Graduale - 昇階唱 Ⅴ
決意の日から1週間。
俺は今、アカデミー―― ザフトの士官学校の寮にいる。
士官学校の寮は二人一部屋が基本らしく、ベットが二つ備え付けてある。簡易キッチンやシャワーもあり、基本的なルールを作れば二人の人間が余裕を持って暮らせるだけのスペースはあるだろう。
同室の人間はまだ来ていない。
まぁ、それも当然かもしれない。何せ、まだ入学式まで1週間以上もある。
生活教練校の寮暮らしだった俺は、士官学校の寮の入寮可能日すぐに入寮したのだ。私物などほぼないに等しく、私服や下着全てが少し大きめの旅行鞄一つにまとまった。
それらの整理も既に終わり、俺は一息ついて部屋を見回しながら、これまでの事を思い返した。
入隊の為の試験や検査があると身構えていた俺の下に来た返信メールの内容は意外なものだった。
それは士官学校への推薦状。
ザフトは志願制の軍だと聞いていた。俺には工業用モビルスーツ運用資格取得の件もあるので、志願したら即入隊かと思っていたがどうやら事情が違うらしい。
最初に来た勧誘メールと返信メールを見比べ、俺は自分自自身の早とちりに気づく。
返信メールを読み、いろいろ調べてみると、どうやらユ二ウス条約締結によるプラント独立に伴い、ザフトの士官学校が新設されることに決定したようだ。
以前までは、形式的には理事国の管理下ということもあり、ザフトはプラントの有様を憂う志願者が組織する民間の義勇軍という体裁をとってきた。しかし、一つの国としての独立を獲得した今、必要なのは本業を別に持つ志願兵ではなく、職業そのものが軍人である職業軍人である。国家として、国民の安全を保証し、独立性を維持するには職業軍人は必要不可欠だ。
そこで決定したのが、職業軍人を作る為の士官学校の設立である。士官学校そのものはザフトの創建と共に設立されていたが、それはどちらかというと民間からの志願兵に一通りの軍事訓練を施し、少しでも早く戦場へ送り出す為の機関という、本来の意味での士官学校とは程遠い場所だったらしい。
そういった事情もあって、これを機に、国防の為の専門的軍事教練を施された士官の育成を行う士官学校の新設が決定したようだ。
俺にはそこで、専門的軍事教練を受けた上で、士官としてザフトで活躍してほしいのだという。
ザフトはモビルスーツに乗って戦う"兵士"ではなく、ある程度の部隊指揮の能力を持った"士官"を必要としているらしい。
教練期間は1年。この期間が長いのか短いのか、軍事に明るくない俺にはよくわからない。
だが、ザフトに対する俺のもともとのイメージが、個々の能力に絶対的な自信を持ち、前線の兵士に幅広い判断を任せている、というものだっただけに、このメールの内容には驚いた。やはり、独立して一つの国として存在するようになると、国防に関する見解も変わってくるものなのだろうか。
そんなことをつらつらと思いながら、俺は士官学校への進学手続きの書類を記入して送信した。
そして返って来たのが筆記試験免除の知らせと寮の入寮手続きだった。
筆記試験は、俺が持つ工業用モビルスーツ運用資格のおかげで大半が免除され、他にも教練校で手当たり次第とった資格が効力を発揮した。教練校での成績がそのまま持ち上げられる事になり、事実上、全筆記科目免除ということになったのだ。
これには驚いた。教練校に入れるように手続きしてくれたオーブのトダカさんには本当に感謝の念が尽きない。
そういえば、プラントに発つ俺を見送りに来てくれた時、トダカさんが言っていた。俺がプラントに渡れるように手助けしてくれた人が別にいる、と。いつか、その人にも直接お礼を言いたい。
そう思いながら俺はLeafのタブレットPC― Le;Fletに送られてきたこれからのことを指示する書類に目を通した。
次は入寮手続きだ。
士官学校は全寮制なので、入学式までに入寮日を指定して入寮しなければならない。
一番近い入寮日は来週の水曜日。その日を指定して、必要書類全てを送信する。
送信完了を確認すると、すぐに俺は荷作りに取り掛かった。
それから数日間を、荷作りや教練校の退寮手続きなどに費やしていると、水曜日はあっという間にやってきた。
ザフトの士官学校があるのは奇しくも、近づかまいと誓ったディセンベル第三バイパス横の桜並木の先だった。
絢爛豪華に咲く桜を視界に極力視界に入れない様に俯き、急ぎ足で桜並木を抜ける。
門の横にある守衛室に顔を出し、警備員に入学生である事を伝え、教練校の寮でプリントアウトした書類を見せた。警備員は一瞬驚いたように書類と俺を見比べると、すぐに笑顔になって中に入れてくれた。
俺は警備員からもらった地図を見ながら、書類を渡す為に管理棟を目指した。幸いな事に管理棟はすぐに見つかり、書類を係りの人に提出する。そのかわりに、士官学校の規則や寮での規則、訓練科目の概要などのデータが入ったディスクと寮のカードキーが俺に渡された。
パソコンは学生一人にデスクトップが1台宛がわれるらしい。ありがたく思いながら、俺は寮への道を急いだ。
そうして俺は寮の部屋にいる。今までの事を思い返しながら荷物の整理をしていたら、ずいぶんと時間が経ってしまった。
時計を見ると、すでに13時を過ぎている。意外に長く作業をしていた事に驚きつつ、俺は昼食をどうすればいいのか考え始めた。
部屋には共用の冷蔵庫が備え付けてあるが、当然中身はない。
先程もらった地図を取り出し、食堂の場所を確認する。
食堂は開いているのだろうか。
寮への受け入れが始まっているのだから、食堂もきっと営業しているだろう。していますように。
そう思いながら、俺はカードキーとタブレットケースを手に取った。
***
校内の散策や、自主演習の為に業務用宇宙港に出入りする許可の申請など、諸々の手続きをしている内に、時間はどんどん過ぎて行った。
気付けば、入学式まで丁度1週間を迎えていた。この頃になると、ちらほらと同期の姿が見え始め、士官学校内もにわかに活気づき始めていた。
そして、ついにと言うべきか、ようやくと言うべきか。俺の同室者もやってきた。
そいつの名前はレイ・ザ・バレル。
レイ・ザ・バレルが部屋に入って来た時は、なんというか、そう、身に纏う空気に首を傾げた。
何かが、違う。プラントはコーディネイターの国だ。だから、目の前にいるレイ・ザ・バレルもコーディネイターであるはずなのだが――
既視感? 懐かしさ? 切なさ? 申し訳なさ?
いろいろなものが綯い交ぜになった感覚が俺を襲った。
それが一体何なのか。レイ・ザ・バレルとこの部屋でのルールを決める為に色々と話している内に気づいた。
同じ感じがするのだ。地上にいるナチュラルの親友と。
見た目は勿論、二言三言話しただけでもわかる性格も違うのに、何故か俺は親友とレイ・ザ・バレルの間に共通する何かを感じた。
その正体はいったい何なのか、皆目見当もつかず、俺は一旦、その件に関しては思考を止めることを決定した。
「それでは、同室で過ごすにあたってのルールはだいたいこんなものでいいか?」
レイ・ザ・バレルの言葉を、俺は肯定する。
「ああ」
互いに簡単な自己紹介をした後すぐに行ったのが、この部屋でお互いが快適に過ごす為のルール作りだった。ルールといっても、「互いの私物は触らない」や「洗濯物の当番」なんかの必要最低限でありきたりなものばかりだ。
「だが、本当にいいのか?私の要望ばかり通してしまったが、先にこの部屋を使っていたのは君だろう」
どうやら俺側からの要望が少ない事が気になるらしい。
俺に言わせれば、レイ・ザ・バレル側からの要望だって多い訳じゃなかった。むしろ、俺とレイ・ザ・バレルの要望が殆ど合致した為、俺側からの要望が減ったというのが正しい。
「いいよ。お、僕が言おうとしてた事、だいたいバレルさんが言ってくれましたし」
「レイ、と呼び捨ててくれて構わないと先程から言っているだろう。私と君は同期だ。気負わなくてもいい」
そう言われても、と俺は内心唸る。会って数分もしない人間を呼び捨てるなんて失礼な気がする。何より、レイ・ザ・バレルの纏う雰囲気が無駄に緊張感があるのでつい、口に吐く言葉が丁寧になってしまうのだ。
ひとしきり考え、俺はレイ・ザ・バレルに提案してみた。
「ならこうしま― あー… こうきめよう。俺と、レイとの間では敬語もなし。フランクに。普通に話す。それでいいか?」
「ああ」
俺からの提案に、レイは満足そうに頷いた。
レイは一見、無表情に見えるが、実は感情豊かなのがこの短いやりとりでなんとなくわかった。俺みたいな無表情、というよりはただ単に仏頂面なだけなんだろう。
話題も一段落着いた所で、俺はレイに提案してみた。
「レイは今日来たばかりだろ? 俺でよければ校内の施設を案内するけど必要か?」
この士官学校はそこそこ広い。俺も慣れるまでに結構時間がかかった。
「ああ、頼む。俺もこの後に施設の確認をしようと思っていたんだ」
口調は相変わらずだが、一人称が"私"から"俺"に変わっていた。
なんだ、レイも緊張してたのか。
なんだかほっとして和んだ。
***
「へぇ… レイはピアノが弾けるのか」
校内を案内する道すがら、互いの当たり障りのない話しを交わす。
ピアノが弾けると言う言葉に、俺はやっぱりと得心した。そんな顔をしてる。
「ああ。手慰め程度だがな。そういうシンは、何か楽器が弾けるのか?」
レイの手慰めがどのぐらいなのか、今度聞いてみたいと思いながら、俺は質問に答える。
「俺はそういうのさっぱり」
音楽の成績はいつも可もなく不可もなくのいたって普通のものだった。それでも、音楽を聞いたり歌ったりするのは好きだったが、楽器の演奏には興味が持てなかった。
一度、ミーアにギターを借りて弾かせてもらったことがあったけどすぐに返した。
右手と左手を別々に動かすのがかなり難しかった。慣れたら誰でもできると言っていたが、俺が慣れるには当分かかりそうだった。
ミーアはアレを弾きながら歌うのだから本当に凄い。
けど、俺のギター演奏を聴いて笑い転げていたのは絶対にゆるさない。いつか絶対に、楽器演奏でミーアを驚かせてみせる。
「あー、でも将棋や囲碁なら少しできる」
流石に、あまりにも楽器が弾けなさすぎて笑われたことを話すのは恥ずかしかったので、かわりに俺が出来ることに話題をすり替える。
「ショーギ? イゴ?」
物知りそうなレイの声音に少し不思議そうな気配が混ざる。
プラントには囲碁や将棋がないのだろうか。
「どっちもじいちゃんから教わったんだ。将棋は、まぁ、チェスみたいなもん?」
全然違う、というじいちゃんの怒鳴り声が聞こえた気がしたが、それ以外にわかりやすい喩えが思い浮かばなかった。
ごめん、じいちゃん。
「チェスなら俺も少しできるな。良ければ教えてくれないか?」
どうやらレイは将棋に興味を持ってくれたらしい。将棋も囲碁もチェスも相手がいなければ成り立たないゲームである。相手ができることは願ってもない事だ。
「いいよ。そのかわり、レイも俺にチェスを教えてくれよ。ついでにピアノも」
「? チェスは別に構わない。簡易チェスボード程度なら持ち込んでも良かったはずだからな。だが、なぜピアノも?」
うっかり口に出してしまっていた蛇足に、レイが反応した。
滑ってしまった自分の口を呪いながら、俺は答えた。
「その… 一度友達のギターを貸してもらって弾いたら爆笑されて… 何か楽器が弾けるようになって、絶対に驚かせたいんだ」
結局言う事になってしまった俺の恥ずかしいエピソードに、レイは目をぱちくりさせた。
そしてクスリと穏やかな笑みを零した。
「了解した。お前の名誉が回復できるように尽力しよう」
ククッとお腹を抱えるレイの頭を、俺は思いっきりはたいてやった。
***
俺が特に入り浸っている図書館とシミュレータールームも案内し終え、案内する場所は残り1ヶ所になった。
あって当たり前だが、あまりお世話になりたくない、そんな場所だ。
「ほぅ… シンは工業用モビルスーツの運用資格を持っているのか」
シミュレータールームを出た後はやはり、モビルスーツ関連の話しが話題の中心になる。
「うん。俺は入寮可能日からここにいるけど、今日までずっと図書館とシミュレータールームに入り浸ってた。やっぱ、工業用と軍事用だとシミュレーターも大分違うよな」
工業用と比べると、軍事用のシミュレーターで出来る事は圧倒的に多い。色々と設定をいじりながら毎日入り浸っている。最近はOSを弄ることもしだしたのだが、備え付けのマニュアルを見ながらなのでなかなか上手くいかない。
「レイも航宙科だよな? 何か特別な勉強でもしてたのか?」
確か自己紹介の時に、レイも航宙科だと言っていたはずだ。
航宙科はモビルスーツパイロットを育成するコースだ。モビルスーツパイロットは花形であると同時に、入学の為の難度も高いらしい。俺の知識は教練校でのものが大半なので、出来れば色々と教えてもらいたい。
「…… きょう、だいがモビルスーツパイロットをしていてな。その人から色々と手解きをしてもらったんだ」
歯切れの悪い言葉に俺は首を傾げた。
「レイには兄弟がいるのか?」
「ああ。兄、が、いた」
過去形で語られるそれに、俺は目を細めた。
「あ。そろそろ着くぞ」
強引に話題を変える。
互いに触れてほしくない部分は沢山ある。ましてや、俺とレイはまだ初めて会ってから1日も経っていない。そんな人間が聞いていい事ではないだろう。
レイの手を引き、少し歩調を速める。
「もうすぐ夕食だし、急ごう」
目的地に着くと、俺はレイの手を離した。
「ここが医務室だ。お互い、あんまりお世話になりたくないよな」
コーディネイターに病気は少ないとはいえ、訓練中に怪我などは付き物らしい。その治療の為の場所として、医務室はあるらしい。
そして医務室には別の役目として――
「うおっ、危ないな。ん? シンじゃないか」
俺達の目の前で扉が開き、中から人が現れる。
「こんにちは、リック先生。レイ、この人がこの医務室の主だ」
既に何度か顔を合わせた事のあるリック先生をレイに紹介する。
俺はこれから度々医務室に顔を覗かせる用事がある。リック先生とは、その旨を伝えに行った時に親しくなった。
「おお、君がシンの同室の子だね? 私はリック・マウアー。専門は―― 平たく言えばカウンセラーだよ」
そう、ここの医務室はカウンセラーを常駐させているのだ。
なんでも、訓練の最中に色々あるらしく精神的な治療を施す事案が偶にあるらしい。士官学校と言う特殊な学校であるが故に、らしい。
「ちょうど良かった。シン、今から君の所に行こうと思っていた所だったんだ」
リック先生は手に持っている袋を俺に手渡してきた。
「新しい薬だ。今日届いてね。何かあったらすぐに来るんだよ。―― レイ君も」
そう言って、先生は忙しいのか立ち去っていた。
その背を見送りながら、レイは俺に尋ねてきた。
「シン、君は、やはり何か病にかかっているのか?」
"やはり"、とつけて来る辺り、レイも薄々感づいているのだろう。
「気づいてるだろうけど… 俺の顔、表情ないだろ?」
レイが頷く。ならば、隠していても仕方がない。
「病気なんだ。心のな。俺は普通に笑ったり怒ったりしてるつもりなんだけど、顔面の筋肉が何故か動いてくれないんだ。これは、まぁ、その病気の為の薬」
俺は袋を示す。
「君は… 病であることを隠さないのか?」
ミーアから聞いた事がある。コーディネイターの中には、病気にかかる事は不名誉であるという風潮があるのだと。
病気にかからない様にコーディネイターの遺伝子は調整されている。にも関わらず病気になるなど、コーディネイトが失敗したとしか考えられない。
ウイルス性だろうが心因性だろうがなんだろうが、白い目でみられるのだという。
「隠してどうなるっていうんだ? 俺の場合は顔っていう隠しようのない場所だ。仮面でもするなら話しは別だろうけど、なんかめんどくさいし。それよりは、最初から病気のこと伝えてた方が楽だろ?」
そう、隠した所でいつかはバレる。その時に、何故黙っていたとか、色々と問い詰められるより、最初から公言していた方が楽だろう。
「病気も、俺自身― シン・アスカの一部って認識してもらってた方が、少なくとも俺はいい」
そう言うと、レイは怪訝そうに尋ねて来る。
「何故そう思う?」
なぜと聞かれても困る。
「なぜって…… 俺の家の家訓? じいちゃんからの受け売りなんだ。コーディネイト技術のおかげで解放されたけど、俺の家は遺伝性の病気を抱える血筋だったから」
豪快に笑っていたじいちゃんの事を思い出す。
いつも元気で、病気とは無縁そうに見えるじいちゃんの体には治しようのない病魔が巣食っていた。それすらも自分の一部と豪語出来るじいちゃんは本当に強い人だったのだと思う。
「…… そうか」
レイも何か思う所があるのだろう。複雑そうな顔をしている。
「気になるか?」
「いや、気にしない。病気も含めて、お前自身なのだろう?」
俺の問いに、レイは即答してくれた。
まっすぐに俺を見て来る空色の瞳に、思わず俺は俯いた。
「…… ありがとう」
俺が出会う人はどうして、こんなにも優しくて良い人ばかりなのだろうか。
喜びで溺れそうだ。
***
就寝時間――
あの後、食堂で食事をとると、俺達は早々に部屋に戻った。交代でシャワーを浴び、早々に床に着く。
隣のベットからレイの気配を感じる。
誰かの傍で眠るのは久々だった。
そのせいか、なかなか寝付けない。どうやら自分が思っている以上に、緊張も高揚もしているようだ。
そういえば、と思いだす。
ミーアにザフトの士官学校に入る事を伝えていなかった。
あの日― ユ二ウス条約締結決定のニュースを一緒に見て以来、ミーアには会っていない。
ベッドサイドテーブルに手を伸ばし、Leafの携帯を手に取る。
"ザフトの士官学校に入った。休日には歌を聞きに行けそうだけど、それもまちまちになりそう"
用件を入力し終え、俺はメールを送信しようとした。だが、何かが引っ掛かる。
俺はもう一度文面に目を通す。
「……」
目を瞬かせ、俺は文章を追加する。
" ごめん"
今度こそ、送信ボタンを押す。次に会った時が怖い気がしたが、そこはスルーしておく。
送信を確認した後、ベッドサイドテーブルの引き出しからイヤホンを取り出すと、Leafの携帯と繋ぐ。
イヤホンを耳に装着し、音楽を再生する。
流れて来る優しい調べ。
ミーアの歌。
俺は枕の下からマユの携帯を取り出すと、音を立てない様にして開く。
待受画面では、相変わらず僕達が楽しそうに笑っている。
「父さん、母さん、マユ――」
僕、頑張るから。
絶対に、戦う力を手に入れて見せるから。
だから見てて。
心の中で呟く。
"何を" と問う内なる声は聞こえないフリをした。
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