夜中、トイレに起きたらその間に不法侵入された。
「……瞬間冷凍ビーム」
千雨の指先から放たれた怪光線が直撃してエヴァンジェリンの頭部が見事に凍った。
「マスター!」
ついでにロボットも凍らせておいた。
「殺す気か貴様ッ!」
パソコンの時の様に能力が及ぶ範囲を調整しなかったので、見事に故障した絡繰茶々丸。
彼女を部屋の外へ運び出している最中に、復活したエヴァンジェリンが怒り出した。
「吸血鬼がそのくらいで死ぬかよ」
ぐぐぐ、と何か言いたそうにしているが、無視して千雨は作業を続ける。
「で、何しに来た? 献血する気はないぞ」
「記憶の処理をしに来たんだが、……この様子なら必要なさそうだな」
何とも穏やかではない話である。
「必要ないって……」
「貴様は一般人ではないだろう?」
確かにもう一般人は名乗れないだろう。生身で冷凍ビームとか物理法則無視してるし。
「ふう」
「というか貴様さっきから何をしている」
エヴァンジェリンが千雨の部屋から出てきて見たのは、氷のベッドに寝かされた茶々丸の姿。
呆然とするエヴァンジェリンの肩をたたいて、千雨は言う。
「運びやすいようにしてやったから、ハカセに見てもらえ」
千雨が渡したのは、一本の綱。見れば両端が氷の中に入っていて、氷塊を引きずることができるようになっていた。
「なッ!? こんなもの引きずってたらあからさまに怪しいだろうが!」
エヴァンジェリンを見る千雨の視線は冷たかった。
「何言ってやがる。桜通りの噂の不審者当人で、不法侵入者だろう? 運びやすくしてやっただけありがたいと思え」
無情にもドアは閉められて、エヴァンジェリンは立ち尽くすしかなかった。
氷のそりは意外と引きずりやすく、茶々丸を葉加瀬聡美の元に持っていくのに時間はかからなかった。
「また来たのか」
「あたりまえだ。こちらの要件は終わっていないんだぞ」
千雨の部屋に勝手に上り込んで、勝手に座り込んだエヴァンジェリンは単刀直入に言った。
「貴様、何だ?」
「……妖精さん」
「馬鹿にしてるのかぁーッ!!」
とりあえず凍らせて、寮の外に放り出した。