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No.32494の一覧
[0] 【習作・ネタ】腐敗都市・麻帆良(ネギま)【ヘイト注意】【完結】[富屋要](2020/03/01 01:07)
[2] 第一話 特殊資料整理室[富屋要](2012/03/28 20:17)
[3] 第二話 麻帆良大停電[富屋要](2012/03/29 20:27)
[4] 第三話 麻帆良流少年刑事事件判例[富屋要](2012/03/30 21:08)
[5] 第四話 学園長[富屋要](2012/03/31 22:59)
[6] 第五話 包囲網[富屋要](2012/04/05 21:11)
[7] 第六話 関西呪術協会[富屋要](2012/04/10 00:09)
[8] 第七話 目撃者[富屋要](2012/04/14 20:03)
[9] 第八話 教師[富屋要](2012/04/17 20:25)
[10] 第九話 魔法先生[富屋要](2012/05/18 03:08)
[11] 第十話 強制捜査[富屋要](2012/08/06 01:54)
[12] 第十一話 真祖の吸血鬼[富屋要](2012/08/06 19:49)
[13] 第十二話 狂信者[富屋要](2012/09/08 02:17)
[14] 第十三話 反抗態勢[富屋要](2015/11/27 23:28)
[15] 第十四話 関東魔法協会[富屋要](2013/06/01 03:36)
[16] 第十五話 立派な魔法使い[富屋要](2013/06/01 03:17)
[17] 第十六話 近衛近右衛門[富屋要](2015/11/27 23:25)
[18] 最終話 腐敗都市[富屋要](2019/12/31 16:31)
[19] エピローグ 麻帆良事件・裏[富屋要](2020/02/29 23:46)
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[32494] 第十五話 立派な魔法使い
Name: 富屋要◆2b3a96ac ID:d89eedbd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/01 03:17
『学校法人に潜む新興宗教組織「マギステル・マギ」
 銃砲刀剣類所持等取締法違反で逮捕された学校法人麻帆良学園本校女子中等部の生徒三名のうち一名(A、十四歳)が、同学園内にある『マギステル・マギ』なる新興宗教に雇用される傭兵である事を自白したと、二十五日、京都府本部警察署は明らかにした。

 マギステル・マギ――ラテン語で『立派な魔法使い』の意――は、世界各地に支部と信者を擁する新興宗教であり、有識者によれば、麻帆良学園には教師生徒問わず『マギステル・マギ』の信者が多数在籍し、市内には非法人の日本本部が設立されているとの事。

 Aは幼年の頃、マギステル・マギのセクトの一つ『カンパヌラエ・テトラコルドネス』に徴兵された戦災孤児。セクトの施設で訓練を受け、戦場へ送り出されていた。十二歳の時に保護され、日本に帰化。しかし麻帆良学園の学園長であり、同学園内マギステル・マギ日本本部のセクト代表、近衛近右衛門はその立場からAの個人情報を利用、学生生活の傍らに学園の警備に就かせていたと言う。近衛学園長の依頼で請け負った仕事もあると自供しており、詳細については現在調査中である。

 この件に関し文部科学省では「事実であれば、到底許される行為ではない。生徒の個人情報を指導以外に利用するなどもっての外、教育機関としての在りようどころか、働かせている内容にしても人道にもとる。麻帆良学園の体質なのか、マギステル・マギの体質なのか、いずれにせよ他にも同様の扱いを受けている生徒がいないか、早急に調査し、実態の解明が必要である」とコメントしている』

 二十六日の朝刊の記事を読み終えると、『警察庁長官官房総務課特別資料室係』の天ヶ崎あまがさき千草ちぐさは新聞をテーブルの上に置き、プラスチックの蓋のついた紙コップからコーヒーを一口すすった。

 場所は麻帆良学園の敷地からさほど離れていないオープン・テラスのコーヒーショップだ。

「無茶をしおったなぁ……」

 計画の段階で織り込み済みだったものの、実際に活字になっているのを読むと、そういう感想が出てくるのを禁じ得ない。

 これはとりもなおさず、計画通りに保護した少年少女から証言を得られた証左でもあった。

立派な魔法使いマギステル・マギ』の名を公表する。

 それに向けた活動を起こすだけでも、魔法の秘匿に躍起な各『機関』が蜂の巣を突いたような騒ぎになる。

 ……などと短絡的に思考するのは、麻帆良の魔法使い程度のものだ。

「まあ実際、そんな事ないんやけどな」

 千草はほくそ笑むと、本校女子中等部のある方角へと目を向けた。

『手かざし療法』に『気功療法』、宇宙の波動に調律した奇跡の『波動水』に『水の微小クラスター』、ゲルマニウムで『血液サラサラ』、重力子と運気を込めたセラミック、土砂を水漬けした上澄みを『有機ミネラル』、エトセトラエトセトラ。いかがわしいエセ科学やエセ宗教、カルトが標榜する物品が世間に氾濫しているように、その主張を正当化する胡乱な教義は枚挙にいとまがない。中には、数千万年前に銀河系中心部で勢力を誇った銀河大帝の親衛隊が、大帝の不興を買い追放され、地球人に転生した、と大真面目に主張する剛の宗教すら存在している。

 それらの中から、『本物』の魔法だけを選別し、秘匿する。

 いかに無茶か想像もしたくないし、それを実行している各『機関』には、別の意味で頭の下がる思いだった。

「……しかし『立派な魔法使いマギステル・マギ』を出すのは問題ないとは、意外やった」

 記事にある『四音階の組み鈴カンパヌラエ・テトラコルドネス』に限らず、麻帆良学園本校女子中等部の教師、タカミチ・T・高畑が所属する『悠久の風(オーストロ・アフリカス・アーテルナリス)』など、非政府組織――NGO――として国連に参加し、『立派な魔法使いマギステル・マギ』の息のかかった集団は幾つも存在している。

 NGOとして活動するにあたり、その資金の流れは決算書の形で公開されている。国からの助成金か、どこかの団体からの寄付金か、その資金はどのように流用されたのか、支援を受けて活動している以上、資金の流れを記録し公開するよう義務付けるのは当然の成り行きだ。

 無論、二重帳簿を付けるなり、出納記録をねつ造するなり、不正に気づいた人物には鼻薬を嗅がせるなり、記憶処理を行うなり、最悪不慮の事故による口封じをするなり、抜け道は幾らでもある。

 しかし、いかに複数の口座からの入金という形式で存在を秘匿しようとしても、主な資金源が『立派な魔法使いマギステル・マギ』からなのは、公的な調査能力を有する組織であれば、割り出すのは比較的容易な作業だ。

 加えて、嘘か本当か、おそらくはゼロを二つ多くつけた誇張だろうが、地球には六千七百万人もの魔法使い――世界の人口六十億強の百人に一人――がいるとの説がある。仮に百分の一の六十七万人だとしても、それ程の人数を『魔法の秘匿』という一つの基準に並ばせるなど、実現不可能な話だ。見方を変えれば、口で言う程に魔法の秘匿を守れず、一般人を巻き込んだ結果の数字、と取れなくもない。

 とどのつまり、一般の情報筋に引っかかり難いだけで、『立派な魔法使いマギステル・マギ』が意図しているよりも、彼らの存在は存外知られているのだ。

「マスコミ連中も、肩透かしを食らった気分やろうなあ……」

 これまで各『機関』からマスコミに対し、自主規制を求める『圧力』が働いているのは事実だ。要請に応じない記者がデータを紛失したり、数日の病欠の後に軽い記憶障害を起こしていたり、更迭されたり、あるいは自主なり懲戒なりで職を辞したりする事はあっても、あくまでもマスコミの協力による自主規制・・・・と主張しているのは変わらない。

 それが今回、報道しても検閲・・が入らなかったのは、『立派な魔法使いマギステル・マギ』が非公式ながらあちこちで知られていたのと、警察の公式発表をそのまま掲載したからだ。

 従来であれば警察内においても、公式見解の際には同様の圧力がかかるところだ。しかし霧香きりかの立案した『計画』を上層部が採用したのもあり、発表を手控えさせる勢力は機会を失っていたと言えよう。

 具体的な行為はあくまで『報道の自由』を尊重し、報道規制を行わなかった・・・・・・だけの話で、何ら問題のある行動ではない。規制や検閲を強行させてきた魔法使いこそが異常だっただけのことだ。

「そうでしょうねぇ」

 どことなく気の抜けた声で応じ、手にしていた新聞を千草に手渡したのは、『警視庁特殊資料整理室』の志門しもん勇人ゆうとだった。

『十四歳少女を長女の護衛に抜擢。京都の宗教法人に児童虐待の疑い』

 昨日二十五日夕刊の記事だ。

『修学旅行中の中学三年生が刀剣類を所持していたとして逮捕された事件で、その生徒はクラスメートの護衛を親権者に依頼されており、押収された太刀は信頼の証として託された物だと供述していると、京都府本部警察署は明らかにした。

 護衛対象とされたのは、京都市内に本拠を置く「宗教法人関西呪術協会」の協会長の長女。協会内の派閥争いからの誘拐などを警戒し、祖父が学園長を勤める埼玉県内の全寮制の学校法人に通わせていた。

 逮捕された少女の親権は関西呪術協会の協会長が有しており、手ずから護衛として剣術を教え込み、二〇〇一年四月に当該私立学校に入学を指示。学園長の権限で長女のクラスメートとなるよう手配していた。少女が所持していた太刀は、入学に際し協会長が持たせた物。

 京都府警では児童虐待の疑いがあり、所轄の児童相談所と連携し、他にも同様の扱いを受けている児童がいるか、他の未成年者にも武器を所持させていないか、関西呪術協会に近日中に聞き取り調査を実施する方針』

 記事に一通り目を通し終えた千草の脳裏に浮かんだのは、近衛一族が本邸とし、『関西呪術協会』では総本山と呼ぶ『炫毘古社(かがびこのやしろ)』と言う名の広大な敷地を持つ神社だった。

 炫毘古神(かがびこのかみ)、あるいは迦具土神(かぐつちのかみ)として知られる火の神を奉る神社の体裁は取り繕っているものの、実体は一八七二年発令の『天社禁止令』をかわすため、陰陽師の一族が隠れ蓑として建てたものだ。エセ神道と言い切って良い。

 来客を迎えるのに社務所を使わず、神との交信の場であり、御神楽や御祈祷を奉仕する神聖な神楽殿をその用途に使う様からして、信仰面でのいい加減さは知れよう。

「一体全体、どれだけの部分が腐れとるんやろうなあ」

 協会では上を下にと大騒ぎになっているだろうと想像して、千草はくつくつと喉の奥で愉快げな笑いを漏らした。

 何せ社会一般の常識どころか、良識や善意や誠意や正直さと言った、人として備えるべきものがごっそり抜け落ちている『近衛近右衛門』を生み出した一族だ。あの長い後頭部が頭蓋縫合早期癒合症とうがいほうごうそうきゆごうしょうなどではなく、太古のマヤ文明よろしく、将来の一族の家長のあるべき姿として、もしくは一族の精神性の象徴として、実は乳幼児の頃から木枠に頭を固定して細工していた。そう言われてもおかしくない程に狂った一族である。

 両親が健在で協会に出入りしていた幼少の頃には気づきもしなかったが、成長して社会に出て見聞が広がると、あそこがいかに異常な場だったのか、まざまざと思い出される千草だった。

「カルトやマルチ商法に嵌っとる親から解放されると、こんな気持ちになるんやろか」

 そういう被害に遭ったと言う届け出や、嵌ってしまった家人を救いたいとの相談は、本来の管轄である経済産業省や地元消費者センターだけでなく、各都道府県の警察署にも寄せられており、この手の話は幾らでも耳にしている。経済力や社会経験の少ない学生や未成年者ならば勧誘しやすいと、末端の会員や信者に指導する悪質な業者すらいる。麻帆良の魔法使いが、従者として学生を利用しているのも同じ理由からだ。

 特に悲惨なのは、経済的に破綻させられ、一家離散の憂き目に遭う事ではなく、離乳食すら始まらない時期に、信者の両親におかしな物を飲食させられる乳幼児や、勉強会や研修を名目に外出しがちな両親に放置される幼児、信仰を理由に必要な予防接種や医療を受けさせてもらえない児童、最悪はそのまま殺されてしまう子供の末路だろうか。

 そんな子供達と較べれば、早々に両親と死別したのは幸運だった。

 ……などと言うつもりは欠片とてない。

 両親の信仰の対象が何であれ、千草にとっては良い親だったのだ。

 愛情がなかった訳ではない。幼少の時分に奪われた喪失の悲嘆を忘れた訳ではない。魔法使いへの憎悪と復讐心が弱まった訳ではない。二十年を経た今でも、魔法使いとして生きてきた事を死ぬほど後悔させてから、魔法使い全ての息の根を止めてやりたい衝動がある。

 それでも心のどこかに、あの協会との関わりが薄くなった事を、遅まきながら安堵できるようになった自分がいるのは否定できない。あのまま協会に残されていたら、復讐心一色に塗り潰されていたと思えるだけに、感慨はひとしおだ。

「カルトかどうかは分かりませんけど、こういう集団とは関わり合いたくありませんね」

 千草の呟きが耳に届いたのか、そう言ってネット上の記事をプリントアウトした紙を差し出してきたのは、見た目高校生程の童顔の男だった。勇人と同じく警視庁の刑事、石動いするぎ大樹だいきだ。

 記事の見出しよりも目を惹くのは、記事と共に掲載されている一枚の画像だった。全身を厚手のローブで覆い、目深に被ったフードで口元しか見えない数名が、どこかの建物から出てくる場面を撮影したものだ。

『麻帆良学園本校女子中等部から出てきたマギステル・マギの「魔法先生」』

 昨日の午前のうちに『立派な魔法使いマギステル・マギ』の名前を報道させたのが、功を奏した結果だ。

 いかな麻帆良全域を包む<認識阻害の結界>とて、魔法の存在を知る非魔法使いに、魔法を認識させなくなる程、強力な代物ではない。あくまで五感を通し漫然と入ってくる情報の中から、特定の事象を認識する能力を阻害するだけのものだ。

 それ故、見る物や探す物を明確に意識すれば、認識力が阻害されることはない。それは先日の強制捜査の折、担当の警察官達が手首に貼り付けたメモを常時見直すことで、任務をその都度認識できるようになったところからも確認済みだ。

『麻帆良学園に潜む新興宗教、マギステル・マギ。

 不正アクセス禁止法違反で逮捕された麻帆良学園の教師、弐集院光容疑者が、同学園内の新興宗教団体マギステル・マギの一員であると、埼玉県警察署は明らかにした。弐集院はインターネットの検索機能を経由し、個人や企業のパソコンに侵入、個人情報を所得した後に、ブログや掲示板に管理者権限を偽装してアクセスし、記事を自動的に削除するマルウェア『二〇〇三年式電子精霊群』を開発。麻帆良学園に批判的な書き込みを削除させていた疑いが持たれている。

 このマルウェアによる被害は数千から数万件に及ぶと見られ、麻帆良学園側は、弐集院の独断によるものとして、犯行との関連性を否定。しかし埼玉県警では、この事件が教団の主導によるものではないかと見て、捜査を進めている。

 二十五日、麻帆良学園では小中高大学部の教団員らが、本校女子中等部内の学園長室に集合、同日本セクト本部の代表であり、学園長も務める近衛近右衛門と会合を持ったのが確認された。会合の内容について麻帆良学園側は「マギステル・マギの活動とは関係ない。当学園の運営に関する内容なので、公表する必要はない」とコメントしている』

 麻帆良学園を支配するのが『立派な魔法使いマギステル・マギ』だと、自ら認める言い訳に失笑しつつ、やや明かしすぎの感のある記事に、千草は眼鏡の奥で眉根を寄せた。弐集院容疑者が『立派な魔法使いマギステル・マギ』の一員だと公開するのはともかく、埼玉県警の方針まで書かせるのは、今日の夕刊か明日の朝刊に合わせても良かった気がする。

『当社サイトにおいても記事の無断削除を確認しており、警察に被害届を提出済です。報道の自由を妨害する行為には、断固として抗議します』

 下方に小さく追記されている一文に目を止め、小さな苦笑を漏らす。

「いや、そうでもないんかな」

 しばし黙考し、千草は先の意見を否定した。

 魔法の絡む懸案なだけに、『特別資料室係』は指揮権を有していないものの、埼玉県警と京都府警の大まかな進捗状況を把握している。今回のように出張る自体、四角四面に規則を捉えれば越権行為を問われかねない事態であるが、それが黙認されているのは、『上』からオブザーバーとしての参加を許可されているからだ。

 それでも千草の耳に入ってくる情報には限界があり、麻帆良市警察署に入った監査の進捗状況と、せいぜいが一昨日の強制捜査と昨日の魔法使いらの家宅捜索で、『二〇〇三年式電子精霊群』と『立派な魔法使いマギステル・マギ』を結び付ける有力な物品を押収したという事くらいだ。

「つまりそれだけ、有効な証拠が出てきたって事じゃないですかね?」

 千草とほぼ同じ思考を辿っていた勇人が零した。

 マスコミに流す情報の順番すら、計画ではスケジュール化されている。各警察署の捜査状況で発表の頃合いは前後するにしろ、麻帆良学園とそこに巣食う『立派な魔法使いマギステル・マギ』関連の報道に関し、五月の連休まで毎日新情報を提供していく予定だ。そのために、ネットの強力な検閲ツール『二〇〇三年式電子精霊群』を、真っ先に無力化したと言っても過言ではない。

 そうやろな、と勇人に同意の一言を告げ、千草は腕時計で時間を確認すると、残りのコーヒーを一息に飲み干した。

「後は近衛のジイさんの動きと、裁判所の判断。どっちが先かやな」

 連日で麻帆良の『立派な魔法使いマギステル・マギ』関連の報道を続けているのは、近右衛門とその指揮下の魔法使い達の軽挙妄動を期待しての事だ。実際、頭を低くして嵐が過ぎ去るのを待てば良いものを、わざわざ話題の中心である本校女子中等部に疑惑を持たれる恰好で集合したため、後ろ暗い会合が行われたのを目撃されている。

「いや。これは無能ゆえか」

 千草は訂正した。

 世間の小中高大一貫校のように、各校に代表責任者つまり校長を置いておけば、それぞれの責任者の指示の元、そこに通勤通学する魔法先生・生徒が対処すれば済んだ話だ。この報道にあるような無様は晒さなかっただろう。これは学校組織として、『立派な魔法使いマギステル・マギ』として、両方に言える事だ。

 それができなかったのは、非常時に関係者を一堂に集め、己が尊厳と指導力を誇示したい近右衛門の顕示欲によるものか、組織運営のてにをは・・・・を知らない無知から来たものか。いずれにせよ、各校の最高権力者の椅子を独占する事に固執する余り、教頭と言う校長不在時に指揮を執る代理人を置かずにいたのが、失態の原因なのは間違いない。

 そもそも魔法使いにしろ陰陽師にしろ他の神秘の使い手達にしろ、一介の警察官が束になっても拘束できない強力な『力』の持ち主ばかりのためか、すぐさま暴力に訴える傾向にある。魔法の秘匿のために、魔法を「使わない」選択ができず、魔法を「使って」秘匿する矛盾を自覚できない魔法使いを例に出すまでもなく、理性や知性や忍耐を用いる能力は極端に低い。

 だからこそ、今回の計画のような小さく揺さぶりをかける手法が有効であり、見当違いで的外れで場当たり的な行動から、さらに大きな墓穴を掘っていくと期待できる。

「ま、理由は何であれ、一般人を舐めすぎたのが致命的や」

 両親が陰陽師だった千草の口にすべき言葉ではないかもしれないが、口にせずにはいられなかった。この場にはいないたちばな霧香きりか倉橋くらはし和泉いずみ辺りですら、一般人を軽視しがちな傾向がある。

 この千草の意見に、勇人と大樹は小さく頷いた。

『特殊資料整理室』などと神秘絡みの部署に配属されているとは言え、勇人と大樹の二人は、元々魔法には無縁の一般人の家庭の出だ。幸か不幸か今回は使う事のないであろう――と言うより、使用を禁じられている――『異能』を持って生まれてしまい、霧香に見つかってしまったのが運の尽きだった。魔法使いに陰陽師に精霊術師にと、常識の枠外の力を奮い好き勝手する連中には、不本意な巻き込まれ方をした手前、一言ならず思うところがある。

「ほな、ぼちぼち行こうか」

 テーブルの角を叩いて一区切り付けると、三人は席から腰を上げた。

 計画は一番の難関に差し掛かっていた。

     ◇◆◇

 麻帆良学園を含む麻帆良市全域を、不穏な空気が覆っていた。

 修学旅行中での生徒の集団補導を皮切りに、一部生徒が銃器刀剣類で武装していたとして逮捕され、次いで翌日には不正アクセス法違反によって教師が逮捕された。遂には、『学校法人麻帆良学園』の代表が、新興宗教組織の日本セクト代表とまで報道され、あまつさえ、これまでの一連の事件にセクト関与の疑惑まで示唆されている。

 世間では多少色褪せてきたとは言え、四年前の一九九九年、都内の地下鉄に致死性のガスをばら撒いた宗教団体が行っていた卑劣で反社会的な行為の数々は、今なお個人・自治体問わずに訓戒として記憶されている。

 判明している規模こそ小さいものの、麻帆良学園に潜む『立派な魔法使いマギステル・マギ』に当時の脅威を重ね合わせてしまうのは、ある意味当然かもしれなかった。

『マギステル・マギは麻帆良から出て行け!』
『子供達を返せ!』
『今なら間に合う! すぐに脱会しよう!』

 そんなメッセージを書いた看板やプラカード、のぼりが付近住民の手により作成され、麻帆良学園各校に面する路上や塀、マンションのバルコニーに掲げられていた。学園の校門前や塀に貼られた抗議のチラシは、出勤した教師と事務員達の手により排除されている。

 デモに到らないのは、近右衛門が戦場経験者を傭兵として雇用し、邪魔者の排除に躊躇いがない人物だと報道で知らされたからか、逮捕された生徒がそうであったように、『立派な魔法使いマギステル・マギ』が銃器で武装した一団と判断したからか。

 しかし住民達が積極的な抗議運動に到れない理由は、もう一つあった。

『広域生活指導員』

 主に麻帆良学園各校の武闘派教師陣により編成され、学園敷地内のみならず、治安維持の名目の元、敷地外の商店街や繁華街をも経巡り、学生の指導と称し武力鎮圧を前提に活動する者達だ。さすがにその大半が『立派な魔法使いマギステル・マギ』だとは、住民達の知る由もない。

 彼らは『青少年の非行防止と健全な育成』を目的とし、各市町村の警察署署長が任命し、委嘱した『少年補導委員』ではない。埼玉県であれば、埼玉県公安委員会から委嘱された特別枠の地方公務員『少年指導委員』もあるが、そのような立ち位置でもない。どちらもが専門の試験を受け、合格して初めて採用される『公』の身分だ。

 広域生活指導員とは、その名称とは裏腹に、健全な役柄ではない。近衛近右衛門が個人的に雇用あるいは任命し、学園の治安と魔法の秘匿の名目の元、近右衛門がその指揮を執り、近右衛門の許可を受け、補導員であれば認められていない身柄の拘束、尋問、監禁、果ては暴力の使用、ならびに魔法による記憶処理を是とする、近右衛門のための暴力機構――悪く言えば近右衛門の『私』兵だ。

 広域生活指導員が住民に対し、これまで暴力を振った事がなかった――記憶を操作し、被害をなかった事にする行為を、暴力と呼ばないのなら――にせよ、これからもその暴力の矛先を向けずにいるとは限らない。被害なり迷惑なりが広がるのを防ぐためと称し、暴力に訴え出た学生を同じ暴力で返り討ちにしている現場を、住民の多くは一度ならず目撃しているのだ。その暴力が自分達に向けられないよう、顔を直接見られるのを警戒するのは当然と言えた。

 無論、このような行動を起こしているのは、住民の極一部に過ぎない。ほとんどは寄らず触らずの距離を置き、静観か傍観の構えだ。慌てるのは自分達の身に害が及んでからでも間に合うと、楽観的に構えている場合があれば、<認識阻害の大結界>によって現状が異常だと認識できなくされている場合など、理由は様々だ。

 とは言え、一部なりとも住民が<認識阻害の大結界>を克服したのは、魔法使い達にとり不愉快な事実に違いなかった。先日の近右衛門の指示に従い、陰陽師達の侵入に備えた警邏の間にも、住民達から投げつけられる敵意と警戒の目に、誰のお陰で平和に過ごせてきたと思っているのだと、声を大にして叫び出したい程に不満が募っていくのだった。

 そんな彼らの神経を更に逆撫でするのが、最初の報道と前後して見かける機会の増えたように思える『埼玉県警察』の文字を入れた白黒ツートンカラーのパトカーだ。

「最近険悪になっている学園と住民側との暴力による衝突の予防。そしてマスコミの学園敷地内への不法侵入による学業妨害の予防。そのためのパトロール」

 それが警察側の言い分であり、魔法使い達からすれば、マッチポンプも良いところだと激昂したい話だった。警察が捜査など行わなければ、マスコミが報道しなければ、麻帆良はこれまで通り何事もなく平和でいられた、と。

 自分達の主張が、麻帆良の住民を自覚のない被害者にしたハラスメントの上に成り立つ、魔法使いにとり都合の良い身勝手な平和だ、との自覚は皆無だ。

 ましてや警察官の中に、麻帆良の魔法使いを排除するのを目的とした陰陽師まで潜んでいるのだ。通り過ぎるパトカーや警邏中の警察官に、意識しなくとも敵意を含んだ目を向けてしまう。

立派な魔法使いマギステル・マギ』に向けて否を突き付けてくる住人や警察に、魔女狩りの再来かと戦々恐々とするか、魔法使いの正しさを力ずくで教えてやろうかと気炎を上げるか、主にこの二つに分かれつつあった。

 改善する見込みもなく険悪化する一方の空気の中、麻帆良学園本校女子中等部は、一八九〇年代に設立されてからの歴史において初の、わずか半月の間に三度目の警察の訪問を受けていた。







◎参考資料◎
・赤松健『魔法先生ネギま!(5)』講談社、2004年4月16日
・赤松健『魔法先生ネギま!(6)』講談社、2004年6月17日
・赤松健『魔法先生ネギま!(16)』講談社、2006年10月17日
・あなたの知らないアンダーグラウンド・トーキョーガイド東京DEEP案内『【世田谷区】世田谷アングラゾーン「千歳烏山」(4)南烏山オウム拠点』2011年5月16日
・警察庁『第1章 地域社会との連帯(5)パトロールの強化』
・公益社団法人 全国少年警察ボランティア協会『少年警察/大学生ボランティアとは?』
・困り事よろず相談処 ほ~納得『少年補導員と「警察の職務を補助する者」』2012年2月10日
・埼玉県警察『少年指導委員とは』
・Katy “Not Aliens, just humans with modified crania.” Bones Don’t Lie. December 22, 2011.
・NGOを支援するNGO 国際協力NGOセンター(JANIC)『NGOの概念』
・OK Wave『不正アクセス禁止法違反の容疑者になりました』2004年6月3日
・Riggs, Ransom “Mayan body modifications.” Mental_floss. December 11, 2006.
・Wikipedia『非政府組織』
・Wikipedia “Artificial cranial deformation.”
・Wikipedia "Non-governmental organization"


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