夜。ビルの上で千雨となのはは二人して妖精モードで酒を飲んでいた。氷で杯を作り、ぐいぐい飲んでいく。
「あはははははははは!」
「わはははははははは!」
何がおかしいのかは当人たちにしかわからないだろうが、大声で笑いながら、どんどん酒を飲んでいる。
「ちーちゃん、みてみて! 天狗かなあ? いっしょーけんめー走ってるよー! 飛んだほーが速いのにー!」
「あはは! よく見たらさくらざきじゃねーか! せんせー達といっしょにさるおっかけてら! はははは!」
「しりあいー? じゃあなんでおさる追っかけてるのか、ちょっとおはなしきいてみよーかー?」
「おー!」
ぴゅーっ!
即断即決、ネギたちの元に飛んでいく二人。
「ごめーんくーださーい。ちょっとおはなしきかせてー!」
なのはがネギに声をかける。
「うわっ、よ、妖精さんが二人も!?」
「チルノさん! うわっ、お酒臭い!」
「先生、神楽坂さん、お知り合いですか!?」
明日菜がなのはのほうを見て、少し戸惑う。
「ええっと、青いほうがチルノさんで、もう一人は――」
「えーっと、ナタネって呼んでー? 別に大ちゃんでもいーよー」
適当な偽名をでっちあげるなのは。
「おー! ナタネー!」
「なーに、ちーちゃん? あはは」
笑う妖精たちに顔をしかめる刹那。
「邪魔をしないでください! このかお嬢様を取り戻さなければ!」
「あのおさるがこのかおじょーさま?」
「ちげーよナタネー。おさるが抱っこしてんのがこのかだー」
「そっかー、じゃあこんどはおさるにおはなしをきこー!」
するっと木乃香を抱えるサルの隣にぴったりくっつく二人。
「おさーるさーん! おじょーさまかかえてなにしてるのー?」
「ゆーかいかー?」
「うわ!? なんや、妖精が来た! クッ!」
速度を上げるサル、というかサルの着ぐるみ。
「とまれー!」
「とまらんとうつぞー!」
無論、着ぐるみが言うことを聞くはずもない。
「ほんとにうっちゃおうかー?」
「よーし、ナタネちゃんにまかせろー! れーじんぐはーと、せーっとあーっぷ!」
なのはの服装が一瞬で変わる。片手に機械的な杖を持ち、先端を前に向ける。
「おー! へんしんしたー!」
「いかくしゃげきー! でぃばいんばすたー!」
桃色の閃光が着ぐるみの隣を通り抜ける。
「きみは完全にほーいされているー!」
「にげてんじゃん! あははは」
「次はあてるー! 五で止まらないとうつぞー!」
それを聞いて、さらに速度を上げる着ぐるみ。だが現実は非常。
「五ー! とまんないから、すたーらいとぶれーかー!」
さっきより強力な桃色の光がサルの着ぐるみを包む。
「うぎゃー!!」
着ぐるみが思わず悲鳴を上げる。
「お嬢様!」
その光景に思わず声を上げる刹那
「へーきー! ちょっと痛いけど怪我はしないよー」
「便利だなそれ! おしえろー」
光が収まった後には、なぜか木乃香しかいなかった。
「おさるが消えたー」
「木端微塵だー!」
刹那が辺りを見回すと、上空に別のサルの着ぐるみが見えた。
「くっ、逃がしたか」
なのはが木乃香の横に降りて、桃色の光を木乃香にまとわりつかせた。
「何を!」
「あははは、やりすぎちゃったから回復まほうかけてるのー」
ほどなくして気が付く木乃香。ただダメージはまだ残っているようであった。
「うあー、せっちゃんがさんにんおるー?」
「お、お嬢様!」
「このか!」
「このかさん!」
回復魔法を掛け終わったなのはが、元の浴衣姿に戻り、笑い出す。
「ゆーかいされたおじょーさまをとりもどしたー!」
「めでたしめでたし! しゅくはいだー!」
「おー!」
そういって二人はビルの上に戻っていく。
「た、助けてくれたのでしょうか……?」
刹那の疑問に答える者は誰もいなかった。