千雨たちが浴場についたら明日菜が裸になって倒れていた。
駆け寄ってみたら、明日菜が木乃香をさらわれてしまったことを詫びて、『アイツ』が近くにいるかもと警告してきた。
直後、刹那が後ろに現れた少年に反応するが、力の差は大きく、殴り飛ばされてしまった。その時千雨が少年の伸びきった腕を掴むことに成功して、蹴りをたたきこもうとするが、逆の手で防御されたので、千雨は一度少年から離れる。
「茶々丸! 桜咲を!」
「ハイ!」
少年は表情を変えずに千雨に尋ねる。
「君は……石化させたはずじゃなかったかな?」
「どうやって復活したか? 教えるかよ」
ネギが意を決して、言葉を紡ぐ。
「みんなを石にして、刹那さんを殴って、このかさんをさらって、アスナさんにエッチなことまでして!」
杖をぐっと握り、ネギが叫ぶ。
「僕は許さないぞ!」
少年は気にした様子もなく応える。
「それでどうするんだい? 僕を倒すのかい? やめた方がいい、今の君では無理だ」
そういって、足元の小さな水たまりの中に消えていった。
「あ、コラ待ちやがれ!」
千雨が水たまりを凍らせて、体を氷の中にねじ込み、そのまま消えた。ちびチルノも後に続く。
「うええぇっ!? 水を利用した『扉』に氷を利用した『扉』!? アイツもかなりの使い手だが、あの姉さんもとんでもないな……ていうか氷が『扉』って」
その光景を見ていたカモが驚く。こぶしを握りしめたネギが、強い口調で言う。
「とにかく、追わないと。刹那さん、軽い傷なら僕にも治せます。見せてください」
治癒魔法を使い、刹那の傷を回復させるネギ。
その後、仮契約の話で一悶着あったり、明日菜が着替えを取りに行ってちょっと遅れたりもしたが、一同は木乃香を助けるために外に飛び出した。
天ヶ崎千草という木乃香誘拐の首謀者の元へネギたちがたどりついたのだが、なぜか千雨がいない。
とはいえ、敵は目の前。投降するように呼びかけたが、千草は一蹴して木乃香の魔力を使い、妖怪たちを召還する。
「まあ、殺さんようにだけは言っとくわ。ほな」
千草と少年は飛んでいき、百体近く居る妖怪たちに囲まれたネギが風の障壁を展開する。
障壁の中で手短に作戦を立て、刹那とネギが仮契約して、障壁が切れるタイミングを待つ。
「『雷の――、……あれ?」
障壁が切れたところから外を見ると、妖怪たちが壊滅状態に陥っていた。空から絶え間なく降り注ぐ氷塊が妖怪たちを押しつぶしている。
「悪い! 出口なかったからかえって時間くっちまった!」
空からチルノとちびチルノが妖怪たちを狙撃している。どうやら風の障壁を目印に飛んできたようだ。
「チルノさん!」
「こいつら何とかして追いかける! 先行け!」
作戦を即座に組み直して、全員で行って木乃香を奪取し、足止め役を置いて逃げることにしたネギたちは、移動を開始する。
「ところで千雨ちゃんはどこ行ったのかしら?」
「千雨さん、無事でいてください……!」
やはり千雨とチルノが同一人物だと認識できないままであった。
ネギが杖で飛び、刹那は明日菜を抱えて翼を羽ばたかせ、茶々丸はジェットで飛ぶ。
ネギが作戦の確認のため、つぶやく。
「茶々丸さんとアスナさん、刹那さんがあいつらを足止め。アスナさんたちは危なくなったら仮契約の召喚で退避。茶々丸さんは……」
「記録メモリーさえ残っていれば、ハカセ達が修復してくれます」
「ごめんなさい、僕にもっと力があれば……」
明日菜が手を伸ばしてネギの頭をはたく。
「バカなこと言ってる暇あったら、ちゃんと前向いて飛びなさい」
「……そうですね」
ネギが気を引き締めた時、刹那が後ろからの攻撃に気が付く。
「あれは、狗神!? みなさん避けて!」
刹那と茶々丸は避けることができた。だが、狗神はネギを追いかけて撃ち落とした。
ネギの杖から放り出され、空中を舞っていたカモを茶々丸が掴む。
「ヤバい! 兄貴は作戦の要だ! 兄貴無しじゃあ足止めの危険度が格段に跳ね上がる!」
やむを得ず、刹那と茶々丸はネギが落ちた辺りに助けに向かった。
「くくく、さっきは滅茶苦茶やられたが、今度はそうはいかん!」
ネギが墜落した場所では、学ランの少年、小太郎と月読が待ち構えていた。
「いきなり凍らされたりで欲求不満気味なんですー。刹那センパイは……あ、降りてくるみたいどすなー」
降りてきた刹那が、月読と対峙する。小太郎はネギを指名してきたが、ネギには小太郎に構ってる暇などない。明日菜が前にでて、ネギに先に行くよう促す。
「おい、姉ちゃん邪魔すんなや。俺はネギに用があるんや」
「とは言われても、こっちだって引けない理由があるのよ!」
ネギが杖に乗って行こうとするが、狗神に邪魔される。
「後ろでごちゃごちゃやってるような西洋魔術師なんざ大したことないわ!」
「くそっ! 時間はないのに戦うしかないのか!?」
カモが悪態をつく。
「勝つ策はあるよ、カモ君」
ネギが、何らかの儀式が始まったらしい、立ち上る光を気にしながら言う。
「はっ! 大口叩きおって! ならその策ってもんを見せてもらおうか!」
「いや、だからなジジイ。正直言いたくないんだが今の私は氷恐怖症なんだ。だから得意の氷雪系の魔法は使えんし、家の冷凍庫すらあけるのに手が震えて――」
「ぬうう、これでもダメか! ナギの奴無茶苦茶に呪いをかけおって!」
「いや、聞けよジジイ」