温泉旅行から帰ってきた翌日。とくに当てもなく一人でショッピングセンターをブラブラしていると、シャークティに出会った。
「あれ? 買い物なの?」
「ええ、喫茶店でバイトするとなると、いろいろ必要で。」
どうやら資金はまたも前借したらしい。大丈夫か、最初の給料無いんじゃないか?
聞くと、仕事に必要なものは翠屋で用意するから、そこまで高い買い物じゃないようだ。髪留めとかハンカチを増やす程度らしい。それなら、まぁ高くならないか。
その後もいろいろ話を聞くと、どうも今は教会でお世話になっているらしい。それなら教会で働けばいいじゃん、と言うものだが、教会の仕事は家事みたいなものでバイトが始まる前と終わった後でも十分出来るとか。生きていくための最低限以上のお金をお布施から賄うことは出来ないんだと。
ベンツ乗り回してる坊主とはえらい違いだ。ま、神父にも似たような奴はいるだろうが。
ほかにもシャークティと色々話をしながら買い物に付き合った。
モップやら児童書やら教会で使うものも買っていたので、荷物持ちに教会まで一緒に行く。つってもこのなりじゃ大したもん持てねーけど。
「ごめんね、持ってもらっちゃって。」
「いいよ、暇だったし。教会の中も見てみたいしな。」
なんて会話をしながら二人で歩く。天気もいいし、絶好の散歩日和だ。これがもう少し陽が高くなると、暑くてそれどころじゃなくなるが。
ちょうど公園に差し掛かり、私はベンチに荷物を置いて一息つく。長物は運びにくいんだよ。
シャークティがジュースを奢ってくれるというので、二人で自販機に行こうとし――
「きゃあぁぁぁ!! 誰かー!!!」
叫び声が、聞こえた。
なんだ? 叫び声!? こんな真昼間から!?
私たちは叫び声がした方向に振り向く。
遠くてよく見えないが、黒いワゴン車に無理やり乗せられそうな、金髪と黒髪の、小学生くらいの……って、
「アリサ! すずか!」
くそっ! なんだ? なんでだ!? なんであいつらが誘拐されそうなんだよ!?
とにかく、近づいて、止めねーと!
止めねーと、って……
バンッ! と。そう、今まで聴いたことが無い音がして。
男の一人が、黒いものを金髪の少女に向けていて。
金髪の方が、後ろに倒れて。
そのまま抵抗が無くなった二人を乗せて、黒いワゴン車が走り出した。
「おい……うそ、だろ?」
◇◆
走り去る車をみて、シャークティは荷物を地面に置く。そしてしゃがみこみ、呆然としている千雨に視線を合わせた。
「千雨ちゃん、ここで待っててね?」
そういい、千雨を抱きしめながら頭を撫でる。
大丈夫、私に任せて。
耳元でそう呟いた後、懐から十字架を取りだし、車が去った方向へ走り出す。
「何なんだよ、一体……。」
そんな千雨の呟きに反応する者は、いなかった。
「アリサちゃん、アリサちゃん!」
車の中では、気を取り直したすずかがアリサの名前を懸命に呼んでいた。
しかしアリサは肩から出血し時折苦しそうなうめき声を出すのみで、すずかの呼びかけに答えることは無い。
アリサに近づこうとするすずかだが、それも男の一人に拘束され動くことは敵わない。
「予定通り、このまま船に乗り移るぞ。」
「しかし、ガキ二人誘拐するだけであの金額とは。ボロいですね。」
運転席と助手席では、男二人がそんな会話を交わしている。
運転者は厳しい顔つきのままハンドルを握り、もう一人は銃をもったままにやけた表情を隠せずにいた。
「無駄口たたいてる暇があれば警戒していろ。金額が高いのには何だって訳があるんだ。」
へいへい、と。助手席の男はそう返事をするも、今度は外ではなく後ろを見る。
いまだアリサの名前を呼び続けるすずかを視界に入れ、今度は右手で玩んでいた銃をすずかへと向けた。
銃口を顔に向け、引き金に指を掛け。いつでも発砲出来る状態だ。
「騒ぐんじゃねーよ。」
そう、一言。銃を向けられ、引き金に指がかかっている様子をみて、すずかは思わず沈黙する。
いい子だ、素直なガキは嫌いじゃないぜ。
そう言われ、しかし反論することも敵わず、ただ涙を流す。
「見えたぞ、船だ。」
運転手がそう言う。みると前方には海が広がり、海岸にはクルーザーが一台停泊している。船からは煙が上がり、エンジンがかかっていることがわかる。
信号も無い一本道だ、瞬く間に車は船へと到着し、男たちはアリサとすずかを連れ車から降りた。
「は、離して!」
車から降ろされ、船へと乗せられそうなすずか。これに乗っては終わりだ、そう思い懸命に抵抗するも――
「おいおい。自分だけ助かろうっていうのか?」
そう、助手席にいた男がアリサの米神に銃口を突き付けて言う。
すずかは体を強張らせ、唇を噛みしめるも、抵抗するのをやめた。
「はは、いい子だ。」
それを見た男はニヤニヤと笑いながら、意識のないアリサを船へと放り投げた。
「アリサちゃん!!」
続いてすずかも男に抱かれたまま船へと乗り移り、とうとう船は走り出す。
「う、っく……何なのよ、あんたら。」
船へと投げ捨てられ、したたかに全身を打ちつけたアリサだが、どうやらその衝撃で目を覚ます。
しかし、いや、当然というべきか。いつもの溌剌とした輝きは鳴りを潜めるが、変わりに肩を押さえながらぎらぎらとした目で男達を睨み付ける。
船が出たことで拘束を解かれたすずかは、アリサへと走り寄りその体を抱き上げた。
男達は少女の言葉など意に介さず、それぞれ銃を手に持ち離れ行く陸を見たり、雲を眺めたりと様々だ。
「なぁ、こいつらで楽しんでもいいんだろ?」
ふと思いついたように、助手席にいた男が少女達を見て言う。
楽しむ。その意味を理解した二人は、おもわず互いの体を抱きしめあった。
「へ、変態! 近寄らないで!」
「ほう、意味がわかるのか。」
にやついた顔で言われ、アリサは羞恥と怒りから顔を赤くする。すずかはただアリサにしがみつき、顔を青くしてガクガクと全身を震わせていた。
男はそんな二人の体を舐め回すかのように見つめている。
「お前の趣味はわからん。」
「何も最後まで期待しちゃいねーよ。反応見るだけでも楽しいんだぜ?」
そう言いながら近づく男。アリサとすずかは懸命に後ずさるも、とうとう船首へとたどり着く。
背中が壁に当たり後ろを振り向くも、もう後がないのを見て二人は絶句する。
「金髪のほうは好きにしろ。意識がしっかりした状態で依頼人の元へ連れて行く、それが条件だ。」
「つまり殺しと薬以外は何でもいいんだろ?」
「ああ、それは依頼人がやるらしい。バニングスグループへの意趣返しだとさ。」
身代金目的なら、チャンスがある。そう思っていたアリサだが、男たちの会話を聞き絶望に捕らわれる。
このままどこかへ連れ去られ、家への連絡もされないのでは、もう救いは無いように思われた。
「黒髪の方は売り物だから、傷はつけたくないんだが。あぁ、再生するらしいから試すか?」
「あん? 再生するって、どういう……」
「イヤッ! 言わないで!!」
再生。その言葉を聞いた途端、すずかは大声で男の言葉を遮る。そしてイヤイヤをするように、両手で耳をふさぎしゃがみこむ。
しかし。
その程度では、言葉を遮ることなんか出来ず。
「依頼人が言うには、いわゆる吸血鬼なんだとよ。本当なら高値で売れるぞ、案外お友達の血に欲情してるんじゃないか?」
「イヤッ! 違うもん!!」
「ちがわねーよ、夜の一族。超レアものだ。」
「イヤーーー!!」
そう、叫び。しかし、気づけばアリサの傷口を見ている自分に驚き、突き飛ばすかのようにアリサを押しのけ距離を取る。
力が入らないアリサは、そのまま壁へと叩き付けられた。
「いたっ!?」
「あ、ご、ごめん!? アリサちゃん!」
友達の血に欲情してるんじゃないか?
そんなことは無い。私はただ傷が心配だっただけだ。
そう必死に思うも、心のどこかで肯定している部分があるのか、すずかはアリサに近づくことが出来ない。
もしまた傷を、いや、血を凝視してしまったら。
匂いを嗅いだら。
口に入ってしまったら。
大好きなアリサの血だ。
それは、とてもとても、魅力的な……
「はは、やっぱり欲情してたか? さすが化け物、吸血鬼ってのは当たりらしいな。」
「あっ!? わ、私!?」
思わずアリサを見ながらボーっとしてしまったすずかだが、男の言葉で我に返る。
しかし再度高揚して赤くなった肌を隠すことは出来ず。
(これじゃ、まるで。本当に、化け物……!?)
そう、すずかが思ったとき。
「ふざけんじゃないわよ!!」
アリサの怒声が、船上に響き渡った。
「吸血鬼だか、化け物だか知らないけど、すずかは私の親友よ!」
そう、言いながら。アリサは未だ出血する肩口を抑えながら、立ち上がる。
足元にはポタポタと血が垂れ落ち、顔色は青いままながらも尚、気丈な顔つきで男達を睨み付けた。
「夜のなんとかが何だっていうのよ! 舐めるんじゃないわよ!」
「気の強い御嬢さんだ。その化け物が、実はお前の血を狙って近づいたとしても、同じことが言えるのか?」
男はそういい、銃口をアリサへと向ける。銃口を向けられて一瞬ひるむアリサだが、しかし一度すずかを見るとしっかりと頷き。
再度、銃口を向けている男へと向き直った。
「当り前よ! 血が欲しいなら上げるし、なんなら私も吸血鬼になったっていいわ!」
くっ! 大声を出して傷に響いたのか、そう息を止め肩を押さえてうずくまるアリサ。
しかし息を整えると、再度立ち上がり啖呵を切る。
「だいたいすずかがそんなことするわけないじゃない! あんたたちの方がよっぽど化け物らしいわ!」
「ほぅ、よく言った。」
バンッ! と。再度銃声が響き渡る。
「っぁああああ!」
「アリサちゃん!!」
今度はアリサの左腕、二の腕を抉るようにして銃弾は跳んで行った。これで両腕が使えなくなり、床に倒れこむアリサ。すずかは今度こそアリサに駆け寄ろうとするも、またも男に腕を掴まれ近づくことが出来ない。
「ほら、どうした? この化け物に血を与えてみろよ。出来るんだろ?」
床に倒れこんだアリサの周りに、ゆっくりと、しかし確実に血だまりが広がっていく。アリサは何とか立ち上がろうともがきながら、顔をすずかに向ける。
「すず、か。待ってなさい……血を、上げる、くらい。へっちゃら、なんだ、から。」
「だめ! アリサちゃん、動かないで!」
アリサがもがけばもがくほど、床の血痕は広がっていく。すずかは涙を流しながら、もういいと、動かないでと、懸命にアリサに呼びかける。
しかし。
アリサはもがくのをやめず、這いつくばりながら、徐々に徐々に、すずかへと近づいていった。
「死にませんか? あれ。」
「あのくらいじゃ死なねぇよ。少なくとも今日中は、な。」
どうせ明日を迎えることはないんだ、いいだろ。
男たちは今尚もがくアリサを見つめながら、そんな会話を交わしていた。
と、そこへ。
「もう大丈夫よ、アリサちゃん。すずかちゃん。」
褐色のシスター、シャークティが、唐突に表れた。
◆公園にて◇
「くそっ! なんだってんだよ!? 誘拐? 銃!? あり得ねーだろ!?」
そもそもこれは夢の筈だろ!? この夢は私の望みなんじゃないのか!? ありえない、私はこんなこと絶対に望んでいない!!
私はただ、普通の子供みたいに、皆と友達になって遊べればそれで良かったんだ! それなのに、それなのになんでこんなことに……!
『大丈夫、私に任せて』
そうだ! シャークティ! 銃持った相手にどうにかなるわけないだろ!? 十字架持ち出したところで何になるってんだ!
ああ、くそ、何ぼけっとしてるんだ私は! とりあえず警察だ! えーっと、あれだ、110だ!
「千雨ちゃん! すずか達は!?」
携帯を取り出し警察へ電話しようとしていたところ、猛スピードで公園に突っ込んでくる車があった。
一瞬さっきの奴らが戻ってきたのか!? と思って身構えたけど、車から出て来たのは忍さんだ。
「忍さん! すずかとアリサが、黒いワゴン車で、銃で撃たれて、連れ去られて!」
ああ、くそっ! うまく言えないのがもどかしい! とにかく誘拐されたこと、銃を持っていること、アリサが撃たれたことを伝えねーと!
「あと、シャークティが追っていった!」
シャークティが追った。それを聞いた忍さんは、一瞬目を丸くするも何か納得したように頷く。
そう、それなら……。
そんな呟きが聞こえたが、何のことかと聞き返す前に車へ向けて歩き出した。
「千雨ちゃんは家に帰りなさい。大丈夫、私たちがなんとかするから。」
家へ帰る……ああ、そうだ、それがいい。
私が騒いだところでどうにかなる物でもないし、却って邪魔になるだけだ。それなら家に帰って結果がわかるまで怯えてた方が何倍もマシなんだろう。
けど。
けどよ……!
「忍さん、私も連れてってくれ!」
これは夢? 知ったことか!
邪魔になる? ああそうさ、邪魔かもしんねー!
けど、あいつらは私の友達だ! 黙って安全な場所で待ってるなんて、そんなこと出来るわけねーんだよ!
「私は目撃者だ! 何か手伝えるかもしれない!」
「千雨ちゃん……」
「頼む! 私もあいつ等を助けたいんだ! お願いします!」
私は手を握り締め、頭を思いっきり下げる。このまま家に帰るなんて真っ平だ、絶対ついて行ってやる!
「……助手席。乗りなさい。早く!」
「ぁ、は、はい!」
忍さんは一度ため息を吐いた後、そう言い捨てて車に乗り込む。
よしっ! 待ってろよ、アリサ! すずか!
◇船上にて◆
「だ、誰だ手前!」
「シャークティさん!? なんで!?」
船の上。
突然現れたシャークティを前に、船上の人間は全員驚きを露わにする。
追手が来ないように、来てもすぐにわかるように船という移動手段を使った男達だったが、周りを見渡しても船なんか一隻も見当たらない。
まるで空を飛んできたかのような……そんな思いに一瞬捕らわれるも、あり得ないことだと否定する。
だが男達にとってとにかく重要なのは、この場に追手が来たこと。それだけだった。
そして。
バンッ! と、そう三度目の銃声が響き渡る。
今度は肩や腕ではなく、確実に頭を狙った。中々見れないレベルの美人だし多少もったいない気もしたが、今は余計な者はいらないのだ。
そんなことを考えつつ、自ら撃った相手を見ていた男だったが――
「んなっ!? 馬鹿な!?」
シャークティは銃弾を十字架で受け止めていた。
しかも十字架は破損せず、シャークティも衝撃によりどこか痛めたという風は無い。
どこか飄々とした雰囲気のまま、胸の前に十字架を移動させ目を閉じて祈るような仕草をしている。
バンッ! バンッバンッ! 今度はそう音を立てて複数の男たちが銃を放つ。
原理はよくわからないが、とにかくあの十字架は丈夫らしい。ならば多方向から撃てば、十字架は一つしかないのだ、どう転んでも本人には銃弾が当たる……。
そう考え、口元を緩めるリーダー格であろう男。
しかし。
「ば、化け物!? どーなってやがる!?」
いつの間にか。複数の十字架が宙に浮いてシャークティを取り囲み、男たちが放った銃弾はすべて十字架に受け止められていた。
シャークティは無表情のまま目を開ける。十字架が傾くと、銃弾はパラパラと船の上へ落下した。
「化け物、ですか……。確かに、私たちのような存在は一般人にとっては化け物かもしれません。」
少し前までの私は、その認識が足りなかったです。そう、シャークティは呟く。
何のことかわからない男達だが、銃が効かないという事実に恐慌状態に陥ったのか、それぞれが矢鱈に銃を発砲する。
しかし。
その全てはシャークティの十字架に遮られ、一つも体に届くことは無かった。
「くそっ! こうなったら!」
弾切れとなった銃を捨て、男の一人がナイフを取り出す。視線はいつの間にか壁際に逃げたすずかへ。男とすずかの間を遮るものは何もなく、何の問題もなくすずかの元へとたどり着ける。
そう判断した男は、シャークティへの警戒も忘れすずかへと走り寄る。
自分の元へ走り寄る存在に気付いたすずかは、とにかく離れるために逃げようとし――
「予想通り。実にわかりやすい行動です。」
十字架が勝手に動き、すずかに走り寄っていた男の後頭部を強打する。男はその衝撃で気を失い、他の男たちも次々と同じように気絶していった。
シャークティとすずか以外立っている者が居なくなった船上。
シャークティはとりあえず船のエンジンを切り、これ以上陸から離れるのを阻止すると、横たわったまま呆然としているアリサに向き直った。
「ハハッ……、何よ、魔法少女、って年齢じゃ……無いわね。」
「意外と元気そうね、アリサちゃん。」
でも、よく頑張りましたね。もう大丈夫ですよ。そう言い、アリサに笑いかけた。
「すずかちゃんも。もう大丈夫ですよ?」
「で、でも……、アリサちゃんの、血が……。」
一方すずかは、男たちが皆気絶して安心したのもつかの間。アリサに秘密がばれたことを思い出し、その恐怖からアリサに近づくことが出来ないでいた。
また血を凝視したら。今度こそ、アリサに嫌われるんじゃないか。
そう思い、血を見まいと目を瞑り顔をそらす。
「大丈夫よ……すずか。私を、信じなさい、よ。」
そう、アリサは途切れ途切れにすずかへと声を掛ける。
すずかは目を開き、ゆっくりとアリサを視界に入れた。
「吸血鬼だか、なんだか、知らないけど……。すずかは、すずか、じゃない。」
それに――
「このくらいの、傷なんて。魔法少女、なら、治せるんでしょ?」
「ええ。この程度――というのも語弊がありますが、問題なく治せますよ。」
だから。こっちに、来なさい。
そういい、十字架を掲げようとしたシャークティを目で抑制し、すずかを呼ぶ。
呼ばれたすずかは、ゆっくりとだが、しかし確実にアリサへと近づいて行った。
そして。
「ア、アリサちゃん……。」
「バカね、何泣いてるのよ。まるで、私が死ぬみたい、じゃない。」
涙を流すすずかをみて、アリサは言葉を続ける。
「ほら、私、いま両腕が、痛くて、起きれないのよ……。起こしてくれない?」
「う……うんっ!」
すずかはおずおずと、アリサへと手を伸ばす。
そしてゆっくりとアリサを起こし、支えとなるべくアリサの背中から抱きついた。
「血、吸いたくなった?」
「もう! アリサちゃん!」
「アハハ。私の血なら、いつでもあげるわよ。やっぱり首から吸うの?」
そんな、少女たちの。
ぎこちない、しかし昨日までとは確実に違う笑い声が、海原へとしみ込んでいった。