春日を珈琲塗れにした直後、千雨は学園長から呼び出された。理事長室をノックし、入室した千雨の目に入ったのは、昨日神楽坂にアイアンクローを喰らっていた子供だった。「昨日は課外活動でおらんかったから初対面じゃろうが、この子が2-Aの新しい担任、教育実習生のネギ君じゃ」 学園長から紹介され、そのネギという子供がお辞儀をする。「はじめまして! ネギ=スプリングフィールドといいます」 第16話 『触れ得ざる者』 嗚呼、まさにその名の如くに 満面の笑みを浮かべて此方を見ているネギに、千雨は気圧された。内から溢れ出す膨大な魔力と、汚れを知らないようでいて、その奥に潜む炎――全てを焼き尽くす白炎の如く、永久にその身を焦がす黒炎の如く――チリチリとした熱気すら感じ取ってしまった為だ。とはいえ、こんな子供にビビったとあっては長谷川千雨の名が廃る。「長谷川千雨です。こちらこそ宜しく御願いします、スプリングフィールド先生」「ネギでいいですよ長谷川さん」 教師とはいえ、年長者への敬意は忘れない、千雨はそういう態度に好感を持つ。プラス3Pといった処か……「ネギ先生はどちらのご出身で?」「イングランドのウェールズです」……マイナス10Pだな、千雨は心の中で呟く。第一ブリテン出身って事は、存在自体が食い物に対する冒涜だ!! それを顔に出さず、千雨は続ける。「そうですか、それでしたらウチのクラスの英語はもう安泰ですね」 そう賞賛されたネギは照れ臭そうに頭をかいた。それに合わせたかのように学園長が追加説明を入れる。「長谷川君はのう、課外授業としてボランティアに励む傍ら、《こちら側》の仕事も手伝ってもらっておる。ネギ君も何か判らん事があったら、彼女を頼るといい」 学園長は千雨に対しての包囲網を、着実に形成している。千雨の方からも、学園長の『このガキとブチュっとさせよう』という気配は、ひしひしと感じ取れる。千雨はその事に反論しようにも、ネギという存在が出てきたショックが、まだ抜け切れず頭が働かない。絶対大丈夫だと思って切った牌(仮契約3条件)が直撃だったのだから仕方ない、しかも・リーチ (社会人)・平和 (膨大な魔力)・一発 (年下) これらに加え・裏ドラ (学園長のしたり顔) も加算され、もう満貫直撃のようなものだった。千雨としては、この卑劣(?)な罠から逃げ出そうと、色々と思案を浮かべているが、どうにも良い考えが出てこない。 そのように悩んでいる事も知らず、ネギは千雨に尊敬の眼差しを送る。どうやら千雨の事を『なんでもこなす凄い人』に見えたのだろう。褒めろ崇めろ、と心の中で呟きながら建前的に謙遜する。「いえ、微力ではありますが、誰かの助けになれればと……」 ドヤ顔で言放ったので説得力が無い。学園長は噴出しそうになり、横にいるしずな先生に到っては顔を横に伏せ、肩を震わしている。『微力じゃなくて腕力だろうが』と言いいだげに。「そんな事ありません!そういう行いの一つ一つが、結果的に世界を変えていくんだと思います。僕は長谷川さんの事を凄く尊敬します!」 ネギの瞳の輝きは、流石の千雨でも後ろめたくなる程だった。まるで金森二等導術兵と有った新城直衛のように……もう頃合かと学園長は判断し「それでは二人とも、そろそろHRの始まる時間じゃぞ」 そう言い教室に向かうよう促すが、そうはさせじと千雨が言葉を続ける。「そうですね、私は学園長と少し《お話し》がありますので、先に教室の方に戻られたらいかがですか?」 そう言いつつ学園長の方 ギラリ と睨む。『逃げんじゃねえぞ』と言わんばかりに。 その言葉を受け入れて、ネギはペコリとお辞儀して理事長室を後にする。其れに続いてしずな先生も退出するや否や「おいジジイ、アレはどういうこった!?」 そう言った千雨は、ドスン と学園長の机に腰掛けてガンを飛ばす。「どういうこった、と言われてものう……」 言葉を濁す学園長に、千雨は鋭く追及する。「じゃあ簡潔に聞こうか? あのガキが『ああなのは』あんた等の差し金か?」 ネギの真っ直ぐなようでいて、歪な心根はテメエ等の仕業か? 答え次第じゃあ只じゃおかねえぞ、と目が語る。それを見た学園長は観念し、事情を話す。「その答えには『否』と言っておこう。あの子は、生まれながらに重い宿命を背負っておるんじゃ……」 そう言って学園長はネギの父親について説明し、その因果により彼の村が襲撃を受けた事も話した。それがトラウマとなり、彼の深層心理に『闇』が生まれたのだろう。おまけに詳しい事は言わなかったが、血縁的に彼にしか処理出来ない問題もあるらしい……結論を言えば、彼(ネギ)に逃げ場はなかった。 千雨の顔から表情が消えた。かなり激怒しているのが判る。とりあえずその首謀者を《何時かぶっ殺すリスト》の最上位――虎丸や超よりも上――に書き込みながら問いかける。「……で、被害はどの位に?」「助かったのは、彼を含めて3人だけじゃった……」 ゾワリ と体感温度が1℃下がったように学園長は感じた。逆に千雨の体温は1℃上昇したが……「……で、あんた等は其れを指を咥えて見てたって訳か?」 千雨の瞳孔が開いていき、重心がやや前のめりになる。それを察しながらも、学園長は言放つ「そうじゃ。下らぬ『大人の事情』という奴でのう……」 ギシリ 千雨の歯軋りが学園長にも聞こえた。千雨はその場で深呼吸を二回して、心を落ち着かせ、話しの続きを聞く態度を示した。 正直千雨は『大人の事情』で納得出来る程大人ではないが、『大人の事情』の厄介さが理解出来ない程子供でもなかった。そして学園長の言う事情を知ると不承不承ながらも事態を理解する……あくまで『納得』でも『許容』でもなく『理解』の範囲であるが……「……成る程、『英雄の息子』であるからこそ『幼いガキを自分達に有利なように洗脳している』と言わせない程度しか、接触出来なかった、という事か……」 千雨の想像に学園長は頷き「うむ、故に父親の生まれ故郷で育て、何処も干渉しない。というのが暗黙の了解だったのじゃが……何もかもぶち壊しにするような輩は、思ったよりも沢山いたようじゃ……」 千雨の方を見ながら、学園長は答える。千雨は少しムカつきながらも推理を続ける。「暗黙の了解がご破算になった以上、接触も干渉も遠慮なしか……とはいえ中学の先生ってのは、やり過ぎじゃねえのか?」「こういうのはのう、建前さえあれば、後はどうにでもなるんじゃ」 学園長は、教育者としてはかなりの暴言を吐く。ネギ先生の境遇に怒り心頭だったのか、その顔に後悔の念は浮かんでいない。「じゃが、ネギ君にはそう時間は残されてはおらん。おそらく近い内に争いに巻き込まれる事になるじゃろう。なのでネギ君には速やかに『一人前』になってもらわねばならん。その為に如何なる損害も許容するつもりじゃ……だから長谷川君にも、彼を助けてもらいたいんじゃが……」 そう締めくくる学園長の言葉に、千雨は眉を顰める。自分が『ネギ先生』にかなり感情移入している事を実感した為だ。おそらく学園長はそうなるよう詳しく話をしたのだろう……この狸め……ってえ事は木乃香がコッチに来たのも、ネギ先生と合流させる為だったと考えられる。《こちら側》に関わらせない、というのも関西の連中へのプラフだったって事か……「その《損害》って奴に、アタシは内定済みって訳か?」 その言葉に顔色一つ変えず「うむ、君で終わってくれれば万々歳じゃ」 学園長はこう言放つ。ここまではっきり言われると、逆に気持ちが良い。千雨は大笑いしつつ放言する。「あのガキの立場は理解した。見棄てる気はさらさらねえ」 そう言いながらも千雨は吐き捨てるように言葉を続ける。「かといって命を捨てるつもりは微塵もねえし、清純な乙女の口唇を捧げるつもりもねえ! 」 それは彼女の迷いの吐露であった。そして思い出したようにある疑問を口にする。「そういやエヴァの様子がおかしいんだが、ネギ先生が原因なのか?」「そうとも言えるが、正確にはネギ君の父親……ナギが原因じゃ。エヴァを封印したのはナギの奴だからのう……」「……ってえ事は、エヴァの奴がネギ先生にリベンジかます可能性が……」「無きにしも在らず、と言った処かのう……」 だからそれをどうするんだよ! と千雨は言いそうになる。学園長の魂胆は『このままじゃあネギ君がエヴァに倒されてしまうかも……誰か助けてやってくれんかのう……(ちらっ』という事だろう。重ね重ねうっとうしい…… 千雨は理事長室を後にし、自分の教室へ戻った。授業はもうすでに始まっており、英語の教鞭を取っていたネギ先生と目が合う。 ニコリ と微笑むネギ先生の顔からは、過酷な人生を伺うことは出来ない。それが逆に千雨の心を揺らす。こいつは桜咲よりも厄介だと。 桜咲の方が外傷だとすると、ネギ先生のは悪性のガンのようだ。知らぬ間に全身を蝕んでいく。だが助けるだけの価値はあるのか? コイツにはアタシが命を捨てるだけの価値があるのか? ――千雨の葛藤は続く事になる。 放課後、エヴァンジェリンに声を掛けようとした千雨の耳に、クラスメイトのざわめきが聞こえてきた。どうやらネギ先生が追いかけ廻されているようだ。しかも仄かに魔法の匂いすら漂っている。「エヴァ、一体何が起こったんだ?」 千雨の問いにエヴァンジェリンはかったるそうに答える。「自分で作ったほれ薬を飲んだらしい、どうやら神楽坂がタカミチ用に要望したみたいだ」「バカな事を……高畑先生にだったら、ホレ薬より胃薬の方が効果あっただろうに……」 胃粘膜の最大の敵がいけしゃあしゃあと言放つ。そして何かに気付きエヴァンジェリンに聞く。「……それって、ネギ先生の事がもうバレたってことか?」「そうかオマエは知らんかったな。神楽坂には昨日速攻でバレたぞ」「オイオイ……ってえ事は、オコジョ確定?」「というか、ほれ薬作成だけでも充分オコジョの刑だ」 千雨は頭を抱えた。それを見ていたエヴァンジェリンは「随分と御執心だな、将来のパートナーとして意識しているのか?」 からかい半分、探り半分でエヴァンジェリンが聞いてくる。「そういうテメエこそ、サカった目で睨んでんぞ。『不殺』と性癖は別腹ってか?」「馬鹿を言うな。アレは只の捕食対象に過ぎん……私の復活の為のな」 エヴァンジェリンはそう断言する。『オマエはどうする?』という目での問いかけに、千雨は「わかんね。助けてはやりたいが、命を懸ける程かどうかは……ねぇ……ジジイはさせる気満々だがな」「そりゃそうだ、オマエの戦闘力はこの私ですら、前衛として欲しい位だ。復活できたら真っ先に吸血鬼化してやるぞ……永遠の僕としてな」 エヴァンジェリンとしては最大限の評価に、千雨は顔を歪めつつ「僕って……変身して地を駆ければいいのか?」「どちらかと言えば海を征け、の方だ」 げえっ と千雨は呟き反論する。「っていうか、アタシのような子供に手を出す気か?」 その問いをエヴァンジェリンは鼻で嗤う。「おい長谷川、何故私が女子供を殺めないか分かるか?」 千雨は少し考えて答える。「……弱いから、か?」「違う。自分の運命さだめを自分で選択出来ないからだ。昔、その二者は男の道具扱いだったからな。そういう意味では、今は通用しない考えなんだが……骨身に染み付いた信条は、そう簡単には取れやせぬ。という訳だから、あれだけの力と覚悟を見せつけたオマエは、既に控除対象外だ」 その言葉に千雨は反論できない。買う必要のない喧嘩を、命を対価に買ったのだから。「そういう意味では、あのガキは不殺対象内なんだがなぁ……親の因果が子に報い、って事で泣いてもらう」 その言葉を、千雨は沈痛な顔で受け止めた。ぽちゃーーーん クラスの大部分が集合した大浴場、湯気が天井から滴り落ちる中、千雨達の眼前では、パルと雪広がおっぱい談義に華を咲かせていた。 「…………いるな、ネギ先生」「ああ、神楽坂が連れ込んだようだ」 千雨とエヴァンジェリンは大浴場の隅で確認し合う。その様子が目に止まったのか、パルがおっぱい談義に参加させようと話を振ってくる。「おお、千雨ちゃんもその母性の象徴を……あれ、86cmにしては小さくない?」 パルの暴言を気にもせず、千雨は反論する。「……胸から痩せる体質だからな、こればっかりはしょうがないよ」 身体測定前日に、千雨が貴重な魔力を使って『何を』したのか知っているエヴァンジェリンは、只々ニヤニヤしていた。『意地があるんだよ!女の子にはなぁ!!』 という千雨の弁明を思い出したようだ。「へえ……千雨ちゃんもダイエットしているとか?」 折角の機会だから『千雨ちゃんがどうやってその体型を維持しているのか?』聞き出そうと、朝倉が質問したが「ダイエット? そんなもんした事無えぞ、普通、甘いものと麺類とスナック菓子は別腹なんだろ?」ぽちゃーーーーん いつの間にか喧騒は消え、水滴の滴る音だけが響いた。暫くすると皆の目に『嫉妬の炎』が宿る。あの龍宮でさえ、その瞳に一瞬殺意が芽生えた位だ。「ちょっと! 千雨ちゃん、どうやったらそんなんでプロポーションが維持出来るのよ!!」 岩影に隠れていた神楽坂がネギ先生を抱えたまま出て来た。馬鹿だ、こいつ……千雨は心の中で呟く。 その後神楽坂は、ネギ先生を巡り雪広と言い争っていたが、やがておっぱいが膨らんでいきPAM! と破裂した。「知らなかったぜ……おっぱいって気合で大きくなれるんだな……」「目を背けるな。アレはあのガキの仕業だ」「……下手に《仮契約》してたら、今日アタシがああなっていたのかな?」 エヴァンジェリンは敢えて答えなかった。 数日後、2-Aが上級生と一触即発になる中、千雨は虚ろな目で質問する。「なあ、ネギ先生が公衆の面前で魔法使ったの、これで何回目だ?」「まだ五日しかたっていないが、答えは『数え切れない位』だ」 勢いに任せ、ドッジボールで勝負が繰り広げられる中、エヴァンジェリンは律儀に答え、ストレス発散にと提案する。「オマエは参加しないのか?いい憂さ晴らしになるぞ」「いや、アタシが知っているドッジボールとはルールが違うみたいなんで、チョッと戸惑うわ」 千雨の回答に興味が湧いたエヴァンジェリンが問う。「……因みに、オマエの知っているドッジボールってのは、どういうモノなんだ?」「確か……先ず最初に、全員が遅効性の毒を飲んで……」「判った。それ以上は言わなくていい」 エヴァンジェリンは聞いた事を後悔した。 眼前の死闘は、2-Aが不利な状況になっていったが、千雨はそれ所ではない。『ワザとか? ワザとなんだろ!?』と言いたくなる位自由奔放なネギ先生の振る舞いに、胃がキリキリと痛むからだ。「理不尽だ……なんでアタシがこんな心境に……」『そういえば、この前タカミチも似たような事言ってたな……』エヴァンジェリンは千雨の慟哭を聞いてそう思った。そして千雨にトドメを刺すように「で? 本気であのガキと《仮契約》する気か?」「流石にチョッと考えるわ……逆に聞くが、エヴァはネギ先生のみ狙うのか?」「そうだ……と言いたい処だが、あのガキを襲うには未だ力が足りん。何人かの血を吸い、力を蓄える必要がある……」 嘘をついても仕方が無いと、エヴァンジェリンは正直に話す。「だったらやっぱり、ウチの大会に出て稼げばいいじゃんか」「中学生の下着で興奮するような奴の血なんぞ、誰が飲むか!」 よく見るとエヴァンジェリンの腕に、うっすらとチキンスキンが出ていた。考えてみればアタシでも生理的にムリだ。「……吸われた方は大丈夫なのか?」「無関係な奴を地獄に引き摺り込む程、外道ではない。これだけは私の《銘》にかけて誓おう」 その言葉に千雨は安堵したが、まだ安心できないと追及する。「本当か? テメエ自身がヤヴァい菌持ってねえだろうな?……例えばマラリヤとか日本脳炎とか?」「……キサマとはもう一回、《コイツ》で話を付けんといかんようだな……」 エヴァンジェリンは拳をプルプルさせながら答える。数分後、気を取り直したエヴァンジェリンが言放つ。「まあ誰が何と言おうと、きっちり採血はさせてもらうぞ。どうせ無駄に垂れ流すだけなんだから、私が吸っても問題あるまい」「シモネタかよ!」 千雨がそうツッコんでいる内に、2-Aが逆転し一件落着かと思いきや、ネギ先生のクシャミでまた脱げた。「……なあ、ネギ先生が公衆の面前で女をマッパにしたの、これで何回目だ?」「まだ五日しかたっていないが……答えは『書類送検では済まない位』だ」「もしアタシが《仮契約》したら……あんな日々が待っているのか?」 矢張りエヴァンジェリンは、答えようとはしない。 千雨が『あのガキと関わるのはやめよう……』そう考えた瞬間であった. 逃げるように千雨は自室に篭り、世の中の理不尽をネット越しに訴えていた。クラスのみんなにも内緒にしている、コスプレUP用ブログで、鬱憤をぶちまける。『Death子の新しい担任、なーんかイケテないってゆーかー、ちょっとuzeeeeかも?』 千雨が立ち上げたブログ《Death子の部屋》通称デスブログには、様々な意見――大体は賛同だが――が寄せられた。――Death子タン大変だね~――ウリもDeath子タンのクラスメイトになりたいニダ――Death子チャン気を付けないと、モット酷い事になるかもネ 色々な人に気にかけてもらい、千雨は何と無く調子に乗っていく……なんか心に引っ掛かるモノがあったのだが…… 勢いに乗り、特別なイベント用に取っておいたコスプレ写真をどんどんアップし、千雨のテンションもどんどん上がっていく。「フフフ……褒めろ褒めろアタシの美貌を、アタシを崇めよーー!!」「へーー、長谷川さん凄く綺麗ですね」「…………」 マックスまで上がったテンションに、冷や水をぶっ掛けられた千雨は、声のした方向を見る。そこには、パソコンの画面を食い入るように覗き込んでいるネギ先生がいた。「……ネギ先生どうして?」「これがコスプレというモノですか? あっ! この服装、昨日アニメで見ましたよ」 聞けよテメエ 千雨はそう思わす口にしそうになる。それを何とか抑えて再度問う。「ネギ先生、どうしてこの部屋に?」「それは、今日の長谷川さんは余り元気がなさそうでしたので、気になりまして……」 千雨はドアの方に目を向ける。間違いなく鍵を掛けた筈だったのだが……どうやら魔法で開錠したようだ……犯罪だよな、それ? 色々と吹っ切れてきた千雨は、この状況を打破しようと動き出す。「ネギ先生、ちょっと目を瞑って頂けますか?」「え? どうしてですか」「いいから……」 ちょっとドスの聞いた声に怯みつつ、ネギは黙って目を瞑った。フシューーウ 千雨は呼吸を整え、静かに構え……そして撃つ「記憶を失えーーーっ!! 無空掌!!」くしゅん だが丁度その時、ネギがたまたまクシャミをしたせいで、千雨の攻撃は当たらず、ネギの頭上を通り抜けた……おまけに魔力の暴走で、千雨のスカートも消滅する。ビシッ!! 思わず振り返ったネギの目には、千雨の掌撃で粉砕された壁が写る。「えええ!なにが?」「テメエ避けんじゃねえ! 壁が壊れちまったじゃねえか! おまけにアタシまでマッパにしやがって、このエロ餓鬼がぁーー!!」「そそそそんなーー! 避けないと死んじゃいます!!」「うるせーーー! 問答無用!!」「聞いたのは長谷川さんじゃないですかーー!」 完全に逆上した千雨は、這々の態で部屋から脱出したネギを『壁をぶち破って』追いかける。『また千雨ちゃんがキレたか?』とクラスのみんなが通路に顔を出すと、追われていたのがネギ先生だったからさあ大変「千雨ちゃん落ち着いてーー! 気持ちは判るけど!」 そう言ったのは神楽坂。流石に脱がされ慣れている為、状況は直ぐに理解できたようだ。「オオ、こんなに闘志溢れる千雨チャンは初めて見るネ!」 古菲はそう言いつつ、迎撃の為に構える。「は~せ~が~わ~さん!! よくもネギ先生を!!」 全身から闘気をゴゴゴ と溢れさせた雪広あやかが、ネギ先生を庇いながらやってくる。完全に精神が肉体を凌駕した状態で、千雨に勝負を挑む。本来なら勝目など無いのだが、ネギ先生に対する《愛》が奇跡を起こす。スパロボ的に言えば気力250 《熱血》《必中》《鉄壁》に加え《明鏡止水》に《トランザム》すら発動した状態となったのだ。おまけに『引かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!』な精神状態の為『踏み込みが足らぬ!』にはなりそうもない。加えて古菲・神楽坂もコレに参戦してしまったので、流石の千雨も押されっぱなしとなり、後に《第二次スーパー逸般人大戦》と言われる大乱闘となっていった――後に千雨はこう供述する『バランにボコられたハドラーの心境だぜ……』 この日からネギ先生が、千雨から逃げる様になったのは仕方ない事であろう……