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No.32371の一覧
[0] 【習作】中沢くんはどっちでもいいから生き残りたいようです【憑依・魔法少女まどか☆マギカ】[たいらん](2012/03/23 16:17)
[1] 第二報告 『中沢の中学生日記』[たいらん](2012/03/30 16:17)
[2] 第三報告 『中沢のお宅訪問』[たいらん](2012/04/06 16:24)
[3] 第四報告 『中沢の苦悩』[たいらん](2012/04/13 18:49)
[4] 第五報告 『中沢の転機』[たいらん](2012/04/27 19:35)
[5] 号外 『それぞれの群像』[たいらん](2012/05/18 22:03)
[6] 第六報告 『中沢、病院送りにされる』[たいらん](2012/07/02 01:21)
[7] 第七報告 『中沢、語る(騙る)』[たいらん](2012/08/06 10:12)
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[32371] 第三報告 『中沢のお宅訪問』
Name: たいらん◆29f658d5 ID:faef20ab 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/06 16:24
白状しよう。
俺は鹿目まどかのことがよく分からない。
正確には彼女の人物像を掴みあぐねているとでも言うべきか。
この世界に来る以前からもそうだったが、実際に会って話をしてみると余計分からなくなってしまった。
というのも、彼女はどこまでも普通の人間だったからだ。

鹿目まどかは自分に少しばかり自信がなくて、それでも誰かの役に立ちたいと常日頃から考えている心優しい娘さんだ。
加えて家族思いで友情にも厚く、俺みたいなアレな奴にも嫌な顔ひとつせず話しかけてくれる超いい人である。
もちろん美点ばかりではない。
悪い部分もちゃんと存在する。
彼女はああ見えてミーハーな気質が強く、また変なところで頑固だ。
そして意外なことに人の話をあまり聞かず、一人で突っ走る傾向にある。
人並の長所に人並の短所。
まったく、何とも普通の子じゃないか。

だからこそ解せない。
劇中において鹿目まどかが導き出したあの答えが。
全ての魔女を消し去りたいという願いの是非はこの際置いておく。
俺の疑問はただ一つ。
彼女にあのような頓知の利いた答えを出せるとは到底思えないということ。
これに尽きる。

俺の知っている鹿目まどかはあくまで普通の子だ。
それこそ難しいことなど一切考えず、全力で安易な救いに走ってしまいそうなタイプにしか見えない。
だが実際はどうだ?
最終的に彼女は、かのインキュベーターをして驚愕せしめる解に辿り着いた。
あの鈍臭くて、頭もそれ程よろしくない鹿目ちゃんがだぜ?
これは大変信じ難い事実である。

もっとも、俺の目が節穴だと言われればそれまでだし、鹿目まどかの本性がどちらであろうとやること自体は変わらない。
ただ、俺の知っている鹿目ちゃんと作中の女神様が一致しないのが個人的に気持ち悪いだけ。
それ以上の意味はきっとない。
……だらだらと長話しちまったな。
先を急ごう。




第三報告 『中沢のお宅訪問』




土曜日。
それは子どもにとって最も楽しみな一日。
後ろにもう一つ休日を残しているがゆえ、全力で遊興に耽ることのできる最高の日だ。

「いらっしゃい、中沢くん。さあ、上がって」
「ういっす。お邪魔します」

しかし俺に休むことなど許されない。
貴重な休日を返上して遥々やって来ましたよ、キュゥべえを訪ねて鹿目家まで。
昨夜電話をもらってから実に十二時間後のことである。

「あれ? どうして休みの日なのに制服なの?」
「フッ、愚問っすね。今日は遊びにじゃなくて取材に来たわけっすから、身なりを整えるのは当然っしょ」
「なるほど。プロ意識だね」
「オー、イエース」

んなわけねえだろ。
昨日の今日で服なんて用意できるか。
女相手だとこっちも気を遣うんだよ。

「そういう鹿目ちゃんはオシャレで羨ましいっす。俺っちもそのセンスに肖りたいっす」

一方、鹿目は可愛らしい私服姿を披露してくれた。
制服と体操着でいるところしか見たことなかったから何か新鮮。
眼福眼福……でもないな。
制服着てないとマジで小学生にしか見えん。

「えー? そんなことないよ。こんなの適当に選んだだけだからね」

またまたそんなこと言って。
鹿目ちゃん、顔がにやけてますぜ。
やはり女の服装と髪型は褒めるに限る。

「しっかしこの家、窓多いっすね。夏場はかなり暑くなるんじゃないんすか?」
「うん。暑い」
「まどかー? 誰か来ているのかーい? おや?」

玄関口でしばらく雑談を交わしていると、庭の奥から鹿目まどかの父、鹿目知久が顔を出してきた。
その両手には軍手がはめられている。
おそらく土いじりでもしていたのだろう。
いいよな、専業主夫。
女に食わせてもらえるとか最高じゃないか。
俺も玉の輿に乗りたい。

「朝早くにお伺いしてしまい、申し訳ありません。自分は鹿目さんのクラスメイトの中沢と言います。鹿目さんにはいつもお世話になっております」
「ああ、君が中沢くんか。なかなか面白いことをやってるみたいだね。うちの広報に欲しいくらいだと妻も褒めていたよ」

鹿目ちゃん、マジで親に見せたのか。
いや、別にいいけどさ。

「ありがとうございます。これ、お土産です。後でお召し上がりください」
「おやおや、これはご丁寧に。どうもありがとう。みんなで頂かせてもらうよ」

朝八時開店の和菓子屋で購入した芋羊羹を手渡し、一通りの挨拶を済ませる。
この常識的なやり取り、実に久しぶりだ。
知久さんには常識人の称号を与えよう。

「君が来たことは僕の方からママに伝えておくよ。まどかも下手に弄られたくはないだろう?」
「あー……確かに、男の子が来たことバレたらいろいろ言われそう……」
「たっくんの面倒も僕が見ておくからね。ああ、そうだ。昼食はどうする? 食べてくかい?」
「いえ、お気遣いなく。午後から寄らなければならない場所があるので」
「そうかい? じゃあ、また今度来たときにでも」
「そうですね。またお伺いする機会があれば。それでは失礼します」

このまま玄関を塞いでいるわけにもいかない。
俺は知久さんに別れを告げ、鹿目の先導のもと家の中へ上がらせてもらった。
鹿目家特有の匂いがふわりと俺を出迎える。

「へえ……」
「ん? どうかした?」
「いやな。ずいぶん綺麗な家だなーって」

これはお世辞でも何でもない。
実際、隅々まで手入れが行き届いている。
フローリング上には髪の毛一本見当たらない。

「外観だけでなく内側まで立派ってのはそうそうないっす。掃除のプロでも雇ってんすか?」
「ああ、それはパパのおかげだよ。日中、誰もいないときはいつも家中を掃除して回ってるんだって」
「へえ、大変そうっすね」

なるほど、主夫の仕事も楽ではないか。
詢子さん、家事してくれなさそうだもんな。

「はい、到着。ここが私の部屋だよ」

そして階段を上り、鹿目の部屋の前へ。
女の部屋に入るのはこっちに来てからは初めてだ。
粗相のないよう気をつけんと。

「お邪魔しまーす」
「はい、いらっしゃい」

扉を開くと同時に甘い香りが鼻孔を刺激してきた。
嗅いだ者を幸せな気分にさせてくれる女の子の香り。
思わず深呼吸してしまった俺を誰が責められよう。
うむ、いい香りだ。

次いで不躾と思われない程度に室内を観察する。
きちんと整頓された勉強机にカラーボックス。
ベッドの上に所狭しと並べられたぬいぐるみ。
ファンシーかつ小綺麗、いかにも女の子なお部屋じゃないか。
とても敵地の真っ只中とは思えない。
――そう、敵地だ。
ここにはやつ、キュゥべえがいる。

「さて、鹿目ちゃん。キュゥべえさんはどちらに?」
「すぐそこだよ。中沢くんの足元」
「なに?」

何故そんなところに?
俺なんかに纏わりついたところで楽しいことなど何もないだろうに。
まあ、近くにいるというのなら話は早い。
さっそく取材開始だ。

「えっと、キュゥべえさん? 鹿目さんから既に話を聞いていると思いますが、今日はあなたの取材をしに参りました。アポなしですが、よろしいでしょうか?」
「……うん、うん。構わないって」
「そうですか。ありがとうございます」

よしよし。
思いの外、スムーズに事が運んだな。
この時点で俺の目的の半分は達成されたようなものだ。
鹿目ちゃんという通訳を介し、キュゥべえに接触を図る。
それが今日、鹿目家に来た理由だ。
果たしてその試みはうまくいったが、ここで気を抜くわけにはいかない。
言うまでもなく、ここからが正念場なのだから。
はてさて、どこまで踏み込むべきか。

「それではまず簡単な質問から。キュゥべえさん、ご出身はどちらで?」
「うん、うん……えぇっ!? キュゥべえって宇宙から来たの!?」
「鹿目ちゃん、詳しく」
「うん……キュゥべえは太陽系、銀河系よりもずっと遠くの宇宙から来たんだって」
「ふむふむ、それはまた。遠路遥々ご苦労さまです」

この程度なら普通に答えるか。
さて、次だ。

「では続けてお聞きします。キュゥべえさんは何故わざわざ地球に? 何か目的があるのですか?」
「……えっと……うーん……」
「鹿目ちゃん、通訳」
「うーん……エントロピーがどうのこうのって……」
「宇宙の熱的死?」
「そう! それ!」
「ほほう、熱力学第二法則ですな。現代のインフレーション宇宙論では少々旗色が悪いようで」
「…………」
「鹿目ちゃん、単語だけでいいから」
「宇宙、膨張、エントロピー、投棄、有限、人類、無関心……」
「む……宇宙が膨張したからといってエントロピーの投棄場所が無限に増えるわけではない。人類は宇宙環境にもっと関心を持つべきだ。で、合ってる?」
「どう、なのかな? なんか不満そう」

不満なのかよ。
仕方ねえだろ、俺は文系なんだ。

「あいや失礼。生半可な知識で偉そうに語ってしまい申し訳ない。よろしければ、その道の権威を紹介しましょうか?」
「……彼らの研究内容は全て把握している。はっきり言って化石以下だ。検討する価値もない……だって」
「そ、そうですか」

そこまで言うか。
キュゥべえの野郎、完全に人間を見下してやがるな。
奴さんがしたり顔で語っている光景が目に浮かぶぜ。
今に見てろ。
いつか必ずお前さんの度肝を抜いてやる。

「おっと、話を逸れてしまいましたね。察するに、キュゥべえさんは宇宙の終焉を回避するために活動しているのですね?」
「そうなの? そうなんだ」
「しかし、ここで一つ疑問が生じます。奇しくも先程の質問と同じ疑問が。あなたは、この地球に何をしに来たのです?」
「……魔法少女の願い。それがエントロピーを凌駕し得る唯一の手段だからだ、だって。でも魔法少女と宇宙に何の関係が?」

ふん、さすがに暈してきたか。
その姿勢はこちらとしてもありがたい。
せめてワルプルギスの夜をやり過ごすまでは、鹿目に大人しくしていてもらわないと困るからな。

「よく分かりました。次の質問に移ります。キュゥべえさんと魔女、魔法少女の存在は現代まで秘匿され続けてきたわけですが、これは何か理由があってのことでしょうか?」
「それは君が一番よく分かっているはずだ。人は目に映らないものを信じない」
「しかし、あなたのお力添えがあれば回避できる犠牲もあったはず」
「その犠牲に目を瞑り続けてきたのは他でもない人類だ。異常の兆しはいつだって傍にあったのに。そんな蒙昧な輩と付き合うほど僕は暇じゃない。キュゥべえ……」

煽ってくるねえ。
確かに、現状に至るまで魔女による被害を放置し続けてきたのは人類の怠慢以外の何物でもない。
そこは否定しない。
だが、お前がそれを言うな。

「キュゥべえさん、人類は変わります。俺が変えます。今すぐには無理でも、次の世代、孫の世代までには全てを変えてみせます」
「……できるものか。霊長類出現から7000万年、人類誕生から500万年。君たちの本質は何ら変化していない。自身とその極周辺の物事にしか関心を割かない」
「無関心ばかりが人の本質ではありません。好奇心と恐怖心、この二つを刺激してやれば人は動きます。あなたもよくご存知なのでは?」
「……いいだろう。君はせいぜい自由に動くといい。だが、全ての真実が明るみになったとき、この子がどう動くか分からないわけではあるまい……この子? 誰?」

あれ?
もしかして俺に知識があること、全部バレてる?
記事に魔女の情報載せちまったのが不味かったのか?
それとも巴マミに接触した時点で既に?
……ええい、落ち着け。
バレたから何だってんだ。
状況がイーブンになっただけじゃないか。
そもそも情報アドバンテージなどこいつの前では何の意味もなさない。
反って慢心が捨てられてよかったと思うべきだろう。
てか、そう考えないとやってられん!

「然もありなん。彼女の前でこれ以上踏み込むのは互いにとって悪手でしかない。彼女には不確定要素が多過ぎる」
「茶番は終わりのようだね。それなら、そろそろ失礼させてもらおうか……え? キュゥべえ、もう帰っちゃうの?」
「おや、お帰りですか。名残惜しいですが仕方ありませんね。本日はご協力ありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしております」

おう、帰れ帰れ。
頼むからボロが出る前に帰ってくれ。
いや、マジで帰ってください。

「キュゥべえ……あぁ、行っちゃった。中沢くんがケンカ腰で話すから……」

どうやらキュゥべえのやつは本当に出て行ってしまったらしい。
大層立腹した様子の鹿目ちゃんにジト目で睨まれてしまった。
やれやれ、ひとまず窮地は脱したか。

「おっと、そいつはすまなんだ。けど、ノーガードで殴り合って初めて見えてくるものもあるんすよ」
「私には何も見えてこなかったけどね。キュゥべえが見えない中沢くんの方がよっぽど意思疎通できてるってどういうことなのさ」
「はっはっは、心眼っすよ、心眼。心の眼を鍛えれば森羅万象が自ずと見えてくるんすよ」
「うぅ……中沢くんが言うと本当っぽく聞こえる……」

ま、ノーガードってほど激しくはなかったがな。
キュゥべえの方もあっさり退いたところを見ると今回はただの様子見みたいだったし。
とはいえ、次も軽いジャブの応酬で済んでくれる保障はない。
急ぎ戦略を練り直さねば。

手札が丸見えなのはお互い様。
鹿目まどかの手前、強く出られないのも同様。
しばらくは牽制に徹するべきか?
否。
むしろ一層精力的に動くべきだ。
この勝負、先に外堀を埋めた方が勝つ。

「……契約できなくて残念?」
「え?」

不機嫌そうにぬいぐるみと戯れ出した鹿目ちゃんに声をかけると、キョトンとした顔を返された。
この子は分かってんのかね。
自分が全ての中心にいることを。

「なりたかったんでしょ。魔法少女に」
「ああ、うん。まあ、そうだね」
「そうっすか。理由を聞いても?」
「理由かぁ……マミさんみたいにカッコよくなりたいから。じゃダメかな?」
「いいんじゃないっすか? 街の皆のため命がけで戦う姿に憧れを抱くのは正常なことだと思うっす」
「だよね! 憧れるよね!」
「ただ、同時によくないことだと思う」
「中沢くん……?」

俺の口から発せられた思いがけない言葉に鹿目ちゃんが怪訝な表情を浮かべる。
いつも先頭に立って魔法少女熱を煽ってきた中沢という男にあるまじき発言。
彼女が訝しむのも尤もなこと。
さあ、関心は引いたぞ。
言葉の選択を誤るなよ、俺。

「俺は常に疑問を抱えて生きてきた。不自然なまでに続出する行方不明者、それを正常と見なす民衆の異常。この世界は何かがおかしい。そう思いながら生きてきた」
「ど、どうしたの? いきなり語り出して」
「果たして俺は正しかった。俺達はいつだって魔女という見えない脅威に晒され続けていた。鹿目ちゃん、今から君に、君だけに、俺の本当の目的を話そう」
「本当の目的……?」

俺とこの子は同い年だ。
中身はともかくガワの方は。
そんな俺が説教じみたことを言ったところで逆効果。
徒に反発を招くだけ。
今すべきことは強制ではなく誘導。
彼女が契約を自制するよう方向づけてやるのが正解だ。
問題は俺自身が自分の言葉に本気になれるかどうかだが……綺麗事半分、理想論半分、本音1パーセントの猿芝居、どこまで通じるか試してみようじゃないか。

「これまでの活動はあくまで衆目を集めるためのそれにすぎない。真実の公表もまた一つの通過点だ。俺の本来の目的はその先にある」
「……どういうこと?」
「俺の真の目的は、人類が魔女への対抗策を講じるよう仕向けること。魔法少女の力に頼ることなく、自衛できるだけの力を人類に持たせることだ」
「え……」

俺の渾身の告白を聞いた鹿目ちゃんはひたすら目を白黒させている。
別に大したことは言ってないんだけどな。
そこまで突飛な発想か?

「考えてもみろよ。巴先輩は俺達と一つしか違わないんだぜ? 他の魔法少女達もおそらく俺達と同年代だ」
「う、うん……」
「おかしいだろ。警察でも自衛隊でも何でもない普通の女の子が、どうして怪物と戦わなければならない?」
「それは……仕方のないことだと思うよ? 魔女が見えるのは魔法少女だけなんだから」
「仕方ない? 何が仕方ないんだ? 魔法少女に戦いを強いることが仕方ないのか? それとも魔女が見えないなら戦えなくても仕方ないということか?」
「そんなこと……私に言われても……」
「俺は嫌だ。見ているだけなんて絶対に。真実を伝えるだけじゃ駄目なんだ。ただ事実を受け止めるだけじゃ駄目なんだ。俺達も戦えるようにならないと、何も変わらない」

キュゥべえの言う通り、この世界の人類は驚くほど何もしてこなかった。
それこそ俺ごとき小蝿の羽ばたきが、世界に対し少なからぬ影響を及ぼしてしまうほどに。

「魔法少女だけが危険な目に遭わないといけないなんて間違ってる。俺はこの現状を打破したい。魔法少女が、巴先輩が戦わずに済む世界を作りたいんだ」

もしかしたら全部無意味なのかもしれない。
この世界の住人はどうしようもない無能揃いで、魔法少女に守ってもらわなければ魔女や魔獣に食われ放題の木偶の坊なのかもしれない。

「キュゥべえはああ言ってたけど、人間はそこまで無能な存在じゃないと思う。今まではただ知らなかっただけで、知ることさえできれば、きっと何かが変わると思うんだ」

けど、それを言ったら俺だって同じだ。
舌が人より上手く回るだけの、小賢しく立ち回ることしか能のない下らない人間。
そんな俺でもここまで動けるんだ。
他の人間だってきっとうまくやれる。
そのはずだ。

「だから鹿目ちゃん。魔法少女になるのはちょっと待ってくれ。俺、頑張るからさ。頑張って世界を変えるからさ」

気づけば、かなり熱くなっていた。
俺としたことが何たる不様。
鹿目ちゃん置き去りにして一人でしゃべってどうする。
見ろ、あのポカーンとした表情を。
絶対中二病だと思われた。
はずかしー!

「……中沢くんってさ」
「はい」
「いつも飄々としてて、何考えてるか分からない人だって思ってたけど」
「はい」
「根っこの部分は熱い人だったんだね」
「いいえ」
「……もしかして照れてる?」
「な、何のことっすか。俺に照れとか恥とかそういう概念があるわけ……」
「中沢くんってさ、けっこうかわいいね」

うわああああああああああ!!!!
ああああああああああああああああああああ!!!!!!!!
女子中学生にかわいいとか言われてしまったああああああああ!!!!
屈辱だああああああああああああああああああああああああああ!!!!

「鹿目ちゃん、男にかわいいとか言っちゃダメっすよ。俺は大人だから怒らないっすけど」
「えー?」
「えー、じゃない。それと窓開けるっすよ。なんか外の空気吸いたくなってきた」

恥ずかしいときは、無性に窓の外を眺めたくなる。
ああ、窓から覗く景観のなんと美しいことか。
下手な一等地より上等な土地だよ、ここは。
それはそうと春というだけあってスギ花粉がすごいな。
あの一本杉から飛んできてるのか?

「鹿目ちゃん、花粉大丈夫?」
「平気だよ。うちには花粉症持ちの人いないから」
「さよか……おっ?」

なんだろう。
一本杉のぶっとい枝のところ、なんか出っ張りができてる。
気持ち黒っぽい人影のように見えないこともない。

「むぅ……」
「どうかした?」
「いや、ちょっと」

何となく気になり、同好会費で落とした双眼鏡を構えてみた。
多層膜コーティングが施されたコントラストの高い12倍双眼鏡なら遠方でもばっちり見え……。

「……」

暁美ほむらだ。
暁美ほむらが木の枝に腰かけ、こちらをじっと凝視していた。
何処のアーチャーだ、お前は。
こえーよ。

「あーっと、もうこんな時間だー。急いで帰らないとなー」
「うん? ああ、もうお昼なんだ」
「今日は変な話聞かせちまって悪かったっす。あれ忘れてもいいから」
「んー……どうしようかなぁ?」

こ、この女郎!
俺が殊勝にも妄言を撤回してサーっと退散しようとしてるのに……。
当の鹿目ちゃんは俺を弄るのが心底楽しいとばかりに悪戯っぽく微笑んでいる。

「ぐぬぬ、この悪女め……」
「ごめんごめん。中沢くんが隙を見せてくれたのが嬉しくって、つい」

くそっ、女はガキの頃から女なんだな、ちくしょうめ。
これ以上弄られてたまるか。
もう本当に帰るからな。

「ええい、鹿目ちゃんめ! 覚えてろよ!」
「うん。ちゃんと覚えてるからね」

キュゥべえにはしてやられ、鹿目ちゃんには弄ばれ、暁美は恐い。
今日はとんだ厄日だ。
まったく、似合わねえことはするもんじゃねーな。
そんなことをグダグダと考えながら、こそこそと鹿目家を後にする俺であった。


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