休日。
「ふんふんふーん♪」
千雨は山のほうの空を気分よく飛んでいた。
飛ぶために羽を出してみたら毛や瞳の色が青系統に変化したので、服装もチルノ時代に着ていた物によく似た、白いシャツの上に青いワンピースにした。
さすがに下から丸見えは勘弁なのでジーパンを着用している。伊達メガネは外して、リボンを頭につけた。色は迷ったが青にしておいた。
「ケロちゃんスイスイすーわこー♪ あー、あとは弾幕ごっこの相手でもいればなぁ」
気分が乗ってきたので全方位に氷弾を放ってみる。どかーんと。
パカンッ!
「もぎゅっ!?」
妙な音がしたので振り返ってみれば、弾を食らったネギが落ちていくのが見えた。
「……失敗した」
「いや、ホントすみません」
「いえいえ、悪気があったわけではないんですから」
悪気無しにはた迷惑な騒動を起こしてきた面々を知っている千雨は、悪気がなかったから許されるもんでもないと土下座しておいた。
「で、先生も空中散歩ですか?」
「え? なんで僕が先生だってわかるんですか?」
不思議そうなネギの顔を見て、ちょっと不安になった千雨は聞いてみた。
「……えーと、私が誰だか分かりますか?」
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。まだ未熟ですが魔法使いのネギ・スプリングフィールドです。妖精さんのお名前は?」
「……チルノです」
「チルノさんですか。素敵なお名前ですね」
どうやらこのお子様教師、本気で気が付いていないようである。
「実は僕、逃げてきたんです」
訂正する間も無しに話が続けられた。
「えーと、何でまた?」
「エヴァンジェリンさんっていう真祖の吸血鬼から逃げてきたんです。僕がいると皆さんに迷惑がかかると思って……」
「でも真祖とかいっても結局は吸血鬼ですよね?」
「えっ」
「えっ」
どうやら認識にかなり齟齬があるらしい。
「六百万ドルの賞金首……」
「はい、惨敗してしまって……」
「……てっきり先生が懲らしめたから二日も保健室登校してたのかと」
「えっ」
「いや、なんでもないです」
そこにガサガサと物音がして、現れたのは長瀬楓。
「おや、そこにいるのはネギ坊主と……」
なぜか必死に千雨を体で隠そうとするネギ。
「あうあういや違うんですこの方はえーとなんというか――」
「……妖精!? まさか本当にいるとは!」
「あああああああ、ばれちゃったあぁ」
ガックリしているネギと楓を見て、千雨は本当に気が付いていないのか確かめるべく声をかけた。
「あー長瀬、これはだな……」
「なんと! なぜ拙者の名前を!?」
ネギのほうを見たので、千雨もネギのほうを向く。
ジェスチャーで違う違うとネギが否定。
「ネギ坊主が教えたわけでもない!? 本物!」
千雨が目を見開く長瀬楓を初めて見た瞬間であった。
もしかして誰にも気が付かれないのだろうかと不安になる千雨。
「すみません、ちょっと失礼します」
「えあっ!? ちょっとチルノさん。チルノさーん!!」
「ゆえゆえ! 妖精さんが私の名前を!?」
「ちょっとまってください妖精がのどかの名前を知っているからと言って誰かがのどかの名前を教えたことは否定できないのですが実際にこの目の前に妖精がいる事実そのものは否定できなくて――」
「ひゃ、妖精さんや! あ、握手してください! うわあうわあ、おじいちゃんウチ妖精さんに名前呼ばれたー!」
「お、お嬢様ッ! まさか西がこのような手段を用いてくるとは! 仕方がない、学園長に連絡を取って……」
「ほらほら妖精さんがきたえ! ほらおじいちゃん!!」
「ぬ、ぬう……西……、いやそれにしてはおかしい。まさか本当に……」
「スクープキタ――――――!!」
「何でだれも私だって気が付かないんだろう?」
自室で膝を抱える千雨。