一年生活秘録 その3 『カリヤンクエスト』 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 復活の呪文を入れてください―――。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ Side - 間桐雁夜 間桐雁夜は変わってしまった自分に対する自問自答を繰り返していた。それをやった所で何かが変わる訳でもなく、何かが得られる訳でもない。それでも、『どうしたこうなった?』と現状を思わずにはいられないのだ。 まず大きな変化として、一日中持ち歩いている荷物が二つ増えた事があげられる。 真っ先に『間桐に戻ってきた自分』を考えなくなった辺り、すでに雁夜の中では間桐は過去の話として完結しているらしい。あるいは鶴野が間桐邸を出て行った時に完全に終わってしまったのかもしれない。 とにかく、雁夜は近頃増えた荷物のうち、よく身に着けている腰ポシェットに手を触れる。 紺色の防水タイプは見目煌びやかさを完全に排した実用性のみを追及して購入した一品だ。近くの店で購入した物なので別に珍しくもなんともないが、頑丈と言う点では気に入っている。 ただし大事なのは腰ポシェットではない、腰ポシェットに入っている中身であり、片手で鷲掴みに出来るモノが重要なのだ。 腰ポシェットのチャックを開けて視線を向けると、その中身が―――ゴゴから渡された魔石の一つがその存在を自己主張しており、淡い緑色の光とオレンジ色の輝きを振りまいている。 最初は素手で触っていなければ魔石に魔力を注ぎ込めず、幻獣を呼び出すことが出来ないと思っていた雁夜だったが、色々試して肌身離さず持ち歩いていれば魔石への魔力供給と幻獣召喚が可能になる事が判明した。 ゴゴの言葉を借りるなら『魔石を装備している』との事だが、手で持っていなくても魔石を扱えるようになったのは嬉しい発見だ。 逆に一定の距離内に合っても足元にあったり、机の上に置いた魔石の横に手を置いても魔力供給は行えない。これを的確に表現する言葉は『手放す』だろう。 魔石を持ち歩けるならば、複数個を同時に持って、別々の幻獣を同時に呼び出すのも可能なのかと考えた。しかしゴゴによると魔石になった幻獣は基本的に仲が悪いらしく、複数の魔石を持っていても、幻獣召喚が行える魔石は常に一つらしい。 都度、召喚する魔石を切り替えられるようだが、これは雁夜の絶対的に少ない魔力により今だ実現できていない。雁夜は持つ魔石を常に一つに絞り、手数を増やすのではなく重点的に一つの力を高める方針を取った。ちなみにこれはゴゴの鍛錬の方向性から雁夜が導き出した結論である。 魔術師としてなんの力も持っていない雁夜が色々な方面に手を伸ばして身に付くとは思えない、ならばゴゴが雁夜に向いていると言った力を起点として、伸ばす方向を一点に絞った方が効率的だろう。 そこで用意されたのが、この腰ポシェットだった。 実は桜ちゃんにも色違いの腰ポシェットをプレゼントしており、仲の良い者同士のペアルックのようで少し楽しかったりする。 雁夜の腰ポシェットは紺色、桜ちゃんの腰ポシェットはピンク色。どちらも用途は物騒であるが、似た何かを持っていると言うそれだけで繋がりがある様に思えるのだ。 雁夜は腰ポシェットのチャックを閉めながら、もう一つ増えた手荷物へと視線を向けた。 それは長さが一メートルはあるアジャストケースだった。 常に手を伸ばせば触れる位置に置いており、今も雁夜の左側に置かれ、真黒く長四角の存在感を主張している。 アジャストケースは作図用紙や大型図面などを持ち運ぶときに用いられる品で、魔術師として聖杯戦争に参加しようとしている雁夜には無用の長物だ。けれど、その中身、雁夜がゴゴとの鍛錬を開始してから持つようになったあるモノを持ち歩く為にアジャストケースは都合がよかった。 本来ならばアジャストケースなどに入れる様な代物ではない神秘の道具、まだ『使いこなす』等と恥かしくて言えない上等すぎる武器―――魔剣ラグナロクの納まっているアジャストケースを見て、雁夜は見た目以上に重いそれを考えた。 アジャストケースは鞘だ。魔剣ラグナロクを収める為に少し改造を施したお手製の鞘なのだ。 間桐邸を出てから海外に足を運んだこともあるが、人生において武器など殆ど扱った事のない雁夜にとって『剣』というのは未知の領域だ。どちらかと言えば『銃』の方がよほど武器としてはなじみ深いのだが、魔術師としてゴゴに教えを乞う者として師匠の教えを尊重するしかない。加えて、魔術師相手に銃が通用するかは未知数だ。 間桐邸に戻る以前ならば絶対に無かったであろう今。ものまね士ゴゴが偶然蟲蔵の中に現れなければ絶対に作られなかった今。しかし、雁夜は偶然と必然とものまね士ゴゴの行動理念によって多くの力を得た。得てしまった―――。 どうしてこうなった? 雁夜は再びその疑問を脳裏に思い描くが、答えなど最初から判りきっている。 桜ちゃんを救うためだ。 だから雁夜はここにいる。 だから雁夜は間桐邸に戻った。 だから雁夜は自分鍛えている。 聖杯戦争に関わり、遠坂時臣と戦って勝利を収め、新たな選択肢を得て、桜ちゃんを救う為、間桐雁夜はここにいる。もたらされた力を十全に扱うようになる為にここにいる。 力無き者は選ぶ自由すら与えられないのだから―――。 雁夜にとって自分の行動指針を思い出すのは自分の存在を確かめると同時に、何を第一に考えるかを常に念頭に置く儀式に等しい。 無神論者である雁夜は神に祈った事がないので、イスラム教において一日に五回も行われる礼拝など、言葉以上の意味は知らないしやった事もない。それでも雁夜が今の自分の原点を心に思い描くのは宗教の礼拝に近いかもしれない。 間桐雁夜は遠坂桜を救う為ならば、どんな道でも突き進むと決めた殉教者だ。 そうやって雁夜は自分で自分に言い聞かせ、アジャストケースに入った魔剣ラグナロクの重さと腰ポシェットに入った魔石の感触を確かめながら、今日も鍛錬の為に蟲蔵へと向かう。 戦闘者になれていない雁夜の腕には、魔剣ラグナロクが収まるアジャストケースは重いままで、ずっしりと手に返ってくる重さによろけてしまう。 雁夜はポシェットの中にある魔石の存在を確かめつつ、アジャストケースから出した魔剣ラグナロクを両手で支えてゴゴと対峙した。 ラグナロクは構えているのではない。あくまで『持っている』だけで、剣の重さに振り回されっぱなしで、満足に扱えた事など一度もない。もちろんゴゴの『あばれる』で敵と対峙した時は武器として用いるが、素早い敵には軽く避けられるし、当てるのは一度や二度が限界で、『斬る』や『突く』など剣として使った事は一度もなかったりする。 鈍器として使い『殴る』のが現状だ。 雁夜はそんな自分の不甲斐なさに嫌気を覚えるが、いつもと違う蟲蔵の様子に気づいて、まずそちらに意識を向けた。 「桜ちゃんを呼ばなかったのはどういう理由だ?」 「今日の鍛錬は少々大事になるんでな。蟲蔵の中に俺と雁夜以外がいると不都合だ」 「不都合?」 そう、いつもならば雁夜とゴゴの戦いを見て『魔術師同士の戦いの恐ろしさ』を間近で見物している桜が今日はいなかった。元々、桜を蟲蔵に呼んだのはゴゴであって雁夜ではない、血生臭い戦いの傍に置きたくない雁夜としては桜がいない方が好都合なのだが、ゴゴの言う不都合とは何のことだろうか。 「どういう意味だ? 一体、今日は何をするつもりなんだ」 「今日は『敗北』をお前に教える日だ。今のお前じゃ絶対に勝てない敵を相手にしなければならない。これまでは雁夜ならば辛うじて勝てる相手ばかりに変わって、常に辛勝するように鍛えてきたが、絶対に敵わない相手がいると知るのもいい教訓になるだろう」 「まさか・・・・・・、お前が直接相手をするのか?」 「そんな事をしたら鍛錬にならない。立ち向かう敵に常に勝てるとは限らないからな、『逃げられるならば逃げる』、戦いにおいては生き延びる事も重要だと身に染みて判らせてやる。桜ちゃんがいたらお前は逃げられないだろう?」 ゴゴの言葉を聞きながら、雁夜は『当たり前だ!』と思った。 雁夜が臓硯亡き後も蟲蔵に来ている理由は桜を救う為だ。そんな決意を胸に抱くならば、戦いの場に桜を置き去りにして自分だけ逃げるなんて事は絶対にしてはならない愚挙だ。そんな事をした瞬間に、雁夜は雁夜ではなくなってしまう。 自分を許せなくなってしまう。 逃げ出した自分を殺したくなる。 で自分を殺さなければならなくなる。 雁夜はそう思いながらも、今日は一体どんな敵が出てくるのか? と疑問を抱いた。 これまでゴゴが豹変した敵は『ガード』『ヴァレオル』『オリエントデビル』など、様々な種類の敵に変わったが。魔石と魔剣の力によってそれら全てに勝利を収めてきた。 戦えば戦う程力が身についている実感があり、一足飛びで進むような劇的な変化ではないが、確実に鍛錬の成果が出ている。慢心するつもりは全くないのだが、少しだけ『俺は強いのかもしれない』と思う時すら合った。もっとも、そんな意識はゴゴが見せた常識外れの力を思い出せば軽く吹き飛ぶが。 敗北を教えるとはどういう意味なのか? 絶対に勝てない相手とは何なのか? 雁夜が逃げると確信しているようだが、逃げなければどうなるのか? 多くの疑問が雁夜の中に生まれ、そして消えていく。結局のところ、やる事はこれまでと大差がないと判ってしまったからだ。 敵が現れたならば、相手をじっくり見てその力を分析し、勝利する為の最善を尽くし、決して止まらず動き続け、勝つ為の戦いをする。今まで蟲蔵の中で繰り返してきた鍛錬と何も変わらない。たとえ相手が誰であろうとやる事は同じだ。 そう考えると雁夜の緊張が少しだけほぐされ、この場にはいない桜を想える位の余裕を得られた。 以前の雁夜ならば桜を一人にする事に強い罪悪感を覚え、聖杯戦争の為に強くならなければならないと思いつつも桜と一緒に居たいと思っただろう。 しかし今は違う。 どういう訳かは知らないが、十匹に増えてしまったミシディアうさぎのおかげで、現在の間桐邸は寂しさとは無縁である。 少し探せば常に見つかる位置にミシディアうさぎがいるので、今の間桐邸は雁夜が一人になる空間を探すほうが難しくなっていたりする。 全てのミシディアうさぎが同じ格好をしているので、雁夜はそれらの見分けがつかない。辛うじて桜が常に抱いている一匹がスロットから現れた特別な一匹で、残りの九匹はゴゴが新たに呼び出した『量産型ミシディアうさぎ』だと判るのだが、区別できるのはそれ位だ。 十匹もの多さゆえに桜が寂しがっているとは思えない、それでも誰かが傍に居ない状況で寂しさを感じてはいないだろうか。雁夜はふと現実逃避のようにそんな事を思った。 「自分より強い相手に勝つのならば、力だけで戦おうとするな。世の中には『戦術』があり『戦略』がある。この二つを使えば、力で叶わない相手にも勝ちを拾う事は出来る。その為には逃げるのも時には必要だ。もっとも、今日の相手からは絶対に逃げられないと思ってるから準備は万端にしてやる」 ゴゴはそう言うと、腕を大きく伸ばし。右から左へ、上から下へと動かした。手の軌跡が蟲蔵全体を指し示しているのだと判ると、ゴゴを中心にして目に見えない何かが広がっていくのが判る。 結界だ―――。 普段じゃわざわざ手を動かしたりはしないのだが、今日は言葉通り『準備万端』でいくらしい。いつものゴゴらしからぬ準備の周到さに、雁夜は今日何が起こるのか再び疑問を覚えたが、やる事は変わりないと同じ結論に至って考えるのをまた止める。 ゴゴは一通り蟲蔵の中に手をかざし終えると、今度は雁夜に向けて手を伸ばして魔法を唱える。 これまでは怪我を直したり、鍛錬の最中に攻撃の為に行う場合ばかりだった。間桐の虫を除去する時にも同じように魔法をかけてくれたが、鍛錬の前に魔法をかけるのは初めてかもしれない。 ますます雁夜の中に疑問が膨らんでいく。しかしゴゴはそんな雁夜の葛藤を無視して雁夜に魔法をかけた。 「リレイズ!」 言葉を言い終えると同時に白く淡い光が―――これまでに何度か見てきた回復魔法を思わせる輝きが雁夜を包み込み、頭の天辺から足の指先までを包み込む。 体を光が纏わりつく感触は決して不快ではない。しかし、雁夜が初めて聞く魔法なので、その用途が判らず疑問を投げつけてしまう。 「今のは?」 「戦闘不能に陥った時、一度だけ自動的に復活する魔法だ。今の雁夜じゃ絶対に逃げられないからな、保険をかけておく」 「・・・・・・自動蘇生って事か。死者蘇生が出来るのは知ってたが、そんな事まで――」 喋る前に僅かに出来上がった間は隠しきれない驚きの現れだ。 ゴゴの力の強大さと汎用性には驚くしかないが、以前、桜に殺されて蘇らせてもらっている実績があるので、驚きの程度はそれほど大きくは無い。十秒とかからずに動揺を鍛錬への意識に切り替えられる。それ位の小さな驚きだった。 雁夜は自分に向け、『図太くなったな』と心の中だけで独り言を呟き、魔剣ラグナロクの柄を力強く握りしめた。 自動蘇生という奇跡に驚くのは後でも出来る。ゴゴが出来ると言うのならば、それは起こり得る事なのだろう。そうやって、雁夜は自分を納得させ、意識を完全に戦いへと切り替えた。 「じゃあ始めるぞ」 「よし、来い――」 「あばれる。『ティラノサウルス』」 「・・・・・・・・・」 雁夜はゴゴの言った『ティラノサウルス』が遥か過去に絶滅した恐竜の名前だと思い出しながら、ゴゴの変化を見極める為にラグナロクを手に持ったまま相手の動きを凝視する。 何が起こるのか? 恐竜の名はどんな意味を持っているのか? 何をしてくるのか? ゴゴを敵と見定め、何が起こっても対処できるように見て、観て、視て、ミテ、みる。 すると雁夜は目に見えない何かがゴゴの背後から湧きあがっていくのを感じ取った。 いや、その『何か』があまりにも大き過ぎて、魔術師としては素人同然の雁夜ですら判ってしまったのだ。 見えないが判る。何も見えないのにそこに確かに居る。 図鑑の絵や美術館の骨格標本しか見た事が無いが、間違いなくゴゴはそれに変わっている。 蟲蔵の天井の高さすら狭く感じる、現在知られている限りでの史上の最大級の肉食恐竜―――ティラノサウルスがそこにいるのだ。 雁夜の体など軽く飲み込む巨大な口が判る。 人の肉も骨も軽く噛み砕く鋭利な歯が判る。 成人男性の雁夜の大きさでも、一撃で吹き飛ばす強靭な尾が判る。 人など比較対象にすらならない大型の体躯が判る。 そして巨大な生き物の咆哮がゴゴの口から放たれた。 「■■■■■■■■■■■■■■!!!」 「・・・」 それは声でありながら声でなかった。 音でありながら音でもなかった。 本当に生き物の口から出て来た声なのか? これは本当に自分が聞いている音なのか? あまりにも大きく、あまりにも猛々しく、あまりにも暴力的で、あまりにも破壊の意思を含んだ叫びだった。 時に暴君竜と漢訳されるのも大いに納得できる咆哮だ。 これまでゴゴが豹変した状態で多くの敵と戦った。間桐臓硯と言う人外の怪物を相手に真っ向から話し合いを行った事もあった。けれどそんな体験が何の役にも立たない強大な化け物が目の前にいた。 雁夜は一歩も動けなかった。 息をするのを忘れた。 目を離せなかった。 鼓膜が破けたかもしれない。 何もできずに呆然とするしかない。 自分が生きているのかどうかすら疑わしくなる。 あまりの恐怖故に股の間から失禁しているのにも気づけない。 目に見えるのはゴゴが蟲蔵に立っている状況そのままだ。それなのにゴゴから湧き上がる恐竜の圧迫感が雁夜をそこに縛り付ける。 これが絶対に勝てない敵―――。 「あ・・・ぁ・・・・・・」 勝とうなんて微塵も考えられない。 戦おうなんて思い付けない。 逃げなければならない。 ようやく先程ゴゴが口にした『逃亡』を思い出すことが出来たが、そこにたどり着くまでに要した時間はあまりにも多すぎた。 これまでゴゴが『あばれる』で豹変し、別の何かに変わった時からそいつは雁夜の敵として殺そうとしてきた。ならば、このティラノサウルスもまた確実に雁夜を殺そうとしている。 目の前に立つのは明確な敵だ、それ以外の何者でもない。 『勝てる訳が無い』『逃げなければならない』それが意味を持つ言葉として雁夜の脳裏に浮かんだまさにその瞬間、姿形こそゴゴのままでありながら、本質を古代の恐竜へと変貌させたものまね士の口から破壊の魔法が囁かれた。 「メテオ」 「お?」 声と認識できなかった強大な咆哮とは別格の言葉。雁夜の耳がしっかりと捉えてしまったその言葉が言い終わるのと、蟲蔵の天井が星空に変わるのはほぼ同時だった。 本来そこにあるべき天井は一瞬で姿を消し、満天の星が上空に広がって小さな星の輝きで雁夜達を照らす。 今が昼間だとか、蟲蔵の上には間桐邸があった筈だとか、そう言った類の疑問を一切合財吹き飛ばす広大な星の海がそこにある。 雁夜は突然の変わりように思わず視線を頭上にやってしまい、その星空を目にしてしまった。 そして気付く。 広大な宇宙の闇の中にあって、輝く星の光を遮りながら雁夜へと向かう隕石に―――まっすぐに雁夜めがけて降り注いでくる破壊の象徴に―――気付いてしまう。 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!??」 逃げなければならないと頭では判っていた。勝てない敵から生き延びる為にはそれしか道が無いと悟っていた。 それなのに、雁夜は叫ぶ以外に何もできなかった。 隕石があまりにも早すぎたから。 隕石が雁夜を軽く呑み込むほど大きすぎたから。 隕石が自分めがけてまっすぐに突き進んでくると判ってしまったから。 叫ぶ以外に何もできなかった。 宇宙空間から飛来する隕石の衝突。雁夜の生涯の中では一生関わる事のない筈の天文学的な確率の現象が迫っている。 一秒もかからず、巨大な岩が視界全てを覆い尽くす。次の瞬間、雁夜の意識は闇に包まれた。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ おお、雁夜よ! 死んでしまうとは情けない・・・。そなたにもう一度、機会を与えよう。再び、このような事が無いようにな―――。