※千雨ファンの方々には不愉快な表現があります。第2章の内容は『千雨パワーアップする話』ですので、不愉快な思いをしたくない方はスルーされる事を推奨します 第2話 もう何がなんだか分からない ※不愉快な表現あり ――修行は順調に進んでいった。プラスαで色々と習得することができた。非常に有意義な日々だった―― 千雨は日記にそう書く。というかそうとしか書かなかった……あんなもん記録に残しておけるか! とソウルジェムが濁りそうな呪詛を吐きながら日々修行に邁進していった。「畜生、いつか殺してやる」 これが完全に口癖として定着してしまい、両親が心配してやたらと「大丈夫か? 何か嫌な事でもあるのか?」と話しかけてくるようになる始末。千雨としては「大丈夫だよ」と言って誤魔化すしかなかった……もし道場に抗議に行って、出てきたのが雷電と卍丸だったら卒倒しかねない。 修行は基礎体力造りからから始まり、体術、槍術とステップアップしていく。千雨は最初から魔法で身体強化しておいたので、習得は思ったよりもスムーズに進んだ。特に槍術は蛇轍槍という伸縮自在の槍を使っているので、千雨自身の戦い方に応用し易かったのは幸いだ。『槍を回転させて竜巻を起こせ』と言われたときは「馬鹿かお前は」と言いそうになったが、無事に渦流天樓嵐もマスターする事ができた。「本当に、こいつはまどかの思し召しだぜ」この時はそう思っていた……この時までは。 ある程度経ってくると、伊達師範不在の時が出てきて、代わりに部下の三人に教えてもらう事が多くなった。その部下を簡単に説明すると『美形、ハゲ、一寸エキセントリックなタトゥーのオヤジ』である。「なあ飛燕師範代、伊達師範はなんで最近留守が多いんだ?」 千雨は少し気になったので美形(飛燕)に尋ねてみると「ええ、本業の方が忙しくなってますので」 飛燕は千雨からの質問に何も隠さずに答えた。 「本業?」「はい、ウチのシマにちょっかいを出してきた組がいましたので」「……」 逃げよう、さっさと技を習得して逃げよう――千雨は思った――暁美ほむらじゃあるまいし、こんなヤヴァい所から早くフェードアウトしないと 入門→交流→盃→バッチ のアウトローまっしぐらコースになるかもしれない。千雨は今まで以上に修行に力をいれ、打ち身と筋肉痛に耐える日々が続いた。その結果、雷電からは大往生流と武術の知識、飛燕からは鳥人拳と手芸、月光からは辵家流とゴルフをマスターしていき、そろそろ卒業しようと思っていた時、道場に来客が。「フフ、如何したのですかJ、あなたが来るなんて珍しい」「いや、伊達の所に面白い奴がいると聞いてな。一丁揉んでやろかと」 千雨の前にはTVで何回か見た事のある、アメリカのVIPが立っていた……コイツも半裸で。「女子を揉むなんてセクハラだぜ……」 流石に千雨のツッコミにも力が無い。「しかし貴方が此処にいると、アメリカが戦争になった時に危ないのでは?」「問題ない。何かあったらICBMをブチ込めと指示してある」 「おかしくね!優先順位がおかしくね!!そんなの絶対おかしいよ!!」 結果、当然の如くボクシングも練習する事となる。千雨も熱心に練習した……主に世界平和の為に。 「もっと腰を入れて撃て!そんなんじゃあヘビー級チャンプにはなれんぞ」「いやいやいやアタシはストロー級ですから!アトム級(女子最軽量)ですから!一生アトム級だっつうの!!」 千雨は少し見得をはった。 ここまで来たら千雨にも今後の展開が読める。このままだと変人師匠がエンドレスに現われ、変態技を教えられる。だから早く習得して此処からフェードアウトしなくてはならない!『こんなのアタシが許さねえ!!』千雨は自分を奮い立たせようと心の中で叫ぶ――結果、彼女の予想は半分当たった……「飛燕、邪魔するぞ」 警察官が遭遇すれば、職務質問か目線を逸らすかの二択だろう怪しい4人組が現われたのは、ジェット・ソニック・マッハ・パンチをなんとか習得できた直後だった。「フフ、死天王の方まで来るとは、千雨は可愛がられていますね」「どう考えても角界レベルの可愛がりじゃねえか! 飛燕テメエ、判ってて言ってんだろう!」 千雨は師匠にタメ口になる迄やさぐれていた。「まあ落ち着きなさい千雨。確かに今は絶望的な状況かもしれませんが、禍福は糾える縄の如く、何時か貴方に希望が訪れる日が来るでしょう。それで差引きゼロになりますよ」「誰が言った!? 何時言った!? 何時何分何秒に言ったーー!!」 重要な事なのでもう一度言わせてもらうが、彼女はかなりやさぐれていた。それでも修行を続けていったのは、自分が強くなっていくのがはっきりと自覚できたからだ。今ならば使い魔位は徒手空拳で倒せる。魔女にだってダメージを与えられるだろう。まあその成長の結果、修行内容が技の習得から実戦組み手に移っていったのは想定外だった。 一度手製の爆弾が見つかった時には「流石だな千雨『爆挺殺』を習得する為に態々爆弾まで作るとは」といわれ爆弾を身体に括り付けられそうになり……その後、泣く泣く爆弾を処分する羽目となる。『あんたは自業自得なだけでしょう』 どこからか聞こえた声に、千雨は何も言い返せなかった。 小学校六年生の夏には魍魎拳、戮家、鞏家、愾塵流とマスターしていき、千雨自身も貪欲に覚えていった。「だが毒手、テメエはダメだ」 死天王筆頭の、少し落ち込む姿が目撃されるようになったとか。 また千雨の方も、自分なりに技や奥義を編み出すようになっていく……その元となるアイディアが両親の蔵書であった事が、後にカオスな状況を作り出す原因になると気付く者はいなかった。 夏休みが始まったある日、千雨の師匠達が集まり、今後の方針について話し合っていた。「千雨もそろそろ死合に挑んでもいい頃合だな」「試合で充分です」「そういえば今週末、喊烈武道大会が開かれるそうで」「聞けよ!」「……参加者は百人と聞いていますので、丁度良いかと」「何がだよ!」「では卍丸よ、仔細任せたぞ」「承知した」「畜生、いつか殺してやる」「フフフ、長谷川千雨よ、その気概やよし」「テメー聞こえてんじゃねえかーー!」 長谷川千雨に訪れた最後の試練は、本人の了承無く始まる事となる。 週末、千雨と卍丸は喊烈武道大会の会場で、周りを見渡していた。「どうだ千雨、勝てそうか?」「何か(1対1なら)チョロそうじゃん。瞬殺っしょ」「そうか(まとめて)瞬殺とな」 ガリガリくんを食いながら千雨は何も考えず返答し、卍丸は弟子の成長に感慨深く頷きながら今後の予定について話し合った。「で?何処で参加登録するんだよ?」「登録なぞせん。先ずは千雨よ、この茶を飲め」「……ああ」ガリガリくんを咥えたまま千雨は身構えた。 千雨は今までの経験から『何かヤバそうな雰囲気』を察していたのだが、そこは敵もさる者、長年の付き合いから『茶を飲め』と食い物であるかのように言えば、拒否出来ぬと踏んでいた。事実、不承不承ながらも千雨はその液体を飲み干し「で?」と尋ねた。「それには遅効性の毒が入っている。当然致死量だ」「……なにがどう当然なのか理解できねえんだが……」千雨はガリガリくんを胃に流し込み、バーを投げ捨てながら呟いた。「そして解毒剤を手に入れるには、あそこにいる百人を倒すことが条件となる」「……」 何とか状況を飲み込んだ千雨は、眼鏡越しに殺気がジリジリと滲み出る眼を卍丸に向け、生命に関わる説明を聞いていた。「これぞ魍魎拳における最終課題『百人毒凶』心して挑めよ」「……確か百人毒凶って……十人十組ごとに解毒剤が与えられるんじゃなかったっけ?」 尋問するような千雨の質問に、卍丸は目線を合わさずに「ああ、それはめんd……諸事情によって省略する」 嗚呼、憎しみで人が殺せるなら……今、千雨の心を占めているのは純粋な殺意だった。それを知ってか知らずか卍丸は飄々と逃げ道を塞ぐように言った。「それと俺は解毒剤を持っていない。俺を倒しても無駄だぞ」「…………ちっ」 退路を断たれた。その事を理解した千雨は、この理不尽な扱いに対する『憤り』をぶつけるべき『獲物』を睨み付け、憂さを晴らす覚悟を決めた。「説明は以上だ。急がねば毒が全身に回るぞ」「言われなくても!!」 そう叫びながら千雨は武道家達の集団に飛び込み、雑魚を片付ける為とっておきの大技をぶち込んだ。「長谷川流魔体術奥義!幻瞑分身剥ジェット・ソニック・マッハ・パンチ!!」 この長谷川千雨、ノリノリである。遠くからこの様子を見ていた雷電(解毒剤所有)は唸りながら「うぬう……しかしまさか、本当に《長谷川流魔体術》と命名するとは……マジうける」 その後、千雨は無事『拳聖』の称号を手に入れたのだが、この日の事を思い出す度に恥かしさで身悶えるようになる。 「それでは!長谷川千雨 拳聖襲名を祝して…………カンパーイ!!」 その日の夜、虎丸龍次の音頭で皆が祝杯をあげる。道場は『長谷川千雨 拳聖おめでとう祝賀会』の会場となり関係者一同が集まっていた。全員が酒を浴びるように飲む中、小学生の千雨は流石にジュースを飲んでいる……スルメをしゃぶりながらだが……こっそり毒見をした事は内緒であるが。 千雨にしてみれば酒を飲む口実にされたのだが、そう悪い気分ではない。自分の努力が評価されたのは嬉しいし、死の恐怖を克服し、全力全壊で大暴れ出来た事により所謂『サイコーにハイ』な状態になっていたのだ。「なに~!桃太郎が来てないだと!! 折角虎丸とコンビで『丸・丸・桃・桃』歌わせる予定が……じゃ卍丸で『丸・丸・丸・丸』で逝けやー!!」「……おい誰だ、千雨に酒飲ませたのは?」 「どうやら千雨が毒見で色々やっている隙に、ゴバルスキーの奴が持ち込んできたスピリタスを……」「……まあ折角の吉日だし大目にみて……」「よし虎丸、お前トウと組め! これで『タイガー&ヘビー』だヒャヒャヒャー!! 虎丸~お前が『攻め』だぞ!」「…………」 中々カオスな空間になってきたと思ったら、ついに最強のトラブルメーカーが動き始めた。「よーし長谷川千雨よ、折角だから貴様に猛虎流奥義を授けよう!」「は!虎丸師匠! 謹んでお受けいたしま~す」「おいばかやめろ」「行くぞ!猛虎流……」「ギャハハ!虎丸くせ~ぞ!!」「おめ~のもナニ食ってんだよ。それじゃあいくぞ!!猛虎流奥義!!……」 流石に放置できるレベルではなくなった為「影慶、頼んだぞ」「……任せろ」 影慶はヨッパライどもの前に立つと、手に巻いていた包帯を解きながら回転させた。「愾慄流――眩蜻蛉」「ん?なんだ~影慶 そんな技に、この私がかk……zzz」「流石は影慶、死天王最強の男よ……」 釈然としない表情で、影慶はその賞賛を聞いていた。 翌朝目を覚ました千雨が見たものは、皆の生暖かい視線だった。「おはよう、猛虎流師範代」「昨日はお疲れ様。猛虎流師範代」「猛虎流師範代(藁)」「イヤーーー!!」 全てを思い出した千雨は、激しい頭痛を物ともせず絶叫した。暫くは頭痛と羞恥心でのた打ち回っていたが、やがて精も根も尽き果て、力なく笑いながら呟いた。「もう何も怖くねえ……」 少しづつ頭がKOOLになってきた千雨は『どうやったら全員の口封じが出来るか?』を考え始める。そして色々とヤヴァい方法しか思いつかなくなった頃「千雨、話がある」 伊達師範が真剣な表情で話しかけてきた。呼ばれて道場の方に行ってみると、全員が整列して待っていた。 何人かはニヤニヤしていたり、必死に笑いを堪えていたので、その連中を『いつかぶっ○すリスト』に加えながら全員の真ん中に正座した。 千雨の心中を察したのか、頬を弛ませながら伊達は爆弾発言をかました。「千雨よ、俺達は此処を離れる事にした」 突然の宣告に、千雨の頭は真っ白になる。その発言の意味が少しづつ染込んできた位に、伊達は話しを続けた。「元々この道場は半分暇つぶしのつもりだった。そこに千雨、お前がやってきた」 伊達は千雨と始めて会った時を思い出して話す。「正直一日持たんだろうと思っていたのだが、お前は俺の想像を超えて成長していった。そうなると色々と欲が出てくるものだ」 伊達は周りを見渡してから満足げに言った。「お前が何処まで強くなれるか見てみたい、とな」 女に言う台詞じゃねえよな、と思いつつ千雨は続きを聞いていた。「此処にいる沢山の戦士から技や教えを受け、結果的には百人毒凶を最年少、最短記録で達成した。」 そりゃ不意打ちで半分を文字道理『吹っ飛ばした』んだから最短記録にはなるだろうよ……「見事だ長谷川千雨、もう教える事はない。これからは長谷川流魔体術の創始者として精進するように」 すげえ……こんな名前よく堂々と言えたもんだ。すげえぞ私……ん? 千雨はふと疑問に思った事を聞いた。「一寸待ってくれ伊達師範、それだけだと『私が卒業』という意味は判るが『皆が居なくなる』理由が判らない」 千雨の質問に『ああ、そんな事か』という表情で答えた。「前々から続いていた抗争にキリがついたのでな、本拠地をアチラのシマに移す事にした。剣にも頼んでいたので後処理がすんなり終わってしまったんだよ」 「総理大臣ナニやってんだ……」千雨は頭を抱えた。 その日の内にトラックがやって来て、荷物をどんどん積み込み、夕方には出発の運びとなった。 伊達からは餞別代りに蛇轍槍をもらった。千雨は少し涙腺が緩みそうになったが、表情筋を総動員して笑顔で「師匠、お世話になりました」と深々とお辞儀をする。その時に雨粒のようなものが落ちたのだが誰も何も言わずにいた。 そのまま伊達は「じゃあな達者でな」とだけ言い、他の連中も一言二言挨拶をかわし出発していく。最後に残ったのは虎丸、田沢、松尾、極小路の四人――彼等は今まで通り会社を経営する為、住所は変わらないらしい。極小路とはパソコンを融通してもらう約束なので、丁寧に挨拶して別れた。残りの3人は一緒に帰るらしく、色々と最後まで喋りこむ。「虎丸、何かあったら金貸せよ」 とても小学生らしくない台詞を吐く千雨。「何言ってやがる、担保がなきゃあ駄目だっつーの」「担保は……テメエの命だよ」 千雨の地を這うような声を聞いた松尾は「やばいぞ虎丸、ありゃマジでヤる気じゃあ……」「な、何ビビッてやがる。カ、カカ……」 一寸脅し過ぎかな、と思った千雨は、迎えの車に乗った3人に拳を突き出した。三人も同じく拳を突き出し ゴツン ゴツン と挨拶をかわす。最後に千雨は虎丸に色々言いたいことがあったが無難に「じゃあな、元気でな」と言った。虎丸の「お前の方こそ身体に気をつけろよ。あんなくせ……」という返事に、マッハパンチをぶちかましたとしても誰が千雨を責められるだろう。 全員を見送った千雨はため息を吐きながらこの二年を振り返った。「まさに嵐のような連中だったな……思い出したくねえ事が多すぎだぜ」 そういう千雨の表情は微かに綻んでいた……彼女は否定するだろうが。 その証拠に修行によって彼女のソウルジェムは一切濁らなかった。彼女自身、暫くは認めなかったが、ずっと独りで戦ってきた佐倉杏子にとって『集団でバカをやる』という騒がしい日々は、心の何処かで夢見ていたものだった。 後日この3年間を『かけがえの無い3年間』と供述している。事実この二年間が無かったら、この後の絶望に押し潰されていただろうと。「さて、そろそろ魔女か魔獣か知らないが、狩りを始めないとな……」 そう、この世界には魔女も魔獣も存在しない事、それでいて怪異は存在するという事に……※魁!!男塾の後日談としては複数の説を参考にしました。ご了承ください。先の注意事項の内容を理解して尚、精神的苦痛を感じた方は、申し訳ないですが次の言葉を胸に刻み強く生きて下さい。「認識の相違から生じた(ry」※すっかり忘れていた事実に対する言い訳『ゴバルスキーが本当に死んでいると、何時から錯覚し(ry』