<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

チラシの裏SS投稿掲示板


[広告]


No.31743の一覧
[0] 【習作】喫水線下の思い人(境界線上のホライゾン)[天井桟敷](2012/10/07 09:53)
[1] 参道の選択者[天井桟敷](2012/10/07 09:47)
[2] 告白前の婚約者[天井桟敷](2012/10/07 09:47)
[3] 番台前の姦し娘[天井桟敷](2012/10/07 09:47)
[4] 加護下の神奏術者達[天井桟敷](2012/10/07 09:47)
[5] 六畳一間の新郎見習い[天井桟敷](2012/10/07 09:48)
[6] 内諾後の出席者達[天井桟敷](2012/10/07 09:48)
[7] 開場待ちの熱望者達[天井桟敷](2012/10/07 09:48)
[8] 進級前の補講者達[天井桟敷](2012/10/07 09:48)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[31743] 告白前の婚約者
Name: 天井桟敷◆3d83101a ID:249a7ac8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/10/07 09:47
左右六艦、中央二艦からなる準バハムート級航空都市艦、“武蔵”。
その中央後艦・“奥多摩”にある武蔵アリアダスト教導院。

教導院で学ぶ生徒と一部教師の外道っぷりから、その学生寮またも魔境であるかのように囁かれることが多いが、それはあくまでもそれぞれの部屋の内部でひっそりと展開されるものであり、表向きは他の教導院と変わらないごく普通の寮である。


――これは武蔵アリアダスト教導院に通学しているごくごく普通の生徒達の日常劇である。



バレンタインも間近に控えた二月十日の昼下がり。
一週間前に行われた節分で壁にめり込んだ豆の除去が一段落した学生寮の一角、表札に恵与・十見、ステラ・ブラックレターと掲げられた部屋の扉が叩きつけるように開けられ、開けたステラ・ブラックレターが二段ベッドの上に駆け込み、そのまま布団にくるまり唸りだしてから早十分が経過していた。

室内に延々と響く唸り声に恵与・十見(けいよ・とおみ)がさてどうしたものかと首を捻っているところへ、済んだ音が聞こえた。

チン、という簡潔なチャットの呼び出し音を耳にして、恵与は一度、目の前で布団を被ってばたばたとしている物体から目を逸らすと、虚空に表示枠を呼び出す。
と、そこにはのっけから辛辣な言葉が踊っていた。


・麹本:『十見、お前何やった? さっさと自白しろ』
・当外:『なによ?』
・麹本:『今、浅間神社の肝臓巫女さんから仕込み樽で2樽分の納品注文があったんだが。しかも「ウチのバイト、それも同期生の結婚式ですから大盤振る舞いですよ」とか訳が分からんことを言われたんだが、当然何か心当たりがあるだろうな』
・当外:『事実確認をすっ飛ばして、何かやったなと言うその安定の猜疑心に慰謝料を請求したい気分ね』
・麹本:『その場合はお前との交際費を要求するからそれでチャラだ。で、なにをステラに吹き込んだ?』
・当外:『なんでそこで一足飛びにステラに行き着くのか、おばさん興味津々』
・麹本:『黙れ若年寄。胸に手を当ててから結論から言え』
・当外:『残念ながら今回ステラには何も吹き込んでませんー』


恵与の書き込みを見ていたのだろう、視線の先にある物体がぴたりと動きを止める。
二呼吸分の間を開けて、雪の妖精と言われても違和感の無い少女が、布団をはね飛ばしながら半立ちになると、


・黒紙:『私“には”、ってじゃあ、永君になんて吹き込んだんですか?!』
・麹本:『なんだ今回の犠牲は永の字だったか』
・当外:『イヤねステちゃん。吹き込んだんじゃなくて、機先を制するのが吉、って占いの結果を伝えただけよ?』
・麹本:『ほう。このバレンタインの仕込みでクソ忙しい時期に機先を制せと。打率五割を常にキープするお前の八卦の結果を伝えた、と。要らんことをしおる』
・当外:『アンタんとこ、今年もボンボン密造する気なの? いい加減にしないと聖連に睨まれるじゃ済まないわよ?」
・麹本:『いや。今年は清酒でな。旧派の連中が極東がこの時期にウィスキーボンボンを提供するのは如何なものかなどとケチを付けてきたせいで仕込んだウィスキーは全部浅間神社に奉納したわ』


言外に頭の固い連中だというニュアンスを滲ませる悪友に、恵与は相手の思い違いを一応指摘する。


・当外:『いや、この時期に極東でチョコ製品を提供するのがどうなのよ』
・麹本:『なに。清酒を小分けしようとしたところ、たまたま陶器の瓶が無く、たまたまチョコでできた瓶があったのでそれに詰めるだけだ。問題無いだろう』
・当外:『その理屈で番屋にしょっぴかれた忍者一党を知ってるんだけど?』
・麹本:『ウチ酒は番屋の奥様方にも大変好評でな。特に料理酒として割安で卸しているのがまた好評でな。「ウチの亭主がコレを愛飲してるから小遣い出す気が出るのよね」とな。』
・当外:『小遣い欲しけりゃコレを呑めとは、かかあ天下も極まれりね』


「そんなことより! ことより! 何を永君に吹き込んだんですか!」


いつまで経っても本題に入ろうとしない二人に業を煮やしたステラは、二段ベッドから転げ落ちるようにして降りると勢いそのままに恵与の肩をガクガクと揺さぶる。
対して、恵与は揺さぶられたままにも関わらず小器用に何をやったかを再度書き込む。


・当外:『永には、機先を制すれば望外の幸せが叶う、としか言ってませんー』
・麹本:『そのどこがどうなると浅間神社の巫女から結婚式用の酒樽注文に繋がるんだ?』
・当外:『まあ、あんたとつるんでる割には永は常識人だしねえ』


恵与はアンタほどのヘタレでもないしと続きそうになる言葉をぐっと飲み込み、別の言葉を紡ぐ。そう、それは二人っきりの時に言うべき言葉だ、と胸の内で呟くと、


・当外:『本人不在で婚姻届出すようなヤツでも無いし』
・黒紙:『ほんとに、ほんとに、永君にプロポーズするようにって言ってないんですか?! あんな、あんなーー』
・麹本:『読めた』
・当外:『奇遇ね。私も読めたわ』
・黒紙:『――な、なにがですか!!』
・当外:『いやね』
・麹本:『永の字のやつ、機先を制せって言われて、バレンタイン前に告らねばと思い込んだんだろうな。それで御前さんとこに行って、たぶん「結婚を前提に付き合ってください」とでも言うつもりだったんだろうな。それがテンパリすぎて「結婚してください」になって』
・当外:『永に告白されたってだけでテンション入ったステちゃんは、永の言い間違ったの気付かずに「はい」なんて返事しちゃって、それを浅間さんに聞かれた、ってところかしら。否定しようにも永が居なくなってたか、言い間違いに気がつくまでほうけてたか――』

恵与の眼前でステラが首筋まで真っ赤に染め上げてへたり込む。
二人の揶揄するようなセリフに告白されたときの情景が思い出されたのか、ステラがそのまま顔を両手で覆って俯く。

・黒紙:『――――!!』
・当外:『ちょっと本気で可愛過ぎるんだけどこの子。私が男だったらソッコで襲ってるわよ』
・麹本:『嫁入り前の大事な躰なんだ、疵付けるなよ?』
・黒紙:『く、蔵無さん!!』
・麹本:『で、肝心の旦那はどこで真っ赤になってるんだろうな』


ステラの悲鳴ような一文を丁寧に無視した悪友がどんな表情を浮かべているかを僅かに思い浮かべ、しかし恵与はすぐにそれを振り払うと、


・当外:『別の意味で真っ赤になってるんじゃないでしょうね?』


至極もっともな懸念をした。
なにしろ、二年のくせにバインボインな梅組の連中ほどではないが、ステラはステラで美少女と呼ぶに相応しい外見なのだ。
M.H.R.R.出身である母親の血を色濃く移したせいか、髪は銀髪、肌は色白。近接依代士だと言われてもすぐには信じられないほどの細身。ぱっと見の外見を一言で言い表すならば『儚い』。しかし、けしてその印象に引きずられることのない快活なひととなり、肝心の外道性は皆無とくる。
これがクラスの羨望の的とならずしてなにを的とすればいいのか、そんな少女なのだ。


・麹本:『いや、ああ、これだな壁殴り募集中、遠近問わず、二年椿組主体のアットホームなPTです。ちょっとやんちゃしたケダモノを絞めるだけの簡単なお仕事。現在エモノは浅草方面に追い込み中。ってなってるからまだ生きてるみたいだな』
・当外:『代行じゃないのね。こういうことは自分の手でやるから意味があるのかしら? 控えめにクラスの半分が参加するとして、永だと逃げ切れないんじゃないかしら』
・麹本:『とはいえ、助けに行こうにもなあ』
・当外:『神酒を納める身は穢れに繋がる戦場・戦仕事は御法度だから、こういうときは役に立たないわねえ』
・麹本:『筮竹屋にしたって同じだろう』
・当外:『か弱い乙女に何させようってのよ』

・麹本:『やめて! 私のために争わないで! って定番のセリフをだな』
・当外:『アンタが言ったら洒落にならないわね』
・麹本:『破壊力が半端ないだろ。主に永の字方向に』
・当外:『さしもの永の障壁もアンタの奇行相手じゃ分が悪いだろし、夏には一冊漫研が仕上げてそうじゃないの』
・黒紙:『ふ、二人とも! 永君を助けてくれないんですか?!』

・当外:『男衆のガチ嫉妬に首突っ込めるのは近接職か物好きぐらいよ。それに今から奥多摩出ても筮竹屋の身じゃ浅草まで到着するころには手遅れだしね』
・麹本:『こっちも品川で仕込み中だからな。武蔵野経由しなきゃならないから、杜氏の身じゃ手遅れだな』
・当外:『まあ、陸上部顔負けの走りができる近接依代士であれば武蔵野からでも浅草まで間に合うんじゃないかしら?』
・麹本:『というわけだ、がんばれステラ・ブラックレター』


蔵無のどことなく楽しげな文面が表示されると同時、恵与はポンといまだに俯いたままのステラの肩を叩き、Get、と鋭く呟く。
それが合い言葉だったかのようにステラが顔を覆い俯きへたり込んだ姿勢から、両手を床につき腰を宙へと浮かせ左足を部屋の奥へと伸ばした姿勢へと切り替わる。
そして恵与はステラの右足が床をしっかりとホールドしたことを横目に、筮竹を腰のハードポイントから抜き打ちのように取り出し、天井へとぶつける勢いで放り投げ、


「主戦場は浅草でなく、一つ手前の左舷二番艦“村山”、ここにしなさい。浅草に押し込まれると凶の卦が出てるわ」
「Jud.」



一瞬で掴み直すと同時その卦を読み取りステラに告げる。ステラはその言葉に頷きと返事を短く返すと、いまだに赤いままの身体に一杯の空気を吸い込む。
恵与は、深く呼吸を吐き出すステラの正面、部屋の扉を開け放つとステラを送り出すための最後の言葉を告げる。



「Ready」


次の瞬間、ステラがその右足からの反発を受けて爆発的な加速をその身に纏い、


「Go!」


爆ぜるような言葉と共にその躰を寮の廊下へ、そして武蔵野の艦上へと踊らせに行く。


その後ろ姿を眺めながら、恵与は短く笑う。



「命短し恋せよ乙女。精々、永にいいとこ見せてやんなさいよ」



・麹本:『だからそういうことをポンポン言うから若年寄と――』
・当外:『アンタはこっちに戻ってきたら説教ね』


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027714014053345