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No.31713の一覧
[0] ケダモノ一直線 (鋼殻のレギオス) ネタ リハビリ R15[武芸者](2012/03/30 00:32)
[1] 入学式[武芸者](2012/03/31 16:16)
[2] レイフォン・アルセイフ[武芸者](2012/10/31 18:37)
[3] ツェルニ攻防戦[武芸者](2013/06/13 01:19)
[4] ヤりたい[武芸者](2013/06/13 15:57)
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[31713] ツェルニ攻防戦
Name: 武芸者◆8a2ce1c4 ID:2a03c4f9 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/13 01:19
「状況は?」

慌しい会議室に、この都市の長の声が響く。
生徒会長のカリアンを筆頭に、この場には武芸長のヴァンゼや、各学科の幹部達が集まっている。
そんな中でかわされる議題は、今、この都市を襲っている脅威についてだ。

「ツェルニは陥没した地面に足の三割を取られて、身動きが不可能な状態です」

「脱出は?」

「ええ……通常時ならば独力での脱出は可能ですが、現在は……その、取り付かれていますので」

現在、自立型移動都市(レギオス)が移動できない事態に陥っている。
地盤の弱いところを都市の脚が踏み抜いて都震が起こることは稀にあるが、今回はその先に汚染獣の巣があり、汚染獣が脚を上ってきたために脱出が出来ないでいた。

「生徒の避難は?」

「都市警を中心にシェルターへの誘導を行っているが、混乱している」

「仕方ないでしょう。実戦の経験者など、殆どいない」

今まで、こんな事態など想定していなかった。その上ここは学園都市だ。実戦を経験したことがある者はまずいない。
そもそも汚染獣との遭遇自体が稀なことだ。通常の都市では数年に一度遭遇するかしないかの頻度。グレンダンでは毎月のペースで汚染獣に遭遇するらしいが、それは明らかに異常だ。
また、ツェルニが汚染獣に遭遇したのは十数年ぶり。絶対に遭遇しないというわけでもないが、これまで平和に過ごしてきた学生達がパニックを起こすのは当然だった。

「全武芸科生徒の錬金鋼の安全装置の解除を。各小隊の隊員をすぐに集めてきてください。彼らには中心になってもらわねば」

カリアンの師事にヴァンゼは頷く。頷くが、その表情には明らかに不安が含まれていた。

「出来ると思うか?」

「出来なければ死ぬだけです」

ヴァンゼの問いかけに、カリアンは冷たく言い放つ。
この場にいる全員に言い聞かせるように、あとを続けた。


「ツェルニで生きる私達全員が、全ての人の……いや、自分自身の未来のために、自らの立場に沿った行動を取ってください」


ここに集まった全ての者達が頷く。もはや学生だとか、実戦経験がないとか、そんなことは関係なかった。
生き残るには戦わねばならない。自分に出来ることをやり、やり遂げられなければ未来はない。
そのことを全員が認識し、彼らは生き残るために自分のやるべきことを始めた。


†††


「今回都市を襲った汚染獣は幼生体。おそらくは母体がこの近くにいるはずなので、念威繰者を総動員して探してください。あと、都市外装備の準備を」

「わかった、すぐに手配しよう」

「おい、カリアン」

場所は変わって汚染獣対策本部。こう名付けられてはいるが、生徒会室に主要メンバーを集めているだけだ。
その主要メンバーというのは、生徒会長のカリアン。武芸長のヴァンゼ。そしてレイフォン。あとは数名の武芸者だけ。

「なんだい、ヴァンゼ」

「これから各小隊を集め、状況を説明せねばならんというのにここでなにをしている? そもそもそいつは一年だろう」

あからさまに納得していないヴァンゼに対し、カリアンは丁寧に説明した。

「既に小隊は集めているよ。ただ、彼らに話す前にまずはこちらの方針を、作戦を決めておくべきだと思ってね」

「ならばなおさら、何故一年なんかに意見を求める?」

「そうは言うがヴァンゼ、おそらくこのツェルニで、彼以上に実戦を経験している者はいないよ」

「なに?」

訝しげな表情をするヴァンゼに対し、カリアンはニヤリと笑った。

「彼はグレンダンの出身でね。実戦経験も豊富で、何度も汚染獣の討伐を成し遂げたことがあるそうだ」

「なんだと!?」

ヴァンゼの表情が驚きに染まる。確かに相手が一年生ということで、侮りや思うところはあるが、それでも少しは耳を傾けようという気になった。
実戦経験の少ない学生武芸者にとって、レイフォンのような存在はとても貴重だった。

「えっと、いいですか?」

「ああ、すまない。話を続けてくれないかな」

「はい」

そんなわけで作戦の立案はレイフォンがすることとなった。正直、学のないレイフォンはそんなことが出来るのかと不安だったが、要は幼生体を殲滅し、母体を仕留めればいいだけなので、グレンダンの経験を元に説明する。

「さっきも言いましたが、まずは優先的に母体の探索を。母体は幼生体の数が少なくなると救援を呼びます。その救援が来るまで三十分ほどの時間がありますから、それまでに倒せれば問題ありませんけど」

「ちなみに、もし救援が来たらどうなるんだい?」

「都市が滅びるかもしれませんね。今の僕には天剣がないので、もし老生体が来たらかなりやばいですよ」

はははと、小さく笑ってみせるレイフォンだが、カリアンからすればちっとも笑えなかった。

「母体を発見したら、そっちはクララに任せようと思います。僕は都市の防衛に回りますね。そして配置ですが……」

レイフォンはない頭をフルに使い、小隊の配置を指示して行く。その配置は独創的で、けれども無造作に配置しているように思えた。
なんの意図があってこの配置にしたのかわからないカリアンは、直接尋ねてみることにした。

「レイフォン君、このような配置にした理由を聞いてもいいかな?」

「だって、可愛い子は近くにいた方が護りやすいですから。試合の時に見ましたが、第十六小隊はむさい男ばっかりだったので最前線で。あとは第一小隊も男ばかりだからここに配置しましょうか」

つまり、完璧にレイフォンの独断だった。女性隊員を有している小隊を後方に置き、男ばかりの小隊を前線に置く。
明らかな選り好みの配置に、カリアンは頭を抱えてため息を吐いた。

「とりあえず、それはボツだね」

「え?」

結局小隊の配置はヴァンゼが決め、まとめられた作戦と配置が小隊員達に告げられた。
そして、生き残るための戦いが始まる。


†††


「ああ、くそっ! 数が多い」

レイフォンは思わず舌打ちを打つ。
たかが幼生体。グレンダンではなんの脅威にもならない、いわゆる雑魚。それでも数だけは多く、過去に数万を超える幼生体に囲まれたことがあったが、その時はリンテンスが出撃して瞬殺していた。
今回、ツェルニを襲っている幼生体はそれよりも圧倒的に少ない。母体が一体なら、大体千体前後だろう。詳しい幼生体の数はわからないが、リンテンスに鋼糸の技を教わったレイフォンなら十分に瞬殺出来る数だ。
問題は念威繰者。汚染獣との戦闘が始まってしばらく経つというのに、未だに幼生体の正確な数すら割り出せない後方支援に問題があった。

「入ってくる情報が少なすぎる! これじゃ活剄で強化した方がマシだ」

当然だが、見えない者は倒すことが出来ない。広大な戦場では念威繰者による支援が必要不可欠なのだが、レイフォンの支援をする念威繰者の能力が低すぎる。
念威繰者に頼るよりも、自身で視力を、聴力を活剄で強化した方がより遠くを見渡せるという、もはや居て邪魔になるほどのレベルだった。
リンテンスが数万の幼生体を相手取れたのも、グレンダン最高の念威繰者、デルボネの支援があってこそだ。

「ああ、使えない。その上相手は男だし。どうせならロス先輩みたいな可愛い念威繰者ならこっちもやる気が出るのに。ロス先輩はどうしたんですか? ロス先輩は!」

レイフォンは苛立っていた。現在、レイフォンの支援をしているのは第一小隊の念威繰者。肝心の性別は男。
これが女性で、しかも美人だったらいいところを見せようとレイフォンのやる気も上がるのだが、男なためにレイフォンのやる気はまったく上がらない。
ちなみに、レイフォンの言うロス先輩とはレイフォンの所属する第十七小隊の念威繰者。生徒会長、カリアン・ロスの妹であり、ミス・ツェルニに選ばれるほどの美人。
彼女が支援をしていれば、レイフォンはこうも苛立ったなかっただろう。だが、何の因果か今のレイフォンを支援しているのはむさい男だ。

『すまない、レイフォン君。この緊急時だ。当然フェリにも協力するように言ったんだが、どこかに行ってしまってね……』

「妹さんと仲が悪いんですか?」

『そうだね……きっと、あの子は私を恨んでいるだろうね』

念威端子からカリアンの声が聞こえた。どうやらカリアンとその妹、フェリの間には確執があるらしいが、戦闘中のレイフォンに今はそんなことを考えている余裕はなかった。

「とりあえず、この周辺の汚染獣は一掃しました。次はどこに行けばいいですか?」

『そうだね。では、第十一小隊と合流してくれるかな? 少々前線が押され気味でね』

「わかりました。資料で見ましたけど、第十一小隊にはネルア・オーランドさんがいるんですよね。いいところを見せるために頑張ります」

『そうかい……がんばってくれ』

「はい!」

レイフォンの邪な発言に呆れるカリアンだったが、当のレイフォンは戦場で目覚しい戦果を上げていた。
今回、レイフォンの取った戦闘スタイルは遊撃。鋼糸を満足に使えないこの状況。しかも未だ母体が見つからない現状、今は守りに徹することしか出来なかった。
都市の外縁部ではそれぞれの小隊が一般の武芸科生徒達を率い、防衛線を張って幼生体を迎え撃っている。
幼生体一体の戦闘力はそこまで高くないが、厄介なのはその数。また、学生武芸者達の攻撃では汚染獣の甲殻を破ることは困難だった。幼生体は汚染獣としては最弱、つまり最低限の防御力しか持っていないということだが、それに苦戦してしまうほどに今のツェルニは弱い。グレンダンならばまず考えられないことだった。
要するに、守りに徹するのではなくそれしか出来ないということだ。攻めに転じられない。だからと言ってこのまま消耗戦のような戦いを続けていけば、次第に無理が出てくる。現に何度か防衛線が破られ、都市内に幼生体の侵入を許しそうになった。
それを抑えるのがレイフォンだ。縦横無尽に都市を駆け巡り、防衛線を破って侵入してきた幼生体を殲滅する。こういった戦闘法で既に数十を越える幼生体を屠っていた。

『なに!? 待て、レイフォン君。やはりいい! 今はそちらに行かなくていい!!』

「どうしたんですか?」

そう言った訳で第十一小隊に合流しようとしたレイフォンだが、それは焦りに満ちたカリアンの言葉で止められた。
いつものカリアンからは想像出来ない取り乱しように、流石のレイフォンも何事かと気になった。

『防衛線が破られ、都市内に侵入を許してしまった。その上、経験不足からか伝達も遅れている』

「なにをしているんですか?」

『はぁ』っとため息を吐き、レイフォンは呆れを見せる。このような事態、グレンダンではまずありえないことだ。念威繰者は何をしていたのだろうと思わずにいられない。
だが、今はそんなことを思ったり、責めたりしている場合ではない。

『今、シェルターが襲われている。流石にすぐに壊されるほど脆くはないが、このままじゃまずい。すぐに現場に向かって欲しい』

「わかりました」

カリアンの指示に従い、レイフォンは幼生体の襲撃を受けているシェルターに向かおうとする。
念威繰者からはシェルターの場所が示され、それを見たレイフォンはさっと表情が青ざめた。

「くそっ!」

その瞬間、地面が爆発した。そう思わせるほどの威力で、レイフォンが地面を蹴ったのだ。
地面がはじけ、土煙が舞う。その中心からは銃弾の様な速度でレイフォンが飛び出し、シェルターがある方へと向かった。
広い都市。当然だが、シェルターはいくつも存在する。今いる場所から最も近い場所に避難する。それは当然のことだ。

「セリナさん!」

そして、問題のシェルター。そこはレイフォンのツェルニでの女一号、セリナ・ビーンズが住んでいる寮の近くだった。
一時は祝勝会で一緒にいて、勝利を祝ってくれたのだが、明日は早いからと早々に帰ってしまった。そしてこの騒ぎだ。避難しているとしたら、このシェルターに避難している可能性が高い。

「間に合え、間に合え、間に合えぇぇッ!」

更に地面を蹴り、または鋼糸を移動の補助に使って現場へと急ぐ。


†††


「おい、本当に大丈夫なのかよ!? 俺達助かるのか?」

シェルター内に男子生徒の悲痛な叫びが響く。この叫びは、シェルター内にいる全ての学生の代弁とも言えるだろう。
シェルター内でも聞こえる外の音。戦いの音。これらはシェルター内の人々を不安に陥れるには十分なものを持っていた。
なにせ、汚染獣の襲撃などほとんどの者が未体験、初めてなのだ。レギオスに住む人々が決して逃れられない脅威、汚染獣。一般人に抗う術はなく、こうしてシェルターに隠れながら武芸者に守ってもらうことしか出来ない。だからこそ、この世界では武芸者が優遇される。
一般人は何もすることが出来ず、シェルター内で待つことしか出来ない。都市を守る武芸者達の勝利を信じることしか出来ない。武芸者達の敗北は都市の死、自分達の死だ。
誰だって死にたくはない。けれど、自分達にできることは何もない。この事実と状況が、シェルターという暗く、閉塞感を感じさせる場所にいる人々を不安にさせる。

「レウちゃん、大丈夫? 顔色が悪いわよ~」

「大丈夫です……ただ、ちょっと喉が渇いて」

彼女達もまた、不安を感じていた。
ニーナの暮らす寮の同居者、セリナとレウ。彼女達は寮から近いこのシェルターに避難し、いつ終わるのかわからない戦闘が終了するのを待っていた。
この終わりの見えない待機状態は、確実に人々の心を蝕んでいく。

「あらあら、じゃあ、お水をもらってきてあげるわね~」

「別に大丈夫ですよ……」

「駄目よー、無理しちゃ。水分はちゃんと取らないとね~」

「はい……」

セリナは錬金科に席を置いている。それも薬学を専門にやっているため、人の体調には気を使う面がある。小まめな水分摂取は重要で、取れる時には取っておいた方がいい。
今はただでさえ、この緊張感の中で喉が渇くだろう。実を言うとセリナも喉が渇いていた。

「はい、レウちゃん」

「ありがとうございます」

紙コップに入った水を、自分の分とレウの分で取ってくるセリナ。レウはそれを受け取ると、よほど喉が渇いていたのか一気に飲み干した。

「よっぽど喉が渇いていたのね~。おかわりいる?」

「いえ……自分で取ってきます」

今まで強がってはいたが、このまま意地を張っても無駄だと悟ったのだろう。未だ癒えない喉の渇きを潤すため、レウは自分で水を取りに行った。
そして考える。この状況があとどれだけ続くのかを。汚染獣の襲撃、戦闘が始まってまだ数時間ほどだろう。だが、それだけの時間で既に何日も経ったような感覚を感じていた。
シェルター内には水を始め、食料なども十分に貯蓄してある。暫くの間ならここで暮らすことも可能だ。だが、このような状況が長引けば長引くほど、身体よりもまずは先に心が折れてしまう。
早く終わって欲しい。そう思うのはレウだけではないはずだ。誰だって早く日常に、元の生活サイクルに戻りたい。そう思いつつ、レウは二杯目の水を飲み干した。

「それにしても、本当に騒がしいわね~。外で一体、何が起こっているのかしら?」

不意に、セリナが言う。そしてレウも気づいた。外から聞こえる異音。それはガンガンと、壁を打ち付ける様な音だった。それがだんだん、次第に大きくなっていく。

「本当に、なにが起こっているんでしょう……」

大きくなった異音に気づく者も出てきた。その表情は焦燥感に染まり、キョロキョロと落ち着かないように首を振って視線をさ迷わせている。

「セリナさ……」

レウが不安を紛らわすようにセリナの名を呼ぼうとした。だが、その呼びかけは遮られる。最悪の形によって。

「へ……?」

そこにいた誰もが、すぐには状況を理解できなかった。暫し唖然とし、言葉を失って固まっていた。
シェルターの出入り口が破裂する。ドアがひしゃげ、轟音と共に侵入してくるものがあった。
それがなにか? それは人類の天敵。絶望を与える存在。シェルター内の人々は、表情が次第に恐怖へと染まっていった。

「お、汚染獣だ!」

シェルターが汚染獣によっては介されたのだ。そして、誰かが叫んだ。その叫びと共に恐怖は一瞬で伝播する。もはやシェルター内に冷静な人物は誰もおらず、全員が脅威に怯え、または我先にと逃げ出そうとしていた。

「どけよ!」

「早く行け!!」

「無茶言うな!」

「急げ!!」

シェルターは地下通路で、都市の大抵の場所とつながっている。それは他のシェルターともであり、この状況ではここのシェルター、区画を廃棄して他のシェルターに避難するしかない。
だが、それはシェルターが破壊されるより前にしないと意味がない。前線が崩壊し、念威繰者の伝達が遅れ、シェルターが破壊された今更に非難しても遅すぎる。
また、そのような状況で冷静で、安全で、迅速な避難が出来るはずがなく、シェルターの通路は人でごった返し、我先に逃れようとする人々で詰まった。

「うわあああああっ!?」

汚染獣が迫る。そのたびに悲鳴と怒声が上がる。
今更ながらに緊急時のシャッターが下がり、汚染獣の進行を防ごうとする。だが、シャッターなんてものはその場しのぎにもならず、汚染獣はシャッターをこじ開けてさらに侵入してきた。

「セリナさん!」

レウが叫ぶ。彼女は人ごみの津波に呑まれ、シェルターの奥へと押しやられていく。それに対してセリナは反対側に、汚染獣の付近へと流されてしまった。

「あ……」

気がつけば、汚染獣はもう目の前。その巨体が、複眼の様な目がセリナを捉えた。

「う、あ……」

セリナの表情に、いつもの余裕は見られなかった。初めて感じる死の恐怖。戦う術を持たない一般人が、汚染獣と言う脅威の前に晒されれば当然の反応だろう。
まさに蛇に睨まれた蛙。セリナは身動きひとつ取る事も出来ずに、これから起こることを眺めることしか出来なかった。

「僕の女に……」

「え?」

セリナには、これから蹂躙される汚染獣を眺めることしか出来ない。

「手を出すなあああああ!!」

セリナに迫っていた汚染獣が真っ二つに割れる。中心から叩き切られ、辺りには簡易な作りの臓物と、青臭い体液が飛び散った。
状況が飲み込めず、唖然とするセリナはそのまま引き寄せられ、胸板に押し付けられるように抱きしめられた。

「大丈夫でしたか、セリナさん」

「レイ君……」

逞しい胸板を持ち、セリナを抱きしめたのはレイフォンだった。彼は右手に刀を持ち、左手でセリナの頭を撫でるように抱き寄せる。
そして耳元で、セリナを安心させるように囁いた。

「ちょっと待っててくださいね。すぐに終わりますから」

そういって、レイフォンはセリナから距離を取る。
先ほど両断した汚染獣の死骸を掻き分け、新たな汚染獣が内部に侵入してきた。

「邪魔」

その汚染獣も、すぐさまレイフォンの手によって両断される。
更にその奥、三体目の汚染獣も両断された。そして瞬く間にシェルターと通路内にいた汚染獣は殲滅され、レイフォンはシェルターの外に飛び出す。

「ひい、ふう、みい……大体三十体くらいかな?」

シェルターの前に群がる汚染獣達。彼らはレイフォンの後ろにいる人間(餌)を求め、殺到しようとしていた。
だが、それを許すレイフォンではない。ここから先は通行止め。殺到する汚染獣に対し、逆にレイフォンの鋼糸が汚染獣に向け殺到した。
刀の刀身がいくつにも分かれ、細く、長い糸が戦場を舞う。髪より細いそれは見た目以上の力強さを宿しており、幼生体の甲殻など一瞬で切り裂いていく。
まさに一掃。汚染獣三十余りを殲滅するのに三秒とかからなかった。



「お、俺達、助かったのか?」

「ああ……」

あまりにも衝撃的すぎる光景に、シェルター内にいたほとんどの人は何も行動できずに呆然としていた。
先ほどまでに我先に逃げ出そうとしていたのが嘘のようであり、今は時間が止まったかのように静寂した雰囲気が場を満たしていた。

「こちらに迫っていた汚染獣は殲滅しました。だから落ち着いて、誘導員に従って迅速な避難をしてください」

その雰囲気を作った当人、レイフォンはひょっこりとシェルター内に戻ってくる。
既に遅れていた伝達は回復し、生徒会役員が誘導員となって避難を促していた。レイフォンはそのことをシェルター内の人々に告げると、シェルターは歓喜で沸いた。

「すげえ、すげえよ!」

「一人で汚染獣を倒しやがった!!」

「第十七小隊の一年生だろ? こんなに強かったのか!」

助かったことに対する喜び。レイフォンへの賞賛。様々な歓喜の声が入り乱れる中、レイフォンは平然とセリナの元へ歩み寄る。

「一旦は終わりましたけど、まだ汚染獣は残っていますので」

「うん……がんばってね、レイ君。それから、ありがとう」

「はい」

レイフォンはまだ戦わなければならなかった。セリナの安否を確認することはできたが、すぐにまた戦場に戻らなければならない。
だから、用件は手短に済ませる。

「あ……」

短く、触れるだけの軽いキス。周囲の視線など気にせずに、レイフォンは呆けるセリナに向け悪戯っぽく笑った。

「それじゃあ、がんばってきます」

周囲からは好奇の視線と、茶化すような視線が向けられる。誰かがピューッと口笛を吹いた。中には嫉妬に満ちた視線なども向けられる。
けれど、それら全てを無視しレイフォンは戦場に舞い戻る。いつもの日常、平和なツェルニ、女性あさりの日々を取り戻すためにレイフォンは戦う。


†††


「よっと」

レイフォンの戦う理由は、わかりやすく言えば女性を守ること。正直、男はどうなっても構わなかった。
男ならばいかなる危険も自分の器量で払って当然。女性ならば、いい男にそれをやらせるのが当然。
これはレイフォンが最も尊敬する武芸者、トロイアットの言葉でもある。そしていい男、レイフォン・アルセイフは女性を守るために戦う。

「大丈夫ですか?」

「別に助けてくれなんて言ってません」

今回、レイフォンが助けたのは同じ第十七小隊所属の念威繰者、フェリだった。
既に前線はボロボロで、市街地にまで幼生体の進入を許してしまっている。これは例えこの戦いに勝利したとしても、復旧などが大変そうだ。
もっともそんなこと、戦うことしか出来ないレイフォンにはどうでもいい。都市の復旧や再考について考えるのは上層部の仕事だ。

「ところで、ロス先輩はどうしてここにいたんですか?」

「……なんでもいいじゃないですか」

レイフォンの問いかけに対し、フェリは明らかに不機嫌そうに言う。表情の変化はほとんどなく、無表情なのだが、それが逆に今のフェリの心境を表しているように見えた。

「ロス先輩は念威繰者ですよね?」

フェリは念威繰者だ。そして第十七小隊所属の小隊員でもある。ならば戦場に出て、念威を使うのが当然だ。なのにフェリはシェルターにも避難せず、こんな場所に一人でいた。
レイフォンが来なければ汚染獣に襲われ、死んでいたのかもしれないのに。現に先ほど、フェリは汚染獣に襲われそうになっていた。

「あなたも、私に念威を使わせたいんですか?」

そのことを指摘すると、明らかにフェリの表情が引き攣る。相変わらずの無表情だが、それで感情の動きが手に取るようにわかるようだった。

「この力は、好きで手に入れたわけではありません。私は、こんな力はいらないんです。誰かが欲しいのなら上げたいくらいです」

「ロス先輩?」

「今が……わがままの言えない状況だということは分かっています。それでも、利用されるのは嫌なんです。どうしても嫌なんです」

「えっと……」

フェリの悲痛な叫びに対し、レイフォンは困ったように頬を掻く。事情は飲み込めないが、フェリは念威を使うことに抵抗を持っているようだった。

「ロス先輩は、念威を使うことが嫌なんですよね?」

「はい……例え死ぬことになろうと嫌です」

「死なせませんよ」

「え……?」

それでも、これだけは確かなことだ。フェリは女性であり、つまりはレイフォンの守るべき対象。
しかも彼女、フェリ・ロスはミス・ツェルニの称号を得るほどの美人。むしろフェリのために戦わない理由が見つからない。
レイフォンはにっこりと、優しそうでその裏には獣が潜んだ笑みをうかべ、フェリに語りかけた。

「何故なら、あなたは僕が守りますから」

「は?」

フェリは無表情だった。その視線には、『なにを言ってるんだこいつ』という想いがありありと含まれていた。
それにも構わず、レイフォンは芝居がかったしぐさで続ける。

「念威を使いたくないというのならそれでも構いません。あなたは、あなたの好きなようにすればいいんです。その邪魔になるものは、僕が斬り捨てます」

レイフォンは跪き、フェリの手を取る。そして手の甲に、軽い口付けをした。

「今宵、僕はあなたを守る騎士(ナイト)になりましょう」

「キモ……」

今度は無表情ではない。フェリは明らかに嫌悪に染まった表情をしており、レイフォンを見下すような視線を向けた。

「あなたはなにを言っているんですか? 正直キモいです」

「はは、酷いですね」

レイフォンは笑っているが、フェリは明らかに嫌そうだった。
ポケットから取り出したハンカチでごしごしと手の甲を拭い、拭ったハンカチはそのまま地面に投げ捨てる。

「あなたのような輩に借りを作るのは、死んでもごめんです」

「酷すぎませんか?」

「なので今回だけ、今回だけは力を貸してあげますから、とっとと汚染獣を倒してきてください」

「へ?」

呆けるレイフォンに対し、フェリは有無を言わせずに言った。


†††


「はは、凄いですね」

『それは嫌味ですか?』

「本心ですよ。ロス先輩、あなたは本当に凄い。惚れちゃいそうです」

『やめてください、気持ち悪い』

汚染獣は次々と駆逐されていく。レイフォンがリンテンスに学んだ鋼糸の技で、広範囲の汚染獣を一気に殲滅していった。
それを可能にするのがフェリの念威だ。レイフォンが先ほどまで念威繰者の質の低さに困っていたと言うのに、フェリにはそんな不満を一切感じない。これほどの支援は、グレンダンの戦場以来だ。
経験、その他様々な要因からグレンダン最高、いや、おそらくは世界最高の念威繰者であるデルボネに劣るが、それでも才能だけならばデルボネに匹敵、もしくは凌駕しているかもしれない。
これがフェリの才能。周りが彼女に念威を使うように強い、本人は嫌悪する才能。正直、もったいないと思うこともあった。だが、どんな理由があるにしても、レイフォンにとってフェリは守るべき対象だ。一夜を共にしたいと思っている。
ならば彼女の意思は尊重するし、無理強いはしたくない。だが、フェリは言ってくれた。今回だけは力を貸してくれると。それでいい。それで、この危機は乗り越えられる。

『母体を発見しました』

「流石ですね。じゃあ、クララをそっちに向かわせてください。僕は残りの汚染獣を一掃します」

『わかりました』

レイフォンは言葉どおり、残りの汚染獣を一掃した。もうツェルニには、一匹も汚染獣はいない。
それから時間を置かず、フェリの念威からクラリーベルが母体を倒したという連絡が入った。
危機は去った。汚染獣がいなくなり、ツェルニには日常が戻ってくる。
そしてレイフォンは、今日も明日も女性をあさり続けることだろう。
























あとがき
一巻編終了ー!
いやはや、怪我して入院した時、リハビリとして書いた一発ねたでしたが、まさかここまで続くとは。
ってか、前の更新からだいぶ時間が経ちましたね……少し反省です。
今回はフェリとのフラグ関連で色々オリジナル展開を入れ、こんな形となりました。正直、今まで書いた外伝って執筆時間短縮のために使い回しをしてた部分があったので(滝汗
なので今回は執筆するのにかなり時間がかかりました。それでもなんとかやり遂げられたので、達成感があります。
では、最後におまけを載せて今回はお別れと使用と思います。ではでは~




















おまけ

『同居』





「困ったわねえ……」

セリナは困っていた。先日の汚染獣襲撃。ツェルニはなんとか撃退に成功したものの、その被害はかなり大きい。市街地にも侵入を許しており、様々な建物や施設が破壊された。
現在、生徒会が先陣を切って復興作業をしているものの、まだまだ時間がかかるのが現状である。
そして、セリナが困っているのは今まで自分の住んでいた女子寮が汚染獣によって破壊されたからだ。セリナの住んでいた場所は中心部の学校から遠く、外縁部の近くにあったために真っ先に被害に遭った。
他にも破壊された寮は何件かあるようで、そこに住む生徒達には生徒会側から仮設住宅が与えられることとなっている。そこに引っ越すために、寮の瓦礫の中から使えそうなものを見繕い、荷物をまとめている最中なのだが、女性の身で瓦礫を動かすのは一苦労だった。

「ニーナちゃんは入院してるし、本当に困ったわ……」

こういった力仕事は武芸者が得意だろう。だが、この寮の住人であるニーナは先日の戦いで負傷し、現在入院中。もう一人の同居者レウは一般人であり、こういった力仕事には向かない。
また、現在は所用で外している。ツェルニの学生が総動員で復興作業が行われている今、暇な者などどこにもいないと言ってもいいだろう。

「セリナさん」

「あ、レイ君」

武芸者の場合は先の戦闘のため、生徒会から公認で休暇を与えられている。大戦果を上げたレイフォンもその一人だ。

「大丈夫ですか?」

「う~ん……怪我がなかったのは良かったけど、これからがちょっと大変なのよね~」

「そうですよね。ところでセリナさんは、これからどうするんですか?」

「生徒会が用意してくれる仮設住宅に移ろうと思っているんだけど……」

セリナの心配をして訪れたレイフォンは、困り果てている彼女に向けにっこりと笑顔を向ける。

「じゃあ、僕と一緒に暮らしませんか?」

「え?」

「僕の住んでいる寮は被害に遭いませんでしたし、部屋も開いているから大歓迎ですよ」

「え、でも、それって……迷惑じゃない?」

「なんでですか? 僕はセリナさんと一緒に暮らせるなら、とっても嬉しいですけど」

「レイ君……」

レイフォンの言葉に、セリナの頬は紅葉する。こう言われたのが嬉しくって、セリナはとても嬉しそうに返答を返した。

「じゃあ、お願いできる?」

「はい。これからよろしくお願いします」

レイフォンの手伝いもあって、使えそうなものは全て運び、また必要なものを購入し、セリナはレイフォンと共に暮らすこととなった。


†††


「えっと……レイ君?」

「なんですか?」

セリナはレイフォンと暮らすことを承諾した。だが、これは聞いてない。聞かされていない。

「この子は誰?」

「クララです」

「クラリーベル・ロンスマイアです。よろしくお願いします」

ここにはもう一人同居者がいた。レイフォンがグレンダンから連れて来た女、クラリーベル。
彼女の存在に、セリナは表情を引き攣らせる。

「レイ君って、そういう人だったんだ」

「そうですよ」

レイフォンは笑う。背後からセリナを抱きしめ、獣のように攻撃的な笑みを浮かべていた。

「でも、手を出した女性にはちゃんと優しくしますからね。責任は取りますし、絶対に捨てたりはしません。女性が悲しむと、自分のこと以上に心が痛いですから」

「レイく……んんっ!?」

まだ何か言いかけるセリナに対し、レイフォンは自分の口でセリナの口を塞いだ。
右腕をセリナの胸に這わせ、左腕を制服のスカートの中に入れる。

「あ、レイフォン様ずるいです! 私にもしてください」

「じゃあ、寝室に行きましょうか。二人まとめて相手してあげますから」

セリナは思った。自分は早まったかもしれないと。


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