。
 不運にも進行ルート上で眠っていた者や待ち伏せていた者もいたが、ナインは全てを歯牙にもかけず、薙ぎ払い、踏み潰し、圧倒し、蹂躙し、殺し続けた。途中で遠距離から攻撃して来た賢い者もいたが、それが神鳴流の技でも呪術でも関係無く、ナインが身に纏う黒い鎧によって悉く防がれ、巨人の進撃を止めるには至らない。
 その光景を、後ろを追走しながらプレイヤーは眺め、時には笑みを浮かべていた。死んだことにも気付いていないような滑稽な死に顔、自分達の力が通じないことを痛感した戦士達の絶望の表情。そして、巨人の進行に対して為す術も無く蹂躙されていく『ここが戦場になるはずが無い』『自分達は大丈夫』などと思い込んでいただろう者達の混乱と恐怖に彩られた声と表情。
 全てがとても愉快で、滑稽で、面白い。だが、こういう一瞬で作られたものでは物足りない。やっぱり、もっと、時間を掛けてじっくりと吟味して、熟成して、作り上げたものじゃないと、満足できない。
 プレイヤーがそんなことを思った頃には、目的の場所は目と鼻の先だった。









「みんな、起きろ!」
 肩を掴んで体を揺すられ、大きな声で呼びかけられて、ネギは眠りの底から覚醒した。
「なんですか、衛宮さん?」
 欠伸を漏らし、寝ぼけ眼で士郎を見ながら問い掛ける。恐らく、まだ真夜中のはずだ。
「敵が来る!」
 切羽詰まった声でそのように告げられ、寝ぼけた脳がその言葉を理解するまでの数秒の間を挟むと、ネギの意識は一気に覚醒し、眠気も吹き飛んだ。
「わ、分かりました! みなさん、早く起きて下さい!!」
 慌てて、まだ眠っている面々を士郎と共に起こしに行く。刹那はどうやらネギよりも早く覚醒していたらしくその手間も省け、カモはすぐに起きてくれた。
 後は、未だに熟睡している明日菜と木乃香だ。
「そんな……総本山の守りが突破されたなど、本当ですか?」
「確かに、オイラもざっと見ただけですけど、ここの守りの堅さは相当のモンですぜ? エミヤの旦那を疑うわけじゃないッスけど、ちょっと信じられないッスね……」
 事情を聞いた刹那とカモは、士郎の話に懐疑的だった。だが、面と向かって疑われても少しも動じることなく、士郎は最悪の事態が起きたと言い切る。
「信じてくれ。このままだと手遅れになる」
 言って、士郎は総本山の配置から見て後ろの方へと振り返った。その顔には、先程よりも深い焦燥が現れていた。
 士郎の実力をネギは見たことは無いが、恐らく、あのリヴィオにも比肩しうるほどの実力者のはずだ。その彼が、ここまで焦燥していることの意味が分からないほど、ネギは愚かでは無い。
「アスナさん、起きて下さい! アスナさん!」
 ネギが必死に体を揺さぶって、漸く、アスナは起きてくれた。
「う~ん……なによ、ネギ。トイレにでも行くの?」
「違います! 衛宮さんが、敵が来るから早く準備をって!」
「へぇ~……って、ウソ!?」
 明日菜は敵が来るならどうしたらいいかと、眠気が一瞬で吹き飛ぶほどに慌てた。そこへ士郎が努めて冷静にアドバイスを送ると、それに従って明日菜は一先ず深呼吸をしてなんとか落ち着き、それからアーティファクトを呼び出した。ネギも同様に、まずは出来るだけ落ち着いて、自分の杖を手に持った。
 後は木乃香だけだが、起きないようならいっそそのまま連れて行ってしまおうか、と士郎が漏らした、調度その時、木乃香も起きた。
「ふあ~……まだ眠いわぁ。どないしたん?」
 木乃香も起きて、これで準備が整ったと思い、ネギは士郎の方を見た。だが何故か、士郎は木乃香が起きたことに対して一切反応を見せず、強張った顔で壁の向こうを見つめ、その手には黒と白の剣を握っていた。
「士郎さん……?」
 何時の間に、どこから剣を取り出したのか、どうしてそんなに険しい顔をしているのか。ネギは訊こうと声を掛けたが、士郎はそれを無視して全員に指示を出した。
「桜咲、近衛を頼む。ネギと神楽坂とカモミールは俺の後ろに隠れろ」
 その言葉を聞き終えてからだろうか。微かに、地響きのような音が聞こえて来た。時間が経つと共に音は次第に大きくなって行き、その中に破壊音が混じっていると気付いた。
 同時に、ネギは音が近づいてくるのに比例して、空気が重くなっていくような錯覚を感じていた。やがて、今まで経験したことの無いような恐怖と寒気をも感じるようになり、全身が震えて止まらなくなった。明日菜とカモ、木乃香も同様だった。刹那はそのような素振りは見せていないが、音が大きくなるにつれてどんどん顔色が悪くなっていく。
 その中で士郎だけは、険しい表情ではあるものの落ち着きを見せていた。それが、ネギには信じられなかった。次第に近付いてくる、訳のわからない不安と恐怖を前にして、この人はこわくないのだろうか。
 リヴィオの強さを目撃した時と同じような感情をネギが覚えた、その直後、近付いて来ていた破壊音は部屋の直前で、ピタリ、と止まった。
 不気味な静けさに息を呑む――暇も無く、一瞬の静寂は壁と共に破られた。
 壁を突き破って表れたのは、人間の腕だった。しかし、それはとてつもなく大きかった。ネギや明日菜どころか、士郎よりも巨大な腕だったのだ。
 あまりにも予想外な、理解を超えた物体の出現に、全員の思考が驚愕で塗り固められた。完全な未知の物体ならこうはならなかっただろう。だが、良く見慣れたものが、常軌を逸した姿で現れることの衝撃は凄まじいものだった。
 その瞬間が致命的だった。伸びてきた巨大な腕が、無慈悲に、容赦無く、躊躇い無く、少女を攫って行った。
「せっちゃん!!」
「桜咲さん!」
 木乃香と明日菜が、目の前で攫われた友人の名を叫ぶ。そんなことをしても無意味だ、とネギが諦めの感情にも似た思考をすると、まるでそれと相反するかのように、巨大な腕は破壊された壁の前で止まった。同時に部屋の中に現われたのは、白尽くめの男だった。
「ナイン、駄目じゃないか、よく見ないと。ターゲットの近衛木乃香は黒髪で、腰まで届くほどの長髪だ。この子も黒髪で君よりもずっと髪が長いけど、肩にも掛からない程度だ。困ったなぁ、二度手間だよ」
「プレイヤー、貴様!」
 士郎が叫び、切りかかるよりも一瞬早く、プレイヤーはひらりと跳躍して巨大な腕の上に移動した。結果、士郎の剣は空を切ったのみ。
 ネギはその一連の動作を目の前で見ていたはずだが、理解がまるで追いつかなかった。
 巨大な手がほんの僅か、握る手に力を込めた。
「ぐ、ぅ、あ、ぁぁ……!」
 すると、何かが折れる鈍い音が聞こえて、刹那が呼吸にも苦しみながら悲痛な声を漏らした。恐らく、どこかの骨が折れたのだろう。
 しかし、ネギには分からない。
 どうしてこうなってしまったのかも。
 これからどうなってしまうのかも。
 これからどうすればいいのかも。
 何もかもが、分からない。


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