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No.32494の一覧
[0] 【習作・ネタ】腐敗都市・麻帆良(ネギま)【ヘイト注意】【完結】[富屋要](2020/03/01 01:07)
[2] 第一話 特殊資料整理室[富屋要](2012/03/28 20:17)
[3] 第二話 麻帆良大停電[富屋要](2012/03/29 20:27)
[4] 第三話 麻帆良流少年刑事事件判例[富屋要](2012/03/30 21:08)
[5] 第四話 学園長[富屋要](2012/03/31 22:59)
[6] 第五話 包囲網[富屋要](2012/04/05 21:11)
[7] 第六話 関西呪術協会[富屋要](2012/04/10 00:09)
[8] 第七話 目撃者[富屋要](2012/04/14 20:03)
[9] 第八話 教師[富屋要](2012/04/17 20:25)
[10] 第九話 魔法先生[富屋要](2012/05/18 03:08)
[11] 第十話 強制捜査[富屋要](2012/08/06 01:54)
[12] 第十一話 真祖の吸血鬼[富屋要](2012/08/06 19:49)
[13] 第十二話 狂信者[富屋要](2012/09/08 02:17)
[14] 第十三話 反抗態勢[富屋要](2015/11/27 23:28)
[15] 第十四話 関東魔法協会[富屋要](2013/06/01 03:36)
[16] 第十五話 立派な魔法使い[富屋要](2013/06/01 03:17)
[17] 第十六話 近衛近右衛門[富屋要](2015/11/27 23:25)
[18] 最終話 腐敗都市[富屋要](2019/12/31 16:31)
[19] エピローグ 麻帆良事件・裏[富屋要](2020/02/29 23:46)
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[32494] 第十四話 関東魔法協会
Name: 富屋要◆2b3a96ac ID:d89eedbd 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/01 03:36
 三十余名の魔法使いが一斉に立ち去り、いつもの閑散とした空間に戻った学園長室で、近右衛門はひとしきり顎ヒゲを撫でつけ、ふむと唸ると自席に着いた。

「もう少し手数がほしいのう……」

 そう呟いて懐から携帯電話を取り出し、登録してある番号の一つを押す。
 真祖の吸血鬼ハイデイライト・ウォーカー、『闇の福音ダーク・エヴァンジェル』のエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの番号だ。

 近右衛門がなだめすかして子飼いの私兵としているエヴァンジェリンは、自らを堂々と『悪』と名乗るだけあり、『立派な魔法使いマギステル・マギ』の魔法先生・魔法生徒との相性はかなり悪い。事実、彼女が麻帆良にいる自体に不満を持つ魔法使いも少なくなく、加えて『立派な魔法使いマギステル・マギ』の建前上、彼女を一員とする訳にもいかず、先程の集会にも参加させていない。

「……現在この電話は、電波の届かない場所か……」

 返ってきたのは、予想外にもエヴァンジェリンの肉声ではなく、機械的な音声メッセージだった。

「フォ?」

 意外な反応に近右衛門の口から奇妙な音が漏れた。

 かけられている呪い『登校地獄インフェルヌス・スコラステイクス』により、エヴァンジェリンは麻帆良市外へ一歩踏み出すことはおろか、クラスの生徒達が修学旅行中であっても、平日は学園への登校を強いられている。電波の届かない場所にいるとは考え辛い。

 もう一度短縮番号を押すも、自動メッセージによる回答の結果は変わらなかった。

「ま、校舎内にいるのは間違いなかろうて」

 携帯電話のバッテリーが切れているのだろうと軽く考えかけ、今のような非常事態に連絡がつけられない事に、ふとげんの悪さを感じる。

 その予感めいた感覚を頭の隅から追い出し、彼女を校内放送で呼び出すよう職員室へ内線をかける。

 程なくして、室内に設えたスピーカーからエヴァンジェリンを呼びかける放送が流れ、彼女が来る前に一仕事終わらせるべく、近右衛門は再び受話器を取った。

 麻帆良市外にある番号を回し、呼び出し音が二度鳴ったところで、相手が電話を取る音が聞こえた。

「……お待たせしました……」

 出たのは秘書だろうか、三十代を思わせる声の女だった。続いて、とある非法人組織の名前と、電話を取った人物が名前を告げる。

「うむ。麻帆良学園の学園長、近衛じゃ。会長はおるかの?」

 電話をかけた先は、近右衛門が理事を務める魔法使い組織、『関東魔法協会』だった。表向きは『学校法人麻帆良学園』同様に別の法人を名乗っているが、その内情は麻帆良だけでなく、関東圏の魔法使いの多くが登録している組織だ。

「しばらくお待ち下さい」

 保留にされた回線から流れてくるオルゴールの音が途切れるのを、近右衛門はイライラと待った。

「事の重大さを分かっておるのか、こやつらは……!」

 こうも麻帆良学園の不祥事が世間に広まっては、いつ魔法の秘匿が破られるか知れたものでない。むしろ、時間の問題と言い換えても良い。

 魔法の秘匿の危機は、とりもなおさず『関東魔法協会』の危機でもある。麻帆良の魔法使い達だけで騒ぎを近日中に鎮静化するのは不可能に近く、関東圏を抑えるためにも、『関東魔法協会』との協力体制が必要だ。

 本来であれば、麻帆良がこのような事態に陥る事のないよう秘匿に全力を尽くし、今回のような事態になったからには、向こうから真っ先に謝罪の連絡を入れ、連携を取るべく行動すべきところだ。

 それがどういう訳か、協会の反応はすこぶる鈍い。
 近右衛門の気分を不愉快な方向へと押し遣っている原因だった。

「……はい。お電話、替わりました」

 二分程待たされてから電話に出たのは、声の質から五十から六十辺りの、壮年から初老の男――『関東魔法協会』の協会長――だった。

「うむ。儂じゃ」

 内面の不機嫌を表に出さず、これで相手が誰か分かるだろうとばかりに、近右衛門は鷹揚に応じた。協会内では理事の一人にしか過ぎない自身の立場が、協会長より上だと信じて疑っていない。

「……何のご用でしょうか?」

 協会長が丁寧な口調で接するのも、近右衛門が立場を誤解する一助となっていた。

「何のご用、じゃないわい。此度のマスコミの報道と、麻帆良学園が現在被っている迷惑、知らぬとは言わせんぞ。釈明があるなら聞かせてもらおう」
「その事ですか……。何か問題でも?」

 他人事だと言いたげな協会長に、近右衛門は声を荒げた。

「問題だらけじゃろうが! 魔法の秘匿はどうなっておる! 協会はそれすら忘れおったか!?」
「忘れてなどいませんし、秘匿はちゃんと守られて……」

 協会長の言葉は、近右衛門が机を手の平で叩いたバンという音で遮られた。

「麻帆良のこの現状を知って、そう抜かすか! 『魔法』の単語を使わなければ良い話ではないのじゃぞ! どう落とし所をつけるつもりじゃ!」

 自分のささやかな『王国』が、不躾なマスコミの目に晒され、無遠慮な警察に踏み荒らされるのが、近右衛門には我慢ならなかった。

「それをこちらに問われても……。我々の仕事ではないでしょう、それは」

 煮え切らない協会長の態度に、近右衛門はふんと鼻を鳴らした。

「そんな言い逃れが『本国』相手に通じると、本気で思っとるのか?」

 麻帆良学園だけでなく、ネギの出身のウェールズ、アメリカのワシントン州他、世界各地に『本国』の息のかかった『立派な魔法使いマギステル・マギ』の養成機関は存在する。その組織力と権力をもってすれば、日本の関東圏を網羅とする一組織を潰すなど実に容易い。

 協会長の判断と行動によっては、それ程の影響力で実力行使するのも厭わないとの、言外に匂わせた恫喝だった。

「……のう。儂とて、そちらの不手際をいちいち『本国』に報告する。そんな無様な真似はしとうないんじゃ。分かるじゃろ?」

 言葉のない協会長に、一転して猫なで声で同意を求めると、気味の悪いいつもの笑いを上げる。

「……どうしろと?」

 協会長の屈辱と敗北感を想像し、近右衛門は白く長い顎ヒゲで隠された口元を愉悦に歪め、相手の神経を逆撫でする哄笑で応えた。

「なに、難しい話ではないわい。魔法使いとして、秘匿をきちんと守ってほしいだけじゃよ。まずは……マスコミを黙らせる事じゃな」
「魔法絡みならともかく、そのような権限、この協会にあるはずないのはご存知でしょう?」

 マスコミの報道を封殺する権限など、専門『機関』による強制介入を除けば、『関東魔法協会』のみならず、どこの組織にもそのような資格はありはしない。業界の自主的な協力を求めているものの、タブロイド紙やオカルト雑誌、オカルト系番組の報道まで周知できていない点からも、『検閲』の限界は伺い知れる。ましてや、既に表に出てしまった事件を取り消すなど、一組織にできるものではない。

「それでもやってもらわねばな。責任は儂が持とう。ほれ、この通りお頼み申す」

 電話越しで姿の見えない協会長に、近右衛門は頭を下げた。しかしここまでのわずかなやり取りから、侮蔑する意図は感じられても、誠意は微塵も感じられない。

「頭を下げられても、できないものはできません」

 自分が持つ責任を横から攫おうとする近右衛門の言葉に、協会長の口調には硬いものが含まれていた。

「それは困った」

 口にした言葉とは裏腹に、近右衛門は麻帆良の魔法使いには見せない嗜虐的な笑みを浮かべ、ヒゲを撫でた。

「しかしそうなると、儂としては理事の一人として、お主の協会長としての適格に疑問を持たざるを得なくなるのう。……そう、緊急理事会の招集をかける程に、の」

 そして四度、嫌な笑い声を響かせた。
 主だった理事達の懐柔と買収はとうに済んでおり、理事会で理事長の不信任を唱えれば、その椅子から蹴落とせる準備は整っている。

 理事長の椅子に興味はないが、しばし座り心地を試してみるのも一興かと、近右衛門は腹の中で算段を整えながら、協会長の出方を伺った。

「……この協会が法人格を取っていないのは確かです。ですが、理事一人の都合のために、組織を動かすことはできません」

 少しの間を置いて切り返された協会長の声は、千々に乱れる感情を懸命に抑えているように聞こえた。

「儂の都合だけではないわい。これは『関東魔法協会』の在り方が問われる大事じゃ」

 組織の代表者としては無難な回答を、近右衛門は一蹴した。

「良いか? 麻帆良の不祥事などと濡れ衣がこれ以上広がってみい。痛くもない腹を探られ、下手をすれば魔法の存在すら暴かれるやもしれん。そうなれば、じゃ。世界中の魔法関係者からだけではなく『本国』から、儂が責任を問われる。それだけで済む訳にはいかん。事態を放置した『関東魔法協会』も、同罪じゃ」

 近右衛門はうそぶいた。

 マスコミや警察に土足で『王国』を踏み荒らされるのは、一千歩譲って我慢しさえすれば脅威ではない。魔法先生・生徒達の手前、緊急事態を装いこそすれ、一般人連中ではせいぜいやかましくさえずり、魔法先生を数人逮捕するのが限界、我が身に手を触れる事すら叶わずに引き下がる事になるだろう。

 本当に警戒しているのは、万が一にも麻帆良の地下にいる『彼』を、魔法使い達に知られてしまう事だ。

『造物主(ライフメイカー)』

 二十年前の魔法界の大戦を引き起こした人物であり、魔法界を消滅させようと目論んだ『完全なる世界コズモエンテレケイア』の首魁でもある。その魔法使いの怨敵と呼べる存在が、麻帆良の地下には封印されて眠っている。その戦争で英雄として名を馳せた『千の呪文の男サウザンドマスター』ナギ・スプリングフィールドを人柱として。

 この事実が知られれば、魔法関係者全てに対する裏切り行為として、近右衛門の首など物理的に泣き別れになっても不思議ではない。

 しかるべき時が訪れるまでは、是が非にも隠蔽し通さなくてはならない秘密だ。

「……仮定ばかりの話ですね」
「じゃが、可能性の高い仮定じゃ」

 真顔で応じながらも、依然どこか相手を侮蔑した雰囲気を纏わせる近右衛門に、協会長は溜め続けていた感情の一部を吐き出した。

「たかが理事の立場で好き勝手し放題しておいて、こういう時には責任を押し付けるつもりですか」

 心当たりのない言いがかりだった。

「フォ? 何を言っておる?」
「そちらで預かっていたネギ・スプリングフィールドです」

 理事長としても、彼の処遇には腹に据えかねるものがあったらしい。

「ああ、その前に」

 詳細な説明に入る前に、協会長は一息の間を置いた。

「緊急理事会を開くのには、私も賛成です。あなたの退任決議を取りたいので」
「……ほう。どのような理由じゃ?」

 自分を追い落とそうとする言葉に、近右衛門は落ち窪んだ眼窩の奥で色のない瞳を見開いた。

「『関東魔法協会』の理事の立場で、彼を勝手に特使に指名して、『関西呪術協会』に送るなんて! 私の指示もなく、理事会すら通さず、そんな事をする権限、あなたにはないでしょう」
「……なんじゃ、その事か」

 近右衛門としては想定していた範囲だった。

「知っての通り、ネギ君はかの『千の呪文の男サウザンドマスター』ナギ・スプリングフィールドの息子じゃ。そして『関西呪術協会』の会長、儂の義理の息子の近衛詠春は、彼の盟友じゃ。東西の和睦の橋渡しとして、ネギ君程の適役はおるまい」

 自身の決断の賢明さに、近右衛門は自賛の笑いを高らかに上げた。協会長の叱責から外れた回答をしているとは気がつかない。

「まあ、儂の先走った判断じゃったのは、済まんかった。謝罪しよう」

 謝罪すると言いながらも、不快感を煽る笑いは止まらない。

「何を言っているんですか、あなたは。『関東魔法協会』の誰が、そんな事を望み・・・・・・・ましたか。ボケ老人のおふざけで笑って済ませられると、本気で思っている訳じゃないですよね?」

 冷ややかな協会長に、近右衛門はようやく笑いを止めた。どういう意味かと問う前に、協会長から答えが返される。

「いくら非法人組織と言っても、我々はやくざや暴力団やマフィアや陰陽師ではないんですよ。何を偉そうに、和睦ですか、和平ですか」

 やくざや暴力団とて『暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律』等の法律で規制され、法の枠内でなら活動を許されている。対照的に、明文化された法律がないのを根拠に、秘匿さえ遵守していれば魔法使いや陰陽師は好き勝手に暴れて良い、などとの理屈が通るものではない。近右衛門が懇意にしていると思い込んでいる・・・・・・・『日本政府の上部組織』のように、神秘の存在を知り、監視し、黙認している勢力は日本政府の中にもいるのだ。

「……いい加減、東と西で仲良くしたいのじゃよ。そのためにネギ君じゃ。問題はなかろう?」

 和平を取り持つ行為のどこに問題があるのか、『関東魔法協会』にも好戦派な派閥はないだけに、近右衛門には本気で理解できなかった。和平が成れば、ネギを推した自分の評価も魔法使い社会で高まるだろうから、それが気に入られていないとしか考えられない。

「理事の肩書きで、独断で、『関東魔法協会』に属していない、九歳の児童を、協会の特使に、指名する。どうしてそれが問題なのか、説明しても理解できないのでしょうね」

 英断と信じていた行動を悪しざまに言われたのだけは、近右衛門にも理解できた。

「ですから、一点だけ。……『市場の競争原理』を勉強してから物を言え」

 最後の部分は、年長者に対する丁寧さを忘れた命令形だった。

 麻帆良内ではいざ知らず、麻帆良の外では退魔の仕事は『ぎょう』として成立している。
 件の『関西呪術協会』においても、表向きは宗教法人、裏では退魔を生業としている。

 いわば『健全な経済活動』の一環に貢献している組織であり、自由競争市場の中で他の退魔組織、あるいは個人経営者とも競合の関係にある。競合の一つが『関東魔法協会』であるのは言うまでもない。

 そこへ、『関東魔法協会』の理事の近右衛門が、和平を称して『関西呪術協会』と渡りをつける工作を働いたのだ。『カルテル』を組もうと持ちかけたに他ならない。

 カルテルが問題になるのは、表も裏も一緒だ。特に退魔業など、元のパイが大きくない上に、『退魔師』『霊媒師』を詐称した一般人が徘徊する業界である。それだけに退魔業を営むどこでも、顧客と業界内の信用を高めるために汲々としているのが実情だ。

 近右衛門が一協会員であれば、大した騒ぎとならずに済んだかもしれない。しかし『関東魔法協会』の決議権の一票を持つ理事では、無知蒙昧な老人の独走と片づけられない信用問題に関わる重大事である。仮にこの老害をここで排除したとしても、トカゲの尻尾切りの誹りを協会が受けるのは免れない。

 協会長が最後まで堪えられていたのを褒めるべきだろう。

「フォッフォ……。お主では理解できんかったか」

 組織の総責任者としては、うまく憤怒を制御している方だろう協会長を、近右衛門は嘲りを込めて一笑した。

「これは経済ではない。高度な政治的駆け引き、というやつじゃよ」

 だからこその特使のネギであり、衆目を集めるパフォーマンスの役者としての起用だ。

 しかもネギの指名には『関東魔法協会』の理事の肩書きを使用しても、『関西呪術協会』へは『麻帆良学園学園長、近衛近右衛門』の使者を名乗るよう言付けてある。親書の内容も理事としてのものではなく、近右衛門から詠春に宛てた私信だ。

 つまり関西の協会が手を組むのは、いや傘下に下るのは、東の協会長に告げたものと異なり『関東魔法協会』ではなく、近衛近右衛門個人になる。この微妙なすり替えには、『関西呪術協会』の協会長たる義息の詠春とて気づいていないし、知られたとしても義父の智謀に脱帽するだけだろう。

 生憎と親書を渡す前に警察に妨害されてしまったが、大勢に影響はない。西の愚かな協会長とは内々で話がついている。あくまで、『関東魔法協会』との『和睦』と信じて。

「『関東魔法協会』は魔法使いの職能団体で、政治団体じゃない!」

 東の愚かな協会長の遠吠えは、近右衛門の耳に心地良く聞こえた。

「それを決めるのは儂らではなく、理事会で、じゃろう」

 協会長の方針に、理事の近右衛門からの真っ向からの否定だった。

「……麻帆良学園は、日本の法律に従った教育機関のはずですが?」
「と同時に、『本国』と日本をつなぐパイプという大役も担っておる」

 奇怪な笑い声と共に切り返した近右衛門に、協会長は感銘を受けた様子はない。

「二十年以上も前の過去の利権を、未だに引きずりますか……」

 その声音には先程までの激昂したものはなく、昔日の栄光に縋る老人への、呆れと諦めと僅かな軽蔑が含まれていた。

 麻帆良の地下には、魔法界に直結した『ゲート』があった。

 過去形なのは、二十年前の大戦で魔法界側の『ゲート』を設置していた都市が崩落、失われたからだ。戦後二十年経過した現在でも『ゲート』復興の目処は立たず、麻帆良側の『ゲート』も封印・破棄された……事になっている。

 それと同時に、魔法界とをつなぐ麻帆良の外交の場としての重要性は失われた。『日本政府の上部組織』とて、麻帆良任せではつながりが薄くなる一方なのを放置するはずがなく、外務省の持つ諸外国との正規の外交筋を通し、この二十年の間に魔法界とのパイプを作り上げている。それこそ、日本国籍を持つ日本人ながら、外交窓口を自称しながらも日本の国益を代表するのでなく、魔法界と魔法使いの特権と、己が利権を求める近右衛門の存在が目障りになる程に。

「それでも世界樹がある。重要度は変わらんよ」

 復興計画を立てない時点で、魔法界から見た世界樹の重要性がその程度・・・・のものでしかないと、判断できる常識を近右衛門は備えていなかった。二十年前と変わらぬ重要性を維持していると、信じて疑っていない。

 事実、麻帆良の『ゲート』は、魔法先生達も誤解している事に破壊はされておらず、魔法界側で条件が整えば、再稼働可能な状況だ。麻帆良学園の魔法先生・生徒からなる『立派な魔法使いマギステル・マギ日本本部』も、武蔵麻帆良の教会の地下で再起の時を今か今かと待ち構えている。

「これ以上、電話で話しても埒が明きませんね」
「そのようじゃ」

 交わした言葉は決して多くはないものの、協会長と近右衛門の意見が噛み合わないと確認するには十分だった。

 一点を除いて。

「理事会の招集はこちらで手配しましょう」

『関東魔法協会』の今後を、次の理事会で決めるとの点だけで、二人の意見は一致していた。

「そこでの決議がどうであれ、それまでは私が協会長です。麻帆良学園の不祥事報道に、当協会は関与しません。他の理事と協会員にも通達します」
「……儂が『本国』に報告するのは止めんのかな?」
「好きにすれば良いでしょう? 禁止したとして、それに従うあなたですか?」

 近右衛門は嘲笑で返答に替えた。
 その態度が気に入らなかったのか、挨拶もそこそこに電話が切られる。
 発信音を残す受話器を一瞥してから電話機に戻すと、近右衛門は更に声を上げて笑いながら白い顎ヒゲをさすった。

 思考にあるのは、これからについてだ。
『関東魔法協会』の協会長が失墜するのは確定している。後は麻帆良学園――この『王国』――に弓引く不届き者共に、ここに手を触れる愚かさを叩き込んでやらねばならない。

「……どうしてくれようかのう……」

 警察のような一般人の寄せ集めから、麻帆良を守護する程度の戦力なら、今の段階ですら過剰なまでに整っている。

 手駒として使えるのは、魔法先生・生徒達ばかりではない。魔法使いでなくとも、常人離れした膂力や身体機能を持つ学生は相当な数になり、彼らを上手く誘導して戦力とするのも、学園長としての資質だ。

闇の福音ダーク・エヴァンジェル』エヴァンジェリンは封印されているとは言え、六世紀を生き抜いてきた実力は脅威だし、一時的に呪いを弱めて従来の力を取り戻させる事もできる。海外に出張中のタカミチ・T・高畑には、至急帰国するよう打電してあり、明日明後日には麻帆良に到着するだろう。さらには、行動範囲を図書館島に限定されるものの、先の大戦の英雄『赤き翼』の一人、アルビレオ・イマもいる。その他にも麻帆良の地下には、身長二十メートルを超える無銘の鬼神六柱を石化封印してあり、その封印はいつでも解除が可能だ。

 極めつけが『造物主ライフメイカー』なのは言わずもがなだ。

「しかしここは一つ、『本国』から圧力をかけてもらうのが妥当かのう?」

 余計な騒乱で麻帆良を荒らされるのは、近右衛門の望むところではなかった。

 一向に現れる気配のないエヴァンジェリンに、裏切りの可能性をちらと一考し、受話器を取り上げると、内線で事務室を呼び出す。

「儂じゃ。至急、チケットを用意してもらえんかの? 今日の夕方か、明日中の便じゃ」

 緊急理事会を開くにしても、一週間から半月はかかるはず。念のため、他の理事には自分の帰国まで待ってもらうよう連絡すれば問題ない。

「行き先はウェールズ。うむ、カーディフ国際空港じゃ」

 ふと脳裏に、近右衛門よりも豊かな白ヒゲに覆われた老魔法使い――ネギの母校『メルディアナ魔法学校』の校長であり、ネギの祖父であり、『造物主ライフメイカー』の依り代となって麻帆良の地下に封印されているナギ・スプリングフィールドの実父であり、何より往年の友人――の顔が浮かんだ。

「久し振りに奴と顔を合わせるのも良いのう」

 十年前に死んだと諦めていた息子が生存し、麻帆良の地下にいると知ったら、そして孫はその封印を解くための贄と知れば、果たしてどんな顔をするだろうか。

 明かすつもりのない秘密を明かした瞬間を想像し、近右衛門は笑んだ。

「……さすが近右衛門、賢明じゃと絶賛されるじゃろうなあ……」

 家族、部下、旧友に、十五年間友人として付き合っている真祖の吸血鬼、そして母国の日本に魔法界と、全てを騙して手の平の上で弄んでいる老人は、一人きりの学園長室で、いつもの不快感を誘う笑い声で、高らかに哄笑するのだった。









◎参考資料◎
・赤松健『魔法先生ネギま! (6)』2004年6月17日
・赤松健『魔法先生ネギま! (15)』2006年8月17日
・赤松健『魔法先生ネギま! (16)』2006年10月17日
・赤松健『魔法先生ネギま! (35)』2011年8月17日
・総務省法令データ提供システム『暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律』
・manabow経済について楽しく学べる!!『早わかり経済入門 自由競争と独占禁止法の巻』




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