当たり前というか奇跡的にと言うか、千雨は無事2年に進級出来た。そしてもうすぐ3年生に進級する……警察沙汰にならない限り。 第15話 長谷川千雨の驚愕 振り返るとこの一年と少し、千雨には色々な事があった……その大部分は『色々な事をやった』と表現した方がいいのだが。 急遽開催された《ウルティマホラ》に突然現われた謎の覆面美少女拳士。顔に黒い包帯を巻き、自らを『サウザンドタイガー』と名乗り、トーナメントに乱入という暴挙『サウザンドに吼えるぜ!!』事件。 古菲が突然『ワタシも百人毒凶に挑戦したいネ!』と言い出し、武術大会に乱入した『タイガー&クーフェイ』事件。 第二回ウルティマホラ エキシィビジョンマッチのタッグ戦に乱入してきた謎の覆面美少女チーム……そこ、シナリオ通りとか言わない……と戦う古菲&桜咲チーム《平成 野武士・拳》の活躍を描く『TIGER&KITTY』事件。 拾ったと思った刀が国宝だった為、文科省に返して、その代わりに其れなりの名刀をせしめようとする『刀集り』事件。 主だった事件だけでコレだけあった。こんだけやっても処分一切無し。麻帆良、ネ申すぎる。 とはいえ、野放しにする程学園も甘くなく、シスターシャークティを教育担当兼管理責任者――別名生贄ともいう――として千雨に付ける事になる。 千雨としては当初、教会のやっかいになる事に抵抗があったが、シスターシャークティの心地よい位の放任が、徐々に敷居を低くしていった。 シスターシャークティは当初カトリックの教義等を一切語る事はなく、千雨に清掃やボランティア活動をさせつつ、《こちら側》の知識や常識を教えていった。 千雨は暫くしてこの扱いについて質問すると「長谷川さんの立ち振る舞いで、教会についてある程度の知識があることは判りました。そして貴女がその事について一言も仰らなかったので、良い経験では無かったと考え……よって無理に押し付けるのは逆効果と判断した為です」 なるほど、と千雨は理解した。が、丁寧な口調がこそばゆかったので、そのような気遣いは無用、と言ったのだが「とはいえ、貴女は『あの』エヴァンジェリンと対峙しても、一歩も引かなかった程の豪の者、子供と侮ることは出来ません」 この下にも置かない扱いも、千雨の本領が発揮していくにつれ、無くなっていたのは当然の事であろう。 千雨としては《佐倉杏子》としての苦い記憶がこんな処で役立つとは思っていなかった。《本気の》エヴァンジェリンを前にして平然としていたのには訳がある。嘗てもっと凄い『モノ』と対峙した事があったからだ。その『モノ』の銘は――救済の魔女 (クリームヒルト・グレートヒェン) 佐倉杏子の死因は大まかに分けて二つ彼女によって天に召されるかワルプルギスの夜に殺されるか――まあマミに不意打ちされる、という例外も多々あるが 特に救済の魔女は圧倒的だった。 彼女を倒そうと日本中、否世界中から魔法少女が集結したのだが、結果は無残なものであった。 圧倒的な力の差の前には、如何なる攻撃も意味を成さず、只々除雪車が雪を掻くが如く、消滅していく魔法少女。 隔絶した力の差を見ていて、自暴自棄になり特攻する者、現実を受け入れられず呆然自失になる者、絶望して泣き崩れる者、全てを投げ捨て逃げ出す者――それら有象無象の区別なく『魔女となる』という運命から解放していく――その在り様は当に《救済の魔女》にふさわしいと言えよう。 そんな中、佐倉杏子のとった行動は、『逃げる』であった……泣きながら脇目も振らず遁走する。瓦礫に陰に隠れ、震えながら両親の名を呟く。そして暫くすると意識が無くなる……おそらく消滅したのだろう。 そのような記憶がある以上、言い方は悪いが『エヴァンジェリン如き』にビビッてはいられない。勝てはしなくても、余裕で相打ちに持ち込めると確信している。 そんな千雨だが、3学期も始まったある早朝、鍛錬の一環として組討稽古を行っている――相手は桜咲刹那 一応稽古なので、竹刀とウレタンの巻かれた棒を使っているが、其れなりの腕を持つ二人故、油断は大怪我に繋がる。HER HER 桜咲は正眼の構えをとっている。呼吸もやや荒く、額には汗が滲んでいる。ふしゅ~ 千雨は穂先を桜咲に向け、自然体で対峙した。唇の先を少しだけ開き、ゆっくりと呼吸する。こうする事で、見た目で呼吸のタイミングが読まれにくくなる。 この二人の様子からも判るが、状況は千雨の方が有利であった。というか槍VS刀だと、常識的に考えて槍が有利に決まっている。桜咲もそれを判っているらしく、千雨の突きを掻い潜ろうと動いていたが、上手く入り込めない。何しろ刀の間合いに入れても、千雨の方からも一歩踏み込まれたら、もうそれは無手の間合いとなり、そうなれば千雨の独壇場だ。桜咲もそうならないよう気をつけているから、更に動きがぎこちなくなる。それに千雨からの挑発が拍車を懸ける。「おらおらおら、責めなきゃ勝てねえぞ!?」 千雨はそういいつつ三連突きをかます。わざとらしく脇を甘くして隙があるように振舞う。明らかに誘っている……それが判っている桜咲の心は乱されていく。「クッ!」 悔しそうに桜咲は呟き、一歩踏み込もうとしつつも、結局躊躇ってしまう……まあ仮に飛び込んできたとしても『長谷川流魔体術 自演乙式カウンター膝蹴り』が炸裂するだけなのだが……『チッ この意気地なしめ! 』 千雨は心の中で舌打ちする。千雨としてはまだ『無謀にも突っ込んで』来てくれた方が、ほっと出来たのだが……それは、シスターシャークティと一緒に見ている葛葉先生も同様だった。 彼女達にしてみれば、無謀でもいいから積極的に動いて欲しい、と言うかこの稽古自体、桜咲の意識改革が第一で技量向上などそっちのけである。そして彼女達の表情を見れば、『それ』が上手くいっていないのは明らかであった。「ほうら……これで4回目」 そう千雨が言うや否やコツン と小石が桜咲の頭に当たる。表情に焦りの色が出る。いつの間にか千雨が放り投げた小石が、桜咲の頭に当たる……只の偶然とも思えるが、それが4回も続けばそういう訳にはいかない。 それを見ていたシスターシャークティが、葛葉先生に質問する。「また当たりましたが……長谷川さんは、桜咲さんの動き全て予測した、という事ですか?」 それに葛葉先生が答える。「そういう技があるのは知っていますが、恐らく完全には会得して無いでしょう。技量半分、ハッタリ半分といった処、ですね」 葛葉先生の推測は当たっていた。千雨の技量では命中率50~70%なのだが、それを目線の向きや台詞、槍の動かし方で上手く誘導しているのだった。 だがその事に気付けない桜咲は、只々迷う。その迷い対し、常に基本で返す、マニュアルで対応する……結果全て千雨に読まれて負ける……これがここ一年何度も繰り返されてきた。 桜咲は、追い込まれると常に及び腰になる。自分の勘に従ったり、裏を書こうとか、は一切しなかった。 結果としてそれが皆を落胆させる事になる……桜咲刹那は《自分》を信じる事が出来ないのか、と。結果、自分以外の何かを頼り決断する。技の一つ一つは強くなったが、動きが単調になり、対人戦では勝てなくなっていった。 この負のスパイラルから脱却させようと動いているのが、葛葉先生と千雨であり、あと龍宮が少し手を貸す程度だ。 この勝負も、今一成果が出ないまま終わろうとしている。「斬空閃!」 桜咲の放った《気》の刃が千雨に襲い掛かる。前回、前々回はこの後、間合いを詰められて桜咲の負け、となった。 今回はそれを踏まえて、わざと接近させてカウンター、といった処だろう、隙を作らぬ為か斬空閃に力が入っていない。 千雨は『だったら』と心の中で呟き、槍を振り回す。それによって生じた突風が、砂埃を舞い上げる。「これで斬空閃は丸見えだぜ!」 千雨はこう言って斬撃を避けながら桜咲の方に突撃する。ジグザグに動き、タイミングを読ませないように近づき「いただき!」 そう言って千雨は突きを放つ。それを見た桜咲は反撃するでもなく、受け止めるでもなく、避けるでもなく、只足下の石をカツッ と千雨に向かって蹴りだした。「チッ!」 その石が当たると千雨が消滅する……どうやら分身だったようだ。「そう何度も同じ手が通用するか! 喰らえ! 百烈桜華斬!」 桜咲はそう叫び刀で流れるように円を描く、そうすると自分を中心として丸く斬撃が広がり、砂埃の中から飛び出してきた千雨二名を切りつけ……消滅させる。残念なことに、この二人も分身だったようだ。「甘い!」 そう叫んだ《本体の千雨》が、地を這うように突進し桜咲の足を払う。「くっ!」 体勢を崩し倒れそうになる桜咲の喉元に、千雨が穂先を突きつける。「そこまで」 葛葉先生がそう宣告し、稽古は終了となる。 桜咲は悔しいというか、不甲斐なさを恥じるような表情で後片付けを始める。千雨は平然とした表情だが、内心ヒヤヒヤとしていた。『危なかった~ もう一人増やしといて良かった……』 流石に地力ではもう危なくなってきた。そもそも魔法無しで勝とうとする方が無茶なのだが…… ハッタリと小手指と勝負勘だけで、何とか対応しているのが現実だ。 コッチの無茶苦茶に対応する為、桜咲が『受け』の姿勢で挑んでくるおかげ、でもある。正直、桜咲が後先考えず全力全開で挑んできたら、千雨に勝ち目は無くなるだろう。以前と比べると大分マシになってきたが、まだ動きや見切りに迷いが残っている。 これで勝敗は千雨の6勝1敗となった。因みにこの1敗は、第二回ウルティマホラ エキシィビジョンマッチでつけられたものだ。まあ流石に、2対2から3対1になっていたのだから、勝てと言う方が無理な話しであろう。キティ、キティとからかい続けたのがいけなかったのか……とはいえ次回のソウルジェム調査の時には、あの変態からもっと恥かしい秘密を聞き出してやる、と心に誓った。 一通りの後片付けが終わると、桜咲は先にこの場を離れた。おそらく木乃香の護衛に付くのだろう。それを見送りながら千雨は、教会に戻ろうと二人の先生に挨拶する。「それでは自分はこれから着替えて……献血ボランティアの準備に入ります」 その言葉を聞いてシスターシャークティはやさぐれた表情を浮かべ、葛葉先生は頬を引き攣らせる。「なあ……長谷川……あんまり無茶な事はするなよ……」 葛葉先生は諦め半分、注意半分で嗜める。後ろではシスターシャークティが『主よ……』と天に許しを請うように呟いていた。千雨は天使のような笑みを浮かべ答える。「ご安心下さい。お蔭様で最近は、致死量一歩手前で終わるよう、加減が出来るようになりました」いや、そういう事じゃねえよ、と葛葉先生は思うが、それなりに成果を挙げて赤十字からも表彰された手前、やめろとも言えない。 ジャージ姿ながらも、シスターらしく厳かに歩いていく千雨の後ろ姿からは、とても『美女と囲もう!DOKI DOKI吸血麻雀大会♥』の主催者にして『現代のブラド公』と噂された者とは思えなかった。吸血麻雀――そう あ の 吸血麻雀である。違う点を挙げれば、牌は普通のものを使い、女性3人と男性1人で卓を囲み、男が一勝する毎に女性が服を脱ぎ、女性が勝つとレートにそって点毎に採血する、という処だろう。 千雨がこれを思いついた訳は純粋に『輸血用血液不足を何とかしたい』という想いなのだが、やり方が不純なんてレベルじゃないのは、最早『長谷川千雨だから』で説明がつく。 千雨もバレたらヤバイのは判っていたので、隠れて開催していたのだが、とある挑戦者が血を抜きすぎて重体となり発覚した。 当然この後で大騒ぎになり、皆の前で説明を求められた。千雨曰く「あの野郎……アタシや龍宮じゃなくココネの下着に反応しやがった!」 という事らしい。どうやら千雨、龍宮、ココネと囲んだ東一局を、喰いタンで挙がったソイツが、いきなりココネの下着を脱がせようとした。其れを見た千雨と龍宮は『この性犯罪者を殺す!』と決心したそうな。 龍宮は魔眼を使ってガツガツ自摸り、千雨は麻雀放浪記の高品格の如き天和であがり、見事に『ケツの毛まで抜かれ鼻血も出ない』状態にしてやったのだ。 この話を聞いた女性は全員、千雨達の擁護に回り、そこに明石教授や弐集院にガンドルフィーニという、娘持ちの先生も加勢する始末。高畑先生が諌めようとしたらしいが、主犯格二人が自分の生徒なだけに、薮蛇にならぬよう沈黙を守ったままだった。 そして今夜千雨は、その性犯罪者予備軍が呼んだプロ雀士を迎え撃つ予定だ。必勝を期す為に面子は千雨 エヴァンジェリン 椎名桜子 という最強メンバーで挑む。 千雨が『さあ、どう料理してやろうか』と考える内に教会に着いた。おそらく眠そうにしているだろう級友に、喝を入れようと叫びながら中に入る。「おい美空、テメエパン買ってこいよ! ダッシュかまして5秒で行って来いよ」 言われた方……春日美空はまだ眠い為か、ダルそうに突っ込む。「ムリムリ。レジ打ちだけで10秒はかかるし……千雨ちゃん鬼っすよ……」 春日の言い分を無視しつつ、千雨はジャージを脱ぎ捨て、シスター服に着替える。「しゃーねえな……仕方ねえ、またつまみ食いさせてもらうか……」 といって千雨はボランティア用の備蓄からゴーダチーズを運び出し、齧り始めた。それを見た春日は、無駄と知りつつも注意する。「千雨ちゃ~ん、ゴーダチーズを丸ごと食べる事は『つまみ食い』とは言わないのね~」「仕方ねえだろう、桜咲との稽古で小腹空いたんだから」「だから~ゴーダチーズを丸ごと食べれる状態を『小腹が空いた』とは言わないのね~」 千雨は、律儀に突っ込む春日に苦笑する。春日も余りきつくは突っ込もうとはしない。春日にとって千雨は『すごく使い勝手の良いバリケード』であった。実際千雨が来てからは、シスターシャークティの説教や注意が少なくなっている。 身近に要注意人物がいる為、相対的に春日の罪状は軽い物と判断されがちだ。春日も、礼拝堂で祈りを捧げるシスターシャークティを良く見るようになると、自然と悪戯の回数も減っていく――流石に死者に鞭打つような事は出来なかったようだ。 そんなシスターシャークティの苦悩や春日の気遣いを知りもせず、千雨は今日の予定を確認する。一分とたたずにゴーダチーズは食い終わっっていた。「今日は夕方までボランティア。幼稚園で園児達を泣いたり笑ったり出来なくして……」「おいおい。千雨ちゃ~ん、いたいけな子供達に『ゆーあーのっとまいまっち』なんて教えちゃダメだよー」「夜には超の地下室で献血募集と……」「あれは募集と言うよりカツアゲだよね……『死ねぇ~死ねぇ~』とか言いながら、泣き叫んでいる相手を嬉々として押さえつけてたんだから……」 春日は何かを思い出した表情で、身体をぶるっと震わせた。「それと今回、エヴァちゃんが参加するようだけど、あんな小さい子にやらせて大丈夫?」「大丈夫だ、問題ない。オマエは知らんかもしれんが、エヴァは麻帆良では知る人ぞ知る有名人なんだぞ……厨二病の」千雨は本当っぽく嘘をつく。「普段から『闇の眷属』とか『真祖』とか『悪の魔女』とか大声で言ったりしてるんだぜ……」 うわー と春日はドン引きしている。後で聞いたら暫くの間、エヴァンジェリン=羽瀬川小鳩という図式が頭から離れなかったそうだ……「それに、何かあったらアタシがフォローに入るから安心しとけ」 姉御肌の口調で、春日の心配を払拭しようとする姿は本当に頼もしい。「今回レートは普段の2倍だから、二人まとめてハコテンにしてやるぜ……ククク、これで今月のノルマは達成だ……」 こういう所が無ければ、もっと良かったのだが…… そう言いつつ身支度を終えた千雨は、若干余裕をみて幼稚園に向かった。丁度登校の門限ギリギリの為、皆が急いで教室に向かって行く。そんな中「ん? ありゃ神楽坂と近衛じゃねえか……何してんだ?」 千雨の視線の先では、神楽坂明日菜と近衛木乃香が、何やら小学生位の男の子と話していた。かと思えば「おいおい……あの餓鬼殺されるんじゃ……」 突然神楽坂がその餓鬼にアイアンクローをかまし、子供の方はバタバタと苦しそうに足を振っていた。 千雨は助けに入ろうかな? と思い足を進めようとした時、タイミング良く高畑先生が眼前の3人に声をかけていた。これで神楽坂も大人しくなるだろうと思い、千雨はこの場を離れる……まさかこの出来事が、千雨のハッピータイム終了の合図だったとは露ほども思わなかった……「ふわ~~」 翌日の早朝、目の下に隈をつくった千雨が、あくびをしながら一休みしていた。目の前にある一杯の珈琲が鼻腔を刺激する。「お疲れ様でした、長谷川さん」 そう声を掛けるのは、この珈琲を入れてくれた絡繰茶々丸である。千雨は無言で絡繰に感謝の意を示し、珈琲に口をつける。うめえ~ 千雨が飲む、死闘の後の珈琲は 美味い――まさにこんな心境である。「ありがとう、茶々丸さん。何時もすまないねぇ……」「長谷川さん、それは言わない約束でしょう」 超、テメエ完璧だぜ。こんなネタ台詞まで拾ってくれるとは……因みに二人の関係は、茶々丸の修理後、超を介しての交流から始まった。一度茶々丸をぶっ壊した千雨としては、多少は気まずかったが、まあ戦場の習いと割り切る。それよりも千雨にとっては料理の腕前の方が重要だった……つまり、その……あっさりと餌付けされたのであった。「それにしても昨日は激戦でしたね」「まさかエヴァが欠席するとはね……おかげで計算が狂いっぱなしだった」「すみません。マスターは理由を仰らないのですが、朝から様子が変で……」 どうやらエヴァンジェリンは朝のHRからずっと上の空で、とても麻雀できそうになかった。なので変わりに茶々丸が代打ちとしてやって来た。だが事態はそれだけでは収まらず、その後直ぐ椎名から『ごめーーん♪ 今日行けなーーい』という電話がきた。恐らく『エヴァンジェリンがいないので、次にロリな自分が集中的に狙われるかも』と察したのではなかろうか? その結果、千雨 茶々丸 ペド野郎 プロ雀士 の四人……2対2の勝負となる。 流石にプロがいるだけあって、千雨は押されっぱなしになり、オーラスでは保険として着ていたスクール水着だけという乙女としては絶体絶命のシチュエーション……親は千雨、速攻であがり続けるか、デカイのを引かないと千雨はマッパにされてしまうだろう。 だが、何度も死線を越えてきた千雨にとって、この位の危機はビビる程でもない。逆に気合が入り悪魔的な『引き』が降りてきた。「カン」 千雨が暗カンをさらし、ドラ4を見せつける。そして王牌をめくると……隣と同じだった……これでドラ8「カン」 もう一つ暗カンをさらし、また王牌をめくる……結果ドラ12「リーーーーーーチ! 」 これで千雨の役満確定となり、男共の顔が青くなる。ツモでも思考力低下するほど血を抜かれ、直撃だと即死クラスである。不足分は相方持ちの為、二人そろってお陀仏の可能性も高い。よってベタ降りとなる……のだが「ロン!!」 変態が《白》を切った時、千雨が冷酷にも宣言する。先ず6枚をオープン……順子が二つ……つまりは単騎待ち。千雨が最期に握り締めた牌を高く掲げ、一気に振り下ろす。タン!! そこには、まるで湯気が立っているような《白》があった…… 「ククク……それにしても、アイツ等の豚のような悲鳴は傑作だったぜ……」 間違ってもシスターが言っていい台詞ではない。それを聞いた茶々丸は少し嗜めるように言う。「ですがあのような技、プロ相手に使うのは危険だったのでは?」 昨日の勝負の後、茶々丸が言わなかった為明るみに出なかった事が一つある――あのオーラスの時、茶々丸が《白》を3枚持っていた事だ――つまり場には《白》が全部で5枚あったという事だ。 ここまで言えば皆も大体気付いたと思うが、この女は『あの』某総理大臣の必殺技を使ったのだ――豪盲牌を。「普通だったらヤバかったんだろうが、ここ麻帆良では、あれ位の事では疑問になりゃしねえよ」 そして千雨は ニヤリ と腹黒そうな笑みを浮かべ言葉を続ける。「それにな、バクチってのは、外れたら痛い目に遭うから面白れえんじゃねえか!」「フレイザード乙」 茶々丸の華麗なツッコミが決まった時「千雨ちゃーーん! 大変だよ!」 春日が大慌てで入ってきた。「何慌ててんだ美空。世の中、そんなに慌てるような事はありゃしないぞ」 優雅に珈琲を飲みつつ、千雨が語る。春日は、その余裕を打っ潰すつもりで喋る。「いや、本当に昨日大事件が発生したんだよ!」「何だ? 球団名が『高須クリ■ックベイスターズ』に決まったのか?」「んな訳ないじゃん!」「じゃあ、境界■上のホライゾンが『上 中 下』から『起 承 転 結 闇』になったとか?」「幾らアノ作者でも、いきなり2冊も増えないって」「となると……Oasisが七歩詩を詠みながら号泣したとか?」「よく判らないけど、そんなのありえないって!!」 春日は律儀に突っ込みを入れるが、千雨には何が大変なのか判らない。「で、結局どうしたの?」 今度は千雨の質問に春日が答える。「高畑先生が担任を降りる事になったんだけど……」「確かに自習が多くなったし、最近疲れ気味だしなぁ」 精神的疲労の元凶がいけしゃあしゃあと答える。「それで新しい担任が昨日来たんだけど……」 春日はそこで一拍擱く。千雨は目線で続きを促す。「来たのは9歳の男の子だったってオチなんだけど……」 …………ブゥッーーーー!!「うわ! 千雨ちゃん汚いって!!」皆の予想通り、千雨は豪快に珈琲を吹く。俺たちは待った。この七ヶ月を焦燥と共に瞼の裏に揺らめく赤い影、青い髪最早追憶は硝煙と共に時の彼方か……だが! 炎は突然に甦る。時空の軋みと女の呻き。ティロ・フィナーレに乗せて銀河を駆ける生存確率250億分の1の衝撃『魔法少女まどか☆マギカ劇場版始動』PG-12の魔法少女は存在するか?