バーン
倉庫に乾いた音が、響いた。
この世界のジュリオは、よほど短気だったのかせっかちだったのかワールド・ドアの前で撃たれた。
――くそっ、いてえじゃないか
自分の脇腹に熱いものを感じつつ、前に倒れようとしながらも後ろに振り向いた。
そこに、見えたのはにこやかに立つ教皇ヴィットーリオと拳銃を持つジュリオが見えた。
――ま・・・て・・。
才人は手を伸ばしたが、そのままワールド・ドアの向こうに落ちて行った。
「せっかちですね、ジュリオ。もしかしたら聖戦に協力できたかもしれないのに。」
「いいえ、ここで戸惑うようなら聖戦はおぼつかないです。
それなら、ヴァリエールが新しい使い魔を呼べば済むことです。
それに、新しい使い魔が必要となるのは“死”なんですから。」
「まあ、いいでしょう。」
こうして、教皇とジュリオの会話は終わった。
だが、ワールド・ドアに入った才人の運命は大きく変動していた。。
「ハァハァッ・・・。」
才人は雨に打たれていた。
才人が飛ばされた場所は才人自身でも分からない場所であった。
「ハァハァッ・・・・。」
とにかく少しでも歩いてみれば分かると思い歩こうとするが、
雨の上、脇腹の傷により才人の意識はもうろうとしていて辺りは
よく分からなかった。
「ハァ・・・ハ・・・ァ・・・。」
しばらくしてどれほど歩いただろうが、とうとう地面の上に倒れ出した。
――冷めてぇ。俺はここで死ぬのかな。
ルイズにも別れを言えず。母さんにも会えずに。
才人はぼんやりする意識でそんなことを考えていた。
――思えば後悔することが多かった人生じゃないか。
突然使い魔になれと言われたり、決闘を申し込まれたり
7万の軍隊に突っ込んだり、エルフと対決したりと様々なことがあったな。
才人は今までの人生を振り返るかのように走馬頭がよぎった。
――それでも
だが、才人は
――ルイズとともに居たかったな。
それだけは確信持って言える事だった。
――ふぅ、そ・・の・・物語・・の果・・・てが・・・これ「あなた、あそこに人が倒れています。」だ・・れ・・。
すると才人の耳に他人の声が聞こえた。
「おお、君シッカリしなさい。」
「とにかく急ぎましょう。」
――あ・・・な・・た・・・・が・・・・た・・・は・・・。
それっきり才人の意識は失った。
ちゅんちゅん
「う・・・・ん・・・。」
周りに聞こえる鳥の声に才人の意識は目が覚めることができた。
目を開けた才人はまず、視界に入ったのは木の天井であった。
「知らない天井だ。」
そして、ゆっくりと体を起こすとそこは、何も知らない民家の部屋の様だった。
――ここは一体どこ何だろう
ぼんやりした様子で考えていると、一枚の襖が開いた。
「あっ、目が覚めましたか。あなたーお客様の目が覚めましたよ。」
そこに入ってきたのは一人の女であった。年齢はおよそ40代だろう。
「おお、目を覚めましたか。」
続いて入ってきたのは50代過ぎた男であったが
その眼の奥にある輝きは鋭いものであった。
「体の具合はどうかな。」
才人が茫然としていると、先ほどの男から声掛けられた。
「あっ・・・。は・はい、大丈夫です。すっかり具合は良くなりました。」
才人は慌てながらも返事をする事ができた。
「あのぅ、どうして俺は此処にいるのでしょうか?」
才人が気になったことを聞く
「ん?おお、そうだ、君が私の家の前に倒れていたからな。
近寄ってみたら、傷があるわ、血が出てるわ、熱があるわで、大変だったぞ。
君は一週間も眠っていたぞ。」
男が返事した。
「そうですか。ありがとうございました。」
才人は感謝の言葉を出す。そして、大事なことを思い出した。
「すいません、名前は何ですか?」
そう、名前をまだ、聞いていなかったのだ。
「わしの名前か?わしの名前は冬木昭三じゃよ。そして、女房の」
「照子です。」
それぞれの男と女の名前が分かった。
「俺の名前は平賀才人です。」
こうして、才人がこれからお世話になる冬木家の邂逅が終わった。
「さてっと、これにて一見落着したところで軍令部にいこうかの。」
「あなた、これから行くのですか?」
才人の耳にそんな会話が入ってきた。
――軍令部だって?
聞き慣れない単語だった。
しばらくすると、会話の続きが入ってきた。
「ああ、政府は支那事変を終わらせたいようだが、陸のアホどもが拡大する一方だ。
その時に備えて軍令部に行かねばならん。」
「そうですか。お気をつけて。」
――し・・な・・・事変だって・・・?
才人は信じたくないという思いから、照子に質問した。
支那という名称は、昔の中国の呼び方で、現代はあまり呼ばれなくなったはずだ。
更に支那事変は日中戦争の別の呼び方だったはずだ。
「すいません、照子さん」
「うん?なんです?」
返事をする照子。
「こ・・・こと・・今年は・・何年ですか?」
才人は“聞くな聞くな”と頭の警鐘から振り切るとかろうじて聞くことができた。
「変なことを聞くね?今年は昭和11年だよ。」
照子から絶望的なことを言い出した。
「しょ・・う・・わ・・・だ・・・と・・・・。」
そう才人は、自分の世界に帰ることなく、自分の愛した人がいる世界ではなく
自分の過去の世界である昭和に飛ばされたのである。
才人がこの世界に導き出されたのは、運命か・偶然か・必然かそれは誰にも分らなかった。