千雨が『チルノ』だったころの記憶を取り戻してからしばらくして、神楽坂明日菜と近衛木乃香がやってきた。
明日菜はどこかへ行ってしまったエヴァンジェリンとネギを追いかけていき、千雨と木乃香は気を失っていたのどかを寮に運ぶことにした。
「ほんまに大丈夫なん? 顔色わるなってるようにみえるけど……」
のどかを背負う千雨を心配する木乃香。生気のない顔で千雨はこう答える。
「ああ、大丈夫だ……そう、大丈夫だから。うん」
このやり取りは何回かおこなわれた。
のどかが気を取り戻したのは寮につく少し前で、不審者のことを千雨に尋ねてきたが、千雨としてはそれどころではなく、適当に流しておいた。
二人と別れた千雨はダッシュで自室に入り、すぐさま鍵を閉めてベッドに飛び込んだ。
「ああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!」
ゴロンゴロンとのた打ち回り、布団をかぶって絶叫した。
「なにがサイキョーだあぁぁっ!! ノーミソ最弱じゃねえかあああぁぁぁ!!」
思い出される『チルノ』の記憶。
カエルを凍らせて遊んだ記憶。
オオガエルに頭からたべられた記憶。
簡単ななぞなぞに答えられなかった記憶。
どんどんでてくる馬鹿丸出しだった過去の記憶。千雨としてはもう恥ずかしくて死にそうだった。
何とかヤバい記憶を封印し終わった千雨は、ネットで過去の自分に関わることを調べていた。
「まあ、出てくるわけねーな」
もともとあんまり期待はしていない。幻想郷は妖精やら妖怪なんかが闊歩していたところである。別の世界にあるとか、何らかの方法で隔離されているのだろう。
「皆どうしてるんだろうなー……」
一緒に遊んだ仲間を思い出す。
「……いなくなったことに気が付いてない。……いないことは気が付いたけど、まあいいやで終わった。……そもそも存在自体忘れられた」
ありそうでちょっと泣きそうになった。
「それでも、大ちゃんならきっと……」
一番仲の良かった妖精なら、心配してくれていると願う千雨であった。
「まあ、もう『千雨』になっちまったしな……」
元通り、とはいかないだろう。何よりあのころの『チルノ』はいないのだから。
パソコンの電源を切ったところで、ふとあることを思い出した千雨。
「……ちょっとやってみるか」
パソコンを能力で冷やしながらオーバークロックしてみたらすごいことになった。