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No.31692の一覧
[0] 【習作】うつけもの幻想記【東方】[やまやま](2013/05/17 11:48)
[1] 二話[やまやま](2013/05/16 02:36)
[2] 三話[やまやま](2013/05/17 11:46)
[3] 駄作であることを決定づけるような登場人物紹介(偽)[やまやま](2013/05/18 16:46)
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[31692] 【習作】うつけもの幻想記【東方】
Name: やまやま◆9c67bf19 ID:e404788e 次を表示する
Date: 2013/05/17 11:48
 ※この物語はハーメルン様との二重投稿です。

 

 
 おかしな男の話をしよう。
 例えて言うなら、灯火に向かって飛ぶ夏の虫のような男の話だ。
 虫は、その習性によって例え自分を滅ぼす炎であっても近寄ろうとする。
 結果に待つのは自身の滅びだ。しかし彼らは学ばない。
 例え何度生まれ変わろうと、虫は変わらず火に飛び込む。
 
 これは、そういう男の話だ。
 名前は源安綱。
 
 かの英雄、源頼光の子孫を自称するうつけ者だった。
 
 彼が幻想郷へやってきたのは、十年程昔の頃だった。
 今代の巫女よりも年上と見られる安綱は、その時、恐らく十にも見たぬ童だったように思う。
 そんな物語にまったく関係のない情報はさておき、彼の性格はその時から少しも変わっていない。
 単純にわかりやすくするため、彼の性格を把握できる事実を述べよう。
 
 スペルカードが制定されていない時代で、着物一つで妖怪の山に散歩しに行った。
 
 ――彼は一種の天才だった。
 こんな逸話がある。
 ある夜、彼が先祖から受け継いだ刀を挿して里を歩いていると、目の前に烏天狗が現れた。
 間髪入れずに斬りかかったらしい。
 だが、刃が天狗を傷つける前に、彼は大地に張り倒されていた。
 ……弱かった。先祖の血は、時と共に酷く劣化していたらしい。
 人の枠内であればそこそこ強い。それは彼が、妖怪退治のために日々努力しているからだ。
 
 それでも妖怪に勝てる見込みなど全くなかった。能力も持たず、お粗末な霊力で身体強化しかできない彼には。
 にも関わらず、何故か彼は執拗に妖怪に勝負を挑むのだ。
 
 これは人里の七不思議の一つなのだが、幻想郷の有力な妖怪に片っ端から喧嘩をふっかけて、ボコボコにされながらもまだ生きている。
 本当におかしな男だった。
 
 加えて、安綱は人付き合いに於いてもあまり得意な方ではなかった。
 愛想、という概念を母親の胎内に置いてきたのかも知れない。
 長身であることや、その瞳が釣り上がっているのを見ると、無闇矢鱈に喧嘩を振りまいている風にも思える。
 言葉遣いにも遠慮がなく、ごくごく一部の寛大寛容な人であれば、話しやすいと捉えられるだろう。
 
 妖怪に対してもその態度に変化はなく、というよりも人に対してより余程きつく感じられるのは先祖が先祖だからだろうか。
 
「おい、そこの花妖怪」
 
 と、うっかりかの有名な怖い妖怪に声をかけるくらいはしていそうだ。
 それだけに留まらず、喧嘩を売って大敗し、それでも死ななかったと言われても信じられるかもしれない。
 
 これから綴る物語は、余りに弱く、余りに尊大で、どこかおかしい。
 それでも人間らしくあり続ける、退魔の男の話である。
 例えどんな脅威であっても臆さない。
 どれだけ大きな壁であっても退く事はない。
 絶対に屈する事なく、先祖の名を掲げ、人と妖怪が住む幻想郷を駆け抜けた、とても愚かな男の話である。
 
 

 
 
 自称、古の英雄の子孫。源安綱が博霊神社を訪ねたのは、あの『三日置きの百鬼夜行』異変が終わって直ぐの事だった。
 もっと分かりやすく言うなら、春雪異変から数カ月過ぎた夏も半ばの頃である。
 梅雨の季節も既に終わり、天から注がれる陽光は容赦無く肌を焼く。
 早朝であるにも関わらずだ。
 安綱は雲一つ無い白ばんだ空に嫌気が差しながらも、淡々とした様子で階段を登っていた。
 
 ふと、安綱は顔を上げた。目付きの悪い顔がどんどんと険しくなっていく。
 異常を感じたのだ。確証が持てないものの、薄い妖気を察知した。
 自然、左手は静かに腰へと伸ばされる。
 差しているのは二振りの刀だった。
 先祖から受け継いだと主張しているそれらは、事実かどうかはさておき、銘を『鬼切』『蜘蛛切』という。
 
 その内の一つ、鬼切の鞘に手をかけてじっと待つ。
 
「……」
 
 何も起きない。
 気のせいかと思い、鞘に手を置いたままの状態で、安綱はまた淡々と登りはじめた。
 
 徐々に着物が汗を吸って重くなる。
 幻想郷には、軽々と空を飛びながらも人間を名乗る者が存在するが、安綱は今日ほどそれが羨ましいと思った事はない。
 頬に流れる雫を乱暴に手の甲で拭いながら、一歩一歩と神社へ近付いていく。
 
 見れば、いつもよりもその顔に含まれている険の度合いが多い気がした。
 何か心に思う所でもあるのかも知れない。
 考えても見れば、このような早朝に神社へと赴く事がおかしいのだ。
 博麗神社。幻想郷の人と妖怪、双方の絶対秩序。妖怪退治において右にでる者はなく、人間最強を誇る巫女が住まう場所。
 
 無論十年ほど此の地で生活してきた安綱とは知り合いであるが、かといって親しいという訳ではない。
 どちらかと言うと一方的に敵視している。当然安綱が。
 常々本当に人間なのか、と疑わざるを得ない逸話を聞かされるのだ。
 保有する能力も曖昧で、妖怪よりも得体が知れない。
 
 だから姿を見かけても、彼から積極的に話しかける事はあまりなかった。
 巫女としても興味はないだろう。所詮安綱は一山いくらの人里の退魔師である。
 
「……ふう」
 
 階段を登り切った安綱は、揺れ動く肩を落ち着けるために、息を整える。
 真上にある鳥居の影にそっと身を滑りこませて、顔に掛かる汗に濡れた髪の毛を、静かに払った。
 境内に視線を向ける。青々とした木々に囲まれる、寂れた神社。
 何時来ても変わらない印象に、安綱は無意識に口端を釣り上げていた。
 
 その直ぐ後に、いかんいかんと首を振る。
 懐かしむ為に来た訳ではないらしく、安綱は顔を引き締めて、鬼切を勢い良く鞘から抜き放った。
 思い切り、息を吸い込む。
 
 そして――。
 
「鬼退治だあああああああああ! 出てきやがれ腐れ鬼ぃぃいいい!」
 
 ――大気を震わす声量で、人の迷惑も考えずに宣戦布告を叩きつけた。
 
「おおっ。なんだ私をご指名かい!?」
「……!?」
 
 聞こえた声は真上からだ。
 鳥居の上か、と即座に振り向き視線を向ける。
 しかしそこには何もない。
 
 では、どこだと辺りを見渡し、最後に後ろを振り向くと。
 
「人間に喧嘩を売られるのは久しぶ……いや、つい最近もやったな。まあいいや」
 
 そこに、いつの間にか小柄な少女が立っていた。
 いや、人ではない事は直ぐにわかる。その頭には日本の大きな角があったからだ。
 赤ら顔でそう呟く子鬼は、腰に下げた瓢箪を掴んでいる。
 酒臭かった。
 
 どう見ても泥酔極まりない状態だ。
 そんな人外に対して、安綱は。
 
「お前じゃねえ。失せろじゃりん子」
 
 何故か物凄く落胆した表情を浮かべてそう吐き捨てる。
 
「は? あんた鬼を退治しに来たんだろ。じゃあ私しか居ないじゃないか」
「嘘を付くな。ここには酒呑童子が居るはずだ。さっさと出せ」
 
 ぶっきらぼうにそう返す。呆気に取られたのは子鬼だった。
 
「いやだから私だって。伊吹萃香。酒も飲んでるだろう」
 
 ほれ、と見せ付けるのはさっきから片手に持っていた瓢箪だ。
 怪訝そうな顔をして受け取れば、中から酒の匂いがした。
 しかし納得の行かない顔をして、安綱はそれを突き返す。
 
「酒呑童子? お前みたいなちびっ子が?」
 
 挙句の果てにはそう言って、鼻で笑った。
 
「あんたねえ。それ以上言うと怒るよ」
「良いからさっさと――」
 
 言い終わる前、警告を物ともしない安綱に萃香が動いた。
 目で追うことの出来ない打撃が迫る。
 何かがひしゃげる轟音が響いた。
 
「………」
 
 驚きに目を見張る安綱。それもそのはず。
 顔に来ると思われた拳は、その横を通りぬけて鳥居に直撃。
 ものの見事に根本から叩き折られ、音を立てて階段を落下していったのだ。
 
「これで納得したかい、人間」
 
 その様子に、萃香は獰猛な笑みを浮かべた。
 驚愕している安綱に少しは気を良くしたのか、先程発した途方もない殺気は若干薄れている。
 しかし――。
 
「お前が酒呑童子?」
「だから、さっきからそう言ってるじゃないか」
「俺のご先祖様が討ち取り損ねた鬼!?」
「だからそうだって――って何の話だいそりゃ」
 
 思いっきり首を傾げて眉根を寄せる萃香。
 考えもしない疑問を投げられて、答えに窮した。
 
「俺の名は源安綱。源頼光の子孫だ!」
「――は? ……あんたが頼光の子孫~!?」
 
 本当に驚いたのは鬼の萃香の方だった。
 彼女が思い浮かべるのは千年以上も前のこと。人と鬼と神が袂を分かち始めた時代。
 手下を率いて鬼の山にやってきた人間だ。恐ろしい程腕が立ち、人間でありながら鬼と殺り合った者。
 その時の記憶は、今も鮮明に思い出せていた。飲んだ酒の味、拳と剣で語り明かした一晩の事。全てが昨日の事のように思う。
 そうしてみれば、萃香から見た安綱には確かにその面影があるように感じた。
 
「にしてもこんなちっちゃいのに負けたのか、ご先祖様。仇は俺が討つ!」
「ちっちゃい言うな。あと他にも色々と言いたい事はあるけど、とりあえず戦るっていうなら相手になるよ」
「――よっしゃあ死ねェェェ!」
 
 あまり人間らしいとは言えない開戦の雄叫び。
 
「来な、人間。揉んでやるよ!」
 
 その幕が上がった。
 
 境内に、――大地を揺るがすような打撃音が響き渡る。
 
「―――ゴフゥッ!」
 
 そして戦いの幕が降りた。
 
「早いなオイ!?」
 
 錐揉み回転しながら神社横の森に吹き飛ぶ安綱。
 鬼の動体視力で顔を見れば、完全に白目を向いて意識を失っていた。
 誰も傷つけぬままに持ち手を失った鬼切は、空中を回転して落ち、玉砂利に敷き詰められた境内に綺麗に突き刺さる。
 
「え、ええー……」
 
 拳を付き出した萃香は、呆然とするしかない。
 頼光の子孫だというから、それなりにやるだろうと思っていた。
 彼女としては懐かしい顔の子孫でもあるし、鬼として受けた決闘でも死なないように少しは手加減したが……。
 
「物凄く綺麗に入っちゃったよ。死んじゃったかな……」
 
 流石の鬼も冷や汗を掻いた。一応様子を見に行こうと森へ近付いていく。
 酔いも醒める思いだ。
 拍子抜けにも程がある。
 そういえば、と萃香は歩きながら記憶を掘り返してみた。
 そういう噂をどこかで聞いた覚えがあったのだ。
 昔の英雄の子孫を名乗る馬鹿が、妖怪に楯突いてはボコボコにやられていると。
 
「やれやれ、参っちゃうよまったく――」
 
 境内を横切って森へ入ろうとした。
 だがそこで嫌な気配を覚え、萃香は凍ったように立ち止まる。
 
「――そうね。本当に参っちゃうわ」
 
 聞こえてきたのは、そんな少女の声だった。
 笑みが含まれている。含まれてはいるものの、地獄から這い上がってきたような腹に響く声だった。
 じりじりと首を動かし、振り返る。
 
「れ、霊夢……?」
「安眠を貪っていたら馬鹿でかい音で起こされて、何事かと外に出たら鳥居が粉々……」
 
 そこに、仁王立ちする魔王が居た。
 いや、巫女だ。赤と白を貴重にした、いつもの腋を出した巫女服を着ている。
 もっとも、特筆すべきは全身から漲らせている巨大で禍々しい霊気だが。
 
「いや、それはちゃんとした訳があって――」
「その上ッ! ……境内はめちゃくちゃ。森も破壊されてて、ねえ萃香。本当に参っちゃうわ」

 聞く耳は持っていないらしい。
 陰陽を象った紅白の珠が、いつの間にか霊夢を周りに浮かんでいる。

「はははは……悪かった――!」
「やかましい! ――夢想封印!」
 
 鬼の悲鳴が神社に響いた。
 








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