まえがき
しょうもないパロネタでしたが、いよいよラストです。
パロネタはなるべくセリフを変えないのが醍醐味、という天狗道的自己満足な信念の下、波旬のセリフは可能な限り原本のまま使用しています。
なお、波旬を知らない人や、リリカルキャラをパロネタの被害者にするなど言語道断! と思う方はただちにブラウザバックすることをオススメします。如何なる精神的苦痛を味わられたとしても、『いいぞ、何を言っているのかさっぱり分からない』としかお返しできません。
ネタ 砕け得ぬ闇と一緒にナニカも復活したそうです 流出
「これは―――」
「何が―――」
“砕け得ぬ闇”の外側にて無限増殖する闇の欠片、射干たる細胞を前に劣勢を強いられていた状況に、大きな変化が訪れる。
圧倒的な力を誇っていた狂天狗。歴代の闇の書の主の姿をとっていた中核が崩れ、吐き出されるように一人の少女が出てくる。
それに伴い、周囲の欠片も霧散し、闇の書の闇の終焉をなぞるかのように、巨大な漆黒の球体へと纏まっていく。
「システムU-D! 無事やったんか!」
「良かった、彼女が無事ならば、まだ、飲みこまれた守護騎士達やマテリアル達を助け出すことも」
「夜天の主、管制人格、どうか、わたしの話を聞いて下さい!」
ついに、紫天と夜天が交わる時がきた。
失ったものは多く、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラ、シュテル、レヴィ、ディアーチェの7名は内部に呑まれ、ロッテ、アリア、トーマらも戦闘不能に追い込まれている。
元々空戦が得意ではないヴィヴィオやアインハルトも致命傷を負う前にアースラに移送され、この場に残っているのは、なのは、ユーノ、フェイト、アルフ、はやて、リインフォース、クロノだけ。
奇しくも、闇の書の闇との最終決戦に参加したメンバーのみが残った形だ。
「“砕け得ぬ闇”の中枢、防衛プログラムは暴走していますが、まだ完成してはいません。私の本体が内部にいる以上、どうしても外側に出せる力には限界があります」
正確に言えば、出した力を誰にぶつければよいのかが分からない。
無限連関機構エグザミアから無量大数に届く力を引き出そうとも、それを敵にぶつけられないのであれば、何の意味もない。
「ただ、このまま放っておけば自分以外のもの総て、世界そのものに攻撃を開始するでしょう。そうなれば………」
「どうなるんや?」
「この星、いえ、宇宙を総て飲み込むまで無限に闇が広がっていきます。そして、邪魔なモノを総て消し潰して、誰もいなくなった次元世界に彼だけが永遠に揺蕩うことに」
その言葉に、全員が頭を抱えるような顔をするが、状況から考えて予測できたことでもあった。
「そんなん、絶対アカン」
「全くの同意だな、しかし、ジュエルシードといいこれといい、ロストロギアのもたらす破壊はどうしていつも次元世界を破壊するほどの規模になるのだろうな」
執務官として、これまでロストロギア事件に関わってきたが、流石に溜息しか出てこない。
だが、やるしかない。次元世界を安定を維持するための管理局は、常にそんな綱渡りを繰り返してきた。今更と言えば今更だ。
「それで、止めるための方法は?」
「えっと、わたしにもまだ良く分からないんですけど、この紫天の書を貴女達に渡してくれと、ディアーチェが………」
暗く深い闇の底で、ユーリを逃がすために戦った闇統べる王、ロード・ディアーチェ。
彼女の紫天の書は、システムU-Dを制御するための端末であり、本来力の塊である彼女を導くためのもの。
そして、あの“砕け得ぬ闇”が、夜天の魔導書の防衛プログラムと無限連関機構エグザミアが融合し、暴走しているものならば―――
「でも、そのためには彼の本体が放ってくるであろう力を、誰かが食い止めねばいけませんが―――」
「まっかせて、ユーリちゃん!」
「大丈夫だよ、わたしたちが守るから」
「僕達も、協力するよ」
「まあ、ここまで来たら当たり前の流れだよね」
「当然、わたしらもいくで、強盗さんはぶっとばして、うちの子達を返してもらわんとな」
「ええ、夜天の魔導書を闇へ堕とした根源は、ここで清算しましょう」
答えるまでもないとばかりに、6人が応じ。
「ということになったようだ、エイミィ、艦長に伝えておいてもらえるか?」
「アイサー! ところでクロノ君、戦勝報告の書式はどうしよっか?」
「まだ戦ってもいないのに勝った後のことを考えてどうする」
「大丈夫、こんな失敗したら次元世界終了のお知らせみたいな事件は、そのくらいの気概でちょうどいいんだよ。それと、怪我人組は回収完了、今は治療室でお休み中」
「すまないな」
「いえいえ」
「さて、それじゃあ―――」
クロノ・ハラオウンが見知った6人ともう一人を見渡し。
「相変わらずの綱渡りで、個人の技能頼みの作戦となってしまったが、そろそろ闇の書の因縁に付き合うのも飽きてきたところだ。過去の悲しみも何もかも、ここで終わらせよう」
「うん!」
「了解!」
「わかった!」
「おっけー!」
「よっしゃ!」
「ええっ!」
「お願いしますっ!」
そして―――今こそ彼らは、ここに最後の行進を開始する。
魔法と出逢い、空へ憧れ、戦技教導官の夢を目指す少女。
悲しい過去を胸に、自分のような子をこれ以上出さぬよう、誓いを掲げる少女。
呪われた闇の書に選ばれ、その呪縛を解き放ち、守護騎士達と共に生きる少女。
そんな彼女らを後方から支え、守っていくことを己に課した司書の少年。
帰るべき場所を守り、いついかなる時も支えになることを誓う、狼の使い魔。
遠くない未来に消え去る定めにありながら、主のために在り続ける祝福の風。
未来へ羽ばたく彼女らの先達として、見守りながら導く、執務官の少年。
闇から暁へと変わりゆく、紫色の天を織り成すもの、紫天の盟主たる少女
それぞれがそれぞれの道を歩み、目指す夢と道のり、そこに抱いた想いをもって、一つの力と成すために。
誰に強制されたわけでもない。彼ら全員が、全員のために選択した諸々が、この形へと収束した。それこそが勝利を呼び込む光となる。
まず自分を強く持ち、だからこそ感じられる他者という存在。
名前を呼んで、認め合い、友となっていくことで広がる輪。
己は己でありながら、大きな輪の一つでもあると信じること。
そんな子供でも分かる当たり前のことすら、この闇の深奥に座する者は知らない。
己以外は塵芥。目障り、邪魔くさい、ゆえに消えよ―――滅尽滅相。
そのふざけた自己愛理論を打倒するため、少年少女達はここに集った。
その過程で、多くの過去と触れ合った。もう二度と逢えない筈の人との邂逅に、流した涙があった。
それでも、残るものは涙だけではない。
他者を認めず、排斥するだけではない。過去にしか幸せを見出せぬ女性ですら、最後に、娘に言葉を残したのだから。
例えそれが、辛い否定の言葉であっても。
紛れもなくフェイトという個人を認め、だから嫌いなのだと、忘れられない程に、貴女を想っているのだと。
使い魔は、主と深い部分で繋がっている。
ギル・グレアムの使い魔であるリーゼ姉妹が、彼の封じている闇の書への憎悪が反映されるように。
リニスという使い魔には、プレシアという女性の封じている娘への愛情が反映されていた。
だからこそ―――
「見つけました、中枢です!」
紫天の書の導きに従い、闇の中を突き進む彼らは、勝利を確信している。
他者を排斥する憎悪のみが反映され、滅尽滅相の法による射干しか生れぬ筈の理ですら、それを打ち破るものがあると知っているから。
「よおっし、なのはちゃん、フェイトちゃん、切り拓くで!」
「おっけー! 全力全開!」
「うん! 雷光一閃!」
星の光
雷の一閃
終焉の笛
桜色と金色と白色、三種の魔力光が咲き乱れ、3つの魔法陣より顕現する閃光が曙光の如く煌く。
「スターライトブレイカー!」
「プラズマザンバーブレイカー!」
「ラグナロク!」
放たれた三本の矢は一筋の光と化し、無明の闇を切り払う。
ここに、最後の戦いを迎えるため、超深奥の座へと到達した。
【ああうるさい】
【うるさいぞ、塵芥が何か分からぬことを囀っている】
まず、何よりも目を引いたのは三つの瞳。
万象を見通す最強の天眼でありながら、その実何も見ていない白濁した眼光だった。
【ある日、気がついた時から不快だった】
【何かが俺に触っている。常に離れることなくへばりついてなくならない】
【何だこれは。身体が重い。動きにくいぞ消えてなくなれ】
【俺はただ、一人になりたい。俺は俺で満ちているから、俺以外のものは要らない】
陰々と、独り言のように垂れ流す言葉が全てを物語っている。
光が翳る。闇が版図を広げていく。
その術理には排除と殺戮のみしかなく、夜天の魔導書を飲みこむことで得た機能、蒐集されるページ、その総体に抱え込んだあらゆる要素を、己に纏わりつく不快な塵としか思っていない。
【なのに、ああ、なぜなんだ。ようやく見つけたそいつらを、消し潰したのに不快感がなくなるどころか増していく】
【俺の中で塵が満ちる。奴らが持っていた塵屑が、俺に纏わりついて離れない】
【要らない。要らない。俺はこんなモノなど望んじゃない】
【俺以外、消えてなくなれ。宇宙には俺だけ在ればいい】
【塵同士喰らい合って、綺麗さっぱり無くなれよォ】
「貴方は、哀れな人です」
「貴方にだって、愛してくれる誰かがいたはずなのに」
他者を見ず、ひたすらに呪を紡ぐ“ソレ”に対し、強く心を持って少女が決別する。
これに縋りついて生き続けるのは、これでおしまい。
「貴方の暴走は、もう終わりです! わたしたちは―――朝日と共に生きると決めたんですから!」
【――――ああ、そうだ、お前だ、お前なんだ】
【見つけたあ! 見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけた見つけたぁ!】
【汚らわしいんだよ畸形どもめらァッ! 俺にへばりついた成りそこないのくせによぉッ!】
【滅尽滅相―――!】
【逃がさねえ、許さねえ! てめえだけはこの俺が、引き毟って滓も残さずばら撒いてやらァッ!】
「行くよ、フェイトちゃん!」
「うん、なのは!」
先陣を切るは、星と雷。
ここにいる7人の中で最も空戦能力に長けた二人が、闇の中枢を前に怯むことなく切り込んでいく。
不屈のエースオブエース、高町なのは ――――― 魔導師の杖が星の光を紡いでいく。
心優しき金色の閃光、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン ――――― 閃光の戦斧が、雷神の刃を形成する。
「バルディッシュ、リミットブレイク、ライオットブレード!」
そして、二人同時に切りこんだならば、速度で勝る彼女の攻撃が先に到達するのは自明の理。
フルドライブのザンバーモードの進化形、未完成のライオットブレードを展開し、圧縮魔力刃で切り裂く。魔法の師リニスが遺した、フェイト・テスタロッサのための魔導戦技の完成形の雛型が、ここに示される。
「撃ち抜け、雷神! ジェット、ザンバァァァァァァァ!!」
雷光一閃。
滾る裂帛の気合いが、魔力結合レベルで切り裂く無謬の切断現象として放たれる。
狙いは違わず命中、それと同時に無限連関機構エグザミアの光が一気に翳る。
間違いなく、今ので削られたはずだと、この場の全員が確信し―――
【くくく、うはははは、あははははははははははははははははははははははぁぁ!!!】
【踏み出す一歩、繰り出す一閃。そうだよ、いつだって………わたしたちは、一人じゃない!】
【疾風迅雷、ジェット・ザンバー―――――あはははははァ! なんだそりゃあ、ナマクラかァ!!】
だが、帰ってきのは哄笑のみ。
無限連関機構エグザミアは確かに削られているはずだが、垢が一つ溢れた程度で何を騒ぐ必要がある、むしろ余分なものを落としてくれてせいせいする、と言わんばかりに狂天狗の嗤いは止まらない。
【温いぜぇ、てめえが切ってきたのはなんだ? 滓かァ? あのなんとかいう腐れ売女程度か】
【やっぱりあなたは、アリシアの偽物よ。せっかくあげたアリシアの記憶も、あなたじゃ駄目だった】
【アリシアを蘇らせるまでの間に、私が慰みに使うだけのお人形。だからあなたはもういらないわ。どこへなりと……消えなさい!!】
【人形の剣だな、芯がない。うわははははははははははははははははははは!!!】
「くっ――」
その嘲りは、フェイト・テスタロッサの魂を根本から貶める呪いに他ならない。聞き流すことなど出来る筈もなかった。
「―――貴様ァァァ!!」
激昂したフェイトが二撃、三撃を続けて放つ。
乱れ舞う剣閃に重なる形で、自らの親友を侮辱された星の砲撃も猛り狂う。
「エクセリオンバスター、フォースバースト! リミットブレイク、ブラスターモード!」
未だ完成の域ではない、リミットブレイク。
だが構わない。一番の親友を侮辱されて怒らない精神など、高町なのはは有してはいないのだから。
「ブレイク、シューーーーーーッット!!!」
自己の限界を超えたブースト機能を最大に発揮し、渾身の砲撃が叩き込まれる。
だが―――
【我、使命を受けし者なり。契約の下、その力を解き放て。風は空に、星は天に。そして、不屈の心はこの胸に、この手に魔法を! リリカルマジカルぅ!】
【エクセリオン・バスターーー――――透けてんだよォ、周りのカスを集めた霧が効くか阿保がァ!】
【これだから、ガキはつまらん】
返ってくるのは、やはり醜悪極まる嗤いのみ。
まるで痛痒など感じぬままに、最低最悪の邪念はとどまることがない。
【名前を呼んで、最初はそれだけでいいの、魔法の言葉はリリカルマジカルぅ――――はあぁぁ?】
【痴呆かお前、そのノリと格好を大人になるまで続けてくのか? せいぜいが馬鹿女丸出しってとこだろうがなぁ、頭湧いたそこの痴女とはお似合いだなぁ、うわはははははははははははははははははは!!!】
「――――ッ!」
「呑まれるな。アレは下種だ、聞き流せ!」
さらに激発しかけるなのはを抑えたのは、リインフォース。
最も長く暴走プログラムと戦い、今はかつての力の残滓程度しか残っていない彼女が、冷静に敵を見据えている。
【よぉ、カッコいいなあ、祝福の風】
【強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール】
【俺の糞が俺の糞食って不味がってんなよ。今は幼女の小便で生きてんのか? てめえとんだアレだな、ああなんだ】
【あぁぁあぁ、―――変態だ】
【くはははははははははははははははははははははははははは――――】
「二人とも、分かったろう、アレが防衛プログラムのなれの果てだ。下種の極みだが、歴代の闇の書の主の誰もが比較にならぬほど、強い。そして奴は、夜天の魔導書の総てを使う」
「総てって、まさか……」
「はい、我が主。アレは夜天の魔導書に連なる全てを呑んでいます。アレにとっては既に消し去った残影でしょうが、記憶として使ってくるでしょう」
塵として、捨て去るべき滓として、糞便を投げつけるように使ってくる。
その総体が空になるまで、蓮台に座すのが真に己一人になる瞬間まで。
「既に我々は、奴の体内に入っています。そして、体内に侵入された場合、それを迎撃する役を担うのは本来防衛プログラムではなく」
「夜天の守護騎士」
「はい、そして、紫天の主を守るべくある3基のマテリアル達。それら全てを失えば、奴は全てのシステムのしがらみから解き放たれるわけです」
唯一人になりたいがために、そうせずにはいられない。
そしてそれは、あらゆるリソースを独占し、無限連関機構によって無量大数の魔力を振るう最強への回帰を意味するが、ここに例外が一人だけいる。
防衛プログラムがリソースを独占しようとする、その根本に関わる存在が。
彼女を相手にした場合だけは、敵の侵入を許したと感知することが出来ない。防衛プログラムには、自己を検索する機能も、自傷する機能もありはしないのだ。
「ユーリ、奴自身と対峙できるのはお前だけだ、分かっているな」
「はい」
「皆、そのために刺し違える覚悟を!」
「分かりました!」
「当然!」
「守りきって見せます」
「当り前だよ、やらなきゃね」
「もち、皆、あそこにおるんや」
「ああ、言われるまでもないな」
そして、クロノの指揮の下、これから来るだろう攻勢を凌ぐための布陣へと切り替える。
その中で、夜天の主が常にある点を睨みつけている。
主座を中心に、8つの座が取り囲む構図。
そこにいるのだ。
「わたしの家族を、返してもらうで」
彼女が返してもらわねばならない、愛すべき家族達が。
【家族? 家族だと? なんだこいつらが気になるのか?】
【俺では不足? あぁそうかもな。俺も嫌だぜ、てめえらみたいな塵にかかずらう羽目になるなら、永劫ただ一人でいい】
【ならばよし、どの屑がいい? 選ばせてやる】
【烈火の将、紅の鉄騎、風の癒し手、蒼き狼、星光の殲滅者、雷刃の襲撃者、闇統べる王】
【どいつも指の一本程度で消し潰せるような雑魚だがなァ!】
中央の真上、赤紫に輝く魔力光が、烈火の如く燃え盛る。
夜天の守護騎士、ヴォルケンリッターの将であり、総合的な戦闘能力ならば4人の中でも随一であろう剣の騎士。
【まず感じたものは悲嘆。騎士達を率いて幾星霜、我らは誰に仕え誰がために何を成す】
【無限に等しい放浪の日々、騎士の誉れもなきままに、ただ剣を振るうのみ】
【ああ、なぜだ。我らの誇りは何処へ消えた。この剣、最強の一撃は誰に放つためにある】
【刃を交えし好敵手よ、御身との再戦を我は願う、いつか互いに万全に雌雄の決する時を夢見て】
【受けてみろテスタロッサ! シュツルムファルケン!】
「シグナム!」
放たれしは、音速を超える最強の一矢。
「く、ああああああああああああああああああああああああ!!!」
その標的は、彼女がライバルと認める少女。閃光の戦斧が全力を以て迎撃するが、元より、純粋な破壊力においては烈火の将が数段勝るのは厳然たる事実。
加え―――
【剣閃列火――――火竜一閃!】
投げ捨てられるだけの破壊は、術者の身体の負担などを考えない。
ボーゲンフォルムから即座にシュランゲフォルムへと切り替え、炎熱変換を最大限に発揮する広範囲攻撃、烈火の将のもつもう一つの究極の一撃が放たれる。
「フェイトォォォォォ!!」
7人全員を襲わんとする火砕流の如き波動を受け止めるアルフ。
シュツルムファルケンの破壊を受け止めるフェイトにダメージが及ばぬよう、全ての力をバリア展開に注ぐ。
「プラズマザンバー、ブレイカーーーーーーーー!!」
「絶対に、通すもんかよおおおおおおおおおおおお!!」
果たして、火炎地獄は消え去り。
「これで後は」
「任せたよ、皆―――」
役目を終えた彼女らは、静かに退場していった。
【まず感じたものは諦観。求めしものは、未知の主】
【何も見えない、聞こえない、安らぎを得ても、主のきまぐれで全てが奪われる】
【全部嫌いだ、いつまであたし達は苦しまなきゃいけない、いつになったら、この夜は終わる】
【なぜ、この鉄鎚を優しい主のために振るえないんだ。待っているのは積み上げられた屍の山だけ】
【もう嫌だ――――全部、何もかも、ぶっ潰れろ!】
「ヴィータちゃん!」
顕現する巨大な鉄鎚、ギガントシュラーク。
守護騎士の中では最もバランスに優れると同時に、一撃の破壊力も烈火の将に劣らぬ強さを持つ紅の鉄騎。
「プロテクション、パワード!」
翠色の防御壁と桜色の砲撃が、迫る猛威を押し返す。
だが、2対1でなおも拮抗するその力、こと、叩き潰すことに関してならば、彼女の右に出るものはいない。
「全力……全開!」
「いけぇ、なのは!」
ユーノが防ぎ、なのはが撃つ。単純故に凶悪極まりない組み合わせ。
「スターライトブレイカーーーーーー!」
そのコンビネーションはいかんなく発揮され、二つ目の欠片が消え去っていく。
「シグナムさんはフェイトちゃんとアルフさんが止めてくれた、わたしたちも一緒に行こう、ヴィータちゃん」
全ての力を使いきった少女は微笑みながら、赤い光の残滓を抱きしめる。
孤独に苦しみ、彷徨い続けた少女を労わるよう、その名前を呼びながら退場していった。
【まず感じたものは礼賛。求めしものは、王の証】
【我は臣下と共に覇道を往く、闇統べる王たるこの身に不可能などありはしない】
【だが、なぜだ、我は自らの力で己を維持することすら叶わぬ】
【邪魔をするか、子鴉に残骸めが、お主らを潰せば、我は真なる自由を手にすることが出来るのだ】
【我が魔導にて滅びるがいい―――ジャガーノート!】
極大の魔力砲。恐らく、存在する7柱の中では最大の魔力を有するであろう攻撃。
磁石が引き合うかのように、闇統べる王の攻撃は夜天の主へと迫りゆく。
「いけない、我が主!」
「リインフォース!」
それを止めるは、祝福の風。
例え残滓に過ぎぬ力であろうとも、この身は全て主のために。
「今です、この力を押し返せるのは貴女と私しかいません!」
「―――っ、分かった! 響け、終焉の笛」
彼女の言葉を受け、はやては最大の魔力砲の準備を進める共に歩みよっていく。
「ラグナロク!」
「ユニゾン・イン!」
白光が輝き、ジャガーノートの破壊を拮抗すると共に、主と融合騎が最強の姿を取る。
「「 夜天の祝福―――今、ここに! 」」
上方から降り注ぐ雷が、拮抗していた力場をまとめて消し飛ばす。
無論のこと二人もまた例外ではないが、黒翼が互いを繋ぐように、闇統べる王と夜天の主もまた祝福の風に運ばれていった。
【くふ、ふはは、ははははははははははははははは――――】
【いいな、いいぞおまえたち。役に立つな、塵掃除の才能がある】
【必死に気張って、次から次へと勝手になにやら満足しつつ一緒に消えてくれるのか。いい子だねえ、嬉しいぞ。俺が純化されていく、ああ、なんてすがすがしい気分何だ】
【その調子で、塵屑同士喰らいあえよ。他にお前達が行く場所なんて、俺の身体のどこにもない】
「いいえ、分かっていないのは貴方です」
その瞬間、主座の内部から、一筋の光が走った。
『今度は、悪夢や悲しい夢ではなく……せめて、優しい夢を見られるように……』
『綺麗で温かなものは、みんな過去にある、そう………私は、いつだって』
『ねえ、プレシア……私はやっぱり、幸せでしたよ………?』
『私は……』
瞬間、その言葉によって風の癒し手と盾の守護獣が砕け散った。
元来が攻勢ではなく、原初の戦いにおいても守り続けた二人だからこそ。
そして、何よりも大きな効果は―――
【……あァ?】
【なんだこりゃ? 亀裂が、俺、にも……】
防衛プログラムから生まれた闇の欠片であるはずの存在が、プログラムの法則から外れたこと。
どれだけ滅尽滅相の法則を誇ろうと、その原初は1と0の羅列に過ぎない。あり得る筈のないエラーは、致命傷となってプログラム全体に亀裂を刻む。
【俺の、身体が、おお、おお、おおおおおおおおおおおおおぉぉぉォォ!!】
【俺の、俺の身体に何しやがったてめえええええええぇァッ!】
「貴様はもう、完全無欠ではなくなったということだ」
ジュエルシードにまつわる事件、その担当の執務官でありフェイト・テスタロッサの兄となった少年が、氷結の杖デュランダルを向けつつ宣言する。
「例えそれが全体の欠片の数からみればどれだけ小さなものであっても、既に“砕け得ぬ闇”はお前だけのものではなくなっている。その証拠に、お前から生じたはずの彼女らは、フェイトに言葉を残していったのだから」
【ぎ、が、あぐ、おおおぉぉ……】
「勝つのは僕達だ―――滅びろ、闇の中枢よ! 貴様は一人で、誰の力も借りられない!」
ブレイズキャノンが放たれ、青い砲撃が真っ直ぐに中枢めがけて突き進む。
【集え、明星。全てを焼き尽くす焔となれ! ディザスターヒート!】
苦痛に喘ぐ中枢が迫りくる魔力弾を咄嗟に弾くべく、残る欠片を開放。
紅蓮の炎が、青い魔力の塊を瞬く間に飲み込んでいく。
「悠久なる凍土、凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ」
だが、これこそが待っていた好機。
星光の殲滅者シュテルの攻撃ならば、最も相性の良い防御手段が存在しているのだ。
「凍てつけ! エターナルコフィン!」
【あん……だと………】
放たれた轟炎は全て凍てつき、逆にクロノとユーリを守る盾となる。
シグナムのシュツルムファルケンや連結刃を伴う火竜一閃ならば不可能であったが、同じ炎熱変換の属性であっても、シュテルの攻撃は魔力が直接変化するタイプ。
そして、クロノ・ハラオウンのデュランダルは“闇の書を永久封印するため”に専用に作られたストレージデバイス。彼の攻撃のみは、この空間において長期間効果を保ち続けるという特性を持っている。
【まず感じたものは慈愛。求めしものは、永遠の絆】
【私たちに望むものは何もない、ただ、あの子を支えられる存在でありたい】
【そうだ、だから僕は刃となり、君は盾となって王様の力になって、あの子を迎えにいこう】
【僕達は3人で一つ、そして、想いは私と貴女は同じであるのですから、迷うことなど何もない】
【いざ、シュテるんと僕は二人で一つの技を!―――雷刃滅殺極光斬!】
絆というものを大事にし、常に同じ想いを抱いていた二人。
それはまるで、彼女らのモデルとなった少女らも、互いに強く想い合っていることを示すように。
その絆が今、冒涜的に歪められ、エターナルコフィンを放った直後のクロノへと襲いかかる。
「チェーンバインド!」
「ディレイドバインド!」
それを凌ぐは、翠の鎖と水色の鎖によって編まれた網の目の如き防御陣。
【………誰だ…………手前ら】
「やっぱり、思った通りだね」
「闇の書に蒐集されたなのはやフェイト。闇の書の夢の中に登場しているアルフ、夜天の主であるはやてに、管制人格のリインフォース」
なのは、フェイト、はやてはマテリアルのモデルになっているほど今代の闇の書との縁が深く。フェイトの使い魔であるアルフや、管制人格のリインフォースもまた然り。
だがしかし、ユーノ・スクライアとクロノ・ハラオウン、この2名は闇の書との直接的な接触が極めて薄い。無論、闇の欠片として再構築されている以上、認識されていないわけではないが―――
「欠片を全て失って、なおかつ亀裂の入った状態なら」
「僕や君に対しては、盲目になるということだ」
そして、敵に火竜一閃やジャガーノートという広範囲攻撃があることを知りながら、7人がばらけるでもなく、常に固まっていた最大の理由がこれである。
闇統べる王、ロード・ディアーチェがもたらした、奴は索敵が著しく下手であるという情報。だからこそ、なのはがヴィータと共に退場した際、ユーノがどうなったかについて考えもしなかった。
そもそも“ソレ”は、ユーノとクロノを認識してすらいなかったのだ。
「とはいえこっちも満身創痍。これ以上は支えきれそうもないけど」
「後ろに女の子がいるのに諦めたら、男失格だな」
この二人もまた攻勢よりも守勢を得意とする。まして、女子達が根性を見せているというのに、ここで男が引ける筈もない。
そして―――
「これで―――7つ!」
「後は中央の下種だけだ、それでぶっ飛ばしてやれ!」
7つの欠片が全て砕け。
場に残るのは、防衛プログラムの中枢と、ユーリ・エーベルヴァインのみ。
【あぁ、あぁ、あぁ……】
【つまらん。何の茶番だこれは】
【結局のところ、他人だろう。そいつが何をして、何を言っても、己と何の関わりがある? なぜ他人の言動に影を受ける?】
【知ったことではないだろう。そもそも視界に入っていることのほうが異常なんだ。己の中に別の何者かを住まわせて、なぜそれを喜べる? 邪魔臭いとは思わんのか?】
「思いません。貴方には、この気持ちが分からないんですか?」
【分からんね、分かろうとも思わない】
【俺にあるのは、ただそれが不快だということだけだ。ああ、本当はそのココロすら煩わしい】
【平穏、というやつなのか。俺はそれのみを求めている。永劫に、無限に広がりながら続いていく凪】
【起伏は要らない。真っ平らでいいんだよ。色は一つ、混じるもの無し】
「それが、自己愛」
【そうだ。俺が俺を何より尊び、優先し、俺という世界を統べる王であること。俺の大事さに比べれば、他など目に入らない】
【狂っているのは、お前達だ】
【何故俺を一人にしない。なぜ俺に触れようとする。なぜお前達はいつもいつも―――】
【なあ、お前がいたからその結論になったんだぜ。この俺にとって、忌むべき唯一、恥の記憶】
【俺に他者という存在を叩きつけ、その影を烙印した原初のウィルスよ】
【お前さえいなければ―――なんていう、何者にも影響されない単一機能だった俺に矛盾する傷を根源に刻みつけた】
【それが不快なんだよ。許せないんだよ。搔き毟って真っ平らにしたいんだよ】
「………私は、貴方が怖くて、でも羨ましかった」
「けど、もう貴方を羨ましいとは思いません」
「内に籠るしか出来なかったわたしを、ディアーチェが、シュテルが、レヴィが助け出してくれました」
「貴方は、何も見えていない。どれだけ大きな力があっても、ずっと一人で何も見ようとしない、その瞳に何も映らない」
【くは―――――】
【くは、はははは、はははははははははははは!】
【いいぞ、何を言っているのかさっぱりまったく分からない! 俺は俺として純化している】
【もうお前の存在などに、煩わされたりはしないんだ。ああ、本当に待っていたんだよ、この時を】
【さあ、それでは終わらせようか】
【ああ、お前何だったかな? 知らないぞ。よく分からないものが目の前にいる。潰そうか】
【そうすれば、もはやこの目に映り込むものは何もないんだ】
無限連関機構エグザミアが鳴動し、唯我の意志に束ねられていく。
今やあらゆる機能を失い、残っているのはそれ一つ。そして、一つになったときこそ最強となるのが最大の特徴でもあった。
だが―――
「わたしはユーリ、人として生まれた時の名を、ユーリ・エーベルヴァイン」
彼女と相対する時は、その法則は当てはまらない。
彼女こそが、その狂ったプログラム法則を産んだ、バグの根幹なのだから。
だが同時にそれは、彼女自身には戦う力がないことを意味するが
「セットアップ! プログラムカートリッジ、ロード!」
決して、彼女は一人ではない。
「レイジングハート、『ネーベルヴェルファー』。バルディッシュ、『ホルニッセ』。レヴァンティン『ヴィンベルヴィント』。グラーフアイゼン『ブルムベア』」
シュテルとレヴィが託した、“砕け得ぬ闇”を止めるためのワクチンプログラム。
「システムプログラム、S2U+デュランダル、『オストヴィント』。夜天の書+シュベルトクロイツ『ヴァッフェレントレーガー』。ドライブイグニッション!」
これまでの戦いでぶつかっていった魔導師、騎士達。
彼らの想い全て、デバイスを介して紫天の書へと集い、解き放たれる。
「闇から暁へと変わりゆく紫色の天――――曙光の輝きよ!」
【ぐッ―――】
そしてそれが、防衛プログラムの最大の欠点。
主となった人間や使い魔、守護騎士、マテリアル達を感じることは出来ても。
彼らの持つデバイス、そこに託された想いを感じ取ることは出来なかった。
「さようなら………どうか、貴方の望んでいた場所へ」
【―――――】
「そこの寂しさに気付けたなら、いつかまた会いましょう」
【ふ、ふはは、はははは……】
【大きな、お世話だ】
【俺以外が無くならないなら、俺自身が無くなるまでだよ】
【ああ、いいぞ素晴らしい……そこは無謬の平穏に満ちている】
【今度こそ、今度こそお前たち、俺には絶対構うんじゃないぞ】
そうして、最後まで憎々しい嘲笑を残しながら、闇の中枢は消えていった。
永劫、永遠にどこまでも、真実一人になれる無を求めて……
「ユーリーーーーーーー!!」
「お見事でした」
「よくぞあの下種をぶっ飛ばした、褒めてやる」
待ち望んでいた声に、少女が背後を振り返る。
「ディアーチェ! シュテル! レヴィ!」
「無事、再構成かんりょー!」
「随分とギリギリではありましたが」
「だからこそ、最後の決め手をプログラムカートリッジにしたのであろうが、通常の攻撃では我らまで纏めて消えていたわ」
「じゃあ、夜天の騎士の皆様も」
「うん、向こうの主の傍で再構築してたよ」
「もっとも、紅の鉄騎は損傷が酷かったとかで、なのはに文句を言ってましたが」
「全力全開も時にはほどほどに、ということだ。だがまあ、何にせよこれで―――」
周囲一帯を覆っていた、闇が晴れ。
「朝日だ!」
「ええ、とても綺麗です」
「これも、うぬの手柄だぞ、誇るがいいユーリ」
「あの、わたしはただ、皆さまからもらったカートリッジを使っただけのような……」
少女達は、曙光と共に歩いていく。
「きにしなーい、きにしなーい、とにかくお腹減ったー」
「そうですね、まずはアースラの食堂へ」
「おのれら、どこまでもマイペースだな」
「ふふ、わたしも、何か食べてみたいです」
例え、深い闇が全てを覆い尽くそうと。
いつか必ず、朝日は昇るのだから。
完
あとがき
ちょっと遅れましたが、ようやく流出いたしました。
波旬死ね×無量大数
は、毎度のこととして、よくまあここまで暴言ばかり吐けるものだと感心します、いやマジで。
波旬の書もようやく撃滅され、海鳴市に平穏が戻りました。守護騎士やマテリアルもちゃんと戻り、大団円。
のはずなのに、どうにも波旬がすっきりして退場するのが気に入りませんね、こう、【馬鹿なぁぁ!】的な感じで終わればスッとするんですけど、キャラ的にそうならないのが波旬クオリティというべきか。
ともあれ、パロネタもこれにてお終いです。お付き合い頂いた方々、真にありがとうございました。