アンドロイドは一繋ぎの財宝の夢をみるか?
作者:ゴロイジョン
三話 ココヤシの実を吸う、蚤を討て!!
ザザザザッと。波を切り、風を無視して走る一隻の船。
船首には狼の頭があしらわれている。
個人で用いるには少々大きい15m級で、所々鉄材部分も見える。
少々奇抜だが、曲者揃いのグランドラインの中では比較的普通の外見であった。
しかし奇妙な事にその船には一本の三角帆のマストはあるものの畳まれており、さりとてオールで漕ぐ訳でもなく外輪船と言う訳でも無かった。
逆風の中、それを無視して突き進む船。
マストの後ろにある曲がった煙突(マフラー)からは絶え間なく白い煙がたなびき、船尾からは泡の混じった海流が続く。
───スクリュー船である。
世界観ぶちこわしもいい所であった。
「────四百八十!、四百八十一!」
そんなワンピース世界を舐めきっているとしか思えない船の上。
その持ち主である一人の少女は、甲板の上でそ知らぬ顔で素振りをしていた。
そう、コナユキである。
つい3ヶ月程前までは機械の肉体であったために、更なる改造でしか強くなる方法が無かったので素振りは動作教習訓練でしかなかった。
しかし悪魔の実を食べてからこちら肉体が"成長"する力を取り戻したので鍛錬によっても強くなれるようになったコナユキは、
久しく忘れていた肉体の鍛錬を再開したのだった。
そのため諦めていた覇気の訓練にも、成果はまだ出ないもののこれまで以上に邁進している。
「・・・・・・・五百!」
ひとまずの区切りと共に、1tと書かれた片方だけ重りの付いたバーベルを下ろし、汗をぬぐう。
動きやすい様にタンクトップ一枚とホットパンツだけで鍛錬していたので、汗で濡れたシャツが張り付き桜色の何かが透けている。
ポニーテールに纏めた髪からは水が滴り燦々と降り注ぐ太陽光を反射していて、髪を上げたうなじからは熱気が立ち上っていた。
巨大な鉄の重りを振り回していた所以外は、まずもってただのスポーツ少女である。
これがその実グランドラインでも腕利きの剣士であるなどと誰が思うだろうか?
「ぷっはーーー!!水が美味い!・・・・ちょっと休憩にするか。」
グラスに並々と注いだ蒸留水を一気飲みすると、コナユキはそろそろ焼き上がっているだろう厨房室のクッキーを見に立ち上がる。
「よっと。どんなもんかな~~?」
タイマーはセットしておいたので取りあえず焦げる心配は無い。
コツコツと船室への階段を下りるコナユキ。すぐに、真新しい厨房室へとたどり着く。
ガチャリ。
厨房は現在無駄に高機能な最新式の調理器具で所狭しと埋められていた。
肉の感覚を取り戻してからこちら、船を改築しそれまで必要なかった厨房や娯楽施設を増設に走ったのは記憶に新しい。
かつてはそういう非合理的な生身の体に関わる一切合切を切り捨てたために、大量の戦利品を運べた船。
それは今や船倉の半分以上をコナユキの生活必需品や贅沢品で埋められるようになっていた。
しかし機能美はあれど何処か暗くいじけて見えた船首の白い狼の頭は、今やどこか明るく生き生きとして見える。
船にとっても、コナユキの現在の変化は好ましいようだ。そのあたりの生活感というのは大切なのかもしれない。
「あ、出来てる出来てる!美味そうだな~。」
そういいつつも既にアツアツのクッキーを手で取って摘むコナユキ。
ゼフ直伝のレシピである。不味かろう筈も無かった。
「ん!美味い。やっぱ運動した後はちょっと塩味が効いてる方が美味いな!」
すっかり食道楽に目覚めたコナユキは、こうして何か食べたい物が出来れば船の厨房で作って食べるようになっていた。
書斎など半分以上が料理や食品に関するもので埋められてる。
「おっと、紅茶も入れるか。」
船は取りあえず自動操縦なので舵も取らずにいい気なものである。
「お前も食えたら良いのにな。良いのか?ゾオン系の実はまだあったんだぞ?」
"いいえ、船長。私は今更生身の肉体に未練はないわ。それよりは、こうして貴方の船として役立ちたいのよ。"
紅茶を入れながら宙に向けて放たれた言葉に、答える声。
しかし、たった一人しか居ないこの船に置いてそれに応える者等居る筈も無かった。
ならばそれは誰なのか。
「・・・・ま、いいや。でももし生の感覚が恋しくなったんなら言え。すぐに悪魔の実の一つや二つ用意してやるからさ。」
"ええ、そうさせてもらうわ。最も、そんな日は来ないでしょうけど。"
「それはそれで不憫なヤツだなお前も。」
"放って置きなさい。私にとって生きた体の感覚なんて思い出すのも恐ろしいものなの。
・・・・それに、唯一の不満だったゴツイ大男の船長が、こーんなに可愛らしい女の子になって帰ってきたんですもの。
今の境遇に私は一切不幸を感じてはいないわ。心配しないで。"
順当に考えれば、それはありえない。しかし、この場に居るコナユキ以外のもう一つのもの。
それはまさしくこの船、『ウルフ=リオラート号』に他ならない。
声の主はなんとこの船そのものであった。
「ぐ、思い出させるなよ・・・・。」
"あなたこそ、早く慣れた方が良いわよその体に。多分、悪魔の実の呪いを消し去る方法なんてこの世には無いから。
覚悟しておかないと後で泣きを見るわ。・・・・嫌よ?私の気に入った船長が居なくなっちゃうなんて。"
「はぁーーーーーー。」
そんな事は分っているとばかりに溜息を吐き、頭を掻きながら紅茶を口に含むコナユキ。
そのことを考えるたび、心が重い。それに最近判明した事実がそれに拍車をかける。
"折角不老不死になったんですもの。そういう悩みはさっさと捨てて、楽しく生きなきゃ損よ?"
「悪魔の実を食べた"物"が年を取らないからって、俺は魂魄貝で魂を持ってるんだ。ちゃんと老化するかもしれないだろ。」
"あら?800年前、島が海に沈むまでの200年間。人形の体で踊り子を務めた私が言うのよ。間違いないわ。
今のところ、どちらも私が知る限り只二つの「年を取らない」生き物(?)よ。その二つが合わさった所で、老化が起きる筈も無い。"
「・・・・・よく発狂しなかったよな、お前も。」
"言ったでしょ?私にとって生きた体の感覚なんて地獄に等しいって。
例え玩具としての人生でも、病に苦しんだ半生に比べればずっとずっと素晴らしかった・・・。
人生なんて捉え方一つよ。貴方のそれも。"
そういってたしなめるリオラート号。
彼女はとある海底遺跡から発掘された二つの魂魄貝(ソウル・ダイアル)の内の一つに封ぜられた魂。
その島が海中に没して実に800年もの間、逃げ出す船から一人取り残された彼女は朽ちた人形の中で眠っていた魂である。
(彼女が言うには、コツのようなものがあって魂魄貝の中であっても眠る事が出来るらしい。)
二つ発掘された一つの貝に封ぜられた魂は、ボタンのような突起部分を押すと逃げ出すように天へ還った。
しかしもう一つの貝に封ぜられた彼女は成仏を拒み、現世にとどまり続ける事を望んだ。
それが、彼女『リオラート』である。
「俺にはそう割り切るのは無理そうだよ。逆に言えば時間は無限にあるって事だろ?探すさ、永劫かけてもな。リオラート号。」
現在では彼女立っての望みでもあり、こうして船となって世界中を巡るたびに同行している。
今となっては船としての自身に誇りすら持っており、リオラート"号"をつけなければ怒る程だ。
"10年後にも同じ事が言えるかしら?クスクス。・・・人は慣れる生き物よ。
私だって始めは人形の体は怖かったけど、何年もすれば慣れてしまった。
全人類の夢を体現したような体で、いったいそれ以上の何を望むと言うのかしらね?"
「・・・・・話題を変えよう。今はそんな話、したくない。」
"きっと不老不死のご同輩もあの非常識な海ならばたくさん居るわ。私もそうだもの。
・・・・孤独も、死も病も貴方からは遠い。それに、自由だわ。
覚えておいて、あなたの今の境遇は不幸なんて言葉からは最も遠いわ。そんな貴方が人生を楽しめないなんて嘘よ。私が許さない。"
そう厳しく締めくくって、リオラート号は黙り込んだ。
じっとカップに溜まった紅い雫を眺めるコナユキは、その言葉をかみ締める。
実際、男と女の性の問題が大きなストレスとして常に心を圧迫しているのは確かなのだ。
どこかで割り切って諦めた方がいいのかもしれない。
家族だって、こうなったのが故意のものであろうと無かろうと受け入れてくれないような器の小さな者たちではない。
コナユキが勝手に気まずくなって勝手に会いに行かないだけの話。
「わかっちゃいるんだけどな・・・・。」
それでもあれから時々、こうして落ち込んでしまうときがあるのは仕方ない。
けれど、それを理由にうじうじ塞ぎ込んでいる自分を気に入らない事も凄く分る。
自分だって、そんな自分を疎ましく思うときがある。
「アイデンティティってヤツか。漫画の世界に生まれ変わった時がドンゾコだと思ったけど、二重底だったなんてな。」
自分はしっかり地に足つけて生きてると思っても、不測の事態が起きればこの様だ。
性別にまつわる問題とはかくもデリケートなものだったか。
コナユキはカマ野郎とか言って馬鹿にしててスマン。と、心の中でエンポリオに詫びた。
「うしっ!気合入れるか!!」
コナユキはカップを置き、山盛りのクッキーを食べ終えると勢いよく立ち上がる。
こう、いじけた気分になった時は修行するに限る。
剣を握れば、全てを忘れ去れる。そう自分を作り上げてきた。今は、それでいいと思う。
何処か目を逸らしがちだった自身の問題に、憎まれ役覚悟で真っ向から問いかけてきた彼女にコナユキは礼を言った。
「・・・・ありがとうな。リオラート号。」
"どういたしまして。アーロンパークが楽しい所である事を祈っているわ。"
何処からとも無く帰ってきた声は、無機質ではあるがどこか優しかった。
*
"見えてきたわ、起きてコナユキ。あれがあなたの言った海図上にある島よ。"
「ん、ふぁ~あ。」
彼女、リオラート号はグランドラインの難しい航海術をこなす優秀な航海士であると同時、優秀な見張り役でも在る。
甲板から船内全域に至るまで掃除を欠かすと拗ねて口を利いてくれないが、便利にも程がある船であった。
彼女を手に入れてこれで三年目だが、正直自分の航海術は落ちるところまで落ちているだろうなと自嘲するコナユキ。
実際、船を進行させながら自分は暢気に寝ていられるなど、一人で航海していた時は考えもしなかった快適さだ。
「人形の体に乗り換えとく?」
"いいわ。なんか気が乗らないから今回はパス。あ、でも何か楽しい事があったら呼んでね、船長。"
「はいはい。わかったよ。」
何時もの事である。世界を見て回るとかいいながら、
あとから聞くだけのワトソン・ポジションがお気に入りの彼女は大抵こうして表に出ようとしない。
引きこもりとは、少し違うか。言葉にするなら出不精といった方がしっくりくる。
さりとてお祭りなんかをやっていればしっかり出てくるのだからちゃっかりしたものである。
「じゃ、行ってくる。船はこの辺に止めといて。」
"ハイハイ。飛べるって便利ねぇ。"
そういって、ある程度島に近づくとコナユキは天女の力でフワリと浮き上がると一直線に飛んでゆく。
スピード自体はトリトリの実系の能力者には劣るが、航空力学をまったく無視したフワフワとした機動はまったく脅威である。
いまだ空中を視野に入れた戦術は確立できていないが、いずれ大きな武器になるだろう。
「見られたら厄介だから、この当たりで下りるか。」
そういってするりとコナユキは森の中に着陸。
飛ぶのも楽しいが騒ぎになるのも困るのでほどほどで自重する。
こなゆきは人里から程なくはなれた山中にて、装備の確認をすると意気揚々と歩き出した。
すぐにチラホラと家屋の見える畑にたどり着き、そのままあぜ道を西に抜ける。
「ありゃ?アーロンパークの事、人に聞こうかと思ってたんだけど・・・あんまり人が居ないな・・・。」
畑仕事をしている人もまばらで、お世辞にも活気の在る状態とは言えない。
これほど広大な田畑を持つ島がテーマパークがこけて財政難に陥っているとは考え難いし、まして例のアーロンパークは公営である。
その負債が島の住民の負担になるのも不自然な話だ。
「すいませーん。ここってココヤシ村で良いんですよね?」
海図に誤りがあったかと、島の位置を間違えた可能性を危惧して一人の農夫に尋ねるコナユキ。
「そうじゃが、お前さん見ない顔じゃな。何処からきなすった。」
「グランドラインから、観光がてらに。」
正直に答えたコナユキだったが、突如がっはっはっはと笑い出す老人。
ちょっとイラつく。
「なんじゃ、面白い冗談じゃのう。お前さんみたいなめんこい娘が、あの荒くれの墓場からじゃと。久々に笑うたわい。」
「いや、嘘じゃねえって。」
「まぁええから。よく聞きなされ、お主は何も知らずに乗り込んできたんじゃろうが、
今のこの島には見るべきものなぞなーんにもありゃせん。」
「え?」
「10年前ならともかく、今やこの島は賞金額2000万ベリー級の賞金首『ノコギリのアーロン』が恐怖で支配する島じゃ。
あ奴は魚人贔屓で通って居るが、お前さんほどの美人なら奴の目にも止まるかも知れん。目を付けられる前に立ち去るんじゃな。」
そう早口で捲くし立てて、さっさと老人は立ち去ってしまった。
「あ、ちょっと!」
それを手で制するも遅く、背を向ける老人を見つめるコナユキ。
たらり、と汗が頬を流れる。
「・・・・・あれ?アーロンパークってテーマパークじゃ無かったの?」
ヒュウと吹く風。
ぽつりと零した言葉を聞くものはその風を置いてほかに居ない。
ひょっとしてまた厄介ごとに頭突っ込んじゃったかな?と思いはするものの、
すでに関わってしまうと抜け出せない自身の性質を熟知しているコナユキである。
そうそうに諦め、また出番だよとばかり腰の刀の柄を撫でるコナユキであった。
*
「・・・・・なんだこりゃ。閑散としてるなんてレベルじゃないぞ。」
あれからコナユキは行きかう人々に片端から声をかけて回ったが、有効なアーロンに関する情報は得られていない。
ただ村の中央の方向だけは教えて貰えたので、とりあえずそこへ向かったのだった。
しかし本格的に多くの家屋が立ち並ぶ、村の中心付近にきたコナユキだったが、その寂れ具合に唖然とする。
耳を済ませれば周囲の家のなかから息遣いは聞こえるし、そこかしこの窓からは此方を伺う視線を感じる。
出歩いている人間も0というわけではない。
ゴーストタウンでは無さそうだったが、しかしなまじ人間がいるだけにそれ以上の不気味さを放って居るともいえる。
みれば、道の端の軒下には一人の少年が座り込んでいた。
「坊主。そこで何してんだ?」
「誰だよ姉ちゃん。人が何処で何してようが勝手だろ。」
道の隅っこに座り込んで虚ろな目をする10歳前後の少年に、腰をかがめて話しかけるコナユキ。
見たところ小奇麗な格好で栄養状態もいい。
ストリートチルドレン等では無さそうだったので、家出か、
もしくはこの島の現状に関する何がしかがこの少年の行動に影響しているのではと踏んでの事である。
しかし坊主と呼ばれた少年は予想以上に摺れているようで、ぶっきらぼうな口調で憎まれ口を叩いた。
「質問を質問で返すな。」
ゴチンと頭に降ろされるコナユキの拳骨。
「いってぇな!何なんだよ姉ちゃん!」
「なんでそこ座ってるのかって聞いてるんだよ。」
対して怒声もあらわに答える少年。
「何だって良いだろうが!俺見たいな奴、そこらじゅうに居るよ!知らないのかよ!?」
「なんだって?」
目を丸くするコナユキ。
確かに寂れ具合は酷いが、こんな無気力症候群みたいな奴がそんなに大量発生するほどでもなさそうだった。
だれも彼も、栄養状態が悪いと言うわけでも無さそうだったためそう判断したが、それが甘い考えであることを知る。
「なんで。・・・・・お前、親は?」
「・・・・・殺されたよ。今この島を仕切ってるアーロンって奴に。」
拳を握り、瞳に涙を溜めて声を震わす少年。
予想していたとは言え、重い言葉が心胆に響く。
「あ・・・その、悪かった。・・・・・その、親戚とかは?」
「いるし、良くしてもらってる。」
「じゃあなんで・・・・。」
「いわなきゃ、駄目か?」
「ああ、出来たらこの島で起きている詳しい事も頼む。その、大人たちはあんまりまともに口利いてくれないんだよ。」
辛い思いをさせると解っていながら、原因究明のために無理を頼むコナユキ。
もし仮にコナユキが賞金稼ぎ風の人間であったり、腕に覚えの在る船乗りのような人種であったなら、
村人たちもアーロン一味に余計な手出しをさせないためにまともに事情を話しただろう。
されど見た目はまさに良家の淑女と言った所のコナユキ相手では、例え腰に光るものを刺していようと一人前の戦士としては見てくれない。
それ故心に疲労を抱えた村人たちは、他所から船で来た風のコナユキにぞんざいな言葉しか返さなかったのだった。
「アーロン一味って奴等は何なんだ?この村の奴等に、お前に一体何をしたんだ。」
「・・・・・略奪、だよ。」
それは相手は海賊だ。そこまでは解る。
問題は何故そんな奴がここを何年も実効支配し続けていられるのかである。
「あいつ等は、俺の物心つかない頃にこの島に勝手にやってきて、
生きるための権利を買わなきゃ殺すとか、訳わかんないこと言い出したんだ。」
「・・・・・。」
「払えなかった奴とか、払わなかった奴は殺されたらしい。
新しく生まれた奴も、生きる権利を買わされるし、他にも良くわからないけど、言いがかりみたいに税金だって言って搾り上げるんだ。」
ぽつりぽつりと話し出す少年。
実の所、なにかしら話し相手が欲しかったと言うのもあるだろう。
その後も恨みつらみとも、怒りや義憤ともつかぬ感情が、静かな言葉の濁流となって流れ出た。
「海軍もあいつらには敵わないんだ。魚人たちがこの島に近づく軍艦は沈めちまう。」
「・・・海軍もか。」
「うん。何か関係ないことでも、勝手にこじつけて俺たちに八つ当たりしたり、反抗的だとか言って見せしめに殺したりやりたい放題・・・。
俺の親父も、お袋も、うぐっ・・・・。俺があいつ等に生意気なこと言ったばっかりに、俺をかばって・・・・・。うぅ。」
村人のぶつ切りの会話と少年のツギハギの言葉を聞いて繋ぎ合わせる限りでは、
アーロンと言うのは差別主義者でありながらも、相当な成果主義である。
あまり村に被害は出さないやり方が方針の方だが、定期的な見せしめは必要だったという事なのだろう。
その、一人に選ばれてしまったのが彼の両親と言う事なのだろう。
「すまん、もういい。アーロンがクソ野郎だってのはもう十分解った。・・・・ありがとう、辛かったな。」
ついに泣き出しそうになってしまった少年を、ギュッと抱きしめるとコナユキは優しい笑みを浮かべて言う。
ふわりと唐突に抱きしめられた少年は、始めは戸惑ったようだったが、徐々にその体温にほだされてゆく。
「お前のせいじゃない。悪いのは、そのアーロンって奴だ。」
「・・・・・・う、ううぅ。うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ。・・・・・うぇ、ぅぅぅぅぅぅ。」
今まで押し殺していた感情があふれ出したかのように、コナユキの薄い胸に顔を押し付けてすすり泣く少年。
慈母の如き柔らかさに、孤独と罪悪感に凍った心が溶け出して行く。
「お、俺が。俺のせいで二人とも・・・・うぇ・・・だから、俺、一緒に居ちゃ駄目なんだ。一人が良いんだ。」
「馬鹿、そんな事あるもんか。お前は一人じゃなくていい、皆と一緒に居て良いに決まってる。」
「でも、俺。また魚人見たら、今度こそ何するかわからねぇ。それに、目付けられてる。」
「・・・・だったら、アーロン達がこの島から居なくなれば良いんだよな。なんだ、今までとなにも変わらねぇ。」
───俺にまかせろ。アーロンって奴等をぶっ飛ばしてきてやる。
泣きじゃくる少年の頭を撫でながら、コナユキは言う。
既に沸騰するように熱い血液は、アーロンを切れ!とやかましくざわめいている。
しかし、それを気休めと取ったか・・・・顔を上げると少年は言った。
「・・・・なんだよ、それ。お姉ちゃん一人、にそんなこと出きるもん、か。」
か細く唸る子供。
無理からぬ。この華奢な腕に、柔和な顔立ち。
その相貌からは強い意志力を感じるが、それで一体何が出来るというのか。
思うだけでアーロンが倒せるならば、既に百度は死んでいる。
「おね・・・・・、まぁいいか。・・・・なんでも出来るさ。お姉ちゃんは無敵だぜ。枕を高くして待ってな。」
「無理だよ!村のどんな腕自慢も、賞金稼ぎも海軍も!あいつ等には敵わなかったんだ・・・・・!!」
「・・・いいか、男にはやらなきゃいけない時ってのがあるんだ。無理だろうと、それで相手の言いなりになってどうする。
お前はそれでいいのか?」
しかし、そんな忠告を聞くようなコナユキではない。
こちとらイーストブルーで安穏と暮らしていける武家の家族から、望んで飛び出て狂気のグランドラインへ乗り出した筋金入りである。
好きなことをやってきたし、嫌いなものは出来るだけぶち壊してきた。
それを今回もするだけの話。何も変わらない。
「でも・・・・!!」
「俺を信じろ!!いいか、俺が必ず、お前がまた仲間と一緒に居られる村を取り戻してやるからな!!」
「あっ、待っ・・・・・。」
───ドンッ!!!
何かが地面を揺るがす音を立てたと思えば、既にその場にコナユキは居なかった。
地面には抉れたクレーターだけが残り、もうもうと立ち込める土ぼこりが漂う。
「なんだ!?今の揺れ!?」
「スゲェ轟音だったな!!なんなんだ!?」
「大砲でもぶち込まれたのか!?」
ざわざわと村人たちは、閉じこもった家から出てきて議論を交わした。
そんな中、地面に腰を抜かしてへたり込んだ少年は誰にも知られる事無く青空を見つめる。
「あれって・・・まさか!?」
頭に血を上らせたコナユキは、文字通り空を駆けていた。
天女の飛行能力と六式体術・月歩を組み合わせた超高速移動。
その残像すらも残らぬ速さに、少年は目を白黒させる。
「す、すげぇ・・・・空飛んでる。」
アーロンパークを襲う白い鉄槌が、今空を行く。
つづく。
主役級のオリキャラは、リオラート以外出す気はないです。
オリキャラってのはね。やっぱりどうしても設定とかが脳汁臭くなるからいかんね。
どうでしょうか?リオラートはワンピースの世界観にまだマッチしていたでしょうか?
そこだけが心配です。