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No.31282の一覧
[0] 【ネタ・処女作】ブレイン・バースト・バックドア【アクセル・ワールド・オリ主】[カヱン](2012/01/22 16:43)
[1] [カヱン](2012/01/23 00:45)
[2] [カヱン](2012/01/23 15:30)
[3] [カヱン](2012/01/24 09:21)
[4] [カヱン](2012/01/25 11:25)
[5] [カヱン](2012/01/26 11:57)
[6] [カヱン](2012/02/07 23:36)
[7] [カヱン](2012/02/08 20:33)
[8] [カヱン](2012/02/10 16:28)
[9] 10[カヱン](2012/02/11 19:09)
[10] 11[カヱン](2012/02/12 19:40)
[11] 12[カヱン](2012/02/13 14:20)
[12] 13[カヱン](2012/02/16 11:43)
[13] 14[カヱン](2012/02/17 23:39)
[14] 15[カヱン](2012/02/18 23:29)
[15] 16[カヱン](2012/02/19 21:22)
[16] 17[カヱン](2012/02/21 17:24)
[17] 18[カヱン](2012/02/22 15:45)
[18] 19[カヱン](2012/02/24 02:52)
[19] 20[カヱン](2012/02/24 19:10)
[20] 21[カヱン](2012/02/25 17:45)
[21] 22[カヱン](2012/02/27 01:57)
[22] ブレイン・バースト・バックドア第二部[カヱン](2012/03/11 01:08)
[23] [カヱン](2012/03/11 22:13)
[24] [カヱン](2012/03/12 23:37)
[25] [カヱン](2012/03/15 14:37)
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[31282] 17
Name: カヱン◆bf138b59 ID:1e77003e 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/21 17:24
 詩音は数十秒でメールを返してきた。
【どうしてマッチングリストに表示されないの!?】
 マッチングリストという単語の後には、恐らくその単語を表現したかったであろう三つぐらいの絵文字が続き、文の最後にもどういう状況なのかと言った疑問を抱いた感情を表現しようとした二十ぐらいの絵文字が踊っていた。
 絵文字が表したかったことは解釈せずにコウジは返信を書いた。
【そういうチートが完成しました】
 その後の返信で詩音は色々知りたがっていたようだが、コウジはあとでリンカー部に顔を出しますとだけ送った。
 放課後までに、詩音先輩にも使えるレベルでインターフェースを調整しておかないといけない。せめて、英語表示を日本語に変えておかないとまずい。でも、そんな作業ができるのも無事完成したからだ。小さく笑って、必要とされる書き換えを行った。
 そして、放課後までにBBコンソールに似せたインターフェースとした《ブレイン・バースト・バロウ》が完成した。

 リンカー部の部室の扉を開くと、椅子に座って机の上に顔をつけたまま、こちらを向いている黒髪の美少女がいた。
 そんな詩音はコウジの姿を見るなり、目を爛々と輝かせて、ピシッと姿勢を正した。そんな女の子を横目にコウジが歩くと、それに合わせて顔を動かしてきて、妙な可愛さに顔がにやける。
 他の部員も目に入ったが、フルダイブしているか、自分の世界に没頭しているか、それか自分と関わりたがらないことを強調するように視線を逸らしていた。
 コウジは詩音と向きあう位置の椅子を引いて、机にかばんを置くと、座って制服のネクタイを緩めようとした。その瞬間、首元にほっそりとした手が伸びてきた。ちょんと、いう音が合いそうな動きで、詩音は2mのXSBケーブルをプスッと刺してきた。
 視界に表示された《リミテッド・ワイヤード・コネクション》という通知が、セキュリティーが無線と同レベルの状態での直結であると知らせてくる。その表示を閉じながら、コウジは思考発声で言った。
『対戦しませんよ』
『そのつもりだよー』
 気の抜けたそれでいて心地よさを感じる先輩の声が頭に吸い込まれた。
『で、どゆこと?』
 可愛らしい仕草の一つと知っているのかどうかはわからないが、首を傾げて聞いてくる。
 目的語が省かれていたが、ボケたりせずにやり取りを手短にするためにすぐに答える。
『簡単に言えば、接続が二系統になります。従来のものとブレイン・バースト由来のものと。後者の接続先を変えることで、マッチングリストの対象を変えることができ、今、接続しているネットワークには表示されなくなります』
 コウジなりの簡単な説明は、詩音の頭ではオーバーフローしてしまったようだ。先輩の表情は疑問でフリーズしたものに変わっていたためだ。
 コウジはそんな先輩に少し意地悪に言ってやる。
『ちょっと頭の足りない詩音先輩にもわかるように――』
 途端にプーっと膨れた表情に変わる。そんなことにばかり気をとられるのだから、わかるものもわからないのかもしれない。なんて思うが、そんな先輩にも理解できる説明を考える。
『――わかるように説明すると、学内ローカルネットに接続しながら、ブレイン・バーストだけはグローバルネットや自宅のローカルネットに接続することができます』
『えーっと、ちょっと待って、ちょっと待って』
 肘をついて、右手の人差し指で空中でくるくると輪を描きながら、詩音は言った。
『登校したら、グローバルから切れて、学内に繋がるよね?』
 詩音は一個ずつ例を作って、理解しようとし始めた。そんな先輩の手助けをすることにした。
『そうですね。ブレイン・バーストのマッチングも学内になります』
『だよね、だよね。で、そのチートを使うと、ブレイン・バーストはグローバルに繋がるってことだよね』
『そうです。僕のは自宅のローカルネットに繋いでいます』
 詩音は両手でこめかみの辺りの髪の毛をくるくるといじりながら、まだ不思議なことが残っているというような表情で聞いてくる。
『でも、学内からは切れないから怒られたりしないよね?』
 コウジたちの中学校では休日以外つまり通常の登校日の間は、学内ローカルネットに接続していないと警告を受けることになっている。細々とした条件をまとめた資料はコウジのホームサーバーにあるはずだ。もちろん、入学して最初の一週間、連日のように放送で警告を食らって、データ収集を行った結果である。
『そういうことです』
 コウジの肯定に、詩音は何かわかりそうだと言わんばかりに手を動かしながら確認を取ってきた。
『えーっと待って、待って。五島君のは自宅のローカルネットに繋がっているんだよね?』
『はい』
『ということは今、五島君の家のネットに繋いだら?』
 詩音の手の動かしっぷりがXBSケーブルに引っかかりそうなので、手の動きをなだめつつ答えた。
『マッチングリストにいますよ。でも、普通、そんなピンポイントに家に来て加速したりしないので、実質対戦拒否ができます』
 詩音は数秒ばかり、考え中、と言わんばかりに手首をぐるぐる回していた。
 コウジはそんな様子を見守っていると、詩音は戸惑いながら言った。
『よくわからないけど、ブレイン・バーストで遊べる場所を変えれるってこと?』
 コウジは最初からそう言っていたつもりだったが、今の今まで、うまく伝わっていないようだった。でも、それは蒸し返さずに言う。
『そうです』
『どうやってるの!?』
 コウジの言葉で理解が正しいことを納得した詩音は最初のようなキラキラとした目で聞いてきた。幾秒かわかりやすい説明を考えようとしたが、無理だった。
『……詩音先輩にはわからない難しいことを色々しました』
 少し固い笑顔で言うと、詩音先輩は納得してくれたように、クスリと笑った。
 あとは先輩に使って貰う必要がある。コウジは説得するように言った。
『さすがに敗北直前に切断はよくないと思います。ですが、初めからずっと表示されないのは問題ないのでは?』
『んー』
『グローバルネットでずっと切断して生活するのと同じですよね』
『確かにねー』
 詩音はそこは同意してくれたようだった。コウジは詩音から視線を逸らし、天井を見上げるように顔を少し上げた。
『さすがに今は勝てないです』
 レベル4二人、レベル3一人、レベル2一人の攻勢は引き分けるのすら難しい。
『勝てるように、せめて互角になってから、対戦を受け入れる。そうならないと、ゲームプレイすらままなりません』
 それは特にブレイン・バーストがポイントという機構をベースに作られているからだ。
『まずはポイント取られないことを考えるべきです』
 詩音は納得してくれたように首を縦に振った。
『グローバル接続の同レベル対戦でコツコツと戦い、学内はこれで対戦拒否します。そこは割り切って下さい。そうすれば、半年でポイントが数百溜めれるでしょう。それを実験に回して、半年ぐらいでチートアシストを完成させます』
『それだと私、卒業しているよ?』
 詩音先輩はニコニコとしながら言ってきた。確かにそれを見落としていた。
『じゃあ、もっと頑張って、全体を半年ぐらいで。それからアイツらをシバくって感じですね』
『息の長い計画だねー』
 詩音は本当に楽しそうに言った。
『普通にチートを作るのも、僕の場合、数ヶ月とかザラにかかっていますからね』
 コウジはそう言ってから、本題を切り出した。
『……というわけで、先輩、使ってくれませんか?』
 詩音はその問いかけを笑顔で返してきた。その意味を読み解くことはできず、コウジはさらに説得の言葉を選んだ。
『同一レベル対戦をこれで逃げるのはズルいと思うかもしれません。だから、学内のみレベル4までという条件でいいので使って下さい。詩音先輩が毎日引き分けを目指して、戦闘で逃げ続けるのを知りながら、チートを作るとか心臓に悪すぎます』
『大丈夫、わかっているもん』
 詩音はさっきからの笑顔を崩さずに言った。

 コウジは投げる仕草を行い、詩音にBBBurrow.exeを送信した。別にパッチ等ではないので、通常のファイル送信で送ることができる。
 詩音のジェスチャーを見ると、受信するなり、何の悩みもなく即効起動したようだった。コウジのホームサーバーに接続できるように、いくつかの指示を飛ばして、そのための設定をしてやる。
 数分で設定が終わり、詩音はコウジのホームサーバーに接続することができるようになっていた。
『おー繋がった』
『フルダイブもできますよ』
『なんか変な感じだねー』
 普通のリンカーと違う動きができるようになったのだから、無理も無い。
『あれ? ホームサーバーのメモリ覗けるよー』
『そうですよ』
 接続先を自分の環境と誤認させる必要があり、直結と同じ、厳密に言えばそれ以上に高レベルの接続がなされるためである。
『なんか変なのないかなー』
 そう言いながら、詩音先輩は細い指をちょこちょこ動かして、ホームサーバーの中を覗いているようだった。
 無論、そんなものが出てくるはずもない。秋葉原で購入したノーブランドの激安サーバー八台をクラスター化して作った高性能分散処理型サーバーで、仮想OS、マルチユーザーで環境分割はきちんと行われている。現在、提供されているパッチは全て当たっており、セキュリティも万全だ。フルダイブしたところで表示されるのも40km四方のだだっ広い空間だけである。
『無いですよ』
 と言いつつ、守ってもらわないと危ないことを指摘しておくことを思い出す。
『あ、でも、BBBurrowから始まるアプリは終了したり消さないでくださいね。接続切れて元に戻すのは大変なので』
 そういうと詩音はピクリと動きを止め、そして、歪な動きで恐らく閉じるジェスチャーをしながら言った。
『ダイジョーブです。もうメモリ一覧閉じました』
 詩音先輩にはよくあることだったので、直前で止めれたようで安心した。復旧作業を回避できたついでに、他の注意事項も伝えておく。
『あと、サーバーの終了とかも注意してください。変な作業をするのもできればやめてくださいね。強制終了しちゃうかもしれないんで。それに――』
『もう、あんまり触らないからダイジョーブ』
 カタコトで姿勢を正した詩音先輩が目の前に座っていた。コウジはその様子を見て笑うと、詩音もこらえきれなくなって、一緒に笑い始めた。
 ファイルの送信も終わったのに、いまだにケーブルが繋がっているのに気づいて、コウジは自分に挿さっているコネクタを引き抜いた。
 ひとまず、これで懸案だったことから解放された。そんな気分で軽く俯き、少し長く息を吐いた。
 思考発声と少し印象の違う、それを感傷的な人間は温かみと呼ぶのだが、そんな少女の声が前からした。
「お疲れ様。五島くん」
 顔を上げると落ち着き払った、頭が良さそうに見える真面目な表情の詩音先輩がいた。
「一段落したけど、やめる?」
 いきなり投げつけられた、単刀直入な質問にコウジは苦笑いした。
「まだ、もう少しだけ続けますよ」
 もう少し、の部分を強く言った。結局、根本的な問題解決はまだだからだ。それが終わるまでが彼女との約束だ。そして、思い出したように言葉を続けた。
「あ、でも、今日からはとりあえず《HAL》を倒さないと」

 そうして、ブレイン・バーストを手に入れて、一週間ぶりの平穏が訪れた。グローバルネットに接続しながらも対戦を挑まれないという平穏である。
 コウジはもちろん通学路の行き帰りも作った《ブレイン・バースト・バロウ》を使って、ホームサーバーという隠れ家に居続けていた。やはり、街を歩くには交通情報ナビがあった方がいいし、ネットの巡回先だってビクビクせずに巡回したい。
 それが再びできるようになった。いつもの生活が戻ってきたのだ。
 帰り道で何度小さくガッツポーズしたかわからなかった。
 上機嫌で帰宅して、久しぶりにブレイン・バーストを手に入れる直前までやっていたFPSのFoMの掲示板を覗いた。
 なんと先週の時点では不可能と言われていた手榴弾回避の部分を切り出したMODが攻略しつくされていた。さらに飛んでくる方向、タイミングが明かされない上級版も作られており、それすら回避するプレイヤーもそれなりに出現していた。掲示板の返信には、人間の進化だ!ブラボー!とか、むしろこれは人間辞めたレベル!とここ特有の賞賛で埋め尽くされていた。
 コウジは苦笑いして、掲示板を一度閉じ、プログラミング用コンソールを呼び出した。無論、先週作りかけていた、手榴弾の複数投げ込みの制作を再開するためだ。
 カチャカチャと小気味良い音を立てながら、コウジは必要とされるソースコードを書いていった。叩いているのは、XBSケーブルで挿してある、キートップが印刷されていないローマ字と数字だけのキーボードだ。ハッカーに半世紀近く愛されているシロモノである。
 なぞる、めくるといった移動がある動きは空中でもやれるが、押すという操作においては押し込んだというフィードバックが必要ゆえ、ホロキーボードはキーボードの完全な代替とは言い難かった。結果、フルダイブしてフィードバックのあるオブジェクトデータのキーボードを叩くか、ハードウェアのキーボードを叩く方がホロキーボードよりも優れているとされていた。また、日本語環境において言えば、右手で選択となぞりの動きを組み合わせた入力を行い、左手で選択とめくりの動きを組み合わせた漢字変換を選ぶVR型フリック入力の方がホロキーボードよりも早いとも言われていた。
 これは好みだろうな、とコウジはそんな余計なことを片隅で思いながらも、手を休めることはない。入力補完を適度に利用されつつ、テンポ良くソースコードが記述されていった。この一週間の戦いに比べれば、あまりにも楽だった。
 突然、何か不気味さ、いや、そこはかとない不安を感じた。コウジの手が止まった。何かわからなかったが、考え始めると、実はマッチングリストから隠れるのに失敗しているのでは、と思い始めた。が、その場合は自動アンインストールを食らうはずである。それが起こっていないのだから問題は無いはずだ。
 そして、再びキーを叩き始めるも数行ほどで手が止まった。不安を払拭するために、あのコマンドを唱えた。
「バースト・リンク」
 音と共に風景が青く変わり、意識が《加速》した。アバターのウサギの右手はマッチングリストを呼び出すジェスチャーを行った。サーチングの終わったリストに名前は二つしかない。
 《コペン・ミリタント》と《オペラ・プロテーゼ》。それで終わりだ。
 詩音先輩も今使っているのか、と思いつつ、さらにバースト・ポイントの残高を確認した。今ので1ポイント減っただけの数値が表示されているだけだった。
 考え過ぎだった。特にすることもなく、不安な心に1ポイント払ったんだ、と割り切り、コウジは《加速》から離脱した。

 平穏な日常の中、様々なゲームの攻略(チート)対象の一つとして、ブレイン・バーストを解析していく。そういう日々が来ると思っていた。だけども、心は何かしらの変調を訴えていた。
 そして、そんな気分のまま、ブレイン・バーストのことは片隅に《HAL》を倒すためのチートを着実に作っていった。
 それが木曜日の夜。
 手榴弾を二つと言わず、時間さえ稼げれば無制限に投げ込め、確率的に全回避をほとんど不可能にした本気チートが完成していた。
「……クソ、何なんだよ」
 コウジは自室で独り言にしては少し大きな声を出した。
 イライラを悪態として吐くことは自分にしては珍しかった。言ったところで何も解決しない。だから、言いたくなる気分を一つずつ原因に分解して、そして心を鎮める。それがうまくいかないときだけ、割り切って声に出す。
 コウジはそれでムシャクシャした気持ちは何とか無くせた。だけども、まだ落ち着かない気分が残っていた。
 そして、ゆっくりと気持ちを整理し始めた。
 単純なことだ。何か物足りなさを感じていた。チートに必要な技能、その要求してくるレベルが低い。
 それは高いハードルを超えたいという思いから来ているものではない。そもそもこのハードルを超えたいのかという疑問から来ているのだ。
 自分のゴールはここ(チート)にあるのか?
 自分がリンカーに思っていることを実現するためにこれ(チート)を作っていたんじゃないのか?
 人がさらに進化する。
 それは昔から聞かされていたことだ。でも、それを聞かせた人たちが実現しようと思っていたものは僕の想像を遥かに下回るものだった。
 それゆえ、リンカーの架空の世界で僕の想像を実現しようとした。チートという機構で人の限界を超えたかった。
 だからだ。だから、ブレイン・バーストだ。
 あれは使うだけで人の限界を超えてきた。でも、それの使い手は人の限界を超えてこなかった。
 僕の戦うべき世界、それは――気づけば、日付は既に変わっていて、《HAL》との対戦のチャンスを逃してしまっていた。でも、頭の中は鮮明になっていた。
「寝よう」
 そう呟き、コウジは寝る支度を整え始めた。

 結局、金曜日からは、ブレイン・バーストにおけるチート無しでの対戦戦略と、加速下でのアシストの実現を検討していた。だけども、それはイライラの原因になっておらず、コウジは結構機嫌良く思考に耽っていた。もちろん、授業など何一つ聞いていなかったが。
 そして、あっという間に昼休みになった。購買で買ってきた、薄皮クリームパン三つ目をおもむろにかじりながら、ニューロリンカーが発売される前の二十年以上前の論文を読んでいた。千倍でのアシスト実現のためにリンカーの量子接続を計算に使えば、なんとかなるとは予想したが、ヒントになりそうな情報があまりにも無かった。そのため、こんな古い論文を引っ張ってくることになったのだ。
「つーかこの人すげーな」
 第一著者の日本人名を見ながらコウジは感心した。個人にあまり興味はなく、直接は調べなかったが、他の論文などを読む限り、若手でこの分野を開拓した一人だと言えるのは間違いない。
 あと、二十年でこのレベルになって、と言われても、相当厳しいです、と答えるしかないと思えるぐらいの能力の人だ。
 そして、クリームパンの残りをポイと口に放り込んだタイミングで、それに合わせたかのように視界右上にメールアイコンが点灯した。学内で送ってくるのは教員か詩音先輩ぐらいしかいなくて、今は休み時間。そんなことからほとんど先輩で確定。と思いながら、メールボックスを開くと宛先には、案の定、上城詩音という名前。
 ビンゴ、ビンゴ、と声は出さずにそう口ずさんで、メールを開いた。
 空だった。
 おいおい、空かよ、と思いながらコウジはメールを閉じようとした。
 空中に表示された空白のウインドウを見つめながら、は?とコウジの思考は固まった。あのちょっとアホだけど、なんだかんだで抜け目は無い詩音先輩が、本文もタイトルも空のメールを送ってくることってあるのか。いや、あるかもしれないが、何も無いのに送ってくることなんてあるのか。
 少しの時間固まって、ここ数日感じていたのとは全く異なる嫌な感じがした。
 嫌な気分、それはブレイン・バースト由来のものしかない。《加速》するか?と考えるが、したところでどうすると思い直す。
 とりあえずは詩音先輩の《オペラ・プロテーゼ》との戦いを観戦設定にしよう。ホームサーバーを通じて繋がっているからだ。思い直せば、接続が切れている可能性を始め、これで大丈夫と言える確実な行いをしていたわけではなかった。だけども、そのとき、コウジはそうしないといけない気しかしていなかった。
 BBコンソールの観戦タブから、《オペラ・プロテーゼ》を選択する。インディケータが回って観戦対象に登録された瞬間だった。
 バシイイイっという、耳慣れた音が轟いた。教室の生徒達は消え、机や椅子などの道具も消えていった。風景が暗いものに組み代わり、コウジの姿も体の周りに構造物がついたコペン・ミリタントへと変わった。
【A REGISTERED DUEL IS BEGINNING!!】
 観戦を通知する炎文字が目の前に表示された。


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