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No.32350の一覧
[0] 【習作】廻る田舎町 【ペルソナ4】 (モブ ループ物)[レフトン](2019/07/14 00:04)
[1] 1回目 「ただの田舎町」[レフトン](2012/12/06 18:45)
[6] 2回目 「目的の田舎町」[レフトン](2012/09/06 23:56)
[7] 3回目 「小西の田舎町」 (前)[レフトン](2016/12/22 22:58)
[8] 3回目 「小西の田舎町」 (後)[レフトン](2012/09/09 11:39)
[9] 4回目 「後日の田舎町」[レフトン](2012/09/04 21:35)
[10] 5回目 「海老原の田舎町」[レフトン](2016/01/10 23:49)
[11] 6回目「巽の田舎町」[レフトン](2012/09/19 23:37)
[12] 7回目「噂の田舎町」[レフトン](2015/12/31 01:15)
[13] 8回目「深夜の田舎町」[レフトン](2016/01/06 00:44)
[15] 9回目「夏休みの田舎町」[レフトン](2016/01/16 21:26)
[16] 10回目「白鐘の田舎町」[レフトン](2016/02/16 21:00)
[17] 11回目「文化祭の田舎町」[レフトン](2016/09/15 20:13)
[18] 12回目「霧の田舎町」(前)[レフトン](2016/11/22 20:23)
[19] 12回目「霧の田舎町」(後)[レフトン](2019/07/14 00:20)
[20] 13回目「天国の田舎町」[レフトン](2017/03/25 00:35)
[21] 14回目「きっかけの田舎町」[レフトン](2019/07/14 00:00)
[22] 15回目「真実の田舎町」[レフトン](2019/07/15 00:00)
[23] 16回目「覚悟の田舎町」[レフトン](2019/07/16 00:00)
[24] 17回目「さよならの田舎町」Bエンディング[レフトン](2019/07/19 00:05)
[25] Bエンディングルートまでの「あとがきと解説」[レフトン](2019/07/19 00:05)
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[32350] 3回目 「小西の田舎町」 (後)
Name: レフトン◆e630f21d ID:1f5cc033 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/09 11:39
――『4月14日』小西早紀がマヨナカテレビに映る。


寝不足の目に突き刺さる朝日に目を細めながら、事件についてまとめた大学ノートを見る。
が、役に立たない。一番危険な日だというのに、情報が皆無だ。

『まずい、頭が寝ぼけてる…』

急いで学校へ向かう支度をする。今日も花村の机に用事があるのだ。

手紙が鞄の中に入っている事を確認し、ふらつく足取りで、今日も自転車で学校へと向かう。

『人は居ないな…よし。』

花村の机に手紙を突っ込んで、急いで学校から脱出する。この間わずか3分。無駄に早くなったものだ。
私が小西先輩の送り迎えをしている以上、この計画を実行する意味は無いのだが。――とりあえず、当初の予定どおりに進めた。

『そういえば、小西先輩は今日、学校へ登校するのだろうか』

家に帰る為に自転車を押しつつ、小西先輩へとメールを送っておく。
まだ、朝早すぎる時間だ。返ってこな――返ってきた……。
小西先輩は、具合が悪くて、今日は登校はしないらしい。

『…しめた! 小西先輩のお見舞いと称して、様子を見に行くことができる』

玄関でウザイと門前払いされる可能性もあるが、考えないことにする。
……もし、されたら悲しすぎるな。

『それじゃあ、お見舞いに行きますね……と。送信』

たとえ拒否されようと、お見舞いに行くけれど。
案の定、先輩は私に来られるのが嫌らしく、返信は返ってこなかった。


三栗は学校から家に帰るのをやめ、ジュネスへと行き先を変更していた。

お見舞いの品は、何が良いのだろう。
先輩の雰囲気的に、モモ缶だろうか。いや、コニシ酒店だし、酒のつまみの方が良いのか?

『くっ…わからないな…。』

とりあえず私は、定番の『迷ったら全部』を選択する。
すこ~し袋が大きくなってしまったが、小西先輩には、好きなものを選んでもらえばいいだろう。
早朝から、大量の酒のつまみと果物缶詰を買う客に、レジの人は困惑して私を見てくるが、もちろん視線をそらして、知らぬフリをする。なんだかデジャブを感じるのは、気のせいだ。きっと。

『そういえば、今時は、すぐにアレも買えるのだろうか…』

――大量の買い物袋を自転車カゴに詰め込み、ジュネスを後にする。




コニシ酒店の前で、携帯で時間を確認する。
きっかり、朝の10時。
訪問時間にしては、早すぎるかもしれないが、小西先輩が心配だ。

背筋を正して、玄関のチャイムを鳴らす――つもりが、チャイムがなかった。

『お店だから、チャイムがないのかな…?』

店の扉に手をかけてみる――開いた。店の中へと入る。

「朝から、お邪魔します。」

奥の方に向かって声を掛けてみるが、反応がない…。
先輩、もしかして外出しているのか?

「先輩! お見舞いに来ました!」

声を上げて、先輩に呼びかけてみる。が、どうしよう……物音一つ聞こえない。
焦りが大きくなり、外に飛び出して先輩を探しに行こうとしたその時だった。
私の携帯が震えて、メールの着信を知らせる。急いで携帯を開き、メールを確認すると――小西先輩からだ。

『店の奥にいるから、勝手に上がってきて…か。良かった、生きてる』
再び店内へと入り、店の奥を覗く。
どうやら、奥は住居スペースになっているようだ。勝手だが、用心のために玄関の鍵を閉めておく。

下駄箱と思われる場所で靴を脱いで、家の中へと入る。
大して進まないうちに、携帯を片手にソファに横になっている先輩がいた。

「先輩、お邪魔します。具合悪そうですね」
「…さっき、それは聞いたよ…。」

どうやら、具合が悪い上、機嫌も悪いらしい。
しかしここまで来れたのだ。追い出されるまで、居座ることを心に決める。

――家には先輩1人の様で、親は出かけているらしい。この事を聞くのは、タブーの匂いがするので、聞かないことにする。

「お見舞いの品、持ってきました。桃缶とかあるので、食べたくなったら適当に言ってください」
「…うん。それより、女子制服か…。似合わない…ふふっ…」
「……ですよね」

家で制服を着て、姿鏡を見たときに愕然とした。
鏡の中には、女装癖の男が立っており、思わず泣きたくなったものだ。


――それから先輩はずっと黙ったままだった。私もお喋りではないので、先輩から話しかけられない限りは口を閉ざしている。

ゆっくりとした時間が流れる。
小西先輩は横になったまま。私は、鞄から取り出した本を読むフリをしながら、考え事をしていた。

犯人は、小西先輩が家で1人の所を狙ったのだろうか。
だとしたら、いつ乗り込んでくるか分らない。
家に入る時、玄関の鍵を閉めたから逃げる時間ぐらいはあると思いたい。


家の時計が鳴り、お昼だということを知せる。

「先輩、お腹すいてませんか? パンとか、乾物系もありますけど」

私は、ある事に気がついて、先輩に食べ物を勧めてみる。

「…さきいか、ってある?」
「ありますよ。っと…これです」

買い物袋をあさり、目的のさきいかの袋を差し出す。
横になっていたソファから起き上がり、先輩は袋を受け取って、さきいかを食べ始めた。

『やっぱり…』

小西先輩は、机の上に置かれた、蓋をしたおかゆに手を付けていなかった。
考察するに『ぐちょぐちょ』『てかてか』『ぶにぶに』系が駄目になっている。
死体を連想する食べ物…。桃缶もアウトだろう。
――先輩が食べれそうな食品を机の上に並べておこう。


特に何事もなく夕方になったが、雨が降っていて、外はとても寒そうだ。
まさかここまで、お見舞いという名目で居座れるとは思わなかった。――明らかに迷惑人物となってしまった……。

急に先輩がソファから立ち上がり、大きく背伸びをした。

「…うぅ~っ……具合もよくなったし、バイトに行くことにするね」
「バイトですか…。具合、本当に大丈夫ですか?」

先輩には、できれば危険な外には出てほしくない。今日は家に居てくれる事を願って、聞き返してみる。

「だいじょうぶだよ。あ、これ貰らってもいい?」
「どうぞ。好きなの選んでください」

先輩が、机の上に並んだ見舞いの品から、好きなのを手に取って選んでいく。
その間に私は、部屋のゴミを片付けていく。


片付けも終わり、コニシ酒店の外へと出ると案の定、雨が降っており風が冷たかった。

「先輩、もう行きますか?」
「うん。それじゃあ、行ってくるね」
「あ、荷物、持ちますね」

先輩の手から、鞄をそっと奪い取る。これで、先輩について行く口実が出来た。

「もう…。」

鞄を取られた先輩が、呆れたように、こちらを見てくる。そしてコチラは、そ知らぬフリを決め込む。


――雨のせいか、ジュネスまでの道のりが遠いように感じる。

先輩が鮫川の方を見つめている。――今のうちに…

――自分の制服ポケットから、子供用携帯を取り出して、小西先輩の鞄の中へと滑り込ませる。

『小西先輩には、気づかれなかったか。…セーフ』

後々、鞄に入っている事を発見されるだろう。見つからなかったら、万々歳だ。

――GPS機能付き、子供携帯。私が朝ジュネスで購入した物で、持ち主の場所を特定する携帯。
発信機の代わりとして用意した物だ。小西先輩には、念には念を入れておきたい。

「はぁ……」
「ため息なんかついて、どうかしたの?」

川から目を離した先輩が、私の顔を覗き込んできた。

「何でもないです、小西先輩」
(ストーカには、成りたくなかったんだがな……)





小西先輩をバイトに見送った後、三栗は荷物を置く為に一度、家へと帰っていた。

要らなかった見舞いの品を床に置いた後、机のパソコンを起動させ、説明書を片手にGPS携帯が作動しているか動作チェックを行う。

『よし。問題はなさそうだな…』

小西先輩の居場所がバッチリ特定できた。現在地はジュネスを指している。
やる事の終わった私は、小西先輩のバイトの終わる時間になるまで、家で適当に過ごすことにした。


――そして時刻は暗い夕方となり、小西先輩との約束の時間が近づいていた。

今度は防犯グッズ入りの肩掛け鞄を肩にかけ、再び雨の中、傘を差してジュネスへと足を進めていく。
昨日と同じように、小西先輩から迎えに来るようにとのメールが着たのを確認し、三栗はジュネス裏口へと向った。

裏口の明かりに照らされて、小西先輩が立っている。

先輩から、容赦ない重さの荷物を渡され失敗したと思う。今日は雨が降っていたので自転車で来なかったのだ。
泣く泣く、腕がちぎれる思いをしながら、荷物持ちとしての意地で頑張って運ぶ。


やがて、コニシ酒店へと私達は着いた三栗は荷物を手渡しながら、先輩が中に入るまで見守っていた。
玄関扉に手を掛けながら、そこまでしなくてもと先輩は笑うが、どこで襲われるか分らない以上、気を抜くことは出来ない。

「小西先輩、さようなら。戸締りはしっかりやって、もう今日は外に出ないでくださいね?」
「わかってるって。それじゃあ、おやすみ。帰り道、気をつけてね?」
「はい。先輩、お休みなさい」

先輩に足早に別れを告げ、先輩が玄関扉の鍵が閉めるのを確認した後、私は暗闇に向かって話しかける――




――そこに居るのは分っている。貴方は誰だ。





肩掛け鞄の中の催涙スプレーを手に取りながら、暗闇を睨みつける。
小西先輩は気がついてなかったが、私は途中で足音が増えていることに気が付き、いつ襲われるか気が気でなかった。

コツ…コツ…と革靴の足音がこちらへと近づくことに、身構える。

――やがて少し離れた街灯の下に照らされて、人が現れる。
どこにでもいるような、スーツ姿のサラリーマン。だが、あの額のホクロ……どこかで見たような顔つきだ。

「まっ、まってくれ…私は、話がしたいんだ」
「何の話をしたいんだ」

スーツの男は気弱そうだが、油断することはできない。相手は男で、私は女。力に差がありすぎる。
男を睨みつけながら、他に人が居ないか周囲を伺う。……どうやら、この男1人か。

「わ、私は、彼女に危険を知らせたいんだ…!」
「危険?」

男が街灯の明かりに照らされながら、おどおどと話す。
その姿は、まるでどこかの舞台の操り人形の様。

「マヨナカテレビに映った人間は、危険が迫っているのかもしれないんだ!」
「最初に映った山野アナが死亡したから、次に映った小西早紀も同じように危ないかもしれない、と?」
「そっ…そうだ! し、信じてくれ…っ」

「ならば、彼女は私が守ってみせる。そして貴方は、生田目さん。ですね」

確か名前は生田目…だったか。市議会議員でもあり、そして――最初の事件の関係者。

「あ…あぁ…。そうとも、私は生田目だ…。か…彼女の事は…君が……」
「絶対に守ります。何か他にあるなら、ここに連絡をください」

私は、鞄からとりだしたメモ帳に、電話番号とメールアドレスを走り書く。

――そして、メモ帳ごと生田目の方に放り投げる。

怪しいメールなどを送ってきたら、速攻で警察に相談すればいい。生田目が、恐喝罪か何かで捕まるかもしれない。
それに今夜、小西早紀を殺しに来たのだとしても、私が『前回』と流れを変えた以上、生田目は今夜、先輩を殺せないはずだ。

「わ…わたし…は…『私は貴方が、ここから立ち去るまで動かない』………」

――暫くして、私の放り投げたメモ帳を手に、生田目はふらふらとしながら、立ち去っていった。

『完全に立ち去ったか……?』

生田目が居なくなったことで、肩の力が抜ける。が、力を抜きすぎたようで、足がガクガクと震えだす。

そういえば、ここは小西先輩の家の前だ…。
先輩を不安にさせないためにも、私と生田目の話を聞かれていないといいのだが。

……私も家に帰ろう。


――ガラリ

私の背後で、扉の引かれる音がした。
驚いて、びくりと肩をすくめる。――小西先輩?

「…すみません、近所迷惑でした…よね…」

ごまかす為に、へらりと笑って頭を掻く。
が、小西先輩は逃さないとでも言うように、ジッと私を見つめてくる。

「っ…! 小西先輩?」

小西先輩が私の方へと歩み寄り、私の手を取って、コニシ酒店の中へと引っ張り込んだ。
行き成りの事で私が固まっている間に、小西先輩は玄関扉を閉め、ガチャリと鍵を掛けた。

「……先輩?」
「…その足じゃ、帰れないでしょう? もう…。今夜は泊まっていけばいいよ」
「…………お世話になります…」


――あれだけ大口叩いたのに、情けない展開になってしまった。小西先輩に話を聞かれていない事を祈っておこう…




小西先輩の家へと招かれた私は、冷えた体を温めなさいと、お風呂に入れられた。

1人で湯船に浸かりながら考える。

『今夜、小西先輩が襲われる。』

偶然とはいえ、小西先輩の家に泊まれたのは、これ以上ない好都合。
生田目に宣言したとおり、絶対に守りきらなくては…。

「先輩、お風呂ありがとうございました。風邪を引かずに済みそうです」
「そう、良かった。…ごめん、私のパジャマだと、少し小さかったね」

小西先輩が、小動物の様に小さいからです。私としては先輩が物凄く羨ましい。

「ちょっと早いけど、もう寝ようか」
「はい。今日は先輩の具合、悪かったですしね」
「…もう。あ、豆電球だけ点けさせて。真っ暗だと眠れないの」
「わかりました」

トントン拍子で寝る支度をして、やがて部屋は、豆電気のオレンジ色の光を残して暗くなった。
小西先輩は、隣でごそごそと動いていたが、やがて静かに寝息をたて始めた。
可愛らしい寝息が羨ましいです、先輩。私だと…いや、そっとしておいてくれ。

『さて、起きるか…』

隣に居る小西先輩を起こさぬよう、そっと体を布団から起こす。
暖かい布団の中は寝不足の体に悪い。うっかりすると寝入ってしまう。

枕元に置いておいた、自分の携帯を手に取る。携帯の時計は、もうまもなく――


――『4月15日』 AM 00:00


『小西早紀が生きて、ここに存在してる…』




結局、一睡もせずに夜が明けた。
外はまだ雨が降っているようで、雨音がする。


――小西先輩が、生きている。

隣の布団で相変らず、小さな寝息を立てている姿を見て、ほっと安心する。

「…ふぁ…。あ…おはよー」
「おはようございます、小西先輩」

先輩は、寝ぼけ眼で布団の中をもぞもぞとして、枕元の置き時計へと手をやった。

「んー…。まだこんな時間か…。早く起きすぎたなぁ…」
「2度寝しますか?」
「…んー……起きるっ」

体を布団から、一気に体を起こして、先輩がうぅーんと、背伸びをした。
私は布団から出て、窓へ歩み寄り、カーテンを開けた。外は雨が降っていて霧が濃いが、外に怪しい人物は居ない。

『今まで小西早紀が、見ることの無かった日…か』

「ね、早く起きすぎたし、学校に行くついでに、朝の散歩でもしない?」
「それより先輩、今日は学校に登校を?」
「そろそろ、登校しなくちゃ。休み続けるのも、面倒くさいし」

連続で休み続けたら、教師陣が確かに煩さそうだ。特にモロキン。
布団を畳んで小西先輩と朝の支度をしていく。小西先輩の弟さんは、まだ眠っているらしかった。
髪を整え、軽く化粧をし、服をチェックし…女の子の支度は時間が掛かる。
私? 私のことは、適当に放っておいてくれ。

朝ご飯は散歩がてらジュネスで購入して、学校で食べる事となった。


――霧が少し残り、雨が降る町を小西先輩と共に、のんびりと歩いていく。

鮫川を歩いていた時だった。
小西先輩が立ち止まり、遠くを見上げて口を開いた。

「私ね、外に出るのが怖かったの」

私も小西先輩に習うようにして、遠くを見上げた。
遠くの方に、家が立ち並んでいるのが見える。家の屋根のアンテナは細く、まっすぐとした形だ。

「屋根って、顔を前に向けてるだけで、目に入ってくるでしょう? …あの日もそうだった」

小西先輩が語り始めるのを、私は黙って聞いていた。

「でも、あんな状況に出会うことの方が、可笑しいのよ。ただの田舎町で、ね?」
「私は運が悪かった。あれ以上、最悪な事なんて他に無いよ」

そう言いながら、嫌な事を振り払うかの様に、手に持つ傘をくるくると回す。


「………私の後輩にね、ウザイ奴がいるの。」

話の流れがわからず、小西先輩の方を見てしまう。
だが、小西先輩の視線は、相変わらず屋根のアンテナに向けられたままだ。

「昨日今日、学校に行かなかったぐらいで、何度も電話したり、何通ものメールを送ってくるのよ」
『花村の事か…』

「でね、全部『心配』『大丈夫』の言葉の羅列なの。見てる私の方が、嫌になってくる」
「……私が返信しないのに、ずっと送り続けてきて。お陰で、友達から着たメールが埋もれちゃった」

先輩がアンテナから視線を外して、満面の笑みを私に見せる。

「だからね! 今日はアイツに、思い切りウザイって言おうと思って。ふふっ…」

私から視線をはずして、今度は、薄い霧に包まれた雨空を、楽しそうに見上げている。

「…そう…ですか。」

話の意味が分らず、頭の中で必死に考える。
つまり、花村の事がウザイと文句を言いに行く。だから、応援してね! という感じでいいのだろうか。……どうも、違う気がするが。
小西先輩が元気になったので、良しとしよう。

でも、なぜ小西先輩は、私にこの話をしたのだろう。
同じ死体を見たから、先輩は私に取りあえず、自分のテリトリーに入れてくれているのだろうか。


私は疑問を小西早紀に問う。


――先輩は、な…ンデ……




――体に衝撃が走り、冷たい地面へと叩きつけられる。小西先輩の靴が後退した姿を最後に、私の視界が、黒に侵食されていく

辛うじて持っていた意識も、二度目の衝撃に――


『………セ……ン…パ…イ…』





――過去とは何か

語る。過去に戻ると、同じ人物の性格が違う。 同じ人物だが、同じ人物ではない。
語る。過去に戻ったからといって、皆が『前回』と同じ選択を選び取るとは、限らない。
語る。床に落ちているホコリ1つが、『前回』と違う動きをしただけで、未来が変わる可能性を持った『過去』


『前回』と同じ人物。
『前回』と皆は、同じ事ばかり喋る。
『前回』と皆が、同じ選択を続ける。
『1人』が[動く]・[動かない]で、田舎町が変わる可能性を持った『過去』

――たとえるなら、繰り返しのニュー『ゲーム』の様。




――急に浮き上がる様に、意識が戻る。

顔に細い何かが当たっている。手で退けようとするが、手が動かない。
起き上がろうとするが、体が動かない。下が凸凹して痛い。

『小西先輩は、どうなった…?』

耳を澄ませると、川の流れる音しかしない。――先ほどいた、鮫川で間違いないだろう。

『…症状からみて、スタンガンで間違いない』

意識があるのに、体が動かない。犯人対策の防犯グッズを調べた時に、得た知識だ。

『犯人にやられて、得た知識を披露するなど、皮肉すぎる』

とにかく、そう時間が経たない内に動けるようになるはず。
1発でも効果は十分なのに、2発目をやるとは。犯人は余程、私の事が嫌いだったらしい。

『落ち着け。急いたら事を仕損じる』


――まだ足が震えるが、歩行できるようにはなった。

私は、草むらに転がされていたようだ。雨でドロドロになっていた土が制服にへばりついている。

素早く周囲を見渡すが、小西先輩の姿が見当たらない。――犯人に連れて行かれたか――鮫川に流されたか。
とにかく、後者で無いことを祈る。前者でも全く良くないが。

携帯を探して、制服のポケットを探すが――ない。どこかに落としたか?

『…あった』

足元に落ちていた携帯を拾う。
携帯を開くと黒い画面が待っていた。電源ボタンを何度か押すが電源は入らず、黒い画面のままだ。

『スタンガンにやられたか…。仕方が無い、公衆電話だ』

ただの田舎町であるが故に。
都会の様に、公衆電話が撤去されていない事に、今は感謝する。

「もしもし――」

警察に通報して、事情を説明していく。――が、ここで問題が発生する。

「警察署の方に、一度来て頂けませんか?」
「小西早紀の命が危ない。と言ってもですか?」
「ですから――」

ええい。埒があかぬ。警察署の方に来いと。普通の事態なら私はそうする。
だが――私が動かないで『前回』の流れが、変わるとは思えない。
現に『前回』の流れへと修正するかのように、小西先輩がいない。

――警察が耳元で、オウムの様に説明を繰り返している。

「もしもし? ですから一度『時間が無い。早紀の命が危ないんだ! 私にとって、早紀は大切な人だ。探しに行く』え、危ないで――」

警察への電話をブツリと切る。

『彼女を守ろうとする彼氏』を上手く演じれたか…?
結果はともかく、警察に小西早紀の行方不明を伝えた。

死体発見者、小西早紀が犯人に狙われ行方不明。
その場に居た彼氏は、小西早紀を追って、危険な犯人の下へ。
実によくある、分りやすいストーリー。これで警察が動いてくれると、ありがたいのだが。


――電話後、傘を差さずに、私は家までの道を、必死で全力疾走していた。

鮫川で小西先輩を探すよりも、GPS機能で場所を特定する事にしたのだ。

『はたして、どちらの方が良かったか……いい判断であってくれ』

そう祈りながら、自宅へと飛び込む。
雨で重くなった靴を脱ぎ捨て、急いでパソコンで、GPSの特定を始める。

小西先輩の場所が分るまでには、時間が掛かる。
私はその間に、制服から私服へと着替える。
制服は汚れすぎていて、とても目立つ。このまま制服で小西先輩を探し回って、警察に捕まる方が厄介だ。


――ポーン…ポーン――

パソコンのスピーカーから、GPSの特定が終わった音が流れだす。

慌てて服の袖を通しつつ、パソコン画面を確認しながら、特定した場所の印刷を始める。

「っ…! 判断を誤ったか!」

特定された場所は『鮫川』だった。
おそらく、私が先ほど居た場所から、そう遠くに離れていない。
――さらに悪いことに、GPSの通信が途絶えていた。今表示されているのは、GPSを最後に捉えた場所。


場所を印刷した紙を片手に、再び家を飛び出す。
家に止めてあった自転車に乗り、鮫川へと急高速で向かう。

『先輩…! 先輩…! どうか無事でいてくださいっ!』

地図を確認しながら、鮫川の河川敷を走る。息が切れ、肺が痛い――ここかっ!


――その場所には、小西先輩も、犯人も、居なかった。

――――代わりに、打ち捨てられたテレビが1つ落ちているだけ。


「そんな…小西先輩っ…」

『だめだ、焦っては駄目。そんな感情は捨てろ。』

深呼吸をして、落ち着こうとする。考えろ…今ある材料で何が分る?

腕時計で時間を確認する ――いつも登校している時間より、少し早い時間帯。
GPS携帯は落ちていないか ――テレビ以外、落ちていない。
河川敷に隠れられる場所は ――ない。

ほかに…ほかにわかることは ――ない。

――『虱潰しに、探し回るしかない、か……』



『いや。『今』だけ、やれる事がある…!』

下を向いていた顔を、バッと上げる。私は走って鮫川を離れる。
止めてあった自転車に飛び乗り、先ほどよりも早い速度の疾走をする。

『どうか、間に合ってくれっ…!』

走る速度が早すぎて、景色が廻るように、視界から過ぎ去っていく。

――自転車を漕ぐ足が痛い、千切れる。
――息が出来ない、苦しい。

それでも、今しか出来ない! 休む事は、後からでもできる。今はとにかく、走れ!



――『着いたっ!!』

自転車を投げ捨て、急いでその場所の見える物陰へと移動する。
――が、目的とするモノが、私の目の前を、早い速度で過ぎ去っていく。

『間に合わないっ!! 待ってくれ!!』



――急いていた私は、その勢いのまま目的に向かって、飛び蹴りを繰り出した。






雨の降る中、俺は花村と登校していた。

後ろから、自転車に乗っている花村に声を掛けられ、昨日の様に一緒に登校する事となった次第だ。
花村は、右手で自転車を押しながら、左手に傘を差し、携帯を操作するという器用なことをしている。

「雨の日なのに、自転車なんだな」

晴れない顔をしている花村に、声を掛ける。
だが花村は、携帯を見ながら生返事しか返さない。

「花村、何かあったのか?」
「ん、ああ…。昨日から、小西先輩と連絡が取れねぇんだ。」

花村は、ため息をつきながら、制服のポケットへと携帯を戻す。

「そうか…。やっぱり、昨日の手紙が気になるか花村?」
「イタズラ、だよな…。でも現に、先輩から返事こねぇし…。」

花村が焦れた様に、唇を噛み締める。

『小西早紀が危ない、か…』

昨日の朝、また白い手紙が花村の机へと入っていた。一昨日と同じ白い手紙。
花村は、またかという顔をしながら、手紙を開けた。

――コニシサキ ガ アブナイヨ?

コピー用紙に印刷された文章は物騒なものだった。
花村は怒って、丸めて捨ててしまったが――


「小西先輩、学校来てるかもしれねぇし、先に行くことにするわ。」

花村が自転車に乗りながら、俺に軽く手を振る。

「ああ、分かった。小西先輩、来てるといいな」
「わりぃな。それじゃ、また後でなー」

自転車の速度を上げながら、花村が去っていく後姿を見送る。また、ゴミ箱に突っ込まないと良いのだが。



――突如、路地から飛び出してくる人物が現れ、横から、自転車に乗る花村へと飛び蹴りを喰らわせた。

横から押された花村が、傘を放り出し、自転車から落ちて尻餅をつく。辺りに、自転車の倒れた大きな音が響き渡る。

「花村!! 大丈夫か!?」

俺は、倒れた花村の元へと駆け寄るが、結構距離がある。
周りを歩いていた生徒も、驚いて花村の方を見つめている。

飛び蹴りをした人物は、何事も無かったかのように、尻餅をついている花村へと手を伸ばす。

「花村陽介、だな。すまない、話がある」

その人物は、周りに響く凛とした声で、花村へと話しかける。
一方の花村は、何があったのか理解しきれていない様で、ポカンと口を開けている。

雨に濡れた髪を滴らせながら男が、花村の腕を掴み上げ、路地裏へと引っ張っていく。
花村は男に、されるがままに路地裏へと姿を消した。
俺は急いで、路地裏に消えた花村の後を追う。
走りながら、携帯を用意し、110番を押しておく。まだ通報はしないが、いざという時の為だ。


――路地裏に辿りつくと、花村が我に返ったようで、男へと詰め寄っていた。

「お前、行き成り何すんだ! 商店街の連中か!?」
「違う。花村陽介、落ち着いて話を聞いてほしい」
「何を聞けって『花村!大丈夫か!?』」

花村が男に掴み掛かり、一発触発の雰囲気だ。ここで殴り合いになっては不味い。
そう考えた俺は、物陰から駆け寄って、花村へと声を掛ける。

「ちょ、おま、何で来るんだよ!」

俺の登場に花村が驚き、男を掴んでいた手を離す。
男は突然乱入した俺の方に目もくれず、花村の方を見続けている。

「花村、その人の話、聞いてあげたらどうだ? 埒が明かない」
「……はぁ。んで、話って何なんだよ」

喧嘩腰で言うのも、あれだと思うぞ花村。逆に男の方は、終始落ち着いている。

「花村陽介。私は、知りたいことがある」

そして、男が静かに言い放った内容に、俺たちは固まった。


――小西早紀が行方不明だ。 花村、何か知らないか?




「小西先輩が…行方不明……? てめぇ嘘つくんじゃねぇよ!」
「本当だ」

叫ぶ花村を、男が一途両断にする。
花村は憎いとでもいうように、男を睨みつける。

「小西先輩が行方不明だという証拠は?」

俺は、花村の様子を伺っている男に、質問を投げかけてみる。

「今日の早朝に何者かに襲われ、連絡が着かない」
「それは証拠になっていない」

考え込む様に口を閉ざす男。目をふせて、眉間にシワをよせている。

「すまない、私も突然の事で混乱している。話が長くなるが――」

――男の話が、パトカーのサイレンの音にかき消される。

「誰かが、警察呼んだみたいだな…」

パトカーの音が、徐々に近づいてくる。このまま移動しなければ、男は捕まるだろう。

「どうするんだ、花村?」

男から実害を被った花村に、男を警察へ引き渡すのか、問いかける。
男は、花村の動向をじっと見守っている。

「…話、聞いてやる。鳴上、フードコートに行こうぜ。…お前もな」

男が同意したように頷く。
花村がパトカーの音が聞こえる方と、逆方向に歩き出す。俺と男も、花村に習い同じ方向へと歩む。

「花村ちょっと待て、折り畳み傘、貸すから」

花村へ、鞄の中に常備している傘を渡す。花村は参ったとでも言うように、肩をすくめた。




――ところで、なんでフードコートなんだ花村。





先を歩く、花村の後ろ姿についていく。私の事は隣の鳴上が見張っている。

『急いては事を仕損じるか…。花村君に悪いことをした』

あそこで飛び蹴りしなくとも、呼び止めるなり、前に立つなり、すれば良かったのだ。
花村には、後で丁重に謝罪しなければ。


――『小西早紀が行方不明だ。 花村、何か知らないか?』

私は歩きながら、先ほど話した事を思い返す。
花村が、小西先輩の行方についての情報を持っていない事は、分かっている。
私はただ、花村に『小西先輩が行方不明』という事を伝えたかっただけだ。

『前回』花村陽介は、小西早紀の行方不明を知らず、突然、小西早紀の死を知らされる事となった。
『今回』花村が動けば、『小西早紀の死』が変わるかもしれないと、私は踏んだ。――もちろん、根拠などないが。

体を濡らす雨空を見上げる。
――小西先輩と共に見た雨空。そして花村が、小西先輩を悼んで泣いた空。

『さて、花村にどうやって説明したものか……考えなくては』

だが、1つ気になることがある。――なぜ…



――なぜ、フードコートなんだ花村。





ジュネス屋上フードコート。
テーブルには、雨避け用の屋根がついており、雨に濡れない構造となっていた。
ずっと傘を差さずに、雨に濡れ続けた三栗の体には有難い。

「んじゃまあ、説明してもらいましょーか」

花村が喧嘩腰で、話しかけてくる。
――出会い頭に、いきなり飛び蹴りは悪かった。やられたら、私でも怒るさ。

「経緯を説明する。山野アナの死体発見者は、小西早紀。私はその場を見た。証拠もある」

自分の鞄から、大学ノートを取り出す。事件について、まとめていたノートだ。

「覚悟して見てくれ。これを撮ったのは、決して興味本位じゃない」

2人に忠告してから、ノートのとあるページを開く。
――それを見た2人が、息を詰める。

開かれたページには――山野アナの死体写真。
携帯で撮影したので、画質が荒いが、十二分に死体だということがわかる。

「小西早紀はコレを見て、相当深いショックを受けていた」

大学ノートを閉じながら、その時の状況を2人に説明する。

「先輩、これ生で見たんだよな…」
「証拠はわかった。貴方と小西先輩の関係は何ですか」

鳴上が、私に鋭い視線を投げかけながら問う。――うっかりループの事を漏らさぬ様、慎重に言葉を選ぶ。

「先輩と後輩の関係だ。事件後に知り合いになった」
「事件後に知り合ったって、どんな風にだ? 死体見たから、仲良くしましょうってか」

花村は、先ほどの写真を撮った私に良い印象を抱いていない様子だ。
――非常識だということは、私も重々承知の上だ。反論するつもりはないが。

「違う。私は、小西先輩に忠告をしに行ったんだ。」
「忠告の内容は?」

姿勢を正して、鳴上が椅子に座り直す。

「猟奇殺人犯は、死体第一発見者、小西早紀を狙う可能性がある。そう小西先輩に伝えた」

花村は固まり、鳴上は考え込む。対照的な2人だ。
だからこそ、後々仲良くなるんだろうか。

「なぜ、そう考えたんだ? 死体を発見しただけだろう、小西先輩は」

鳴上が考えながら口を開く。
――痛い所を突かれた。未来を知っていたから、とは言えない。

「私が経験者だからだ。犯人は猟奇殺人犯。何をするか分からない人物」

小西先輩を説得する時に使った話を持ち出す。
鳴上の様子を見るが、話を切り返してこない。…乗り切れたか。

「貴方の言葉を信じます。先ほどの話の『今日の早朝に何者かに襲われ、連絡が着かない』というのは?」

花村が顔をバッと上げた。――花村も、私の話を聞いてくれる気になったようだ。これで先に進める。

「早朝、鮫川で小西先輩と私は散歩していた。」

目を閉じながら、今朝の事を思い出していく。

「私は、後ろからスタンガンで襲われた。小西先輩が、後ずさるのを見たのを最後に、私は意識を失った」
「スタンガンで襲われたなら、痕残ってるよな…?」

花村が見せろと言わんばかりに、こちらを見る。本当の事だと信じたくないのだろう。

「首筋に2発だ」

そう言いながら、首筋のガーゼを外す。その様子を見た花村が椅子から立ち上がる。
こちらへと近寄り、首筋を覗き込んで、息を呑む。
あまりにも目立つ為、ガーゼで隠すはめになったのを覚えている。

「信じてくれたか?」

私は2人に問いかける。2人は、深刻な顔をしながら頷いた。
――信用は取れた。次は、現在の状況説明か。

「現在の状況を伝える。警察には通報済み。GPSを確認した所、最後に通信が途絶えたのは『鮫川』」
「ちょ、GPSって、小西先輩に――いや、こんな話してる場合じゃねぇな。それで?」

花村が混乱したように、続きを促す。
私もGPSを仕掛けた事は、伏せておきたかったのだが。

GPSの場所を印刷した紙を取り出し、2人に説明を続ける。

「鮫川を見にいったが、何も無かった。私の情報は以上だ。」

あっと言う間に、情報開示が終った。――皮肉なものだ。

「小西先輩の持ち物、なんか、落ちてなかったのか?」
「無かった。――いや、落ちていたといえば、落ちていたか。GPSが最後に指した所に」

もう、苦笑いしか浮かばない。頼みの綱のGPSも役に立たなかったのだから。

「何が落ちていたんですか?」

鳴上が真面目な顔をして聞いてくる。こんなくだらない事でも、真面目に聞くから彼は優等生なのか。


私は鳴上悠の問に答える。


――打ち捨てられた、テレビが1つ。 落ちていただけだ。






「もう私は、小西先輩を探しに行くよ。何かあったら、ここに連絡をくれ。私の家の電話だ」

彼らに連絡先を書いたメモを渡しながら、私は椅子から立ち上がる。

「待ってくれ、さっきのGPSの場所を印刷した紙をくれないか」
「…ああ、構わないさ」

役に立たなかった紙を鳴上へと渡す。一体、何に使うつもりなのだろう。
再び歩き出した時だった。後ろに居る花村が、私に話しかけてくる。

「なぁ、何で俺に、小西先輩の事を伝えに来たんだ」

私は暫し考え、花村陽介の戸惑いに答える。


――小西先輩が、花村君に話したい事があるそうだよ。 あと、飛び蹴りしてすまなかった。






男がフードコートから去ったのを確認して、再び俺達は話を始める。

「花村、話を整理しよう」

花村と向かい合わせになるように、椅子を座り直す。

「ああ。小西先輩が行方不明。そして、それを示唆する手紙が来た」

最初の態度と変わり、真面目な顔をして落ち着いている様に見える。
だが、内心は小西先輩の事でいっぱいだろう。

「なぁ、マヨナカテレビに小西先輩が映った事、俺なりに考えてみたんだ」

花村が静かに話を切り出し始める。

「最初、山野アナがマヨナカテレビに映ったらしい。そしてその後、死んだ」
「そして次は、小西早紀がマヨナカテレビに映った。花村が騒いだからよく覚えている」

どんな覚え方だよ、と花村が悪態をつく。花村は、頭を掻き回しながら、話を続ける。

「マヨナカテレビに映ると、映った人物が死ぬ。俺は…そう思うんだ。あっちの世界のことも気になる」
「…そうか。」

テレビの中の世界か…。昨日入った、謎ばかりの世界。マヨナカテレビとも関係があるのかもしれない。

「花村、手紙についてはどう思う。」
「どうって、そうだな。まず――」

「――最初、俺の机に『コニシサキがマヨナカテレビに』っていう手紙が来た」
「そしてその晩、小西早紀らしき人物が、マヨナカテレビに写った。手紙の内容通りに」

マヨナカテレビを見た次の朝、花村が興奮していたから、よく覚えている。

「昨日の朝に、2通目の『コニシサキがアブナイヨ』の手紙。現に、小西先輩が行方不明になっちまった」

眉間に深いシワを作りながら、花村が溜息をついた。

「未来を伝える手紙か…」

内容は置いておいて、誰が花村の机に入れたのだろうか。
見た者もおらず、結局、誰なのかは分からなかった。


俺は、花村へと1つの提案をしてみる。

「花村、鮫川に行かないか?」
「そうだな、俺も気になってたんだ。早く行こうぜ。」

話を切り出して早々に、花村が動き出す。それだけ、小西先輩のことが心配なのだろう。
先に歩いていってしまった、花村の後姿を追いかける。

――ジュネスを後にし、鮫川へと早歩きで向かう。辺りを見回しながら進むも、小西先輩の姿はない。
道中、花村は無言で一言も喋らなかった。花村は、気持ちが焦っているようだ。
暴走しなければいいのだが…。

そして、鮫川へと辿り着いた俺たちはGPSが小西先輩を最後に捉えたという場所へ、地図を確認しながら突き進んでいった。


「――ここか」

草も大して生えておらず、石ばかりの河川敷。

「ほんとに、何にもねぇな。『テレビ』以外は」

花村が、捨てられたテレビへと近づく。

「待て、花村。もし…そうだったらどうする」
「よくわかんねぇけど…。もしそうだったら、決まってるだろ。力を貸してくれないか、鳴上」
「…ああ。もちろんだ、花村」

俺は花村の顔を真っ直ぐ見ながら頷く。それを見た花村は、テレビと再び向き合う。

テレビの画面へと、花村が手をそっと伸ばし――

――入った。

黒い画面に手が沈み、画面は水面の様に揺らいでいる。

「…小西先輩なら、入れる大きさか。俺達じゃ、画面が小さすぎて入れねえな」

画面から手を抜きつつ、花村がそう呟く。

「だな。花村、提案なんだが、ジュネスのテレビから入らないか」
「ああ。昨日のクマが、同じ場所に居るかもしれないしな。もしかしたら、あのクマ何か知ってるかもしれねぇ」

俺の提案に頷きつつ、花村はテレビから離れて、俺の方へと向かってくる。

「出口もまだ、あそこにあるかもしれない」

そして、俺は花村の方を見ながら、花村は俺を見ながら、お互いに口を開く。


俺、鳴上悠は花村陽介に問いかける。

――行こう、花村。
――おうよ! よろしくな、鳴上!

そして、花村陽介は問いに頷く。



―――彼らは、再びテレビの中の世界へと歩みだす―――






――ただの田舎町の筈なのに。時が過ぎ、何も見通せぬ、暗闇の田舎町となった。


『外はもう暗すぎて、探すことが困難だ…。自分の歩んでいる所すら、わからない。』

街灯の無い、雨の降り続く暗闇の田舎町を、歩き続けた体は、限界を超えている。

『このまま探し続けても意味が無い。朝を待って再び探そう』

そう自分に言い聞かせ、自宅への帰路を歩く。

――『もう…家に着いたのか…』

気がつくと、いつの間にか家の前に着いていた。
重たい腕で、玄関の扉を開けて中に入る。

雨で重くなった上着を脱ぎ捨て、椅子にどさりと座る。
ふと、視界の端に、チカチカと赤く点滅する光があることに気がついた。――留守電…?

見ると、家電話の留守電ランプが点滅しており、伝言があった事がわかる。
椅子からふらりと立ち上がり、留守電ボタンを押しにいく。

電話口から、伝言が流れ出す――

――あーもしもし? 花村陽介です。小西先輩が、夕方ごろにジュネスで見つかった。ケガもないし無事だ――


「小西…せんぱい……助かったの…?」

体の力が抜け、膝から床に崩れ落ちる。
震える手で、もう1度、留守電ボタンを押す。

電話口から、流れだした内容は先ほどと同じで――

「…よかっ…た…」


――目の前が暗闇に包まれていく。先ほどの暗闇の田舎町とは違い、体を休める為の優しい暗闇だった。




4月15日――小西 早紀 [死亡] → 4月15日――小西 早紀 [生存]




『4月17日』(日)――天気: 晴れ ペルソナ使いの集い

夕方のフードコートにて、俺達は談笑していた。

「あれ、里中の奴、帰っちまったのか?」

店の奥から花村がやって来て、俺と迎え合わせになる様に、椅子へと座った。

「ああ、疲れたから帰るって言ってた。」
「あの里中が疲れただと…。まぁ、自分の影と対峙したから、無理もねぇか」

体を大げさに仰け反って、花村が驚く。相変わらず、誇大表現な奴だ。

「ところで花村、バイトはどうしたんだ?」
「小西先輩を助けたから、今日は免除だってさ。それより、時給上げてほしかったぜ」

どうやら、花村の時給は少ないらしい。運が無い所が、こんなところでも発揮されるとは。

「そういえば、『花村飛び蹴り男』小西先輩が助かったのに見かけないな」

てっきり、俺達に会いに来ると思っていたのだが、今日になっても姿がない。

「俺の名前で変な名称つけるなよ! どうせ、そのうちフードコートにでも現れるだろうよ」
「また花村に、出会い頭に、飛び蹴り喰らわせてきたりしてな」
「俺が仕返してやるっての!」

花村は仕返しの練習をするかのように、ボクシングの構えをする。
あの人は、本当にどこにいったんだろうな。ひょっとすると、まだ小西先輩を探しているのかもしれない。

「花村。本当に、小西先輩が助かって良かったな」

あの雨の日、小西先輩はジュネス発見された事になっている。
そしてそのまま、病院へと搬送されていった。後でお見舞いに行かなくては。

「ああ…俺も、先輩も、自分の気持ちを整理できたしな…」
テレビの中の商店街での出来事を思い出すように、花村は目を閉じている。


椅子に座っていると、そよ風が吹いてくる。
しばらく雨続きだったせいで、空気が湿っぽいが、どこか清清しく感じる。

夕方のオレンジの光が田舎町を包んでいく。


――花村。里中さんの為にも、天城さんの事を助けだそうな。

――あったりまえだろ、鳴上! 俺に任せとけ!





同時刻――ただのベランダにて 1人の一般人

――小西早紀の死の回避は、花村陽介が鍵だった、か。……しかし、何故私1人ループをしているんだろうな。
ともかく、小西早紀が生きている。今はただ、それを喜ぶ事にしよう――

――小西先輩に乾杯!









 ――小西 早紀 編 (完) ――


【あとがき】
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

小西早紀の死は、どのようにしたら回避できたのか。
『番町達が、早めにテレビの中へ入って、小西早紀を助け出す』もはや結論。

――でももし、以外の話を作るとしたら…。という妄想から、このような設定の話が生まれました。

小西早紀を助けたら、モブのやる事ほとんどないです(笑)
最初からクライマックス。そんな感じの話になりました。

もしも、この後の続きを書くとしたら『ループの原因解明』はもちろんの事、
『番長達の正体を見破ろうとする』とか、『謎のクマと出会い』などという話でしょうか。

番町達と絡む事もあるが、あくまでもモブ。
モブによる、一般視線での物語を書き上げる事ができたでしょうか。
少しでもお楽しみいただけたのなら、幸いです。作者が喜びます。

それでは改めて、小西早紀編とあとがきを読んで頂き有難うございました。

【9/9追記】
生田目とのやり取りを「マヨナカテレビに映ったら死ぬ」から、「危険かもしれない」に変更しました。


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