「ごめんくださーい」
『え?』
「え?」
『……』
「……誰かいるんですか?」
『あ、うん、いるよ』
「あ、すいません。まさか誰かがいるとは思わなくて」
『いないと思ってたのに、なんでごめんくださいとか言ったのさ?』
「だって、自分の家じゃないところに入るんだから挨拶するのは当たり前でしょう?」
『え?』
「え?」
『……』
「……とりあえず、どこに居るんですか? 暗くて奥の方がよく見えないんですけど」
『いや、目の前にいるんだけど』
「目の前って、でかい壁みたいなものしか見えないんですけど……あ、ちょっとひんやりしてる」
『ちょ、ちょっと、そこボクのお腹。勝手に触んないで』
「え?」
『え?』
「……」
『……』
「えっと、ごめんなさい。勝手に触って。気分を害したなら謝ります」
『え?』
「え?」
『……』
「……ところでここがあなたのお腹ならあなたは一体どういう人なんですか?」
『人じゃないよ。ボク、ドラゴン』
「え?」
『え?』
「……」
『……』
「これは失礼しました。人違いどころか種族違いしてしまって。お詫びします」
『えっと、あのさ』
「はい?」
『逃げないの?』
「え?」
『え?』
「……」
『……』
「何故私が逃げると?」
『いや、だって普通、人間はボクを見たら逃げるでしょ?』
「そういうものなんですか?」
『え?』
「え?」
『……』
「……別に逃げたりしませんよ。というか、私に逃げてどうしろと言うんですか」
『あの、住処に帰ったりとか……』
「帰りたくても帰る方法が分かりません。気が付いたらここの近くの森の中に倒れてたんですから」
『……何それ』
「あ、すみません。これだけじゃわけが分かりませんよね」
『いやそうじゃなくて』
「はい?」
『ボクが怖くないの?』
「え?」
『え?』
「……」
『……』
「えーっと、順序立てて説明しますね」
『あ、うん』
「私はだいだい2時間ぐらい前に、ここの近くの森の中で目を覚ましました」
『え?』
「え?」
『……』
「……あの、続けますね」
『待って待って。君、人間でしょ? 人間って町ってところに住んでるんじゃないの? この森の中に住んでる人間なんてボク知らないよ』
「そこも含めて説明しますので、とりあえず聞いていてください」
『う、うん』
「目を覚ました私はひどく混乱しました。森の中で寝たどころか入った覚えはない」
『うんうん』
「仕方ないので動くことにしました」
『仕方ないの!?』
「え?」
『え?』
「……」
『……あ、えと、混乱したって言ったじゃん。取り乱さなかったの?』
「取り乱したってそれこそ仕方ないじゃないですか」
『え、あれ、えと』
「んー、言葉って難しいですね。つまり、考えても意味がないから行動したってことですよ」
『そういうものなのかな……』
「続けますよ」
『あ、うん』
「で、歩いてる内に雨が降ってきました。今、外では雨が降ってるじゃないですか」
『うん、いっぱい降ってる』
「雨宿りできる場所を探してたんですよ。ついでに休める場所を」
『そしてここを見つけた、と』
「そういうことです」
『でも、ボクがいるよ?』
「ええ、そうです……おっと、肝心なことを聞いてませんでした」
『ん?』
「すみませんが、雨に降られて難儀しています。ここで雨宿りさせてもらえませんか?」
『え?』
「え?」
『……』
「……えっと、それで、どうでしょう?」
『どうって、そうじゃないでしょ! ボクがいるのにどうして逃げないのさ!?』
「さっきも言ってましたけど、なんで私が逃げないといけないんですか」
『だって……えと、ボク、ドラゴンで……』
「先ほど伺いました」
『あ、その……人間は、ドラゴンを怖がるものじゃ……』
「私が逃げる理由になりませんよ」
『え?』
「え?」
『……』
「……」
『ボクが怖くないの?』
「怖がる理由がありません」
『え?』
「え?」
『……』
「……」
『どうして……』
「ピンと来ないんですよ、あなたが怖いドラゴンだなんて言われても。こうしてちゃんと会話もできているし。だいたい顔も見ない内から怖がるなんて失礼なマネはしたくありません」
『……変なの』
「そうでしょうか? それで、雨宿りの方は」
『え、と……なんで聞くの?』
「え?」
『え?』
「……」
『……』
「質問の意図が分からないのですが」
『その、人間って行きたい所には勝手に行って、住みたい所には勝手に住む種族だって聞いたから』
「誰から聞いたんですかそれ」
『お母さん』
「人間の生態を知っていても人間の礼節を知りませんね、あなたの母親は。私はそんな無礼なことはしませんよ」
『そうなの?』
「この洞窟はあなたの家なのでしょう? そこにあなたが居て、私はそこにお邪魔する身です。挨拶するのは当たり前だし、雨宿りさせてもらえないかと聞くのも当たり前です」
『そうなんだ』
「そうなんです。それで、ここにいてもいいですか?」
『あ、うん、いいよ。汚したりしないでね』
「ありがとうございます! いやー、助かりました。あ、服を絞ってもいいですか? びしょ濡れで」
『いいよ』
「どうも……よいしょっと。すごい雨ですね。この辺りはよく降るんですか?」
『降る時は降る。こんな大雨は珍しいけど』
「そうですか……よっと、ふんっ、っしょっと」
『……』
「ふう、少しさっぱりしました」
『ねえ』
「はい?」
『火を熾したりしないの?』
「したくても材料がないし、私は火を点ける方法なんて知らないんですよ」
『寒くない?』
「まあ寒いと言えば寒いですけど、気温はそんなに低くありませんからね。何とか我慢できるんじゃないかと」
『……こっち来る?』
「え?」
『え?』
「……」
『……』
「いいんですか?」
『う、うん』
「ではお言葉に甘えて……おお、奥は少し暖かいですね。お邪魔します」
『どうぞ』
「あ、わざわざ隙間を作ってくれたんですね。ありがとうございます」
『うん……ひゃわんっ!』
「わぁ! ど、どうしました?」
『そ、そこ、触んないで! そこすっごく感じる!』
「え、ここは鱗……ひょっとして逆鱗というやつですか。ごめんなさい、無遠慮でした」
『あうぅ……』
「本当にすみません。大丈夫ですか?」
『だ、だい、じょぶ、気にしないで』
「いや、調子が悪いような……」
『いいの気にしないで! あ、そういえば疲れてるんじゃない? 今日はもう休んだらいいよ。そこで寝ていいから!』
「いいんですか? 言われてみれば確かに疲れていますね。では失礼して……おやすみなさい」
『うんうんおやすみ!』
「……」
『……』
「……」
『……』
「……すぅー……すぅー……」
『……寝ちゃった?』
「……すぅー……すぅー……」
『寝ちゃったよね……』
「……すぅー……すぅー……」
『(うううぅぅ、あんなところ触られちゃった、あんなところ触られちゃった! 変な気分になっちゃうよう……これが人間かぁ。見たのは初めてだけど、お母さんが言ってたのとは全然違うな。もっと嫌な生き物だと思ってた――わ、わ、くっついてきたっ)』
「……んん……」
『(お、起きてないよねこの人?)』
「……すぅ……」
『(お休みって言ったの、久しぶりだったな……ボクももう寝ようかな。今日はやることないし……そういえば人間が寄りかかってるとこ、あったかい……)』
「……すぅー……すぅー……」
『(お母さん、人間ってあったかいんだね……お母さんは知ってた? ボク、初めて知ったよ)』
「……んん、むぅ……すぅ……」
『……おやすみ』
はじめまして、個人でブログにSSを書いている飛天無縫という者です。
ふと浮かんだものを形にしてここに投稿させていただきます。
この話は説明すると、異世界召喚された人がドラゴンに出会ったお話です(わけがわからないよ)
衝動のみで書きました。プロットなんぞありゃしません。
「え?」と「……」の繰り返しで何かできないか、と考えただけなんです。