俺の目の前には今にも死にそうな青年が居る、守れなかった。そんな後悔が沸き上がる、声を張り上げた。
「ガウッ」
「本当にゾイドを愛してる人かどうか分からないって……? そんなの簡単さ……」
いや誰もそんな事聞いてないんですが、喋れないのがもどかしい。ガウッとかグルルとか、獣言葉では伝わらない。それでも青年は、ジャッドは言葉を続ける。
「その人はきっと……ゾイドのために涙を流してくれる人さ……!」
ジャッドさんマジ格好いいです、いい言葉だ。生前でもこのシーンは感動しました、じゃなくて。伝え終わったジャッドは眠るように目を閉じる、その手にお宝が握り締められていた。遺された俺は哀悼の意を込めて咆哮する。
「オオーン!!」
何でこんなことになったのか訳が分からない、ある日気がつけば生命を持った機械であるゾイドになっていた。せめて人が良かった。しかもシールドライガーだ、物語の主人公バンの愛機である。最初はスゲーと思ってジャッドさんと大地を駆け巡っていたが、ふと気づく。
シールドライガーって地味にヤバくね?
名前がシーザーって事は漫画版の帝国軍が雇った盗賊が駆るレッドホーンの武装リニアレールガンで腹を撃ち抜かれたり、レイヴンが駆るジェノザウラーの武装荷電粒子砲に撃ち抜かれたりするのでは?
……。
死ぬ、冗談抜きで痛いに決まっている。レッドホーンの時はジークと合体して復活したり、ジェノザウラーの時はウェンディーヌの力でブレードライガーに進化したりできるけどそれでも痛いのはお断りだ。というより確かジャッドさんってムンベイの兄だよな、彼女の家族ならゾイドの気ってやつを感じ取れるはずだが。それで俺の正体を察してくれると期待したのに、先程のやり取りから通じてない。意思の疎通が出来ないのは辛いな、野良ゾイドに成り果てるか。
バンとジークとフィーネに出会うまでの辛抱だ、特にフィーネ。彼女ならゾイドの心を読み取ってくれる、俺の気持ちを分かってくれるはずだ。そうと決まればジャッドさんから託されたお宝を守る役目を果たすとしますか、そこらの野良ゾイドになんか負けないぜ。俺のシールドと牙を甘く見るなよ…………人としての矜持? そんなものはゾイドになった時点で諦めました、まあゾイドも悪くない。
ジークとの合体が楽しみだ、何せジークは女性寄りだからな。ゾイドに性別があるのかどうかは仔を産むんだからあるんだろう、しかもジークは戦いよりも日向ぼっこが好きでドジで弱虫な女の子! テンション上がってきた。
「ガオオオッ!」
おっと声に出てたか、砂漠で徘徊していたステルスバイパーがびくっとして隠れるのを見て少し落ち着く。早く来いよバン達、俺は何時でも合体待機してるからな。
そう思っていた時期がありました……
シーザーです、現在お宝を奪ったアーバインが駆るステルスバイパーのトルナードを追跡中。途中で盗賊が駆るレドラーも参戦したが俺の目には入らない、いよいよバン達に出会えるのだ。特にジークとフィーネ、つい張り切りすぎて地上に降下してきたレドラーを撃墜したのは事故である。その分早くレッドホーンが出てきたのは焦ったがバンとジークに出会えれば、奴等なんて敵ではない。
そして。
「キュイ!」
「てめーらは人の勝負の邪魔すんじゃねーー!」
レッドホーンに体当たりをかますジークとバン、キターー!
よしよし俺の準備は何時でも出来てる、ジークちゃんはぁはぁ。その雰囲気を悟ったのか怯えるジーク、あれ?
「キュゥ……」
「ど、どうしたジーク? 早くこの野良ゾイドと合体を」
そうだ怖がらなくていい、俺は牙があるが紳士ですよ? バンの言う通り合体を! 中々ハート型の合体体型にならないジーク、それを見たフィーネは告げる。
「……駄目よバン、ジークの心を開いてくれないと合体は出来ないわ」
「はあっ!?」
「ガウッ!?」
フィーネの指摘に焦るバンと俺、ジークの心を開くって普通逆じゃね?
状況が変わり負傷したトルナードに迫るレッドホーン、ちょ。早くしないとアーバインがヤバい、どうすればいいんだ。ジークの心って言われても……
大丈夫だ、敵意はない心から。ゾイドの気持ちを思いやる、ジークの心っ!
やあ俺シーザー、君と違って中身は人だけど君の新しい仲間さ。これからよろしくね。
…………。
「キュゥゥ」
ジークは逃げ出した!
失敗したああああっ!?
バカな、ちょっぴり疚しい心アクエリオン的な合体を想像したのが駄目だったのか。仕方ないバンに乗れとコクピットを解放、レッドホーンにシールドアタック。何とか状況を脱したがジークの問題をどう解決しよう……
シーザーの悩みは始まったばかりである。