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No.31419の一覧
[0] 【真・恋姫無双】韓浩ポジの一刀さん ~ 私は如何にして悩むのをやめ、覇王を愛するに至ったか[アハト・アハト](2016/04/19 00:28)
[1] 立身編[アハト・アハト](2012/03/02 22:06)
[2] その2[アハト・アハト](2012/03/08 23:56)
[3] その3[アハト・アハト](2012/03/09 00:00)
[4] その4[アハト・アハト](2012/03/09 00:02)
[5] その5[アハト・アハト](2012/03/09 00:08)
[6] その6[アハト・アハト](2012/03/19 21:10)
[7] その7[アハト・アハト](2012/03/02 22:06)
[8] その8[アハト・アハト](2012/03/04 01:04)
[10] その9[アハト・アハト](2012/03/04 01:05)
[11] その10[アハト・アハト](2012/03/12 18:18)
[13] その11[アハト・アハト](2012/03/19 21:02)
[14] その12[アハト・アハト](2012/03/26 17:37)
[15] その13[アハト・アハト](2012/05/08 02:18)
[16] その14[アハト・アハト](2012/05/08 02:19)
[17] その15[アハト・アハト](2012/09/26 19:05)
[18] その16[アハト・アハト](2015/02/08 22:42)
[19] その17[アハト・アハト](2016/04/19 00:26)
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[31419] その14
Name: アハト・アハト◆404ca424 ID:053f6428 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/08 02:19
 
 2000名の兵を手勢と率いて、浚儀を目指した秋蘭。
 その進軍速度は極めて速かった。
 徒歩の歩兵主体とはいえ、荷駄を連れて居ない事の強みを生かしての事であった。
 それは、精鋭の曹家私兵隊を中心に纏めたが故に出来た事だろう。
 とはいえ人間である、体調不良などで脱落する人間も居る。
 通常は、それらを出さぬ様に進軍速度を抑えるものであったが、今回に限って秋蘭は、その問題を考慮せずに部隊を進めている。
 休憩は行うが昼食などは保存食を行軍しながら喰う有様である。

 特に官軍の兵は兵役として居る人間であり、その錬度は常備軍の様相を持つ私兵隊と比べて低い為、行軍の過酷さに、櫛の歯が抜け落ちるが如く兵の数が減っていく有様であった。
 この事に、将となる勉強の為として秋蘭の下に付いていた典甜馳が危惧を述べるが、秋蘭はそれに否と応えた。


「ですが秋蘭様、大きな賊軍と相対するのであれば此方の兵が減る事は避けるべきではないのですか?」


「今、我々が優先すべきは素早く浚儀に至る事だ。兵の多少は問題ではない」


「そうなのですか?」


「そうだ。兵自体は浚儀にも居る。それよりも我々が町に入る事によって、華琳様が地方を見捨てぬ意思を示す事の方が大事なのだ」


 護る事も大事であるが、それは真っ向から戦うだけで成せる事ではないのだ。
 浚儀に素早く入る事で、この郡の民心を安定させるという側面があった。
 民が動揺し、或いは賊に下っては、安定できるものも安定しないとの判断だ。
 その意味では、実に政治的な行動であるのだ。

 又、純軍事的に見ても、春蘭達の見つけた賊軍の場所より浚儀は近い為、目端の利く人間であれば拠点にと手を伸ばす事が見えていた。

 であればこそ、急がねばならなかった。
 浚儀の官軍は約3000、これに秋蘭の手勢を足せば賊軍の半分には達する為、浚儀に拠っての防衛は容易となるのだから。
 落伍者が出るのは痛いが、後続してくる本隊が回収してくれると考えれば、総合的に見ての脱落は無い。
 そうとも言えるのだから。



 そうして、強行軍とも言える速度で秋蘭が浚儀の町へと入ったのは、陳留を立って2日の後の事だった。
 最終的に300名程度の脱落者が出て、到着したのは1700余名であった。
 強行軍であった事を考えても、進軍だけで15%程度の兵が脱落したと云うのは決して少ない数値ではなかったが、秋蘭自身は、これを割り切っていた。

 優先順位として、援軍が浚儀に到着する事が大事である。
 そう考えていたからだ。
 そして、その判断は間違っていなかった。
 浚儀では、秋蘭の予想外な報告が待っていたのだから。




「なん…だと? それは本当なのか……」


 日頃冷静な秋蘭の声も、流石に掠れていた。
 報告者は、この浚儀太守府の官吏だ。
 まだ若い男は平身低頭し、縋る様に声を絞り出している。


「はい。太守様と御家族は皆………」


「馬鹿な………」


 沈着冷静な秋蘭が絶句した理由、それは太守の職場放棄であった。
 春蘭の上げた、浚儀に10000の賊軍が迫っているとの報告を受けた太守は、そんな大軍を相手に戦えぬと、護衛の兵1000と共に、家族財産を持って浚儀から逃げ出していたのだ。

 俄かには信じがたい話であった。
 が、家財道具や金目のものが消え去って、がらんとした太守府を見れば、それも納得出来る話ではあった。


「妙才様! どうか、どうかこの浚儀を!!」


 必死になる官吏。
 聞けば、この浚儀の出身であり、妻も子も居る身であるので、太守一行には付いて行かなかったという。
 そして若輩の身ではあるが、必死に、この浚儀を纏めていたのだと。
 驚く事に、残った官軍に、浚儀や近くの村々から避難して来た人間からの志願者を募っての自警団まで編成していたのだという。
 その数、実に3000余り。
 驚くべき数字、努力であった。


「よく頑張ったな。任せよ。私が、我が主、曹孟徳様は決してこの浚儀を見捨てたりはせぬ」


「有り難く!!」


「では、済まぬが自警団で主だった人間を集めてくれ。急いでな」


「はっ!」


 慌てて出て行った官吏に、太守執務室に残された秋蘭は、側に控えていた典甜馳に大変な事になったな、と笑いかけた。
 対する典甜馳は、それどころではない。
 大いに慌てて秋蘭に尋ねた。
 大丈夫なのですか、と。

 弱兵とはいえきちんとした指揮系統のある官軍と比較して自警団は有志の集まりである分、士気は高くとも組織としては脆弱なのだ。
 特に、この様に急造された場合は。
 自警団に所属していた事があるからこそ、典甜馳はそれを理解していた。


「それを何とかするのが、我々の仕事だ」


 秋蘭の笑み、それは優しくも力強いものであった。



 幾ばくかの時間の後、秋蘭のもとへと来た自警団の代表は3人の女性であった。
 それぞれが楽文兼、李曼成、于文則と名乗った。
 特に楽文兼などは中々に凛々しい相貌であるが、驚いた事に全員が官軍の指揮官では無かった。
 3000の自警団、その半分が官軍であるにも関わらず、だ。
 その事に驚きと共に訝しく思った秋蘭、それが顔に出たのだろう。
 3人を代表する形で李曼成が説明を行った。


「100人隊長から上の連中、軒並み、逃げ出しとるねん」


 それは、何とも頭の痛い話であった。
 太守と、その取り巻き1000余名以外にも、この郡出身ではない兵士約500名が逃亡していたのだという。
 通常であれば指揮官がそれを阻止するものであるが、その指揮官からして真っ先に逃げ出していてはどうにもならぬというものである。

 よって、3000名の自警団。その内で官軍であった者は500名にも満たないのだ。
 先ほどの官吏が秋蘭に泣きついたもの道理というものであった。


「秋蘭様………」


 典甜馳が心配そうな顔を見せるが、対する秋蘭は揺るがない。


「肝の据わらぬ人間が逃げ出し、気概のある人間が残ったのであれば、それは僥倖というものだ」


 不敵に笑って言い放つと、自警団の3人をじっと見る。
 対する3人も又、表情に動揺は見られなかった。
 背負うもののある、実に良い顔をしている。


「私達の家族、自警団に参加した皆も、それぞれの身内がこの町に来ています。私達は、退きません」


 楽文兼の口上、否、決意に、秋蘭は楽しげに頷く。


「であれば簡単だな。3日、否。2日だ。2日で華琳様達が来られる。我らはそれまでこの町を護るだけなのだ。よろしくたのむぞ」


「はいっ!」




 秋蘭率いる1700の兵が入った翌の朝、ある程度の立てこもりの準備が終った頃、10000を超える賊が、俊業を襲ったのだった。
 財貨をよこせと、食料を出せと口々に叫びながら寄せてくる10000を超える賊。
 その波涛の如き姿を前にして、秋蘭は平素の余裕を崩さずに笑う。
 

「中々の迫力だな」


 そして、賊の見える場所へと立つと声を張り上げた。


「聞け! 我が主、曹孟徳刺史のお膝元にて乱を起こすものどもよ!! 今、己が罪を認めて下れば我が名夏候妙才の名に於いて罰を1つ減じてやるぞ」


 鋭利な響きをもって広がる美声。
 だがそれに耳を傾ける様な人間は、賊には居なかった。
 口々に、捕らえて犯してやるだのの、腕を切り落としてやるだのと罵声をもって、返事としていた。


「しゅ、秋蘭様!」


 10000の悪意に、秋蘭の側に控えていた典甜馳が怯えたような表情を見せる。
 が、秋蘭はその悪意をそよ風を受けたかのように笑って流すと、サッと手を上げた。


「下らぬか? であれば仕方が無い。死をもって罪を償へ!!」


 振り下ろされる手。
 その瞬間、城郭に隠れていた兵達が姿を現し、弓の雨を降らせる。
 ここに、4700の守兵と10000を超える賊の戦い、浚儀防衛線が幕を上げるのだった。






真・恋姫無双
 韓浩ポジの一刀さん ~ 私は如何にして悩むのをやめ、覇王を愛するに至ったか

 【立身編】 その14






 浚儀での戦闘は、ある意味でグダグダであった。

 原因は指揮官に帰するモノではなかった。
 そもそも守将である秋蘭の手腕、状況を見抜く目と判断力は共に優れたものであったのだが、その優れた指揮官の意思意図を実現しうる中堅指揮官が圧倒的に足りないのだ。
 典甜馳を筆頭に、義勇軍の3人や私兵隊などに個人的武勇に優れた人間は少なからず要るのだが、これが人を指揮するとなると何とも心もとなくなるのだ。
 勇将の下に弱卒無しとは良く言われる話であるが、そもそもが私兵、官軍、義勇軍という雑多な所属の集団であり、それを1つに纏める時間も無いままに戦闘を行っているのだから、それも当然であろう。
 ある意味でこの集団が烏合の衆として壊乱し、浚儀が落城していない事から、秋蘭の手腕は優れていると評するべきなのかもしれない。
 相手とする10000の賊が、碌な統制も取れていない集団であるとはいえ、数の優位は如何ともし難いのだから。
 しかも浚儀は比較的大きな町であり、その門が複数に存在しているのも、中堅指揮官の不足と云う問題を抱える秋蘭にとっては、頭の痛い問題であった。
 仕方無しに秋蘭は町で一番の門に指揮所を立てて、そこから各門へと伝令を出している有様であった。
 であるからこそ、秋蘭は最初に挑発する口上を述べたのだ。
 賊の意識を、己の要る場所へと向けさせようと。 

 秋蘭の意図は、1日目には成功を収めていた。
 血の上がった賊たちは秋蘭の居る門のみを狙って動いたのだから。
 だが2日目は違った。
 賊は統率が殆ど無かったが故に、大集団が崩れて浚儀の方々の門から侵入を図りだしたのだ。
 基本、小集団での攻撃だとはいえ数が多い為、断続的逐次的な攻撃の重なりも、結果として受けて側に連続した緊張状態を強いる事となり、その神経を大いに削る効果があったのだ。
 私兵やごく一部の人間を除いて、みるみると疲弊していく兵達に、秋蘭も頭を抱えた。
 これはある意味で秋蘭の失敗だった。
 秋蘭の判断基準は、姉の春蘭や鍛え上げた曹家私兵集団であったのだ。だが一般人に毛の生えたような義勇兵や官軍兵卒が、その水準に付いて来れる筈も無かったのだ。

 攻防戦の合間に自ら疲弊した部隊を見舞い、その事に気付いた秋蘭は、己の迂闊さを腹の底で呪いながら、予備隊を回して対応していた。
 だが、その様な運用を行えば、予備隊も又、消耗していく事になる。
 なった。
 私兵隊を中心とした精鋭で編制されている予備隊だが、戦闘のみならず、浚儀の町中を走って疲弊した守備隊の場所へと駆けつけなければならないのだから仕方が無い。

 この事を秋蘭は愚作と承知で実施していた。
 何故なら今日一日を乗り切りさえすれば、華琳が駆けつけてくるからだ。
 信じるのではなく、確信しているのだ。
 そんな秋蘭の発する雰囲気が伝播し、秋蘭直属部隊の士気は高いものがあった。
 とはいえ、士気だけで維持できるほどに状況は甘くなかったが。

 日も傾きかけた頃、指揮所へと兵士が駆け込んできた。
 何事かと秋蘭が声を発するより先に、兵士は声を張り上げた。


「東門が突破されました!」


 ソレは、掛け値なしの凶報であった。
 指揮所の誰もが喉を詰まらせた。
 今日を乗り切ったと考えていた所だったからだ。

 そんな中にあって秋蘭は素早く意識を立て直すと、伝令の兵に状況を尋ねた。


「現在、東門周囲で防戦中ですが、やや押し込まれつつあります」


 現時点でややであれば、最終的には押し込まれるだろうと秋蘭は判断する。
 賊も、門を突破した事を知れば、集まるであろうからだ。
 であれば、対応は出来るだけ早い内に、それも全力で行う必要があるだろう。
 この浚儀の町の構造を思い浮かべ、それから秋蘭は決断する。


「ご苦労、ここで少し休め。それから―― 」


 この場に居るもので指揮能力に見込みの在る者へ、この場の指揮権を預けた秋蘭は、自ら予備隊を率いて東門へと向かう事としたのだ。
 この門の防衛が、まだ余裕があったお陰での決断でもあった。


「しゅ、秋蘭様!?」


 とはいえ、指揮官直々に動くという事で周囲の人間は多いに慌てた。
 声を上げた典甜馳の頭をそっと撫でる秋蘭。
 そして静かに笑う。


「今、余力があるのは私や流琉だ。付き合ってもらうぞ」


「はいっ!」


 期待されている事に、典甜馳は満面の笑みを見せた。
 そして秋蘭は、予備隊に向けて声を張り上げる。


「兵よ、東門に賊が入った。この妙才と共に救援に向かうぞ! 今が正念場、乗り切るぞ!!」


 秋蘭が先頭に立って動く、その事に疲れていた予備隊も気合が入りなおす。
 湧き上がる鯨波が、周囲の建物を揺らす。
 予備隊は殆どが曹家私兵隊の人間であるので、自らの隊長と共に駆け込むのだから、気合が入らぬ方がおかしいのだ。

 そんな様を楽しげに見た秋蘭は、それから指示を出す。


「続けぇっ!」


 気合の入った男たちが駆け出す。





 東門守りの主は、李曼成だった。
 元々は官軍の指揮官が居たのだが、途中で戦死し、引き継いでいたのだ。
 李曼成の指揮は手堅いものであり、指揮官としての自分の経験の無さから無茶をする類の事は 無かったが、であるが故に、前指揮官が戦死した為に落ちた戦意の建て直しが仕切れなかったのだ。
 疲弊と戦意の低下した部隊を纏め上げるには、まだまだ経験が不足していたと評すべきかもしれない。

 尤も、門自体を破られても、それを門の周囲で食い止める事に成功している点は、指揮官としての高い資質を有していると評しても良いだろう。
 門防衛が困難になりつつあると見るや、門の内側に建材などで通路を塞ぐ阻塞の設置に掛かっていたのだ。
 その判断力は確かなものがあった。


「無理に阻塞からでんで、弓で槍で対処するんや! 今にきっと予備隊が来るから、反撃はそこからや!!」


 声を張り上げる李曼成。
 だが彼女自身は、予備隊が来るまでに時間が掛かるだろうと踏んでいた。
 予備隊も酷使されて疲弊しているのを知っていたからだ。

 この先がどうなるか判らない不安、だがそれを李曼成は顔に出す事は無かった。
 指揮官としての、兵を率いる上での心得などではなく、生来の気の強さから、弱音を吐く事を己に許さなかったのだ。


「きばりやーっ!!」


 兵を鼓舞すると共に、自ら螺旋槍を手にとって阻塞の上で戦う李曼成の姿は、戦意の折れつつあった兵たちを再び立ち直らせる事に成功していた。

 一当てして、状況が安定すると李曼成は、臨時の指揮所として徴発した民家へと下がった。
 指揮官が前線で戦っていすぎると、得られる状況情報の量が減ってしまい、誤断を下すリスクが高くなってしまうからだ。
 尤も、指揮所とは言っても阻塞を作る建材として天井や壁を利用され、あばら家となった民家であり、地図と伝令が詰めているだけの場所であったが。

 指揮所の隅に用意していた樽から杯で水を汲んで、大きく傾けて飲もうとする。
 が、勢いと角度が良すぎたか、飲みきれなかった水が上体を濡らしたが、それが李曼成には心地よかった。
 火照った体には丁度良かったのだ。
 濡れた上着を脱いで下着姿になる。
 厚手の、防具を兼ねた上着の下は薄手の下着だけであり、その下着は水気を含んで肌に張り付きたわわな乳房の形が見事に浮き上がっていた。
 下着越しにも張が見え、重力に逆らって存在を誇示する様は、正に圧倒的である。
 だが、それを些かも恥らわず、まるで誇るが如き李曼成の態度に、詰めていた兵達も劣情を抱くような事は無かったが。

 もう一杯、浴びるように女性らしからぬ仕草で味わいつつ飲む李曼成。


「生き返るでー ほんま」


 満足げに言うが、同時に、水の冷たさが思考に冷静さを取り戻させた。
 半裸で水を浴びるように飲む、自分の姿を客観的に見て、少し天を仰いだ。


「こういう事やっとるから、女性らしくないゆうて沙和に叱られるんよねー」


 親友と言って良い于文則に、何時も怒られていた事を思い出す。
 化粧っ気も無い楽文兼と共に。
 そんな様では、良い男を捉まえる事は無理とすらも言われたのだ。
 李曼成とて年頃の女性、そう言われて悔しい部分もあったが、とはいえ、自分らしいというか、自分の好きな事をって考えれば、どうしてもこうなってしまうのだ。
 そんな、こんな戦場には似合わぬ事をフッと思い出していた。

 その事で、李曼成は少しだけ笑った。
 自分も案外余裕があるではないか、と。

 と、そこへ指揮所に入ってくる人影、秋蘭達だ。


「状況は?」


 挨拶も抜きに、状況を尋ねてくる秋蘭に、李曼成は胸を張る。


「今、阻塞を利用して門の周辺に何とか抑え込むのに、成功した所ですわ」


「ほう、見事だな」


 素直に李曼成を褒める秋蘭。
 門を破られても壊乱せず、何とか被害を抑えているのだ。
 確かに、見事の一言である。


「賊の方も最初っから攻めとった連中はさっき叩けたんでへたれて下がろうとしとりますわ。で、入ろうとしてくる連中と門の所でカチ合って、今、大混乱って按配ですわ」


「ふむ、門の内に居る賊の数は?」


「大雑把に300~400って辺りやと思うんですが―― 」


 居るのは300以上だが、戦える状態なのは半数以下、と。
 しかも混乱して統制が取れていないのだ。


「ならば、今が攻め時か」


「本気ですか!?」


 秋蘭の言葉に慌てる李曼成。
 今漸く、阻塞にて攻勢を阻止し、賊の混乱を利用して東門守備隊の主力は休息を取らせているのだ。
 今の今まで防戦をしながら阻塞を築き、そして阻塞を拠点に戦っていたのだ
 であるので、このまま逆襲に投入するのは少しばかり危険だと李曼成は判断していた。


「大丈夫だ、逆襲の主力は私が連れてきた予備隊で行う。500から連れてきているんだ、門からたたき出す程度は出来るさ。それに、門を掌握していた方が、夜が安心だ」


 門の周辺の城壁を破壊されてしまっては、浚儀の城内に賊が流れ込んでくる量が増えてしまうと、防戦もろくに出来なくなってしまうのだ。
 であればこそ、今、賊の側が混乱している状況こそが逆襲の好機であると、秋蘭は決断していたのだ。
 その構想を聞いた李曼成は、自らの頬を叩いて気合を入れると、背筋を伸ばす。


「そこまで考えやったら、ウチは何も申し上げまへん。東門守備隊も精一杯仕掛けさせて貰いますわ」


「疲れている所だろうが、もう一分張り、してもらうぞ」


「はいなっ!」





 浚儀東門での戦闘、逆撃が始まった頃、華琳直率の兗州官軍主力約5000は漸く、浚儀を望める場所へと到達していた。
 陽は赤味を帯びだし、夕暮れの迫る時間である。
 そんな中、兵を丘に隠れる場所に残し、華琳は春蘭と一刀に文若、そして伝令を連れて偵察に出た。

 見晴らしの良い丘の上から浚儀の様子を確認する。
 浚儀とは10里程離れているが、一刀の持っていた遠眼鏡で問題なく戦闘の状況を視察出来ていた。


「目立って戦闘状況が激しいのは東門ね。どうやら門扉が破壊されている様ね」


「そんな! では華琳様、急がないと!!」


 すわ、浚儀は落城したのかと慌てる春蘭を、華琳はやさしく諌める。


「大丈夫よ春蘭、賊軍の動きを見る限り、まだ中へはなだれ込めていないわ。桂花?」


「はっ!」


 華琳は遠眼鏡から顔を文若に向けて尋ねた。
 それは尋ねると言うよりも、軍師としての才を見ようかという表情であった。


「貴女はどう見る?」


「今が正に攻め時かと」


 そこから文若は2つの理由を述べていく。
 1つは、既に夕刻であり、見る限り賊軍の兵は疲弊し、動きが悪い。
 2つ目には、門を破った事で勝利は目前と、賊軍の兵は浮き足立っている。


「夕刻も迫るこの状況はどう見るのかしら」


 日が沈めは軍としての動きは厳しいだろう。
 この時代の常識として、夜戦は困難であるのだ。
 そもそも、華琳の兵も中々の強行軍をして来ているのだ、そのまま戦闘を仕掛けるのは困難であるのだ。
 普通であれば。
 だが華琳は、面白がる顔を崩していない。
 戦闘が不可能だとは思っていないのだ。
 それは決して自身への過信ではなかった。
 この浚儀への行軍の最中に見た自軍の錬度、そして疲労の程度を冷静に見ての判断だったのだ。

 その上で、敵である賊軍の状況を見たのだ。
 華琳から見て賊軍は碌な統制も取れていない烏合の衆であった。
 数は多いが、多いだけの相手でしか無かった。
 であれば、遅れを取る事などは無いと判断していた。


「それゆえに、です。華琳様が率い、私が支える以上、あの様な野犬の群れに敗北は在り得ません! 日暮れまでに蹴散らし、粉砕し、堂々と浚儀へと入場されるべきなのです!!」


「いいわね桂花、その積極性、好きよ。では支度をなさい!」


 文若の頬に手を当てて、そっと笑う華琳。
 その様は正に覇王。
 覇気とでも言うべきものが全身より溢れ出ていた。


「有難う御座います華琳様!!!」


「但し、攻撃は小休止の後とするわ。日暮れまではまだ時間があるから、少しでも兵に休養を取らせ、体調を整えさせなさい。春蘭は先鋒を任せるわ。敵中突破、最大速度で東門まで突進してもらうわよ?」


「はっ!」


 華琳の指示に、春蘭は背筋を伸ばした。
 倍の数を誇る敵に突進する事となるのだが、春蘭の瞳には迷いは無い。
 先陣は武門の誉れ、何より、その先には妹である秋蘭が援軍を待っているのだ。
 であれば、迷いなど欠片もある筈は無かった。


「それから一刀、貴方に関しては後で説教ね。こんな面白いモノを作ったのに報告をしないなんて、それは罪よ?」


 無論、遠眼鏡である。
 なにせ10里先の事を手に取る様に分かるのだ。
 華琳が説教と言うのも当然であった。
 尤も、怒っているかと言えば微妙であった。
 その感情は複雑であり、当然ながらも直ぐに持ってこなかった事への不満はあったが、それ以上に面白い道具への好奇心や、才を見た喜びなどが渾然一体となっていたのだ。

 だから、そう言った時の華琳は、睨むのではなく流し目で一刀を見ていた。
 からかいの意図を含んだその瞳は、実に艶やかであり、一刀は思わず見とれてしまっていた。
 そして、慌てて返事をしようとして、思わずどもった。


「あっ、いっいや、いや、あの………」


 その様は正に挙動不審である。
 更には、そんな一刀の姿に、華琳はクスクスと笑っている。

 そんな一刀に、春蘭は気合を入れろとばかりに背中を叩いた。
 そして文若は、シャキッとしろと脚の甲を踏みつける。
 何故か2人は、見事に息が合っていた。


「ったぁ!?」


 一刀の悲鳴が丘に響くのだった。
 兗州軍主力の浚儀防衛戦参加まで、あと少しの時であった。
 


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