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No.32676の一覧
[0] 【習作】あんこたっぷり千雨ちゃん(魔法少女まどか☆マギカ×魔法先生ネギま!+魁!!男塾)[ちゃくらさん](2012/04/07 16:30)
[1] 序  雨の中で遭ったような[ちゃくらさん](2012/04/07 15:42)
[2] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(1)[ちゃくらさん](2012/04/07 16:10)
[3] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(2)[ちゃくらさん](2012/04/07 16:14)
[4] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(3)[ちゃくらさん](2012/04/07 16:18)
[5] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(4)[ちゃくらさん](2012/04/07 16:21)
[6] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(5)[ちゃくらさん](2012/04/08 08:57)
[7] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(6)[ちゃくらさん](2012/04/08 09:00)
[8] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(7)[ちゃくらさん](2012/04/08 09:04)
[9] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(8)[ちゃくらさん](2012/04/08 09:15)
[10] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(9)[ちゃくらさん](2012/04/08 09:27)
[11] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(10)[ちゃくらさん](2012/04/08 09:47)
[12] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(11)[ちゃくらさん](2012/04/08 10:11)
[13] 幕間壱    極武髪で死守[ちゃくらさん](2012/04/08 22:53)
[14] 第二章 Sis puella magica! (1)[ちゃくらさん](2012/04/08 22:55)
[15] 第二章 Sis puella magica! (2)[ちゃくらさん](2012/04/08 22:57)
[16] 第二章 Sis puella magica! (3)[ちゃくらさん](2012/04/08 23:11)
[17] 第二章 Sis puella magica! (4)[ちゃくらさん](2012/04/08 23:13)
[18] 第二章 Sis puella magica! (5)[ちゃくらさん](2012/04/08 23:18)
[19] 第二章 Sis puella magica! (6)[ちゃくらさん](2012/04/08 23:22)
[20] 第二章 Sis puella magica! (7)[ちゃくらさん](2012/04/08 23:24)
[21] 第二章 Sis puella magica! (8)[ちゃくらさん](2012/04/08 23:27)
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[32676] 第一章 我が征く道は荒涼の、共は引き摺る影ばかり(11)
Name: ちゃくらさん◆d45fc1f8 ID:c85bc427 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/08 10:11
《鹿目まどか》とは何だ、と聞かれれば?

 美樹さやかにとっては『色々あったけど大事な親友』であり
 巴マミにとっては『かわいい後輩であり、自分達の希望』である
 暁美ほむらにとっては『唯一で最高の親友』となる……若干粘着質ではあるが……

 それでは、佐倉杏子にとって《鹿目まどか》とは何なのか?――それは唐突に聞こえるかもしれないが、そのものズバリ《神》と言ってもいいだろう。
 元々彼女は信仰心の深い少女だった。だが、信仰した神と自分の《祈り》に裏切られ、孤立無援になってからは、誰にも心開かず、誰も信じず、もう救われない、と諦めていた……そして《鹿目まどか》と出会った。
 《鹿目まどか》は杏子に心開いた。杏子の想いを信じた……そして、幾つかの繰り返しの後、自分達魔法少女全てを救った。自分自身の命と存在を引き換えに……
 その結果、彼女の信仰心が全て《鹿目まどか》に傾向していったのは、それ程不思議な事ではない。まあ運良くと言ってもいいか判らないが、普段の《鹿目まどか》と接する機会が少なかったのも原因の一つだろうが……
 感謝が敬意になり、敬意が親愛になり、親愛が信仰となり、信仰が……狂信へと昇華していったのが、今現在の佐倉杏子である。

 《鹿目まどか》が聞けば『恥かしいよ~ やめてよ杏子ちゃん~』と言うだろうが、佐倉杏子の心理状態をストレートに表現するなら

『我等は《まどか》の代理人 《奇跡》の地上代行者 我等が使命は 我が《まどか》に逆らう愚者をその肉の一片までも殲滅すること――――エエィメエエエエーーーーン!!』
 ※CVはOVA版ヘル■ングの某神父(但し前半のまだ声に張りがある状態のモノ)で再生してください

 となる。結果、知らぬ事とは言え《まどか》の事を『幼稚』だ『馬鹿』だ『生臭坊主』だ『詐欺師』だ『デブ』だ『鈍亀』だと言ってしまったエヴァンジェリンに《死刑》が下されるのは当然の判決といえよう。

まるで、イ■■ム教徒の聖地メッカに、村上隆が巨大な美少女フィギアを作り『僕の考えた《アッ■ーちゃん》です。可愛いでしょう?』と言うが如く――
まるでガッチガチの律ちゃんファンの前で『アイマスは2のほうが面白いね』とか『何オープニングでアイドルのコスチューム着て踊ってんだよwこのババアw』とか言ったが如く――

――裁判長自身が『楽に死ねると思うなよ……』と宣告しても可笑しくない状況であった。


 道にだだ 身をば捨てんと 思いとれ    かならず天のたすけあるべし

      島津日新公いろは歌より


  第11話  The Final Decision We All Must Take


「長谷川流超魔槍術 奥義 覇唖圏停諏戸於流(ハーケンディストール)!!」

 高ヶ度から振り下ろされた千雨の槍撃が衝撃波となり、エヴァンジェリンに襲い掛かる。

「チッ、そう何度も喰らうか! 」

 相変わらず魔法衝壁は破られているが、エヴァンジェリンはその一瞬のタイムラグを上手く使い、致命傷を避けている。とは言え、最初のダメージが後を引いているのかエヴァンジェリンの動きは鈍く、徐々にではあるが傷は増えていっている。
 千雨としては早期決着を目指し、畳み掛けるように攻めていく。

「天覇絶槍!!」

 そう叫ぶや否や槍が二本に分裂し、左右の手に其々持つ。そして二本の槍を、ワン・トゥーとパンチを撃つように、超高速で突く、何度も突く、目にも止まらぬ速さで突き続ける。

「長谷川流超魔槍術 奥義 双撃千峰塵!!」

 魔法によって強化された槍撃が、エヴァンジェリンに壁のように立ち塞がり、嵐のように吹き付ける。

「くっ! どれもこれも無茶な技だな!!」 

 エヴァンジェリンは鉄扇を使って防御しているのだが、全てに対処出来るわけも無く身体のあちこちを削っていく。悪態をつき、攻撃を捌いていたが、それで精一杯なのか踵までしっかりと踏みとどまり、とても回避行動をとれる余裕はなかった――千雨が待ち望んでいたのはこの状態だった。

「勝機! 布璃射図鞭戸(フリーズベント)!」

 千雨はそう叫ぶと、片方の槍を地面に突き刺した。槍は地中に埋まるとエヴァンジェリンに向かって突き進む。地表に衝撃波が吹き出るほどの速度でエヴァンジェリンの手前までくると、穂先が地上に顔を出した。その直後、穂先が複数に別れ紐状になってエヴァンジェリンに絡みつき、完全に拘束していく。

「糞、長谷川の奴、どうするつもりだ!?」

 エヴァンジェリンは眼前で拳法っぽい構えを取っている千雨を睨む。千雨は残った一本の槍を投げ、こう叫ぶ 『長谷川流超魔槍術 奥義 弩羅虞烈堕亜(ドラグレッダー)阿弩鞭戸(アドベント)』
 と。するとその槍は輝きながら形を龍に変え、千雨の周りを静かに漂っている。

「長谷川流超魔槍術 奥義 譜逢鳴鞭戸(ファイナルベント)!!」

 千雨はそう叫ぶと空高く舞い上がり、回転と捻りを加えながら体勢を整える。

「断じてそれは槍術とは言わんぞーー!」

 エヴァンジェリンが、見る者全員が『確かに』と思うツッコミを入れたその時、中空に巨大な魔方陣が発生した。千雨はその魔方陣を足場として《蹴りつけ》超スピードでエヴァンジェリンに向かって行く。その間も《弩羅虞烈堕亜(どらぐれっだー)》は千雨の周りを螺旋状に漂い同じくエヴァンジェリンに向かって行く。この様子を見た特撮ファンならこう言うだろう――『まるで龍騎のファイ■ルベントみたいだ、と』――当にその通りである。

「なんだその無駄に派手なエフェクトはーー!!」

 そう叫ぶエヴァンジェリンの声も空しく、千雨の《蹴り》と《弩羅虞烈堕亜(ドラグレッダー)》の突きが同時に刺さり、エヴァンジェリンは彼女を拘束していた槍ごと、木々をなぎ倒しながら50メートル程吹き飛ばされた。




 千雨が《全力全解》を開始した頃、それを傍観していた者達は混乱の渦中にいた。最初は『魔法無しにしては良くやっている』との評価だったのが、いきなりエヴァンジェリンを半死半生にして、尚且つ変身までした……どう考えても《魔法》で。

 驚愕する者、畏怖する者、そして……

『これで、超からの特別ボーナスは確定だな……』

 そう考えるのは勿論 龍宮真名である。彼女は超に『この戦闘の一部始終を記録して欲しいネ』と依頼を受けていたのだ。また『面白いモノが撮れれば別にボーナス着けるヨ』とも言われていた……が、まさかこんなモノが撮れるとは想像だにできなかったが……

「た、龍宮……何が起こっているんだ……」

 桜咲はかなり動揺しており、龍宮の腕を掴んでプルプルしながら揺すっていた。流石に千雨と戦っても、相打ちに持ち込むことすら難しいとなれば、近衛を護りきることなど不可能。不安になるのは判るのだが……

『あんまり揺らされると画像の質が……』

 そう思った龍宮は、桜咲が静かになるように

「落ち着け桜咲、お前が慌てても仕方なかろう」

 と諭したが、桜咲はかなりテンパっていた。

「だ、だがな龍宮! も、もしアイツがこ、このちゃんに牙を剥いたら……」

「餌付けしとけばいい。これでもう大丈夫だ、問題ない」

「そ、そやけどウチラ味付けが京風やから、コッチ育ちのアイツの口に合うかどうか……」

 龍宮としては、桜咲が日頃厳とした態度を振る舞っていつつも、脆い処があるのは察していたが、ここまでグダグダになるとは思ってもいなかった。あーもうやってられねえ そう思った龍宮は、目で高畑に助けを求めた『何とかしてくれ』と。それを見た高畑は『ヤレヤレ』という表情で、桜咲を嗜めた。

「刹那くん、もう少し長谷川君を信じてあげてくれないかな? 彼女は無闇矢鱈に暴力……は兎も角、無抵抗の人に牙を剥くような人ではないんだから……」

 龍宮は何気に評価の低い長谷川の事を哂いつつ、全然動揺してない高畑先生が気になり

「高畑先生は、余り驚いていませんが、この状況を予測しておられたのですか?」

 と聞いた。この質問に桜咲は目を輝かせ、何か期待する目で高畑を見た。高畑は苦笑しつつ

「いや、正直長谷川君には驚かされたよ、封印されているとはいえ、エヴァを圧倒しているし。純粋な戦闘力なら、僕といい勝負かもしれない……」

 一旦話を止めた高畑先生に、続きを促すよう龍宮は問いかける

「だが、負けはしない、と?」

 龍宮の感想に肯定も否定もせず

「最初の頃の戦い方は良かった。自分の限界を理解し、出来る事をしっかり積み重ねていく……だけど変身してからは合格点には届かない。完全に《力》をコントロール出来ていない……もしかすると、あの状態での戦闘は初めてなのか? と思えてしまう」

 なにより と高畑は話を続ける――それらの話に桜咲は一字一句聞き逃さないよう耳を傾けていた。これで綺麗に撮影できると、龍宮は内心ほくそ笑んでいたりもする。

「最初の一撃以降、攻撃力が落ちている、明らかに手を抜いている……いや消耗を恐れていると言った方が良い。だとすると、長谷川君の《力》には何らかの制限がある……時間か、魔力かは判らないが……だが」

 高畑は遥か遠くの戦場を見つめ、残念そうな表情をして自分の分析を語った。

「その手はエヴァに対して悪手に他ならない。彼女が《闇の福音》として怖れられたのは、何も強大な力だけではない……遥か昔より圧倒的に不利な状況でも勝利を収めてきた、その戦闘経験を忘れてはいけない。恐らく、今はエヴァが不利に見えるかもしれないが、あの戦闘をコントロールしているのは間違いなくエヴァの方だ。おまけに……」

 高畑は煙草に火を付け、静かに紫煙を吐く。その煙が心情を表しているかの如く空しく漂う。

「戦闘開始前、学園長に『最悪のケースを鑑みて、封印解除の用意をしておく様』申請し、それが了承されたのだから……」

 形だけの喫煙を終え、煙草を握りつぶしながら、高畑は結論を述べた……苦々しい表情で。

「この戦い、長谷川君の勝機は……ゼロだ」


 千雨は先程の攻撃を『威力でかいが隙もデカすぎ』と自己採点しながらも、幾度目か忘れたが心の中でこう叫ぶ。

『またか!!』

 圧勝中にしか見えない千雨だったが、内心では苛立っていた。『画竜点晴を欠く』の如く、全ての攻撃が肝心なポイントで外されている――100点満点中85点を確実に積み重ねているが、肝心な処の15点が奪えない。柔道でいう処の『効果』は積み重ねているが『技あり』以上が取れていない。
 また千雨自身の心境にも変化が起きていた。《まどか》を愚弄された怒りはまだ癒えていないが、《殺意》は徐々に薄れていっている。これはエヴァンジェリンをフルボッコにしたことで溜飲が下がったのが一つ、それに加え《長谷川千雨》はまだ童貞を卒業(殺人を経験)していなかったのが大きい。意外というか当然というか、《佐倉杏子》は兎も角、千雨はまだその境界線を超えていなかった。

『敵の血潮で濡れた槍。地獄の893と人の言う』

がモットーの修行時代でも精々重傷者止まりであった――精神的ダメージは兎も角――修行相手にプロシュートのアニキはいなかったし、伊達師範の組事務所がブラジルのストリートギャング位悪逆ではなかったのも原因と言える。

 だが今、千雨を一番迷わせているのは、やはりというか『ソウルジェムの侵食による、破滅への恐怖』であろう。
 千雨は感じていた。自分のソウルジェムが消耗している事を、まるで秒針が時を刻むように少しづつ、確実に進行している事を。

蓄    濁

蓄    濁 と。

 最初にエヴァンジェリンを攻撃した時には、そんなことは何も考えていなかった。相対死上等! 死中に活あり、と全力でぶちかましていた。その後、想定外の事態が発生した……しかも4つも。どれも良いニュースのようであったが、同時にマイナスの効果もデカかった。
 一つはエヴァンジェリンの《力》が予想よりも低かった事、拘束、もしくは封印でもされているのか? 原因は不明――千雨には判断できない。
 二つ目は魔法少女になってからの攻撃力が想像以上であったこと、三つ目はソウルジェムの侵食が予想より緩やかであったこと。
 最期に、ソウルジェムの汚れ具合を感覚的に把握できたこと、である。

 初めの3つは千雨の心に余裕を与え、最期の一つは千雨の歩みを遅くする。
 初めの3つで千雨は《生》の可能性を思い起こし、最期の一つで千雨は《死》を常に意識してしまう。
――結果として千雨の『決死の思い』は薄れていき、魔力の行使に躊躇してしまう、それが更に必要以上の消耗を招いてしまう事となる――好事魔多しとはよく言ったものだ。それが《ある者》の誘導であったのだから始末におえない。

 この煮え切らない事態を打破すべく、千雨はエヴァンジェリンに攻撃を畳み掛けようとした――その時、森の奥で《何か》が湧き上がった。
 見える訳ではないのに、確かに何かの《力》で溢れているのを千雨は感じる。全身の毛穴が開くのを感じながらも、汗を一滴流す余裕も出で来ない畏怖の念――エヴァンジェリンの魔力が爆発的に増大した――おそらく封印が解けたのだろう、と千雨は直感する。
 溶けた鉄がこちらに流れてきたかの如く、むせ返るほどの熱気……正確には冷気だが……が千雨を襲う。

「おいおい、何回パワーインフレのシーソーゲームが続くんだ? BLEACHでも二ヶ月は持たせられる展開を、たった一晩で消費するとは……なんとも勿体無い話だぜ」

 そういいながらも千雨の瞳には、消えかかった闘争心が再び燃え始めた。もう油断も慢心も何処かに消え去り、覚悟完了の四文字が頭の中に浮かび上がってきた。
 千雨の準備が整ったのと同時に、森の奥からエヴァンジェリンが静かに近づいている。
 ヤル気に溢れた千雨の表情を見たエヴァンジェリンは、何とも表現しがたい複雑な心境を顔から滲み出す。どの位複雑かといえば

『驚愕40グラム、納得25グラム、憤怒15グラム、照れ隠し5グラムに闘争心97キロで彼女の表情は錬成されている』
……当然の事ながら『照れ隠し5グラム』は嘘である。

 少し思案するとエヴァンジェリンは天を見上げ、怒気を含ませた声で叫んだ。

「ジジイ! 余計な手出しをするな! ……今度舐めた真似をしたら、只ではすまさんぞ!!」

 そして暫くすると、エヴァンジェリンの魔力は霧散していき。戦闘前の状態と並んだ。とはいえ今まで与えたダメージも消滅しているようなので、千雨が不利であることは変わりなかった。

「テメエ、何考えてやがる?」

 何がどうなっているのか判らない千雨は問いかける。エヴァンジェリンは当初の怒りは何処に行ったのか、穏やかな口調で答えた。

「ん? 大した事ではない。此方は貴様が『死人』だと勘違いしていた。だから身体ごと消滅させて、成仏させてやろうと思ってな……憂さ晴らしも兼ねて隙あらばと狙っていた。それを中止しただけだ」

 エヴァンジェリンはぶっちゃけて言い、尚話を続けた。 

「一応『学園長』からは『殺すな』と言われていたのだがな、『死体を殺すな』など訳判らん! と思っていたら……何とそんな不細工は状態とは言え、キサマは『生きていた』と気付いた。生きている以上『女子供は殺さぬ』よ。私の矜持に懸けてな……」

 かいつまんで説明すると、学園長としては
  ・何かと凶暴な千雨への警告と威力偵察
  ・他の魔法関係者が抱えている不安の払拭
  ・出来れば裏側への勧誘(無理なら記憶調整)
  ・エヴァンジェリンのガス抜き(これ重要)

 と何かと欲張りな計画だったらしい……ぶち壊しにしてやったがな! エヴァンジェリンとしては
  ・憂さ晴らし(本音)
  ・好き勝手やっているコイツ(千雨)に、この《世界》の仁義を叩きこんでやる
  ・死体が生きて喋って動いている。ムカつく、藁のように死ね!
  ・コイツ(千雨)の全てが気に入らない。絶対〆る
  ・某塾長への私怨
 がこの仕事を請けた理由らしい……聞くんじゃなかった……

「で? この後どうするんだ?」

 という千雨の問い掛けにエヴァンジェリンは『はあ? なに言ってんだ?』という顔をし、さも当然と言いたげな口調で答えた。

「決まっているだろう――これからは此方のターンだよ! 」

 全身から闘気を滲ませ、エヴァンジェリンは構えた。

「やっぱりそうなるのかよ! コンチクショー!!」

 やけっぱちに叫びながら千雨も構えた。その場に緊張感が高まっていく中、ふと思いついた疑問を千雨は問う。

「っていうか、ヤル気だったら何で封印を元に戻したんだ? あのままの方が楽だったろうに?」

 エヴァンジェリンは不満げでいて、少し嬉しそうな口調で答えた。

「エヴァンジェリンA・K・マクダウェル――この名は、裏の世界では特別な意味を持つ。それは『悪』であり『厄災』であり『恐怖そのもの』ともいえよう……事実、封印され力が発揮できなくとも、周りの怯えが無くなることは無かった……だが」

 千雨を見据えて話を続ける。

「キサマはその《本来の私》を見ても怯まなかった……逃げようともしなかった。そんなキサマを全力で斃したとしても、私の銘が廃る、見ている連中に舐められる。だから今の状態、封印された状態でキサマを斃す! 〆る! そうして初めて我が名誉は回復し、我が銘を恐怖と共に刻み付けることが出来るのだ! ……それにな」

 エヴァンジェリンはニヤリと勝ち誇ったかのような、計略が成功した軍師のように自慢げな笑みを見せて、言い放つ。

「実際、勝って尚且つ生き残る為なら、この状態の方が勝率が高かったから、な」
 
 は? 千雨の意味わかんね? という表情に対し、エヴァンジェリンは上から目線で丁寧に説明していく。

「私が本気になれば、キサマに勝ち目はない……相打ちに持ち込まない限り、な。だが他に選択肢が無くなれば、キサマは捨て身になるのも厭わない。それがシンプルで唯一の答えだからだ……だが」

 クライマックスで全ネタバレしようとしている悪の親玉の如く、エヴァンジェリンの話は続く

「今の私ならどうだ? 命を懸けなくても、全力を出さなくても勝てるのではないか? 少なくとも今、オマエはそう考えていたはずだ……そしてそれが『選択肢』となり『迷い』に繋がる……魂を代償に魔法を使うキサマなら特にな」

「……!!」

 千雨の驚愕も余所に凶悪な笑顔でエヴァンジェリンが独白していく。

「最初キサマは、何も考えず純粋な『怒り』で攻撃してきた。もしそのままの状態で戦っていれば、もう勝負はついていただろう……キサマの『勝ち』でな。だが『怒り』では爆発的なブーストが懸かりはすれど、威力を持続させる事は出来ない……『憎しみ』や『悲しみ』または『愛』でもない限りな…… そして私を『弱い』と感じた。『勝てる』と思った! 『生きられる』事を意識した! 意識してしまった!!」

 千雨はもう何も喋らない。只誰からみても動揺しているのが判る。

「結果、死への恐怖が心を侵食していき、キサマは自分を縛り、自分を限定していく。100の力を出せば勝てる処を、無意識に90で善しとし、魂の損耗が80にまで抑えてしまう。そして一度折れてしまった心は、そう簡単には戻らない……まあこれはキサマのせいではない、悪いのはそんな欠陥だらけのシステムを作った奴だからな」

 いや、実は良く出来たシステムなんだよ、ある意味ではね……千雨はそう考えながらも口には出さない、いや出せない――此れまでの戦闘で腑に落ちなかった事が全て繋がったからだ――目の前の女が立てた作戦がようやく理解出来たからだ

「テメエ……イカレてやがる……」

 この言葉もエヴァンジェリンにとっては賞賛のようなものらしく、誇らしげに嗤っていた――千雨に見えていたものは《逆》だったのだ。エヴァンジェリンは『致命傷にならないように』避けていたのではなく、『千雨の戦意が維持される程度』斬らせていたんだ、と――確かに避けきったり、完全に防御していれば、より強い攻撃を、と考えていただろう……だがどう考えてもマトモじゃない。というかどう考えてもクレイジーな作戦である。だからこそ今までバレなかったのだとすれば、ルルーシュ顔負けの策士(藁)と言うべきか……

 そうやって精神的に不安定にしておいて、一瞬の隙を突くつもりだったのだろう。事実千雨は完全に萎縮していて、迷いが生じていたのだから……そして皮肉な事に、学園長によるエヴァンジェリンへの支援が、結果的に千雨を助けた事になる……いや、恐らく学園長による『もういいかげんに止めね?』というシグナルなのだろう。まあ一応学園長の顔を立てるというか、アリバイ作りの為か、千雨はエヴァンジェリンにお伺いを立ててみた。

「ちなみに、学園長はもう止めろよって言ってんだが……それでもヤルのか?」

 その問いにエヴァンジェリンは苛立ちも露に吼える

「ジジイが何と言おうが知ったことか! もうこれは私の面子の問題だからな、せめてキサマを、茶々丸と同じ目に遭わせなければ気が済まぬ!!」

「それされると、普通ならアタシが死ぬんだがな……」

 千雨のツッコミのにもエヴァンジェリンは皮肉たっぷりに答える。 

「キサマが《普通》ならな。案外『エイリアン2』のビジョップのように生きていられるかもしれんぞ?」

「最終的には死んでんじゃねえかよ!」

 と言いながら千雨は 勘弁してくれ と言いたげにオーバーアクションで身体を右に捻り、天を仰いだ。が、次の瞬間には身体の捻りをバネ替わりに、フィギィアスケートのトリプルアクセルの如く華麗なジャンプを披露し、エヴァンジェリンとの距離を縮める。不意打ちとしては百点満点の流れだろう。
 そして 先手必勝! とばかりにエヴァンジェリンに突きを入れる。その流れるような動作は不自然さを一切感じさせず、その槍は瞬きをする間もなく、心臓を抉っているだろう……相手がエヴァンジェリンでさえなかったら……
 裏をかいたとは思わない、だが絶え間なく攻撃することで、エヴァンジェリンの魔法をある程度封じることは出来るだろう。そう思った千雨は避けられる事を覚悟の上で高速攻撃を繰り出す。

 だがその攻撃は一体の乱入者によって妨げられる。

「ケケ、間一髪ダッタナ、ゴ主人」

 千雨とエヴァンジェリンの間に割り込んだのは、北斗の拳に出てくるような刺々しいナイフを持った人形であった。千雨の突撃をナイフで捌きながら、カウンターを入れる為か間合いを詰めてくる。千雨はそれをかわす為足を止めざるを得なかった。

「テメエ!何しやがる!!」

 怒る千雨の声も無視して、その人形はケケケと笑いながら、隙なくエヴァンジェリンへの路を塞いでいた。

「チャチャゼロ、一分でいい時間を稼げ。さっきの魔力回復時に、それだけの力は与えたはずだ」

「マカセナ! ダケド時間ヲ稼グノハイイガ……別ニ《アレ》ヲ倒シテシマッテモ構ワンノダロ?」

「堂々と、死亡フラグ吐いてんじゃねえぞ!」

 そう言いながらも千雨は、この不利な状況に焦りを感じていた。間違いなく先程のネタ晴らしは、この為の時間稼ぎだ。最初の方でやっていたプロレスみたいな『相手の技を受けて尚勝つ!』と同様、エヴァンジェリンは千雨より一歩先んじて策を練り、それを悉く成功させている。そんなエヴァンジェリンが《一分》かかる《何か》をやろうとしている……マズイ 大変マズイ 千雨は何とか阻止しようと動くのだが、チャチャゼロがそうはさせじと動き回る。

「ホラホラ、余所見シテイル場合カ?」

 チャチャゼロの鋭い斬撃を、千雨は槍で防ぐ。自分より速く小さく、使い魔より悪辣な動きをする相手は初めてなので上手く対処できない。槍では間合いの内側に入り込まれれば不利になる。

 「クソッタレが!、舐めんなよゴルァ!」

 千雨はそう叫ぶや千雨は槍を投げ捨て、懐からマグナムスチール製のナックルサックを取り出し、肉弾戦で対処する事にした。

 そうしている内にエヴァンジェリンが懐から魔法薬を10本程取り出して、呪文を唱え始めた。

「ウェニアント・スピリトゥス・グラキアーレス……」

 千雨は『間に合わなかったか!』と心の中で叫んだが、目はチャチャゼロから離さず、ジャブで牽制しつつぶちのめすチャンスを伺っていた。

「ナンテコッタイ! コイツ、インファイトモ出来ルノカヨ」 

 チャチャゼロのぼやきも慰めにはならず、千雨はナックルでナイフを受け止めつつ、アッパー、フックを織り交ぜて、徐々にチャチャゼロとの間合いを取りだした。

 エヴァンジェリンの方も下準備が終わったのか魔法薬が氷に、否 とてつもない凍気の塊と化していた。それを掲げて再度詠唱を始めた。

「スタグネット・コンプレクシオー……」

 それと同時にエヴァンジェリンの肉体が徐々に変わっていく。《ヒト》から《人型のエネルギー》へと変質していく。

 まだだ! まだ焦るな! 千雨は心の中の焦燥を隠してチャチャゼロと対峙する。チャチャゼロの方も打撃戦におけるウェイトの差がジワリと出てきたのか、インファイトからヒット&ウェイに変更しようと千雨から間合いを取ろうとした……この瞬間を千雨は待っていたのだ!

「喰らえ!鶴足回拳!」

 千雨の爪先から ジャキッ と刃物が飛び出しそれを蹴り上げてチャチャゼロを斬ろうとする。

「ナンダソレハ! クソッ、オレモソレ欲シイゼ!!」

その斬撃をチャチャゼロは身体を捻ってかわす。千雨の作戦が失敗したかに見えたが……千雨は足を高々と上げ、上半身を捻り『溜め』を作っていた。そして足を降り下ろし、重心を移動させながら『溜め』を全放出してフィニッシュブロウを放った。

「長谷川流超魔体術 奥義 超弾動ジェット・ソニック・マッハ・パンチ!!」

 多少の防御や回避など問題とならない規模の衝撃波がチャチャゼロを吹き飛ばし、地面や木々ごと抉り飛ばしていく。
 この様子を見てもエヴァンジェリンは、眉をピクリとさせるだけで詠唱を続けていた。
 
「させるか!!」

 千雨はナックルを投棄し両手で鶴嘴千本を取り出し、エヴァンジェリンに投射しようとした、その時

「サセルカーー!!」

 チャチャゼロは叫びつつ千雨に向かって突進していった。持てる力の全てを振り絞ったスピードに千雨は対処できない。当に捨て身の攻撃である。
 千雨は状況を考察する。
時間は切羽詰っている。両手は鶴嘴千本で塞がり格闘に対処できない。
今投射してもチャチャゼロがナイフを投げて妨害可能……却下
先にチャチャゼロを排除してもタイムオーバー……却下
鶴嘴千本を捨てても結果的には同じくタイムオーバー……却下
……なら!!

「タマ取ッタゼーー!」

グサリ

 チャチャゼロのナイフが千雨の腹部に刺さる。追加でダメージを与える為、チャチャゼロはナイフを グリッ と捻り、より肉を抉ろうとした。
 千雨はかつて伊達師範にもこうするように教わったが、効果の程は今回初めて実感できた。痛い、というより熱い。灼熱の鉄棒を突っ込まれたような感覚だ……だがこれも計算の内

「ドウダ! マイッタカ……ガアアアア!! テ、テメエ!!」 

 千雨は左手にもった鶴嘴千本をチャチャゼロに突き刺し、身動きがとれないようにして、右手の鶴嘴千本をエヴァンジェリンに投射した。

「マズイ! ヨケルンダ、ゴ主人ヨ!」

 エヴァンジェリンは詠唱を止める事無く最小限の動きで避けようとした……のだが、2本だけは避け切れなかった。実はこの2本は特殊で、他の鶴嘴千本の影に入るよう投射され、視認されにくいよう細身になっていた。

ザク ザク 

……その2本が刺さってもエヴァンジェリンは一切動揺せず、呪文を詠唱しきった。

「……アルマティオーネム!」

 そう唱えた直後、エヴァンジェリンが変質していき、身体に謎の紋章が浮かび上がっている。『闇の魔法』による強力な魔法の装填が完了し、全体的な強化が行われたのだ。最初使っていた《魔法の矢》の攻撃など、今のエヴァンジェリンによる打撃一発分にもならないだろう。
 たとえ封印により魔法が射出出来なくても、こうすれば弱体化した今の状態でも強者と渡り合えるようになるのだが……

ズブリ

 エヴァンジェリンは刺さった鶴嘴千本を2本とも引き抜いた――それぞれ咽喉と右目にささったモノを――

カラン

 抜いた鶴嘴千本を投げ捨て、エヴァンジェリンは首を傾げたり、肩を廻したりして、身体の調子を確かめていた。その後、千雨の方を見て言い放つ。

「いい判断だったな。投射が後一秒遅かったら、無効化されていただろう」

 ガス欠になったチャチャゼロを放り投げ、腹部の傷を鋼糸で縫いつけて応急止血した千雨は、悔しそうに尋ねる。

「畜生……刺され損かよ」

「いや、咽喉のは兎も角、右目は暫く使い物にならない。70%だった勝率が60%に下がったぞ……ククク、やってくれたな!」

 実の所、右目のダメージはデカかった。今でも絶叫したい位の激痛が走っている。だが、千雨の奴が腹を刺されて平然としていたので、意地でも音を上げなかった――千雨も同じような事を考えていたと知れば、どんな反応をしたのかは興味がある。

「この闇の魔法の効果時間はおよそ30分。凌ぎきったらキサマの勝ち。ダメだったら私の勝ちだ! さあ! のるかそるかの大勝負! この私がここまでしたのだから、簡単にくたばるなよ、長谷川千雨!!」

「独りでマスかいてんじゃねえぞ! このズベ公が!!」

 双方共に退路を断ち、只、目の前の怨敵を叩きのめす事のみ考え衝突する――この戦いは最終局面に達した。


「ハァーーー!」
「うりゃーー!」
 両者叫びながら突進していく。そして衝突すると

ガツッ 

と首四つに組み合い、押し合いが拮抗している――いわゆるロックアップの状態である。そのまま力比べになるかと思いきやエヴァンジェリンは力を抜き千雨の懐に入り、首投げの要領で投げ飛ばす。

「クソッ! 矢張り経験や判断力じゃ勝てねえか……」

 千雨が背中から叩きつけられると、その上からエヴァンジェリンが覆いかぶさろうとしている。恐らくそのままマウントポジションに持ち込み、ボコボコにするつもりだろう……だが

「させるかーー!」

 千雨は叫びつつ両腕を地面に叩きつけ、海老反りになった反動で身体を浮かび上がらせる。千雨の顔はエヴァンジェリンの眼前まで近づき、エヴァンジェリンの驚いた表情もはっきりと確認できる。千雨としてはそれで終わらせるつもりも無く

「ふん!」

 と海老反りになった状態から反動と腹筋を使い、エヴァンジェリンの鼻先に、千雨は頭突きを御見舞いする。

メキッ

「!!」

 エヴァンジェリンが声にならない絶叫を発した隙に、千雨はエヴァンジェリンを上空に蹴り上げる。本来なら空中で体勢を整えたり、浮遊魔法を使えば空中で制止出来るはずなのに、エヴァンジェリンは混乱した様子で空を漂っている。

「まだまだ!」

 千雨はエヴァンジェリンに向かってジャンプし、再度頭突きをかまして更に高く、エヴァンジェリンを打ち上げる。それを何度か繰り返し、このまま落ちたら只では済まない高度まで持って行った。

 タネを明かせば千雨が頭突きの際、魔力も一緒に打ち込みエヴァンジェリンの三半規管を麻痺させ、上手く対処出来ないようにしているのだった……全ては最期の大技の為に。

「覚悟しろよエヴァンジェリン! 長谷川流超魔体術 奥義 ハセガワリベンジャー!!」

 そう言って千雨はエヴァンジェリンの所までジャンプし、身動きが取れないよう各関節を固めて、そのまま落下していく――その真下には圧し折れた巨木が、落下してくるものを串刺しにしようと、杭のように待ち構えていた。

 余談ではあるが、同様の技として《ハセガワスパーク》というのもある……残念ながら《ハセガワインフェルノ》は修得できなかったらしい……そして、これらの技は比較的余裕がある時に使われる。絶体絶命の場合なら《ハセガワローリングクラッシュ》《必殺暗黒流れ星》と言う技を使うらしい……

ガガガッーー!!

 そのまま落下すると、折れた巨木のささくれ立った棘が、エヴァンジェリンに刺さり全身がズタズタに切り刻まれ、肩、腰、首 各関節に尋常ではないダメージを与えた。

「オラ! 寝てんじゃねえぞエヴァンジェリン!!」

 そう言ってエヴァンジェリンの髪を掴み、畳み掛けるように攻撃しようとした……のだが

「ハハハハーーーセーーガーーワ!! 痛いじゃねえか!!」

 全身血まみれで悪魔のような容貌のエヴァンジェリンが、髪を掴もうとした千雨の手を撥ね付け

「おいたが過ぎるぞー!! 長谷川!!」

バシン!!

 千雨の顔面にフルスイングのパンチを打ち込む。千雨はそのまま20メートルほど吹き飛ばされる。

「畜生! まだまだ元気じゃねえか! あのアマ!!」

 千雨は口元の血を拭い、立ち上がろうとすると

「ハーセーガーワー! もっと楽しませろよ! キサマもヒイヒイ喘がせてやるからよ!!」

 暴力と理不尽を具現化したような存在となったエヴァンジェリンが、間髪置かずに千雨に向かって瞬動で接近してくる。《闇》に呑まれ完全にリミッターが振り切れているようだ。

「テメエが言うとヱロく聞こえるんだよ!」

 千雨は叫びながら《槍》を具現化しエヴァンジェリンを迎撃する準備に入る。穂先をエヴァンジェリンに向け、絶好のタイミングを計りつつ待ち構えた……後3メートル 2メートル 1メートル  今だ!!

「長谷川流超魔槍術 奥義 武羅津禰素倶羅斐弩(ブラッディスクライド)」

 そう技の名を叫びつつ千雨は槍を突く。手首のスナップを効かせ、捻るように突く。技としては単純であるが、それに魔法を上乗せすることで、槍が当たらなくても衝撃波で多大なダメージを与えられるのだ、しかもカウンターとなれば効果は絶大である。
 エヴァンジェリンは避け切れなかった。直撃はかわしたようだが、槍が近くを通った顔左半分と左肩をズタズタに切り裂かれて……も尚、千雨に向かって突き進む――どうやら『避け切れなかった』のではなく『避け切らなかった』ようだ。突撃のスピードは一切衰える事無く千雨の懐に飛び込んだ。そして左掌を千雨の胸に叩きつける。

パン

 思ったより軽い音に千雨は安堵する。身体へのダメージも軽微のようだ、と安心してエヴァンジェリンの様子を見た時――千雨の顔から血の気が引いていた――エヴァンジェリンは右掌を振りかぶり、打ち付けようとしたのだ――自分の左掌の上に。

 マズイ! これは……鎧通しだ!! そう思った時

ボウン!

 鈍く響く音がした時、千雨の身体は全身が震え、、よろめく様に2・3歩後ろに下がっていく。
 エヴァンジェリンとしても会心の攻撃で、これで勝負がついたと思っていた。と言うよりもこれ以上の戦闘は困難である――事実右目に続いて左目もダメージを受けてしまい、千雨の位置がぼんやりと判る程度の状態となっていたのだ。

「むぁ、ば……だまだ!!」

 だが、千雨は気合で踏ん張り、槍を鎖状に変化させエヴァンジェリンに絡ませ、そしてそれをハンマー投げの要領で回転させる。

「軍神(ムロフシ)降臨!! は、長谷川流超魔鎚術 おう……ぎ! 大秩父山 おろし!」

 吐血しながらも千雨は手を緩めず、その回転は徐々に速度を上げ、同時に威力も増していく……そして

「粉砕!」
ドゥーン!   横回転だったのを腕力で無理やり縦回転にし、地面に叩き付ける。

「爆砕!」
ビシリ!!   槍を通常の形態に戻すことにより、高速で近づいてくるエヴァンジェリンを、カウンター気味の打ち下ろしで地面にめり込ませる。

「大・喝・采!!」
ズブリ!!   千雨は渾身の力を込めて、槍をエヴァンジェリンの腹部に突き刺す 槍は完全にエヴァンジェリンを貫通し、槍を持つ千雨の手がエヴァンジェリンに触れる位、両者は接近していた。

「まさか……ここまでやるとは思わなかったぞ……さっきの鎧通しで、肋骨が肺はおろか心臓にまで刺さっているとゆうのに……キサマ本当に人間では無いのだな……」

「う、うるへえ……んなことは、言われなくても……分かって……グフッ!」

 エヴァンジェリンの驚愕に、千雨は血を吐きながら答える。顔を血に染めながらもエヴァンジェリンは話を続ける。

「実はな……さっきタイムリミットは30分、と言ったが……ありゃ嘘だ。本当は10分……もうそろそろタイムアウトだよ……」

「なんだ? 負け犬の泣言か?」

 千雨の挑発にも煽られずエヴァンジェリンは淡々と喋る。この態度に訝しむ千雨は、少し距離を取ろうとしたのだが

ガシッ

 エヴァンジェリンに上着を摑まれ離れられない。

「……おまけに目も見えにくくなっているから、密接していないと攻撃を当てられない……こんな風にな!」

「テ、テメエ!!」

 千雨は激高し、エヴァンジェリンの首を両手で絞めた。このままだと1分もせず窒息か、頸の骨を圧し折られただろう……だがこれは今回、悪手だったといえよう。エヴァンジェリンはフリーになった右手に魔力を集中し、只一点を抉る――千雨の胸のアクセサリーを――

 プツッ
 千雨へのダメージを抑えようとしたのか、自分の消耗を抑えようとしたのか、エヴァンジェリンは只ソウルジェムのみを狙い、引きちぎる。そして残された魔力を注ぎ込んで封印しようとする。

 千雨はその瞬間、何が起こったのか理解できなかった。だがソウルジェムが身体から剥がされ、変身が解けてしまう。魔法の加護が薄まるにつれ、溜まっていたダメージが一気に千雨に襲い掛かる。

「嗚呼アアアーーーー!!」

 先ずは激痛に襲われた。千雨は身体を痙攣させ、手足を縮こまらせる。最早戦闘どころではない。息もままならないのか、血を吐きながら呻く事しか出来なかった。
 その様子をエヴァンジェリンは只見つめている。ソウルジェムと千雨の繋がりを絶つ為、ソウルジェムを魔力の篭った氷で覆いつくそうとしていた。

ガシ

 千雨はエヴァンジェリンの足を掴んだ。最早魔力の加護も無く、おまけに弱りきった女の子の力で握り締める。弱い 非常に弱々しい力――だが自分に残された全てを込めて握り、訴える。

「かえせ……ソレを……ソイツをかえ……せ!」

 千雨の言葉がエヴァンジェリンにどう聞こえたのかは、本人にしか判らないが、表情は何一つ変えず、まだよく見えぬ目で千雨を凝視し、ソウルジェムを凍らせていく。

「ちくしょう……かえ……」

カチン

 千雨の最期の叫びが途切れたと同時に、ソウルジェムは完全に氷で封印された――戦いの、辺り一体に与えた被害と比べて、余りにも呆気ない終焉と言えよう。

「チャチャゼロ、何処だ?」

「コッチダゼ、ゴ主人」

 目の見えないエヴァンジェリンは、声のした方向でチャチャゼロの位置を把握し、回収する。チャチャゼロを頭の上に掲げ、話しかける。

「まだはっきりと見えぬ。だからオマエがナビゲートしろ」

「了解ダゼ。シカシサッキノ戦イ、ハジメテ会ッタ頃ヲ髣髴トサセル、シブトイ、イイ戦イップリダッタゼ」

「…………そうか」

「ソレニシテモアノ餓鬼、戦イ方ガ筋肉馬鹿ソックリダナ……マサカ娘ジャネエダロウナ?」

「それは……無いとは思うが……」

 二人の会話の最中、タカミチがやって来た。千雨の状態を見て顔色を変えたが

「安心しろ、コイツの本体はこっちだ」

 エヴァンジェリンはそう言って、凍ったソウルジェムをタカミチに投げる。そして追加の説明を続けた。

「身体のほうは修復……いや治療した後しっかりと保存しておけ。その《本体》の封印がとければ無事復活するだろう……多分」
 
 エヴァンジェリンの言葉にタカミチは眉を顰めるが、特に何も言わず、千雨を安全な処に運ぶ準備を始める。

「じゃあな、後は任せたぞタカミチ」

 エヴァンジェリンはそう言い残し、茶々丸を回収して帰路についた――その後姿に、勝者の歓喜も威厳も存在していなかった――


 自宅への帰路、エヴァンジェリンは無言だった。体格的にも茶々丸を背負って帰るのはかなり辛い事なのだが、マスターとしての意地なのか、一切表情に出さず、黙々と歩いている……だがチャチャゼロとしてはこんな重い空気の中、とても間が持たないと

「ゴ主人、随分ト御機嫌ナナメダナ?」

 随分とストレートな質問をした。エヴァンジェリンも、付き合いの長いチャチャゼロ相手だと素直に答える。

「……ああ、まさか……たった十年で、ここまで堕落していたとはな……」

 エヴァンジェリンは自分の600年にも及ぶ人生、その殆どを占めていた戦闘経験に絶対の自信を持っていた……だが、先程の戦闘は全く話にならない出来だった……敵を見くびり、窮鼠に噛み付かれるなど、昔の自分だったら憤死ものの醜態である。おまけに千雨には気付かれなかった事実がエヴァンジェリンの心を締め付ける……学園長が封印を解除し、助けようとしたもう一つの理由……エヴァンジェリンが『死』への誘惑に抗いきれなくなっていた事を。

 実際、今のエヴァンジェリンに『生きる目的』は存在しない。待っていた男も帰ってこず、ここから抜け出す術も見つからない。惰性で生きている、と言われても仕方ない現状、突如現れた『千雨』という爆弾――エヴァンジェリンの心を乱し、心をささくれさせ、年甲斐もなくその憤りをぶつけた結果、『奴』はその本性を露わにした――そのその嵐のような暴虐と闘争心、その中でエヴァンジェリンが思った事は二つ。自分をこんな目に遭わせている『奴』に対する怒りと、この現状を許容しようか、という達観、この二つの思いがエヴァンジェリンの心を惑わせていたのだ。
 『奴』の力は『暴力』という表現が一番合っている。凶悪で容赦なく、そして無茶苦茶だ。だがエヴァンジェリンの眼には、それがとても美しく見えた。今までの敵がやっていた『命を懸けて』程度ではなく『命を糧に』揮われたその攻撃は、エヴァンジェリンの琴線に触れる事になる――自分を殺すに値する、自分という存在を粉砕するに相応しいクソッタレな敵、とエヴァンジェリンの心に刻まれたのだ。
 姑息な姦計ではなく、憐憫の情を露わに手加減される訳でもなく、野獣の如く荒れ狂う『力』に蹂躙される――自分にふさわしい死に様と思っていた『それ』が今眼前にあったのだ。自分にふさわしい末路と誘われそうになる『死』と、それでも尚足掻こうとする『生』の狭間で揺れていたのが、千雨に『イカレている』と言わしめた戦闘の真実である。

「結局、私も……このぬるま湯のような世界を満喫していた、ということか……」

 自嘲気味に独白するエヴァンジェリン。チャチャゼロもこれ以上は、と話題を変える。

「ソレニシテモ、アノ餓鬼……アノママ クタバルナンテ事ハ 無イダロウナ?」

「わからん。かなりの消耗が見て取れたが……」

 事実、千雨の《ソウルジェム》はかなりの穢れを溜め込んでいた――総量の約4割弱――つまり後2回、同じことがあれば…………

 エヴァンジェリンは自分の予想に希望的観測が含まれていることを知りつつ、楽観論を唱える。

「だが流石に、何らかの回復手段はあるだろう……そうでなければ……」

 《人》としての常識を元に、ネガティブな思考を否定した。

「……死なせる為に、あんな身体にするなど……意味がない行為だ」

 結果としてエヴァンジェリンの予想は当たっていた――良い意味でも、悪い意味でも――
 数日後、明石教授が《ソウルジェム》を解析した結果を、学園長等に報告した。その結論を要約すると

・長谷川千雨がこのまま魔法を使い続けると、魂が消耗または変質する
・その際、莫大なエネルギーが発生する――その総量は概算で

――《魔法世界》を数百年、維持可能である―― 





 ―予告―

昨日の夜、訳も分からず、悲惨な雨に濡れていた
今日の昼、命を的に拳で憂さを晴らしていた
明日の朝、チャチな信義とちっぽけな保護欲が麻帆良の街に嵐を呼ぶ
2年A組は学園長の創ったパンドラの箱。魔法が使えりゃ何でも出来る

次章『Sis puella magica!』

明後日? そんな先のことは分からない


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