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No.32064の一覧
[0] 【チラ裏より移転】おもかげ千雨 (魔法先生ネギま!)[まるさん](2012/03/24 23:09)
[1] 第一話「『長谷川千雨』と言う少女」[まるさん](2012/03/15 23:21)
[2] 第二話「キフウエベの仮面」[まるさん](2012/03/15 23:27)
[3] 第三話「少女と仮面」[まるさん](2012/03/16 13:47)
[4] 第四話「大停電の夜」[まるさん](2012/03/16 13:49)
[5] 第五話「モザイク仮面」[まるさん](2012/03/17 22:07)
[7] 第六話「君の大切な人達へ(前編)」[まるさん](2012/03/17 22:41)
[8] 第七話「君の大切な人達へ(後編)」[まるさん](2012/03/17 23:33)
[9] 第八話「今日から『明日』を始めよう」[まるさん](2012/03/18 22:25)
[10] 第九話「関西呪術協会」[まるさん](2012/03/19 20:52)
[11] 第十話「彼らの胎動」[まるさん](2012/03/20 21:18)
[12] 第十一話「京都開演」[まるさん](2012/03/21 23:15)
[13] 第十二話「夜を征く精霊」[まるさん](2012/03/23 00:26)
[14] 第十三話「恋せよ、女の子」[まるさん](2012/03/23 21:07)
[15] 第十四話「傲慢の代償(前編)」[まるさん](2012/03/24 23:58)
[16] 第十五話「傲慢の代償(後編)」[まるさん](2012/03/26 22:40)
[17] 第十六話「自由行動日」[まるさん](2012/04/16 22:37)
[18] 第十七話「シネマ村大決戦その①~刹那VS月詠~」[まるさん](2012/04/24 22:38)
[19] 第十八話「シネマ村大決戦その②~エヴァンジェリンVS呪三郎~」[まるさん](2012/05/01 22:12)
[20] 第十九話「シネマ村大決戦その③~千雨VSフェイト~」[まるさん](2012/05/06 00:35)
[21] 第二十話「そして最後の幕が開く」[まるさん](2012/05/12 22:06)
[22] 第二十一話「明けない夜を切り裂いて」[まるさん](2012/05/21 23:32)
[24] 第二十二話「【リョウメンスクナ】」[まるさん](2012/06/05 00:22)
[25] 第二十三話「『魂』の在り処」[まるさん](2012/06/14 22:30)
[26] 第二十四話「サカマタの仮面」[まるさん](2012/06/21 00:50)
[27] 第二十五話「鬼達の宴」[まるさん](2012/07/05 21:07)
[28] 第二十六話「『よかった』」[まるさん](2012/07/16 20:06)
[29] 幕間「それぞれの戦場、それぞれの結末」[まるさん](2012/08/17 21:14)
[30] 第二十七話「涙」[まるさん](2012/08/26 14:27)
[31] 第二十八話「春になったら」[まるさん](2014/08/10 15:56)
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[32064] 第十五話「傲慢の代償(後編)」
Name: まるさん◆ddca7e80 ID:e9819c8b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/26 22:40
――『煙吐く鏡』は、いつもそこで見ている。



「ふむ、ここまで来ればいいだろう」

エヴァンジェリンはそう言って動かしていた足を止めた。
その後ろには息一つ乱さぬ、無表情な千雨がいる。
ちょうど監視カメラの死角に当たるこの場所は、モニターされる心配もない。

「こういったゲームにお前が参加するとは思わなかった」

千雨がそう言うと、エヴァンジェリンは鼻を鳴らした。

「ふん。それはこちらのセリフだ。お前の普段を知っている人間からすれば、あり得んぞ?」

「……言わないでくれ」

千雨は、エヴァンジェリンの言葉に少し疲れたように返した。

「まぁ、たまには何も考えず、馬鹿をやるのもいい物だ。後になって振り返れば、これもきっといい思い出になる」

「思い出、か。レイニーデイも言っていたな」

「そうだな。先に続く自分を作るためには、どうしても必要なものだ。それが良しにしろ、悪しにしろ、な」

その言葉に、千雨は少し黙り込んだ後、呟いた。

「先に進めなくなる思い出だって、ある」

「…………」

今度はエヴァンジェリンが黙り込んだ。
千雨を見ていると、無表情の内にも、ほんの少し揺らぎのような物を感じる。それが千雨の感情の欠片なのかは、わからない。でも、そんな揺らぎが、不意に一切消え失せる時がある。
『過去』。
それに触れた時、千雨の顔は、再び強固な仮面で覆われる。

(何があったのだろうな、お前に)

エヴァンジェリンは思う。
エヴァンジェリンにとって、千雨は恩人であり、『友』だった。向こうがどう思っているかは知らないが、エヴァンジェリンにとって、それは最早揺るぎない事実であった。
千雨のおかげで、エヴァンジェリンはまた光射す方へ向って、歩みを進める事が出来るようになった。
エヴァンジェリンは、千雨によって救われたのだ。
だからこそエヴァンジェリンは、今度は自分が千雨を救ってやりたいと思っている。その顔を覆う仮面を外し、心を閉ざす氷を溶かして、暖かい場所へ千雨を連れて行ってやりたかった。
だが、今現在の状態では、それは叶わぬ事だろう。

(仮面越しでは、見えない物もあるのだぞ、千雨)

エヴァンジェリンがそんな風に物思いに耽っていると、千雨が声をかけてきた。

「なぁ、エヴァンジェリン」

「ん?おお、何だ?」

「さっき話しに出したレイニーデイだが、何処に行った?」

「何?」

辺りを見回したエヴァンジェリンは、つい先程までそこにいたはずのパートナー、ザジ・レイニーデイの姿がない事に初めて気づいた。

「……何をしに来たんだ、あいつは」

頭痛がするようにこめかみを押さえながら、エヴァンジェリンはため息混じりに言った。

「お前があいつを誘ったのか?」

「いや。私は初め、茶々丸と一緒に参加するつもりだったんだが、あいつが私の袖を引いて来た物だから、ノリで」

「そうか」

千雨とザジは同室の間柄だが、そこに会話はほとんどない。ザジは部屋を空ける事が多く、居たとしてもお互い極端な程の無口・無表情同士。何か能動的な出来事が発生する事は、まずない。
居るのか居ないのか分からない、不思議な同居人。それが、千雨にとってのザジ・レイニーデイだった。

(……あの道化の化粧の下には、何があるのだろうか)

千雨はふと、そんな事を思った。

「どうした、千雨?」

「いや」

千雨は、とりあえずザジを思う事を中断する事にした。

「これからどうするつもりだ、エヴァンジェリン。ネギ先生にキスしに行くのか?」

それを聞いた途端、エヴァンジェリンの顔が大きく顰められた。

「何が悲しゅうて10歳のガキに乙女の唇を許してやらなきゃならんのだ。そういうお前はどうなんだ?」

「私はいいんちょのような特殊な性癖ではない」

さらりとあやかをこき下ろした千雨であった。

「ふーん……。まぁいい。私も適当に場を引っ掻き回したら部屋に戻るつもりだったからな。ただ、このまま参加を続けるなら、少し注意した方がいい」

「どういう事だ?」

不意に口調を低くしたエヴァンジェリンに、千雨が問う。

「ゲームが始まってから、この旅館全体に変な魔力の流れがある。何者かが、何か仕掛けているのかもしれん」

「関西呪術協会か?」

「わからん。今の私は色々と封じられているのでな。その辺の感覚が曖昧なのだよ」

千雨は、そう言ったエヴァンジェリンの言葉に首を傾げる。

「お前に掛けられていた呪いはもうないはずだが」

「ああ、呪いじゃないよ。私の魔力や妖気を抑えるための封印具の事さ」

エヴァンジェリンはそう言って、千雨に手をかざした。その小さな手には、いくつかの指輪がはめられていた。

「これらは全て封印具だ。もっとも、ここに至るまで、いくつかはもう、私の力に耐え切れなくなって壊れてしまったがな」

後、と言いながら、エヴァンジェリンは袖を捲って腕を千雨に見せる。そこには、3本の黒い線が周を描いて走っていた。

「これは制約の黒い糸。自分や、相手の魔法を封じる事ができる魔法だ。ここに来るにあたり、爺が掛けたものだ。この線一本に付き、一日分の効力を持つ」

一日過ぎたから、もう一本は消えている、とエヴァンジェリンは言う。

「本来ならば、修学旅行の日程に合わせて5日分のはずだったのだが、爺でも4日が限界だった」

どうやら、エヴァンジェリンの魔力が強すぎて、それ以上の封印を掛けられなかったらしい。

「何故、そんな縛りを?」

「この京都には、遥か昔から伝わる怪物や呪い、それを抑えるための繊細な術式などが幾重にも張り巡らされている。麻帆良程ではないが、ここも街全体が結界に覆われているのだよ。私のような大妖がそんな場所を無防備に訪れて色々と刺激しないように、こういう措置が取られたのさ」

千雨の問いに、少しのため息交じりにエヴァンジェリンが言う。

「私としても余計な揉め事などで、折角の修学旅行が台無しになるのは避けたかったからな。甘んじて受けたのだ。まぁ、最後の5日目は帰るだけだし、私が自力で何とかするさ」

そう言って、エヴァンジェリンは肩をすくめた。

「おっと、話がそれたな。この旅館に巡る魔力だが、攻撃的な物は感じないが……」

「やはり気になるか」

「それが正体不明ともならば、なおさらな。だが、こんな事で態々封印を外す気にもならん。まぁ、注意しようという程度だ」

「そうか」

と、その時、視界の端に動く影。
千雨とエヴァンジェリンがそちらを向くと、廊下を走りぬけていくネギの姿があった。

「先生か」

「やれやれ、今度は何をしでかしたか」

二人はそう言いながら、ゲームの性質上、とりあえずネギを確保しようと動き出した。後はあやかにでも押しつければ、このゲームも終了である。
ネギの通った廊下に出ると、そこには何故かまだその場でうろうろしているネギの姿があった。

「?」

何をしているのかと首を傾げた千雨だが、その時、千雨を見つけたネギが走り寄ってきた。

「あの、千雨さん」

近づいたネギは千雨に呼び掛けた。

「何でしょうか、先生」

静かに応じた千雨に、ネギはこう言い放った。

「あの……、チューしてもいいですか?」

「ぶっ!?」

千雨の後ろでそのやり取りを聞いていたエヴァンジェリンが、驚愕のあまり噴き出した。そして千雨は。

「そうですか。すみません、お断りします」

至極あっさりと断っていた。

「そう言わないでください」

「いえ、遠慮します」

「お願いします」

「結構です」

延々と二人のやり取りは続く。それに焦れたエヴァンジェリンがネギに怒声を上げる。

「アホか、貴様は!生徒相手にいきなり何をほざいてるんだ!」

そこで、ネギの視線はエヴァンジェリンに移った

「じゃあ、エヴァンジェリンさんでも……」

「じゃあって、何だ!じゃあって!!」

あまりと言えばあまりの一言に、エヴァンジェリンの鉄拳がネギに突き刺さった。
そのままふっ飛ばされながら、ネギは一言。

「やぎでした」

直後、そのネギらしき物体はその場で爆発した。
その爆風に紛れて、紙でできた人型らしきものがひらひらと舞い踊る。

「何だ、これ」

千雨の呟きは、尤もであった。



ロビーは混乱の極致にあった。
そこには、ネギの姿が3つ。

「ええ~!?ネギ先生がいっぱい~!?」

逃げたネギを追ってきた鳴滝姉妹が、その光景に驚愕する。

「気を付けてください!恐らく朝倉さんが用意した偽物です!」

同じくロビーに来ていた夕映が注意するが、その横でロビーの光景を見ていた雪広あやかはまるで聞こえていない様子で、目を輝かせている。

「よーし、とにかくどれでもいいからチューするアル!」

即決即断の古菲は、楓を伴い、手近に居たネギを捕まえ、その頬に口付けた。が、その瞬間。

「えーと、では任務完了と言う事で。ミギでした♡」

ネギ、もといミギは爆発した。後には、紙型と黒く煤けた2班のペアの姿が残る。

「あっ、こら、なんだこの煙は!?」

その時、3階に行っていた新田教諭が騒ぎに気付き戻って来て、ロビーの惨状に怒りの声を上げる。

「「チュー♡!」」

「ぬごっ!?」

だが、そんな新田教諭に何故か膝を食らわせながら、ネギ達は逃げた。

「う~ん……」

小さく唸って気絶した新田教諭に、夕映達が枕を後頭部に敷いてやる。

「あわ、あわわ、に、新田先生がー……」

「こうなったらもう後には引けませんね」

冷や汗をかきながら夕映は言う。
そうこうしている内に、再び爆発音が響く。

「どうやら偽物にキスをすると、爆発するようですね。……どういう仕組みかやっぱりわからないですが」

それを見ていると、あやかが最後のネギを優しく捕えた。

「ああ……!いいんちょさんが最後のネギ先生をー……」

「大丈夫ですよ、のどか。あれは恐らく――」

悲しい声を上げるのどかを夕映は宥める。そうして事態を見守っていた瞬間、かなりディープな口づけを受けた最後のネギが爆発した。

「なっ……。そんなバカな……」

悪役の最期のようなセリフを吐きつつ、あやかが黒焦げになって倒れた。

「あ、あれー?本物のネギ先生はー?」

「あの真面目なネギ先生が、こんなアホなイベントに参加するとは思えません。だから、本物は別の場所にいるはずです!」

そう言って周囲を見回す夕映。そうしながら、夕映はつい少し前の事を思い出して、顔を赤らめた。

(それにしても、私とした事があのように押し切られてしまうとは……。のどかにああ言っておきながら、何とアホな、いえ愚かな……!)

「どうしたの、ゆえ?」

「い、いえ。何でもないですよ!?」

のどかに声を掛けられた夕映は、慌てて湧き上がる雑念を振り払った。
と、そこで、外から戻ってくるネギの姿が目に入った。

「あっ」

「いたー!」

そして、何も知らないネギがのんびりと戻ってきた。

「ただいまー。あれ、何か騒がしいような?」

そう言いつつ辺りを見回すネギを見ても、のどかの足は動かない。昼間の告白の件が、後を引いているのだ。

(もし断られたらどうしよう)

そんな不安な気持ちで、のどかの胸は詰まる。
後少しの勇気を出せない親友を見て、夕映は文字通りその背中を押した。

「ホラ、のどか」

背中を押されたのどかが一歩前に出る。その動きに気付いたネギが、のどかの方を見て瞬間的に顔を赤らめる。

「あ……、宮崎さん……」

そしてのどかもまた、顔を真っ赤にする。

「ネ、ネギ先生……」

「あの、お昼の事なんですけど……」

いきなり核心を突いて来たネギに、のどかは大慌てになった。

「い、いえ!あの事はいいんですー!聞いてもらえただけで……!」

だが、目の目で慌てるのどかを置いて、ネギは続ける。

「すいません、宮崎さん……。僕、まだ誰かを好きになるとか、よくわからなくて……。い、いえ、み、宮崎さんの事は勿論好きです。で、でも、僕クラスの皆も、好きで、その、そーゆー好きで、それに、あの、生徒と教師ですし……」

喋っている内にこんがらかって来たのだろうか、ネギの言う事はだんだんと支離滅裂になっていく。

「だから、僕、まだ宮崎さんにちゃんと返事できないんですけど……」

その言葉に、のどかは少しだけ寂しそうな顔になった。だが、次に続くネギの言葉に、顔を明るくする。

「あ、あの、と、友達から……お友達から、はじめませんか?」

「――はいっ♡」

にっこりと笑うのどかの横で、夕映は「まぁ、まだ10歳ですしね」と、ため息をついていた。

「全然聞こえないよー」

「っていうか、私達に全く気付いてないし」

ロビーに正座していた4班のまき絵と裕奈が、ネギ達に気付かれぬまま静かな聴衆と化していた。

「そ、それじゃあ、戻りましょうか?」

「は、はいー」

すっかり和やかな雰囲気になった二人を見て、夕映は少し考えた後、不意にのどかの足を払った。

「あっ」

当然躓くのどかを抱きとめようとしたネギは、不意だったためか目測を誤って、別の場所でのどかを受け止めてしまった。
すなわち、唇と唇とで、である。
チュッ、っと小さな音を立てて合わさった唇をすぐに離して、二人は真っ赤になった。

「あっ、す、すすすす、すいませっ……」

「い、いえ、ぼ、僕の方こそ……」

互いが謝りあう中で、それをモニターしていた3-Aの面々が、ゲームの勝者が決まった事に歓声を上げる

「本屋ちゃんの勝ちだー!」

「優勝宮崎のどかー!」

「だ、誰か賭けた奴いるの!?」

「えへへへー♡」

「さ、桜子!?またあんたかー!?」

そのように大騒ぎなっているのも知らず、ネギとのどかはまだ謝りあっている。

(よかったですね、のどか)

夕映は、何故か感じるほんの少しの寂しさと共に、親友を祝福した。
その時、夕映の視界にいつの間にそこにいたのか、ロビーの端に立っている千雨とエヴァンジェリンの姿が映った。
エヴァンジェリンは何があったのか苦々しげな顔をして。
そして千雨は、いつも通りの無表情。
だが、『長谷川さんマスター』を目指す夕映の目には、今の千雨は。
――酷く怒っているように見えた。



ロビーに出た千雨とエヴァンジェリンは、丁度ネギとのどかがキスする場面を目撃した。

「いいフォローだ。綾瀬」

上手く親友の恋を一歩進めた夕映を、千雨は称賛する。
だが、その微笑ましいはずの光景に、エヴァンジェリンは眉根を寄せている。

「あれは……!ちっ、そうか、あの小動物が……!」

「どうした、エヴァンジェリン」

思い切り舌打ちするエヴァンジェリンを見やり、千雨が尋ねる。

「この旅館を覆っていた魔力の流れ……。その正体が判った」

「何?」

「仮契約《パクティオー》だ。この旅館のどこかに、そのための陣があるはずだ。くそっ、封印されているとはいえ、なぜもっと早く気付かなかった!」

「仮契約。確かそれは、魔法使いの従者を作るためのものだったな。当人の知らぬ間に、そんな事をしてもいいのか?」

「いいわけあるか!魔法使いの従者になるという事は、それだけ裏の危険に近づくという事なのだぞ!何の覚悟もない者を勝手に従者にするなど、していい筈がない!」

「――ネギ先生は、この事を知っているのか?」

「知らんだろうな、あの様子では。坊やの使い魔のオコジョが勝手にやった事だろう。それに、このゲームの主催者である朝倉和美も無関係と言う事はあるまい」

「そうか」

そこまで聞いた時、千雨は不意に踵を返した。

「あっ、おい、千雨!?」

慌ててエヴァンジェリンがその後を追うが、曲がり角を曲がった所で、千雨の姿はさっぱりと消えていた。



「大掛かりだった割には、情けねぇ成果だが仕方ねぇぜ!」

「よっしゃ、ずらかるよ、カモっち!」

モニタールーム代わりだった洗面所から、風呂敷包みを背負った朝倉和美と、ネギの使い魔であるオコジョ妖精、カモが飛び出してきた。
事がばれる前に、迅速のこの場から去らねばならないからだ。

(すまねぇな、兄貴!でもこれも、兄貴のためなんだ!)

ネギが生徒を大切にしている事は、使い魔であるカモも承知している。故にその生徒を勝手に従者にした事を心の中で詫びながら、それでも自己の行動をネギのためとカモは割り切った。
だが、その傲慢な考えに、罰が下る。


「アルベール・カモミール」


その声がカモと和美の耳に飛び込んできたのは、いざ逃げようとしたその瞬間であった。
慌てて振り向いたその先に、長谷川千雨が立っていた。

「ち、千雨ちゃん……?」

「は、長谷川の姐さん……!」

和美は突如現れた千雨に驚き、カモはいきなりの危険人物の登場に冷や汗をかいた。

「何故、クラスの者達を巻き込んだ」

千雨が静かに問う。その視線の先には、カモが固定されている。

「な、何を言って……」

「仮契約」

「!?」

「魔法使いの従者を作るための儀式。お前の主導で行われる。そうだな?」

「あ、ああ」

「……神楽坂は、その立場に覚悟を持って飛び込んだ。だから、その選択を私はどうこうは言わない。ならば、宮崎は?あるいは、それ以外の生徒は?」

「あ、兄貴のためなんだよ!」

静かな言葉の中に秘められた何かに気圧されたのか、カモが言い訳をし始める。

「き、京都に来てから厄介事ばかりだ。こ、このままじゃあ、兄貴が大怪我しちまうかもしれねぇ!だ、だから」

「だから、何も知らぬ者をネギ先生の盾にしようと?」

「そ、それは……」

千雨はそこで、小さくため息をついた。

「……お前はネギ先生の使い魔だ。先生の事を一番に考えるのは仕方がないのかもしれない。だが、それとこれとは話が別だ。自分のために生徒が傷ついたその時、ネギ先生もどれほど心が傷つくか、考えた事はあるのか?」

「う……」

カモは最早言い訳もできないほど追いつめられていた。和美もまた、千雨から発せられる得体のしれない圧力に黙り込んでいる。

「己の目的のために他者を危険に巻き込み、、あまつさえその正当性を仕えるべき主に転嫁しようとしたその傲慢の代価は、支払わなければならない」

千雨はそう言うと、懐から1枚の仮面を取り出した。

「な、何あれ……?」

「ひっ……」

初めて見る千雨の「仮面」に、和美は怪訝な顔をし、その力を知るカモは真っ青になって小さく悲鳴を上げた。

『テスカトリポカの仮面』

石造りの仮面を装着した千雨が告げる。

『アステカ文明の神、テスカトリポカの仮面は、別名【生贄の仮面】と呼ばれる』

「ま、待ってくれよ、姐さん」

『その年に選ばれた者はこの仮面を被り、1年を通して神の化身と崇められる。どんな贅沢もわがままも、その一年は許される』

仮面越しの視線に縫い付けられて、カモも和美も金縛りにあったかのように動けなかった。

『そして一年間神の化身を演じたその者は、最後には収穫を祈願する祭壇に奉られ、その心臓をテスカトリポカ自身に捧げられる』

千雨の目が、妖しく光った。



気がつくと、カモは石でできた祭壇のような場所に寝かされていた。特に拘束されている訳でもないのに、その両手両足は何故か動かない。

「な、なんだよ、ここ!?」

周囲を見回すカモは、自分の周りに大勢の人間がいる事に気付いた。どの人間も、日本人にはありえない肌の色をし、簡素な服や獣の牙や爪、鳥の羽根などで来た装飾品を身につけている。

「た、助けてくれ!」

カモはそう呼びかけるが、周囲の人間は誰もそれに応えず、歓声を上げてカモを見つめている。
やがて、一人の仮面をつけた男がカモの横たわる祭壇に歩み寄って来た。その手には、黒く光る黒曜石で出来たナイフが握られている。

「お、おい、何だよ。俺っちに何するつもりだよ!」

カモは喚くが、男は一切取り合わない。やがて、男は黒曜石のナイフを静かに振り上げた。
これから何が起こるのか、そして自分が何をされるのか朧気に察したカモは絶叫を上げる。

「や、やめてくれぇっ!!お願いだよぉっ!!」

だが、無情にも、ナイフは勢い良く振り下ろされる。
カモの心臓目がけて。

うわぁぁぁあぁぁあぁぁぁああああぁぁぁぁああぁっ!!!!



「――っち!カモっち!どうしたのよ!」

和美の言葉に我に返ったカモは、慌て辺りを見回す。そこは、元いたホテルの旅館の廊下だった。
カモは、先程体験した出来事を思い出す。幻、と言うには、あまりにもリアルすぎた。周囲の熱気、振り上げられたナイフの輝き。そのすべてが、本物としか思えなかった。

「カモ」

「ひっ!?」

不意に掛けられたその声に、カモは跳び上がって驚いた。見れば、先程の仮面を手にした千雨がそこに立っていた。

「ネギ先生に免じて、今回は見逃す。但し、宮崎が望むならば、仮契約は解除しろ」

「は、はい……」

「そして、もう二度とこういう事はするな。さもなくば、この仮面が、お前の『顔』になる」

千雨はそう言って、手にした『テスカトリポカの仮面』を掲げた。
その時、カモは確かに見た。
石で出来た筈のその仮面が、こちらを見て、にたりといやらしく目元を歪ませたのを。
そしてそれを認識した瞬間、カモは泡を吹いて気絶した。



「な、何がどうなってんの……?」

和美は混乱の極みにあった。
手の中には、泡を吹いて気絶するカモがいるが、それすらも和美にはどうしたらいいのか判らない。

「朝倉」

「は、はいぃっ!」

今度は自分に向けて放たれた千雨の声に、和美は冷汗をかいた。目の前にいる茫洋としたクラスメートは、どうやら只者ではないらしい。

「ジャーナリスト志望のお前が、魔法を知り、深く関わろうとするのは当然なのだろう。だが、こちら側は、危険な事ばかりだ」

「……う、うん」

「好奇心は猫を殺す。身を守る術も何もないならば、これ以上関わるのはやめた方がいい。尤も、最後に決めるのは自分の意志だが、な」

「ち、千雨ちゃんも、魔法使いって奴なの?」

恐る恐る和美が千雨に尋ねる。そんな和美に、千雨は小さく頭を振った。

「いや、私も魔法を知って、少ししか経っていない。ただ―」

「ただ?」

「――私は、『化け物』だからな」

そう言って、千雨は静かにその場を立ち去った。
後に残された和美は、冷たく濡れた背中に身震いしながら、大きく息を吐いた。

「こ、怖かったー……」

そう言いながら、和美は先程の千雨の言葉を思い出す。

(最後に決めるのは、自分の意志、か……)

思えば、自分は魔法という物をまだ何も知らないに等しい。きっとそこには、千雨の言う通り、常識では考えられない危険があるのだろう。
だが。

「ここで退いちゃ、ジャーナリストの名が廃るよね……!」

それでも和美は関わる事を今選んだ。無難に生きるつもりでは、ジャーナリストは務まらないと、和美は考えていたからである。

(そのためにも、明日はネギ先生やカモっちに、もっと詳しい話をちゃん聞かないとね)

情報は、時として己の運命をも左右する。それを疎かにしていた和美は、密かに反省する。

「まぁ、取り敢えず今日の所は、それなりに儲かったって事で、良しとしますか」

「ほほう。なるほど、お前が主犯か、朝倉。」

「へ?」

怒りを押し殺したその声に振り向いた和美は、がチリと固まった。
そこには、文字通り『鬼』のような顔をした新田教諭が立っていた。

「に、新田先生……?」

「あーさーくーらー……!」

「ぴ、ぴぎぃぃぃっ!」

その形相に和美が悲鳴を上げた瞬間、新田教諭の凄まじい怒声が館内に響き渡った。
和美への天罰は、こんな感じで下されたのであった。



「なんで私がこんな目に……」

あの後、復活した新田教諭に運悪く捕まったエヴァンジェリンは、その他のクラスメートに交じって正座させられていた。

「ううっ、千雨め!まんまと逃げおって、覚えておれよ!」

「うるさいぞ、マクダウェル!」

「ひぃっ!」

半泣きになりながら、エヴァンジェリンの苦行は続く。

「ああ、マスター。なんて御労しい」

「アハハハハハハハ!超情ケネェー!超ウケルー!」

画面に映るエヴァンジェリンに、茶々丸はおろおろとし、チャチャゼロは腹を抱えて爆笑していた。
ちなみに、その後ろでは、いつの間に戻って来たのか、ザジ・レイニーデイが布団に潜り込んでぐぅぐぅと寝ていた。
この夜、参加者の中で正座を逃れたのは、ザジと千雨だけであった。



【あとがき】
後編終了です。
傲慢の代償を支払ったのはカモさんでした。
次回からは自由行動。色んな人達が色んな所で何やら致します。
それでは、また次回。


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