<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.32627の一覧
[0] 【チラシの裏より移転】無限の蒼穹、正義の仮面(IS×仮面ライダー+α)[無銘](2013/09/14 16:43)
[1] 第一話 俺の名は(マイ・ネーム・イズ)[無銘](2013/09/14 16:57)
[2] 第二話 二度目の再会(セカンド・リユニオン)[無銘](2013/09/14 16:59)
[3] 第三話 天地人が呼ぶ者[無銘](2013/09/14 17:00)
[4] 第四話 蒼海の銀騎士(オーシャンズ・カイゾーグ)[無銘](2013/09/14 17:01)
[5] 第五話 父の想いは波の中[無銘](2013/09/14 17:02)
[6] 第六話 鈴と案内人と天才科学者(ガール・ミーツ・ボーイズ)[無銘](2013/09/14 17:03)
[7] 第七話 強くてマダラで優しい野獣[無銘](2013/09/14 17:04)
[8] 第八話 遭難者は筑波洋(スカイライダー)[無銘](2013/09/14 17:05)
[9] 第九話 この空に誓って[無銘](2013/09/14 17:06)
[10] 第十話 黒兎と紅影(ブラック・ラビット/レッド・シャドウ)[無銘](2013/09/14 17:07)
[11] 第十一話 忘れ得ぬ記憶[無銘](2013/09/14 17:09)
[12] 第十二話 マグロになった更識姉妹(シスターズ)[無銘](2013/09/14 17:11)
[13] 第十三話 誰かが君を[無銘](2013/09/14 17:12)
[14] 第十四話 宿命という名の仮面(マスク・オブ・フェイト)[無銘](2013/09/14 17:12)
[16] 第十五話 己が正義にかけて[無銘](2013/09/14 17:14)
[17] 第十六話 剣拳激突(ソード・バーサス・フィスト)[無銘](2013/09/14 17:15)
[18] 第十七話 銀の腕、白の鎧(前篇)[無銘](2013/09/14 17:15)
[19] 第十八話 銀の腕、白の鎧(後篇)[無銘](2013/09/14 17:16)
[20] 第十九話 魔眼の三姉妹(ゴルゴーン)[無銘](2013/09/14 17:18)
[21] 第二十話 今は一人でも[無銘](2013/09/14 17:19)
[22] 第二十一話 十年後(テン・イヤーズ・アフター)[無銘](2013/09/14 17:19)
[23] 第二十二話 別離[無銘](2013/09/14 17:21)
[24] 第二十三話 見学者は全員男[無銘](2013/09/14 17:22)
[25] 第二十四話 静かならざる日[無銘](2013/09/14 17:24)
[26] 第二十五話 爪牙[無銘](2013/09/14 17:25)
[28] 第二十六話 操人形の夜(マリオネット・ナイト)[無銘](2013/09/14 17:26)
[29] 第二十七話 十六人の大幹部[無銘](2013/09/14 17:27)
[30] 第二十八話 その名は大首領[無銘](2013/09/14 17:28)
[31] 第二十九話 魂再び(スピリッツ・リターン)[無銘](2013/09/14 17:29)
[33] 第三十話 開戦[無銘](2013/09/14 17:30)
[34] 第三十一話 罠[無銘](2013/09/14 17:30)
[35] 第三十二話 敗北[無銘](2013/09/14 17:31)
[37] 第三十三話 回天[無銘](2013/09/14 17:31)
[38] 第三十四話 勝利者達(ウィーナーズ)[無銘](2013/09/14 17:32)
[39] 第三十五話 魔窟[無銘](2013/09/14 17:33)
[40] 第三十六話 分断[無銘](2013/09/14 17:33)
[41] 第三十七話 呪われし遺産(ショッカーライダー)[無銘](2013/09/14 17:34)
[42] 第三十八話 傷心[無銘](2013/09/14 17:35)
[43] 第三十九話 力と技と[無銘](2013/09/14 17:35)
[44] 第四十話 死線(デッドライン)[無銘](2013/09/14 17:36)
[45] 第四十一話 潜入[無銘](2013/09/14 17:37)
[46] 第四十二話 わたしの先生(ライダーマン)[無銘](2013/09/14 17:37)
[47] 第四十三話 代償[無銘](2013/09/14 17:38)
[48] 第四十四話 この者不死身につき(ダイ・ハード)[無銘](2013/09/14 17:39)
[49] 第四十五話 海魔[無銘](2013/09/14 17:39)
[50] 第四十六話 暗躍[無銘](2013/09/14 17:40)
[51] 第四十七話 巨人(キングダーク)[無銘](2013/09/14 17:41)
[52] 第四十八話 虜囚[無銘](2013/09/14 17:41)
[53] 第四十九話 形見[無銘](2013/09/14 17:42)
[54] 第五十話 獣(ビースト)[無銘](2013/09/14 17:43)
[55] 第五十一話 土竜[無銘](2013/09/14 17:43)
[56] 第五十二話 真情[無銘](2013/09/14 17:44)
[57] 第五十三話 禍神(ユム・キミル)[無銘](2013/09/14 17:44)
[58] 第五十四話 守人(ガーディアン)[無銘](2013/09/14 17:45)
[59] 第五十五話 因縁[無銘](2013/09/14 17:46)
[60] 第五十六話 群狼(ウルブズ)[無銘](2014/07/17 07:59)
[61] 第五十七話 魔人(デルザー)[無銘](2014/07/17 07:59)
[62] 第五十八話 戦友(パートナー)[無銘](2014/07/17 08:00)
[63] 第五十九話 タッチダウン(前篇)[無銘](2014/07/17 08:02)
[64] 第六十話 タッチダウン(後篇)[無銘](2014/07/17 08:02)
[65] 第六十一話 空戦[無銘](2016/12/03 22:53)
[66] 第六十二話 疑心[無銘](2016/12/03 22:52)
[67] 機体設定[無銘](2012/12/15 23:15)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[32627] 第五話 父の想いは波の中
Name: 無銘◆e18ca1f5 ID:5027a9c0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/09/14 17:02
 無人ISがオルコット海洋研究所付近に出現した翌朝。ジョナサン・オルコットの別荘の中では一人の男と一人の少女が作業している。

「敬介さん! この段ボール箱はいかがいたしますか?」
「段ボールは潮位観測所のデータだから後回しで! それよりセシリア、ちょっと来てくれないか? 少し君に確かめてほしいものがあるんだ」

 作業をしているのは敬介とセシリアだ。再会してしばらくは再会と互いの無事を喜び合っていた二人だが、その場は一旦引き上げた。今朝方敬介が寝泊まりしているジョナサン・オルコットの別荘にセシリアが改めて訪問し、遺品整理に取りかかっている。流石に全てを整理するなど不可能だ。そこで殆んど手が付けられていないセシリアの父、ジョージ・オルコットの遺品を優先して整理することを決めた。遺品の中でも論文は後回しで、私物を最優先としている。今は別荘の書斎に残されているジョージの遺品を整理している。

「これはジョージの日記か。記事の日付からすると事故の少し前からのヤツだろうな」
「こちらも日記でしょうか? その割には色々ガチャガチャと言いますか」
「そっちは多分、フィールドワークで使っていたノートだね」

 遺品を見て色々と話しながら作業を進めていた二人だが、ふとセシリアは机の上に立てかけられている写真立てに気付き、立ち上がる。

「敬介さん、この写真は?」
「ああ、それか。右のは若い頃のジョナサン先生と神啓太郎、つまり君のお祖父様と俺の親父が、真ん中のは俺や先生、それにジョージとリサが、そして一番左は……」
「私たち家族三人の写真、ですわね」

 敬介の答えを聞くとセシリアは自身が写った写真を手に取り、しばし写真を眺め始める。敬介は黙って見ていたが、やがて一人で再び遺品の整理を開始する。

「ごめんなさい敬介さん。つい手が止まってしまって」
「いいさ。なにせ君の家族写真なんだから」

 我に返り申し訳なさそうに言うセシリアに敬介は笑って答える。

「さて、セシリアも朝早くから作業ばかりで疲れただろ? 少し休憩しよう。ちょっと待っていてくれ、泥水もといコーヒーはともかく、紅茶の方はあまり自信がないけど」
「ありがとうございます、敬介さん。ですが敬介さんの分でしたら私が……」
「いいんだ、気にしなくて。ここでは君の方が客人みたいなものだしさ。それにこの前のコーヒーのお礼だと思ってくれればいいよ」
「ですが敬介さん……」
「……いいんだ」
「分かりました。ではお言葉に甘えさせて頂きますね」

 敬介の一言でセシリアはようやく折れる。内心また『にがり』入りコーヒーを振る舞われるような羽目にならなくて良かった、などと安堵しつつ敬介は立ち上がり、キッチンへと向かっていった。

**********

 朝を迎えたオルコット海洋研究所の所長室。和也は椅子に座って所長のリチャードと話している。

「バーナード所長、無人ISに襲撃されるような理由に何か心当たりはありませんか?」
「いえ、我々は単なる研究機関ですし、特に政治的・軍事的に重要なものは何も。敢えて言うならこの島の近海にあるメタンハイドレート鉱床がそうだと言えますが、それもつい最近の神博士からの報告でこちらも気付けた上に、採掘には技術的課題が多過ぎて到底実用化には……」

 話題となっているのは昨夜襲撃してきた無人ISについてだ。無人ISを誰が送り込んできたかは大体予想がついている。と言うより篠ノ之束しかいない。だが目的が分からない。少なくとも単なる破壊工作が目的、という訳ではなさそうだ。
 もっとも、和也は無人ISによるIS学園襲撃事件と、アメリカ・イスラエル共同開発の第3世代機『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』の暴走事件には、ある共通点が存在することに気が付いている。篠ノ之束の実妹とその幼なじみの存在だ。以前から束は『白騎士事件』など多くの事件への関与が疑われており、インターポールも彼女に目を付けている。しかし直接的な行動を取るようになったのは織斑一夏と篠ノ之箒がIS学園に入学した後からだ。
 しかも厄介なことに妹の箒に頼まれた束は、ご丁寧にもコアから新造した第4世代機『紅椿』などという『爆弾』まで製造している。世界各国ではようやく第3世代機が開発されたという状況で、一足飛びに完全な第4世代機だ。当然コアは未登録なので『紅椿』並びに篠ノ之箒の帰属を巡り、今後は身柄を確保しようとする各国の動きが活発化してくるだろう。中には非合法的な手段を取ってくる組織もあるかも知れない。亡国機業に至ってはすでに身柄を狙ってきているが。
 妹や幼なじみ、その友人たちを危険に晒し、あまつさえ妹には彼女自身が力を望んでいたとはいえ、核弾頭級の爆弾を手渡した束について和也は内心思う所がある。仮にも家族、姉ならば敢えて突っぱねることも必要なのではないかと思う。家族のためを思うならなおさらだ。現に箒は束のお陰で余計な苦しみや悩みを抱え込んでしまっている。

(だが今回は少し毛色が違うな。この研究所には織斑一夏も、篠ノ之箒も直接関わっている訳じゃない。敢えて言えばセシリア嬢くらいだが、やはり妙だ)

 しかし今回は事情が違う。何か見落としが無いか、何か意外な発見がないかを確認する。リチャードの方も今回の件に関してはやはり重く見ているのか、研究データを眺めている。ふと和也は机に置かれた書類の一つを無造作に取って中身を見てみる。

「バーナード所長、このデータなんですけど……」
「それですか? それは昨日お話した海底探査用ISに関する実験データですね」
「このデータとか見た限りでは実機も制作されたみたいですが?」
「ええ。実際に国際IS委員会の協力でなんとか試作機が完成し、何度かこの島近海で運用試験を行うところまでいきました。しかしやはり上手く行かなかったのでコアを初期化した上で返却して、それっきりです」

 記載されているのは海底探査用ISの稼働データであるらしい。専門的なことは分からないが、実機が製造されて実験されたことくらいは和也にでも分かる。パラパラと書類を捲っていた和也だが、ふとあるページに目が止まる。和也はリチャードに向き直り、尋ねる。

「あの、このページの記述によると、海底探査用のIS開発には神敬介が協力しているという旨が書かれていますが?」
「ええ。神博士に協力を依頼しました。深海開発用改造人間、つまり『カイゾーグ』の生きた稼働データや経験ばかりは、論文では理解のしようがありませんから」

 和也は何か思い当たる節があったのか、身を乗り出しながらリチャードに尋ねる。

「もしかしてこの研究所に『カイゾーグ』の稼働データは残っていますか!?」
「ええ。電子媒体のものは何個か消去されていますが、紙媒体のものでしたら大体は残っています」
「それだ! バーナード博士、襲撃の理由は恐らく海底探査用IS、それに『カイゾーグ』の生きた稼働データです」

 篠ノ之束の狙い海底探査用IS、さらに言えば『カイゾーグ』のデータだ。
 『カイゾーグ』は学会には存在を認知されてはいるが、『国際宇宙開発研究所』に所属している『スーパー1』と異なり、どの組織にも属していないこともあり、学会以外での認知度は低い。さらにまとまった稼働データがどの組織にも存在していない。海底探査用ISには貴重な『カイゾーグ』の構造や稼働データ、それに敬介のアドバイスなどが参考として盛り込まており、必要な稼働データをまとまった形で測定している。

「しかし、そんなもののためにどうして研究所の襲撃などを?」
「確かに博士たちからしてみれば『そんなもの』なのかも知れませんが、海底探査用ISのように『ある程度の深さを潜航可能なIS』の価値は、博士の想像よりずっと大きいんです。特に軍事的には」

 疑問を差し挟むリチャードに対して和也は首を振り答える。
 ISは究極の機動兵器とされ、「ISを倒せるのはISだけである」という言葉に象徴されるように、既存の兵器を凌駕する『最強』の兵器として君臨している。だが性能面で既存の兵器を凌駕はしていても、取って代わることなど不可能だ。ISはあくまで『最強』であって決して『万能』ではないのだ。
 確かに戦車や戦闘機、軍艦と直接戦えば余裕で勝て、戦闘機の立場を奪ってはいるが、役割まで奪うことは出来ない。人間サイズに毛が生えたような大きさしかないISでは、歩兵に随伴して盾となることは出来ない。大きさや空中給油の手軽さから戦闘機の方が向く任務もある。軍艦に至っては論外だ。これは強さの問題ではなく兵器の特性、運用の問題だ。兵器の中でもISでは今のところ取って代わりようがないものがある。潜水艦だ。
 ISが兵器として運用が開始した後、それ以外との兵器の模擬戦が世界中で数多く行われた。殆どがIS側の圧勝で終わり、大半はIS側被撃墜ゼロとなっているが、逆にIS側が撃墜されたケースが全く無い訳ではない。実は過去に3例だけその事例がある。その内の2例、日米合同演習、中露合同演習でIS側を撃墜したのは他でもない潜水艦だ。ちなみに残る1例である英仏独合同演習では、なんと歩兵により撃墜されたのだが、撃墜した歩兵側が連携すれば怪人すら撃墜可能な対バダン戦闘部隊『SPIRITS』第10分隊元メンバーの3人であることや戦術の未熟さ、操縦者達の油断、IS側の連携や指揮系統に混乱や乱れがあったこと、ISの優位が大きく削がれる市街戦に持ち込まれたこと、歩兵側のゲリラ戦術で長丁場となり、撃墜される直前にはシールドエネルギーが切れるギリギリ手前であったことなど、あまりにイレギュラーな要素が多過ぎて普通はカウントされない。
 勿論残る2例も他兵種との連携やIS側の操縦者の練度の低さ、ISに対潜兵器が搭載されていなかったことなどの装備面・技術面での問題、登場したばかりでまだ運用方法や戦術が確立していなかったこと、連携の拙さなど多くの要因が絡み合っている。だが、やはり潜水艦のみが既存兵器の中で唯一ISを撃墜せしめたという事実は大きい。潜水艦がISを撃墜出来た理由はその隠密性にある。
 ISが『究極の機動兵器』ならば潜水艦は『究極のステルス兵器』とされている。その評価はIS登場後も覆っていない。潜航した潜水艦の探知には現在も大きな困難が伴う。水上でも水中でも目視では捉えられない。ソナーやレーダーが登場した後も、潜水艦自体の静粛性や電子戦能力向上に伴って発見はまだまだ困難だ。現代でも平時から敵潜水艦の『音紋』を採取し、世界各地の海洋調査により海面下の自然状況を常に把握し、『空飛ぶコンピュータ』とも言われる哨戒機を二十四時間体制で飛ばしているくらいだ。
 一方でIS側の潜水艦探知能力はお世辞にも高いとは言えない。ISは宇宙開発用に開発され、広大な宇宙空間で行動することを前提にしている。索敵能力自体は兵器の中でもトップクラスなのだが、機能の多くは特に視覚の補正に偏っている。宇宙では大気による光の偏向がないため、視力が良ければ良い程より遠くまで見える。加えて音などを伝達する手段が無いので、ハイパーセンサーは宇宙で最も必要とされる視覚の補正を重視している。レーダーやソナーも一通り搭載しているが、潜航した潜水艦を捉えられるものではない。
 無論潜水艦単独では撃墜までは至らなかっただろうが、2例共にIS側が潜水艦を発見出来ずに手間取っている間に他の兵器により足止めされ、急浮上してきた潜水艦を直前まで探知出来ずに対空ミサイルの集中攻撃を受けて撃墜される、という流れであった。とはいえ、近年ではIS側も対潜装備の搭載や戦術の確立などもあって潜水艦側に勝ち目など無いに等しい。実際潜水艦側も殆どが浮上後にISにより一方的に撃破されている。故に現在ではISにとって潜水艦はさほど脅威ではない。だが潜水艦の潜航能力を持ったISが登場した場合、話は別だ。下手をすると世界のパワーバランスがひっくり返りかねない。
 ISに対抗出来る兵器はISだけだ。だからこそ各国共に新型開発競争にしのぎを削っている。一方でIS同士で戦闘するという前提ならば、実はISの隠密性はさほど高くはない。ハイパーセンサーや他の手段を使えばいくらでも探知出来るし、衛星による監視も使える。IS同士ならコア・ネットワークで大体の位置は補足できる。仮にステルスモードを使われても迎撃出来る時間は十分にある。
 だが潜水艦同様に潜航された場合、ISのハイパーセンサーでは探知出来ない。かと言って従来の対潜水艦システムもあまり期待出来ない。IS程度の大きさではソナーやレーダーの死角に入り込めるし、魚などと誤認する可能性もある。
 つまり潜水艦と同等の潜航能力を持ったISが潜航して侵攻してきた場合、ステルス・モードを使われると探知するのは困難だ。しかも探知出来ても敵はIS、発見さえ出来ればいくらでも対処のしようがある潜水艦と違い、発見出来ても対処法が殆ど無い。
 この点を各国が見逃すはずがなく、アメリカ・イスラエル共同開発の『銀の福音』には水中潜航能力が試験的に付与されている。イギリスでもISに潜航能力と水中戦能力を持たせるパッケージ『ソードフィッシュ』が試作され、運用試験が行われていた。『銀の福音』暴走事件では、水中に潜航した『銀の福音』を一時見失うという事態も発生している。もし潜水艦と同等の潜航能力を付与出来れば、ISでもどうしようもない。海に面している国はいきなりISが自国領内に現れるかもしれない、という恐怖を味わうことになる。
 そして海底探査用ISは最大潜航深度が海底探査には浅過ぎるというだけで、潜水艦の潜航深度を航行するくらいなら問題無く可能であるらしい。加えて深海1万mで行動可能な深海開発用改造人間『カイゾーグ』のデータまで加われば、潜水艦並の潜航能力を持ったISの完成へと大きく前進するだろう。これらのデータ群には軍事的には十分過ぎるほどの価値がある。

(とはいえ、こういうの狙うとしたら篠ノ之束よりは、亡国機業の連中だろうな)

 亡国機業がデータを狙うのなら和也にも分かる。元々表沙汰には出来ないようなことを色々とやっている連中だ。潜航能力を持ったISが世界で一番欲しいであろう。だからイギリスで評価試験を終えた直後の『ソードフィッシュ』を、同じくイギリスの第3世代機でBT兵器搭載機『サイレント・ゼフィルス』と同時に強奪したのだろう。『銀の福音』を狙ったのも第3世代機だからだけでなく、水中潜航能力にも目を着けたからなのかもしれない。
 亡国機業は欲しいと思えば強奪も辞さない、どこかの音痴なガキ大将みたいな連中だ。海底探査用ISや『カイゾーグ』のデータを強奪しに来てもおかしくない。内心思案していた和也だが、所長室に研究員が入ってきたことで一旦思考を中断する。

「どうしました? 何か問題が起きたんですか? 高野君」
「いえ、この海域に漁船が入ってきましてね。先程こちらから無線を入れて追い返したんですが」
「どうかしたのですか?」
「それが、漁船はこの海域が航行禁止海域に指定されたままだとは気付いてなかったみたいで。何でも無線で禁止解除が通達されたので漁に出たと。勿論違うので事情を話し、お引き取り願ったのですが」
「おかしな話ですね。我々から通達解除の連絡など入れている筈が無いのですが」

 入ってきた高野という研究員の報告を聞き、リチャードは首を傾げる。この海域は昨晩無人ISが襲撃してきた影響で現在は航行禁止海域に指定されている。

(出されていないはずの禁止解除の通達に、漁船。なんか引っ掛かるな)

 和也はリチャードの呟きを聞きながら再び思考を開始する。今回のような事例を和也はいくつか知っている。例えば『銀の福音』暴走事件で封鎖海域内を航行していた『密漁船』だ。密漁船とされた漁船の乗組員に事情を聞いたところ、漁協に封鎖解除の通達が出ていたらしい。勿論IS学園側は封鎖解除の通達など出していない。現場にいた国際IS委員会の渡五郎から後で聞いたところ、漁協に届けられた通達書はかなり精巧に偽造されたものだったらしい。漁船が封鎖海域に侵入したのとほぼ同時に、付近を哨戒していた国防軍の哨戒機が潜水艦らしきものを探知したという情報もインターポールに入っている。
 それに『サイレント・ゼフィルス』及び『ソードフィッシュ』強奪の際にも似たようなことが起こっている。これは単なる偶然なのだろうか。

(何にせよ、敬介に連絡した方が良さそうだな)

 和也はリチャードに敬介に通信を入れる旨を告げて所長室を辞すと、通信機を取り出すのだった。

**********

 間もなく時刻が正午を回る頃。ジョナサン・オルコットの別荘のリビング。敬介とセシリアは遺品整理を一旦中断し、早めの昼食を摂っている。

「ご馳走様でした。けど驚きましたわ。敬介さん、料理もお上手なんですね」
「お粗末様でした。なに、一人暮らしは長かったし、よく海辺で野宿していたからね。それにそんな大したものは作れないしさ」

 セシリアの称賛に笑って首を振りながら敬介は食器を片付ける。先程まで二人が食べていたのは魚介類のパエリアだ。本場のパエリアは山の幸を使う料理だと敬介は知っているが、ここは海に囲まれた島なので釣ってきた魚介類を材料にした。かつてスペインに滞在していた時、ある老漁師から教わった料理でもある。

「けど、おっしゃって頂けたのなら私も手伝いましたのに」
「いいよ、気にしなくて。それより早く遺品の整理も終わらせないと。もうジョージの分も半分くらいは整理し終わった筈だし、残りも早く済ませないと」

 食器の片付けを終えると、敬介はテーブルに置いておいた遺品の目録に目を通す。一応最初に目録だけは取っておいたお陰で、作業の進捗状況が分かるだけ良かったのかもしれない。遺品の中には、

「これって、父が母に宛てて送ったラブレターみたいですね。父がここまで情熱的な人だったなんて」
「リサが保管していたのをジョージが引き取ったって前に言ってたな。ジョージはそんな所があったからし、大切に保管していたリサも結構情熱的な……ん?」
「……きっと父と母はこうして手紙のやり取りだけでなく、海辺で何回も何回も逢瀬を重ね、そして和也お義兄様や千冬お義姉様のように最初は喧嘩をしながら、でも徐々に素直になっていって……ああ羨ましい、私と一夏さんも父と母、それに和也お義兄様と千冬お義姉様のような関係に早く……」
「セシリア? セシリア、聞こえてるかい? ……駄目だ、完全に向こう側にトリップしてるみたいだ」

 ジョージがリサに送り、リサが大切に保管していたものをジョージが引き取ったラブレターの数々や、

「これはジョージの大学時代のレポートか。ちゃんと返却されたのを残しているなんてジョージらしいな。俺も時々添削の手伝いをしたっけ」
「それに字がかなり綺麗ですわ。きっと学生時代から几帳面だったのでしょうね。それでこちらの妙に字が汚いのは?」
「リサのだな。多分そっちはジョナサン先生が残しておいたヤツだと思う。リサは返却されるとすぐ捨てていたからね」
「母はやはり豪快な方でしたのね。私、正直母のようにはなれそうな気がしませんわ……」

 大学時代のレポート、

「これは俺とジョナサン先生、それにジョージとリサとで海洋調査に行った時の航海日誌か。よくこんなもの取っておいたな」
「確かに記録者欄に敬介さんの名前もございますわね。途中から敬介さんと祖父しか書かなくなってきているんですが?」
「ああ、二人共調査に夢中になり過ぎて、順番で航海日誌書いていくってことをすっかり忘れていたらしくてさ。仕方ないから俺とジョナサン先生とで交代で書くことにしたんだ」
「そういう所はやはり似たもの同士でしたのね、父も母も……」

 敬介がジョナサン、ジョージ、リサと海洋調査に出かけた際の航海日誌などが遺されていた。敬介にとっては他愛もない、しかし懐かしい遺品の数々はセシリアにとっては新鮮なものであったらしく、セシリアは作業に没頭している。それを微笑ましく思いながら見ていた敬介だが、ポケットに入れておいた通信機が鳴る。恐らく和也からだろう。

「ごめん、セシリア。少し一人で作業していてくれないか? 滝さんから連絡だ」
「分かりました。これくらいなら私一人でも続けられますわ」

 セシリアに断ると敬介は遺品整理の邪魔にならないように別荘の外へと出る。そして通信に出る。

『取り込み中のところ悪いな、敬介』

「いえ。何かありましたか?」

『いや、何かあったって訳じゃないんだが、少し気になることがあってな。亡国機業の連中についてなんだが』

「『カイゾーグ』の稼働データと海底探査用ISのデータ奪取に動き出さないか、ということですね?」

『なんだ、お前気付いてたのかよ?』

「ええ。先輩方から情報も入ってきていますし、どれだけ軍事的に価値があるものかは俺も理解しているつもりですから」

『だったら話は早いな。今から動けるか? 遺品整理があるならいいんだが。こいつは俺の勘みたいなもんだしな』

「いえ、俺もそろそろ動き出すのではないかと思っていましたし、整理の方はセシリアに任せますから」

『……いいのか? セシリア嬢に言わなくて』

「元をただせば俺が原因みたいなものです。出来れば彼女を巻き込みたくありません。セシリアがリサやジョージの思い出にひたれる貴重な一時を、ふいにはしたくないんです」

『分かった。ならここはお前に任せる。研究所の方は俺がバーナード所長と話して対策はしておくから、お前は連中の動きにだけ対処してくれ』

「お願いします」

 通信を切ると敬介は再び別荘の中へと戻る。

「セシリア、悪いけど暫く一人で作業続けていてくれないか? 少し研究所の方から呼び出されたんだ」
「私は構いませんわ。ただ出来ればお早めに戻ってきて下さいね?」
「ああ、努力はするよ」

(ごめん、セシリア……)

 騙す形になるセシリアに心の中で謝罪しながら敬介は再び別荘を出ると、停めておいたバイクに跨がりエンジンをかけて走り出すのであった。

**********

 『美山島』東部の海岸。切り立った崖が並び険しい地形をしたここに、ウェットスーツを着た9人の女たちがいる。リーダー格らしき女が通信機で話し始める。

「こちら『マーリン1』。予定通りポイントE-1地点に上陸に成功。引き続き、『ポセイドン』並びに『トリトン』のデータ確保に移行する。以上」

 『マーリン1』と言った女は通信を切る。女たちは所属する組織の命を受け、オルコット海洋研究所から『ポセイドン』こと深海開発用改造人間『カイゾーグ』と、『トリトン』こと海底探査用ISの稼働データを奪取するために潜入してきた。近くの港町の漁港に関係者を装い禁止指定解除を通達し、海洋研究所側が対応に終われている内に潜水艇で隠密上陸を決行したのだ。後はデータを入手し、再びここに集合して脱出する手筈になっている。武器は殆ど持ってきていない。だが万が一のためにISは待機形態にして所持している。

「ふん、ちょろいもんさ。と言っても民間の研究所なんだから当たり前か」
「IS学園みたいに余程厳しい所じゃなきゃ、ISも持ち込める分、まだまだ楽さね」
「無駄口を叩くな。気付かれたらどうする? 情報ではインターポール捜査官の滝和也や、イギリスの代表候補生であるセシリア・オルコットもこの島に滞在していると聞く。その二人にバレると厄介なことになる」
「特にセシリア・オルコットは『サイレント・ゼフィルス』や『ソードフィッシュ』を奪取された国の代表候補生だからね。私たちが『亡国機業』の一員と知ったら目の敵にしてくるでしょうね。そうなると相手は仮にも代表候補生。専用機を持ち出されると色々と厄介だわ」
「そうね。だからこそセシリア・オルコットがこちらに気付く前に事を終わらせるわよ。そうすれば……」
「そう、上手くいくかな?」

 女達が話している所に、どこかから聞いたことの無い男の声がかけられる。

「誰!?」
「一体どこから!?」
「あそこよ!」

 女たちは騒然とするが、やがて男の姿を見つけると身構える。
 男は崖の陰から出てくると女たちの前に立つ。それに対してリーダー格らしき『マーリン1』が男と対峙して言葉を発する。

「なぜ、私たちがここに上陸すると気付いた?」
「この島の近海は調査済みだ。地形的にもある程度潜水艇で接近可能な水深があって、かつ物陰が多く上陸しても気付かれにくい場所と言ったらここしかないからな」
「流石と言うべきか、『カイゾーグ』……神敬介」

 『マーリン1』が男こと敬介に言うと、他の女たちがどよめき出す。当然だ。データどころか『カイゾーグ』そのものが目の前に現れたのだから。しかし敬介は構わずに続ける。

「目的は、聞く必要もないか。俺や海底探査用ISのデータの奪取が目的だろうからな」
「だが状況は変わった。ここに生きたデータがあるのだからな。おとなしく私たちと一緒に来て貰うぞ、神敬介。嫌なら嫌で良い。力尽くで連れて行くだけだ。仮に死んでも死体を解析すればかなりのデータを得られるだろう」
「ついでにセシリア・オルコットの身柄も確保しておこうかしら? 別に殺してしまっても構わないのだけれども、腐ってもやはり専用機持ちだもの。戦力は多いに越したことはない」
「随分と安い挑発だな。言いたいことはそれだけか?」

 敬介は険しい表情で女たちを睨み付ける。構わずに『マーリン1』は他の女たちに告げる。

「各員、ISを展開。これより作戦を変更して対マスクドライダー戦闘に移行する」
「し、しかし!?」
「言っただろう? ヤツは深海開発用改造人間『カイゾーグ』。組織の邪魔をしてきたマスクドライダーの一人だ。対人火器では歯が立たない。ISでなければ対抗しようがない。もっとも、勝ち筋は十分にあるが……行くぞ!」

 『マーリン1』が合図すると9人の女たちは一斉に黒いISを装着する。前に『メルクリウス号』などで戦った機体と同型だろう。しかし敬介は臆しない。敵がISを装着すると見るやそのまま両腕を腰まで引く。上に突き出した後に『X』の字を描くように開き、左腕を腰に引いて右腕を左斜め上に突き出す。

「大変身!」

 すると敬介の身体が銀色の『カイゾーグ』のそれへと変わり、顔面に『レッドアイザー』と『パーフェクター』が装着されて仮面を形作る。

「行くぞ、カイゾーグ」
「来い、亡国機業」

 姿が変わった敬介とISを装着した女たちは静かに呟くと、どちらからとなく相手に向かって動き始めた。

**********

 美山島近海の海中で10の影が水中を動き回る。9つは水中戦用パッケージ『ソードフィッシュ』を装備した黒いISだ。その姿は上半身を中心に装甲や追加武装、増槽などが装備されている。頭部にも追加装甲が施された姿はソードフィッシュ、メカジキよりもどことなく海亀に似ている。残る1つは銀色の『カイゾーグ』の姿となった敬介だ。ソードフィッシュを装備した9機のISは手に持った銃器から魚雷を発射するが、敬介は魚雷を振り切ると脚部のエア・ジェットを駆使して接近する。

「Xスクリュードライバー!」

 敬介は錐揉み回転しながら片足で蹴りを繰り出し、9機を蹴散らす。

「この!」

 IS側もスラスターを使って敬介に向き直り攻撃しようとするが、動きは敬介に比べて鈍い。敬介は自分を追尾してきた魚雷をかく乱し、上手く誘導してISへと当てる。

「ライドルホイップ!」

 さらに敬介はベルトに装着された『ライドル』を引き抜き、スイッチを押す。レイピアに似た『ライドルホイップ』を片手に、敵の間を縫うように移動しながらライドルホイップで斬り付けていく。

「ちいっ! この距離では魚雷が使えんか!」

 女たちは歯噛みしながらも近接ブレードを呼び出し、敬介に斬りかかる。だがISの攻撃を自由自在に、海中を舞うように上下左右にひらりと回避し、素早く動き回る敬介を捉えることが出来ない。

「ライドルスティック!」

 敬介はライドルのスイッチを操作し、両端に握りのついた棒状の『ライドルスティック』へと変形させる。そのまま敵が体勢を立て直す暇も与えずにエア・ジェットを駆使して突撃する。

「ライドルアタック!」

 1機に渾身の突きを見舞うと敬介はライドルスティックでその1機を突き、薙ぎ、殴り、攻め立てる。

「これでも食らいなさい!」

 女たちはバックパックから魚雷を乱射して敬介をISから引き離す。敬介は追尾してくる魚雷を引き離し、魚雷の間をくぐり抜け、ライドルスティックで叩き落とす。残る魚雷も全てやり過ごすと再び女たちの所へと突撃する。

「Xジャイロキック!」

 お返しとばかりに敬介は回転し、回し蹴りの要領で周囲のISに纏めて蹴りを入れる。

「やはり数がいても、水中戦では分が悪いか……!」

 リーダー格の女はほぞを噛んで呟く。こちらは追加スラスターなどを使ってどうにか水中を動き回れるだけ、向こうはまるで空でも飛んでいるかのように三次元的な機動で動いている。魚雷を撃つ前に自分の間合いに入り、ブレードを構える前にこちらのリーチから離れる。ISは敬介の機動力の圧倒的優位の前に苦戦を強いられている。

「けどこちらにも対応策はある。いくぞ、皆!」

 リーダー格の女が言うと9機は一斉に魚雷を発射し、敬介の前で炸裂させて視界を塞ぐ。5機が魚雷を乱射して敬介を牽制していく内に残る4機は上昇し、水上に出ると空へ舞い上がる。

「これならどうだ!」

 4機はバックパック部分から対潜ミサイルを発射する。ミサイルは目標付近に到達すると弾頭から魚雷を切り離し、敬介の上から降り注ぐように魚雷が追尾してくる。加えて水中の魚雷も敬介を追い込むように追尾してくると、やむを得ず敬介はライドルを使い防御する。敬介は前後左右と上から魚雷や対潜ミサイルの雨を受け、防戦一方となる。しかし敬介は下へと逃れて魚雷を引き離す。それを5機が水中から追い掛け、空中から4機が追い掛け魚雷の雨を降らせる。だが敬介は巧く躱し、『ソードフィッシュ』では潜航出来ない深度まで潜航する。すかさず急速旋回や急潜航、急浮上、急回頭など素早くを繰り返して魚雷を欺瞞し、やり過ごす。

(まずいな……)

 敬介は内心舌打ちする。この海域は敬介が調査し続けてきた場所だ。海底の地形や水流の向きや速さで、大体今いる場所が島のどの位置に当たるかは分かる。敬介たちはセシリアがいる別荘へと近付いてきている。出来れば引き離したい所だが、対潜ミサイルを撃ってくる敵が邪魔で思うようにいかない。空中での機動力では圧倒的に劣る上、飛び道具の無い敬介は攻め続けられればジリ貧だ。

(なら、こちらのフィールドに戻って貰うまでだ!)

 敬介はISの1機へエア・ジェットを噴射して急接近する。敵はバックパックから魚雷を発射しようとするが、すかさず敬介は上へと動き、敵の背後を取る。

「ライドルロングポール!」

 ライドルのスイッチを操作すると、棒高跳び用のポールに似た長大な棒状の『ロングポール』へと変形させる。そのまま敵の背中へ地面代わりに突き立て、エア・ジェットを併用して一気に空中へと飛び上がる。

「クッ!?」

 空中のISが敬介の接近に気付くと、今度はアサルトライフルを呼び出し攻撃しようとする。

「そうは行くか!」

 しかし敬介はロングポールを振るい、4機まとめて海中へと叩き落とす。同時に海中から対空ミサイルが発射され、敬介に向かってくる。

「魚雷だけではないか!」

 ミサイルを回避出来ない敬介は防御を選択し、ミサイルの嵐に曝される。ライドルで防御して切り抜けると再びライドルのスイッチを操作し、ライドルスティックに戻して再び海中に潜る。そして手近な敵にライドルスティックを思い切り突き立てる。

「エレクトリックパワー!」

 敬介はスイッチを操作し、ライドルスティックから高圧電流を流し込む。その一撃で限界を迎えたのか、ISは『絶対防御』を発動させて沈黙する。沈黙したISを敬介は無造作に掴んで陸地まで放り投げると、敬介はライドルを残る8機へ向けて構え直す。

「お前たちの企みは、俺が止めてみせる!」

 エア・ジェットを噴射して敬介は残る敵へと挑みかかっていった。

**********

 ジョナサン・オルコットの別荘の中で、セシリアはジョージの遺品整理に没頭している。セシリアの実家にはリサの遺品は多数残っていた。そちらの整理はセシリア自身も行っていたため、リサゆかりの品は見たことがある。今も実家やI学生寮の部屋にはリサの遺品が少なからずある。だが婿養子であり、事実上の別居状態が続いていたジョージの遺品は殆ど遺されていなかった。それにセシリアも遺品を整理していた頃にはジョージを疎んじ、軽蔑していたこともあって、僅かな遺品も他人に譲り渡してしまい、セシリアの手元には一つも残っていない。

(馬鹿ね、セシリア・オルコット。貴女が今まで軽蔑していた人は、こんなにも素晴らしい人だったと言うのに)

 ジョージの遺品を手に取りながら内心セシリアは自嘲する。遺品を整理していく内に、今までろくに省みようともしなかった父が、どんな人間であったかがよく分かってきた。穏やかで、温厚で、一見気弱だが芯は強くて、海と妻、娘をこよなく愛していて。遺品にあった日記や写真、手紙などを見てそれがしみじみと感じられる。同時にセシリアは家族三人で一緒に過ごした思い出を頭の中から引き出し、それに浸っている。

「きっと、敬介さんも……」

 セシリアは自身の父親代わりである敬介のことを思い浮かべる。
 敬介もまた父親の神啓太郎を嫌い、反発していたと聞いている。話を聞く限り啓太郎はかなり厳格で、頑固で、気難しくて、口うるさくて、不器用な人物だったらしい。敬介が嫌って反発したくなるのも少し分かる。だが同時に優しく、温かく、勇敢で、息子を深く愛していたのだとも分かる。だからこそ自らの命を投げうって敬介を蘇生させたのだろう。
 敬介も今の自分と同じ気持ちになっていたのかもしれない。別荘には生前啓太郎がジョナサンに送った書簡など、啓太郎の遺品が僅かだが残っている。きっと敬介も色々な思いに耽っていたのだろう。今いる書斎に立てかけられている若き日のジョナサンと啓太郎の写真もその内の一つだ。

「この写真は敬介さんにお譲りした方がいいでしょうね」

 セシリアが一旦作業の手を止め、写真立てに手をかけようとした瞬間、爆発音と衝撃が響く。

「何!?」

 慌ててセシリアは別荘から飛び出すと、敬介がバイクで走っていった道を駆け出す。嫌な予感がする。敬介が自分の知らない所で危ない目に遭っている気がする。必死に走り続けていたセシリアだが、やがて海辺にある開けた道へと出る。同時に海から5つの影が一斉に飛び出してくる。

「IS!? それに、敬介さん!?」

 海中から飛び出してきたのは4機の黒いISと銀色の騎士、『カイゾーグ』の姿をした敬介だ。

「あのIS、それにあのパッケージは『ソードフィッシュ』!?」

 同時にセシリアは黒いISがかつて交戦した亡国機業の機体であること、ISが装着しているパッケージが、かつてイギリスから『サイレント・ゼフィルス』共々奪取された水中戦用パッケージ『ソードフィッシュ』であると気が付く。敬介はライドルスティックを振るい4機のISと渡り合っている。4機は距離をとってアサルトライフルを放つが、ライドルに弾かれ、逆にロングポールに変形させたライドルで1機を海へと叩き返す。しかし海中から対空ミサイルが、空中の残る3機からもミサイルが敬介へと浴びせられ、敬介は追撃を諦めて防御に徹する。今までずっと繰り返してきたのか、敬介の身体には何ヶ所も焦げ跡がある。ISは唖然としていたセシリアに気付いたのかアサルトライフルを向ける。

「セシリア!? やらせはしない!」

 セシリアに気付いた敬介はエア・ジェットを使ってセシリアの下に向かうと、盾となるようにセシリアの前に立つ。

「ライドルバリア!」

 すぐにロングポールにしたライドルを風車のように高速回転させて、銃弾を全て弾いて防ぎ切る。敵の攻撃を防ぎながら敬介は声を張り上げる。

「無事か!? セシリア!」
「何とか! 敬介さん、あのISは!?」
「ああ! 亡国機業の連中で、『ソードフィッシュ』だ!」
「そうですか、ならば!」
「駄目だセシリア! 後退するんだ!」

 左耳のイヤーカフスに手をかけるセシリアを敬介が制止する。

「ISが装着されるより君に銃弾が当たる方が早い! だから今は大人しく退くんだ!」
「しかし!」
「それに君は連中に対して冷静に対処出来るのか!? 『サイレント・ゼフィルス』や『ソードフィッシュ』を君の祖国から奪い、名誉を傷つけ、奪取した『ソードフィッシュ』を使ってきている連中に!」
「私は冷静ですわ! こんな連中! 徹底的に……!」
「全然冷静になれてない! 頭に血が昇り過ぎだ! 言いたくは無いが今の君じゃ足手まといにしかならない! 今は大人しく引き下がって、頭を冷やすんだ!」
「で、ですが敬介さんは!?」
「セシリア・オルコット! 君は、いや貴女はイングランドの名門貴族、オルコット家の当主だ! その当主たるものが亡きジョナサン・オルコットを蔑ろにしていいのか!? 貴女のお父上のご遺品を放っておくのは親不孝じゃないのか!? お母上のご遺志を無駄にしていいのか!? だからここは私に任せて貴女は遺品の整理を! それがオルコット家当主として、ジョナサン・オルコットの孫として、ジョージ・オルコットとリサ・オルコットの娘として、貴女がやるべきことだ!」
「で、でも……」
「それに」

 反論しようとするセシリアに対し、それまでの厳しい口調から一変して敬介は穏やかな口調でセシリアに語りかける。

「あそこには俺の恩人や友人の遺品がある。何より、親父の遺品もほんの少しだけどあるんだ。だから、今は俺の代わりにそれをお願いしてもいいかな? それと、君にはジョージの思い出の品をちゃんと選んで持っていてもらいたいし、家族揃っていた時のこと、思い出していてもらいたいんだ。俺は出来なかったから、せめてセシリアにはそうして欲しいんだ。俺の個人的なわがままなんだけど、ついでに聞いてくれないか?」
「敬介さん……」
「それに、大丈夫さ! こういうことは慣れているんだ。こんな奴らには負けはしない。連中には指一本触れさせたりはしない。そして、俺も必ず戻ってくる。それくらいは、信じてくれ」
「……お願いします!」

 セシリアは意を決して振り返らずに走り出す。ISが攻撃を加えようとするが、敬介のライドルや呼び出した『クルーザー』により3機とも海へと叩き落とされる。

「セシリアに、手出しはさせない!」

 敬介は叩き落としたISを追って、またも海の中へと飛び込んでいく。
 一方、別荘へと駆け戻ったセシリアは、敬介に言われた通りに遺品整理を再開する。

「敬介さんの好意を無駄にする訳には!」

 無駄にする訳にはいかない。敬介が身体を張って稼いでくれている貴重な時間だ。自分の感情で無駄にする訳にはいかない。だからオルコット家の当主として、ジョナサンの孫として、ジョージとリサの子として今自分がやらなければならないことを行わなければならない。
 再び爆発音が聞こえてきてもセシリアは遺品の目録に目を通す。今度は先程より大きい衝撃が辺り一帯から響いても書簡を確認する。窓からミサイルを敬介が叩き落とすのを見ても、目録を開き整理済の項目にチェックを入れる。ミサイルや銃弾の雨を、ライドルや時に自らの身を盾にして防ぎ続ける光景が視界に入っても、次の遺品に手をかける。全て防ぎ切り、身体の何ヶ所も傷付き、黒焦げになって尚構わずに『クルーザー』を駆り奮戦する敬介の姿が見えても、ジョージが書いたノートを捲る。

「もう、沢山よ……!」

 しかしセシリアの手が止まる。限界だった。手に持ったノートを放り出し、セシリアは一目散に外へと走り出す。セシリアは別荘の近くで交戦している敬介とISを一度見上げると、岬のように海に突き出ている先に走り出す。崖から飛び降りながら左耳の青いイヤーカフスを右手で引きちぎるように取り払い、掲げる。

「SET UP!!」

 緊急起動用の音声コードを叫ぶとIS学園制服が青いISスーツへと入れ替わる。イヤーカフスから量子化されたISが展開され、セシリアの身体に蒼い装甲が装着されて装が装備される。一瞬システムの起動が遅れるが、崖下まで落下する直前に全システムが起動に成功して急上昇を開始する。

「ぐっ、まだ、やられる訳には……!」

 敬介の肉体にはダメージが蓄積されつつある。動きも少しずつ鈍り始めている。海中と空中から放たれるミサイルをライドルスティックで防ぐが、何発かは直撃して動きが止まる。しかし敬介はすぐ持ち直して敵とライドルで激しく打ち合う。残る4機がアサルトライフルで銃撃しながら上昇してくる。間髪入れずに残る4機も銃撃を加え、集中砲火を浴びせる。防御する敬介だが、攻撃も中断される。やはり空中と海中から同時攻撃されると厳しい。

(せめて、どちらかに敵を集中させられれば……!)

 敬介は舌打ちしながらもまだ諦めない。簡単に倒れるつもりはない。自分の後ろにはセシリアがいるのだから。それを見越してか『マーリン1』が口を開く。

「流石は『マスクドライダー』、しぶといな。だがこのまま行けばお前は消耗し、我々も必要の無い痛手を受ける。どうだ、ここで手打ちとしないか? お前が大人しく我々と共に来るのであれば、我々はセシリア・オルコットから手を引こう」
「断る。セシリアに向けてミサイルを撃ってきた人間の言うことなど、信用するに値しない。どうせここで狙うか、機会を改めてセシリアを狙うだけだろう」
「なるほど、頭自体は悪くないらしい。だが貴様は大馬鹿だな。我々も今まで貴様らへの対策を講じてこなかったわけではない。機体の性能を上げ、練度を上げ、装備を作り、戦術を練り上げてきた。貴様らに対抗し、越える力を手に入れた。その結果が貴様のその肉体だ。意地を張るな。我々は寛容だ。我々に協力するのであれば、貴様の命は保証しよう。我らに忠誠を誓いさえすれば、地位も力も貴様の思うがままだ。貴様の力、その頭脳、無為に殺すには惜しい。最後の忠告だ。潔く我々の軍門に下れ。そして我々の為に働くといい。それが互いにとって最善の道であると、貴様もいずれ解るだろう」
「ふざけるな! 誰が『GOD』と同類の、お前たち亡国機業の言いなりになど!」
「そうか、残念だ。ではここで死ね。貴様の言う『正義』とやらを抱いて勝手に溺死しろ。もう私は止めん」
「その言葉を待っていたわ! 覚悟しなさい、『マスクドライダー』! あんたたちが私たちの敵じゃないとここで証明してやるんだから!」
「それと安心しな! あんたの仲間たちとセシリア・オルコットも、後で纏めて地獄に送ってやるんだからな!」

 女たちはめいめいバックパックを展開し、ミサイル発射口を敬介へと向ける。

「やらせるものか! そのような暴挙、この身体が砕け散ろうとも! この命に替えても! 絶対にやらせるものか!」

 敬介は咆哮すると傷付いた身体にも構わずにライドルを女たちに向けて構え直す。敬介を嘲笑うように女たちはバックパックからミサイルを発射する

「身体が砕け散るとか、命に替えてもとか、そんな悲しいこと、言わないで?」

 しかし上空からISに対してレーザービームとミサイルが降り注ぎ、バックパックからのミサイル発射が妨害される。同時に蒼い装甲を身に纏った長い金髪を美しくなびかせながら、一人の女性が敬介と女たちの前に舞い降りる。

「そんな言葉、貴方には似合わないわ? 敬介」
「リサ……?」

 違うと頭では分かっていても思わず敬介は呟くが、やがて口を開く。 

「まさか君にそんなことを言われるとは思わなかったよ、セシリア」
「ごめんなさい、敬介さん。ですがもう少し騙されて頂けても良かったのでは?」
「それは、難しいな。リサは俺を呼び捨てになんかしない。それに、君は確かにリサによく似ているけど、目はジョージにそっくりだからね」

 敬介は自分の目の前に降り立ったセシリアへと向き直る。

「お願いします、敬介さん。私も一緒に戦わせて下さい。敬介さんは私にとって大切な人なんです。ですから、私はもう敬介さんが傷付く姿を見たくないんです」
「セシリア、ありがとう。俺のためにそこまで言ってくれて。俺で良かったら、君と一緒に戦うよ」
「ありがとうございます、敬介さん!」

 微笑むセシリアと仮面の内で笑う敬介は顔を見合せる。

「セシリア・オルコットか、貴様も随分な物好きだな。何故その男の肩を持つ? 貴様ほどの実力があれば……」
「お黙りなさい! 狼藉者!」

 割り込むように口を挟む『マーリン1』に対し、セシリアが途中でキッパリと言い放つ。

「『サイレント・ゼフィルス』や『ソードフィッシュ』を強奪し、無辜の民を傷付け、あまつさえ敬介さんを傷付けた悪業、許し難いですわ! このセシリア・オルコット、最早容赦は致しませんわよ!」
「言ってくれるな! ならば望み通り『マスクドライダー』死ぬがいい!」
「そう易々と死んでたまるか! 行こう、セシリア!」
「はい!」

 敬介は虚空に『X』を描くようにライドルを振る。

「亡国機業ある限り! 私、セシリア・オルコットは!」
「そして俺、仮面ライダーXは死なん!」

 父と母の愛した海の色を受け継いだ、誇り高き蒼の雫……『ブルー・ティアーズ』を装着したセシリア・オルコットと、父から受け継いだ心と魂を仮面に換え、授けられた肉体で正義の為に陸海空を駆ける銀色の騎士……5番目の仮面ライダー『仮面ライダーX』は蒼と銀の怒濤と化して悪を打ち砕くべく動き出した。

**********

 仮面ライダーXは『クルーザー』に跨がり、敵へと突撃する。敵機は仮面ライダーXへミサイルを集中させてくる。

「クルーザー大回転!」

 しかし仮面ライダーXは空中でクルーザーを大きく回転させてミサイルを回避する。回避を終えると前部に設置されたプロペラを逆回転させ、猛烈な旋風を発生させて敵を吹き飛ばす。体勢が崩れた1機へ仮面ライダーXはクルーザーを向ける。

「クルーザーアタック!」

 直後にクルーザーによる体当たりで1機を撃墜し、浅瀬へと落下させる。

「だが、これなら!」

 しかし最初に発射されてようやく追尾を開始したミサイル、それに再び発射されたミサイルが仮面ライダーXを撃墜しようと飛来する。

「残念ですが、そうはさせませんわ!」

 即座にセシリアが機体名の元となった遠隔操作攻撃端末、『ブルー・ティアーズ』を操作し、放たれたビームを『偏向射撃』によりねじ曲げる。ビームは仮面ライダーXを守るように取り囲み、飛来するミサイルを全て撃墜する。

「だが、それが狙い目だ!」

 敵のIS2機がセシリアの下へと飛来し、近接ブレードで斬りかかる。辛うじて操作を中断したセシリアだが、2機の連携を前に反撃出来ずにシールドが削られていく。しかしセシリアは慌てない。

「ライドルロープ!」

 その内の1機を仮面ライダーXがライドルのスイッチを操作し、変形させた『ライドルロープ』で縛り上げる。仮面ライダーXは力を込めて敵を振り回し、もう1機と衝突させた上でセシリアから引き離す。続けて敵を真下へと投げながら高圧電流を流し込んで沈黙させる。

「味な真似を!」

 もう1機は体勢を立て直し、再びセシリアへ向かっていこうとスラスターを噴かす。

「接近戦なら勝てると踏みましたか。間違いではありません。ですが、『ブルー・ティアーズ』にはこんな使い方もございますのよ!」

 しかしセシリアはビットを自分の周囲に配置し、正面から向かってくる敵に銃口を向ける。間髪入れずにビットからビームとミサイルを発射してその1機を叩き落とし、沈黙させる。全方位攻撃を仕掛けるならまだしも、固定砲台として展開・攻撃する分には比較的早く攻撃に移れる。端末を戻したセシリアだが、海中に戻った2機のISから発射される対空ミサイルを受けて足が止まる。残る2機は仮面ライダーXに押し込まれていたが、仮面ライダーXがセシリアの救援に戻るや体勢を立て直してミサイルの発射体勢に入る。

「セシリア!」

 仮面ライダーXはセシリアの盾となり、ミサイルを風車のように回転させたライドルで防ぎ切る。

「これでも食らいな!」

 さらに空中からのミサイルまで仮面ライダーXとセシリアに襲いかかる。空中と海中から来るミサイルをライドルもしくはシールドバリアで防ぐ二人だが、このまま行けば特にセシリアが危ない。

「これではいずれ……敬介さんは海の敵を! 私は空の敵を掃討致しますわ!」
「そうは行くか!」

 空中の敵はミサイルの目標を別荘へと変えて発射する。

「さあ、どうする?『マスクドライダー』、それにセシリア・オルコット。甘い貴様らのことだ。ミサイルの迎撃を……」
「構いませんわ」

 しかしセシリアは平然とレーザーライフルを発射して2機を引き離す。同時に発射されたミサイルが別荘へと着弾し、ナパームもあったのか別荘が激しく炎上し始める。

「馬鹿な!? あそこには貴様の家族の!?」
「その通りですわ。申し訳ありません、敬介さん。折角の好意を……」
「セシリアこそ、いいのかい?」
「私には祖父や両親から頂いた『血』と、『思い出』がありますから」

(ごめんなさい、お祖父様、パパ、ママ……)

 目を閉じて内心謝罪するセシリアを一瞥すると、仮面ライダーXは決断する。

「すまない、俺が……分かった。海中の敵は俺に任せろ!」

 空の敵をセシリアに任せると、仮面ライダーXはまたも海へと飛び込む。海へと飛び込んだ仮面ライダーXは魚雷をライドルスティックで叩き落とし、逆に接近して自在に水中を動き回りながら2機を打ち据える。その内1機が近接ブレードで仮面ライダーXに斬り掛かるが、逆に仮面ライダーXは腕を取る。

「ライダーハンマーシュート!」

 敵を一本背負いの要領で下へと投げ飛ばし、追撃してISを掴むと急潜航や急浮上を繰り返す。元々浅水域での活動しか想定されていない『ソードフィッシュ』は、限界深度を超えて潜航させられる度にシールドエネルギーが削られていく。僚機も自由自在に水中を動き回る仮面ライダーXに手を出せない。仮面ライダーXはその1機を水中から空中へと放り投げると、即座にもう1機へと接近し、ライドルスティックを鉄棒に見立てて回転する。

「Xダブルキック!」

 もう1機も空中へと蹴り上げ、自身も飛び上がる。同時にセシリアがビットやレーザーライフルのビームを蹴り上げられたISへと集中させ、撃墜する。

「隙だらけだ! こいつで消毒してやるよ!」

 別の1機が火炎放射器を呼び出し、セシリアに向けて放つ。

「ライドル風車火炎返し!」

 しかしエア・ジェットを使い割り込んだ仮面ライダーXが、ライドルスティックを高速回転させて火炎放射を押し返し、そのISへ火炎を浴びせるとISを掴んで水中へ引き摺りこむ。仮面ライダーXは水中で敵と激しく斬り結ぶが、やがてライドルホイップの連続突きと斬撃の連携で敵の防御を切り崩す。

「X斬り!」

 防御が崩れて敵のボディがガラ空きになった瞬間、仮面ライダーXが懐に飛び込み『X』の字を描くように斬撃を浴びせ、敵は『絶対防御』を発動させて沈黙する。空中ではセシリアがレーザーライフルから放ったビームを偏向させ、1機をお手玉するように打ち上げながら沈黙まで追い込む。残る『マーリン1』は海中の仮面ライダーXに向けて対潜ミサイルを発射する。仮面ライダーXは魚雷が着水すると同時に潜航する。

「ぐおっ!?」

 しかし超高速で追尾してくる魚雷を回避も防御も出来ず、まともに食らう。

「『スーパーキャビテーション魚雷』か!?」
「試作型故に実戦で使用する気はなかったが、問題はなさそうだな」

 『マーリン1』は仮面ライダーXへスーパーキャビテーション魚雷が搭載された対潜ミサイルを連射する。仮面ライダーXは妨害機動で魚雷の誘導を切ったり、欺瞞したり、防御したりするが動くに動けない。

「私をお忘れとはいい度胸ですわね!」

 途中でセシリアがビットを展開して攻撃を仕掛けるが、『マーリン1』は対潜ミサイルをありったけ撃ち尽くすと、仮面ライダーXがいる海中へ向けてパッケージを高速で射出する。

(あのパッケージは魚雷にもなるのか。ならば!)

 飛んでくる対潜ミサイルとパッケージを見ると、仮面ライダーXは一気に海底に向けて急潜航を開始し、追い掛けてくる魚雷と共に海底へと突き進む。
 一方、『マーリン1』は近接ブレード以外の武装が破壊され、スラスターが一部破損しながらも近接ブレードで斬りかかる。ギリギリでショートブレード『インターセプター』の呼び出しに成功したセシリアとそのまま斬り結び、両者は鍔迫り合いとなる。膠着状態に陥る二人だが、『マーリン1』が口を開く。

「一つ良いことを教えてやる。先程あの『マスクドライダー』の反応が消えた。恐らく魚雷でやられたのだろう。あの魚雷は摩擦を低減して超高速で目標に到達する。いくら『カイゾーグ』といえども逃れられまい」

 セシリアを動揺させようと敢えて口に出して告げる『マーリン1』だが、セシリアは動じない。

「あら、それは大変ですわね。けど、本当にそうなのでしょうか?」
「ハッタリはよせ。貴様のハイパーセンサーとて『マスクドライダー』の反応が消えたことを探知している筈だ」
「確かにその通りですわ。その通りですが、私も貴女にいくつか良いことを教えて差し上げますわ」
「まず一つ。ISのハイパーセンサーでは海底までは探知出来ませんのよ? しかもこの近海は深い上に水温の変化も激しく、ソナーやレーダーも頼れませんわ。二つ目、この海中には並の潜水艇ではまともに降下出来ないほどの強烈な上方向への海流が流れています。いくら高性能な魚雷といえども『カイゾーグ』に海底到達前に着弾するのは難しいでしょうね。そして三つ目、この海底には大量のメタンハイドレートの鉱床が、露出した状態で存在していますわ。もし魚雷と接触して爆発したら、しかも上方向への海流が流れている海域で爆発したら、さて、どうなるでしょう?」

 セシリアが余裕を崩さずに言った瞬間、『マーリン1』の背後で間欠泉のように海中から巨大な水柱が空高く吹き上がる。動揺しながらも動こうとはしない『マーリン1』にセシリアはさらに続ける。

「四つ目。『カイゾーグ』は水の中であれば空中でのISに匹敵する機動力を発揮出来ますわ。十分な浮力を確保出来る水量さえあれば、ナイアガラの滝だって余裕で遡れますのよ? ましてや、この突き上げる海流であれば……」

 直後、二人のハイパーセンサーがまるで滝を遡っているかのように上昇する仮面ライダーXの姿を捉える。仮面ライダーXは最高点に到達すると空中へと飛び立ち、ライドルスティックを使い空中で大車輪を決める。

「させるか!」

 動揺していた『マーリン1』だが、すかさず仮面ライダーXへと向き直り、近接ブレードを構えて『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』を使って仮面ライダーXへと突撃する。あれが飛び蹴りを放つ前動作であるとは知っている。向こうは空中でまともに回避も出来ない。だから前動作の内に接近して、蹴りを放つ前に潰す。戦訓から得た対策の一つだ。

「なっ!?」

 しかし突撃中に背後から強烈な衝撃が襲いかかり、スラスターが破損して近接ブレードを取り落とす。レーザーライフルを構えたセシリアが瞬時加速で『マーリン1』を追いかけ、背後から思い切り銃身を突き立てたのだ。セシリアは『マーリン1』を盾にするように仮面ライダーXへと突撃していく。

「何のつもりだ!? 味方の好機を潰すなど……!」

 『マーリン1』は動揺しながらも疑問を差し挟む。このまま突撃すれば飛び蹴りを放つ前に潰す形となる。仮にも国家代表候補生がそんなことを理解出来ない筈がない。しかしセシリアは『マーリン1』に意外な返答をする。

「あら? 敬介さんが『Xキック』を使うなどと、どなたがおっしゃいましたの?」

 直後に大車輪を終えた仮面ライダーXはライドルを構え直し、大上段に振り上げる。

「しまった!?」

 『マーリン1』は仮面ライダーXとセシリアの狙いを悟る。飛び蹴りならともかく、ライドルを振り下ろすだけならば、タイミングよくこちらにライドルを振り下ろすことが出来る。仮にセシリアに邪魔されなくともライドルの一撃が振り下ろされていただろう。大車輪につられて敵は飛び蹴りを放ってくるだろうと思い込んでいた時点で、負けは決まっていたのだ。

「ライドル脳天割り!」

 仮面ライダーXは『マーリン1』目がけてライドルを振り下ろす。ライドルが『マーリン1』にヒットする直前、セシリアはしてやったりと言いたげに笑ってみせ、突き立てたレーザーライフルの引き金に指をかける。

「バーン」

 仮面ライダーXが放った渾身の一撃と、セシリア・オルコットが零距離から撃ったレーザーライフルが同時に最後の悪へと直撃し、沈黙へと追いやった。

**********

 夕日が赤く照らす海の上を、敬介とセシリアを乗せたクルーザーが走っている。和也は亡国機業構成員を応援に引き渡した直後、ヘリで次の目的地へと飛び立っていった。敬介とセシリアは連絡船で本土まで戻る予定だったが、襲撃の影響で便が出ないので急遽『クルーザー』を使うことになった。敬介もセシリアもまんざらではないが。

「しかし、滝さんは本当に凄いな。ミサイルから生き残っただけじゃなくて、写真までちゃんと確保したんだからな」
「ええ。滝捜査官には感謝してもし足りないくらいですわ」

 セシリアは懐から写真立てに入った自身の家族写真を取り出す。ミサイルの直撃で別荘の遺品は全て灰となったのだが、セシリアと入れ違いになる形で来た和也が、咄嗟にこの写真立てを持ち出し別荘から脱出した。和也曰く一枚くらい父子の肖像があった方がいいだろう、と思ってこの写真立てを持ち出したらしい。

「俺もきっと、あの写真の中で一つ持ち出すとしたら滝さんと同じものを持ち出していただろうけどね。それとごめん、セシリア。俺の力が足りなかったばかりに、別荘があんなことになってしまって」
「謝らないで下さい、敬介さん。私にはこれがあれば十分ですし。それに祖父も父も母も、きっと敬介さんに感謝していると思いますわ。第一原因は私ですもの」

 謝罪する敬介にセシリアは首を振る。

「私の方こそごめんなさい。敬介さんの好意を無駄にしてしまって」
「気にしなくていいさ、セシリア。君自身で決めたことなら、俺はいいんだ。ジョナサン先生もリサもジョージも、君のことを誇りに思っているだろうしね」
「ですが、あそこには敬介さんの……」

 逆に謝罪するセシリアに敬介は笑って首を振る。しかしセシリアはまだ言い募ろうとする。
 敬介にとってジョナサンは恩人であるし、ジョージとリサは大切な友人だ。何よりあそこには敬介の父親である神啓太郎ゆかりの品まであったのだ。それらの遺品はほぼ全て無くなってしまった。しかも手元に写真はあるセシリアと違い、敬介の手元には何一つ残っていない。しかし敬介は気にしていない風に笑って続ける。

「俺はいいさ。俺には親父がくれたこの身体がある。ジョナサン先生やリサ、ジョージの血と想いを受け継いだセシリア、君がいる。それだけで俺は十分だ」

 敬介の言葉に偽りはない。なにか人や物が無ければ記憶や思い出は風化するものだとしても、この身体がある限り、セシリアがいる限り、敬介の中でジョナサン、リサ、ジョージ、そして啓太郎の記憶や思い出が敬介の中で色褪せることはない。敬介は心から確信している。

「なにより、セシリアが無事ならそれが一番さ」
「ありがとうございます、敬介さん。けど今度からあのような無茶はあまりしないで下さいね? 今回は本当に心配したんですから。父親たるもの、娘を心配させ過ぎないのも立派な務めですわ」
「手厳しいな。そこまでリサに似ているとは思わなかったよ」
「誉めても何も出ませんわよ?」
「……そんな所はジョージそっくりだな、君は」

 自分をやり込めてみせるセシリアに敬介は苦笑する。
 ふとセシリアは海を眺める。祖父や両親、敬介が愛し、自分もまた好きになった海だ。ジョナサン、ジョージ、啓太郎、それに敬介ら『父』たちが夢を追い求め、波の中に想いを抱き、想いを込めた母なる海だ。今回セシリアはジョージだけでなく、そういった『父』たちの想いを、敬介を通して垣間見たような気がした。セシリアが再び口を開く。

「敬介さん、私、頑張りますね。父や母、祖父が託してくれた想いに応えられるように、これからも、ずっと」

 セシリアは敬介に微笑む。

「ああ、俺も応援するよ。ジョージやリサ、ジョナサン先生の分も、これからもずっと、君の父親代わりとして」

 敬介もセシリアに笑い返す。運転中で前を見ているため、後ろに乗っているセシリアからはあまり表情は伺えない。しかしその笑顔は爽やかで、しかしどこか優しく、穏やかで、娘の成長を喜ぶ父親の笑顔をしているようにセシリアには見えた。
 陸地が見えてくる。海上の旅は終わりだ。後は陸路でセシリアが愛する織斑一夏の下へ向かうだけだ。それを知っているからか、セシリアを後ろに乗せた敬介は『クルーザー』のスロットルを入れて道を急ぎ始めた。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.029248952865601