翌日、茶々丸は普通に出席していた。葉加瀬の顔を見ると目の下に隈ができていたが、よくあることなのでたぶん大したことはなかったのだろう。
千雨は、ネギと茶々丸の会話でエヴァンジェリンが保健室にいることを知った。
「よう」
席に戻る途中の茶々丸に声をかけた千雨だったが、ぷいと顔をそむけられた。
「あー、……悪かったな」
一応謝罪してみたが、無視して席に座ってしまった茶々丸。
そこでふと千雨の中に、ちょっとした悪戯心が湧き上がる。
もともと悪いことをしたのはあちらのほうだし、謝罪も聞き入れないというのはいかがなものかと自己正当化した千雨は、おもむろに茶々丸のゼンマイに手をかけた。
「ッ、何を!?」
カリッ!
「ッ、あんッ!」
茶々丸の口から突如発せられた、なんかこうアレな動画でしか聞けなさそうな声に教室が凍った。
「は、長谷川さ――」
カリッ!
「くはぁッ!」
何かの間違いだと思った千雨はもう一回ゼンマイをひねったが、結果は同じだった。
「――傷物にされた挙句、こんな声を上げさせられるなんて……」
何やらつぶやいた後、立ち上がった茶々丸は、おもむろに千雨に向き直った。
「責任は取ってもらいます――」
「――ふつつかものですが、よろしくお願いします」
「まだどっか壊れてるだろ、お前」
教室の時が動き出したのは、チャイムが鳴ってからだった。
「さ、さあ今日も一日頑張りましょう!」
『は、ハーイ!!』
「……誰か突っ込んでくれ」
千雨の願いは聞き入れられなかった。