――来るんじゃなかった―― それが千雨の偽らざる心境である。伊達師範の勧めと周りの暴走により決まった体験入学――長期休みのたびに此処『男塾』に通わされる度、自分と一般社会の常識がかけ離れていくのを、ひしひしと感じていた為だ。まあ伊達師範にしてみれば『此処の常識に問題なく対応できる』と判断した上での事なので、周りにしてみれば『何をいまさら』な話しでもある。 そんな千雨の眼前には、なんだかんだ喚いている鬼ヒゲとズン と存在感たっぷりに座っている塾長がいた。『なんだこの化け物』 それが千雨の第一印象である。勝てそうなのだが倒せそうにない……そう思わざるお得ない気配がひしひしと伝わってくる。畜生、ビビってたまるか その一念で千雨は塾長から視線を外さず、ガンを飛ばしていた。そうこうしている内に、鬼ヒゲの話しが佳境に入る。「いいか長谷川体験入学生! これから塾長がお話しになる御言葉は、この国のあるべき将来、世界情勢、それに貴様自身に訪れるであろう人生の岐路における、重要な指針になるであろう。心して拝聴するがよい! 」 その勿体ぶった言い回しの後、塾長がすっと立ち上がった。ただそれだけで千雨が感じるプレッシャーが倍増する。怯んでたまるか、と腹に力を入れ、折れそうになる心根を奮い立たせた。それら千雨の葛藤を気にもせず、塾長は千雨を睨みつけ、ゆっくりと厳かに口を開く。戦場を彷彿とさせる空気の中、塾長の咆哮が響き渡る。「ワシが男塾塾長! 江……」 思わず絶叫した処で、千雨は夢から覚めた。 第13話 情無用、命無用の魔法少女 この命、熱量30億TJ也「ひひは、ふいほんでふはへふほほほふはほ!(いいか、食いモンで釣られると思うなよ!)」 出された料理をガツガツ食いながら千雨は反論する。当にカリオストロの城のルパンを彷彿とさせる喰いっぷりは、見ている者を感心させるが、おさんどんをさせられている高畑にしてみれば『なんで僕が……』という気持ちは拭えないだろうが。 舟皿を掲げ、たこ焼きを口に流し込む。表情は一応、満足そうだ……どうやらこれがデザートだったらしい……頬をリスのように膨らませ、モグモグさせている様子を見てエヴァンジェリンは『一寸萌えるかも?』と思った事は内緒だよ。 千雨が落ち着いてきたのを確認した学園長は、静かに話しかける。「先ずは今回の件、謝罪させてもらおう……すまなかった」 そう言って学園長は立ち上がり、頭を下げた。「ん? ああ気にすんな、喧嘩売ったのは其方だが、判ってて買ったコッチにも責任はある」 千雨はそう答えた。これで今回の件については手打ち、という事になる。とはいえ、学園長にタメ口の中学一年生というのも若干問題であり、担任である高畑は頭を抱えている。 見た目と違い人格者なのか、千雨の口調を気にする事もなく学園長は莞爾と笑う。だが千雨としては一言言っておきたい事があった。「学園長はああ言ったけど、そこの奴は謝意とか反省しているようには見えないんだが……どうなってんの?」 そういって千雨はエヴァンジェリンを ちらっ と見る。それに気付いたエヴァンジェリンは ピクッと額に血管を浮かせ千雨を睨みつける。「いや、エヴァに責任はない。全てはワシの軽挙が原因じゃ」 学園長のような年長者にそこまで言われれば、流石の千雨でもこれ以上は非難できない。「まあ、じゃあそういう事で。でも気を付けた方がいいぜ、ペットの放し飼いは、飼い主の責任になるんだから」ピキピキ エヴァンジェリンの米神に血管が浮き上がり、表情も険しくなる。千雨もそろそろ頃合と思い、からかうのを止め「で、アタシにどうしろと?」 と3人に問いかける。向こうの手の内を見ておかないと、『どこまで』情報を晒して良いのか判断できないからだ。それに腹の探り合いでは学園長には叶わないのは明白だ。なら向こうの懐に飛び込むのも一つの手ではある。「先ずは、お互いの状況を理解し合うことじゃな。こちらの状況を話すと……」 そういって学園長はこの世界の有様、学園の正体、魔法の基本知識、そして《向こう側》の魔法世界について話しした。内容はぼかしているが、魔法世界が《エネルギー不足》であり、《ソウルジェム》を手に入れる為なら戦争すら起きかねない、と聞いて千雨は青褪めるが、学園長から自分の扱いを聞いて少し落ち着いた。只の情から匿われるのではなく、実利に基いての判断である事が彼女を安心させる。 全面的に信用する事は出来ないが、自分が眠っている時に、何も身体に仕込まれていない事が警戒心を薄れさせた。「成る程……其方の状況は理解できました……態々気を使っていただき有難う御座います」 千雨は『信頼関係が少し築けました』という意思表示として、敬語で感謝の意を表す。やや安心している二人に対し、エヴァンジェリンは『うわ! キモッ! 』という顔をしている……ヤロー 憶えていろ……だが綻んだ顔を再び引き締め、千雨は問いかける。「順番として此方の話を進めたいのですが……その前に」 学園長を少し睨みつけて放しを続ける。「《グリーフシード》を返して頂きたいのですが……ああ《グリーフシード》とは、この位の大きさの玉に、串が刺さっているような形状のモノで……」 千雨が《グリーフシード》について細かく説明すると「おお、すまない。眼が覚めてからのドタバタで、すっかり忘れておったわ」 学園長はそう言って懐から《グリーフシード》を取り出し、千雨に手渡す。千雨はそれを受け取り、疵等が無いのを確認すると安堵の表情を浮かべ、胸元でギュッと握り締めてからポケットに仕舞う。 学園長達は、この少女がするには珍しい年相応の表情と《嘆きの種》(グリーフシード)という縁起でもないネーミングから不吉なモノを感じたが、この後の説明がややこしくなると思い、黙っていた。「では改めまして、此方の説明をさせて頂きます……」 そう言って千雨は自分達の『正体』について大まかに説明した――幼い頃事故に遭った際《自分以外の誰かが》自分に溶け込んだ事――その《自分以外の誰か》は此処とは違う世界で《魔法少女》になっていた事――《魔法少女》とは謎の生物(キュウベい)と契約した者の事――その契約は『一つの願い』と引き換えに《魔女》や《魔獣》と戦う義務を背負う事になる――だが実際は肉体そのものを改造され、尚且つ《魔女》を効率良く倒さないと《ソウルジェム》が濁り《グリーフシード》へと変貌し、その結果《魔女》になってしまうという怖ろしい、逃場の無い契約であった事――《キュウベえ》の目的は『十代女性の希望と絶望の相転移の際、発生する感情エネルギー』の回収で、それを使って宇宙を活性化させていたという事――《ソウルジェム》の回復は《グリーフシード》のみで行える事――などを話した。 だが《円環の理》については話さなかった。万が一《魔法世界》の連中に捕まったとしても『エネルギーを発生できる』なら、そう粗略には扱われないだろう。しかし『エネルギーを発生する前に消滅』するのならば、誰も遠慮はしない。追い詰められた者は如何なる悪行も許容する。最悪、実験材料か研究用のモルモット扱いになるだろう。その辺は保険として押さえておかないと安心できない。 3人は話を聞き終わり、呆然としていた。まさか異世界の話が出てくるとは思わなかったようだ。その内、年の功かエヴァンジェリンが『何を考えているのかは判らないが』険しい表情で千雨の方を睨む。その次に学園長が恐る恐る尋ねる。「それでは……君の持っている……《グリーフシード》はもしかして……友達の……」『モノ』と言いそうになり慌てて言葉を濁した。千雨はその辺の機敏には気付かず「いえ……そこまで仲は良くなかったんですが……」 やや語尾が震えていた。『やはり地雷を踏んでもうたかの……』と反省する学園長を余所に、エヴァンジェリンが質問する。「おい長谷川、オマエは一体どんな『願い』でそんなカラダになったんだ?」 この質問を聞いて、千雨の表情は能面のように固まる。『オマエ空気読めよ!!』という二人からの視線を無視し、エヴァンジェリンは眼で『吐け』と追い込む。 千雨は何かを思い出すように視線を上げ、宙を見つめて答える。「さあな……ガキの頃の話だから、もう覚えてねえや……」 千雨は黙秘権を行使した。それなりにヘビーな話をさらっと話す気にはなれないし、『同じ痛み』を分かち合えない者に気安く話す気にもなれない。不幸を売物に生きるには、《佐倉杏子》のプライドは高すぎるのだ。その事を察したエヴァンジェリンは質問を変えた。「それじゃあ最期の質問だ……こうなった事をオマエは後悔しているのか?」 その質問に千雨は『何を今更』という表情で答える。「もうそんな時期は終わっちまったよ……とはいえ、まだ『過去の記憶』になっちゃあいない。今でも時々傷口が開いて出血しやがる……」 千雨の表情に自嘲が浮かぶ。だが話を続けていくと徐々に、彼女の瞳は強い意志を浮かべていく。「でもなあ……『無くしたモノ』を無かった事にはしたくねえ。『踏みにじったモノ』を見なかった事にするのは許されねえ。そして、どんなにバカげた判断だろうが、どんなに稚拙な妄想だろうが、決断したのはアタシだ、アタシの意志だ。アタシが其れを受け入れなければ何も始まらない。それを愚かだった、と。幼稚だった、と。自分以外の誰が言ったって気にしない――アタシは其れに答えてやる、何万回でも答えてやる――その通り、だと」 偉大な革命家の如き雄雄しさで千雨は答える。その『答え』というより『表情』に満足したのか、エヴァンジェリンは矛を収めて大人しく黙る。だが『面白い玩具を見つけた』といいたげな表情を浮かべ、瞬きもせず壮絶な笑みを向けてくるエヴァンジェリンを見て、千雨は『ヤベエ……何か地雷踏んだかな?』と考える。「それじゃあ結論を言わせてもらうと、長谷川君に特に望む事はない。色々と手を貸して欲しい事はあるかもしれないが、君に命を削れ、と命じる権限など我々にはない。だから大人しく生活していて欲しいのだが……まあ江田島君の関係者に自重を求めるのも……無理な話かもしれんのう……」「……塾長をご存知で?」 聞きたくねー と思いつつ千雨は問い掛ける。気のせいかエヴァンジェリンの表情が曇っていく。「彼は色んな意味で有名人じゃよ。教職者としても武道家としても……おまけに昔エヴァと一悶着あったしのう」 学園長はあっさりとバラす。「ジジイ! 貴様!」エヴァンジェリンはそう叫ぶが、高畑に羽交い絞めにされていては止める事も出来ない。「一体何があったんです?」 千雨は真面目そうに質問する。だが口元が緩んでいるのは誰の目にも明らかだ。嫌な奴の弱みを握れる、と興味津々なのである。学園長もノリノリになっていき「それがのう、勝負を挑んで勝ったまでは良かったが、調子に乗って血まで吸ってしまいおった」「プッ」 学園長のカコバナを聞いて千雨は噴出す。大体オチは想像出来るが、続きを促すように学園長に眼を向ける。学園長も、『ジジイ黙れ!』とか『言うなーーー!』と絶叫しているエヴァンジェリンをチラ見した後ネタ晴らしをする。「すると江田島君の精力が強すぎたのか、鼻血が止まらんようになって、そのまま卒倒したらしい。結局眼が覚めるまで江田島君が看病しておったそうな……」「…………プッ! そ、それは……クッ……」 肩を震わせ、俯きながら千雨は言葉を詰まらせる。「きーーーっ!!」とか「キサマラーーー!」とか顔を真っ赤にしたエヴァンジェリンが叫んでいて、それを学園長が諌めていた。「まあまあエヴァよ、そんなに興奮すると……また鼻血ぶー になるぞ」「ブッ! ギャハハッハーーーー!! ダメだ! 我慢デキネーー!!」 千雨は学園長の一言を耐える事ができず、机をバンバン叩きながら抱腹絶倒で転げまわっている。絶対確信犯で言ったのだろう、学園長はニヤニヤとしているだけだった。「あんなモンに食欲湧くとはゲテモノすぐるwwww ブリテンよりも悪食とはw ひーー! 腹筋がぶちきれるww」 ゲラゲラ大笑いしている千雨に対し、エヴァンジェリンはもう一言も喋らなくなり『もういっそ殺してくれ』と言いたげな表情をしていた…… 千雨の笑いが収まるのを待って、学園長は話を続ける。「話を戻すが、長谷川君の事を外に洩らす積もりは無い。じゃがのう……秘密が漏れないという保証はない。だから此方としては君自身の身の安全は、自身で守ってもらいたいのじゃが……」「そうは言いますが、此方の魔力には上限がありますので、そこを突かれて延々泥試合となると、此方も周りの被害とか手段とか選んでられなくなりますが……」 千雨は暗に『お前らも手貸してくれよ!』と訴えるが「じゃが此方も人手不足でな、定期的に回せる人員がおらんのじゃ」 学園長は『無理』と返答した。『面倒なことになりそうだな……』と言いたげな表情を浮かべる千雨に、学園長は彼女の食指が動くような提案をした。「長谷川君の《ソウルジェム》を調べて分かった事が一つある。《魔法》を発動させようとした時、《ソウルジェム》が《魔力》を収集しようとする。大体其の時には君の身体の中には《魔力》が存在していないので、《魂》を消費して《魔力》を絞りだそうとするようじゃ」 学園長の言葉に千雨は興味なさげに『で?』と言いたげな表情で答えた。「じゃがもし、君の身体に《魔力》が漲っとったら? おそらく《ソウルジェム》の消耗は抑えられる筈だ。大技なら兎も角、通常戦闘時の消耗は理論上、無くなると思われるんじゃが?」「……アタシは《魔力》を創る事が出来るのか?」 恐る恐る聞く千雨。その表情には微かながらも期待が浮かんでいた、が「無理じゃろう」 あっさりと学園長に打ち砕かれた。『余計な期待させやがって!』とイラつく千雨に対して「じゃが、君の身体に《魔力》を宿らせる方法はある……《ミニステル・マギ》(魔法使いの従者)というのじゃが……」 そういって学園長は説明を続けた。「……ってえことは、その《ミニステル・マギ》っていうのになれば、魔法使いから《魔力》がガバガバ流れ込んでくるってか?」「……じゃが君の場合は、必要とされる魔力量が大きすぎて、一般の者では一瞬で魔力が枯れてしまうじゃろう」「アンタか、高畑先生か、フルパワーのエヴァンジェリンレベルじゃなきゃ駄目だっつうこと?」 千雨の問いかけに学園長は頷く。そして善は急げと「じゃあアンタでいいから、さっさと仮契約とやらをしようぜ」 興奮している為か、口調が元に戻っていた。彼女を落ち着かせる為、宥めるように学園長は説明する。「まあ落ち着きなさい。その為に《仮契約》(パクティオー)には……」 そう言って学園長は(パクティオー)について説明を始める。その話を聞いた千雨は、内容を理解したのか顔を真っ赤にし、そして直ぐに真っ青になった。そして少し考え込んだ後、虫ケラを見るような眼で学園長を睨み「テメエ……可憐な美少女の唇欲しさに、そんな嘘までつくとは……」 ゴゴゴゴ とオーラを纏い、指をワナワナさせて千雨は学園長の方を向く。どう見ても臨戦態勢に入っているようだ。「お、落ち着くんじゃ長谷川君。君は知らんようだが、これは魔法使いにとっても常識であって……」「本当なのか、エヴァンジェリン!?」 弁解する学園長の話を第三者に確認しようと、千雨はエヴァンジェリンに問い質す。が「知るか……オマエなんか、ジジイとディープキスして死んでしまえ……」 エヴァンジェリンは未だやさぐれたままだった……「やっぱりジジイ……テメエは!」「誤解じゃよーー!」 この騒動は、高畑が間に入るまで続いていく……「断る!! 乙女の唇は安かねえんだよ!」 そう断言する千雨。「じゃがのう……そうしないと君の身体も……」 そう翻意を促そうとする学園長。千雨は何か思い出したように「アンタの孫娘じゃあ駄目なのか? マジパネエ魔力があった筈だが?」「木乃香はのう……ワシもあの子の父親も《こちら側》には関わらせぬ予定じゃからのう」 千雨の提案に、学園長は眉を顰め『遺憾の意』を表明した。それを見た千雨は皮肉げに「へえー アタシとはエライ違いだなあ……流石に孫は可愛いってか?」「違う……とは言えんが、木乃香は血縁的に色々不味い面があってのう……あの娘を関わらせると、それだけで死者が出かねんのじゃ。それにのう……」 そう言って千雨を見つめる。「刹那くんも其れに賛成しておるから、もし木乃香にそういう目的で近づこうとしても……」「一戦交えなきゃいけなくなる……か」 千雨としても其れは御免蒙りたい。桜咲を見ていると『美樹さやか』を思い出す――最近は特に。強そうで、弱そうで、そして儚さそうで。 アイツの想いを踏みにじって目的を達成するなんて、想像しただけで心が痛む。千雨としてもその案は却下となった。『仮契約はしたいが、おっさんとキスしたくねえ……』そう考えた千雨はふと、思いついた事を口に出す。所謂『私に良い考えがある』である。「だったらアタシの条件としては……」 その内容に大人二人は難色を示すが「よかろう、その条件でいい」 なぜかエヴァンジェリンが答える。どうやら何とか立ち直ったようだ。「エヴァよ……何を勝手に……」 学園長は窘めようとしたが「良いじゃないか、本人も覚悟の上だろう。どうせ学園内への侵入者は、我々が対処するべき問題だ。もし学園内の連中がコイツに牙を剥いたとしても、総がかりじゃないと倒せやしない」 そう言ってエヴァンジェリンは千雨を睨む。「という訳で長谷川、オマエの好きにすればいい……ただし、《こちら側》の人間とそれなりに交流はしてもらう。オマエも《こちら側》の常識や知識を知らないと、今後生きてはいけんぞ。そして……」 ニヤリ と嗤いながら提案する。「オマエの《ソウルジェム》を定期的に調べさせてもらうぞ」 ガタン と千雨は立ち上がりエヴァンジェリンを睥睨する。「まあそんな顔をするな。これは万が一、《魔法世界》の連中にバレた場合に、提出する情報を作る為だ」「つまり、『アタシを差し出せ』と言われた時に、そのデータを差し出して時間を稼ぐってか?」 千雨の問いに、エヴァンジェリンは 是 と答える。千雨としても其れは悪い話ではない。渋々ながらもそれらの条件を了承して自室に帰って行った。「ジジイ、これで良かったのか?」 長谷川の提案を聞いた学園長の表情から、この案を受諾する必要がある――しかも千雨に怪しまれずに――とエヴァンジェリンは判断し、あのような横槍を入れて一芝居打ったのだった。「……まあ仕方なかろう。彼女が受け入れられる条件がアレだけならば……」 だが学園長は建前のみの返答を返す。エヴァンジェリンにその理由を話すつもりは無さそうだ。高畑もさっきからずっと考え込んでいて、会話に参加しそうにない――どうやらこれ以上、情報の入手は出来そうに無かった。「……まあいい、今日はここで帰るとしよう……だが! 近い内に『その辺の処』を細かく説明してもらうぞ!!」 エヴァンジェリンは舌打ちしつつ引き下がり、自宅に戻っていった。 帰り道でエヴァンジェリンは千雨の出した3つの条件を思い出す。明らかな遅延行動――仮契約の時期を遅らせる為の無茶な条件――それを善しとした学園長の真意が気になる。・膨大な魔力を有している。・社会的にしっかりとした地位を持っている。 この2点は理解できる。まあ当然とも言えよう。だが最後に1点が、結果的に上記2点を足枷へと変化させ、千雨の仮契約を妨害する事になる。「判らん」 エヴァンジェリンはそう言い、この件については一時保留とした。事実この謎を解き明かす事が出来るのは、今現在3人しかいない――近衛近右衛門 タカミチ・T・高畑 そして『未来情報』を持っている超鈴音だけである。この条件を聞いた超は乾いた笑みを浮かべて呟く「コレは……長谷川サン、鴨が葱背負ってやって来たようなものネ……相手がネギ坊主だけに」 仮契約成立には足枷のように見えて実の処、絶妙に逃げ道を自ら塞いだ条件――それは ・自分より年下であること「タカミチ君、さっきからずっと考え込んでいるようじゃが、一体どうしたんじゃ?」 二人だけになった理事長室で、学園長は尋ねる。「ええ、実は気になる事がありまして……長谷川君の話に出てきた交通事故のあった日なんですが……同じ日なんですよ」 高畑は少し間を置き、話を続ける。その内容に学園長は驚愕し、この事象が只の偶然である事を祈った。不可解そうに高畑が紡いだ言葉それは…… ――ネギ君の村が襲撃された日と――