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No.32684の一覧
[0] 【習作】正義の味方と夢見る聖者【ネギま!×Fate×トライガン+オリジナル】[T・M](2012/08/23 20:13)
[1] 第一話[T・M](2012/04/07 23:51)
[2] 第二話[T・M](2012/04/08 00:22)
[3] 第三話[T・M](2012/04/12 23:20)
[4] 第四話[T・M](2012/04/18 23:55)
[5] 第五話[T・M](2012/04/19 00:04)
[6] 第六話[T・M](2012/04/30 22:16)
[7] 第七話[T・M](2012/04/30 22:32)
[8] 第八話[T・M](2012/05/12 00:03)
[9] 第九話[T・M](2012/05/12 00:05)
[10] 第十話[T・M](2012/05/16 22:01)
[11] 第十一話[T・M](2012/05/16 22:06)
[12] 第十二話[T・M](2012/05/22 01:08)
[13] 第十三話[T・M](2012/05/22 01:43)
[14] 第十四話[T・M](2012/05/22 01:53)
[15] 第十五話[T・M](2012/05/22 02:11)
[16] 第十六話[T・M](2012/05/29 22:28)
[17] 第十七話[T・M](2012/05/29 22:51)
[18] 第十八話[T・M](2012/08/23 20:08)
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[32684] 第十一話
Name: T・M◆4992eb20 ID:dcd07e40 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/16 22:06
「み~なごろしー、皆殺しー、ひ~とりーも残さねぇ~。ヒャッハー!」
 銃を散発的に撃ちつつ物騒なことを叫びながら走り回って、もう30分くらいか。士郎達も無事に逃げられただろうし、僕もそろそろ、スタコラサッサと逃げ出しますか。
 思い立ったら即行動、適当に近くの壁を飛び越えて外に出る。正規の出入り口は逃げようとしている人達でごった返しているだろうから、騒ぎの原因の暴走野郎がそこに顔をだすのはとてもまずい。
 外に出て、取り敢えず人通りのなさそうな方へと移動する。
「……ふぅ。これからどうしようかなー」
 一応、目的地までの道順は聞いてあるが、土地勘が無いので結構不安だ。いざ迷子になったら士郎かリヴィオに連絡を取ればいいか。取り敢えず、1人で行けるだけ行ってみよう。そう決めて歩き始めてすぐ、曲がり角で士郎とばったりと出会った。
「あれ、士郎?」
「見つけたぞ、ヴァッシュ。まったく、無茶をして」
「無茶とか無謀とか、君に言われたくは無いかな」
「……お互い様だろうが、その辺りは」
「だよねー」
 他愛の無い言葉を交わしてから、士郎が1人だけなのに気付いた。
「で、1人だけでどうしたの? 明日菜たちは?」
「シネマ村を出てすぐの所で神鳴流の人と合流できたから、その人に任せて来た」
「なんで?」
 士郎が1人でいる理由は分かったが、そうまでして自分を探しに来た理由が分からない。士郎がこういうことでヴァッシュのことを心配することはまず無いからだ。
「お前のことが不安でしょうがなかったからだよ。案の定、その格好のままで出歩いてるんだもんな……」
 すると、士郎はそう言って大きく溜息を吐いた。
 今ヴァッシュが普段と違う所と言えばサングラスを掛けているくらいだ。だが、そんなどうでもいいぐらい些細なことで、こんなに士郎の頭を悩ませることになるとは思えない。なので、士郎の言おうとしていることがヴァッシュにはさっぱり分からない。
「え、どういうこと? この格好だと何かマズイの?」
 素直に質問すると、士郎は頷いて状況を説明してくれた。
「お前のさっきの銃乱射、1時間と経たない内に警察の捜査が始まりかねない大事件なんだよ、日本だと」
「え、マジで?」
「今日の夕方のトップニュースは、全国でこの件ばかりだろうな」
「お、恐るべし。日本の情報伝達速度」
 先程のヴァッシュの行動は、ノーマンズランドでは何日か後に新聞に載っても三面記事程度の事だったのだが、日本ではその日の内にテレビのニュースにまでなるという。しかも、真面目で働き者と評判の日本警察の方々まですぐに動くとなったら、確かにヴァッシュだけでは不味かった。
「そういうわけだ。コートを脱いでサングラス取って、髪は適当にボサボサにしておけ」
「うん、分かった」
 外見的な特徴に当たる部分を全部排除して、見つかり難くしようという寸法だ。士郎の指示にすぐ頷いて、まず頭をボサボサに掻き乱して、続いてサングラスを仕舞う。そしてコートを脱いで、さて、どうやって持ち歩こうか。
「コートはどうする?」
 このまま脇に抱えて歩いていたら、もしかしたら目敏くて勘のいいお巡りさんに気付かれてしまうかもしれない。
 すると、士郎は少しの間を置くと、手の中に紙袋を作り出した。
「これに入れておけ。ついでに銃も」
 何でも無いように差し出しされた紙袋を、ヴァッシュは溜息を吐きながら受け取った。
「本当に凄いよね、君の投影魔術」
 無から有を作り出しているわけではないらしいが、傍から見ればそうとしか見えない。まるで、プラントのようだ。それを本人は、何でも無いことのようにやってしまうのだから、ため息も漏れるというものだ。
 そんなことを考えながら、受け取った紙袋に折り畳んだコートと愛用の銃を入れる。投影魔術で作り出した物は壊れやすい上に壊れたら消えてなくなってしまうから、持ち歩くにも気を付けなければ。
「よし、それじゃあ行くぞ」
「了解」
 ヴァッシュの準備が終わったのを見計らって、士郎は出発を促した。すぐに頷いて、関西呪術協会の総本山へと向かう。ちびせつなの姿が見当たらないことを訊ねると、敵との交戦時に剣で両断されてしまった、ということだった。そのことを悲しむが、あくまでただの式神――つまりロボットのようなものだ――だったのだから、感情移入をし過ぎるなと窘められる。
 途中、つい先程士郎と対峙していた2人のことを考えた。あの時ヴァッシュは、騒ぎを起こすタイミングを見計らって彼らの姿を具に見ていた。その時のことは、今でも鮮明に思い出せる。
 どうしたら、彼らを止められだろう。
 あの眼鏡を掛けた女性――特徴からして、彼女がアラン達を雇った天ヶ崎千草か。彼女は、士郎に気圧されてこそいたが、諦める気配がまるで無かった。足を撃たれたぐらいでは、あの場を退いてもきっと止まらない。
 どうして、彼女はこんなにも平和な国で生きているのに、その平和を自分の手で壊して、多くの人が犠牲なってしまうようなことをしようとしているのだろう。それも、あんなにも必死になって。
 彼女がそうしようとする理由を知りたい。それを知らないと、彼女は止められない。彼女を止める為に、どんな言葉が必要なのかも分からない。
 力ずくで止めるだけじゃ、絶対に駄目だ。
「……なぁ、ヴァッシュ」
 士郎が急に、足を止めずに話しかけて来た。考え事は一旦脇に置いて、すぐに応える。
「なんだい?」
 聞き返すと、士郎は少しの間を置いてから、ゆっくりと口を動かした。
「ありがとう。お前のお陰で、早まらずに済んだ」
「……そっか」
 士郎、まだ、悪い癖が抜けないんだね。あんなにも素晴らしい理想を懐いているのに、君はすぐに割り切ろうとしてしまう。
気が遠くなるほど、実現するのが困難な理想だ。けれど、君はそれを諦めてないし、これからも諦めることは無いだろう。
 なのに。何故、君は、人の命の尊さが分からないんだ。
 これまでに何度も、この事で話し合った。けど、君はその度に、苦しそうな顔をして「分かっている」と、呻くように、悲鳴を押し殺したような声で呟くばかりだ。
 今は日本の平和を左右する事件の真只中だ。ヴァッシュもこの事を追究するつもりは無い。だがいつかは、士郎に全てを話してもらいたい。
「士郎。やっぱりさ、僕はこう思うんだ。誰でも、死んじゃうよりも生きている方がずっといい、って」
「……そうだよな。誰にも、誰かを死ぬべきとか、死んで当然とか、決めつける権利は無い。俺も、そう思うよ」





 電車やバスを乗り継いで、途中降りるバス停を間違えたり、ヴァッシュが土産物の試食に時間を取られたりと思いがけないミスで時間をロスしてしまったが、無事に関西呪術協会の正門へと至る千本鳥居の入り口にまで辿り着いた。
「はー……絶景だね」
「凄いもんだな」
 暫くそうして見惚れていると、士郎達が来るのを待ってくれていたリヴィオが歩み寄って来た。
「お待ちしていました、ヴァッシュさん、士郎さん。御無事で何よりです」
「リヴィオ。そっちも無事みたいだね。良かった~」
「詳しい話は移動しながらしよう。ヴァッシュ、もう元の格好に着替えて大丈夫だぞ」
「オッケー」
 ここから先は、もう人目を気にすることも無い。ヴァッシュがいつもの服装に着替えるのを待ってから、リヴィオに案内されて千本鳥居をくぐった。ついでに、紙袋の投影も破棄しておく。
 歩いていてはかなり時間が掛かるらしいから走って移動する。同時に、走りながら情報交換をする。
 リヴィオの方にも予想通り妨害はあったものの、結果的には敵の一味の1人を捕まえた上で、無事にネギは親書を届けられたようだ。その後、今から1時間程前に神鳴流の剣士に連れられて御令嬢達も無事に総本山に入った。これで、当面の安全は確保できたと考えていいだろう。
 捕まえた少年――犬上小太郎というリヴィオの知り合いらしいが、彼から得られた情報は多くはなかった。だが、敵のメンバーについて明確に知ることができたのは大きい。アジトの情報も得て呪術協会の呪術師たちが向かったものの、そこは既に引き払われていたらしい。
 敵の構成人員は、小太郎を除いて8人。首謀者の天ヶ崎千草。銀髪の西洋魔術師の少年、フェイト。神鳴流剣士の少女、月詠。白尽くめの参謀役、プレイヤー。赤目の侍のソードは、ケン・アーサーのことだろう。額に包帯を巻いている男、E2。そして、小太郎は一度も顔を合わせていないというナインと、プレイヤーが急遽呼び寄せたという助っ人。
 ネギの証言によれば、E2と特徴が一致している男にホテルで話し掛けられているということから、顔が割れているのは6人。
 現時点での明白な脅威は、ケン・アーサーと、底知れない不気味さを感じさせるフェイトという少年の2人。同時に気になるのは、正体不明のナインと助っ人だ。最悪、先に挙げた2人以上の脅威という可能性もある。用心しなければならないだろう。
「それにしても、ヴァッシュには参ったもんだよ。こいつ、俺達を援護するためとはいえ、急に銃を乱射して群衆の中に飛び込んだんだよ」
「あー……やっぱりと言いますか、なんと言いますか……」
「な、なんだよぅ! 2人してそんな目で見なくてもいいだろー!」
 情報交換を終えて、そんな、何でも無い会話をし始めたところで、関西呪術協会の総本山の正面玄関に着いた。広大な敷地と日本の伝統的な造りの大きな建物に目を奪われたが、ここには見物で来たのではない。
「お二人とも、こちらへどうぞ。関西呪術協会の長、近衛詠春さんの下へご案内します」
 リヴィオに促されて、未だに見惚れているヴァッシュの首根っこを掴んで同行する。恨み事を散々言われたが気にしない。渡り廊下や広間を幾つも抜けていくと、リヴィオは襖で仕切られた部屋の前で立ち止まった。
「詠春さん、ヴァッシュさんと衛宮士郎さんをお連れしました」
「ご苦労様です。お2人とも、中へどうぞ。リヴィオくんはあの子達に付いていて下さい」
 リヴィオが声を掛けると、すぐに返事があった。どうやら、ここは近衛詠春の私室のようだ。自分達のような風来坊が入ってもいいものかと思ったが、あちらの立場を慮れば、形式的に会うよりも個人的に会う方が良いのだろう。
 なにしろ、ネギの親善大使としての来訪はあくまで機密事項。どこの馬の骨ともしれない男が、関係者として接見するのはいかにも不味い。
「じゃあ、俺は一旦失礼します」
「うん。ありがとうね、リヴィオ」
「助かったよ。また、後でな」
 リヴィオと言葉を交わしてから、襖を開けた。
「ようこそいらっしゃいました、衛宮士郎くん、ヴァッシュ・ザ・スタンピードくん。さぁ、こちらへ」
 2人を迎え入れたのは、眼鏡を掛けた壮年の男性だ。この人が近衛詠春か。
「お邪魔しま~す」
「失礼します」
 挨拶にそれぞれ応じてから、促された席へと腰を下ろす。座布団に座るなど、何年振りだろうか。
「今回の件について、関西呪術協会の長としてだけでなく、木乃香の父親としても礼を言わせて下さい。ありがとうございました」
「いやぁ~、お安いご用っすよ、ホント」
「私達はリヴィオの手伝いということで、勝手に首を突っ込んだだけです。こちらこそ、出過ぎた真似を許して頂いて恐縮です」
 真っ先に告げられた詠春からのお礼の言葉に、ヴァッシュはいつも通りに、士郎はやや緊張しながらそれぞれ応える。
 まさか、日本の魔術組織の長である人物にいきなり頭を下げられるとは思っていなかった。どうやら、自分のイメージしている組織の上役のような人物ではないようだ。
 簡単な自己紹介を終えると、詠春からネギによって無事に関東魔法協会からの親書が届けられ、これをきっかけに東西の親交を深めていくことになるだろう、という吉報を教えられた。
「これで漸く、肩の荷が軽くなりました」
「東西和睦の成立、おめでとうございます」
「よかったですね」
 士郎とヴァッシュは、率直に祝いの言葉を贈った。しかし、親書が届いたから、これからは20年の軋轢を忘れて仲良くしよう、などと言っても、心に蟠りを持つ人間をすぐに変えられるわけがない。
「ありがとうございます。ただ、今日の事はあくまで第一歩。本当に大事なのはこれからですよ」
 今日が終わりではないということは、外野が言うまでも無く詠春自身が最も良く分かっていた。当然だ。詠春は呪術協会の長としてずっとその現場を見続けて、何とか改善しようとしてきた人物なのだから。
 次いで詠春が話してくれたのは、近衛木乃香が狙われた理由だ。
「木乃香には類稀な魔法の素質の持ち主です。特に魔力の許容量は極東地域でも随一、世界でも屈指のものでしょう。ですが、本質的な問題はそこではありません」
 そこで一度、詠春は言葉を区切る。僅かに、その表情に後悔の色が浮かび上がった。
「私は、あの子には魔法や呪術とは無縁に育って欲しいと、そう願って、裏の事情については一切教えずに育ててしまいました。しかしそのせいで、あの子は魔法や呪術から身を守る術を何一つ知らないのです」
 微かに声を震わせて、詠春は己の判断に己自身で怒っているかのようだった。自分の教育方針のせいで娘を今危険に晒してしまっていることが、親として心底悔しく腹立たしいのだろう。だが、その始まりは紛れもない子を想う心、純粋な愛情だったはずだ。
「自分を責めないで下さい、詠春さん。詠春さんのしたことは、間違いなんかじゃありません」
 我が子の才能に敢えて目を瞑ってでも危険から遠ざけようとした詠春の親心は、決して間違いではないはずだ。同じようにして最初は養父に魔術から遠ざけられていた士郎には、そう思わずにはいられなかった。
「そうですよ。そのお陰で、このかちゃんもあんなにいい子に育ったんじゃないですか?」
 ヴァッシュも士郎と同様に、詠春を肯定する。木乃香についてはネギ達に人柄を伝え聞き、護衛として一度遠目に見守っただけでこう言えるのもヴァッシュらしい。
「ありがとうございます。そう言って頂けると、救われます」
 張り詰めていたもの弛めたような表情で、詠春はそのように言って頭を下げて来た。これには士郎も恐縮して頭を下げる。
 そこからは、話を本題に戻す。
「つまり、奴らの狙いは精神操作の類によって、御令嬢を魔力の増幅器として使うことだった、ということでしょうか」
「恐らくは、その通りでしょう。あの子の持ちうる魔力を用いれば、実現不可能な術式は殆ど無いでしょうからね」
 士郎が訊ねると、詠春は隠す素振りも見せずにすぐに肯定した。
 これまでの話から、天ヶ崎千草の一派が御令嬢を誘拐しようとしたのは何らかの取引の為の交渉材料としてではなく、士郎が推察したような何か別の思惑があると考えるのが当然だ。なら、近日中に再度の襲撃の可能性は極めて高い。
 そのことを伝えると、詠春は「総本山の守りは万全です。もし彼女達が次に木乃香を狙うとすれば、それはここを発つ時でしょう」と言い切った。それだけ、この総本山の防衛力に自信があるのだろう。
 近衛木乃香についての話が終わると、次は詠春がリヴィオから伝え聞いていたというヴァッシュことを中心に話をした。
「酷い事故の後はぐれてしまい長く消息不明で生死も定かでは無いと、リヴィオくんはずっと、あなたのことを案じていました。私の方でも捜索に手を尽くしていましたが、こうして無事にお会いできて何よりです」
「いやぁ、どうも。これでも、頑丈さが取り柄なもんで、この通りピンピンしてます」
 詠春からの無事を喜ぶ言葉に、ヴァッシュは少し照れくさそうに返した。
 そのついでに士郎も詠春がリヴィオと出会った経緯などを色々と聞いたが、どうやらリヴィオに関しては『魔法が絡まない部分での裏社会の人間で、不運にも魔法関連のアクシデントに巻き込まれて総本山の近くに転移して来てしまった青年』という認識のようだ。
 リヴィオも、並行世界の未来の別の惑星からやって来ました、などという荒唐無稽な事実は話していないようだ。ということは、リヴィオはヴァッシュが持っていたという“羽根”を持っていなかったのだろうか。ヴァッシュはリヴィオも多分持っているだろうと言っていたが。
 隣のヴァッシュに目をやると、「そうだったんですかー」と取り敢えず納得しているようだが、どこか腑に落ちないような表情だった。
「おや、もうこのような時間ですか。これから、東西の和睦を祝う宴会があります。ヴァッシュくんと衛宮くんも是非、参加して下さい」
「はい、勿論です!」
「お言葉に甘えさせていただきます」
 一通りの話が終わり、詠春からの宴会の誘いにヴァッシュは即座に応じた。士郎はそれを見て苦笑を浮かべてから、同じく答えた。
 ヴァッシュは賑やかで楽しい場所が大好きで、その上大食いだ。宴会と聞けば黙ってはいられまい。
「っと、そうだ。最後に一つ訊きたいんですけど」
 部屋から出る直前に、ヴァッシュは詠春を呼び止めた。
「なんですか?」
「彼女……天ヶ崎千草が、どうしてあんなことをしているのか。理由を知っていたら教えて下さい」









 宴会は盛大に行われた。
 東西和睦の成立の祝いだけでなく、御令嬢とその友人達の歓迎会も兼ねていたが、最も目立っていたのはリヴィオとヴァッシュと士郎だった。リヴィオとヴァッシュが作法も遠慮も何も無しにガツガツ食べているのを、士郎に度々注意されていたからだ。
 ノーマンズランドでは礼儀作法など糞食らえ、食卓は戦場と同じという風土だった。リヴィオも教会で璃正や綺礼と暮らしている時は極力そういうことを気にしていたが、やはり目の前に大量の、しかも美味しそうな食料が並んでいるとなると、抑えがきかなかった。
 食事について本気で士郎に怒られた時はちょっと居た堪れなかったが、その様子を見てネギたちも面白そうに笑っていたし、まぁ、いいか。
 宴会が終わって一服して、今度は風呂に入ることになった。ネギと詠春が上がるのと入れ替わりで、リヴィオはヴァッシュと士郎と一緒に風呂に入っている。
「いやぁ、天然素材の美味しい料理をお腹一杯食べて、今はこうしてゆっくりとお風呂に入る。贅沢の極みって感じだね~」
「日本じゃこういうのを、極めて楽しいと書いて極楽と言うらしいですよ」
「ちょっと違う気がするが、だいたい合ってるな」
 幸せそうな顔で呟いたヴァッシュの言葉に頷く。士郎によると少し違うらしいが、だいたい合っているようでもあるし、それでいいだろう。
 だが、本当に。食事はともかくとして、こんな風にお湯の中に身を沈めるなんてことは、ノーマンズランドにいた頃は想像もしていなかった。
 ノーマンズランドで、こういうことができるようになる日は来るのだろうか。地球連邦政府の一員になったといっても、それだけでノーマンズランドの日常が激変したわけではない。強いて言えば、新型衛星とテレビジョンの登場で情報伝達は格段に速くなったことぐらいか。それも、個人レベルではあまり実感の無いことだ。
 もしも、俺が生きている内に出来るようになったら、孤児院のみんなと入ってみたいなぁ。……無理だろうけど。
「このまま、何事も無く事が終わればいいんだけどねー……」
「そうはいかないだろうな」
 ヴァッシュの祈るような呟きに、士郎が即座に返した。
「ここのバリア――結界は、かなり優秀なものらしいですから、当てには出来ると思いますよ」
 首謀者の天ヶ崎千草は総本山の守りの堅牢さと、長である詠春の強さを良く知っているはずだ。だから、ここにいる間に手出しをして来る可能性は低いと思っていいはずだ。だが、それを聞いたヴァッシュが、うーん、と唸った。
「けどさ、こういう所のバリアって、敵に攻められるとあっさりパリーンと割れちゃうイメージがあるんだけど」
 それを聞いて、浴槽をずり落ちそうになった。
 何を言うかと思ったら、この人は……。
「それはロボットアニメのお約束だ。実際、ここの守りは大したもんだよ。人の出入りが盛んという点を除いてな」
 ヴァッシュのボケに的確なツッコミを入れてから、士郎も魔術師というだけあって総本山の守りついて触れ、高く評価していることを明かした。だが、最後に付け加えられた言葉が気になった。
「出入り口として穴が開いているということは、別の所に穴が開けられることでもある……ということですか?」
「ああ。そして、あちらには魔術関連の攻城戦の専門家もいる。油断は禁物だ」
「了解です。改めて、その旨は俺から詠春さんと神鳴流の方々に伝えます」
 士郎からの忠告を受け取って、すぐに頷く。そうだ、奴らの中にはただの殺し屋の類だけでなく“魔人”までもが紛れているのだ。万が一にも油断をしていいものではない。
 リヴィオと士郎が改めて緩んでいた警戒心を強くした、直後、ヴァッシュが湯船の真ん中で両腕を振り下ろして水面を叩き、大きな飛沫を上げた。
 どうしたのだろうと、士郎と共にヴァッシュを見る。
「んもぅ! そーゆーのは置いといてさ~。今はゆっくりしようぜ~」
 緩み切った、間抜けにも見える表情でそう言われて、つい笑ってしまった。
 確かに、気を抜いて油断することは出来ないが、気を張り詰めらせるばかりではなく、緩ませることも必要だ。
「そうだな」
「今は、ゆっくりしていましょう」
 頷いて、肩までゆったりと湯船に浸かる。
 今はゆっくり寛いで、いざという時に備えて英気を養おう。





「こんばんは」
 ネギ達が部屋で話をしていると障子が開き、挨拶と共に士郎が入って来た。
「エミヤさん、こんばんは」
 ネギが率先して挨拶を返すと、他の皆も「こんばんはー」と続いた。
「あ、衛宮さんとヴァッシュもこの部屋……なん、でしたっけ」
 この部屋に案内された時に聞かされたことを明日菜が思い出して口に出したのだが、相変わらず変な敬語になってしまっている。しかし、士郎は気にした風も見せずに頷いた。
「ああ、そうだ。それと、神楽坂、無理に敬語を使わなくてもいいぞ」
「そうですか? それじゃ、お言葉に甘えて。これからはこういう感じで」
 士郎が言うと、明日菜はあっさりと口調を普段のものに戻し、士郎もそれに気軽に応じた。
「あれ? けど、ヴァッシュさんがおらんみたいやけど?」
 言われてみれば、赤い人影が1つ足りない。木乃香からの問いに、士郎は後ろを見遣りながら答えた。
「あいつは……散歩に出ている。この部屋に来るのは君達が寝静まってからかもな」
 随分と長い散歩だと思ったが、深く追及しようとは思わなかった。
 危うく攫われそうになった木乃香を、一度ならず二度までも無事に取り返してくれたことから、ネギは士郎とヴァッシュに全幅の信頼を寄せていた。だから、疑問が浮かんでも、きっと彼らなりの理由や事情があるのだろうとすぐに自分自身で納得した。
 士郎が腰を下ろすと、木乃香が再び話しかけた。
「そや。衛宮さん、お話を聞かせてくれへん?」
「お話って……何の話を?」
「衛宮さんも、ネギくんみたいな魔法使いなんやろ? それも、世界中を旅していたっていうし。その旅のお話を聞いてみたいんやわ」
 今回の事で、木乃香に魔法の存在や裏の事情を隠し切れないと考えた詠春は、ネギ達と共に木乃香にそれらのことを全て教えていた。それに対して木乃香は、思いの他あっさりと納得して受け容れていた。明日菜が知ってしまった時は、もっと慌てふためいたり懐疑的だったりしたのだが、人によってこうも反応が違うものかとネギも驚いた。
 先程までも、今まで麻帆良で木乃香が知らない内に起こっていた魔法に関する事件について話していたところだった。その中で、士郎とヴァッシュの話題も上がっており、2人は世界中を旅している魔法関係者だと説明していたから、そこで興味を持ったのだろう。
「あ、それ、私も気になる」
「私も、興味があります」
 明日菜が木乃香に続き、刹那も同意した。
「僕も、後学の為に是非、聞かせて欲しいです」
 ネギも『立派な魔法使い』を目指す者として、現役の先輩の話には興味津々だ。
「その……出来れば、オイラに関することは伏せて欲しいっす……」
 普段の活発な姿からは掛け離れた萎縮した様子で、恐る恐る、カモミールは自分のことを話すのは避けてくれと頼んでいた。カモミールが言っているのが何の事か、ネギにも分かった。そんなに後悔しているなら、最初からやらなければ良かったのに、と思っていると、士郎が頷いた。
「分かった。それじゃあ、ウェールズでの下着泥棒騒動から話そうか」
「イヤー! エミヤの旦那ぁー!」
 士郎の迷いも躊躇いも容赦も無い言葉に、カモミールは叫び声を上げながらしがみついた。だが、士郎は笑みすら浮かべて話し始めた。
 今夜は、眠るのが遅くなりそうだ。



















 夜が更け、闇が濃くなる。
 闇夜を照らすのは、月明かりと星明かり。
 だが、何処からから流れて来た黒雲が、月を覆い隠した。
「それじゃあ、行こうか」
 ――手段を問わず、近衛木乃香を強奪せよ――
 それが、今からの仕事の内容。
 用いる手段の下限の指定が無いのと同時に、上限の指定も無い。
 本来ならば、常識や理性、道徳心や良心などの枷によって、良くも悪くも人の行動は限定される。だが、それも普通ならばの話だ。
 彼らの常識や理性は、常軌を逸している。
 彼らに、道徳心や良心と呼べるものは無い。
 闇が、辺りを覆う。
 光の届かぬ所を際限なく、闇が呑み込んでいく。


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