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No.31004の一覧
[0] 【惑星のさみだれ】ネズミの騎士の悪足掻き(日下部太朗逆行強化)[へびさんマン](2015/01/25 16:30)
[1] 1.宙野花子(そらの はなこ)[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[2] 2.師匠、登場![へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[3] 3.山篭りと子鬼[へびさんマン](2013/03/02 15:07)
[4] 4.しゅぎょー!![へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[5] 5.神通力覚醒!?[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[6] 6.東雲家にて[へびさんマン](2013/03/02 15:08)
[7] 7.ちゅー学生日記[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[8] 8.再会、ランス=リュミエール[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[9] 9.初陣[へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[10] 10.結成、獣の騎士団![へびさんマン](2013/03/02 15:09)
[11] 11.『五ツ眼』と合成能力[へびさんマン](2013/03/02 15:10)
[12] 12.ランディングギア、アイゼンロック[へびさんマン](2013/03/02 15:02)
[13] 13.カマキリは雌の方が強い[へびさんマン](2012/02/26 23:57)
[14] 14.VS『六ツ眼』[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[15] 15.受け継がれるもの[へびさんマン](2013/03/02 15:03)
[16] 16.束の間の平穏[へびさんマン](2013/03/02 15:04)
[17] 17.不穏の影・戦いは後半戦へ[へびさんマン](2012/05/28 21:45)
[18] 18.魔法使い(アニムス)登場[へびさんマン](2012/05/28 18:26)
[19] 19.夏、そして合宿へ[へびさんマン](2014/01/26 21:06)
[20] 20.精霊(プリンセス)アニマと霊馬(ユニコーン)の騎士[へびさんマン](2013/03/02 23:50)
[21] 21.対決! メタゲイトニオン・改![へびさんマン](2015/01/14 22:26)
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[31004] 8.再会、ランス=リュミエール
Name: へびさんマン◆29ccac37 ID:a6a7b38f 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/03/02 15:09
高校三年の春。四月上旬。
朝、自室にて。

「……ああ」

――漸くか。久しぶり、ランス。

目覚めた太朗は、目の前で自分を見つめてくるネズミのつぶらな瞳を見て、そう思った。

「おれっちはランス=リュミエール! いいか、落ち着いて聞け――お前は選ばれた。地球破壊を目論む悪の魔法使いから姫を守り、世界を救う騎士の一人に。頼む、力を貸してくれ!」
「いいぜ。俺は日下部太朗。よろしくな、ランス」
「信じられないかも知れねーが……えっ? …………えっ? 信じんのかよっ!?」

その時、窓の向こうから声がかかる。
太朗も窓を開けてそちらを見る。

「太朗くーん。起きてるー? ランス来たー?」
「ああ、花子。今、自己紹介したとこ。そっちも、キルが来たか? って、頭に乗ってるな」
「うん、朝起きたら居たの。ホントに『戦い』が始まるんだねー」

ネズミ――ランス=リュミエールはいまいち事態に着いてこれてないようだ。

「え? は?」
「ほう、我が見えるか、少年よ。我が名はキル=ゾンネ。騎士が二人で隣人同士とは幸先がいい。しかも我らの来訪を予知していた様子……未来視能力者か?」
「うわっ? キル!? 何て幸先悪いんだ!!」

――『惑星(ほし)を砕く物語』が、始まった。


◆◇◆


 ネズミの騎士の悪足掻き 8.再会、ランス=リュミエール


◆◇◆


太朗の部屋に二人と二匹で移動して、自己紹介と指輪の従者からの説明を行う。

「宙野花子、日下部太朗。汝らは地球を救うために選ばれた戦士だ」
「力を貸してくれ! 地球破壊を目論む魔法使いを倒すんだ!」

尊大なキルと、いかにもなランス。
彼らは指輪の従者。
騎士たちを超常の非現実的な現実に引きとどめるための錨。

花子と太朗の中指には、昨日までなかった指輪が嵌っている。
それこそが騎士の証。

「ああ、待ってたぜ、ランス」
「ええ、覚悟はできてるわ、キル」

これは三年前からの予定調和。
太朗が花子に、くちづけを介して全てを伝えた日から決まっていたこと。
年若い彼らは既に、戦士としての覚悟を決めている。

「……やけに物分かりがいいな。やはり未来視能力者か?」

キルが訝しむ。

「いや、俺は未来視は出来ねーよ。俺たちの師匠が、未来視も出来るんだ」
「ほう、それは素晴らしい。その者も騎士になる素質があるやも知れんな」
「ああ騎士だよ。カジキマグロの騎士だ」
「カジキマグロ――従者はザンか……。やはりその騎士も変わり者なのか?」
「あー、まあな」

キルと太朗が淡々と会話する。

「って、待ていっ!? 何淡々と会話してんだよ!? 色々と突っ込みどころが多すぎるだろ!?」
「いや、ネズミやカマキリが喋ってる時点で、何をか言わんや、でしょ?」

ランスのツッコミに、花子が更に突っ込む。

「まあ、その辺は後で話す――いや『伝達』するよ。それよりさ、まだ話の続きがあるんだろ?」
「お、おう……っていうか、太朗、お前……何か、おれっちの騎士に選ばれるにしては落ち着き過ぎじゃねぇか?」
「その辺も後でな。ほら、さっさと説明頼むぜ、相棒(ランス)」

太朗に促されて、二匹の従者は気を取り直して話を続ける。

「なんかもう知ってそうだが――騎士の契約の報酬として、願い事をひとつ叶えられんだ」
「何でも望みを言うが良い」

太朗と花子は、お互いに顔を見合わせて、頷き合う。

「願い事は決めてあるぜ」
「私達が願うのは――」


「「掌握領域の特殊強化」」


◆◇◆


後日の街中にて。
元刑事にしてウマの騎士、南雲宗一郎は、唐突に声を掛けられた。
若い男の声だ。

「あ! 見つけたッスっよ! ウマの騎士!」
「ん?」
「つーかデカっ!? ウマ、デカっ!?」

どうやらその声の主人――年の頃は男子高校生くらいか――は、南雲の相棒であるウマの従者ダンス=ダークのことが見えているらしい。
つまり――

「ダンスが見えるということは――、騎士か?」
「そうッス。ネズミの騎士、日下部太朗ッス」
「ウマの騎士、南雲宗一郎だ。よろしく頼む」

お互いに、ビスケットハンマーを巡る戦いに巻き込まれた騎士同士だということ。
近づいて握手を交わす。

「おー、ダンスじゃねーか! 相変わらずでけーな!」
「ランスか。久しいな。そう言うお前は小回りが効きそうで羨ましい」

従者同士も挨拶を交わす。

「ネズミの騎士、日下部太朗だ。よろしくな、ダンス。……タテガミ撫でていいか?」
「許そう。ウマの従者、ダンス=ダークだ」

「ウマの騎士、南雲宗一郎だ。ランスくんだったか? よろしく頼む」
「おう、よろしく頼むぜ、南雲のおっちゃん!」

太朗と南雲は、従者ともお互いに自己紹介をする。

「太朗くん、どうしてここが分かった?」
「そーいう『能力』だからッス。他の騎士とはもう会ったッスか?」
「『能力』? ……いや、騎士は君が初めてだ。日下部くんの方は?」

南雲も、仕事を辞めてここ半月程は他の騎士を探しに専念している(というかウマの従者を引き連れて街中をうろついて釣っているだけだ)が、太朗以外の騎士には、まだ会えていない。

「俺の方は、南雲さんで七人目ッス」
「七人!? 凄いな――いや、『能力』と言っていたか。願い事でか?」

指輪の騎士は十二人だという。
それならば、既に日下部太朗を合わせて、半数以上の居場所が分かったということになる。
序盤の泥人形の奇襲による各個撃破を、ほぼ確実に防げるだろう。

日下部太朗は、『能力で』騎士の居場所を突き止めたと言っていた。
恐らくは、騎士の『願い事』で居場所を知ったか、居場所を探知しうるような能力を授かったのだろう。
――願い事にそのような使い道ができるとは……。若さ故の柔軟な発想力か……。

「まあ、それもあるッスけど、元々の知り合いで、騎士になった奴が多かったんスよ。あ、でも一人……二人かな? まあ二人は南雲さんも知ってると思うッスよ?」
「ん? 誰だ?」
「ひとりはイヌの騎士、東雲半月さんッス。――『風神』の名前の方が、有名ッスかね?」

風神・東雲半月。
暴力団潰しの風神。
武道の達人で、竜巻みたいに人を軽々と投げ飛ばすことからついたあだ名が、『風神』だ。

「……そうか、奴も騎士なのか。それは心強いな。もう一人は?」
「半月さんの弟の三日月さんッス。カラスの騎士ッスね。三日月さんは、今は東南アジアあたりに行ってますけど、この間、衛星電話で確認取ったんで、騎士で間違いないッス」
「暴走族潰しの、闘鬼・三日月か……」

東雲兄弟は、色んな意味で有名である。
南雲も、刑事だった頃に様々な噂を聞いたことがある。

「――あ、そうだ、南雲さんの近くにもう一人、騎士かそれに準じた超能力者が居ません?」
「超能力者――未来視能力者なら、元同僚に居るな」

――ああ、じゃあ『索敵海域』に反応してたのは、多分その人ッスね。
呟いて、太朗は一人納得する。

「うん? 騎士じゃなくても、超能力者なら分かるのか?」
「ええまあ――ま、その辺は追々。他の騎士も、居場所分かってますし、三日月さん以外は、みんな近場でスんで、全員と連絡着いたら、その時に改めて。――あ、これ俺の連絡先ッス」
「そうか、まさか騎士全員がこんなに早く集えるとは――。連絡先ありがとう、ああ、私のも渡しておこう」

お互いに連絡先を交換し、この場は別れる。
夕日の中で元気に手を振る姿が印象的だった。
快活で人好きのする青年だと、南雲は印象を持った。

取り敢えず後日また全員で会う約束をしている。
――日下部太朗に『騎士の居場所を知る能力』があるというなら、それもそう遠い日ではないだろう。

「幸先がいいな、南雲。これほど早く騎士が集うなど、これまでの戦いでも無かったことだ」
「……そうだな、ダンス」
「ネズミの騎士……彼の探知能力がどのようなものか知らないが、それが泥人形や魔法使いにも通用するなら、戦術の幅も広がるだろう」
「……」

確かに、戦術の幅は広がるだろう。追い打ちや待ち伏せ、奇襲という選択肢も採れる。
……だが、戦場で一番初めに潰されるのは、『戦場の目』――探査能力を持った者なのだ。
彼は、日下部太朗は、それを理解した上で、その能力を願ったのか?

「真っ先に狙われるとすれば、探査能力を持った彼だろう――いや、関係無い、か。彼は戦士の目をしていた、覚悟はしているのだろう。……それに何れにせよ、私達大人が、守れば良いだけだ」


◆◇◆


ランスたちが太朗たちの元に顕現した日のこと。

「ふん、なるほど、ランスの騎士らしい願いだな」
「あ? なんだと、キル? 良い願いじゃねーか! なんか文句あんのか!?」
「臆病者らしい、と言っているんだ」
「むきー! おい太朗っ、なんか言い返してやれよ!」

キルの挑発に憤慨したランスが、てしてしと床を叩くが、太朗は曖昧に笑っているだけだ。

「だが、確かに有効だろう。特に序盤ではな。そして花子」
「キル、この願いは叶えられるかしら?」
「勿論だ、造作も無い。このような願いで、我も鼻が高いぞ。流石は我が魂の縁者」

花子の願いに対して、キルもノリノリだ。

「じゃ、ちゃっちゃと叶えちゃってくれよ」
「ええ、お願いするわ」
「おうよ!」 「勿論だ」

カマキリであるキルが、威嚇するようにあるいは祈るように羽を広げて鎌を合わせる。
ネズミのランスは後ろ足で立ち、小さな手を合わせて目を瞑り、天を見上げるように顔を上げる。

次の瞬間、何か目に見えぬものが太朗と花子を包み込んだ。
それは世界をめぐる大いなる力の一端であり、アニマによって導かれた騎士の契約の代価である。
二人は、自分の中に流れ込んでくるそれを自覚した。

「これは――」 「おお――」
「今ここに、契約は成された」
「一緒に地球を救おうぜ! 相棒っ!」

ネズミの騎士、日下部太朗。
カマキリの騎士、宙野花子。
『惑星を砕く物語』に、二人の騎士がキャスティングされた瞬間であった。

「それで、何か色々知ってるみてーだが、説明してくれんだろなー?」
「ああ、勿論だ。ちょっとランスもキルもこっち来い、俺の手の届く範囲に。『伝達』すっからよ」
「……太朗くん、キルたちに『伝達』って、出来るの?」
「まあ、ランスは俺の従者だし、キルも花子と縁があるんだから、多分イケるだろー」

太朗が指をわきわきさせながら、二匹の頭上に両手を持っていく。
二匹はそれに、どことなく不吉なものを覚える。
キルなどは、両前脚の鎌を持ち上げてキシャーと威嚇している。

「た、太朗? な、何するつもりだ?」
「我を害するつもりなら、覚悟せよ……」
「何、ちょっと『意思疎通するだけ』だよ、そう身構えんなよ――」

にやにやと微笑みながら、太朗は手の平で二匹の従者を包み込む。

「じゃあイクぜ? ――サイコメトリーによる相互交感、発っ動っ!!」
「――――ッ!?」 「ぬわーーー!?」


◆◇◆


小学生からの日課である早朝ジョギングを終えた二人は、いつもの家の近くの公園に辿り着く。
師匠は今日は居ない。

二人の頭の上では、いまだに、キルとランスがぐったりと力なく伸びている。

「――……うー、まだ頭がグラグラする」
「……まさか、サイコメトリー能力者だったとはな……。しかも、並行宇宙での我らの戦いの記憶まで持っているとは……」

太朗のランクアップしたサイコメトリーによって大量の情報を送り込まれて、二匹の従者はオーバーフローしたのだ。
そんなこんなで脳髄に注ぎ込まれた情報によってダメージを受けている二匹はさておき、太朗たちは自らのやるべき事に着手する。

「じゃあ早速、使ってみますかー、新能力!」
「わー、ぱちぱちー、たろくん頑張れー」

花子が拍手し、太朗が、右手の中指に嵌った『騎士の指輪』に意識を集中させる。
そこから、温かみのあるオレンジ色をした力場――『掌握領域』が発生し、太朗の目の前まで浮遊する。
太朗は息を吸い、精神を集中させて、力を解放する。勿論、技名は叫ぶ。

「――索敵海域っ! 『綿津神(ワダツミ)』っ!!」

次の瞬間、太朗の目の前の『掌握領域』が弾け、波のような力の波動が、レーダーのように一面に広がる。
掌握領域が海を渡る波紋のように、薄く四方八方に広がり、そのカバー領域――海域から、超常の能力者を探すのだ。

そう、太朗が望んだのは、『掌握領域の探索特化』。

それによってもたらされたのは、掌握領域の射程範囲の増強と拡散性能の向上、そして超常の能力者や現象に反応する性質の付加である。
この能力を発動させれば、探索範囲内の超能力者や泥人形の居場所は、太朗の手に取るように分かるようになるのである。

「むむむむむっ……!!」
「どう、たろくん? ちゃんと機能しそう?」
「……ちょっと疲れるけど、いけそう。範囲内に何人か騎士らしき人も居るし、その居場所も大体分かった。識別マーカーも付けたから、次からはもっと簡単に探せそうだ」

太朗の脳内には、街の地図と、騎士らしき超能力者を現す光点が示されている。
光点は、隣にいる花子の場所にもあるし、姉弟子である昴と雪待が住んでいる場所にも示されている。
能力は間違いなく発動しているようだ。……しかし、騎士以外の天然の超能力者の反応も拾っているようで、脳内マップ上の光点は、十二以上存在する。

「なんか、やたらと大きな反応があるし、多分これ、ウマの従者の『ダンス』だ。後で会いに行こう」
「確かにウマは大きいだろーねー。見つけやすそう。ところで、この能力、いつも展開しとくの?」
「まあ、常時だとキッツイけど、出来る限り展開しておくつもりだよ。能力は鍛えないと衰えるしなー」

まあ、大体一~二時間に一回情報を更新するというので良いだろう。
それ以上だと、まだ体力(使用回数)が追いつかない。
有事には、探索波の発振頻度を増やせば良い。

「そっかー」
「少なくとも、一回は倒れるまで使ってみないと、限界が分かんねーしな」
「……気をつけてよ?」
「分かってるって」

公園でジョギング後の整理運動をして、大きく深呼吸をする。
予め作っておいたおにぎりを一緒に食べ、人心地着くと、二人はお互いの家へと帰る。

「じゃあ、また後で」
「おう。あ、今、親父さんたち旅行だろ? 昼飯一緒に食うよな?」
「ええ、お願いするね」

今はまだ春休みだが、学校が始まれば、二人で一緒に自転車に乗って高校へ行くのが、お決まりの朝の日課だ。
よく出張や旅行に行く花子の両親に代わって、太朗がご飯を作るのはよくあることである。
ちなみに、太朗の両親は共働きで帰りが遅い。

「――……なに、そのラヴい設定……」

太朗のサイコメトリーによる情報注入過多の影響で息も絶え絶えになりつつも、ランスがそれだけ突っ込んだ。
げに悲しきは常識人(突っ込み症)のサガか。


◆◇◆


夕方。太朗は自分の家の台所で夕食を作っていた。
ランスは調理台の上にいる。
勿論滅菌済みだ。その必要はないのだろうが、太朗の気分的な問題だ。

「うわー、やめろー!!」とか言って抵抗するランスをお湯で洗い、手指を消毒用アルコールを染み込ませた脱脂綿で念入りに拭いたから完璧だ。
恐らく従者たちは非実体の存在なので、そこまで神経質に消毒する必要はないのだが。
何せ、指輪の従者たちは、騎士の体力を拝借してエネルギーを賄っているのだ。食べもしないし、排泄もしない。従者たちは非常にクリーンでエコだ。

「何作るんだ? 太朗」
「ん、オムライスかな。別にチャーハンでも良いんだけど、ケチャップをちょうど使い切れそうだから、オムライスで」
「発想が主婦だな……」
「まあなー」

取り敢えず、鶏肉と玉ねぎを1センチ角ほどの大きさに切り揃える。
その間に冷凍ご飯を冷凍庫から取り出して、レンジで解凍しておく。
炊き立てよりもこちらの方がパラリと仕上がる。

他にも冷蔵庫の中に残っていた食材を粗方一緒に微塵切りにしてしまう。
冷蔵庫の大掃除である。

「って、色々入れんだな」
「悪くなりそうなのは食べちゃわないと」
「それにしても、椎茸、ネギ、ナス……雑多過ぎじゃないか?」
「まあ気にすんなって」

フライパンに油を引き、鶏肉から火にかける。
鶏肉の色が変わってきたら、玉ねぎを入れ全体がしんなりとするまで炒める。

「玉ねぎから炒めるんじゃねーんだ?」
「少し歯ごたえが残ってたほうが好きなんだよ、俺が」

他の具材は玉ねぎより細かく火が通りやすいように切っておき、玉ねぎの後に投入し、炒め合わせる。
この時に料理酒を入れ、粉末コンソメも少量入れて、味付けする。
水分が飛ぶまで炒める。

「お、ご飯が解凍できたみたいだぜ」
「OKOK。んー、まあ解凍具合はそんなもんかな。先ずは具材を炒めてしまわんと」
「具だけで結構な量じゃねーか?」
「育ち盛りだし、良ぃーんだよ」

具材に火が通ってきたら、上からケチャップと乾燥バジルを加え、ケチャップの水分をしっかり飛ばす。
ここで水分が残りすぎると、ぱらりとした仕上がりにならないから注意である。

「じゃあちょっと油を足して、ご飯を投入ー」
「おおー」
「ご飯を潰さないように気を付けつつ、具材と混ぜあわせてー、塩コショウで味を調えるーっと」

木べらで切るように具材とご飯を混ぜていく。

「その間に卵の準備―」

洗い物を増やしたくないので、ご飯をチンした器に卵を4つ割り入れ、牛乳少量と塩コショウを混ぜて、手早く混ぜて溶き卵にする。
器の卵をかき混ぜつつ、チキンライスを焦がさないようにフライパンとの間で手を行き来させる。

「卵を片手で割ったりは出来ねーのか?」
「あー、出来るけど、両手で割ったほうが早いし、殻の破片も下に落ちないんだよ。卵割る程度の時間じゃ、チキンライスだって焦げねーし、片手でやって破片が落ちたり手が汚れたりすると面倒だ」
「なるほどなー」

炒め終わったチキンライスを二人分の食器に移し形を楕円状に整える。

「なー、太朗……、話変わるけどよー」
「何だ?」
「――本当に『願い事』はアレで良かったのか?」
「……ああ、良いんだよ」

太朗の新能力『索敵海域・綿津神(ワダツミ)』は、ほぼ常時発振される、超能力現象限定のアクティブソナーのようなものだ。
そんなものを使っていれば、泥人形の位置も探知できるだろうが、当然に逆探知されるのは時間の問題である。
海の中で潜水艦がアクティブソナーをガンガン鳴らしていれば、それは自分の居場所を喧伝するのと同義だ。

「きっと泥人形は、太朗を狙ってくるぜ?」
「……分かってるよ。そのリスクは織り込み済みだ。
 何つっても、一遍死んでるからな、俺。ランスも俺のサイコメトリーを介して見ただろう? 『九つ眼』にズブリ、だぜ。
 『戦い』の後半まで生きられるか、まだ正直分かんねーんだ。また、途中で死ぬかも知れねー。怖いぜ」

「……だから、序盤でこそ効いてくる『索敵能力』にしたって訳か」
「そうだよ、早く騎士団が集まれば、その分死亡率は下がる。後半で脱落しても、影響は大きくない。
 ……それに花子には、自分の身を守れるような能力を『願って』欲しかったからな。それなら俺が索敵役をやるしかねーよ。敵も索敵役の俺の方に惹きつけられるだろうしな」
「……そこまで考えてたのか、やるな。勇者(オトコ)だぜ……、日下部太朗……」
「はは、当然だ。俺は男だからな、ランス=リュミエール」

フライパンはキッチンペーパーで拭き、そして、冷蔵庫からたっぷりのバターを取り出し、フライパンの上で熱する。

よく見れば、太朗の腕は細かく震えている。
死ぬのは怖い。死の運命を避けられるのか、確証が持てないから怖い。
だが、それもすぐに収まる。怖がってばかりでは、進めない。未来を信じて進むしか無い。


気を取り直して、殊更明るく太朗が声を出す。
ランスもそれに乗ってくる。

「という訳で、いよいよ上に載せるオムレツを作りマス!」
「おー! ふわふわのトロトロだなっ!?」
「応ともさ、相棒! こっからは時間との戦いだ!」

ふっふっふ、と太朗が自信を見せつけるように笑う。
オムライスは彼の得意料理の一つであり、中でも半熟オムレツの作り方は何十回と練習して身につけたものだ。
花子の評判も非常に良い逸品である。

太朗は、味付けした溶き卵の半分を強火で熱したフライパンに流しこむ。
菜箸で軽くかき混ぜ、十数秒。
徐々に固まってきたそれを端からめくり、半月型に整えていく。

「よっし、固まり過ぎない内に――」

そして先ほどよそったチキンライスの上にひっくり返す。
湯気が立ち、オムレツがプルリとチキンライスの上で潰れていく。

「1つ完成! よし、次だ」

再びバターを投入し、フライパンを熱する。
そして同じ工程を繰り返し、2つ目のオムレツを作る。

「いよっし、出来たー!」
「おー、すげー! 流石料理人志望っ!」
「まーなーっ! もっと褒めてくれて構わんぜー?」

そして上からバジルとオレガノを振りかけて、完成である。

「花子ー、出来たぞー」


◆◇◆


「私たろくんのオムライスの卵を切り開く瞬間が好きなんだよね」
「あー、それは分かるなー」
「何というか、カタチあるものが斬り崩れていく寂寥と、同時に立ち上る卵の甘い湯気のハーモニーが……」

なんてことを言いながら、太朗と花子はチキンライスの上のオムレツにスプーンで切れ目を入れる。
そこから花咲くようにオムレツが裂けて広がり、半熟の中身が流れ出る。

「あー、ランスたちもこれ食えればいいのになー」
「従者は何も食えねーんだよ、残念だけどな」
「そうだ、我ら従者の役目は、騎士に世話の手間をかけることにあらず。ただ現実の楔となり、超常の罅(日々)を保つのみ」
「それって、勿体無いわね。こんなに美味しいのに」

だが、実際食わせるとなれば、ウマの食費などはかなりの負担になるだろう。
カマキリには生き餌か? カジキには冷凍イワシでも?
まして彼らが幻獣の騎士になったとしたら、一体何を食べさせれば良いかも分からない。

「まあ、我らのことは気にせず、鋭気を養うが良い。戦士の肉体には栄養のある食事が必要だ」
「そうだぜ、おれっちたち従者は、騎士の身体と精神のエネルギーを貰ってるからな。美味い食事は、身体と精神の両方の栄養になる。大歓迎だぜ」
「ふうん、なるほどー?」

あり得る話だ。
サイキックの源泉は、体力は勿論のこと、その精神力(信念の強さと言い換えても良いだろう)に左右される。
美味い食事だとか、仲間の絆というのは、きっとサイキックに影響をあたえるのだ。

「まあいいや。ごちそうさま、たろくん。美味しかったよ」
「光栄でありマス、マイプリンセス」
「『姫』とは違うだろ」 「そうだ。花子は戦士だ」

抗議する従者に対して、花子と太朗はニヘラと脂下がった笑みを見せる。

「いいのよ」 「いーんだよ」
「「ねー?」」

「けっ、バカップルめ」
「ランス、珍しく意見が合ったな」


◆◇◆


んでもって南雲に会った翌日。
太朗は買い物に行くのに、街中を歩いていた。
その時急に、ジャギン、と泥人形の殺気のプレッシャーが、悪寒と共に太朗の胸に刺さる。

「……っ!? あー、やっぱり『綿津神』に惹かれて俺の方に来やがったか。しかもちょうど、花子と一緒に居ない時を謀ったように……。ちっ、せめて『綿津神』の情報更新間隔を、もっと短くしとくべきだったな、ここまで近づかれるまで気づかないとは」
「おい、太朗! 逃げるぞ! 一対一じゃ、かなり厳しい! 他の騎士に連絡をとるんだ!」
「あいつが逃してくれると良いけどなっ」

『一つ眼』の泥人形が、雑踏に紛れて太朗の方を見ていた。


=====================


前回の最後には、特に描写を入れては居ませんが、多分、ファーストキッス後には、たろくんは布団の中で「にゅおおおおっ」とか言って悶えてるはず。たろくんですし。そこまで成長してない。

――というわけで、タロくんの新能力は、『超能力レーダー』でした。神通力覚醒の話で触れていたアイディアの一つですね。
でもこれ、海の中でアクティブソナーをがんがん鳴らすみたいなもの。暗闇で「鬼さんこちら」と手を叩いているようなもの。
ぶっちゃけ泥人形ホイホイと言っても過言ではない。

だが敢えて火中に飛び込む彼こそ真の勇者。そんな想いで能力設定しました。
花子が願った能力は追々。

次回、『初陣』(予定)。


初投稿 2012.01.07


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