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No.32355の一覧
[0] 【習作】こーかくのれぎおす(鋼殻のレギオス)[天地](2012/03/31 12:04)
[1] いっこめ[天地](2012/03/25 21:48)
[2] にこめ[天地](2012/05/03 22:13)
[3] さんこめ[天地](2012/05/03 22:14)
[4] よんこめ[天地](2012/04/20 20:14)
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[6] ろっこめ[天地](2012/05/16 19:35)
[7] ななこめ[天地](2012/05/12 21:13)
[8] はっこめ[天地](2012/05/19 21:08)
[9] きゅうこめ[天地](2012/05/27 19:44)
[10] じゅっこめ[天地](2012/06/02 21:55)
[11] じゅういっこめ[天地](2012/06/09 22:06)
[12] おしまい![天地](2012/06/09 22:19)
[13] あなざー・労働戦士レイフォン奮闘記[天地](2012/06/18 02:06)
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[32355] 【習作】こーかくのれぎおす(鋼殻のレギオス)
Name: 天地◆615c4b38 ID:b656da1e 次を表示する
Date: 2012/03/31 12:04
 少年、レイフォン・アルセイフはふと窓の外を見た。
 一面に広がる灰。大地も、枯れ木も、空でさえも、全てが枯れ果ててている。悲しげに吹く風とそれに舞う砂だけが、毒素に塗れたこの世界が、まだ辛うじて生きていることを教えていた。
 終末。かつて、世界がこうなる前に。誰かがこうなるであろうと無想したものの中に、この景色は存在したかもしれない。そんな世界で、彼は生きている。未だ生かされている。
 そんな事を改めて認識しようとして、レイフォンは諦めた。特別に意味のある行為ではない。ましてや、自分が見る景色が都市の外縁部から放浪バスの窓際に変わったからといって、見え方が変わろうはずもなかった。それが変わるとすれば、心持ち次第。

(そういう意味なら、僕の見え方は変わるんだろうな)

 皮肉げに口元を歪めながら、なんとなしに窓に張り付いた砂粒がまとまって飛ばされていくのを視線で追った。翻弄されるだけの無情な光景は、まるで自分がそうされているかのようで。否定しようとして、そのままでしかない事を思い出し、やはり自嘲するしかなかった。
 下らぬ事を考えながら、窓縁に肘をついて。ふと、わずかに腹が空腹を訴えていることに気がつく。備え付けの時計を見れば、時刻は十二時を少し回ったくらい。
 バスの中は所々で話し声が聞こえるものの、それなりの静寂を保っている。寝るのも考え事をするのにも邪魔をしない、心地よい喧噪。そんな事を自覚するのは、初めてかもしれない。
 食事をとってもいいが、何となくそれは躊躇われた。特別な意味などない、本当に思いつきなだけの行為。あえて理由をつけるならば、腹は空腹を訴えていても気分はそう主張しなかったから。
 窓についた肘を肘掛けに戻して、背もたれに深く体を預けた。感触は控えめに言って堅い。何年も、幾人もの人間が座り続けたであろう座席は、有り難くもない堅さで己の苦労を主張していた。倒れた時に思わずため息が漏れて、剄息が乱れる。もう必要のない技術とはいえ、ここ数年途切らせた事のないそれを乱してしまえば違和感を残す。

(僕は……落ち込んでいるのか……。それとも、焦っている?)

 わからない。判断もできない。そして、割り切る事も。
 武芸者、つまり、武芸を扱う者。レイフォンをレイフォンたらしめていた存在。それをもう必要ないと捨ててしまうには、その業は体に染みつきすぎている。
 いっそ、全て忘れて捨ててしまえれば楽になれるのに。……本当に? それも、わからない。
 堂々巡りだけが続き、答えなど出ない。そもそも答えに向かって歩くつもりがあるのかすら怪しい。それでも、この空いた時間を潰すのは容易ではなく、つまらない事ばかりが脳裏を繰り返し渡っていき――
 がさりごそり。
 たらり、と。レイフォンの頬筋を一滴の汗が通り過ぎた。それがどういった意味のものかは、わずかに強ばった彼の顔を見ればわかるだろう。

(音なんか、してないよね? うん、してない。僕は、何も、聞いてない)

 言い訳じみた自問自答をして(実際その通りなのだが)レイフォンは気を取り直し、なるべく落ち着いて体を伸ばした。
 可能な限りリラックスできる体制をとり、ついでに活剄も使って体の緊張を取り払う。武芸云々で悩んでいたことなど棚に上げながら、とにかく今は余裕がほしい。ついでにいえば現実逃避する時間も。
 ……未だに、バッグはもぞもぞと動き続けている。目を背けるのも、限界がある。
 何がいけなかったのだろうか、レイフォンは自問しながら、ひっそりと頭を抱えた。大げさに動いて誰かに気づかれては、控えめに言っても大騒ぎになるだろう。
 ちらり、と横目で隣の席を見た。かなり大きなバッグは、時折ぼこりと中身を膨らませ、小さな音を立てている。まるで生き物が入っているかのようだ。まるで、だ。まだ確定ではない。確認をしていないのだから、かもという可能性でしかない。そう念じる。
 グレンダンを追い出されたのは、つい昨日の話だ。見送りが家族のような少女ただ一人であったというのは、犯罪を犯した自分には上等すぎる、レイフォンはそう考えていた。
 持って行く荷物は、さしたる量にはならなかった。元々物欲が乏しいのに加えて、物というのは大凡が孤児院の共有財産だったから。衣類以外にこれが自分の持ち物だと言えるような道具は殆どない。
 それでも、人一人が住居をかえると言うのであれば、荷はそれなりに嵩張る。使おうと思っていたトランクケースが使えなかったのも、理由の一つではあった。
 そして、出がけに幼なじみの少女――リーリン・マーフェスとぎりぎりまで話していたのも、まあ一因ではある。とは言っても、何が一番いけないのかと問われれば、それはレイフォンの不注意以外にありえないのだが。
 荷物が増えてそれに気づかないなんて、間抜けにも程がある。
 僅かに時間を超過してしまいそうだった事から、自然と活剄を使い身体能力を上げてバスに向かっていた。重量に違和感を持てなかったのも、これが原因であると思われる。
 かくして、それに気づきもせずにバスに乗せてしまった。しかも気疲れからか、その日はかなり早くに寝入ってしまい、起きるのも遅かった。起床してからは間の抜けた顔で何を見るでもなく外を眺めて、そして放浪バスの出発からほぼ一日。やっとそれに気づくも現実逃避を始め、それにも限界を感じる。
 額に、いやなプレッシャーと脂汗の存在を感じながら、大きなバッグに手を伸ばす。チャックに触れそうになった所でぴたりと止まり、そして手を引っ込めた。

(神様仏様悪魔様ほかにはええと……、とにかく何でもいい! 冗談であって下さい!)

 手を合わせながら最後の抵抗、神頼みを敢行。強くつぶった目をうっすら開いてバッグを見ても、やはりぼこぼこと蠢いている。
 この時点でレイフォンは、半ば泣きそうになっていた。
 決まり切らない覚悟、それでも指は伸びて、そして禁断の扉を開く。
 ――バッグの中には、人間がいた。

(決めた。僕はもう二度と神様なんて信じない。今まで信じてた訳じゃないけど、これからはもっと信じない)

 本人もよくわからない覚悟で、偶像に八つ当たりをする。
 開かれたチャックの隙間からは、小さな子供が笑顔の隙間に不安を潜ませた表情で見上げていた。その様子は「ちょっといたずらしちゃったけど悪気があったわけじゃないし、ちゃんと反省するから怒っちゃいやだよ」と言わんばかりの顔だ。
 レイフォンはいよいよ頭痛を感じた。気のせいで済ませられそうもない、本格的に脳の芯から響くような疼痛。
 旅行用バッグに入る程度の矮躯なのだから、当然背も体重も小さい。まだ男女の差が出ないような顔立ちといい、確実に幼児の域を出ていない。それでもその子供が女の子だと判断できるのは、金色の綺麗な髪が腰まで届いているからだろう。
 リーフェイス・エクステ。それが少女の名前であった。近しい者はリーフィと呼んでおり、それはレイフォンも例外ではない。
 少女は孤児院の後輩であり――そして、リーリンを除けば、レイフォンと一番縁が深かったのだから。
 一度叱ってやってはいけない事だと分からせるべきだ。それは理解していたが、レイフォンにはそうする事ができなかった。不安げに視線をさまよわせるリーフェイスを見てしまったから。それに、少女の顔の近くには、固形バランス食品の袋とストローのついた飲料ボトルが転がっている。誰かが入れ知恵と協力をしたのは明らかで、リーフェイスだけを叱りつけるのはアンフェアだと感じた。
 それに――レイフォンが今まで気づかなかったのは、それだけ息を潜めておとなしくしていたからでもある。丸一日、最低限の食料と動きでじっとする、それが苦痛でない訳がない。苦しみながらも、それでもこの少女はバスが引き返せなくなるまで堪え続けたのだ。ただ、レイフォンについて行きたい一心で。
 気づいて、喜びを感じてしまったから。もうリーフェイスを怒ることはできなくなっていた。

(本当に、僕はいつもこうだな……。いつも優柔不断で、思い切れるのは武芸をしてる時くらいで)

 と、力なく笑いながら、リーフェイスの頭をそっと撫でた。少女はくすぐったそうに体を捩りながら、不安の消えた笑顔になっている。
 レイフォンの顔からも、疲れは見えても苦々しさはなくなっていた。未だに決めかねてはいる。まだ一緒に連れて行く覚悟ができたわけではないが、既にグレンダンに戻す事もできないのだ。
 覚悟がなくても、もう連れて行くしかない。覚悟がなかろうが、義務を背負えば動くしかない。
 なんとなく。本当に、ただの思いつきでしかないのだが……背負うものがない自分はどこまでもふらふら漂っている様子が、たやすく想像できた。想像の中ですらしっかりできない自分を笑いながら、きっとこれくらいが丁度いいのだと。重荷があった方がレイフォン・アルセイフに合っているのだと、本気でそう思える。
 考えなければいけない事は沢山ある。二人が生活できるお金の稼ぎ方と住居、行き先が学園都市であれば、まあ一般的な勉強をできないという事もないだろう。他にもどこかに迷わないよう注意をしたり、向こうでの生活のルールを決定したり。ぱっと思いつくだけでもこれだけの案件が出てくる。
 しかし、とりあえず。レイフォンは相変わらずリーフェイスの頭を撫でながら、この子をバッグから出すことから始めようと思った。
 いつもリーリンが念入りにセットしている髪はぐしゃぐしゃで、毛の隙間には食べかすが付いてしまっている。それも、今度からはレイフォンがしてあげなければいけないのだ。
 少し体を動かしながら視線を上げて――レイフォンはびくりと震えた。汚染獣を見た訳でなければ、とにかく劇的な何かがあった訳でもない。ただ、視線があっただけだ。

「……」
「……」

 どちらも口を開くことなく、互いが互いを観察する。
 体までこちらに向けて立っているその女性は、一言で言えばケバい中年だった。およそ運動らしい運動はしていないのだろう、全身が満遍なく脂肪で覆われている。化粧は濃く、誰に見せれば喜ぶのか疑問なほど強烈なアイシャドウを入れている。服もやたら派手だが、それはどうでもいいだろう。今重要なのは、その中年女性が口と目を大きく開き、戦慄しながらレイフォンを見ているという事だ。
 対して、自分はどう見えるだろうと振り返った。服や持ち物は古くくたびれているものの、普通の範疇に入るだろう。……悪意を持って見れば、服を替えられないほど放浪生活を続けているともとれる。顔立ちはどうだろう。何とも気力が足りない間の抜けた顔だとは言われたことがあるが、犯罪者面だとは言われたことはない。……悪意を持って見れば、その人畜無害な顔立ちで人を騙し続けたと主張できる可能性もなくはないか。
 一つ一つを見れば、言いがかり未満の妄想でしかない。が、バッグに詰められた子供の頭を撫でながらなら、それは真に迫るものがある。

「…………」
「…………」

 今度は、さっきよりも長い沈黙。どちらも声を上げることはできず、ただ視線を交わした。嫌な空気を纏わせながら。
 沈黙を破ったのはどちらでもなく、丸まったままの少女だった。もぞりと体を動かして、もっと撫でてと言わんばかりの行為。少女が動こうとすれば、当然それを見る者の景色も動く。髪が指の隙間から勝手にこぼれ落ちて、ついでにぐいとチャックを押し広げた後頭部が、大きく露出。
 女性の体が、びくりと跳ねた。レイフォンの体も、つられてびくりと跳ねる。
 既に女性の視線は、ただの驚嘆から色を変えていた。つまり、ただ驚いていただけのものが、明確に犯罪者を見るそれへと。
 レイフォンは、先ほどまでとは比較にならない量の冷や汗をかいた。何がまずいって、今の時点でいいと思える情報が一つもないのがまずい。
 一歩後ずさる女性、その体を追う様に腕が泳いだ。それを確認した女性は、ひっと小さな悲鳴を漏らす。

「きゃああああぁぁぁぁ!」

 バスの中を金切り声が占拠した。全ての乗客が――それこそ運転手までもが――何事かと振り向く。
 とっさに耳を塞いだが、それでも精神的な圧力は相当なものであり。可能な限りの驚嘆をしながらレイフォンを指さす女性はしかし、もうバッグから顔を覗かせて唖然としている少女すらもどうでもいいのかもしれない。
 あらゆる周囲の状況を全く無視して、もう一度女性は叫んだ。

「誘拐よおおおぉぉぉぉ!」
「いやっ、ちょ、まっ、ちがっ!」
「い・や・あ・あ・あ・あ・あ・あ!」
「お願いだから話を聞いてええぇぇぇ!」

 なんとか女性を落ち着けようと、それ以上に誤解を解こうと声を張り上げながら。周囲の冷たい視線に今度こそ泣き出して。
 学園都市ツェルニで人生をもう一度やり直そうと意気込んでいたレイフォンの。なんとも幸先の悪い始まりの出来事だった。


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