「……それは何の真似ですの」
「ハンデをやると言っただろう」
IS学園第三アリーナ。
直径200メートルのグラウンドを、ぐるりと楕円に囲むような形状で観客席やISの出撃ピットが取り囲んでいた。
開け放たれた天井からは春先特有の柔らかい陽射しが降り注いでいる。
風はない、事故防止のためのシールドバリアーに囲まれているためだ。
観客席には、1-1の生徒はもちろんのこと、他クラスの生徒や、二三年の先輩も多く存在していた。
世界唯一の男性操縦者VSイギリス代表候補生というIS学園屈指の好カードに興味をそそられたのであろう。
そんなアリーナの中心、二機のISが対峙していた。
宙を浮かぶ、青と白。
青い方のISには、いつものように金髪の縦ロールを靡かせたセシリアがおさまっていた。
だがよく見てみると、その様子はおかしい。
常日頃は余裕のある微笑が浮かぶ、その端整な顔立ちは、今は怒りに歪んでいた。
「もう一度確認しておきましょう。
あなたの相手はイギリス代表候補生、このわたくしセシリア・オルコットですのよ。
ただでさえあなたに勝ち目などない戦いに――」
セシリアは、目の前で人を小馬鹿にするような笑みを浮かべている一夏を睨みつける。
「――よりにもよって訓練機で挑もうとするなんて!」
そう、イギリス第三世代型ISブルーティアーズ“蒼い雫”に対するは、フランス第二世代型ISラファール・リヴァイヴ“疾風の再誕”、まぎれもない訓練機であった。
セシリアの激昂に対し、一夏はさらに笑みを大きくする。
「俺の専用機デビュー戦には、お前じゃ役者不足なんでな」
クククッ、と声を上げ哂いさらに挑発する。
セシリアの、これまでとは比べ物にならないほどの怒気を感じながら、一夏はつい先ほどのことを脳裏に思い浮かべていた。
◇
「なぁ一夏」
「なんだ」
「気のせいでなければ、お前の専用機の姿がどこにも見えないのだが」
「俺もだ」
「“俺もだ”じゃないだろ!もう試合は始まるんだぞ!」
「来なかったら来なかったでいいさ、ちゃんと訓練機借りてあるし、調整も済ませてるし」
決闘直前、俺と箒はアリーナとAピットに居た。
学園が用意すると言った俺の専用機だが、先の発言の通り今なお届いていなかった。
問題はないのだが直前まで粘ろうと、武装のみ入れ替えられるよう、所有者権限によるアンロックの手順を学んできただけに、肩透かし感が否めない。
まぁそもそも専用機が来たとしても、使うかどうかは分からない。
ぶっつけ本番になるわけだから、よほどスペックが良くない限り、使わないつもりだ。
特に機動力がなかったりした場合は致命的、即却下である。
どちらにせよ来なければ、何の意味もない話なのだが。
アリーナを映すモニターにセシリアの姿が現れ、諦めて訓練機を展開しようとした時
「お、織斑君、織斑君、織斑君!」
山田先生が駆け足でピットに入ってきた。
本気で転びそうで見ているこちらがハラハラする。
何故だろうか、やはりその胸部の重りのせいで、身体バランスが崩れているのだろうか。
俺の元まで辿り着いた山田先生は、息も絶え絶えに何かを言おうとしていた。
「山田先生落ち着いてください、はい深呼吸。ひっひふー、ひっひっふー」
「ひっひっふー、ひっひふー、ってこれはラマーズ呼吸法じゃないですか!」
ノリツッコミ、さすがはIS学園の教師ということか。
以上ここまでテンプレ。
「で、どうしたんですか、妊娠でもしましたか?」
「それはもういいです!そんなことより来ましたよ、織斑君の専用機が!」
ギリギリにもほどがあるのではないだろうか?
「織斑、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」
そう言いながら、千冬姉がピットに入ってきた。
使うとしても、ファーストシフトぐらいは待ってほしいのだが、叶わぬ願いなのだろう。
「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えてみせろ。一夏」
そう千冬姉に言われてしまうと、もはや乗り越えるしかない。
ごごんっ、と鈍い音がして、ピット搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの防壁扉は、重い駆動音を響かせながらゆっくりとその向こう側を晒していく。
――そこに、『白』が、いた。
飾り気もなく、また同時に曇りもない、眩しいほどの輝きを感じる純白。
天衣もかくやというほどの神々しさを持つそのISは、装甲を解放してその繰り手を求めていた。
「これが……」
「はい!織斑くんの専用IS『白式』です!」
金属的で、無機質な煌めきを放つそれは、けれども俺を待っているように見えた。
そう、こうなることをずっと前から待っていたように。この時を、ただこの時を。
直感的に理解する。
これは……俺の、俺だけのIS。
「体を動かせ。すぐに装着をしろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。できなければ負けるだけだ。わかったな」
促されるまでもなく、俺は吸い込まれるように、その純白のISに触れた。
IS初体験の時に感じた、小さい穴に無理やり捻じ込むような感覚はない。
ただただ、馴染んだ。これが何なのか、何のためにあるのか、どれほどの名機なのか。
それが分かる。
基本動作――非常に簡易。
機体状況――当然オールグリーン
センサー精度――訓練機などとは比べ物にならないほど良好。
出力限界――おそらくは現行機の頂。
現在の装備――近接ブレード一本。
ん? あれ?
途端に興奮が冷めた。
静かに事実を確認する。
現在の装備――近接ブレード一本
機体特性――近接戦闘超特化型
拡張領域――なし
「……………………………………………………」
俺はそっと白式から手を離した。
天女は身持ちが固かったようだ。
そのまま俺は身を翻し、ピット・ゲートへ進み、ラファール・リヴァイヴを展開。
豊富な拡張領域、多様性役割切り替えが可能な汎用性、なにより、操作が現行機の中で最も簡易である、第二世代の傑作機。
白のカラーリングを施し、様々なカスタムを終えた、この勝負専用の特注品だ。
ISのハイパーセンサーと自身の知覚がリンクし、視界が一気に広がる。
世界が一新されるこの感覚は何度経験しても、気持ちの良いものであった。
「え、え?」
山田先生が当惑したような声を出す。
「いいのか、それで」
千冬姉いつもと同じような調子で確認をする。
「戦場には一番手に馴染んだものを持ってきたいんでね」
背を向けたまま答えた。
(安価のせいで使えないなんて絶対に言えねぇ……)
もしバレれば頭蓋骨が陥没するまで殴られること必須だった。
「そうか、お前がそう言うのならいいのだろう、行ってこい」
意識を千冬姉に集中すると、微妙な声の震えを知覚した。弟の初陣ということで、なんだかんだで心配してくれているらしい。弟冥利につきる。
今度は箒のほうを意識する。
何か言いたそうな、けれど言葉を迷っているような、そういう表情をしていた。
(まったく、口下手さんめ)
「箒」
「な、なんだ」
「行ってくる」
「あ……ああ。勝ってこい」
「もちろんだ!」
そういって俺はアリーナへと飛び出していった。
◇
鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。
その外見は、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に備え付け、従者を伴った王国騎士のような気高さを感じさせる。
それを駆るセシリアの手には二メートルを超す長大な銃器、六七口径特殊レーザーライフルが握られていた。
ISは宇宙空間での活動を前提条件としているだけあり、原則空中に浮いている上、その強大な膂力により身の丈を超える武器を扱うことは珍しくない。このレーザーライフルもまたその一例であった。
その銃口はまだこちらに向けられてはいないが、既に試合開始の鐘は鳴っているため、いつ引き金が引かれてもおかしくはなかった。
対する一夏は一見手ぶらなようで、両手を腰に当てたまま対峙している。
「もう謝っても許しませんわ」
セシリアは怒りを無理やり飲み込み、一夏に語りかけた。
「はぁ?」
「いい加減、常識を知らない猿の相手は疲れたと言いましたの」
「ふーん、で?」
「お別れですわ!」
セシリアが銃口を敵に向け、撃とうとした。
しかし
「きゃあっ」
爆発音
ブルー・ティアーズにグレネードが直撃した。
直撃をくらったセシリアの右大腿部の装甲が中破する。
もちろんそんなことが出来るのは、この場に一夏を置いて他にはいない。
右手に持つ単発式のグレネードランチャーから煙をくゆらせながら、一夏は笑みを深める。
その後すぐさま、ランチャーを捨て、両手に六二口径連装ショットガンを呼び出し、弾丸をばら撒く。
しかしそれはすぐさま動揺から回復したセシリアに避けられてしまった。
(ちっ、だが最低限の目標は達した)
この勝負に一夏が用意した作戦の一つ“開幕グレネード”。
隙を見せたまま、セシリアを挑発すれば、高い確率で最も攻撃力の高い武器、つまりはレーザーライフルを撃ってくる。そして撃つ瞬間セシリアの動きは止まり、一夏でも楽にグレネードを当てられるという寸法だ。
もちろんそのためにはセシリアよりも早く撃つ必要がある。
では武器すら構えていなかった一夏がどうやってそれを成し遂げたのか。
それは腰裏に取り付けたホルスターに、グレネードランチャーを初めから挿しておいたのだ。
一回限り、一発限りの裏技である。
ここに一夏がこの一週間で手に入れたドローテクニックと、セシリアの一見無手の相手に対する無警戒が加われば、代表候補生に早撃ちで勝つという無茶が成立するのだ。
(なんにせよ、これで先行した。あとは上手く逃げ切るだけだ)
「っ!調子に乗って!」
ショットガンの連射を躱しながら、ついにセシリアがそのピット兵器を繰り出してきた。
一夏は身を捻り、躱そうとするが
「ぐっ」
四機のうち一機の攻撃をくらい、体勢を崩す。
幸いバリアーは突破されてはいないため、絶対防御が発動し、大きくシールドエネルギーを削られることにはならなかった。
だがセシリアはその様を見て、ようやくその表情に笑みが戻った。
「さぁ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」
「足踏まれねぇよう気をつけな!」
セシリアのレーザー、一夏の実弾。苛烈な射撃戦がここに始まった。
◇
十五分ほどたった後。
アリーナでは今だ試合は続いていた。
「はぁぁ……凄いですね、織斑くん」
山田先生が、感嘆の溜息とともにそう漏らした。
現在、1-A組担当コンビはピットでリアルタイムモニターを見ていた。
これは二人のISとも接続されていて、各機体の残りシールドエネルギー残量も表示されるものだ。
織斑一夏は善戦していた。
セシリアとの距離をできるだけ狭めるように動き、両手に持ったショットガンで弾幕を張ることで、命中率の無さを数でカバーする。
セシリアのBT兵器使用による本体動作の鈍りを狙い撃ち、またそのBT兵器の攻撃自体は“特殊”な機動を持って対処していた。
特に注目すべきは、致命的なダメージに繋がる本体のレーザーライフルによる攻撃を、全て躱していることだ。
一夏の戦いには拙いながらも、ぬかりない研究と訓練による確かな実力が感じられた。
少なくとも、一週間前までずぶの素人だとはとても思えないような戦い振りだった。
「だが、このまま行けばオルコットが勝つ」
「っく、一夏……!」
千冬のあくまで現実に沿った言に、箒は拳を握りしめた。
千冬の言うとおり、試合自体はセシリアが優勢であった。
開幕グレネードにより絶対防御を発動させ、シールドエネルギー残量において大きく突き放した一夏であったが、その差も既に消えようとしている。
何より致命的なのが、距離の問題で、当初大分近かった二機の間合いはジリジリと広がり、あと少しでセシリアの得意な中距離戦闘領域に入ってしまうところだ。
そうなればもう距離を詰めることは滅多なことがないかぎり難しくなり、さらにショットガンの有効範囲から外れ、射撃の実力の劣る一夏の攻撃がさらに命中し辛くなってしまう。
そう、試合の流れは明らかに一方に傾いていた。
しかし
(それでもまだ、あいつの目は“勝利”を見据えている……)
なら私はそれを信じ応援するだけだ、そう心の中で呟きながら箒はモニターを強く見つめていた。
◇
“蒼い雫”まさにその名を表す通り、青く輝く閃光が一夏目がけて降り注いでいた。
それを右へ左へ、時折フェイントを交えながら避け、またセシリア目がけ先程持ち替えた両手のへヴィマシンガンで弾をばら撒く。
そしてまた迫りくる閃光を躱す。
段々体の近くを掠めるようになり、次の一撃は避けられないと思われたそのとき。
ズガガガガガガガッ。
マシンガン特有の激しい発砲音を響かせながら、リヴァイヴがセシリアの予想を上回る機動を見せた。
先程まで一夏が居た空間をレーザービームが切り裂く。
「っく、またそれですの。無駄な足掻きはやめておとなしくしなさい!」
「はーはっは!当ててみろや!」
対ブルー・ティアーズの作戦その二“反動回避”
セシリアの射撃技術は一流である。こちらの動きの先を読み、適格な偏差射撃で敵を打ち抜く。
未だISに慣れ切っていない一夏には、それを完璧に躱し続けることができる複雑な回避軌道は出来ない。
いずれは逃げられない状況まで追い詰められ、キツイ一撃を食らうこと必須である。
そこで考え出したのが、この反動回避。
射撃を行う時、ISはその反動を抑えるために、空中で踏ん張る必要がある。
これは本来ISのほうが自動でやってくれることなのだが、そこであえてその機能を切った場合はどうなるか?
当然その反動のおもむくままにISは吹き飛ばされる。
これにより、セシリアの予想外の軌道をなすことができ、BT兵器による五月雨のような射撃を躱すことができるのだ。
だがしかし、この案には同時に大きな問題もあった。
(ち、また弾を無駄にした)
そう、射撃というのは銃の反動を抑えてこそ狙い撃つことができるものなのだ。
反動抑止機能を切っている間は、絶対にこちらの射撃が当たらない。
ポイントを絞って躱そうにも、銃弾だって有限である。
いくら基本装備を全て取り除き、必要な数種の装備以外のスペースに、大量の弾をぶち込んでいようとも、もとの戦法からして数撃ちゃ当たるというものなので、回避ばかりに使ってはいられないのだ。
ズガンッ
リヴァイヴに衝撃が走る、背後からの一撃を避け損ね、またシールドエネルギー残量を示す数値が減っていく。
そしてまた回避も完璧にできるというわけではない。
「痛いだろボケェ!」
「知ったこっちゃありませんわ!」
ひたすら避け、たまに当たる弾幕射撃を繰り出しながら、一夏はその時を待つ。
そして
(今だ!)
セシリアがビットのうち一機を、エネルギー補給のために戻し、青光の密度が薄くなった瞬間を狙い、一夏は銃撃を集中させた。ブルー・ティアーズのシールドエネルギーに実弾が食らいつく。
「っくぅ」
それと同時に他のビット兵器からの一撃が一夏を襲う。
他のピットへの注意が疎かになったところをセシリアも見逃さなかった。
「いたっ!ああもう、ちまちま戻してないで、全機一緒にやれよ!」
もちろんその願いをセシリアが受け入れることはない。
絶え間ないセシリアの攻撃に回避行動をとりながら、先程より幾分か遠くなった敵機をみて、一夏は内心舌打ちをした。
距離はそのまま勝算にあたる。
遠くなれば遠くなるほど一夏の射撃は当たらなくなる、対してBT兵器はその性質上、セシリア本体の距離は命中率に影響をほぼ与えないので問題はない。
セシリアもそれを当然理解しているため、一夏を突き放すように戦闘を組み立てていた。
(当初のシールドエネルギー差はもうない、あとは俺がどれほど我慢し、相手を削りきれるかだ)
一夏は一瞬たりとも気の抜けない戦場を飛び回る。
まだ隠し手を残し、余裕の表情で敵を追いつめるセシリア。
ルーキーの予想外の奮闘に、応援の声を張り上げる観客。
煌めく閃光、唸る銃弾。
アリーナは季節外れの熱気に包まれていた。
◇
「――二十七分。持った方ですわね。褒めて差し上げますわ」
「それは私のセリフですわ!それとその中途半端に似ている物まねはやめてくださる!」
シールドエネルギーの残量102。
ほぼ地上に接するように浮かぶ一夏と、天高く屹立するセシリア。
限界まで間合いを広げられた形だ。
ヘビィマシンガンの残弾もほぼ無い、絶対絶命と言ったところか。
「まぁ、確かにあなたはよく頑張りましたくわ、私のシールドエネルギーをここまで削るものはそうそういませんことよ」
セシリアのシールドエネルギー残量は198。
もはや自らの勝利を確信したのだろう。
だからこそ、このようなお喋りに興じている。
対する一夏も、一端両腕を下ろしていた。
「ふぅん、IS乗りって案外大したことないんだな」
「最後まで口が減らない男ですわね」
一夏の軽口にも余裕を持った反応を返した。
(さて、そろそろ決めなきゃならないな、勝つか、負けるか)
当初のプランではグレネードで作った差を活かし、どうにかここまでで削りきる予定であったが、やはり相手は代表候補生。
突拍子のない動きで動揺を誘おうとしても、上手く対応されここまで追い詰められた。
問題は、ここからだ。
「まぁそのくらいの実力があれば、全ての男の代表を名乗ってもかまわなくてよ。このセシリア・オルコットが認めてあげましょう」
その好意的な台詞とは裏腹に、その視線には男への蔑みの意が感じられる。
一夏の遥か頭上に位置するセシリアは、その高度差、実力差、性差、それらを所以にまさしく“見下していた”。
(なるほど、見た目との合致ぶりに気にしていなかったが、まさにこいつは“今風”の人間なんだな)
しかしここまで強く表に出たのは、散々一夏が煽ったことせいでもあるだろう。
(というか、それが大きいだろ。すまんな全世界の男性諸君。俺のせいで一人の美少女の男嫌いを加速させてしまったようだ)
と責任を感じつつも、一夏の目は爛々と輝きを増していた。
見下されれば見下されるほど興奮する男、織斑一夏。
最後の一押しがいまなされ、腹が決まったということだろう。
「せっかくのところ悪いが、男の代表なんてものは辞退させてもらうぜ」
「どうしてですの?」
「それこそ役者不足だ。ISのせいで今はちょっと凹んでるかもしれないが、男ってのは暴れたくて暴れたくて仕方がない馬鹿ばっかりだからな、そのうち世の野郎共のバイタリティは爆発するぜ。そんなもんの代表なんざごめんこうむる」
「ふん、そうですの、ではそろそろお喋りもお終いにしましょう、長くなりすぎましたわ」
セシリアはそう言うと、一夏を斜め上から取り囲むようにビットを動かし、自身のレーザーライフルを構えた。
そしてすぐさま、射撃を命令する。
再び、戦場は閃光に切り裂かれた。
一夏は地を滑るようにして躱す。
一発。
二発。
三発。
四発。
追いすがるセシリアのレーザービームをも躱し、回避成功と思われたその時
「これでフィナーレですわ!」
今まで一度も使用しなかった二機のビットが動き、ミサイルを発射した。
一夏を追尾し、迫るミサイル。
次の瞬間、ラファール・リヴァイヴが爆炎に包まれた。
◇
(やりましたわ!)
だがそこでセシリアは気付いた。
(これは、どういうことですの?煙の量が……?)
一夏を包んだ爆炎は、いつまでたっても晴れることはなく、それどころかアリーナを包むシールドエネルギーの天井まで立ち上っていた。
(くっ、またくだらない小細工を)
普段は使用しない、非光学的ISセンサーを起動しようとした。
しかしその起動を待つまでもなく、煙から影が飛び出した。
その数は――六つ。
煙を纏いセシリアへ弧を描くように飛ぶ、それら全てからIS反応がでる。
「いいでしょう、全て叩き落として差し上げますわ!」
BT兵器六機全てを動かし、その影達に向かってレーザーを叩き込んだ。
爆炎の数がさらに六つ増えたその瞬間だった。
セシリアのハイパーセンサーが、地表を見下ろす自身の背後に人影を捉える。
狙いは読めたとばかりに振り返り、レーザーライフルを向けようとし――
「いいのかセシリア?」
――それに気づく。
なぜ?
なぜ?こいつは?
ISを纏っていないのだ!?
「俺が死ぬぜっ!」
セシリアがしたミスは三つ
BT兵器六機の同時制御には集中が必要で、ISを静止させてしまったこと。
さらにこの事態に驚くあまり、動き自体を完全に止めてしまったこと。
そして最後に……この状況に至って、いまだ一夏の狙いが読めなかったこと。
自由落下を続ける一夏はセシリアのすぐ近くまで迫っていた。
そこで一夏は、後部スラスター翼や右腕部装甲、残弾が数発のみのマシンガンを部分展開。
もちろんその程度では、残りのセシリアのシールドエネルギーを削りきることはできない。
だが一夏の表情には勝利を確信した笑みが浮かんでいる。
スラスターを軽く動かし、位置を調整する。
――ISバトルの勝利条件とは何であろうか
ブルー・ティアーズの装甲を掠めるような落下軌道。
――シールドエネルギーを零にすることだろうか、いや厳密には違う
二機がすれ違うその瞬間。
――それは相手を戦闘継続が不可能な状態にすることである
銃口がセシリアの顎先に押し当てられ
「弾けろ、ブリタニアッ!!」
引き金を引かれた。
ズガンッという発砲音、それとほぼ同時にISのシールドエネルギーと衝突し、それをぶち破る音がする。
絶対防御が発動し、弾丸は受け止められたものの、その推進力全てを殺すことは出来ず、セシリアの顎先に殴るような衝撃が走りぬける。
その衝撃はそのまま頭部を駆け巡り、脳を揺らし、セシリアの意識を刈り取った。
――操縦者の状態が危険領域に突入。救命領域対応を発動します。
ブルー・ティアーズは地面に向かって下降し、着陸、絶対防御を発動した。
一方の一夏は、射撃後すぐにISを完全に展開し、空に浮かび上がっていた。
勝敗は決した。
◇
『し、試合終了。勝者、織斑一夏?』
ナレーションがどこか戸惑ったようにそう宣言した。
一夏は腕を組み、仁王立ちをする。
「作戦その三“お前に、俺は、殺せない by伝説の傭兵”。
ふぅ、勝利とは存外むなしいものだな」
溜息をつきながらそうオープンチャンネルで呟く。
一瞬間をおいて
『『ひ、卑怯だーーーーーーー!!』』
アリーナに喚声が響き渡った。
それに対し一夏はガイナ立ちのまま高笑いをする。
「ふーはっはっはっは、我ながら見事なまでの大逆転勝利といったところか。セシリアには気の毒だが――」
『織斑一夏、ISを収納後、すぐに私のところに来い』
その千冬の声に一夏はビシリッと固まった。
隠しきれないほど顔が引きつり、テンションが急降下していく。
(あ、死んだ)
当事者のみならず、それを聞いたもの全員がそう思ったそうだ。
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初めての戦闘描写なので、何かアレなところがあるかもしれません。
何かあれば、アドバイスお願いします。
今回のオリ設定という名の妄想、というコーナーもとい質問の先周り。
・反動回避
反動抑止機能を切ったりやったりして、変な機動をする技術。
原作では白式の異常な機動力で躱していたようなので、リヴァイヴならこんくらいやんなきゃだめだろうということで。でも初期設定であれだけ躱せたんだから、一週間使いまくった機体なら結構一夏くんは躱せそうだと思ったり。
・お前に、俺は、殺せない
スネェェェェェェェェェェク!
アニメ版のラウラ戦では、ワイヤーブレードで首を絞めてたらなんか酢豚とちょろリズムさんが苦しそうだったので、そのまま絞め落とせば楽なんじゃね?と思いから出たアイデア。まぁ一夏殺したら、ちょろいさんは色々やばいですからね、精神的にも社会的にも。
リヴァイヴで勝つにはこんくらいやんなきゃだめだろうということで。
リヴァイヴ舐めすぎ?
・勝利条件
ISはスポーツらしいですけど、本音はみんな兵器だと思っているので、ルールはこんくらい荒々しいと思うんですよね。操縦者が気を失って止まった機体に、マシンガン掃射して、シールドエネルギー0、勝った、第三部完!みたいな感じにしてもよかったのですが、あまりにも絵面が悪いのでこうなりました。
・試合中にISしまうなボケェ
次回
誰か空戦に詳しい人に教えてもらいたいのですが、一零停止とか特殊無反動旋回とか三次元躍動旋回とかISオリ用語ですか?一応漢字から内容を妄想していたりするんですが、どうなんでしょう?
皆様感想ありがとうございまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああす!!!